小規模(訴額が140万円以下)の民事訴訟事件については、簡易裁判所が第一審の裁判権をもつことになります。今回は、この簡易裁判所における訴訟手続についてのトピックです。

訴訟を提起された被告としては、対応コストがかかることになります。とりわけ、遠方の管轄裁判所で訴訟を提起された場合、対応コストは確実に増えます。書面の作成や証拠の収集等のコストはもちろん、裁判所に出頭しなければならないというのが増大するコストです。


では、一回も出頭せずに、当方の主張をすることはできないか?簡易裁判所の訴訟手続では、できるのです。

簡易裁判所の訴訟手続に関しての特則が設けられています。

(私が日ごろよく通っております主戦場の)地方裁判所の訴訟手続においては、最初の口頭弁論期日に限り、出頭しなくても、当方の主張を書いた書面を陳述したものとみなしてくれます(民事訴訟法158条。擬制陳述)。訴えられた被告側の訴訟代理人が、とりあえず答弁書を出しておいて、1回目の期日には都合がつかないため、出席しないということはままあることです。

この擬制陳述について、簡易裁判所の訴訟手続の特則として、最初の口頭弁論期日以外の期日(続行期日)でも、適用されることになっています(民事訴訟法277条)。

そのため、簡易裁判所の訴訟手続においては、一回も出頭せずに、答弁書や準備書面を提出して主張をすることはできるということになります。


ここまでは条文そのとおりなので、わかりやすいと思います。

では、少し問いを変えて、一回も出頭せずに、当方の主張を裏付ける証拠を提出することはできないか?を考えてみます。

上で述べたように、簡易裁判所の訴訟手続においては、擬制陳述の制度を、最初の口頭弁論期日以外の続行期日にも認めていることからすれば、できそうですよね。そう思われませんか?

ちなみに、民事訴訟法は、「証拠調べは、当事者が期日に出頭しない場合においても、することができる。」という定めもおいています(民事訴訟法183条)。


ですので、証拠も提出できてよいのでは、、、とも思うのですが、結論としては、(原則)できません。

だったら、擬制陳述とかって、ほぼ意味なしですよね。

というのは、民事訴訟は、裁判所を説得する精緻な主張書面を作成したうえで提出することは重要ですが、裁判所は、他方当事者が争う限り、それだけでは事実として認めてくれず、自分の主張を裏付ける証拠を出せるかが勝負の決め手となるからです。


なぜ証拠の提出は「できません」という結論になるのかというと、文書の証拠を書証と呼ぶのですが、民事訴訟法は「書証の申出は、文書を提出し……なければならない」と規定しており(民事訴訟法219条)、ここでいう「提出」は、文書の所持者が出頭して顕出することが必要と解釈されていることがその理由のようです(旧民事訴訟法に関する判決ですが、最高裁昭和37921日第二小法廷判決・民集1692052頁参照)。


確かに擬制陳述という制度はあっても、同制度は出頭自体を擬制しているのではなく、陳述を擬制しているにすぎないため、事前に裁判所に文書を送付していたとしても、実際に出頭しない限り、書証の申出があったとは認められず、裁判所は取り調べてくれないこととなっています。


さて、困りましたね。そこで、私がトライするのは、電話会議システムを利用した弁論準備手続に付してもらうよう求めること(上申書の提出)です。
弁論準備手続とは、法廷で行われる口頭弁論手続ではなく、裁判所の小部屋で行われる争点及び証拠の整理を行うための手続です(民事訴訟法1681項)。ちなみに、実務では、和解の協議も、この弁論準備手続で行われることが多いです。

裁判所が、電話会議システムを利用した弁論準備手続を付すと、こちらは裁判所に行かずとも電話で対応することができます(民事訴訟法1683項)。

この場合、電話で参加した側の当事者については、「出頭したものとみなす」と規定されているのです(民事訴訟法1684項)。

この規定に基づき、出頭自体が擬制されるのです。

そこで、先ほどの議論に戻って、出頭して顕出したということになり、書証の申出があったということで、裁判所も、証拠を取り調べてくれるのです。


弁論準備手続に付すかどうかはあくまでも裁判所が決めることですので、以上述べた方法が必ずしも「使える」わけではありませんので注意が必要です。

ちょっと時間がたってしまいましたが、今年(平成29年)の1月31日に、注目すべき最高裁決定が出ました。

事案は、児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で逮捕され、処罰された方の氏名と居住する県の名称をキーワードとしてネットで検索すると、この方が逮捕されたことが記載されているウェブサイトが表示されるため、人格権侵害を理由に、検索業者に対して、この検索結果の削除を求める仮処分の申し立てをしたという案件です。

最高裁は、検索業者が検索結果を提供する行為には、検索業者の表現行為という側面を有し、他方、公衆がインターネット上に情報を発信したり、インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしていると前置きしたうえで、次のように判示しました。

「以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の性質及び内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。」

「当該公表されない法的利益が優越する」というだけではダメで(「きわどいけど、どちらかというと公表されない利益が優越する」というのではダメ)、そのことが「明らかな場合」と言えなければならないようです。つまり、公表されない利益がかなり優越しますといえる必要があるということでしょうか。

具体的な判断としても、

「児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は、他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが、児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており、社会的に強い非難の対象とされ、罰則をもって禁止されていることに照らし、今なお公共の利害に関する事項であるといえる。また、本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる
以上の諸事情に照らすと、抗告人が妻子と共に生活し、〔中略〕罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても、本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。」

として、児童買春をした者の公表されない法的利益が優越することが明らかとは言えないと判断しています。
プライバシー保護と表現の自由の交錯する非常に難しい問題ですが、児童買春をして処罰されると、刑は終了しても一生その記録がネット上からは消えず、非常に厳しい人生を送らなければならないということは言えそうです。児童買春なんてしてはいけません。

遺言書を書いておく必要があるのはどのような場合かというと、法定相続の結論が、意図している結論とかなり違ってくる場合であると思います。

そのような場合として、子供のいない夫婦の相続が挙げられます。

子供がいない夫婦の場合、配偶者は常に法定相続人になりますが(民法890)、その他は、親がいれば親が(民法889Ⅰ①)、親がいない場合でも兄弟がいれば兄弟が法定相続人として登場することになります(民法889Ⅰ②)。
相続分は、配偶者と親の場合には、配偶者が3分の2、親が3分の1です(民法900②)。

配偶者と兄弟姉妹の場合には、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ということになります(民法900③)。

ところで、子供がいない夫婦で配偶者が亡くなった場合、夫婦の意思としては、(もちろん例外はあるとは思いますが、通常は)配偶者に全財産が相続されると思っているのではないでしょうか?

しかし、遺言がなく法定相続が行われたとすると、上記のとおり、亡くなった夫または妻の親や兄弟姉妹が出てくるのです。親や兄弟姉妹が物わかりの良い人で「私たちは相続財産なんていらないわ。」などと言って相続放棄をしてくれれば良いのですが、中には、自分たちにも法定相続分があるから、遺産をもらって何が悪いの!ということで権利主張をしてくる場合もあるでしょう。

したがって、子供のいない夫婦にとっては、お互いに自分の財産をすべて相手に相続させる旨の遺言書を書いておく必要性は非常に高いといえるでしょう。

もちろん、遺言書を作っても遺留分という権利は侵害できませんが、親の遺留分は相続持ち分の2分の1ですので(民法1028②)、遺産紛争が起きても解決が楽になりますし、兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので(民法1028)、既に親が亡くなっていて、配偶者の他には法定相続人が兄弟姉妹しかいない場合には、遺言書を書くことにより、自分の財産をすべて配偶者に引き継ぐことができますね。

なお、遺言書を作るときは、のちのち変な争いにならないように、公証人役場で公正証書遺言を作るのがおすすめです。

法律事務所に勤務する弁護士には縁のないものですが、いわゆる企業内弁護士として働いている同期の弁護士の中に、勤め先の会社の社宅に住んでいるという話を聞きました。
都内にありながら、使用料として23万円支払えばその他の費用はかからないと聞き、非常に羨ましく思いました。
住宅手当は自由な転居が可能となるメリットはありますが、給与の一部になるとして課税の問題があり、その点社宅の場合はその意味での課税の問題はないようです。

さてこの社宅ですが、会社が倒産した時や、会社を解雇又は退職したときは、今まで社宅に住んでいた従業員はどうなるのでしょうか。有無を言わさず社宅から立ち退きをしなければならないのでしょうか。賃貸住宅に住んでいる場合には、借地借家法という借主にとって非常に強い味方がついているわけですが、社宅の場合にもこの借地借家法が適用されるのかが問題になってきます。

借地借家法の適用があれば、新しい家主に対して、自分の賃借権を主張できますし(法311項)、家主(会社)から解約されても「正当の事由」(法28条)がなければ立ち退く必要もありません。

社宅の利用に借地借家法の適用があるかどうかは、社宅の使用料が決め手になってきます。

社宅の使用料を全く支払っていなければ、それは無償で貸し渡したということですので、使用貸借(民法593条)になります。使用貸借であれば、借地借家法の適用はないので、最初の取り決め(契約)のとおりに社宅を明け渡さなければなりません。

社宅の使用料を支払っているのであれば、話は変わってきます。一般の家賃とは比較にならないほどの安い使用料(維持費にも満たないもの)であれば、その使用料は家賃としては扱われず、賃貸借関係にないとして借地借家法の適用はありません(最高裁判決昭和30513日・判タ5021頁参照)

逆に、通常の相場に比べて、それほど安いとはいえない使用料であれば、賃貸借関係があるとして借地借家法の適用があるとされる場合があります。

そのため、会社としては、従業員から社宅の明渡しを求める際のリスク(借地借家法を盾に、明渡しを拒まれるリスク)を考えた上で、使用料の設定をする必要があります。

同期の話では、社宅は確かに安いが、居住者が皆会社の関係者であることや、家主が会社であることから騒音等のトラブルがあっても文句を言いにくいという不満があるらしく、家賃が多少高くついても住宅手当を貰って好きな場所に住みたい、いうことでした。
社宅も住宅手当も、私にとっては羨ましい話ですが、そういえば修習時代に知り合った裁判官も、騒音トラブルで官舎から出て自分の好きな所に家を借りていましたね。

最近すこしずつ暖かくなってきましたが、寒くなる日もあるので、体温調整にはお気を付けください。

●はじめに
ビットコインですが、今月9日には、中国国内のビットコイン取引所に対し、中国人民銀行(中国の中央銀行)が調査に入ったとのことです。中国人民銀行いわく、マネーロンダリング対策が不十分であるとのことですが、この調査を受けて、業者側は、ビットコインの引き出しを最大1ヶ月停止としました。当然、市場は敏感に反応し、ビットコインの価格が露骨に下がりました(BTC円のチャートをみると、崖のようです。ただし、その後、また、じわじわと価格が上昇しています。)。

他方、日本では、ビットコイン取引所に対し、三井住友銀行グループ、みずほフィナンシャルグループなどが出資をするなどの動きがありました(既にUFJグループも出資しており、メガバンクグループ3者が出資したことになります。)。また、国内では、今年以降、ブロックチェーン技術の実証実験などが本格化すると見込まれています。ビットコインに端を発する技術が、どこまで発展してゆくのか注目です。

●仮想通貨法に関する内閣府令等の公開
さて、前回の記事でも若干言及しましたが、仮想通貨に関する資金決済法等の法改正(改正により追加された仮想通貨に関する条文は、俗に、仮想通貨法と呼ばれています。)に関し、その細目を定める内閣府令やガイドライン等の案が、昨年末に公開されました。施行は、今年4月を見込んでいるとのことです。

http://www.fsa.go.jp/news/28/ginkou/20161228-4.html

そこで、遅ればせながら、それらの内容について簡単に触れさせていただければ
と思います。

●仮想通貨法のおさらい
まず、前提として、昨年成立した仮想通貨「法」(未施行)の概要について、ざっくりおさらいさせていただきます。

今回の仮想通貨「法」の注目部分は、やはり、なんといっても
・「仮想通貨交換業」(法2条第7項)が登録制となり(法631
・登録せずに「仮想通貨交換業」を行うと刑罰が課される(法107条等)
ことです。「仮想通貨交換業者」には、ビットコインの取引所などが含まれますので、法律施行後は、自由にビットコインの取引所を作れなくなります。概して、今回の仮想通貨法は、取引所に対する規制となっています。

加えて、仮想通貨交換業者には、仮想通貨法上、
情報の安全管理(法63条の8
・利用者の保護(法63条の10
・財産の分別管理(法63条の11
・事業年度ごとの報告書提出(法63条の14
等々の義務が課されます。

これらの規定の趣旨は、例えば、
・取引所が破綻したり
セキュリティー対策が十分に施されていない取引所からハッキングにより
仮想通貨が流出したりといったことを防ぎ、取引所の利用者を守る点にあります。

また、仮想通貨は、マネーロンダリングにも使われるため、マネーロンダリングを防止する趣旨も含まれています。

このように、仮想通貨法は、取引所の規制を主眼としています。ただ、取引所に対する規制が厳しすぎると、大企業しか規制に対応した取引所を運営できず、小さな業者は廃業を余儀なくされるかもしれません。そうすると、仮想通貨の利用者にも影響が出てきます(この他、仮想通貨交換業の定義に関して、取引所以外にも、広範に規制が及んでしまうのではないか、といった点は、危惧されています。)。

ちなみに、あまり報道はされていない点ですが、今回の仮想通貨法では、日本で登録されていない海外の取引所が、国内の者に対して、仮想通貨売買等の「勧誘」を行うことも禁止されていたりします(法63条の22)。

なお、巷では、今回の法改正により、ビットコインなどの仮想通貨が「通貨」として認められたかのような報道もありましたが、ミスリーディングのように思います。
もちろん、資金決済法上、「仮想通貨」が定義され、今後、取引所での取引に消費税も課されなくなるようですが、ビットコインが日本円のように、どこでも支払いに使えるようになったわけではありません(もちろん、今後、そうなっていくこ

とを期待します。)。

●今回の内閣府令
そこで、本題ですが、今回、公開された内閣府令(仮想通貨交換業者に関する内閣府令)等々の案(未施行)では、今ご説明した仮想通貨法の細目などが定められました。

例えば、仮想通貨交換業の登録申請の際、18項目にものぼる添付書類を付けなければならないこととされています(内閣府令第6条)。その中には、以下のような書類も含まれています。
・取締役や責任者の履歴書(内閣府令第6条⑤⑬)
・取り扱う仮想通貨の概要の説明書(内閣府令6条⑪)
・仮想通貨の取引に用いる契約書(内閣府令第6条⑮)

15号で取引契約書の添付が必要なことから、とりあえず登録だけしておいて、契約書等々は後から準備しよう、ということはできなさそうです。

また、例えば、仮想通貨法上、仮想通貨交換業者の登録拒否事由の1つとして、以下の条件が定められていました。

仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる内閣府令で定める基準に該当する財産的基礎を有しない法人」(法63条の51項第3号)

要するに、お金のない会社は、取引所を営んではいけませんよ、という規定です。

ただ、「内閣府令で定める基準」のハードルが高すぎると、取引所として営業をすることが非常に困難になってしまいます。そのため、基準がどう定められるのか、注目されていました。

これに対し、今回、内閣府令(案)では、以下のように定められました(内閣府令第9条)。
・資本金の額が一千万円以上であること
・純資産額・・・が負の値でないこと

それ程ハードルは高くはない?という意見も多いように思いますが、PC1台で起業して明日から取引所を開設する、ということは念頭に置かれていないように思います。

ちなみに、登録申請後、登録までに通常かかる期間(標準処理期間)は、補正などの期間を除き、は2ヶ月と定められました(内閣府令第36条第1)。

●ガイドラインについて
また、仮想通貨法に関する監督指針をまとめたガイドラインも公開されています。

そのなかでは、例えば、財産的基盤に関し、次のような記載があります。

・ガイドラインⅡ-1-2
「経営陣は、仮想通貨交換業者に関する内閣府令(・・・)第9条に規定する財産的基礎を遵守するだけでなく、業容や特性に応じた財産的基礎を確保するよう努めているか。」

要するに、資本金1000万円・純資産が-でない、という最低ラインをクリアしただけでなく、もっと、しっかりと、財産的基盤を確保しなさい、ということかと思います。

また、ガイドラインには、例えば、以下のような記載もあり、ある程度の人的資源・組織体制があることが、前提とされています。

・ガイドラインⅡ-1-2
「経営陣は、業務推進や利益拡大といった業績面のみならず、法令等遵守や適正な業務運営を確保するため、内部管理部門及び内部監査部門の機能強化など、内部管理態勢の確立・整備に関する事項を経営上の最重要課題の一つとして位置付け、その実践のための具体的な方針の策定及び周知徹底について、誠実かつ率先して取り組んでいるか。(注)本事務ガイドラインでいう「内部管理部門」とは、法令及び社内規則等を遵守した業務運営を確保するための内部事務管理部署、法務部署等をいう。また、「内部監査部門」とは、営業部門から独立した検査部署、監査部署等をいい、内部管理の一環として被監査部門等が実施する検査等を含まない」

・ガイドラインⅡ-2-1-1-2
「コンプライアンスに関する研修・教育体制が確立・充実され、役職員のコンプライアンス意識の醸成・向上に努めているか。また、研修の評価及びフォローアップが適宜行われ、内容の見直しを行うなど、実効性の確保に努めているか。」

・ガイドラインⅡ-2-1-2-2
「管理職レベルのテロ資金供与及びマネ-・ロ-ンダリング対策のコンプライアンス担当者など、犯収法第 11 条第3号の規定による統括管理者として、適切な者を選任・配置すること」

さらに、取引所といえば、ハッキング等の被害にも常にさらされている訳ですが、この点についても、ガイドラインは、然るべき人員を配置するように言及しています。

・ガイドラインⅡ-2-3-1-2(1)
「取締役会は、システムリスクの重要性を十分に認識した上で、システムを統括管理する役員を定めているか。なお、システム統括役員は、システムに関する十分な知識・経験を有し業務を適切に遂行できる者であることが望ましい。

・同④
代表取締役及び取締役(指名委員会等設置会社にあっては取締役及び執行役)は、システム障害等発生の危機時において、果たすべき責任やとるべき対応について具体的に定めているか。また、自らが指揮を執る訓練を行い、その実効性を確保しているか。」

・ガイドラインⅡ-2-3-1-2(7)
「システム部門から独立した内部監査部門が、システム関係に精通した要員による定期的なシステム監査を行っているか。(注)外部監査人によるシステム監査を導入する方が監査の実効性があると考えられる場合には、内部監査に代え外部監査を利用して差し支えない。」

ガイドラインは、あくまでガイドラインですので、法律ではありませんが、あまり厳格に運用しすぎると、結局、著名な業者以外はシャットアウト、ということにもなりかねませんので、そのあたりは配慮が必要なように思います。

ちなみに、細かなことですが、弁護士的には、以下のようなガイドラインの記載にも目が止まりました。ここでいう「弁護士法に基づく照会」とは、いわゆる弁護士会照会(23条照会)のことですね。今後、事件に関し、取引所に対して、顧客の氏名・住所等の照会ができるようになるかもしれません。

・ガイドラインⅡ-2-1-2-2(5)
仮想通貨交換業に係る取引の不正利用に関する裁判所からの調査嘱託や弁護士法に基づく照会等に対して、個々の具体的事案毎に、仮想通貨交換業者に課せられた守秘義務も勘案しながら、これらの制度の趣旨に沿って、適切な判断を行う態勢が整備されているか。」

●最後に
取引所を利用する側面では、利用者として、取引所への規制が厳しいほど、安全に取引ができますので、その面では喜ばしいことです。

他方、規制される側の企業にとっては、必ずしも軽い規制ではないかと思います。特に、「仮想通貨交換業」の範囲については、定義上、取引所以外の業態であっても該当する可能性があるため、そのあたりも踏まえて、今後、慎重な運用が望まれます。

 最近、最高裁で興味深い判例(最高裁平成29131日判決がありました。

 もっぱら相続税の節税目的で養子縁組を利用する、「ただちに養子縁組の意思がないとはいえない」と判断したものです。「ただちに養子縁組の意思がないとはいえない」なんて、とても法律家チックな言い方ですが、要するに、「もっぱら相続税の節税目的で養子縁組しても原則として縁組は有効ですよ。」という意味だと思っていただいて結構です。

 

 相続に関心がある方であればご承知のとおり、相続税の基礎控除額は、現在、


               3,000
万円+600万円×法定相続人数

 

で計算されます。
 したがって、おじいさん・おばあさんと孫を養子縁組させて、
おじいさん・おばあさんの法律上の子供(=定相続人)を増やしておけば、おじいさん・おばあさんが亡くなったときも、相続税の基礎控除額が大きくなり、それだけ節税効果が得られます。

 もちろん、税務当局側も対策を立てていて、相続税法上、養子縁組で相続人にできる人数は、実子がいる場合には1人、実子がいない場合には2人しか認められません。しかし、いずれにしても養子縁組により600万円から1200万円は相続税の基礎控除額を増やすことができるのです。そのため、ある税理士法人によれば、相続財産額が5億円以上を超えるケースの相談において、節税対策に養子縁組が使われていたのは約4割にものぼるようです。

 相続の分野では、節税対策としての養子縁組が定着していると考えてよいでしょう。

 

 しかし、養子縁組制度が、このような使われ方をしているのはちょっと変ではないでしょうか?そこでちょっと調べてみたのですが、そもそも我が国の養子縁組制度は私のイメージとはかけ離れていました。

 一橋大学経済研究所の森口教授によると、日本では年間で約8万件もの養子縁組がされています。日本の2倍以上の人口を有するアメリカの養子縁組の件数が11万件ということですので、いかに日本の養子縁組の数が多いかわかるかと思います。

 しかし、その内容は全然違います。日本では、67%が婿養子など大人を養子にとる「成年養子」だというのです。その他は、25%が配偶者の子供を養子にする「連れ子養子」、7%が孫や甥、姪を養子にする「血縁養子」。血族でも姻族でもない子供を養子にする「他児養子」はわずか1%に過ぎないといいます。

 これに対して、アメリカでは養子の対象はほぼすべて未成年だといいます。そのうち40%が「連れ子養子」、10%が「血縁養子」ですが、残りの50%は「他児養子」だといいます。

 なぜこのような結果になっているかですが、日本の養子縁組制度は、基本的には家名や家業の承継(お家の存続)を目的にするための制度になっているとの理解がされています。えっ、「お家」って、まだそんなに強く残っていたの?という感じですが、まだまだ根強いようですね。

 これに対して、アメリカの場合は、基本的には、さまざまな理由で実親の保護に恵まれない子供たちに新しい家庭を与える制度として機能しているということのようです。

 

 まぁ、それぞれの国の歴史や文化を反映して今の制度になっているのでしょうから、どちらが優れている・劣っているというような問題ではありません。ただ、日本では結婚の高齢化などもあり子供がいない夫婦が増えていますし、他方で、不幸にも養護施設に長期間滞在せざるをえない子供たちも多いと聞いていますので、なんとか養子縁組を「要保護児童に家庭を与える制度」として活発に利用できないものでなんですかね?

2017119日日本経済新聞電子版から

 

「みずほ銀行は民事裁判の支払い義務を果たさない債務者の預金口座情報について、債権者からの請求に応じて開示を始めた。確定判決や和解調書など債務の存在を確認できる文書を示し、弁護士を通じて照会することが条件。既に三菱東京UFJ銀行と三井住友銀行は開示しており、3メガ銀の対応がそろった。」

 

「ただ応じていない金融機関もあり、法務省は裁判所が開示請求できるよう法改正する方針だ。」

 

わざわざ裁判までして、債務者に金銭の支払いを命じる判決を得たのに、現状、債務者が預金口座をどこかの銀行に移してしまうことにより容易に強制執行を回避できる結果となってしまっていることは以前このブログでも触れたとおりです(実際、裁判で多額の支払いを命じられておきながら、かなり経済的に恵まれた暮らしをしているように見られる方が散見されます。)。
これは、債権者が債務者の口座情報を調査する手段がないことに起因しています。

債権者側の対抗手段としては、弁護士を雇って、弁護士法23条の2が定めている弁護士会照会制度を使い、各弁護士会を通じて、債務者の口座があるか銀行に照会することが考えられますが、これまで多くの銀行では、顧客情報の保護を理由にこの照会に対する回答を拒絶していました。


しかし、この記事にあるように、現在、確定判決や和解調書があることを条件としていますが、三菱東京
UFJ銀行、三井住友銀行及びみずほ銀行の3メガ銀行が、弁護士会照会に対応していただけるようになっています。

 

私は日本社会のあり方として、裁判をして確定判決まで得たのに、債務者の口座情報を調べる手段がなく、判決が絵に描いた餅になるなどということはおかしいのではないかと思っています。裁判所に金銭の支払いを命じられても支払わない債務者の口座情報をそこまで保護する必要はないのではないかと。そういう観点からすると、この3メガ銀行の判断は素晴らしいと思います。行内でいろいろな意見があったのだろうと想像しますが、あるべき日本社会を見据えたまさに英断だと思います。弁護士会がメガ3銀行と協定を締結することによりこのような対応が実現したとのことですので、弁護士会の努力にも感謝したいと思います。

 

記事の最後のところで、「法務省は裁判所が開示請求できるよう法改正する方針」とのことなので、今後民事執行法の一部改正を睨みながら、いろいろな動きが出てくると思います。その点も注目ですね。

 

なお、弊事務所ではさっそくこの弁護士会照会制度を使わせていただきました!

群馬県太田市と栃木県足利市、この隣り合った半径10キロ圏内の地域で、1979年から1996年までの17年間に、犯行の手口が似通った次の5件の幼女誘拐殺害事件(北関東連続幼女誘拐殺人事件)が起きる。

1.1979年 栃木県足利市  MFちゃん  5

2.1984年 栃木県足利市  YHちゃん   5

3.1987年 群馬県尾島町  TOちゃん  8

4.1990年 栃木県足利市  MMちゃん   4歳

5.1996年 群馬県太田市  YMちゃん    4

このうち、4.のMMちゃんについては、幼稚園の送迎用バス運転手の菅家利和さん(当時45歳)が逮捕され、現場に残された精液のDNA型鑑定が決定的な証拠となり無期懲役となった。菅家さんは、1から3の事件についても自白をしていたから、起訴はされていないものの、世間的には1から4はすべて菅家さんがやったものというふうに思われていた(5については、遺体も発見されていないので別事件と思われていた。)。

 

ところが、菅家さんが17年間も刑務所で服役した後の2009年になって、菅家さんの再審請求に基づきもう一度、現代の進んだ技術のもとでDNA型の鑑定をしてみたら、現場に残された精液と菅家さんのDNA型が違っていたことが判明し、菅家さんは再審無罪となった。以上は、有名な足利冤罪事件であり、当時大々的に報道されたので、ご存知の方も多いだろう。

 

この本は、この足利冤罪事件の裏に何があったかを日本テレビの調査報道の記者の清水潔さんが書いたものだ。正確にいうと、何があったかを書いたというよりも、清水さんは、独自の取材により初めから菅家さんは冤罪だと気が付いて、日本テレビで冤罪キャンペーンを打つなどして、ほぼ当事者的に活動する。そして、菅家さんの再審無罪を勝ち取るだけではなく、なんと真犯人(「ルパン」似の男。以下「ルパン」という。)の存在まで突き止めて、その情報を検察・警察に流し、逮捕させようと尽力する。その中で、警察や検察の自己保身や、マスコミの捜査当局との癒着など様々な問題点が明るみになるのだ。

 

ノンフェクション物ではあるが、ミステリー小説のような面もあり(実際、ノンフェクションなのに、ミステリー賞も受賞している。)、読者にぐいぐい読ませる。下手な小説よりもよほど迫力もある。私はこの本の存在を知っていたのに、なぜこれまで読まなかったのか?と本当に後悔した。読んで絶対損のない本です。

ぜひぜひ一読をお勧めします。

 

(以下、ネタバレです。)

この本には、我々法曹に対する重大な問題提起を含んでいます。それは、清水記者が真犯人を突き止めて、犯人が現場に残したDNA型とルパンのDNA型が一致しているという証拠もあるのに、検察・検察が動かず、いまだにルパン似の男が裁かれもしないで毎日パチンコでもしながらのうのうと暮らしていることです。

それで良いのか?ということになります。良いわけありません。

 

ただ、問題は、はたして「犯人が現場に残したDNA型とルパンのDNA型が一致している」といえるのか?というところなのです。

 

清水さんの主張は次のとおりです。

菅家さんの足利冤罪事件の再審では、弁護側のDNA型判定(本田鑑定)と検察側のDNA

型鑑定(鈴木鑑定)が行われていて、本田鑑定によれば、被害者のMMちゃんのシャツ(犯人の精液が付着している。)からは、そもそも事件当初に科警研(科学警察研究所)が行ったDNA型鑑定で犯人のDNA型とされた18-30とは別のDNA型18-24が検出されており、その18-24とルパンのDNA型が合致する。だからルパンは真犯人なのだ、というのである。

これに対して検察側の見解は、信頼できるのは検察の依頼により行われた鈴木鑑定であり、鈴木鑑定では、18-24などというDNA型は出されておらず、したがって、真犯人のDNA型は科警研鑑定の18-30であり、ルパンの18-24とはDNA型において異なる(つまりルパンは真犯人ではない)、というのだ。

これに対しては、さらに清水記者の反論があり、科警研の当初鑑定では、被害者(MMちゃん)のDNA型鑑定が行われていない。そこで、MMちゃんのへその緒からMMちゃんのDNA型鑑定をするとともに、MMちゃんと日ごろから接触していた母親のDNA型判定をしてみると、MMちゃんは18-31及び母親は30-31だった。つまり、科警研の当初の18-30というのは、このMMちゃんと母親のDNA型を掘り当ててしまった結果なのではないか?というのだ。

では、どっちの主張が正しいのか?

これは簡単なことで、まだMMちゃんのシャツ(真犯人の精液がついている。)が残っているので、最新の技術を使って、もう一度DNA型鑑定を行い、18-24が検出されるか確かめればよいのだ。本田鑑定と鈴木鑑定は、同じシャツといっても別々の箇所を資料としているので、本田鑑定で検出された18-24型が鈴木鑑定で検出されないことはあり得る。したがって、もう一度行ってみればよいだけのことなのだ。

しかし、そのシャツは現在検察が押収したままなのに、再鑑定は行われず、かつ、MMちゃんの母親に返却もされない。MMちゃんの母親が返却を要請しても、「MMちゃんの父親(妻とは離婚している。)が『検察がもっていてくれと。』と言っている。」との理由から、検察は返そうとしないのだという。そして、北関東幼女連続誘拐殺害事件の真犯人(ルパン)も逮捕しようとはしない。

このような事態について、清水記者は、もし、科警研が真実ちゃんや母親のDNA型を犯人のものと間違ったのであれば、科警研の信用は地に墜ち(きわめて初歩的なミス)、既に刑が執行されている福岡の飯塚事件などの他の事件にも波及する可能性があるから、検察、警察、科警研にとっては絶対に認められない一線であり、北関東幼女連続誘拐殺害事件の真犯人を逮捕するよりも、検察、警察、科警研の信用を守る方が重要だと判断しているのだと推測している。

 

で、実際のところはどうなのでしょう?

 

私は、自分も含め、あらゆる人はボジション・トークを免れないと思っています。弁護士という職業柄、ポジショントークであることすら気が付かず、心の底から嘘を真実と思って主張されている方にもときどき出会います。過去の警察や検察の不祥事のときに、警察や検察が組織防衛に走ったことも知っています。だから、清水記者の推測にも一理あるとは思うのです。

 

ただ、本当にそうなのかな?本当にそうだとすると、法曹の一人としてあまりにも悲しすぎます。いやいや、過去の検察官による証拠偽造事件のときも、検察内部から隠ぺいを告発する声はあったので、そこまで腐ってはいないのではないかな(個人的に信頼できる検察官を知っていますしね。)。というわけで、検察・警察の関係者(現役は無理だろうから、OB等々)から、この清水記者の本に対する反論を出してもらいたい、というように思います。そうでないとこの本の内容が真実になってしまうような・・・

ここ数ヶ月前から、弊事務所の隣のビルの解体工事を行っているようで、時々耳を塞ぎたくなるほどの激しい騒音がします。

もうしばらくは、この騒音と付き合わなければならないことを考えると、思わずため息が出ます。

 

騒音は、いわゆる典型7公害に数えられるものですが(他は大気汚染、水質汚濁、土壌汚染、進藤、地盤沈下及び悪臭。環境基本法23項参照。)、今回のようなビルの解体工事の場合等、ビルの周辺住民・勤務者くらいしか被害者がいないものでもあっても(航空機の騒音は何千何万人もの人々が被害者となります。)、公害として法的救済が求められることに争いはないでしょう。

 

さて、騒音に対して日々悩まされている弊事務所は、どのような救済を求められるのかが問題になってきます。

騒音に対する救済は、大きく分けて行政的な救済(公法上の規制)と私法上の救済の2つがあります。

まず行政的な救済(公法上の規制)について検討すると、建築工事の騒音は、騒音規制法によって規制されておりますが、建築工事のうち、くい打機やブルドーザーの使用等、著しい騒音を発生する「特定建設作業」のみ規制しています。もっとも、条例で規制できる作業を追加することが可能で、東京都はコンクリートカッターを使用する作業や一定の方法による解体・破壊作業も規制しています。

建築工事の際に、騒音基準(85デシベル以下等)に適合しない等した場合には、解体業者に対して、知事ないし市町村長から是正勧告をすることができ、それに従わない場合には騒音防止方法の改善・作業時間の変更についての命令を行うことができます(騒音規制法15条)。

ただし、残念ながら、改善勧告が行われることは少なく、改善命令に至っては実務上ほとんどないため、仮に騒音基準に適合していない場合であっても、この救済は難しいでしょう。

 

私法上の救済については、精神的肉体的苦痛を根拠に、人格権等の侵害があるとして、不法行為(民法709条)に基づく慰謝料請求を検討するのでしょうか。しかし、受忍限度論というものがあり、これは騒音行為の態様や程度、被害内容、地域性等から考えて、この程度の騒音は我慢しましょうという裁判上の議論があります。

この受忍限度論を考えると、本件の騒音は毎日あるものではなく(これを書いている今日はなぜか静かです。)、日々ビルの建築・解体が行われている地域性等からすれば、今回の騒音は受忍限度の範囲内(我々が我慢しなければならない限度内)という判断になりそうです。

 

やはり、本件の騒音とはしばらく我慢して付き合っていかなければならないようです。

 

ところで、音の大きさが何デシベルであるかどうかは、かつては騒音計がなければ分からなかったのですが、最近はスマートフォンのアプリで音の大きさを測れるアプリがあるようです。精度は分からないですが、騒音基準以内かどうかの参考にはなるのではないでしょうか。

最近は、裁判の証拠にLINEが出てきたりするので、何でもかんでもスマートフォンアプリで裁判の証拠を提出する時代が来るかもしれませんね。

 

政府が、「働き方改革」を進めようとしており、現在、厚生労働省が意見募集を行っています。
127日までに、電子メールか郵送で受け付けるとのことですので、関心のある方は次のURLからぜひ。)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000148414.html

 

日経リサーチの調査によれば、上場企業301社の7割超が「長時間労働の是正」を働き方改革の最優先課題としているとのこと。長時間労働等による痛ましい事件が昨年起きましたし、長時間労働の是正は、直ちにおこなわなければならない問題です。

 

ただ、解くべき(本質的な)課題は「長時間労働の是正」ではなく、組織全体としての「生産性の向上」にあるという指摘があります。

日本の生産性の低さは皆さまご存知のとおりです。昨年1219日にリリースされたレポート(次のURLご参照)でも、その低さを露呈しています。

http://activity.jpc-net.jp/detail/01.data/activity001495/attached.pdf

就業者1人当たりでみた労働生産性は、OECD加盟35か国中22位であり、主要先進7か国の中では最下位をひた走っています(悲)。

 

ここで、ぜひ皆様におすすめしたい書籍、それは『生産性―マッキンゼーが組織と人材に求め続けるもの』(ダイヤモンド社)です。マッキンゼーで人材育成、採用マネージャーを務めた伊賀泰代さんの著書。書店にいっても、ランキング上位で紹介されていますので、今、売れている本です。



 

伊賀さんは、この本の中で、長時間労働の問題について、以下のように喝破しています。

「現在、長時間労働は企業にとっても社会にとっても大きな問題だと認識されています。たしかにそれは、『よいことではない』という意味では問題です。しかし、解くべき課題(イシュー)が長時間労働なのかといえば、そうではありません。解くべき課題は長時間労働ではなく、働いている人の生産性が低いまま放置されていることです。もしくは、売上げを伸ばす方法として、社員をより長く働かせること以外の手段を思いつかない(生産性の意識を欠いた)前時代的な経営者の意識や、それ以外の方法では付加価値を生み出せない古いビジネスモデルこそが、解くべき課題なのです。」

 

本でも紹介されている例ですが、生産性のマインドをチェックしてみましょう。

人材採用の場面を考えてください。採用目標は10人です。ところが、説明会の告知をしたところ、10人の応募しかありませんでした。

経営者や人事部門としてはどのように考えるのが、生産性の観点からは正しいのでしょうか?

50人に集めてようやく1人くらい採用できる優秀な学生が含まれている。だから、とにもかくにも、説明会の応募者数を増やそう」という量を追う発想は、生産性の観点からはもっともNG

生産性の観点からは、「どうすれば、50人に1人ではなく、2人、3人…と採用できる人材を増やせるか」という質を追う発想が正しいということになります。(具体的な施策も本では紹介されています。)

 

量ではなく、質を追う――言うは易し、行うは難しですが、質を問い続けない限り、競争力を維持できません。

そもそも生産性は、「得られた成果(アウトプット)」を「投入した資源(インプット)」で割った概念です。「競争に勝つためには、より長く働く必要がある」「人手が足りないから人を増やせばよい」という労働投入型の発想は、NG

伊賀さんは、「高い成果を高い生産性で生み出してこそ高い競争力が維持できる」という労働の質を問い続ける考えが必要であり、量ではなく質を重視し、成果の絶対量の大きさではなく、生産性の伸びを評価する組織になることが、今後の組織づくりにおける重要なポイントであると指摘しています(よくある成果主義の人材評価システムがうまく機能しないのは、成果を「質」ではなく「量」で測ろうとしているからであるとのこと。生産性を基準とする人材評価手法についても、紹介されています。)

 

また、伊賀さんは、個人レベルにおいても、「生産性が上がる」ことこそが「成長」にほかならないと言い切ります。具体的には、以下の①から④までのサイクルが繰り返されること、と。

① 今まで何時間かかってもできなかったことが、できるようになった

② 今まで何時間もかかっていたことが、1時間でできるようになった

③ 今まで1時間かかって達成していた成果よりはるかに高い成果を、同じ1時間で達成できるようになった

④ ②や③で手に入った時間が、別の「今までは何時間かけてもできなかったこと」のために使われ、①に戻る

 

 

2017年、私は、チャレンジの1年にします。限られたリソースでさまざまなことを達成していきたい、だからこそ、「生産性」をテーマにしたい、しなければならないと考えています。

記事の最後に、「働き方改革」というテーマに戻って、伊賀さんのメッセージを引用致します。

 

「『働き方改革』の最大の目的は『生産性を上げること』です。人口は三割以上も減ってしまいますが、これだけ多くの革新的な技術が実用化されようとしている今、人口減少のインパクトを上回る生産性の向上を目指し、高いレベルで職業生活と個人生活を両立できる人を増やすこと――これこそが、今後の日本が目指すべき方向なのではないでしょうか。」

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