未払い賃金や残業代等がある場合に、労働者が会社に遡って請求できる期間は法律上2年間とされています(労働基準法第115条)。それを超える期間の未払い残業代については、会社は時効によって消滅したことを理由に支払いを拒むことができます。

 

今年41日施行の改正民法(新第166条)では、債権の消滅時効の期間について、

(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5

(2)権利を行使できる時から10年(※ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については20年 新第167条)

という整理をして、現行の民法の10年間という消滅時効期間を修正しました。

 

元々、民法では、労働者の給料に関する債権の消滅時効を1年間と定めていましたので(第174条第1号)、労働基準法の制定時に、このままでは労働者の保護に欠けるなどの理由で、民法の特別法たる労働基準法によって、1年間から2年間に延長したという経緯があるのです。
今回の改正民法では、この短期消滅時効の規定が削除され、債権について、一律5年以上の消滅時効の期間になったわけなので、そうすると今度は、「労働者に不利だった民法の消滅時効の規定が修正されたのだから、もう労働基準法の消滅時効期間の定めはいらないのではないか?」という話になります。

上述のとおり、労働者の保護のために時効期間を労働基準法で延長したのに、今度はその定めが労働者に不利な定めに変わってしまうのはおかしいので、このような話がでてくるのはごく自然な流れなのです。

 

それでは、労働基準法も、今回の改正民法の消滅時効期間に合わせることにしましょう・・・ということになるかというと、そう簡単な話ではありません。
今度は会社側に対するインパクトが大きすぎるのです。

 

M&Aで法務デュー・デリジェンス(買収先企業の法的リスクの調査)をするときに、未払い残業代を計算してみると、中小企業でも、その金額が数千万円になってしまうことも珍しくありません。ちなみに、退職金の未払いも見つかったりしますが、退職金についてはもともと消滅時効の期間は5年間になっています(労働基準法第115条)。

 

仮に今回、未払い残業代の消滅時効の期間を、今までの2年間ではなく、改正民法に合わせて5年間にした場合には、未払い残業代の金額が単純計算で2.5倍になり、会社にとってかなりのインパクトになります。会社の規模によっては、それこそ会社が立ち行かなくなるほどの金額になります。

このような理由で、労働債権の消滅時効期間については、改正民法と併せてその動向が注目されていたのです。

厚生労働省は昨年の1227日に、労働債権(未払い賃金・残業代等)の消滅時効期間を、労働基準法も改正民法に合わせて原則は5年としつつも、「当面3年」に改める方針を決めたということです。同省は今年の通常国会に労働基準法改正案を出し、改正民法と同時の施行をめざすとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASMDV5TL2MDVULFA02J.html

 

「当面」ということなので、今後どうなるのかはまだ不明ですが、いつか5年になる可能性があることを覚悟しておく必要があります。
会社としては、この暫定的な猶予期間があるうちに、未払い残業代が生じないような方策に本気で取り組まざるを得ないでしょう。

 

働き方改革による労働生産性の向上には、労働者側にも様々なメリットがありますが、残業代の消滅時効という数字として分かりやすい話にも繋がっていますので、労働生産性の向上は労働者・企業双方の目標になってきているといえるのではないでしょうか。

あけましておめでとうございます。16()から本年の業務を開始いたしました。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

飛田&パートナーズ法律事務所は、銀座6丁目(通称:銀座シックス)の昭和通りを築地側に越えた新橋演舞場の近くにあります。このあたりでは、現在、ビルの建て替えが急速に進んでおり、そのほとんどがホテルになるようです。これもオリンピックを控えた2020年という年を象徴しているのかもしれません。

 

ところで、なぜ建て替えが進んでいるかと言うと、もともと銀座は古い街で、築40年~50年経過している建物が多いからですが、その他に、耐震の問題があります。2013年に耐震改修促進法が改正され、旧耐震基準の大規模建物については耐震診断が義務付けられるともに、もし震度6強以上の地震により「倒壊・崩壊する危険性が高い」と判明される場合、耐震診断の提出を受けた自治体が、その結果を公表することになりました。そのため、2018年ころから、耐震診断の結果が公表され始め、日経新聞の同年1126日の記事では「『倒壊危険高い』首都圏に140棟、旧耐震基準の大型建物」と言う見出しの記事も出ました。それらの記事により、渋谷の「109ビル」、新橋の「ニュー新橋ビル」等々の有名な建物も耐震に問題があることが判明したことを覚えている方も多いかと思います。(ちなみにそれらのビルは、補強または建て替えが進められています。)。そこで、ビルのオーナーとしては、耐震に問題がある以上、これは放っておくことができないとして、建物の建て替えを進めているのでしょう。

 

では、耐震の診断の結果、耐震性に問題があるとされたにもかかわらず、そのまま放っておいたらどうなるのでしょうか? 耐震改修促進法第11条は、「〔ビルの〕所有者は、耐震診断の結果、地震に対する安全性の向上を図る必要があると認められるときは、〔中略〕耐震改修を行うよう努めなければならない。」と定めていますが、これは「努めなければならない」という文言からわかるとおり、努力義務にとどまり、耐震改修をする法的な義務があるわけではありません。ですから、現状でも、耐震性に問題がありながら、耐震改修をされず存続している建物がたくさんあります。では、本当に震度6以上の地震が起こって建物が倒壊し、入居者やその建物の利用者に被害が出た場合、ビルのオーナーはその被害を賠償しなければならないのでしょうか?報道によれば、政府の地震調査委員会が策定した全国地震動予測地図(2015年版)によると、今後30年間に震度6以上の直下型地震が来る確率は、横浜市役所で78%、東京都庁で48%とのことですので、これは切実な問題です。

 

これを法的に考えると、民法709条の不法行為の問題となり、同条1項は、「故意過失によって他人の権利を侵害したものは、それによって生じた損害を賠償しなければならない。」と定めています。そして、過失とは、あらかじめ損害の発生を予見でき、回避も可能だったのに、その予見または回避義務を怠り、損害を発生させることと理解されています。したがって、耐震診断によってビルの倒壊や入居者または利用者の被害を予測でき、かつ物理的には耐震工事などを実施することにより被害の発生を回避することができたのにもかかわらず、被害が発生してしまった場合には、過失ありと判断され、民法709条の損害賠償責任を負わなければならないとも考えられます。しかも、建物のような土地の工作物の場合、民法717条に工作物責任という不法行為の特別規定があり、工作物の所有者は無過失責任終わっなければならないと規定されています。したがって、民法709条の「過失」についての議論をすることなく、同法7171項の工作物責任によって、当然に建物の所有者は地震によって発生した被害(損害)を賠償しなければならないと考えるのが自然なように思います。

 

ところが、少々複雑な問題があります。それは端的にいうと、建築基準法上、昭和56年に建物の耐震基準が旧耐震から新耐震に変ったわけですが、変更後も、旧耐震の建物は、違法ではなく、既存不適格建物として適法建物である(建築基準法32項参照)と解釈されていることに起因しています。少々説明が長くなりますが、お付き合いください。

 

前提として、民法717条1項は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは〔中略〕所有者がその損害を賠償しなければならない。」と規定しているのですが、この工作物の「瑕疵」(かし)とは、「通常備えているべき安全性を欠いていること」をいい、「設置の瑕疵」とは当初の設置段階から瑕疵があること、「保存の瑕疵」とは設置後管理等が悪くて瑕疵があることになったことをいうとされています(ここまでは特に異論がないと思います。)。そうすると、旧耐震の建物については、建築時には当時の基準で耐震性をクリアーしていたので、「設置の瑕疵」があるとはいえないので、「保存の瑕疵」があるかが問題になるわけですが、前述のとおり、耐震基準が旧から新に移っても、法的には適法建物なのであるから「保存の瑕疵」があるとはいえないのではないか?という疑問があるのです。

 

この疑問を強める判例もあります。それは、 仙台地判昭和5658日 で、事案は、1978年の宮城沖地震で、ブロック塀が倒れ、通行人が死亡したので、遺族がブロック塀の所有者に損害賠償請求をしたというものです。この事案では、ブロック塀が、建築基準法改正後の新しい耐震基準に適合しなくなっていましたが、所有者には、法令上の補修や改造義務はなく、一般にそのような補修や改造を期待することもできないから、「保存の瑕疵」もないと判断されたのです。この判決の論理に従えば、耐震改修促進法によって、旧耐震基準の大規模建物の所有者には、耐震診断をして、耐震診断の結果、耐震性能が不足していることがあきらかになっても、耐震改修をする法的義務はないと解されていることから、「工作物の保存の瑕疵」があるとはいえないのではないか?という解釈が成り立つわけです。

 

で、私は頭を悩ましていたのですが、最近、この問題に明快な回答を与える論文を発見しました。TMI法律事務所の富田裕弁護士が日本不動産学会誌第28巻第3号に発表している「工作物責任との関わりでいる耐震改修促進法の改正の考察」(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jares/28/3/28_97/_pdf)という論文です。201412月の雑誌なので、耐震改修促進法の改正直後には既に、現在私が悩んでいるような問題について検討がされて、一定の回答が出ていたのですね。ちなみに、富田弁護士は、一級建築士で、社団法人日本建築士事務所協会連合会の理事もされているようですので、その道の専門家です。

 

富田弁護士は、「改正後の耐震改修法の規律は、ある建築物について、一方で「地震の振動及び衝撃に対して倒壊し、又は崩壊する危険性が高い。」と公表しつつ、この建築物について、改修の法的義務はないとする。この規律は、いわば「地震により崩壊する危険が高い」ものの放置を認めるという矛盾を内容した規律である。」と端的に指摘しつつ、民法7171項の「保存の瑕疵」の解釈との関係では、「危険性が高い建物」と評価された以上、通常備えるべき安全性を備えた建築物とはいえないので、瑕疵ある工作物と判断すべきであり、この瑕疵は、後発的瑕疵ということになるから、「保存の瑕疵」と解釈すべきであると主張するのです。そして、法社会学の観点からしても、そのように解釈することで、危険な建物の改修が進められることになるので望ましいこと、前述の仙台地裁の判決も、「すべて新規の技術に従って在来のブロック塀を補修ないし改造することが法令によって要求されるか、或いはそうでなくても、その指摘がされて一般に行われていたような特別な事情があれば格別」という例外を設けているので、耐震改修法上、建物の危険性が公表されるに至ったような場合には、この特別な事情があると考えられるので、このような結論は判例とも矛盾しないというのです。

 

そして、富田弁護士は更に踏み込んでいて、民法7171項の工作物責任は一次的には占有者に発生し、ただ「占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは」所有者に無過失責任を負わせるという構成になっているのですが、「建物所有者が建物を貸しに出し、賃借人が当該建物を借りて店舗を営んでいる場合において、当該建物の危険性が公表された時、店舗を運営する占有者は、店を別の安全な建物に移転させ、当該建物から退去することで事故の発生を防止することができる。そうであれば、建物の占有者も事故の発生を防止することはできるから、占有者にも責任があるとすべきである。」というのです。これは、危険性があるとして公表された建物内で営業しているテナントにとっては、かなり影響を与える解釈だと思います。

 

というわけで、新年早々から長い原稿になってしまい、申し訳ありません。
ただ、上記のような解釈がありますので、今後ますます旧耐震の大規模建物の耐震改修や建て替えが進むようになるでしょう。
今後の動向に注目したいと思います。

 弊事務所では、破産者の管財人に就任して、残っている破産者の財産を集め、債権者に配るという、いわゆる破産管財事件の取り扱いがあるのですが、最近は、労働者の給料を支払わないまま破産してしまった会社の破産管財事件を、多く取り扱っています。

 

 会社にしろ個人にしろ、誰かが破産するという場合、支払わなければならないお金(債務)よりも、持っている財産がかなり少ない状態であることがほとんどです。そのため、たとえ破産者に対してお金を支払ってもらう権利を持っていたとしても、全額を支払ってもらうことは非常に難しいのです。

 これは、労働者の給料についても同じで、破産会社に十分な財産がない以上は、給料を支払ってもらう権利があったとしても、実際には少額しか支払いを受けられないのが原則です。ただし、破産直前まで在籍していた労働者の給料については、例外的に、法律で一定の保護がされており、未払額の8割までを税金で補填してもらえる立替払制度が存在します。

 

 労働者がこの立替払制度を利用するためには、会社の破産管財人から、未払の給料がいくらなのかを計算した証明書を発行してもらう必要があります。そのため、弊事務所でも、破産管財事件の中でこの証明書の発行をしているのですが、これが意外にもかなり大変なのです。

 

 そもそも、未払の給料がいくらなのかを計算するには、「①その人がいくらの給料を受け取るべきなのか?」と「②すでに支払われた金額はいくらか?」について、資料を揃える必要があります。

 ですが、破産する会社は、最後の方はてんやわんやの状態になっていることが多く、労働時間の管理や、給与明細・賃金台帳の作成がきちんとされていないことが多いです。また、かろうじて賃金台帳がある場合も、少しでもコストを下げようと、実際に支払っている金額よりも少ない金額を賃金台帳に書いていたり、残業代を給料計算に含めていなかったりします。

こうなってくると、「①その人がいくらの給料を受け取るべきなのか?」が、管財人の手持ち資料からは分からないので、社長や総務・経理の担当者、労働者本人などから、電話や手紙で聞き取りをして、それを報告書にまとめる作業が必要になってきます。

 

 「②すでに支払われた金額はいくらか?」を確定するのは更に大変です。

毎月遅れなく1人1人に振り込みをしていたり、各労働者への支払金額をきちんと帳簿に付けていたりする会社であれば全く問題ありませんが、大抵はそうではありません。そもそも現金払いだったり、総合給与振込の形が取られているため振込合計額しか分からず、支払いの内訳(誰にいくら支払われたのか)が分からなかったり、未払いが長年続いていて、一体いつの分の給料が支払われているのかが分からなかったりします。

 この場合も、結局は、社長や経理の担当者、労働者1人1人等から聞き取りをして、誰に、いつの分を、いつ、いくら支払ったのか、確定して報告書にまとめなければならなくなります。

 

 このような作業をしていると、平気で証明書の発行までに1ヶ月以上かかったりするので、この作業だけでもかなりの負担感なのですが、地味に一番辛いのが、「とにかく早く証明書を発行してくれ」という労働者からのプレッシャーです。

 証明書が発行されなければ労働者は立替払を受けられないので、当然といえば当然なのですが、労働者は、取引先や借入先と比べて、「会社が破産しても給料が支払われるのは当然である(それなのに支払いが遅れている)」という意識が強いことが多く、また、給料が生活の原資にもなっているので、それらが合わさって、証明書の発行に時間がかかることについて、怒りの感情を持ちやすいのです。労働者の人数が数十人になってくると、証明書の発行についての問い合わせが連日入るような状態になるので、これへの対応も、管財人の重要な(そして大変な)仕事になってきます。

 

 今回は、破産管財事件の裏話をお伝えしました。

 多くの方には直接関係のない話かもしれませんが、コーヒーブレイク的にお読みいただければ幸いです。

最近話題の働き方改革ですが、このテーマに関して、先日、株式会社ワーク・ライフバランスの代表取締役である小室淑恵社長が弁護士会で講演をされ、この内容に大変感銘を受けましたので、この講演内容について少し話したいと思います。

小室社長が推進されているワーク・ライフバランスの考え方は、多くのメディアで取り上げられ、小室社長自身、テレビ等に出演されています。小室社長は、「働き方改革関連法」に関する国会審議の場に参考人として招かれ、安倍内閣の産業競争力会議の民間議員にも就任されています。

 

「ワーク・ライフバランス」という言葉を聞いて多くの人が勘違いしているのが、この言葉を、「仕事」と「家庭」の両立、と捉えてしまうことだそうです。このように捉えてしまうと、家庭(配偶者、子ども)のある人に配慮しましょうということで、独身者に多くの仕事を課してしまい、家庭のある人と独身者との間の対立構造を生む結果となり、結局組織として一つになれず、業績はマイナスになっていくとのことです。

そうではなく、「ワーク・ライフバランス」の「ライフ」はもっと広い意味で、「家庭」だけでなく、自己研鑽や運動、遊び、婚活なども含まれており、こう捉えることで、従業員のインプットや多様性に繋がって付加価値を生み出すことになり、結果的に業績にプラスになるというのです。

 

日本は現在GDP世界3位の先進国ですが、先進主要国の中で最も労働生産性が低い(21年間連続最下位)というのは有名な話です。労働生産性の算定は、付加価値を金銭だけで計算しているので色々と議論はあるところですが、とにかく先進主要国の中で日本が最も労働者一人あたりの就業時間が多いというのは事実です。

 

今後は少子高齢化が進み、国際競争力が低下することになり、このままでは日本はジリ貧になっていきます。このような日本が抱える課題を解決するには、今の時代がどうなっているのかを正確に把握する必要があります。ここで小室社長は、説得力のある根拠として、ハーバード大学のデービットブルーム教授の研究を挙げます。

 

一つの国の社会では、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」(※onus:重荷、負担)の2つの時期があります。

「人口ボーナス期」は、若者が多く人口構造が経済的にプラスになる時期で、安い労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方で、社会保障費が嵩まないので爆発的発展をするのは当然という時期のことをいいます。日本では、1960年頃~1990年代半ばがこの時期にあたり、中国はもうすぐこの時期が終わり、インドはもうしばらく続くそうです。

もう一つの「人口オーナス期」ですが、これは働く人よりも支えられる人が多くなることで、社会保障制度の維持のためにどんどん国民全体が貧しくなっていく時期をいい、日本は既に人口オーナス期に突入しています。重要なのは、一度人口オーナス期に入ると、二度と人口ボーナス期には戻れないという点です。

 

さて、日本よりも早く欧米諸国はこの人口オーナス期に入りましたが、欧米諸国とは異なり、日本は対策をとれず少子高齢化も進んでどんどん深刻化していっています。

それでは、どうすればこの状況を打開できるか?というと、人口オーナス期特有の働き方にシフトする必要があるとのことです。

 

時代と共に頭脳労働の比率がどんどん上がっていき、使える労働力を使おうと思ったとき、日本が持っている潜在的な国力に目を向ける必要があります。この潜在的な国力というのが「女性」であり、人口オーナス期で経済発展するためには男女共に「短時間で」働く必要があるとのことです。

日本は男女共に同じ教育を受けるシステムができあがっており、現在の大学進学率も男女共に50%前後で、このような高度教育を受けた女性を家庭の中に留めておくのはもったいないという発想です。これにいち早く気づいた欧米諸国は女性の社会進出を進め、フランスでは女性の就業率が8割を超えています。

 

ここで素朴な疑問が湧く方もいると思います。女性の社会進出を進めると少子化がますます進んでしまうのでは?というものです。この点、気になったので調べて見ると、フランスの出生率は1.922016年)と日本の1.442016年)よりも高く、長年2.00前後で推移しているというから驚きです(先進国の理想的な出生率は2.01です。2018年のフランスは1.88とちょっと下がったようですが)。

なぜフランスは女性の社会進出が進んでいるのに、出生率も高いのかというと、労働生産性が高いからというのがその理由になります。なお、夫婦が2人目の子どもを作りたいかどうかは、夫が育児に関わる時間が多いほどその割合が高くなるという結果が出ているそうなので、女性だけでなく、男性も労働生産性を上げて早く帰ることができれば、少子化対策にもなるのです。

 

労働生産性を上げる方法は色々とあるとのことですが(詳しくは小室社長の著書参照)、まず評価方法として、「期間あたりの生産性」ではなく「時間あたりの生産性」が高い人を評価するような仕組みを作らないと、労働生産性が上がりません(上げようと思わない)。

次に長時間残業の是正を行い、休業・時短を経ても継続就業できる制度を整備し、それからようやく女性を積極採用するという手順が重要であるそうです。

ちなみに小室社長は(よく言われるそうですが)フェミニストというわけではなく、日本に勝って欲しいから啓蒙活動をされているそうです。

 

今は女性活躍推進法によって、一定規模の企業は、男女別離職率や女性管理職比率、平均残業時間も公開されるようになっています。最近は人手不足で売り手市場ですが、就職活動では、企業のブランドやネームバリューなどよりも、男女共に、育休産休の取得の有無・期間、残業時間等も見て企業を選ぶようになってきています。

そうすると、良い人材を採れる企業とそうでない企業は今後二極化することになることが予想されますので、いち早く労働生産性に着目し、ワーク・ライフバランスの確保の重要性に気が付いた企業が生き残るのではないかと考えられます。

 

「働き方改革関連法」の施行により、残業代の上限規制が設けられましたが、勤務間インターバル制度(終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定する制度)は、まだ努力義務に留まっています。労働生産性を上げるためにも、勤務間インターバル制度についても早く法的義務になるべきと考えています。

労働生産性を上げるためには、まずは休息することが大切ですので、とりあえず今日は早く帰って休みましょう(私もこれを書き終えたので帰って休むことにします)。

さて、今回も、Facebookのリブラ絡みの話をしたいと思います。

リブラについては、各界からの猛烈な批判にさらされるなどして、先行きが不透明になっているところですが、他方、リブラに対抗して、中国やEUなどが国レベルで独自の電子通貨を発行するといった兆しがあり、(良くも悪くも)世界的に影響を与えているように思います。

少々、経緯も複雑になってきたところですので、ここで、一度、私見を交えて、これまでの経緯のおさらいをしつつ、新たな動きについてもご紹介してみたいと思います。

 

(1) リブラの公表

まず、今年の618日、Facebookが、リブラ(Libra)という仮想通貨を公表しました。このリブラは、決済手段として、つまり、物やサービスの対価として、この仮想通貨を使えるようにしよう、というものです。また、世界中の約半数の人が銀行口座を持っていない状況にあり、これに対処するのが、リブラの課題であるなどとされています(https://newsroom.fb.com/news/2019/06/coming-in-2020-calibra/)。

さて、このリブラですが、正直なところ、技術的に物凄く新しいというものではありません。仮想通貨としては、既にビットコインがあり、現状でも、ビットコインで物を買ったり、サービスの提供を受けたり、といったことは、(ビットコインを受け入れているお店は少ないものの)実際にあります。

また、リブラは、裏付け資産を有して、価格を安定させることを志向しているようです。しかし、そういった、価格を安定させる、いわゆるステーブルコインの仕組みも既にあります。そもそも、リブラ自体、価格変動が全く無いわけではなく、むしろ、価格変動が存在することが前提とされています。

 

 

(2) リブラへの批判

 このように、正直なところ、それほど目新しいとは言えないリブラですが、公表された後、各界から大きな反響があり、端的にいって、袋叩きにあっています。例えば、

・米議会では批判的な声が強まり、公聴会なども開催されました。その中では、マネーロンダリングやテロ資金に使われるといった批判が出ています。また、Facebook側は、アメリカの規制当局の完全な承認を得た上で、Libraをリリースする、といった発言をするに至っています。

G7でも、名指しでリスクが指摘され、「最も高い水準の規制を満た」さなければならないなどとされています(https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g7/cy2019/g7_20190719.htm)。

・さらに、EUに関しては、フランスとドイツが、リブラのリスクを批判する共同声明を出すなどしました(https://g8fip1kplyr33r3krz5b97d1-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2019/09/Joint-statement-on-Libra-final.pdf

 ここで個人的に引っかかることは、なぜ、今、リブラがこんなに叩かれるか、ということです。この点、マネーロンダリング云々のリスクがあるというのは確かかもしれません。しかし、それは、リブラに限った話ではありません。仮想通貨の元祖・ビットコインなどでも同じことです。しかし、ビットコインは、(日本などで一定の規制は設けられたものの)全世界で流通しています。少なくとも、リブラのように、袋叩きにあって、流通もできないような状況にはありません。

 そのため、(リスクがあるにせよ)なぜ、今、マネロン云々のリスクがあるからといって、リブラがそれ程までに叩かれなければならないのか、違和感を覚えます。

 これに対しては、色々な見方があろうかと思いますが、個人的には、リブラの参画メンバーに一因があるように思います。具体的には、まず、リブラを主導するFacebookに関しては、過去、個人情報流出の事件を起こしてマイナスイメージがあることが挙げられます。ただ、それ以上に、今回のリブラに関しては、当初、VISAやマスターカード(なお、後に離脱を表明)など、著名な企業が参画しており、実際に、決済手段として普及するかもしれない、という可能性が生じたからではないか、と感じます。

 

 仮想「通貨」が、決済手段として普及するかもしれない、というのは、いわば、当たり前のことです。しかし、現実には、残念ながら、例えば、ビットコインについては、主に、投資・投機の手段として使用され、決済手段としての利用は、少ない状況です。そのため、(あくまで私個人の感想ですが)今までは、関係各所もそれほど問題視してこなかったところ、Facebookが、「決済手段として普及させるのだ」といって、豪華な参画メンバーを引き連れて登場したことに対して、関係各所が焦っている、といった印象を受けます。

 そして、「関係各所」として一番考えられるのが、銀行、特に、政府ないし中央銀行ではないかと思います。仮想通貨が、真に、決済手段として普及すれば、極論、銀行はいらなくなってしまいます。さらに普及が進めば、法定通貨もいらなくなってしまうかもしれません。中央銀行から見れば、リブラは、自らの地位を脅かす危険な存在、と写るように思います。 

 また、(あくまで可能性の話であり、現段階では、少々妄想じみてはいますが)リブラが目標として掲げた、

  世界中の約半数の銀行口座を持っていない人

がリブラを使うようになれば・・・、場合によっては、世界の基軸通貨が(ドルではなく)リブラになってしまうかもしれません。少なくとも、リブラの影響力は、非常に大きいものになるでしょう。これは、米国だけではなく、他国も見過ごせないように思います。

 

(3) 中央銀行発行によるデジタルマネー

 

 リブラの公表後、中国は、デジタル通貨(人民元)を発行することを計画している(なおかつ、既に、発行準備段階にある)、といった報道が数多くなされました。要するに、政府が、法定通貨をデジタル化した仮想通貨を発行してしまおう、ということです。

 中国において、研究自体は、昔から行っていたようですが、現状、リブラを意識して準備を急いでいるように見えます。中国のデジタル人民元が、どういったものになるのか、まだ、全貌は分かりませんが、場合によっては、リブラに代替するものになる可能性も考えられます(もちろん、リブラとは全く違うものになり、また、全然普及しない、ということになるかもしれませんが。)。

 ちなみに、最近の動きとしては、中国の国会にあたる全国人民代表大会において、デジタル人民元発行に向けた準備として、仮想通貨に関する新法が可決された、などと報道されています(https://jp.reuters.com/article/china-crypt-idJPKBN1X7015)。

 

 また、前述のとおり、EUにおいては、フランスとドイツが、リブラを批判する中で、欧州中央銀行が、公的なデジタル通貨に取り組むよう、働きかけるといった共同声明を出しました(https://g8fip1kplyr33r3krz5b97d1-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2019/09/Joint-statement-on-Libra-final.pdf)。この点については、進展があるようで、最近では、EUとして、正式に、欧州中央銀行(ECB)に対し、公的なデジタル通貨発行の検討を提言する見通しであるといった報道がされています(https://jp.reuters.com/article/eu-libra-idJPKBN1XF2IW)。

 

(4) G7のその後

 

さて、前記のとおり、G7は、リブラに批判的です。この点、G7では、(実質的にはLibraを主眼としつつも)広く「ステーブルコイン」について作業グループを設けて、これまで調査・検討が行われてきました。

その結果、先月、(前回のメルマガ記事作成後)、以下のような報告書などが出されました。

G7作業グループによる報告書

https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g7/cy2019/g7_20191017_02.pdf  

・ステーブルコインに関するG7議長声明(財務省による日本語訳)

https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g7/cy2019/g7_20191017.htm 

 

この中で、上記議長声明では、以下のようなリスクが指摘されてます。

 

・法的確実性

・健全なガバナンス

・マネーロンダリング、テロ資金供与及びその他の違法な・金融活動

・決済システムの安全性、効率性及び公正性

・オペレーションの頑健性やサイバー耐性

・市場の公正性

・データのプライバシー、保護及び移転可能性

・消費者や投資家の保護

・税務コンプライアンス

 

これを踏まえて、「法律上、規制上及び監督上の課題やリスクに十分な対応がなされるまで、いかなるグローバル・ステーブルコインもサービスを開始すべきではない」とされています。 

要するに、リブラはリスクがあるから、現状、発行はNGということです。さもありなん、といったところです。

ただ、ちょっと気になった点として、上記議長声明では、以下のようなコメントもされていました。

「規制に加え、公的権限や通貨主権の中核的要素の維持は勘案されなくてはならない。」

これは、個人的には、かなり本音の部分なのかな、と感じます。要するに、中央銀行や中央銀行が発行する法定通貨の地位は守られなくてはならず、リブラはこれを脅かす可能性があるから危険である、ということかと思います。そもそも、G7とは、「7か国財務大臣・中央銀行総裁会議」ですから、中央銀行の仕事を奪ってしまう可能性があるリブラについて、(その当否は別として)批判的である、ということは頷けます。

 

(5) 総括

 

 以下、私なりに現状を総括してみたいと思います。

 

 リブラについては、マネロン云々のリスクもありますが、各国政府・中央銀行の視点で見れば、自らの立場や、法定通貨の地位を脅かすリスクがあるように思います。

 そのため、アメリカを含めて、政府や中央銀行は批判的です。実際に、リブラは、アメリカを含めて、各国から袋叩きにあっています。

 他方で、リブラに焦りを感じた中国やEUでは、国レベルで法定通貨を電子化して(デジタル人民元や、デジタルユーロの発行して)、リブラに対抗しようと動いているように思います。リブラに覇権を握られないよう、自分たちがデジタルマネーを発行してしまおう、ということです。

 これによって、当初、リブラvs米政府(+他国政府・中央銀行)という構図だったところに、中国とEUが参戦し、三つ巴ならぬ、四つ巴のような、複雑な構図になっています。

 ここで、やはり気になるのが、米国の動きです。米国では、リブラへの対抗策の1つとしては、米国での銀行決済を24時間年中無休にする、といった案が出されているようですが(https://coinpost.jp/?p=116936)、現状、EUや中国のように、国レベルのデジタルマネーのような構想は出てきていないようです。

 ただ、米国としては、リブラだけではなく、中国やEUのデジタルマネーも敵になりうるような状況かと思います。そのため、単にリブラが危険だからといって、リブラを潰せばいい、という状況でもなくなっているのではないかと推測します。このような状況に対し、米国の次の一手が気になるところです。すなわち、

 

 ・米政府として、デジタル米ドル、のような構想を打ち出すのか

 ・ないしは、リブラを規制下において、背後からコントロールしつつ、リブラを推進してゆくのか

 ・はたまた、これら以外の対抗策を考えるのか(ないしは、リブラも、デジタル人民元も、デジタルユーロも、結局は、今の米ドルへの脅威ではないとして、米国としても何もせず、リブラに対する批判・規制の方針を貫くのか)

 どのような結果になるにせよ、今後の進展について、気になるところです。いずれにしても(リブラが実現するにしろ、しないにしろ)、リブラが投じた一石は、非常に大きなものであったと感じます。

フィギュアスケートの2010年バンクーバー冬季五輪男子代表の織田信成氏が、1118日に、9月に関西大学アイススケート部の監督を辞任したのは、同大学所属の女性コーチによるハラスメント行為が原因だったとして、同コーチに対して1100万円の慰謝料などを求め大阪地裁に提訴したというニュースがありました。
(産経新聞:https://www.sankei.com/affairs/news/191118/afr1911180018-n1.html

 

今回のハラスメントはモラルハラスメント(道徳による精神的な暴力や、言葉や態度による嫌がらせ)だったと言っているメディアもありますが、昨今ハラスメントの種類が多くなり意味が分かりにくくなってきていますし、結局パワーハラスメントで整理できる事案が多いと思います。
訴訟内容が分からないので、確実とはいえないですが、いわゆるパワハラ規制法も成立したことですし、今回もおそらく伝統的なパワーハラスメントの類型に従って訴訟提起していると予想されます。

 

パワーハラスメントは、加害者が、優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行うことが前提ですが、必ずしも上司から部下に行われるものに限らず、先輩後輩間、同僚間、さらには部下から上司に対する行為なども、優位性が背景にあれば成立し得ます。
監督とコーチの身分による力関係は分かりませんが、少なくとも今回の女性コーチは、30歳近く織田氏よりも歳が上で、指導者としてのキャリアも長いので、少なくともある程度は優越的な立場にあったのではないでしょうか。

 

弁護士がパワーハラスメントを理由に訴訟を提起する場合には、加害者本人だけでなく、使用者責任(民法715条)を理由に使用者(会社等)も訴えるのが一般的です。個人だと支払能力が心配なので、使用者も巻き込むことで支払能力を確保するというのがその理由です。もっとも、記事だけでは分かりませんが、今回の女性コーチは有名な方で支払能力について心配はなさそうであることと、織田氏の「フィギュアスケート界の悪弊へ一石を投じる思いで提訴に至った」というコメントからすれば(お金目的とは思われない)、今回の訴訟の被告は女性コーチだけで、大学(使用者)は被告に含めていないのかもしれません。

 

今回の織田氏の請求金額は1100万円。
パワーハラスメントで訴訟提起する場合の損害の一般的な内訳は、①治療費、②慰謝料、③休業損害、④逸失利益、⑤弁護士費用です。
実務慣行として弁護士費用(⑤)は損害額の1割程度なので、100万円が弁護士費用、今回織田氏は辞任しているので休業損害(③)ではなく逸失利益(④)の請求になるでしょう。今回のケースは、パワーハラスメントで傷害を負ったとか精神疾患に罹患したというわけではないので、治療費(①)や慰謝料(②)があまり高額にはならないと予想されますので、逸失利益(④)が主戦場でしょう。

 

逸失利益は、パワーハラスメントによって退職のやむなきに至った場合、仮に退職していなければ得られたはずの収入をいいます。
裁判例では、9か月~1年の期間が認められる傾向にあるので、今回、1年分の請求をしたと考えられ、そうすると、織田氏の監督としての報酬は、1年で1000万円弱だったのかなと下世話ながら予想してしまいます。

 

パワーハラスメントが認められるか否かは、適正な業務指導の範囲内だったのか?ということが主題になり、適正な業務指導の中身は、職場ごとで変わります。
事務仕事が主な職場と、生命のために一分一秒を争う医療現場を比較すると、後者の現場のほうが、業務指導の内容が厳しくなってしまうことも実務上許容されますし、一般的な感覚からしても違和感はないと思います。

 

今回は世界を目指す運動部の指導者間の出来事であり、その指導結果に対して日本中が注目していることも考えれば、当然ながら各指導者は相当熱意をもって指導しているでしょうから、今回の指導方針をめぐった対立は、通常よりも「適正な業務指導の範囲」を広げて裁判所は判断するのではないかと思います。そうすると、原告側としてはなかなか難しい裁判のようにも思います。

 

とはいえ、織田氏の言うように本当にフィギュアスケート界に「悪弊」があるというのであれば、今回の訴訟はそれに一石を投じるという意味で極めて重要なものになると思います。
今後もこの訴訟の行方に注目したいと思います。

 先日、あるクライアントから、「私の会社では、土地を借りて、建物を建てており、その際、借地権の登記をしたが、その借地権の存続期間が来年満了する。この場合、借地権の存続期間の記載を変更しておく必要があるでしょうか?」という質問を受けました。

 この質問を分析すると、登記簿上、存続期間が終了してしまっている借地権登記には対抗力があるのか?という問題になります。

 

 すなわち、賃借権は、対象となる物を直接的に使用できる権利(物権)ではなく、賃貸人という人に対して対象物を借りるよう請求する権利(債権)なのですが、対象物が不動産等の場合には、登記することが認められており、登記すれば、物権化して、他の物権(所有権、永小作権、抵当権等々)その不動産に対し新たに権利を取得した者と民法177条の対抗関係に立つと考えられています。

 たとえば、土地について賃借権を有している者が、その賃借権を登記すれば、その土地を賃貸人から新たに取得した者(新しいオーナー)との間で対抗関係に立ち、賃借権の登記の方が所有権移転登記よりも先行しますので、その賃借権を新しいオーナーに対抗できる(賃借権の存在を新しいオーナーに主張できる)ことになります。

 もしこの場合に賃借権登記がなかったとすると、「売買は賃貸借を破る」の原則に従い、新しいオーナーは、賃借人に対し所有権に基づいて土地の明渡しを請求できるということになります。

 ただし、明治の時代に、この「売買は賃貸借を破る」の原則が過酷な状況を生ぜしめたため、明治42年に「建物保護ニ関スル法律」(現在の借地借家法第10条第1項)が制定され、借地上に借地権者の建物がある限り、借地権登記がなくても、その借地権は対抗力を有する、ということになりました。したがって、現在では、この問題はあまり重要ではなくなっています。

 

 しかし、借地上に建物がない場合には、依然、この問題は重要性を有します。特に、近時は、太陽光発電で、借地上に建物がないが借地権登記がある借地権が大量に発生したので、20年後ぐらいには、この論点は大きな問題になっているかもしれません。

 

 で、回答はどうなんだ?ですって。

 実は、リサーチはしてみたものの、この問題に直接的に答えている文献を発見できず、よくわからなかったのです。

 不動産登記法上は、借地権の存続期間について変更登記を認めているので、存続期間が満了した場合には変更できることはわかるのですが、変更しなければ登記として無意味になるのか(対抗力が認められなくなるのか?)という点についてはどうもはっきりしません。

 

 このように悩んでいたところ、現在、法務省の法制審議会の民法・不動産登記法部会で審議されている「所有者不明問題」の資料9(http://www.moj.go.jp/content/001301735.pdf)に興味ある記述を見つけました。

 それは、資料9の第5の1(4)「登記記録に記載された存続期間の満了している権利(地上権、永小作権、賃借権及び採石権)に関する登記の抹消手続の簡略化」(18頁)という部分です。

 その箇所の「補足説明」には、

 

「登記義務者の所在の把握が困難である場合には、〔中略〕実体上は既に存続期間の満了等により消滅している用益権(地上権、永小作権、賃借権及び採石権)に関する登記が抹消されないまま残存することがあり、〔中略〕不動産の円滑な取引を阻害しているとの指摘がある。

2 地上権、永小作権及び賃借権については、それぞれ、賃借期間の定めがあるときはその定めが登記事項とされており(不動産登記法第78条第3号、第79条第2号、第81条第2号)、採石権については、存続期間が必要的記載事項とされている(同法第82条第1号)。そこで、登記記録に記録された権利の存続期間が満了し、かつ、そこから更に一定期間(例えば5年)が経過している場合には、当該権利が既に消滅している可能性が高いことを踏まえ、登記義務者の登記記録上の住所への通知(注1)及び公告により登記義務者の手続保障を図った上で、異議がないときは、登記権利者が単独で当該権利の抹消をすることができるものとすることが考えられる(注2、注3)。」(18頁)

 

と記載されているのでした。この記述が、存続期間が満了している借地権登記の対抗力の問題をどのように考えているかわからなかったので、私の知り合いの法制審議会の関係者に聞いたところ、「存続期間が満了している賃借権登記の効力の問題は、文献もなく、学者に聞いてもよくわからないとのことで、明快な答えができない分野。だから、このような制度ができないかということ。」だそうです。

 

 私としては、私がリサーチで回答を発見できなかったのは、私の能力不足が原因ではないことがわかってホッとするとともに、借地権登記などという古くからある法制度にもこのようなまだよくわからない分野があるのだなと少々驚いた次第です。

 

 実践的には、(上記のような法改正がなされた場合はなおさらのこと、改正がなされなくても、「対抗力がない」と解釈されるリスクをとるわけにはいきませんので、存続期間満了の際には、速やかに、存続期間の変更登記をしておいた方がよい、ということになるでしょう。

 日本で登録している弁護士は、全国に52ある弁護士会のいずれかに必ず所属しており、一定の事由がある場合(「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき」)には、所属弁護士会から懲戒を受けるとされています(弁護士法第56条)。

 

懲戒の種類は、①戒告(弁護士に反省を求め、戒める処分)、②2年以内の業務停止(一定期間弁護士業務を行うことを禁止する処分)、③退会命令(弁護士たる身分を失うが、弁護士となる資格は失わない処分)、④除名(弁護士たる身分を失い、3年間弁護士となる資格も失う処分)の4つあり(弁護士法第57条第1項)、弁護士会が懲戒相当と判断した場合には、対象弁護士に対して、①~④のいずれかの処分がされることになります。

 

この懲戒請求は、誰でも行うことができ(弁護士法第58条第1項)、懲戒請求があると、まずは、弁護士会の「綱紀委員会」というところで事案の調査がされることになります。

綱紀委員会の調査の中で、対象弁護士は、調査のための説明や資料提出を求められたり、出頭を求められたりすることがあります。

 

調査の結果、綱紀委員会が、「懲戒委員会」の審査を求めるのを相当としたときは、次は、弁護士会の懲戒委員会が、懲戒を相当とするかしないかを判断します。

懲戒相当とされた場合には、上の①~④のいずれかの処分がされることになり、懲戒不相当とされた場合には、懲戒されずに終了することになります。

(厳密には、弁護士会で懲戒相当or不相当と判断された後、判断が不当だと思う場合には、審査請求や異議申出といった方法で日本弁護士連合会に再判断を求めることができます。)

 

 この懲戒請求制度に関し、昨年頃から、誰でも懲戒請求ができることを利用して、大量の不当懲戒請求を行った事案が取り沙汰されています。(同事件を取り上げたNHKの番組のページ:https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4200/index.html

 事案としては、在日外国人の排斥を主張するブログに影響を受けたブログ読者らが、在日コリアンの弁護士や、朝鮮学校への補助金を求める弁護士会声明に賛同したとされる弁護士、その弁護士に多数の懲戒請求書が届いたことを問題視するツイートをした弁護士等に対して、当該ブログに掲載されていた雛形を利用するなどして、大量の懲戒請求をしたというものです。(弁護士1人につき数百~数千通の懲戒請求書が届いたようです。)

 これらはおよそ懲戒事由に当たらないので、現実に懲戒がされることはありませんでしたが、懲戒請求を受けた弁護士らは、不当な懲戒請求への対応を余儀なくされ、損害を被ったとして、懲戒請求者らに対し、損害賠償を求める訴訟を起こしました。(報道によると、懲戒請求者の中には、匿名で懲戒請求ができると考えていた人もいたようですが、実際には、懲戒請求者の氏名と住所は対象弁護士に通知されます。)

 

 弁護士に対する懲戒請求については、本件以前に、最高裁判例(最判平成19424日民集6131102頁)が、「同項(注:弁護士法第58条第1項)に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」との判断を示しており、一定の場合には不法行為となることが認められています。

 

 今回、懲戒請求の対象となった弁護士等が起こした裁判でも、基本的に弁護士側が勝訴しています。妥当な決着だと思いますが、このような反撃は、訴訟に慣れた弁護士が被害者であり、かつ、数百万円かかると言われている訴訟費用についてカンパが集まったからこそできたことなのだろうと思われ、そうでなければ、反撃を諦めざるを得なかった可能性も高いと思います。

 

 今回の事件は、誰でも利用できる制度だからといって、どのような使い方をしても良いわけではないということを改めて教えてくれるとともに、思いの外簡単に、多くの人が洗脳され、自分の生活に無関係の人間にでさえ集団で害意を向けることがある、という恐ろしい事実をも、改めて世に知らしめたのではないでしょうか。

学校現場でのいじめや虐待に対応するため、文部科学省は、「スクールロイヤー」と呼ばれる専門の弁護士を全国に約300人配置する方針を固めたということです。

各地の教育事務所などに拠点を置き、市町村の教育委員会からの相談をスクールロイヤーが受けるというもので、来年度からのスタートを目指して準備を進めるとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50112680T20C19A9CR8000/

 

学校現場では、生徒間のいじめや教師からの体罰、保護者からのクレーム対応等、様々な問題が生じており、法的アドバイスが求められることは少なくないでしょう。

文科省の説明によれば、このスクールロイヤーによって、いじめ問題の対処に関する助言やその予防教育等を主に想定しているようです。

 

ただ難しいと思うのは、いじめが暴力に及んだり、金品を要求したりするなど明らかに犯罪と言えるような場合であれば、弁護士としては「これは刑法上の○○罪に該当し得るので、直ちに止めさせてください」と明確に言えるのですが、犯罪とはいえないようないじめの場合には、弁護士として法的なアドバイスを行うのは困難です。むしろいじめが犯罪とはいえない場合のほうが多いのではないでしょうか。

 

例えば、特定の生徒を他の生徒が無視する行為は、いじめの代表格といえますが、これは犯罪とはいえません。しかし、無視のターゲットにされた生徒は、場合によっては暴力を受けるよりも辛い立場に置かれるかもしれません。

このような行為を止めさせるには、卑怯な行為は止めるべきだ、ということを教える必要があり、これは法律論ではなく道徳論ですので、弁護士が法律専門家としてどうこう言えるものではありません。

 

気をつけなければならないのは、今回は文科省が主体となって「スクールロイヤー」を設置し、主に教育委員会からの相談を受けるという点であり、弁護士は文科省や教育委員会を「お客様」扱いし過ぎるべきではないと思います。

というのも、ケースによっては、弁護士は行政側を批判する立場にもなるべきで、例えば、千葉県野田市の教育委員会では、虐待を受けていた女児が父親からの虐待を訴えた内容が記載された学校アンケートの回答コピーを、父親本人に渡してしまったということがありました。

司法書士は法務省(法務局)、行政書士は総務省が監督官庁になっていますが、弁護士は他の士業とは異なり、場合によっては行政を糾弾する(訴える)立場になりますので、文科省等の行政側から「スクールロイヤー」としての報酬を受け取るとしても、公共的かつ客観的な立場を忘れてはならず、ましてや事件の隠蔽やもみ消しに加担するようなことがあってはなりません。子供(生徒)の生命身体が最も優先されるべきであり、これに反するようなことを行政側が行うのであれば、明確にNOと言わなければなりません。

 

また、現在の構想では、市町村の教育委員会からの相談をスクールロイヤーが受けるというものですが、現場レベルから教育委員会まで上がってくるような問題の多くは、かなり深刻化してしまったものになるのではないでしょうか。

しかし予防法務という観点が重要で、例えば、保護者からのクレーム対応などでは、弁護士から早い段階で法的アドバイスがあると、教師としては心強いと思いますし、後々問題が深刻化しないで済む可能性もあると思います。

 

そのため、深刻な事態にならないように、早くから教師と弁護士とで現場レベルで連携できるように、教師も弁護士に相談しやすい場を作っていけるのであれば、スクールロイヤーがうまく機能するのではないでしょうか。

今回のスクールロイヤー制度が、生徒も、教師も(教育委員会も)泣き寝入りしないような制度になれば良いと思います。今後の動向に注目したいと思います。

ビットコインですが、9月に入り、一旦上昇傾向に向かい、一時、1BTC=120万円を超えるに至りましたが、現在、下落して、1BTC=106万円前後(2019/09/23※)で推移しています。

注記 この記事を書いた923日時点では、この金額だったのですが、メルマガ発行日時点(2019/10/7)では、1BTC = 83万円ほどに下落しているようです。

 

下落の一因としては、アルトコインが急騰し、アルトコイン側に資金が流れているといった報道もされています。また、直近では、米国において、ビットコイン先物取引が開始されたと報道されていますが、相場への影響は小さいようです。

 

さて、最近何かと話題の、Facebookの提唱する仮想通貨Libraですが、最近は、フランスとドイツが、概要、

 ・Libraは、リスクに適切に対処できているとはいえない

 ・欧州中央銀行が、公的なデジタル通貨に取り組むよう、働きかけるといった共同声明を出しました(https://g8fip1kplyr33r3krz5b97d1-wpengine.netdna-ssl.com/wp-content/uploads/2019/09/Joint-statement-on-Libra-final.pdf)。

 

前回のメルマガでは、中国が、デジタル通貨を発行しようとしている、といった話をしましたが、フランスやドイツも、似たような考え方を持っているようです(Libraに対抗すべく、国レベルでの仮想通貨を発行する、という方向性)。ただ、欧州中央銀行、という話となると、フランスとドイツだけの問題ではなく、EU全体の話となり、EUレベルで話し合う必要があろうかと思いますので、もしやるにしても、すぐに実現できる、ということではないように思います(また、EUは、現在、イギリスのEU離脱の問題を抱えており、なかなか、それどころではない、ということもあるかもしれません・・・)。

 

個人的には、EUが仮想通貨を発行するというのであれば、それはそれで、どうなるか、見てみたい気持ちもあります。ただ、Libraを批判している間に、前回メルマガでご紹介した中国の電子通貨が世界を席巻してしまう、ということでは、何のためにLibraを批判したのか分かりませんので、そういったことにはならないように、注意する必要があるのではないかと思います。

 

また、Libraは危険だから、ということで、自分たちで仮想通貨を作るとしても、果たして、本当に国が主導して、Libraより安全なものができるのか?といった疑問も湧いてきます。さらに、安全を意識するあまり、全く使い勝手の悪いものや、民間企業が発行している電子マネーとあまり変わらないものができた、というのであれば、本末転倒になってしまいます。このあたりは、具体的な話が出ていない以上、分からない部分ですが、個人的には懸念点です。

 

いずれにしても、今回のLibraのプロジェクトは、少なくとも、アメリカ国外にも相当のインパクトを与えている印象を受けます。Libraを起爆剤として、今後、各国の通貨の電子化がトレンドになってゆくかもしれません。例えば、「電子ユーロ」のようなものができ、電子化されたユーロをスマートフォンなどで(ビットコイン同様に)保管でき、それを、インターネット経由で、直接、第三者に送金できる、といった仕組みができるのであれば、Libraの計画は不要になるかもしれません。また、「電子ユーロ」の使い勝手が良ければ、ユーロ圏以外の国でも「電子ユーロ」が普及して、その国の通貨にとって代わり、それを黙って見ていられないアメリカとしては、「電子米ドル」のようなものを発行する、などと、かなり妄想じみた話になりますが、場合によっては、そういった激動の時代を迎えるかもしれません(もちろん、計画倒れになるかもしれませんが。)。

 

近々、G7の作業部会が、(実質的にはLibraへの規制を主眼に置いた)規制に関して最終報告を出すこととなっていますが、それと合わせて、各国の「通貨の仮想通貨化」についても、注目してゆきたいです。

↑このページのトップヘ