2011年に発覚したオリンパスの粉飾決算について、2017年4月27日になって、ようやく東京地方裁判所で株主代表訴訟の判決が出ましたね。

以下、2017年4月28日の日本経済新聞朝刊42頁の「旧経営陣に590億円賠償命令」という見出しの記事から引用。

「オリンパスの粉飾決算事件にからみ、会社に損失を与えたとして、同社と株主の男性が旧経営陣16人に損害賠償を求めた訴訟の判決が27日、東京地裁であった。大竹昭彦裁判長は、菊川剛元社長(76)ら6人の賠償責任を認め、総額約590億円をオリンパスに支払うよう命じた。株主代表訴訟の判決が命じた賠償額としては過去2番目に高額とみられる。」

このブログでも、2012年当時、オリンパスの粉飾決算の問題については何回か触れましたので(記事1記事2記事3記事4記事5記事6)、少々不謹慎な言い方かもしれませんが、「懐かしいな」というのが当初の感想です。

それにしても、オリンパスの粉飾決算事件については、2012年に第三者委員会が事実を調査して報告書を出し、また、2013年7月には、旧経営陣3名についての刑事事件が終了していますので、ある程度事実については明らかになっていたように思われ、どうして株主代表訴訟の審理に約5年間もの時間がかかったのかが良くわかりません。5年以上前ということになると、今やひと昔前ですから、判決が出ても世の中に与えるインパクトは小さくなってしまいます。こんなに時間がかかると、裁判所(司法)が事件を解決したのか、そうではなく時間が解決したのはよくわからなくなります。(私を含めてですが)法曹関係者は反省しなければならないと思います。

ちなみに、記事の中で私が興味を惹かれたのは、次の部分。

「このほか、オリンパスが受けた罰金の一部や、疑惑を指摘した英国人のマイケル・ウッドフォード元社長の解職で信用を損なった点についても3人を含む計6人の責任を認定。」

まだ判決が手元にないので断定的なことはいえませんが、これは、マイケル・ウッドフォード元社長の解職に関する取締役会の判断が善感注意義務違反だったということなのでしょうか。この点は、このブログでかなり詳しく検討したので、私としては少々嬉しいですね(まだ判決を読んでいないので的外れなことを言っているのかもしれませんが)。判決が判例誌等で公表されるようになったら、また検討してみたいと思います。

このブログでも既に取り上げましたが、最高裁は、本年1月に、専ら節税目的の養子縁組であっても直ちに縁組意思がないということはできないとの判決を出しました。

事案は、亡きAの長女X1と二女X2が、Aの長男Bの息子(Aの孫)Yに対して、AYとの養子縁組は、民法8021号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に該当することを理由に、養子縁組の無効確認を求めたものです。

一審は、縁組意思はあったと認定し、控訴審は、縁組意思はなかったと認定しています。

最高裁では、次のとおり判示して、Yを勝たせました。つまり、縁組意思はあったと認定したわけです。

「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人になるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに養子縁組について民法802条にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない

 そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」

(私の感想)

1. 本件のケースについて、最高裁は、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」と言っていますが、控訴審における本件の事実認定を見ると

(1) 
本件の養子縁組は、Aの妻が亡くなった直後に、BBの妻及びBの税理士がAの自宅を訪問して、Y(約1歳)と養子縁組することによる節税メリットについて説明し、それを受けて行われたものであること

(2) 養子
縁組以降、AYは同居しておらず、面会することもなかったこと

(3) 
Bはクリニックの院長を務める医師であり、資産も保有し、Yを養育できない環境にはないこと

などが認定されていますので、一般人の感覚からすると、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情」は「あった」ということになるのではないでしょうか。

2. 
また、最高裁は、「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」というのですが、この「併存しえる」という部分を重視すると不都合な結果が出てくるのではないかと思います。
 例えば、過去の判例で、縁組意思がないと判断されているものを挙げると、

(1) 
旧法のもとで去家を禁止されていた法定推定家督相続人である女子を他家へ嫁がせるための便法として、他の男子を一時養子とするいわゆる借養子縁組(最判昭和23.12.23民集2-14-493

(2) 
戸主や嗣子に与えられていた兵役免除を目的として二男以下の者が養子縁組をする兵役養子(大判明治39.11.27刑録12-1288)

(3) 芸子家業をさせることを目的とするいわゆる芸子養子(大判大正11.9.2民集1-448

(4) 
女子の婚姻に際し家格を引き上げるためにされる仮親縁組(大判昭和15.12.6民集19-2182

などがあるようなのですが、これらの判例の中に現れた様々な動機部分と縁組意思は「併存しえないか?」と言われると、どのような動機であれ、真に親子関係を創ろうという意思は持ち得るのですから、「併存しえる」と言えなくもないでしょう。

4. で、縁組意思の学説は、大雑把に、次のようなものがあるようですが、いずれも判例の立場を統一的に説明できないようです。

(1) 
実質的意思説
  
習俗的標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思

(2) 
形式的意思説
  
縁組の届け出をしようとする意思

(3) 法
律的定型説
  民法上の養親子関係の定型に向けられた効果意思

5. 
そこで、この判例を契機に、つらつらと考えてみましたが、判例の立場は、次のように説明できるのではないでしょうか(自分ではオリジナルな意見ではないかと思っていますが、それは浅学なだけで、既に同じようなことを言っている人がいるかもしれません。
 
すなわち、日本の場合、養子縁組は、(特別養子縁組の場合を除き)当事者の意思で自由にできます。役所に養子縁組届を提出するときも、実質的意思説がいう「真に親子として認められるような関係を創設しようとする意思」があるかどうかなんて確認されません。形式的に記載事項がきちんと書かれているかチェックされるだけです。したがって、制度的に本来の養子縁組制度の趣旨から逸脱した様々な届け出がなされることになります。それを裁判所でいちいち無効などと判断していては、社会的にかなりのコストがかかってしまいますし、大変な混乱が生じるおそれがあります。したがって、裁判所のスタンスとしては、(実質的意思説を採用しているなどと思わせつつ、実際は形式的意思説的に)縁組意思を広く有効にできるように運用しつつ、その時代、時代で、どうしても認めることができないようなもの(その時代の公序良俗に反するようなもの)だけを縁組意思を無効とするというものではないでしょうか。

6. 
で、冒頭に戻って、節税目的の縁組についてですが、先日のブログで触れたとおり、現在、節税目的の縁組はかなり広汎に行われており、ある調査によると5億円以上の相続財産があるケースの約4割で節税目的の縁組が行われていたとのこと。これを無効ななどと言うと、縁組無効確認の裁判が頻発して大混乱になる可能性があるので、最高裁としても、「併存しうる」などと変な理屈を持ち出して無効とは言えなかったのではないかと・・・・。幸いにして、この種の案件が問題となるのは相続開始後の相続人間であり、(一番事実を知っている)被相続人は亡くなっているので、死人に口なしで、多少無理があるとは認識しつつも「縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」などと言いきってしまえばいいですしね(冗談です)。

7.
ただ、さらに翻って考えてみると、実際に行われている節税目的の養子縁組のケースで、当事者間に真に親子関係を作ろうとする意思などあるケースはほとんどないと考えられ、それなのに、縁組意思があるなどと言わなければならないのはやっぱりおかしいと思います。
 そこで、このような判断をせざるを得ない現行の制度自体を変えることはできないかしら。具体的には、当事者の意思で、ほぼ無審査でできてしまうというのはおかしいので、本当に親子関係を創ろうとする意思の有無を事前に裁判所なり公証人なりにチェックさせるような制度にできませんかね?




雑誌『銀行実務』(2017年5月号)56頁以下に弁護士飛田博の『債務者の口座情報開示の新制度構想と現時点における留意点』という記事が掲載されました。

現在、法務省の法制審議会民事執行法部会で審議されている「第三者から債務者財産に関する情報を取得する制度」の背景や概要を説明するとともに、現時点で、銀行が弁護士会照会制度により債務者の口座情報開示を求められた場合の実務対応について解説したものです。私の経験もおりこみながら、読み物として面白いものを目指しました。手前味噌ですが、とてもわかりやすいですよ。

興味ある方はぜひぜひご一読ください。

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現在、国会で審議中の住宅宿泊事業法案は、
(1) 住宅宿泊事業を都道府県知事への届け出制にする
(2) 年間提供日数の上限を180日とする
(3) 地域の実情を反映して、条例により年間提供日数等をさらに少なくできる
(5) 宿泊者の衛生の確保の措置等を義務付け
(6) 家主居住型(ホームスティ型)ではなく、家主不在型(ホスト不在型)の場合には、住宅管理業者と管理委託契約を締結しなければならない
(7) 住宅宿泊管理業業を営むには国土交通大臣の登録が必要
(8) 住宅宿泊仲介事業を営もうとするには、観光庁長官の登録が必要
という骨子です。

この中で、どうも私は「年間提供日数の上限を180日にする」という規制が理解できません。

2016年9月15日15時配信の毎日新聞のニュースによると、

「厚生労働省と環境庁でつくる専門家会議は6月、行政の許認可を得なくても住宅地で民泊を導入できるように新法を制定することを提言した。ただし、営業日数については、空き家の有効活用を求める不動産業界が上限設定に反対、営業への影響を懸念するホテル・旅館業界は年30日以下を主張し、まとまらなかった。
 政府は新法で、宿泊営業の規制を大幅に緩和し、自治体にインターネットで届け出をすれば、住宅地を含むどこでも営業できるようにする。営業日数は「社会通念上、半年を超えると一般民家とみなせなくなる」として、180日を上限として設定する。今後、与党内の議論を経て、閣議決定を目指す。」

とありますので、もともとはホテル・旅館業界の利益を守るために、このような営業日数規制が検討されたことがわかりますが、一般論として、ホテル・旅館業界は社会的弱者でもなく、その既得権益を保護することが営業の自由(憲法22条1項)の規制目的として正当化されるというのはおかしいでしょう。

そのため、政府は、ホテル・旅館業界の保護、などとはいわずに、上記の記事では、「社会通念上、半年を超えると一般民家とみなせなくなる。」などと言っているのですが(注)、いえいえいえ、法案を見ればわかるとおり、住宅宿泊事業とは、(「民家」ではなくて)「住宅」に人を宿泊させる事業であって、1年365日民泊をしても、(もはや「民」家ではなくなるとはいえるかもしれませんが)「住宅」が「住宅」でなくなるということはないでしょう。

いやいやいや、そういう物理的なことを言っているのではなくて、年間180日を超えて営業している場合は、もはやホテルや旅館と同じなのだから、旅館業法上の許可を取得しないさいという趣旨なんだとと考えたとしましょう。年間180日を超えて営業するような場合には、ホテルや旅館と同等の宿泊者保護、公衆衛生確保及び治安維持(テロ対策)目的からの規制をかけなければならなないのだと考えるのです。

しかし、もし宿泊者保護、公衆衛生及び治安維持上の必要があるのであれば、営業日数に関係なく規制をかけるべきであり、なぜ年間180日以上営業すれば急に規制が必要になるか説明がつきません。(そもそも民泊新法案では、宿泊事業者に、宿泊者保護、衛生確保及び宿泊者名簿の備え付け義務を課しているので、それに加えてなぜ営業日数を規制しなければならないのかについても説明が必要ですね。)。

さらに、特区で許可を取得して民泊をする場合には、営業日数規制がかからないことにも説明に窮します。特区であっても、その他の地域であっても、宿泊者保護、公衆衛生確保、治安維持(テロ対策)の必要性は同じはずです。

というわけで、私は、年間180日という営業日数規制には、かなり問題があると考えています。規制緩和を目的とした法案なのに、既得権益を保護するような規制が入っちゃった。

もっともホテル・旅館業界としては、(自分たちと比べると)民泊業者はあまり規制がかかっていないから、営業日数規制をしてもらわないと不公平だ(公正な競争環境が確保されていない。)というような反論はあり得るかもしれません。しかし、それは、ホテル・旅館業界に対する規制が厳しすぎないか?(または無駄なものがないか?)という観点からホテル・旅館業界に対する規制緩和として検討されるべきものでしょう。

(注)「民泊サービス」の制度設計のあり方について(「民泊サービス」のあり方に関する検討会最終報告書)(平成28年6月20日)の中にも、民泊について、
・住宅を活用した宿泊サービスの提供と位置付け、住宅を1日単位で利用者に利用させるもので、「一定の要件」の範囲内で、有償かつ反復継続するものとする。(4頁)
・上記の「一定の要件」としては、既存の旅館、ホテルとは異なる「住宅」として扱い得るような合理性のあるものを設定することが必要である。(6頁)
・そのような「一定の要件」としては、年間提供日数上限などが考えられるが、「住宅」そして扱い得るようなものとすることを考慮すると、制度の活用が図られるよう実効性の確保にも考慮しつつ、年間提供日数上限による制度を設けることを基本として、半年未満(180日以下)の範囲内で適当な日数を設定する。(6頁)
と同じような説明がなされています。
しかし、なぜ営業日数について180日を上限とすると、既存の旅館、ホテルとは異なる「住宅」として合理性があるといえるのかはよくわかりませんね。


企業不動産法
小澤 英明
商事法務
2016-12-22



私の西村あさひ法律事務所時代に、大変お世話になった小澤英明先生が、今年(2017年)の1月に、商亊法務から『企業不動産法』という本を出しました。小澤先生といえば、知る人ぞ知る不動産分野の大家です。本の帯によると、「著者36年間の弁護士経験を詰め込んだ」ということですので、まさに待望の本です。

冒頭の「はじめに」によると、「本書は、企業が不動産を取得し、その使用収益を行うにあたって、また、売却するにあたって、さらには、土地を開発し建物を建築するにあたって、特に論点となりうる不動産法を解説することを目的としたものである。」とのこと。不動産に関する本というと、どうしても個人向けのものになりがちなのですが、それを企業の観点からまとめたもので、私のようなGeneral corporateをしている者にとっては嬉しい限りですね。

小澤先生の文章の特徴は、普通の法曹が書くような文章とは違って、とても論旨が明快で分かりやすいことだと思います。だいぶ前の本になってしまいましたが、西村あさひ法律事務所編の『M&A法大全』の中に、小澤先生が、M&A取引に関する不動産の論点についてまとめている章があるのですが、それが衝撃的にわかりやすくて、私にとっては本当に「目から鱗」でした。以来、私のバイブル的な本になっていますが、今回の「企業不動産法」も、そのような感動が味わえるではないかと読むのが楽しみです。きっとこのブログのネタ探しにも大いに役立つのではないかと思っています。

不動産に関する法務に興味のある方には是非ぜひ購入・一読をお勧めいたします。

前回紹介させていただいた東京地方裁判所平成29年1月26日判決(金融・商亊判例1514号43頁以下)では、取締役を解任する際の「正当な理由」(会社法339条2項)について規範定立がされています。

「会社法339条は、1項において株主総会決議による役員解任の自由を保障しつつ、当該役員の任期に対する期待を保護するため、2項において、当該解任に正当な理由がある場合を除き、当該解任がなければ当該役員が残存任期中及び任期終了時に得ていたであろう利益の喪失による損害について、会社に特別の賠償責任(法定責任)を負わせることにより、会社・株主の利益と当該役員の利益の調和を図ったものと解される。
 同項の「正当な理由」の内容も、以上のような会社・株主の利益と当該役員の利益の調和の観点から決せられるべきものであり、具体的には、会社において、当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情がああることをいうものと解するのが相当である。

この規範は、東京地裁平成8年8月1日判決(商亊1435号37頁)の「会社において取締役として職務の執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない、客観的、合理的な事情が存在する場合」という規範とほとんど同じですので、会社法339条2項の「正当な理由」が問題となる案件では普通に使われているのでしょうね。

ただ、「会社において、当該役員に役員としての職務執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的な事情」といわれても、結局、(主観的な事情が含まれないことはわかりますが)「やむを得ない事情」が何なのか?については解釈の幅がありますので、「正当な理由」の基準として明確になったとは言えません。
故平井宜雄教授流にいうと「反論可能性がないダメな規範」ということになるでしょう。

(この規範自体は、「正当な理由」に関する法定責任説を採用することを表明したあとに言及されていますので、特に基準として明確化を図ったわけではなくて、債務不履行説や不法行為説と区別する意味で、法定責任説に従えばこういう定義になるよ、ということを言っているのかもしれませんね。)

で、東京地方裁判所商亊研究会編の類型別会社訴訟Ⅰを参照すると、「正当な理由」が認められる場合として、次の類型化がされています。

(1) 法令・定款違反行為(取締役が特定の業者と癒着し、不当に自己または第三者の利益を図った等々)

(2) 心身の故障(持病の悪化により職務遂行が困難等々)

(3) 職務への著しい不適任(会社の監査役が税理士として行った会社の税務処理において、明らかな過誤を犯して会社に損失を与えた等々)

(4) 経営上の判断の失敗
これについては、取締役の経営判断ミスにより会社に損害が発生したが、経営判断の原則からすれば当該取締役に損害賠償を請求できるとまでは言えないような場合に問題となります。

この場合に会社が当該取締役に損害賠償義務を負わなければ解任できないなんてことになると多数株主による会社支配に対する過度な制約になるとして「正当な理由」にあたるという見解(肯定説)と、
逆に、経営判断として問題がなかったのに解任取締役の損害賠償を失わせるのでは経営判断に対する過度な制約だという理由から「正当な理由」にはあたらないという見解(否定説・江頭先生)
があり、判例としては、広島地裁平成6年11月29日判決が、肯定説を採用していることが紹介されていますが、類型別会社訴訟Ⅰでは、どちらの見解をとるかの態度表明はされていません。
私の感覚としては、経営判断ミスにより会社に損失が発生しているような場合、経営者としての適任性に問題がある場合が多いので、肯定説が適当であるように思います。

なお、単なる「主観的な信頼関係の喪失」(この人はあまり好きになれない、とか嫌いだ!というような問題)による解任が「正当な理由」に該当しないことは争いがないようです。

で、冒頭に戻って、東京地方裁判所平成29年1月26日判決ですが、この判決では、会社側から代表取締役解任の「正当な理由」として、

① 業務手続に関するルールの不遵守
② 親会社グループの方針の不遵守
③ 研修義務不履行者への措置・処分の未策定
④ 離職者の多さ
⑤ 規程整備への非協力
⑥ 業績目標の未達
⑦ アドバイザリー業務体制の検討における非協調姿勢
など沢山の不適任事由が主張されましたが、事実関係が否定されていたり、認められるとしても解任を正当化するほど不当だったとは言えないとの認定を受けています。

そして、私が重要だと思うのは次の部分。

「もっとも、前記(2)ア(オ)の原告の行為や前記(6)アの原告の対応が、Zグループに属する被告Y2の代表取締役(社長)の行為として問題のあるものであり、これらを総合すると、原告の代表取締役としての適性に疑念を生じさせる面があることは否定できないところである。しかしながら、他方、証拠〔中略〕及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告Y2の前代表取締役会長である丁田から、業績が低迷して営業力も低い被告Y2の収益を改善し規模を拡大することを目的として、被告Y2に招聘されたものであり(そのことは被告Y1〔注:株主の親会社〕も前提としていた。)、原告自身、そのことを十分認識して同被告の代表取締役(社長)に就任したものであること、実際、被告Y2の損益は、平成24年6月期から黒字に転じ、原告の在任中は一応黒字を維持しており、同被告の従業員数も、平成24年6月期から平成27年6月期までの間の期末の人員を比較すると、毎年約100人ないし150人ずつ増加していることが認められる。これらの事実を総合すれば、原告が代表取締役として著しく不適任であると断ずることはできず、本人解任について会社法339条2項の「正当な理由」があるとまでいうこともできない。」

この部分を読むと、要するに、会社の成績が良い(少なくとも悪くはない)ときに(代表)取締役を解任した場合、かなり重大なミスや明確な不適任行為がない限り、「正当な理由」は認められにくい、ということが言えるかもしれませんね。

金融・商亊判例1514号(2017年4月15日号)43頁以下に掲載されている東京地裁平成29年1月26日判決を読んでいて、あれっ?と思ったので、紹介させていただきます。

簡単に事案を説明すると、ある会社Yが株主総会で(代表)取締役Xを解任したところ、そのAさんからY社に対し会社法第339条2項に基づき、損害賠償請求がなされたというものです。

参考:
339条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
 2  前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

この種の紛争では、解任に「正当な理由」があるか否かが争われることが多く、この訴訟でも主に「正当な理由」の有無が争われたわけですが、私が注目したのは、「損害」に関するY社の次の主張。

「会社と取締役との間で現に締結された委任契約において、会社の解除権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているのであれば、かかる規定に従う限り、会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じず、賠償すべき「損失」を観念することもできないというべきである。本件においては、原告が被告の取締役に就任した際、本件委任契約が締結されており、同契約においては、被告は、約定の解約事由がなくても、いつでも本件委任契約を解約することができる旨定められ(10条2項)、かつ、その解除が被告の都合によるものであれば、原告は退職一時金を請求することができる旨も定められており(7条1項1号)、原告の利益の保護も十分に図られている。よって、本件解任については、会社法339条2項により賠償すべき「損害」は観念しえない。」

これに対して、この判例は、次のように述べて、上記のY社の主張を排斥しています。

「被告らは、前記第2の3(2)(被告らの主張)アのとおり、会社と取締役との間の委任契約において、会社の解散権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているのであれば、かかる規定に従う限り、会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じず、賠償すべき「損害」を観念することもできない旨主張する。しかしながら、会社と取締役間の委任契約(取締役任用契約)において、会社の無条件の解除権や解除された場合の処理が具体的に規定されたとしても、そのことをもって、当該取締役の任用に対する期待権(前記1(1)参照)が生じないなどと解することはできず、同項の「損害」を観念することができないともいえないから、被告らの上記主張は採用することもできない。」

ちょっと、えっ!と思いませんか?
任用契約中で、取締役が会社の都合で解任された場合の処理(たとえば、会社は損害賠償として〇〇円支払う)というような決め事をしていても、当該(解任)取締役は、その決められた金額の他に、会社法339条2項に基づき会社に損害賠償請求をすることができるだなんて・・・。
判旨を読むと、「(解任された場合の処理が定められた任用契約があるからといって)当該取締役の任用に対する期待権が生じないなどと解することはできず」と言っているので、残任用期間中に貰える報酬合計額よりも高い退職金等が定められていれば339条2項の適用はなくなるのかなという気がしますが、しかし、どうして私的な利益について事前に当事者で決めておくことができないのかよくわかりません。

ちなみに、小説「ハゲタカⅡ」の主人公の鷲津政彦氏が、ホライズン・パートナーズから首切りにあったときに、1億ドル(1ドル100円で計算すると100億円)の大金が支払われる任用契約が締結されていたわけですが、この判例に従えば、鷲津氏がさらに稼げるようだと、100億円を超えて、ホライズン・パートナーに損害賠償請求をすることができるという結論になりそうですね。

ただ、金融・商亊判例のこの判例の解説部分には、

「なお、損害における判示であるが、本判決は、取締役任用契約において、会社の無条件の解除権や解除された場合の処理が具体的に規定されていることをもって、当該取締役の任期に対する期待権が生じないなどと秋することはできないとするが、これが、会社と役員等の特約により会社法339条2項を排除することを禁止する趣旨を判示したとまで読めるかどうかは議論の余地があろう。」
との記載もあります。

私の意見を言わせていただくと、会社と任用契約を締結するような役員は、(カルロス・ゴーン等々の)経営のプロフェッショナルであり、会社と対等な力関係の場合が多いでしょう。したがって、「会社と役員等の特約により会社法339条2項を排除することを禁止する」必要など全くありません。我が国では「契約自由」が原則なのですから、裁判所は、会社と役員等との間の契約を尊重すべきであり、任用契約中で会社法339条2項の適用が排除されているのであれば、当然、それは認められるべきでしょう。

厚生労働省における「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」が、平成29315日、法整備に向けた論点整理の報告書を公表しました。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000155434.pdf

 

この同一労働同一賃金の法整備に関して、「立証責任」を労働者が負うのか、使用者が負うのかという点が、一論点として注目されていましたが、上記報告書においては、「主な意見」として、以下のとおり整理されています(報告書4頁・(2))。

 

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いわゆる「立証責任」については、待遇差の合理性・不合理性は、法的には「規範的要件」と呼ばれるものであり、いずれにせよ労使双方が主張立証し、裁判官が判断するものである。一方で、現在議論されているのは、「法律用語」としての「立証責任」ではなく、①不合理性を立証する現行法を維持するのか、②合理性を立証する EU 式に変更するのかの違いとして捉えられる「一般用語」としての「立証責任」が論点とされた上で、②(EU式)への変更は問題が大きいのではないかという意見があった。

また、「立証責任」より説明義務の強化こそ、労使間の情報の偏在を解消することで裁判における不合理な待遇差の是正を容易にするという意見があった。

説明義務の強化の必要性については概ね意見の一致が見られた。説明義務の具体的内容を明確化する必要性についても一致した指摘があった。そのほか、説明義務の履行に関する実務上の問題に関し、待遇差を説明する際の比較対象労働者を雇用管理区分単位とすることについて複数の意見があり、また、説明時期を雇入れ時とすること等についての意見があった。

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上記報告書でいうところの「『一般用語』としての『立証責任』」って何?(一般用語で、立証責任なんて使われていないのでは・・・)と思ったのですが、ここの表現の仕方はともかくとして、法規定の内容(仕方)の問題のことが議論されたという点は納得です。

具体的には、①不合理性を立証する現行法を維持するか、②合理性を立証するEU式へ変更するか、ということになりますが、私は、①が妥当であり、不合理であることの立証責任を労働者が負うべきであると考えます。


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2017年4月11日17時59分配信の産経ニュースより

「衆院法務委、12日の民法改正案採決で合意
衆院法務委員会は11日の理事懇談会で、12日に債権に関するルールを大幅に見直す民法改正案の採決を行うことを正式に決めた。」

今回の民法改正案が初めて国会に提出されたのが2015年3月ですので、はや2年が経過してしまいました。
この改正案自体の審議に時間がかかったというよりも、その時々で、政局的な話題が色々とあり、時間がかかってしまったということでしょうか。業界的には一時の熱が冷めている感もありますが、わたくし的には、民法の改正に大賛成ですので、今度こそ法改正を実現してほしいと思います。


家を購入する場合は、一軒家にするかマンションにするか、という論争がありますが、こと建替えの「自由度」に関しては一軒家に軍配が上がります。

 

家が老朽化して建替えをしようと思ったとき、一軒家であれば法的には所有者の意思で自由に決められます(家族や親族の様々な意見はあるでしょうが)。

マンションでも、区分所有者全員の同意があれば建替えは可能ですが、通常マンションは何十戸、今流行りのタワーマンションであれば100戸を超える戸数を有しており、区分所有者一人一人の思惑があるため、一致した意思形成を行うことは非常に困難です。

 

それではマンションの建替えをするにはどうすればいいのかというと、マンションの集会で「区分所有者及び議決権の各5分の4以上」の多数の賛成を得ることにより建替えの決議をすることができます(区分所有法62条)。マンションの議決権というのは、各区分所有者の専有部分の割合で決まり(同法38条)、専有面積が大きければそれだけ議決権を多く持っていることになります。

しかし、一般に単に集会を開催するための定足数(マンション標準管理規約に則り半数以上としていることが多いです。)を充たすことすら難しいという傾向がある中で、この「区分所有者及び議決権の5分の4以上の多数の賛成」を得ることは相当に難しいことが分かります。

当然ですが人は重大な決断をすることを嫌いますから、建替えという大きな決断をしたがらない人が多数出てしまうことは想像に難くありません。

その上、もし「建替えに一戸数千万円の負担金が必要です。」と言われてしまったら、もはや建替えの「5分の4以上の多数の賛成」を得ることはほとんど不可能になってきます。

 

もし賛成を得たければ「餌」が必要で、例えば負担金はゼロで、建替えて新築に住めますよ、という話が出れば乗ってくる人がいそうです。負担金をゼロにするためには企業の力が必要で、デベロッパーと契約(等価交換契約)をすることで、これが実現するケースもあります。この契約は、従前のマンションの権利と、再建マンションの権利との交換を行うもので、一旦土地の権利はデベロッパーに移り、マンションが再建されたときに、再び各区分所有者に割り当てられるというものです。デベロッパーは、今よりも大きいマンションを建設し、割り当てた後、残りの部屋を売却して利益を得ます。いわば余剰の容積率をお金に換えるというものです。

しかし、当然ながら余った容積率がなければならず、また容積率が余っていたとしても、デベロッパーのほうで売却が難しいと判断されてしまったら実現はできません。

ちなみに、近年マンションの建替え等の円滑化に関する法律が改正され、特定行政庁から耐震性不足の認定がされれば、容積率制限の緩和というボーナスが得られる場合があります。

 

借家人がいる場合の問題や抵当権の問題(建替えをしたら抹消される)等もありますが(これらについては上記円滑化法によって一定の手当てがなされている)、以上のように、まず「5分の4以上の多数の賛成」を得ること自体が非常に困難です。

デベロッパーがつきやすい都心の好立地のマンションを除けば、マンションの建替えをするには相当のハードルがあることが分かります。

 

それでは、立法も行政も、マンションの建替えを円滑化する方向(デベロッパーとの協同を円滑に行う方向)にいけば良いのかといったら、近い将来の空き家問題(住宅の3分の1以上が空き家になるという問題)を考えると、建替えを円滑化して単純にマンションの戸数を増やすことは必ずしも良いとは限りません。

 

この問題は、マンションを売りたい建設業界、住宅ローンで利益を得たい金融業界の思惑もあり、場合によっては政治的な部分も大きいですが、重要な社会問題であるため、今後もこの問題の動向に注目しなければなりません。

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