一昨日(2018年10月16日)、積水ハウス西五反田詐欺被害事件の地面師グループが一斉逮捕されましたが、この事件は非常に興味深いです。

1.まずは、本人確認の難しさ。

報道によれば、地面師たちは、まず今回対象になった西五反田の土地の所有者(女性)のパスポートを偽造し(もちろん写真は今回逮捕された成りすまし役の女性のものにする。)、そのパスポートをもとに、区役所でその土地所有者の印鑑登録をして、印鑑登録証明書の発行を受けたようです。また、積水ハウスのプレスリリースを読むと「〔なりすまし役の女性の〕パスポートや公正証書等による本人確認を過度に信頼し切って〔中略〕契約を進めてしまいました。」とあるので、地面師たちは、土地の権利証が手に入らなかったためだと思いますが、本人確認情報の制度(不動産登記法23条4項)により登記手続きを行うことを計画して、成りすまし役の女性が土地の所有者であることを公証人が認証する公正証書も作成したようです。その公正証書作成の際に利用されたのもおそらく偽造パスポートでしょう。したがって、本件では、偽造パスポートが成りすましの出発点なのです。で、そのパスポートは、ネットで写真が見れますが、司法書士や公証人が見ても偽造されたものと気が付かないくらいなのですから、かなり精巧に作られていたのでしょう。世間では、なぜパスポートや公正証書以外の本人確認をしなかったのだ?などと非難めいたことが言われていますが、不動産登記法では、パスポートや運転免許証などの写真付きの身分証明書の提示を受けた場合、それで本人確認をして良いということになっておりますので(不動産登記規則72条2項1号)、何か相当疑わしい事実でも出てこない限り、わざわざ物件の近所の人たちに聞き取り調査をする必要まではないことになるかと思います。実際、私もよく破産管財人として不動産の売却をしていますが、司法書士の先生から運転免許証の提示は求められますが、それ以上に、私の近所の人たちに私が本当に飛田博という人物なのか聞き取り調査をしたなどということは聞いたことがありません。まして、昨日の報道では、地面師グループは、西五反田の土地上にあった建物(旅館)の鍵を勝手に付け替えて、積水ハウスの担当者に建物の内覧をさせていたり、地面師グループ側にも本当の弁護士がついており、その弁護士も成りすましの事実を知らずに積水ハウスに対応していたりしたようなので(ちなみに、その弁護士は今回逮捕されていません。)、いくら不動産取引のプロといっても、積水ハウス側が成りすましを見破るのはかなり難しかったのではないかと思います。

追記)本日の報道では、司法書士の本人の確認の際になりすまし役の女性が、本人の生年月日や干支を間違えて答えたそうなので、司法書士の本人確認に問題があったかもしれません。

2.次に、報道によると、売買契約を締結し、手付の14億円を支払ってから、残代金49億円を支払うまでに、積水ハウスは、本当の所有者を名乗る人物から「仮登記がされて驚いている。無効なので抹消せよ。」などと警告する内容証明を4通も受け取っていたらしいのですが、なぜそのような内容証明を受け取っていながら地面師に騙されていることに気が付かなかったのでしょうか?

この点については、積水ハウスのプレスリリースでは、「これらリスク情報を取引妨害の類と判断し、十分な情報共有も行われませんでした。」ということなのですが、「取引妨害の類」と判断されるような内容・形式の文章であったのか少々興味がありますね。ネットで調べても、どのような内容証明だったのかは公表されていなかったので、何とも言えないところですが、もし普通に読めば「この取引は大丈夫か?」という内容だったのであれば、積水ハウスのガバナンスには重大な問題があったということになるかと思います。

3.さらに本件で、最終的に法務局で所有権移転登記が却下された経緯についても気になります。

報道によれば、印鑑証明書が偽造であることがわかって、申請が却下されたようなのですが、印鑑踏力証明書自体はきちんと区役所で発行されたものでしょうから、本件では、真の所有者または周りの人たちがあらかじめ法務局に事情を話して所有権移転登記を阻止しようとしていない限り、法務局が印鑑証明書の偽造を見破るのは難しかったのでは?と思います。そのように考えないと、なぜ契約締結時点に仮登記を入れられたのに(したがって、このときは法務局は印鑑登録証明書の偽造に気が付かなかった。)、本登記の際に、印鑑登録証明書の偽造に気が付いたのでしょう。

4.とまあ、この件については色々な論点・疑問点があるのですが、最後に、不動産取引特有の事情についても指摘したいと思います。

不動産取引では、対象となる土地の価格が大きいため、①買主にとっては代金を支払ったにもかかわらず所有権移転登記を移転してもらえない事態を防ぐため、また、②売主にとっては物件の登記を移転したのに代金の支払いを受けられない事態を防ぐため、ほとんどの場合、代金の支払いと登記の移転は同時履行とされます。しかし、実際には、登記手続には1週間くらいかかるため、同時履行とされるのは、代金の支払いと(登記手続の完了ではなく)登記移転に必要な書類の受け渡しなのです。

不動産取引の最終決済のイメージはこんな感じです。不動産に担保権がついていると、その担保権者にも来てもらわなければならないので複雑になりますが、最も単純な担保権がついていないパターンで説明すると、
① まず、買主は売買代金の融資を銀行から受けることが多いので、多くの場合、その銀行の会議室に、売主、買主、担当司法書士が集合する。
② 次に、売主が司法書士に登記必要書類(委任状、住民票、登記識別情報、原因証書)を交付する。
③ 司法書士が登記必要書類に不備がないことを確認し、OKを出してから、買主は、売主の口座に売買代金を振り込む。
④ 買主が着金を確認したら、取引は終了し、解散する。
⑤ その後、司法書士が法務局に行き、移転登記や銀行の担保権設定の手続きをする。

実務的には、司法書士のOKが出て買主が振込みの手続して売主の口座にお金が着金するまでに時間を要することがあり、会議室の中で、皆なにもすることがなく気まずい雰囲気になることが多いので、そこをどう乗り切るかが課題だったりするのですが、そのようなつまらないことは置いておいて、いずれにしても、我が国の不動産取引で代金の支払いと同時履行になるのは、登記手続の完了ではなく、その前段階の司法書士への登記書類の引渡しなのです。したがって、不動産取引において司法書士の先生方は非常に重要な役割を果たしているのですが、本件の場合、印鑑証明書と公証人の本人確認書面で移転登記をしようとしているので、登記必要書類には不備はなかったのでしょう。だとすれば、本件のようなケースは、通常の不動産取引のプロセスのなかでは防ぎようがなかったということになるかと思います。

このような事態を防ぐにはどうしたら良いのでしょう?

それは、簡単で、代金が売主に支払われるタイミングを登記の完了まで遅らせれば良いのです。もちろん、売主が移転登記手続の申請をしたのに、買主が何もしなくてよいというのは公平ではありませんので、例えば、買主は、中立公平な第三者に売買代金を預け、移転登記が完了した時点で、その売買代金が売主にリリースされるという仕組みを確立すればよいのです。そうです。外国でいうエスクローの仕組みを不動産取引に広く導入するということです。私は、不動産取引においける司法書士の先生方のこれまでの経験や役割からして、このエスクロー制度は司法書士会などが先鞭をきって導入するのが良いのではないかと思うのですが、いかがですかね?最近司法書士の先生の仕事が減っていると聞いていますので、業界の起爆剤になるのでは?

もっとも、最終的に移転登記も完了して、売買代金も売主にリリースされたが、後で地面師による売買であることが判明したような場合には、無権利者からの売買であり、登記には無効な売買を有効にするまでの効力はありませんので、買主は保護されないということになります。

不動産取引は難しいですね。

馬場弁護士の「高度プロフェッショナル制度のメリットは?」という記事に刺激を受けての投稿です。

私は、実はこの「高度プロフェッショナル制度」を好意的に考えています。それは、私の経験に基づきます。

私は2000年から2010年まで10年間大手法律事務所で働いていましたが、そのときの状況はまさに「高度プロフェッショナル制度」が適用されるにふさわしい状態だったと思います。自分が任された案件をどのように進めるかについてはかなり裁量が認められている反面、最終的には結果が求められますので、かなり緊張感があり、拘束時間も長かったのです。が、その反面、今とは比較にならないくらい高い給料を貰っており、仕事も日経新聞の1面を飾るような案件がゴロゴロしていたので、日本経済のために頑張るというような気概もありました。月に300時間を超えて働くことはザラにありましたが、それでも、嫌でやっていたというよりは好きでやっていたという感じであり、今思い返してみてもあまりネガティブな気持ちはないのです。まして残業代が欲しいと思ったことは1度もありません。そもそも貰っている給料が残業代を欲しがるようなレベルではなかったからです。当時は高度プロフェッショナル制度などというものはなかったので、残業代のことを言い出せば請求できたかもしれませんが、誰も残業代のことなど問題にしません。このような職場においては、基本的に労働時間のみで管理される従来の雇用制度には相当違和感があり、まさに高度プロフェッショナル制度がふさわしい制度だと思います。

馬場弁護士は、一般的に言われている高度プロフェッショナル制度のメリットとして、効率的に仕事を進めることができれば、残業しないでも仕事を終えられることを紹介しながら、高度プロフェッショナル制度の対象となる業種がいずれも長時間労働で有名なことから、実際はそうならないのではないか、と反論していました。
この点、私も、高度プロフェッショナル制度の対象となるような労働者は、実態としては、かなりの長時間労働をしているのではないかと思います。なぜなら、良い成果を出すにはある程度時間が必要ですし、何より、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人は、仕事が面白くて、良い成果を残すために、自己研鑽の時間を含め惜しみなく時間を使うタイプの人が多いと思われるからです。しかし、これは仕事に集中したいというポジティブな気持ちからであって、特にデメリットとして考える必要はないのではないかと思います。
逆に言えば、「定時に帰りたい。」「もし定時を過ぎて働くのであれば残業代が欲しい。」というマインドの人は、高度プロフェッショナル制度の対象とすることに向かない人であり、そういう人を高度プロフェッショナル制度の対象にできるような制度設計は適切ではないということになるでしょう。

馬場弁護士の記事の中に、「(高度プロフェッショナルに向いているような)方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いた方が良いのではないか」という文章がありますが、良いポイントを付いていると思います。

つまり、高度プロフェッショナル制度の対象とするにふさわしい人は、会社に頼らずフリーランスとしてもバリバリにお金を稼げる人であるが、企業側に、その人を囲い込んで他社では仕事はさせたくない等の思惑があり雇用契約で縛らざるを得ない、というイメージで考えるのがわかりやすいと思います。だからこそ、高度プロフェッショナル制度のもとでは、普通のサラリーマンより高額の年収を保証しなければならないのです。会社の社長よりも高給取りということも珍しくないでしょう。

以上のように考えると、現状の1075万円という年収要件はちっと低いのではないかという気がします。

大企業などでは、通常のサラリーマンでも1075万円くらいの年収を得ている方はそれなりにいますし、また、法律事務所のような専門職の職場では、新人弁護士で1075万円を貰っていることがあるとも聞きます。これらの方のマインドがサラリーマン的なものであれば、高度プロフェッショナル制度を適用するのは気の毒と言わざるを得ません。

したがって、私としては、高度プロフェッショナル制度の年収要件としては2000万円が良いのではないかと思っています。2000万円の年収があれば、1つの会社からしか収入を得ていないサラリーマンであっても確定申告が必要であり、税務的にももはや普通のサラリーマンではありません。残業代が欲しいという年収額でもないでしょうから、高度プロフェッショナルとして認める一つの指標になると思うのです。

皆さんはどう思われますか?

629日の参院本会議で成立した「働き方改革関連法」の柱である、「高度プロフェッショナル制度」について検討したいと思います。

 

1 高度プロフェッショナル制度とは何か?

高度プロフェッショナル制度とは、「残業代ゼロ法案」や「ホワイトカラーエグゼンプション」ともいわれていますが、高度の専門的知識等を必要とする業務に就いている一定の年収(年収1,075万円以上 ※現在)の労働者のうち、その労働者の同意があること等を前提に、労働基準法に定められている労働時間、休日及び深夜の割増賃金等の規定が適用されないという制度です。要は、就業時間に縛られない代わりに、深夜残業しようが、休日出勤しようが、残業代や深夜勤務手当、休日勤務手当は支払われないという制度です(以下の表参照)。

[表:高度プロフェッショナル制度の特徴]

高度プロフェッショナル制度の特徴

労基法上の規制

一般労働者

高度プロフェッショナル

法定労働時間

時間外割増賃金

休日・深夜割増賃金

休憩時間

                     ○…適用、☓…不適用

この制度を設けた趣旨は、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないとされている業務(アナリストやコンサルタント等)については、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応えて、労働者の意欲や能力を十分に発揮できるようにするためと説明されています
(労働政策審議会「今後の労働時間法制等の在り方について」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.htmlなど)

これはつまり、成果主義的な色彩の強い業務の場合には、成果さえ出せば早く帰れるということにすれば、勤務時間に縛られないことになり、意味もなく勤務の終了時間まで居残り続ける必要はなく、また残業代のためにダラダラ仕事を続けることがなくなるので、労使双方にとってメリットがあるという話です。
本当にこのような理想的な結果になるのか?という疑問があるので検討してみます。

 

2 対象となる業務等

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタント業務、研究開発業務等を想定しているということですが、これらの業種は総じて長時間労働が常態化している業種であるといえます。
これらの業種の労働者は、業務が早く終わったので帰りたい、というよりも業務が終わらないので帰りたくても帰れないというほうが多いのではないでしょうか。

仮に業務を終えて帰れる余裕がある方でも、帰れるのは最初だけで、管理職(使用者)に早く帰っているのを目撃されたら最後、「まだまだ余裕があるな」と思われて、更なる業務を課されるのが目に見えています。そのようにならないように(又はそのようになったとしても)、労使共に納得できるように、成果(目標)をきちんと設定することが必要不可欠になってきます。
それでも、高給取り(現在のところ年収1,075万円以上)だからいいのでは?という意見があります。

本当に高給の労働者が対象なのかを見てみますと、今回の法律では、高度プロフェッショナル制度の対象者の年収が「基準年間平均給与額(略)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省で定める額以上であること」(改正労基法第41条の22号ロ)とされています。
すなわち、高度プロフェッショナルの基準となる年収額は、少なくとも労働者全体の年間平均給与額の「三倍の額」を上回ることが「法律」で定められているので、高度プロフェッショナル制度が高給の労働者を対象としていることは疑いがないでしょう(現在のところ年収1,075万円以上)。

そのため、巷で言われているような、国(厚生労働省)が年収基準をどんどん下げてしまい、大勢の労働者が高度プロフェッショナル制度の対象者になってしまうのではないか、という指摘は当たらないと思います。なぜなら、高度プロフェッショナル制度の対象者を増加させるためには、この「三倍」ルールを撤廃(法律を改正)しなければなりませんので、国(厚生労働省)の一存では少なくとも平均の三倍未満に年収を引き下げることはできないためです。

 

3 労働者にとって得な制度なのか?

もっとも、高度プロフェッショナル制度の対象者が高給であったとしても、残業代や休日手当、深夜勤務手当等は支払われないので、毎月何十時間も所定労働時間よりも多く労働した場合には、時給換算で考えるとどんどん時給が下がっていきます。結局、時給で見てみると他の労働者の時給とさほど変わらなかった、という事態になってしまう可能性があります。

それでも、短時間で成果が出せれば良いので、実力さえあれば高度プロフェッショナル制度のほうが労働者にとって有利なのではないか?という考え方について、そもそも欧米型成果主義が日本企業にどれだけ定着できるのか(定着しているのか)という問題があります。売上以外の数値化できるものを除き、「成果」というものを定義することは難しいため適切な目標設定ができず、目標未達による労働者のストレスや、従業員間に連携が生まれにくい等の問題があります。また定時に帰る労働者を良しとしない会社においては、働き方についての考え方を変えない限り、なかなか導入は難しいと思われます。

「高度プロフェッショナル」という言葉は何となく聞こえがよいので、「君は今日から『高度プロフェッショナル』だ。」と言われて、あまりよく考えないで同意してしまうと、後で自分に合わない制度だったことに気づくことになりかねません。(又は制度をよく理解したとしてもパワーバランスから断れないこともあるでしょう。)

成果主義に合った業務内容で、労働時間に縛られないほうが成果を出せるタイプで、かつ労働時間も長時間にならずに成果を出せる実力がある労働者であれば、高度プロフェッショナルに向いていると思います。もっとも、そのような方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いたほうが良いのではないか…と思います。

高度プロフェッショナル制度が、単に使用者が残業代や深夜勤務手当等の支払いを避けるためだけに用いられることがないように、上手く成果(目標)の設定をして、労使双方にとってメリットになる運用がなされることに期待したいと思います。

フレックスタイム制とは、あらかじめ1ヶ月以内の一定の期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、清算期間を平均して1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で、始業・終業時刻を労働者の選択に委ねる制度です(労働基準法第32条の3)。

このフレックスタイム制は、労働者が各労働日の労働時間を自分で決められることから、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことをその狙いとしています。

 

1 導入の方法

フレックスタイム制を導入するには、以下の①と②を行う必要があります。

①就業規則その他これに準ずるものにおいて、始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めること

 例えば会社の就業規則において、以下のような条項を定めることが考えられます。

第●条

フレックスタイム制が適用される従業員の始業及び終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は午前6時から午前10時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は午後3時から午後7時までの間とする。

ここでいう就業規則に「準ずるもの」とは、10人未満の従業員を使用する会社においては就業規則の作成義務がないため、例えば、上記の内容を定めた書面を作成する必要があります。なお、本論と外れますが、就業規則の作成義務がない会社であっても、画一したルール作りのためや、懲戒処分の根拠規定を設けるためにも就業規則を作成して周知しておいたほうが良いでしょう。

②労使協定を過半数労働組合又は過半数労働者代表との間で締結すること

 以下の表記載の事項(※(1)~(6))について、労使協定を締結する必要があります。ただし、この労使協定は36協定等と異なって、所轄労働基準監督署長への届出義務はありません。

表:労使協定に定める必要のある事項

労使協定に定める必要のある事項

備考

1)対象となる労働者の範囲

各人ごと、課ごとなど柔軟に範囲を定めることができます。

2)清算期間

1ヶ月以内に限りますが、1ヶ月とすることが一般的です。

3)清算期間における起算日

具体的な日を定める必要があります。例えば、「毎月1日」「毎月26日」等です。

4)清算期間における総労働時間

清算期間における総労働時間は、

「清算期間の暦日数/ 7 ×1週間の法定労働時間」

の範囲内にする必要があります(下記表参照)。

5)標準となる1日の労働時間

1日の標準となる労働時間(時間数)を定める必要があります。

6)コアタイム

労働者が1日のうち必ず働かなければならない時間帯で(ex.午前10時~午後3時)、必ず定めなければならないものではありません。コアタイムを設ける場合には開始と終了の時刻を明記する必要があります。

7)フレキシブルタイム

労働者が自らの選択により労働ができる時間帯(フレキシブルタイム)に制限を設ける場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻を明記する必要があります。


表:清算期間における法定労働時間の総枠

 

週の法定労働時間数

40時間

44時間

清算期間の暦日数

31日の場合

177.1時間

194.8時間

30日の場合

171.4時間

188.5時間

29日の場合

165.7時間

182.2時間

28日の場合

160.0時間

176.0時間

(※東京労働局「フレックスタイム制の適正な導入のために」参照

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/2014318104110.pdf


2 始業又は終業時刻の一方のみを固定するフレックスタイム制の可否

例えば朝礼ないし伝達事項があるので、朝は定時出勤にし、終業時刻のみ労働者の選択に委ねるフレックスタイム制を導入したいという企業があるかもしれません。

しかし、フレックスタイム制を定めた労働基準法第32条の3が、フレックスタイム制を「始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる」ものであると定義しています。

また行政解釈では、フレックスタイム制は始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定に委ねる必要があるとして、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ、労働者の決定に委ねるものでは足りないとしています(昭63.1.1基発1、平成11.3.31基発168)。

 そのため、朝は定時出勤にし、終業時刻のみ労働者の選択に委ねるような、始業時刻のみ固定するフレックスタイム制は導入できないものと考えられます。

 しかし、私としては、フレックスタイム制の導入は労使間の合意(労使協定)を前提としており、またフレックスタイム制を導入しても実労働時間の把握義務は使用者側に依然として課されたままであるため、始業時刻のみ固定するフレックスタイム制を導入しても、労働者の権利を害するような事態は生じないものと思います。

そのため、フレックスタイム制を硬直的に定義し運用する必要はないと思いますので、始業時刻又は終業時刻の一方が固定されるようなフレックスタイム制の導入を認めても良いと考えています。

 

3 導入している企業の割合

 このフレックスタイム制ですが、どのくらいの企業が導入しているかを見てみますと、以下の表のとおり、全企業のうち変形労働時間制(1年単位の変形労働時間制、1ヶ月単位の変形労働時間制、フレックス制)を採用している企業は57.5%と多いですが、変形労働時間制のうちフレックスタイム制を導入しているのは、全体で5.4%であり、導入している企業は少ないと考えられます。
 フレックスタイム制は、ワークライフバランスの取れた働き方や残業削減といった狙いがあると思いますが、上記2のように使い勝手が良いものとはいえず、またフレックスタイム制の勤怠管理は難しいので人事部の負担や、チーム間や取引先との時間調整の難しさが導入を遠ざけているのかもしれません。

表:フレックスタイム制の導入企業の割合

企業規模

変形労働時間制の採用

フレックスタイム制導入

全体

57.5

5.4

1000人以上

74.3

23.6

300~999

67.9

14.2

100~299

63.3

6.4

30~99

54.3

3.7

※調査対象数6,367、有効回答数4,432、有効回答率69.6

(厚生労働省「平成29年就労条件総合調査 結果の概要」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/17/dl/gaiyou01.pdf

少々前のことになるが、女性国会議員の不倫疑惑が報道された。
彼女は、かつて人気女性グループで躍したが、結婚後、政治家になり、現在は国会議員をしている。
しかし、週刊誌が、彼女と市議会議員の男性との不倫疑惑を報道した。その雑誌には、新幹線の中で彼女が男性市議と手をつなぎながら寝ている写真が掲載されており、また、一緒に女性議員が東京に借りているマンションや大阪のホテルに泊まっていたことが書かれていた。しかし、彼女は、この市議と一緒にホテルにいたことは認めたが、男性が現在妻子ある身で、離婚調停中なので、きちんと身辺の整理がつくまではということで、「一線は超えていない」ことを強調した。「一線を越えていない」ということの意味は、肉体関係はないということである。

しかし、どうしてこの女性議員は「一線を越えていない」と答えたのだろう。
そこには何らかの法的な意味あいはあるのだろうか?
本当のことはわからないが、弁護士としてちょっと推測してみよう

報道によれば、市議は結婚しており、妻と子供が2人いる。しかし、市議によれば、5〜6年前から妻との婚姻関係は破たんしていて、昨年の夏からは別居を開始し、現在、離婚調停中とのことである。

日本の民法(家族法)では、夫と妻は、合意によって離婚できるが(民法763条)、合意が成立しない場合には、①相手方に不貞行為がある、②相手方から悪意によって遺棄された、③相手方の生死が3年間不明、④相手方が強度の精神病にかかり回復の見込みがない、⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由がある、場合しか、離婚をすることが認められない。
そして、最高裁の判例により、たとえ夫婦関係が破たんしていて、婚姻を継続しがたい重大な事由が認められる場合でも、破たんの原因を作った側からの離婚請求は棄却される(最高裁昭和27年2月19日判決)。つまり、たとえば、既に夫婦が長期間別居していて、婚姻関係を継続しがたい重大な事由がある場合という場合であっても、その別居が夫の不倫から開始されたのであれば、夫からの離婚請求は棄却される。これは「有責配偶者の理論」と言われている。

したがって、本件では、市議会議員としては、なんとしても不貞行為(女性議員との間の肉体関係)の存在を認めることはできないのだ。
もちろん、本件の場合、市議は昨年の夏から既に別居を開始しており、その時点で婚姻関係は破たんしていたと主張しているから、今回の不倫が婚姻関係を破たんさせた原因ではない可能性がある。しかし、報道によれば、妻は、婚姻関係はまだ破たんしていないと主張しているとのことであり、また、別居も彼が一方的に開始しただけだと主張している。したがって、婚姻関係が破たんした後に女性議員と関係をもったという彼の主張が否定される可能性はある。その場合のリスクを考えると、市議としては、少なくとも不貞の事実は認めたくないところであろう。

また、この女性議員にも、何としても肉体関係の存在を否定しなければならない理由がある。それは、この女性が、男性市議が妻帯者であることを知りながら肉体関係を持った場合、妻としての権利を侵害したものとされ、妻に対して不法行為に基づく損賠賠償金(慰謝料)を支払わなければならないというのが判例(最高裁昭和54年3月30日判決)だからだ。もちろん、関係をもった時点で既に夫婦関係が破たんしていたのであれば、女性議員が原因で妻としての権利が侵害されたわけではないので、損害賠償金を支払う必要はないのであるが(最高裁平成8年3月26日判決)、前述のとおり、破たんしていかどうかはどうもはっきりしない。したがって、女性議員としては、男性市議の離婚紛争に巻き込まれないためにも、肉体関係の存在を認めるわけにはいかないのだ。

ところで、この男性市議は、新幹線の中で女性議員と手をつないでいたり、ホテルの部屋に一緒に泊まっていたりしたのだから、一般的には「肉体関係はある」と推測するのが普通であろう。それなのに、「一線を越えてない」と言うのは、かえってこの女性議員と男性市議の誠実性を疑わせることにならないのであろうか?

この点は、日本の裁判所のことを良く知っていないと回答することは難しいだろう。というのは、私の経験からすると、日本の裁判官には、直接的な証拠がない限り、不貞の事実を認定しない傾向があるように思えるのだ。私が経験した例で最も甚だしかったのは、夫から(私のクライアントである)妻が離婚を請求された事例で、妻側が夫の携帯電話のメールを調べたところ、ある女性との間でベッド上での関係を描写した内容のメールのやり取りがあることがわかったのだ。私たちは、夫は有責配偶者であり、離婚請求をすることは許されないと主張したのだが、裁判所は、夫の言い訳を採用して、不貞関係を認めなかった。そのいい訳とは、「妻と別れたくて知り合いの女性にこのような嘘のメールを書いてもらった。妻がメールを覗き見ることはわかっていた。」などと言うのである。その女性の証言すらないのに、夫の言い訳を採用した裁判所の判断にはちょっとあきれたが、このように裁判所はなかなか不貞の事実を認めないように思うのである。

では、どうしてこのように不貞の事実の立証に辛い態度をとるのであろう?私の分析では、日本の裁判官も、この「有責配偶者の理論」が実は不合理な結果を生じさせていることが多いことに気が付いているからなのではないだろうか?一般に、有責配偶者の理論が問題となる案件では、夫婦の別居が長く続いており、婚姻関係としては完全に破たんしているケースが多い。それなのに離婚を認めないのは、いくら離婚を請求している配偶者に当初の原因があるといっても、(嫉妬と憎しみに満ち溢れた)何も生まないネガティブな関係だけが残るだけであって、社会的に見ても適当でないケースが多いのだ。

そこで、最高裁は、有責配偶者の理論に例外を認め、別居が相当期間経過し、夫婦に未成熟子がいない場合には、離婚によって相手方がきわめて過酷な状況におかれる等の著しく社会正義に反する特段の事情がない限り、有責配偶者からの請求を認めることにした(最判昭和62年9月2日判決)。
ただ、この例外が適用されるには別居が8年間以上は続いていなければならないなどといわれており、この例外をもってしても、なかなかハードルは高いなのだ。そこで、裁判官の感覚としては、そもそも有責配偶者などという変な論点が出てこないように、そもそも不貞の事実の立証を(無意識的に)厳しくしてしまっているのではなか、というのが私の分析なのだ。

ということで、冒頭の問題にもどって、なぜ女性議員は、「一線を越えていない。」ことを強調したのか?それは、一線を越えたことを認めてしまうと、恋人の市議会議員の男性が、今後の離婚調停・訴訟で不利益な立場になるからであり、自分にも火の粉が飛んでくるからであろう。では、なぜ「一線を越えていない」などというちょっと一般的には通じないような言い訳ができるのか。
それは、裁判所では、直接な証拠がない限り、なかなか不貞の事実は認められないからなのだ。

と私は思いましたが、以上は、事実関係に関しては何の根拠もない推測です。
女性議員と男性市議会議員は、彼らが言うように「講演の原稿の打ち合わせ」をしていただけなのであって、本当に一線を越えていないのかもしれません。したがって、このお話の取り扱いにはくれぐれもご注意くださいね。

2018/7/25付日経新聞に、次の記事が掲載されていました。

「日本マクドナルド バーガー肉で不当表示 消費者庁が措置命令
消費者庁は24日、日本マクドナルドに対し、2017年に限定販売した『東京ローストビーフバーガー』などに『成型肉』を使用したのに『ブロック肉』を使っているかのように不当に表示したのは景品表示法違反(優良誤認)に当たるとして、再発防止を求める措置命令を出した。

 最近のニュースなので、記憶に残っている方も多いかもしれませんね。
 要するに、マクドナルドが景品表示法に違反したという内容なのですが、景品表示法の表示規制は意外に(?)厳しく、何気なくつけた商品名や宣伝文句が規制に引っかかってしまうことがあるのです。

 そもそも、景品表示法は、消費者がより良い商品を選べる環境を守ることを目的として作られた法律で、商品の取引に関する不当表示を規制しています。
 不当表示の規制は、商品の容器・包装上の表示だけではなく、パンフレット、説明書面、ポスター、看板、インターネットをはじめとして、商品に関するあらゆる表示に及びますので、これらの記載の中で、商品の品質や取引条件について、実際のものよりも著しく優良であると示したり、事実に反して競合他社の商品より優良であると示したりすると、景品表示法違反になる可能性が高いです。

 この説明だけでは具体的なイメージが湧きづらいと思いますので、不当表示の具体例として消費者庁が挙げている例を見てみましょう。

 客観的な根拠に基づかないで、商品名に「特選()」、「極上」といった高級感を示す表示をする場合

② 飲食店で提供する料理として「自家製パン」と表示しているが、実際には、市販品のパンを提供している場合

③ (通常何らかの化学物質が使用される)寝具類等の商品において「無添加」との表示をする場合

 ④ 牛の成形肉を焼いた料理のことを「ステーキ」「やわらかステーキ」などと表示する場合

⑤ 包丁の広告において、客観的な根拠に基づかないで、研がなくても長期間切れ味が変わらない旨を表示する場合

⑥ 飲食店で提供する飲料として「フレッシュジュース」と表示しているが、実際には、既製品のジュースや紙パックのジュースをコップに注いで提供している場合

 これらが不当表示の例として挙げられていますが、どれもついついやってしまいそうではないでしょうか?
 事業者としては、広告で消費者を惹きつけようと、深く考えずに、耳障りの良い言葉(「極上」「自家製」「無添加」「ステーキ」「フレッシュ」等)を使ってしまいがちなのですが、根拠なくこういった言葉を使うと、不当表示として、措置命令(消費者庁のウェブサイトでの社名公表を伴います)や課徴金納付命令の対象になってしまうのです。

 景品表示法は、事実に基づかない表示には厳しいです。商品名を考えたり、広告を作ったりする際には、事実に基づかない表現が混ざっていないかよく見て、景品表示法に引っかからないように注意しましょう!

 個人の方の相談を受けているときに多い質問に、「金銭の支払いを求める裁判を起こそうと思っているのですが、裁判で勝ったら、裁判所が相手のお金を探して、取り立ててくれるのですか?」というものがあります。

 このような質問が出てくるのは、裁判所が相手に対して金銭の支払いを命じる判決を出すことから、当然それを実現してくれるのだろうという期待が生まれるためだと思いますが、実際のところ、残念ながら裁判所が相手の財産を探してくれることはありません。

 金銭の支払いを命じる判決が出た場合、原告は、強制執行という手続きを取り、相手の預金や給料を差押えて相手の代わりに弁済を受けたり、相手の財産を換価してその代金の一部を受け取ったりすることでお金を回収することができるようになるのですが、この強制執行の対象になる財産は、原告自身が裁判所に申告しなければなりません。
 つまり、預金を差押えたい場合には、どの銀行・支店に相手の銀行口座があるのかを、給料を差押えたい場合には、相手がどの会社に勤めているのかを、車を差押えたい場合には、相手の車がどのような車種・ナンバーでどこにあるのかといったことを、裁判所に申告する必要があります。

 裁判所はこの申告に従って差押命令を出すことになり、申告された財産が本当に存在しているのか、申告された以外の財産が存在しているのではないか、といったことの調査はしません。(申告どおりに財産が見つかった場合には、申立人はその財産からお金を回収できますし、申告された内容の財産が存在しない場合には差押えは空振りに終わり、費用だけがかかることになります。)

 ですので、訴訟を起こす前に、仮に勝訴判決が出た場合に備えて、強制執行できそうな財産があるか洗い出しておくことが重要になります。

 このとき、真っ先に見つかりやすいのが、不動産や車といった大きな(?)財産なのですが、これらを強制執行の対象とする場合には相当な費用がかかるので注意が必要です。不動産の場合は40~100万円程度、車の場合は10万円程度のお金を、強制執行の申立の段階で裁判所に預け入れるように求められることが多いです。このお金は強制執行の費用等に充てられ、費用に充てられた分は後に相手から取り立てることができるのですが、相手からの取立がうまくいかなければ申立人の負担になってしまいます。

 ですので、このような費用がかかる財産だけでなく、預金や給料といった債権がないかも確認しておいたほうが良いでしょう。(一部金融機関については、勝訴判決を得た後に、弁護士会照会によって預金の有無を確認できる場合があります。)

 訴訟を起こす人にはそれぞれ目的があり、相手に反省を促したい、訴訟を起こすことで和解に繋がる可能性がある、といった事情があることもありますので、相手の財産が見つからないからといって訴訟提起を諦めなければならないわけではありません。ですが、強制執行可能な財産がありそうかどうかということは金銭の支払いを求める訴訟を起こすべきかどうか判断する上で重要な要素になります。
 訴訟を検討する場合には、ぜひ参考にしていただければと思います。

6月29日の参院本会議で、いわゆる「働き方改革関連法」が成立しました。

残業代の上限規制や、同一労働同一賃金制度の導入、またいわゆる高度プロフェッショナル制度の導入が柱となっており、労働基準法や労働契約法等の複数の改正された法律を、一言で「働き方改革関連法」と呼んでいます。

残業代の上限規制についてですが、現行の労働基準法が規定している労働時間は、18時間、週40時間となっており、この時間を超えて労働者を働かせるためには、いわゆる36協定を労使間で締結する必要があります。

36協定を締結した場合は時間外労働が可能になりますが、今回、時間外労働について以下の上限規制が設けられました。

・月45時間、年360時間まで

・臨時的な特別な場合があっても、年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)まで

従来までは、厚生労働省が時間外労働の限度に関する基準の告示を出してはいましたが、今回その基準が法律に格上げされ、罰則による強制力を持たせることになりました。

これにより、行き過ぎた時間外労働に歯止めをかけることが期待されています。

もっとも、①1ヶ月100時間の時間外労働又は②2ヶ月~6ヶ月の間に1ヶ月80時間を超える時間外労働については、健康障害リスクが高まるという基準(いわゆる過労死ライン)があり(基発第1063号・https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11a.pdf)、今回規制された上限はこの基準に近いものになっています。

そのため、この上限規制の範囲内であっても、健康障害リスクは皆無とはいえず、果たして今回の上限規制が十分な基準と言えるかどうかは正直難しいところだと思います。

また、長時間労働の是正のために、今回新しく年次有給休暇の強制付与制度も設けられました。これは、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち5日について、毎年、使用者は時季を指定して与えなければならないとされました。 

この制度の対応策として、今まで会社が任意に定めている夏季休暇や冬季休暇を所定休日とするのではなく、これらの休暇を有給休暇として取り扱うことで、この年次有給休暇の強制付与制度をしのごうとする会社もあると予想されます。

このような有給休暇の入れ替え行為は、現時点でも会社が労働者に無断で進めてしまうこともあると思いますが、このような行為は年次有給休暇の計画的付与(労基法第39条第6項)に当たるので、労使協定が必要になりますので注意が必要です。

「働き方改革関連法」の成立の背景には、労働人口の減少、長時間労働、少子高齢化等の様々な問題があり、問題の種類によっては解決法が相矛盾するものもあるので(ex.労働人口の減少と長時間労働)、これらを一挙に解決することは簡単ではありません。

また、何をしようとしても抵抗勢力が出てきますので、抜本的な解決は難しいところです(人間自分が一番なので、内容によっては私も抵抗勢力側につくことになるかもしれません)。

今後「働き方改革関連法」の柱である同一労働同一賃金制度や高度プロフェッショナル制度についても、検討していきたいと思います。

ビットコインですが、月初に1BTC=70万円を超え、その後74万円を超えるまで上昇しましたが、その後下落し、現在(2018/07/13)、約1BTC=70万円ほどで推移しています。

さて、最近のニュースを見ると、ウェブブラウザ「Opera」が、Android版で、仮想通貨ウォレット機能を実装する計画があるようです(ベータ版で実装されたという報道がされています。)。

Operaといえば、タブ型のブラウザの先駆けとして有名ですね(昔の一般的なブラウザは、どれも、11つウインドウを開いていたので、タブ型のOperaを使った際、その便利さに衝撃を受けた記憶があります。)。

このニュース、個人的には、かなり興味を惹かれています。

というのも、仮想通貨は、例えばビットコインなどでは送金に10分以上は要するため、決済手段として本領を発揮するのは、やはり、

 ・インターネットで物を買ったり(通販)

 ・インターネットで映画などを見たり

といった、即時の決済が必要とされない領域だと思うのです。

この点、従来、(仮想通貨での支払いに対応している)インターネットサイトなどで、ビットコイン決済をしようとすると、

 ①ブラウザを開いて、インターネットで、取引を行い、 ②次に、ビットコインのウォレットアプリを開いて、ビットコインの送金操作をする

という2手間が必要になると思いますが、ブラウザにウォレットが内蔵されれば、①②をブラウザで一括して行うことができるようになるかもしれません。(Operaが、実際、そこまでの機能を実装している/するつもりがあるかは、現状の報道内容からは不明ですが)これが実現できれば、非常に便利です。

調べてみると、これまでも、PC向けブラウザの拡張機能として、同様にウォレットを実装したものがあるようですが、Operaのような著名なブラウザが、ブラウザレベルでウォレット機能を搭載するのは、初なのではないでしょうか。

このような技術が発展してゆけば、(何らかの技術的な統一規格を作る必要があるかもしれませんが)将来は、ブラウザのウォレットに、ビットコインをためておいて、通販や有料で映画などを見る際には、数クリック(ないし数回のタップ)で、ビットコイン決済まで完了する、ということも実現できるかもしれません。

ただ、こうした仮想通貨の決済手段としての機能を考えると、避けて通れない問題の1つが税金です。現在の法律及び国税庁の見解によれば、仮想通貨の値上がり益は、雑所得として扱われます。これは、ビットコインなどを決済手段として使用した場合も同様で、例えば、1BTC=60万円のときに1BTCを買って、1BTC=90万円のときに、ビットコインで代金を支払った場合、値上がり益について、所得税がかかり、雑所得扱いになります。1回の取引であれば、計算も楽かもしれませんが、細々とした取引を日々行った場合、その計算は非常に手間になります。実現の道は険しいかもしれませんが、一律同じ税率の税金を創設するなど、立法面でのフォローも必要なように思います。


 弊事務所では、破産した会社の財産管理・分配等を行う破産管財案件を扱っていますが、未払賃金の立替払制度の利用を申請する機会が多くあります。今回はこの未払賃金の立替払制度についてご紹介します。

 そもそも、未払賃金の立替払制度は、企業倒産に伴い賃金が支払われないまま退職した労働者に対し、未払賃金の一部を政府が事業主に代わって立替払する制度で、「賃金の支払の確保等に関する法律」に基づいて独立行政法人労働者健康安全機構が実施しています。
 そのため、企業が倒産してしまい従業員に給与が支払われていないという状況が起きた場合には、この制度の利用を検討することになるのですが、利用には一定の条件があり、次のような労働者や労働債権についてしか立替払が実施されません。

対象労働者の範囲(全て満たす必要があります)

①労災保険の適用事業所で1年以上事業活動を行っていた事業主に雇用されており、倒産に伴って賃金が支払われないまま退職した労働者
②裁判所への破産手続開始等の申立日等の6ヶ月前の日から2年以内に当該企業を退職した労働者
③未払になっている賃金等の額について破産管財人等の証明等を受けた労働者

→事業主の事業活動期間が1年に満たない場合や、労働者が破産等申立日の6ヶ月前よりも前に退職している場合、未払になっている賃金等の金額について破産管財人や清算人等から証明を受けられない場合などは、立替払を受けることができません。

対象労働債権の範囲

①賃金台帳や就業規則、給与明細等によって客観的に認定できる範囲の定期賃金・退職金
②上記のうち、退職日の6ヶ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来しているもの

→賃金額について会社が何も資料を残しておらず、労働者側にも資料がないという場合には立替払が難しいことがあります。また、未払期間が退職日よりもあまりに前の場合は、その期間分は立替払の対象に含まれないことになります。

 細かく言えばもっといろいろな条件があるのですが、立替払条件は概ね上記のようになっており、独立行政法人労働者健康安全機構が破産管財人等から提出された資料を精査して上記の条件を満たしていると判断した場合には、認定額の8割について立替払を実施します。
 ただし、立替払金額には年齢に応じて上限があり、30歳未満の労働者は88万円、30歳以上45歳未満の労働者は176万円、45歳以上の労働者は296万円とされています。
 そのため、賃金を支払われない状態で長期間働いていた労働者や賃金額が高い労働者については、この上限に引っかかってしまい、実際の債権額よりも相当低額の立替払しか受けられない場合があるので注意が必要です。

 また、立替払までにかかる期間ですが、立替払の実施までには、①破産管財人等が賃金に関する資料を集めて未払賃金額を算出、証明書を作成→②労働者が立替払の申請書を作成して提出→③労働者健康安全機構が審査、という過程を辿るため、破産開始決定が出てから立替払の実施までに2~4ヶ月程度がかかってしまうことが多いです。

 以上のように、立替払の対象労働者や対象労働債権の範囲に制約があるほか、立替払額の上限もありますが、本来倒産してしまった企業からは回収できない可能性が高い部分についても立替払いしてもらえるため、この制度は労働者にとって強い味方です。ぜひ覚えておいていただければと思います。

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