先月、神戸市は、山から海を見下ろす眺望を保全しようと、建築物の高さ等を規制する検討に入ったとのことです。大阪湾を見渡すことのできる眺望が損なわれないようなルールを設定し、さらに神戸港内の特色ある地形や、神戸ポートタワー、神戸海洋博物館等の見晴らしを守ろうという狙いがあるそうです。
(神戸新聞社:https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201906/0012439723.shtml

 

私の母の実家が神戸だった関係で、神戸に遊びに行くことが多かったのですが、六甲山から見下ろす神戸の街の夜景は格別で、この眺望を守りたいという気持ちはよく分かります。

 

ご存知のとおり、建物を建築しようと思っても、建築主が自由に建物の高さを決められるのではなく、どこに建てるのか、道路はどこにあるのか等の各条件によって、建てられる建物の高さの限度が変わってきます。

建物の高さの制限は、先に述べた地方自治体(神戸市)の条例による制限の他に、①絶対高さ制限、②道路斜線制限、③隣地斜線制限、④北側斜線制限、⑤日陰制限があり、この中で適用のある複数の制限のうち、最も厳しい制限が、そこで建てられる建物の高さの限度になります。

 

絶対高さ制限(①)は、第一種・第二種低層住宅専用地域に建物を建てる場合に適用があり、高さは10m又は12mまでと制限されてしまいます(建築基準法第55条第1項)。例えば大田区の田園調布は、大部分がこの第一種低層住宅専用地域になりますので、駅前にもかかわらず低層の住宅しか建てることができません。

また道路斜線制限(②)は、敷地が面している道路の幅等によって定められる制限であり、この計算が複雑で、道路の反対側に川や公園があるような場合や、2つ以上の道路に敷地が面している場合、道路の幅が12m以上ある場合等には計算値が変わります。法令を読んでも、慣れないと何が何だか分からないような書きぶりになっており、図でも書いてくれればいいのにと常々思っています。

 

ところで、私は、大学の学部は建築学科だったということもあり、今月の始めに、2級建築士試験を受けてきました。1級建築士と2級建築士の違いですが、2級建築士は建てられる建物の規模(高さや面積等)に制限があり、また、1級建築士の受験資格には建築の実務経験が必要になりますが、2級建築士の受験資格は大学で建築を学んだような場合には実務経験は課されていません。ユニクロの柳井社長のご自宅などの大豪邸でない限り、多くの戸建て住宅は2級建築士免許で建てることができます。

 

2級建築士試験の概要を簡単にご紹介しますと、試験は、学科試験と製図試験の2つのパートに分かれており、学科試験に合格した人だけが、9月に行われる製図試験を受けることができます。

学科試験は、①建築計画、②建築法規、③建築構造、④建築施工の4種類に分かれており、例えば建築計画(①)は、光や音の性質に関する知識や建築物の環境負荷、給水管径の知識、他には建築物の歴史など出題されます。今年は、修学旅行で人気の奈良の薬師寺にある東塔が、三重塔か五重塔のどちらかが分かっていないと解けない問題がありました(かなり迷いました)。

 

建築法規(②)は、司法試験とは異なり判例を覚えたり抽象的な法文を解釈したりするというわけではないのですが、時間内に条文を探さなければならないだけでなく、読みにくい条文を読み解かなければなりませんので、大丈夫だろうと高をくくってあまり勉強をしていなかったこともあり、難しく感じました。先に述べた建築物の高さ制限の法令も非常に難しかったです。

 

建築構造(③)は建築部材にかかる力の計算問題や地震力や風力に関する知識等で、元々計算は好きだったせいか楽しんで取り組むことができました。

建築施工(④)は、施工するための足場や基礎工事の知識、塗装や工法等に関する問題が出題されます。最近銀座では建設ラッシュのせいか、どこもかしこも工事中ですので、施工中の足場や機材・部材等を直接観察することができるので、試験勉強にとても役立ちました。

 

今回幸い学科は突破しましたので、9月の製図試験に向けて夜な夜な製図の勉強をしています。もっとも、今年の製図試験は木造設計だそうで、自分は鉄筋コンクリートを中心に研究していたということもあり木造の知識があやふやで、正直どうなることやらと思っています。とにかく9月の製図試験は頑張ります!

先月、メールマガジンをお送りした際には、1BTC=100万円で推移している状況でしたが、その後、一時は、1BTC=140万円を超え、その後も、1BTC=120130万円あたりで上下していましたが、現在(2019/7/22)は、下落して、1BTC=114万円ほどで推移しています。

 

さて、前回もピックアップしたFacebookが提唱する新しい仮想通貨「Libra」ですが、各国の規制当局からは、多くの懸念が示されているようです。

 

米国議会では、Libraに関する公聴会が実施され、信用できない、等々、厳しい批判の声もありました。これに対し、Facebook側は、規制上の懸念に完全に対処し、適切な承認を得るまで、FacebookLibraを提供しないと証言しています(「 And I want to be clear: Facebook will not offer the Libra digital currency until we have fully addressed regulatory concerns and received appropriate approvals. - 米国上院で証言をしたDavid Marcus氏の証言原稿。https://www.banking.senate.gov/imo/media/doc/Marcus%20Testimony%207-16-19.pdf。 Facebookは、過去に個人情報の流出事件を起こしており、議員に対し、その印象が拭えていない面もあるようです。

 

また、G77か国財務大臣・中央銀行総裁会議)では、Libraを名指しして、次のような議長総括が示されています(財務省ウェブサイト・「議長総括:7か国財務大臣・中央銀行総裁会議(仮訳)(2019717日~18日 於:フランス・シャンティイ)」。https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g7/cy2019/g7_20190718.htm)。

 

「ステーブルコイン及びその他の様々な金融商品  

 大臣・総裁は、金融セクターにおける技術革新は大きな便益をもたらしうるが、それらはまたリスクも伴うものであることを認識した。大臣・総裁は、リブラのようにグローバルで潜在的にシステミックな足跡を伴う取組を含め、ステーブルコイン及びその他の現在開発されている様々な金融商品は、深刻な規制上ないしシステミックな懸念とともに、幅広い政策上の課題を引き起こすことに合意した。これらの懸念や課題はいずれも、こうした取組が実施される前に対処される必要がある。  

 規制上の懸念に関し、大臣・総裁は、今後実現する可能性のあるステーブルコインのイニシアティブ及びその運用者が、金融システムの安定や消費者保護を脅かすことのないよう、いかなる場合においても、特にマネーロンダリング及びテロ資金供与対策をはじめとする最高水準の金融規制を満たす必要があることに合意した。規制上生じうるギャップについても、対処される必要がある。  

 システミックな懸念に関し、大臣・総裁は、リブラのような取組が通貨主権や国際通貨システムの機能にも影響しうることに合意した。 大臣・総裁はしかし、こうした取組が、国境を超える決済システムが顕著に改善され、消費者にとってより安価になる必要があることを示していることでも合意した。 」

 

要するに、金融システムの安定、消費者保護、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策などの観点から、事前規制の必要性があると考えているようです。総論的なところは、あまり害がないことを言っているようにみえます。

 

ただ、少しうがった見方をすると、少し、過剰な規制をしようとしているのではないか、といった疑いも生じます。具体的には、Libraの現在の参加メンバーには、大手の銀行は含まれておらず(https://libra.org/en-US/association/?noredirect=en-US#founding_members)、Libraとしても、銀行口座を持っていない方々をターゲットとしている(つまり、銀行を介さずに直接仮想通貨の流通ができるようにする)ことから、Libraが普及すれば、銀行は徐々に蚊帳の外に置かれることになる可能性があります。言い換えれば、Libraは、明確に、銀行の敵になりうる存在と考えられます(ビットコインも、使われ方によっては、銀行の敵となりえますが、現状では、決済手段というよりも、投資・投機の手段が主な使われ方となっており、銀行も、Libraほど、危機感をもってはいなかったのではないでしょうか。)。また、Libraは、参画メンバーが豪華であり(VISAMastercardPayPaleBayUbervodafone等々)、影響力も大きいと予想されます。そうすると、あくまで個人的な見解ですが、銀行側としては、あまり、面白い話ではない(規制したい)のではないかと考えられます。

 

特に、G7作業グループの「ステーブルコインに関するG7作業グループ議長によるアップデート」では、次のような言及がされています(財務省ウェブサイト・「ステーブルコインに関するG7作業グループ議長によるアップデート (仮訳)」。https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g7/cy2019/g7_20190719.htm)。なお、以下にいう「ステーブルコイン」の定義には、「複数の資産で構成されるバスケットに「コイン」を結び付けることで、価格変動を抑制することを企図している」ものが含まれているため、Libraが含まれます。

 

「第一に、ステーブルコインの取り組みは、最も高い水準の規制を満たし、当局の慎重な監督やオーバーサイトに服することで、社会的信認を得ることが求められる。」

 

「第二に、ステーブルコインの取り組みは、全ての関連法域において、確かな法的基盤を示し、全ての関係者および利用者に対して十分な保護と保証を確保することが求められる。少なくとも、ステーブルコインの発行者には、コイン保有者に対して履行を約束している事項の性質や、当該資産を保有することに伴うリスクを、明確に説明することが求められる。 」

 

「最も高い水準の規制」ということを言われてしまうと、かなり、構えてしまいます。特に、コイン「保有者」に対してリスク等々を説明せよ、というのは、(発行者から直接購入をする人など、一部の人に対しては可能かもしれませんが)少々無理な部分もあるのではないでしょうか。

 

この点、Libraを含めた仮想通貨は転々流通します。個人から個人への移転も可能です。そういった個人から個人への移転の際に、全てのLibra受領者に「説明」をすることは、難しい印象を受けます。日本円でも、日本銀行が、日本円を受け取った人全てに対し、「日本円とはなんぞや」という説明はしていませんし、説明することもできません。貴金属でも、株式(特に、未公開株)でも同様です。

 

なお、細かな話になりますが、Libraに限って言えば、(詳細な技術的仕様は分かりませんが)例えば、Facebook率いるLibra陣営が、Libra専用のウォレット(仮想通貨の送受信に使う、いわば、財布に相当するソフトウェア)でなければLibraを送受信できない、という仕組みを採用し、ウォレット起動時などに、「説明」文書と同意ボタンを設置することで、ある程度の「説明」対応は可能かもしれません。しかし、Libra陣営以外の第三者がウォレット開発・提供する可能性は否定できず、そういった場合に、Libra陣営のコントロール外にあるLibra保有者に対して、「説明」をすることは困難と思われます。また、例えば、相続によってLibraを取得した場合、Facebookとしては、そういった相続による包括承継は知りようがありませんので、相続人=新たな保有者に対して「説明」をすることは困難です。そもそも、規制を作るとした場合、Libraのみを対象とすることはできず、広く、ステーブルコインに対する規制を作ることになるのではないかと予想されますが、既に公開・使用されているステーブルコインは、いまさら仕様を大きく変えることも難しく、そういったコインは、後からできた「説明」などの規制に対応できない可能性も考えられます。

 

以上のように、Libraに関しては、世界的に規制の動きがあり、また、(個人的には)過剰な規制を受けそうなリスクがあるように思われます。もちろん、消費者保護やマネーロンダリング防止が重要であり、必要な範囲で一定の規制を加える必要性があることは否定しませんが、だからといって、サービスそのものを否定してしまうような過剰な規制をするのは行き過ぎです。

 

今回の機会に、(過剰ではない)適切な規制枠組みを作りがされることを期待します。

 

ちなみに、G7の作業部会は、IMF世銀年次総会(2019年は、1018日~20日予定)までに最終報告を出すことが期待されている、とのことでしたので、その頃までには、一定の規制の方向性が明らかになるのかもしれません。

 皆様、先日のNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20190602)をご覧になりましたか?ネットでもかなり話題になり、再放送もされたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
 この番組は、安楽死を希望する日本人女性が、スイスで安楽死するまでの過程に密着したもので、彼女が亡くなる瞬間も含めて放映されています。私もこの番組を見ましたが、実際に人が安楽死するまでの過程を映像で見るとかなり衝撃的で、改めて多くを考えさせられました。

 

 ところで、安楽死には、「積極的安楽死(直接的安楽死)」、「間接的安楽死」、「消極的安楽死(尊厳死)」の三種類があるとされています。
 積極的安楽死(直接的安楽死)とは、患者を苦痛から解放するために、患者の意思により生命を断つこと、間接的安楽死とは、患者の苦痛の除去・緩和が間接的に死期を若干早めること、消極的安楽死(尊厳死)とは、無益で苦痛をもたらすにすぎない延命措置を中止すること、のことを言います(山口厚「刑法総論 第3版」177ページ)。
 上の定義で言うと、NHKスペシャルの事例は、積極的安楽死(直接的安楽死)に当たりますね。

 

 法律の世界では、安楽死は、死に関する自己決定をどこまで尊重すべきかという文脈で登場することが多く、具体的には、安楽死を実行したり助けたりした医療従事者・家族等を処罰することができるかという形で問題になることが多いです。

 

 日本には、現在、安楽死に関する明確な法制はなく、関連するいくつかの判例があるにとどまっています。
 代表的なところでは、最判平成2112 7日(刑集 63111899頁)、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)、名古屋高判昭和371222日(高刑159674頁)などがありますが、例えば、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)は、安楽死が許容される要件として、①患者に耐え難い激しい肉体的苦痛が存在すること、②患者について死が避けられず、かつ死期が迫っていること、③患者の意思表示があること(間接的安楽死の場合は推定的意思で足りるが、直接的安楽死の場合は明示の意思表示に限る。)を挙げています。

 

 もっとも、上記いずれの事例についても、患者本人の意思に基づくとは認められないなどの理由で、結果的に被告人(医師)には罪が成立するとされていますので、一般論として、安楽死許容の要件は挙がっているものの、具体的にどのような状況であれば、安楽死を実行・手助けしても刑事責任が問われないのかは、はっきりとは分からないままになっています。
 この点は、今後、明確な法制やガイドラインを作るなどして、医療関係者等が混乱しないようにしていく必要があるように思います。

 

 なお、最近、時たま作成の依頼をいただくことがあるのですが、現在、公証役場で作成できる公正証書の類型に、「尊厳死宣言公正証書」というものがあります。(http://www.koshonin.gr.jp/business/b06/q0603
 これは、公正証書の嘱託人が、将来病気にかかり、回復見込みのない末期状態に至ったときは、尊厳死を望む、すなわち死期を延ばすためだけの延命措置を差し控え、中止する旨等の宣言をし、公証人がその宣言を公正証書の形にするものです。
 この公正証書があることで、患者本人が尊厳死を望んでいることが明確となるため、医療現場としても尊厳死を容認しやすくなると言われています。将来的に、尊厳死を望まれる方は、この公正証書を作成することも検討されると良いのではないかと思います。

 

 今回、番組を通じて社会で話題になったこともあり、安楽死に関しては、今後、日本でもますます議論が進んでいくと予想されます。まだご覧になっていない方には、ぜひNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」のご視聴をおすすめします。

職場でのパワーハラスメント(以下、パワハラ)を防ぐため、企業にパワハラの防止策を義務づける関連法案が、先月の参院本会議で可決され、成立しました。パワハラの規制に関する部分の法律名は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」となっています。
(日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45402610Z20C19A5EAF000/

 

今までパワハラは、特に法律上定義されていたわけではなく、厚生労働省のワーキング・グループが、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義らしきものを報告書にまとめていたので、実務ではこれをパワハラの判断基準として使っていました。

 

今回成立した改正法は、パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と従来よりもやや広げて定義付けています。
さらに、パワハラの防止策をとることを企業に義務付け、これに従わない企業には、厚生労働省が改善を求め、これにも応じない場合には企業名を公表する場合があるとのことであり、これは企業のレピュテーションに直結しますので、パワハラの抑止につながることが期待されています。

 

なお、今回争点となっていた企業への罰則は見送られることになりました。
結局のところパワハラは、業務上必要な範囲の指導との境界が曖昧であり、明確な線引きが難しいため、企業側に配慮したといわれています。
とはいえ、最近は会社の事後対応の悪さについても、独自に不法行為ないし安全配慮義務違反として損害が認定されているケースも増えてきており、少なくともパワハラが起こってしまってから(またはそのおそれがあることを認識してから)の事後対応(調査や配転等の人事措置)を怠った場合の罰則については規定しても良かったのではないかと考えています。

 

例えば、備前市社会福祉事業団事件(岡山地判平26.4.23)では、会社に代わり指揮監督を行うべき上司が、過度な叱責状況や被害職員の精神状態の悪化を認識していたにもかかわらず、結局人事異動等を行わず何の対処もしなかったことについて、会社の安全配慮義務違反が認定されています(被害職員は精神疾患を発症し、後に焼身自殺)。
この事件では約5700万円の損害賠償請求が認められており、会社の規模によっては会社が潰れかねないほどの金額です。パワハラは事後対応の悪さによっても、重大なことになるおそれがあることを啓蒙ないし警告する意味で、罰則もあり得ると思います。

 

ところで、このパワハラの損害額ですが、細かく項目に分けて整理すると以下のとおりになります。(セクハラ等の他のハラスメントにも共通)

①治療費、通院費用等の実費

②慰謝料

③休業損害(休業したために得ることができなくなった収入)

④逸失利益

⑤弁護士費用

⑥過失相殺、素因による減額

⑦損益相殺(労災保険給付金など二重取り禁止)

 

慰謝料(②)の基準は特にないですが、数万円の場合や、前記判例のように被害者が亡くなった場合には極めて高額になります。家族や遺族が多大な精神的苦痛を受けた場合には、家族や遺族にも固有の慰謝料が認められる場合があります。
逸失利益(④)については、被害者が亡くなった場合だけでなく、パワハラによって精神疾患を発症した場合や、退職を余儀なくされたような場合に、パワハラがなければ得られたはずの収入がここで計算されます。
被害者の素因による減額(⑥)は、例えば過度に落ち込みやすい性格の方だったような場合には一定の金額を相殺するという考え方で、中にはこれを認める裁判例はあります。もっとも、電通事件(最判平12.3.24)ではこれを認めず、「労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」被害者の素因を過失相殺として考慮することはできないとしており、前提として使用者は労働者各人の性格を把握した上で適切な指導を行うことが求められていますので、(余程の事情がある場合は別として)被害者の性格を積極的に過失相殺の適用場面と見ることには違和感があります。

 

パワハラは被害者だけでなく、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼすおそれがあり、企業にとっても、貴重な人材の損失につながるおそれがあります。
デスクワーク、医療現場、工事現場等と業種によって職場環境は異なるので、適切な指導かどうかの線引きは難しいところですが、少なくとも指導する前には、本人の性格や立場等を常に考える必要があるでしょう。
相手の性格や立場等を知ることは、使用者・労働者双方に言えることで、お互いにコミュニケーションを重ねていくことがハラスメントの解決の糸口になるのではないでしょうか。
難しい問題ですが今後も注視していきたいと思います。

ビットコインですが、2019616日、1BTC=100万円を突破しました。これは、昨年5月頃以来の高値となります。その後、一旦100万円を割り込んだものの、現時点(2019/6/20)では、また上昇し、約1BTC=100万円で推移しています。

 

今回の上昇理由については、様々な理由がささやかれており、例えば、

・各種取引所が、米国市民向けに、一部の種の仮想通貨の取引を中止することに伴う、ビットコインの需要増加や、

・米国におけるビットコイン先物取引に向けたテスト実施の報道

・後述のFacebookの仮想通貨に関する報道(当時は詳細の公式発表前)

・香港でのデモ(による、安全資産としてビットコインの購入増)


等々、が挙げられています。ただ、メディアによって分析は異なるようで、「これが上昇の要因だ」という統一見解は、現時点ではできていないようです。諸要因により変動した、といった表現が一番正確かもしれません(上記以外にも、従前からの継続的な事情として、米中貿易戦争なども挙げられと思われます。)。

ちなみに、過去、2017年の年末頃、ビットコイン価格が初めて1BTC=100万円を突破した際には、その後約10日で、2倍の、1BTC=200万円となりました(今振り返れば、当時は、間違いなく、猛烈なバブルでした。)。その後、ビットコイン価格は下落し、一時は1BTC=36万円前後にまで至ったこともあります。しかし、ここにきて、また、1BTC=100万円にまで戻ってきました。単なる数字の変動ですが、非常に感慨深いです。

 

さて、最近の仮想通貨関連のニュースでは、Facebookが、独自の仮想通貨の発行を発表しました。その名も"Libra"(日本語的な発音は「リブラ」ないし「リーブラ」でしょうか。)。なお、Libraに関してFacebookが設立した子会社・兼・Libraを扱うソフトウェアの名称は"Calibra"だそうです。既に、各種メディアでも大きく報道されていますので、ご存知の方も多いかと思います。

Facebookと言えば、一時は(というか昨年)、仮想通貨関連の広告を広く禁止していたこともあり、仮想通貨を嫌っていた印象があります。今では、一定程度、規制が緩和されているようですが、そのFacebookが主導して、仮想通貨を発行しようというのですから、大きな変化です。仮想通貨に対する社会の認識も変わってきた、ということかもしれません。

このLibraの詳細に関して、Facebookの公式ウェブサイトによれば、世界中の約半数の人が銀行口座を持っていない状況にあり、これに対処するのが、課題である旨の記載がされています(https://newsroom.fb.com/news/2019/06/coming-in-2020-calibra/)。また、スマートフォンでテキストメッセージを送るかのように、簡単・即時に誰にでも送金できるようになるとのことです(実際に使えるようになるのは2020年を予定、とのこと)。

さらに、Libraのホワイトペーパーなどによれば、特定の法定通貨とペッグ(相場を固定)はしないものの、裏付けとなる資産を準備することによって、価格変動を抑える仕組みとのこと(https://libra.org/en-US/white-paper/)。

技術的目線で付け加えるならば、新しいプログラミング言語(Move言語)が採用されて、送金操作などのカスタマイズや、スマートコントラクトが実現できるようになるそうです。このあたりは、イーサリアム的な要素がありますね。既に技術資料も公開されています(https://developers.libra.org/docs/assets/papers/libra-move-a-language-with-programmable-resources.pdf)。

このLibraの計画には、VisaMastercardなど多数の著名企業も参画しています。クレジットカード会社などは、資金決済の面で、仮想通貨業界とは競合しそうではありますが、敵対するのではなく、取り込んでしまおう、ということでしょうか。

正直なところ、現状の報道の内容だけでは、めちゃくちゃ新しい技術を提唱している、という印象は受けませんが、何より、主導しているのが、いわゆるGAFAGoogleAmazonFacebookApple)の一角であるFacebookであり、著名な企業も多数参画しているため、個人的には、影響力はそれなりに大きいのではないかと推測します。

この計画が成功すれば、支払手段として仮想通貨が利用される機会が飛躍的に増加するかもしれませんし(現状、残念ながら、仮想通貨は、投機・投資のための使用が中心で、電子マネー的な支払手段としての使用は、それほど多くありません。)、Facebook(ないしLibraの陣営)が、仮想通貨の業界、ひいては、各国の仮想通貨規制の場面において、大きな影響力を持つようになるかもしれません。ただ、現状、計画が全て順風満帆と言うわけではなく、現時点でも、過去のFacebookによる個人情報流出の点を指摘して、米議会から反対の声も出ているようです。

 

ちなみに、他のGAFAはどうかというと、Googleは、以前から、仮想通貨Rippleに出資しています。


また、Appleに関しては、昨年、支払手段としてRippleを採用するのではないかと報道はされていました(ただ、現状で、採用にまでは至っていないようです。)。

 

Amazonは、過去、ビットコイン決済に対応するのではないかと報道がありましたが、現時点で、Amazon自体は、直接、ビットコイン決済を受け付けていません。しかし、最近、ブラウザの拡張機能などにより、第三者の企業を間に挟む形で、Amazonでのビットコイン決済を可能にする技術が開発されたと報道されています(https://jp.cointelegraph.com/news/you-can-now-pay-by-cryptos-at-amazoncom-what-is-the-plan-in-japan)。スキームとしては、間に、Amazon以外の第三者(仲介者)が入り、ビットコインを一旦法定通貨に換金して、Amazonに支払う形のようで、Amazon自体が直接ビットコイン決済を受け付けている形ではありません。しかし、報道を見る限り、技術的には、Amazonの決済画面で、(ブラウザ拡張機能によって)Bitcoinで支払うといった画面が表示され、ボタンを押せば決済できるようであるため、一見すると、Amazonが直接Bitcoin決済を受け付けているかのように使えそうです。既に米国などでは使えるようですが、現状、日本のAmazonでは使えないようです。将来的な日本への進出が期待されます(ビットコインは、着金に10分以上は時間がかかるため、対面よりは、ネット通販など、11秒を気にしない場面での決済に親和性が高い、と個人的には思っています。)。

 

GAFAを巻き込んで、仮想通貨が今後どう発展してゆくのか、見ものです。

 

・・・ちなみに、Wikipediaによれば、Libra(リーブラ)は、もともとはラテン語で天秤を意味し、古代ローマの通貨・質量の単位だったとのこと(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%A9)。イタリアの旧通貨「リラ」や、ポンドの通貨記号の「£」(L)なども、リーブラ由来だそうです。また、本当にどうでもいい話ですが、東京弁護士会の会誌の名前も「LIBRA」です(https://www.toben.or.jp/message/libra/)。

今年の326日に、2016年に課長級の管理職として在職中に死亡した男性(当時42歳)に対する未払い残業代約520万円を求めた訴訟で、横浜地裁は、労働基準法で残業代の支給対象外となる「管理監督者」に該当しないとして、350万円余りの支払いを認める判決を下しました。(日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42964030X20C19A3CC0000/

 

労働基準法第41条には、労働者のうち、労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されないとされる労働者の種類が列挙されており、同条第2号にはいわゆる「管理監督者」について定められています。

「管理監督者」に該当する労働者に対しては、時間外や休日労働に関する賃金(以下「割増賃金」といいます。)を支払う必要はありません。

 

割増賃金の請求が問題になる事案においては、割増賃金の請求をされる側(企業側)の反論として、そもそもの労働時間の算定方法の反論の他に、管理監督者に該当することの反論(割増賃金の支払は不要である等)をすることがあります。

 

実務上は、管理監督者に該当するかどうかは、裁判例及び行政通達(昭和63.3.14基発150号)に基づき、以下の3つの要素を総合考慮して判断されています。

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮命令権限を有するなど経営者と一体的な立場にあること

②自己の出退勤を始めとする労働時間について自由裁量があること

③一般の従業員と比較して、その地位と権限にふさわしい賃金上の待遇を与えられていること

 

もし上記①と②に該当していれば、労働者とはいってもむしろ経営者側として労働者を管理する立場にあり、また労働時間にも自由裁量があるので、労働時間の規制を適用するのが適当ではないという価値判断に傾きます。

 

もっとも、要素③についてですが、そもそもこの賃金要素は労基法上に規定されているわけではないですし、仮に賃金が一般の従業員と比較して高かったとしても、労働時間の規制の適用とどう関係があるのか疑問です。経営者性の判断の補強要素になるのでしょうか?それとも賃金上の高待遇を受けているのであれば、割増賃金ぐらい我慢しましょうよということなのでしょうか?

 

先に述べた日産自動車の事件では、男性の年収は1000万円を超えており、同社同年代の従業員の平均年収(約800万円)よりも高収入であったとのことですが、裁判所は、待遇は管理監督者にふさわしいが「経営の意思形成に対する影響力は間接的に留まる」として、同社の管理監督者性の主張を退けており、上記③の要素は重視されませんでした。

 

「管理監督者」性については、伝統的な3つの要素に拘らず、もっと言えば上記①及び②の要素のみを考慮したうえで、労働時間の規制を適用するのがふさわしいかどうかを判断するのが適当なのではないかと考えます。

 

今回のような裁判例が出てきており、残業を好ましくないとする最近の流れからしても、今後は上記③の賃金要素は、「管理監督者」性の判断において、実務上は重要な要素にはならなくなってくると予想しております。

 

確かに高年収の方に割増賃金を支払うとなると、基礎賃金が高い分、割増賃金額が高額になるので会社の負担が増えることになりますが、これからは高年収の方は経営者側に昇格させて、労働時間に裁量を与えるとか、残業をさせないようにワークシェアリングの発想を取り入れるとか、(使い勝手に疑問がありますが)高度プロフェッショナル制度を採用するとか、働き方だけでなく、「働かせ方」の転換期にきているのかもしれません。

 

割増賃金の問題は金額が多額になることが多く、実務上非常に重要ですので、今後も動向を注視していきたいと思います。

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来年(2020年)4月1日から施行される改正民法の勉強をしていて、あれっ???と思ったことの第二弾です。まずは条文から。


(債務者の取立てその他の処分の権限等)
第423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者は、被代位権利について、自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては、相手方も、被代位権利について、債務者に対して履行をすることを妨げられない。



この条文の趣旨については、法務省の立法担当者による筒井・松村編著「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務)93頁から94頁にかけて次のように説明されています。長くなりますが以下引用。

「4 債務者の処分権限の制限の見直し
 旧法化の判例(大判昭和14年5月16日)は、債権者が代位行使に着手して、債務者にその事実を通知し、又は債務者がそのことを了知した場合には、債務者は被代位権利について取立てその他の処分をすることができないとしていた。また、下級審裁判例の中には、債務者による処分が制限されることを前提に、この場合には、相手方が債務者に対して債務の履行をすることもできないとするものがあった。
 しかし、債権者代位権は、債務者の責任財産を保全するため、債務者が自ら権利を行使しない場合に限って債権者に行使が認められるものであるから、債権者が代位行使に着手した後であっても債務者が自ら権利を行使するのであれば、それによって責任財産の保全という所期の目的を達成することができる。それにもかかわらず、債務者による処分を制限するのは、債務者の財産管理に対する過剰な介入である。また、債務者による取立てが制限された結果相手方が債務者に対して債務の履行をすることも禁止されると解した場合には、相手方は債権者代位権の要件が充足されているかを債務を履行する前に判断しなければならなくなるが、相手方は、その判断に必要な情報を有しているとは限らない。
 そこで、新法においては、債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者はその権利について取立てその他の処分をすることができ、相手方も債務者に対して履行をすることを妨げないとしている(新法第423条の5)。」


(私の感想)
 えっえっ!そうなの???私の実務的感覚としては、債権者代位権が行使される場面は、債務者がとてもお金に困窮しているときであり(いわゆる無資力)、方々からお金の督促をされているようなときなので、債務者のもとにお金が入ってくると、すぐに使われてしまうというものです。だから、従来の判例は、債権者が代位権行使に着手したときは、債務者に被代位権利の取立等をすることができないと解釈するとともに、債権者は相手方に対し、(債務者ではなくて)自分に支払えと請求できるようにしていたという理解なのです(注1)。つまり、債権者代位権が行使されているのに、債務者が被代位債権の取立等をすることを認めると、債務者の責任財産の保全という目的も実質的には達成されなくなるから、債務者の取り立てや、債務者への支払いを禁止していたと考えるのです。

 現実的に考えても、債権者代位権が行使された場合、債務者は相手方に「頼むから自分に払ってくれ。長い付き合いじゃないか。迷惑は絶対にかけない。」と頼むでしょう。で、その際に、新法第423条の5により確かに債務者に支払ってもOKということになると、相手方としては、(債権者代位権を行使してきた見知らぬ第三者ではなく)従来から付き合いがある債務者に心置きなく払えることになるのです。かくして、債権者代位権の実効性はおそろしく低下するでしょう。

 まぁ、そもそも債権者代位権は、債務者の無資力を立証するのが難しかったり、被代位権利を探索することが難しかったりして、実務上はあまり使われない制度なのですが、この第423条の5により、ますます使われなくなるのではないでしょうか???


(注1)この後者の点は、第423条の3で法定された。であれば、どうして前者について、反対のことを法定してしまったのか???

現在のビットコイン価格ですが、510日から11日にかけて、1BTC=70万円を突破し(昨年11月半ば以来の高値)、512日頃には1BTC=80万円(昨年8月以来の高値)に、さらに514日ころには、一時的に1BTC=90万円(昨年7月以来の高値)を超えるに至りました。現在(2019/5/17)は、1BTC=86万円程で推移しています。

 

前回のメルマガでもお伝えしましたが、今年は、あまり、ビットコイン価格の上昇の原因となる材料が少ないといわれており、前回メルマガ発行以降、58日には、海外の大手仮想通貨取引所Binanceから、ハッキングによって、7000BTCが流出したなどのネガティブなニュースもありました。それにもかかわらず、ビットコイン価格は、上記のような上昇を見せており、つくづく、ビットコイン相場には不思議なところがあります。

ちなみに、今回の価格上昇に関しては、一説には、米中貿易戦争→株価下落によって、株式市場から仮想通貨市場にマネーが流れているのではないか、といった見方も出ているようです。

  

さて、今回は、拙著「ビットコイン スタートBooK」(http://www.zaikyo.or.jp/publishing/books/008492.shtml)でも言及させていただいた、ビットコインと相続の問題について、簡単に触れてみたいと思います。

 

まず、前提として、ビットコインについておさらいをしますと、ビットコインを送金するためには、パスワード(秘密鍵)が必要です。このパスワードは、通常は、ウォレット(ビットコインの財布にあたるソフトウェア等)が内部に保管し、管理しますので、あまり意識しない方もいるかも知れません。しかし、例えば、ウォレットを入れたスマホを紛失するなどの場合、パスワードにアクセスできず、ビットコインを動かせなくなってしまいます。そのため、ウォレットのバックアップが重要と言われています。

 

このように、本人の問題であれば、ビットコインが動かせなくならないよう、本人自身が色々と対策できます。しかし、相続の場面ではどうでしょうか。

 

例えば、スマートフォンにインストールしたウォレット(※)で、ビットコインを管理している人が亡くなって、子供や配偶者が相続人になったとします。その場合、例えば、相続人がウォレットの場所を見つけられなければ、ビットコインがあると分かっていたとしても、事実上、動かすことはできなくなってしまいます(ウォレットは見つけられたものの、起動のために暗証番号があり、それが分からない、というケースも同様です。)。

 ※秘密鍵をスマートフォンのみに記録する、いわゆるモバイルウォレットを想定しています。

 

さらに、動かすことができない、だけであれば、まだいいのですが、相続に関しては、当然、税金の問題があります。この点、国税庁次長の藤井健志氏が、昨年、パスワードが分からない場合であっても、ビットコインに相続税が課税されうる旨の答弁をして、話題になりました(平成30323日・参議院の財政金融委員会)。そうすると、高額のビットコインが相続されたにもかかわらず、ウォレットを見つけられないと、

 ・ビットコインを事実上承継できないだけでなく

 ・多額の相続税が課税される

ということにもなりうるのです。場合によっては、相続放棄せざるを得ない、ということにもなりかねません。

 

税制に関しては、今後、変わるかもしれませんが、いずれにしても、自分が死んだらビットコインはどうなるのか、どうやって相続人に承継させるか、といった点は、意識して、場合によっては遺言を準備するなど、段取りを整えておく必要があるかもしれません(詳しくは、前掲拙著169頁・「コラム ビットコインと相続の問題」に記載しておりますので、もしご興味がございましたら、そちらもご参照いただければと思います。)。

 

ちなみに、ビットコインを買っている年齢層は、30代が一番多いと言われており、今、こういった記事を書いても、

 

 「相続?なにそれ?」

 

みたいな目で見られて、あまり読んでもらえないかもしれません。ただ、今から数十年後、ビットコインを買っていた世代にとって、「相続」が現実的になってきた段階で、やはり、問題になってくると思います。まだ先の話かもしれませんが、いつかは考えなければならない問題です。

まずは、次の条文を読んでほしいと思います。これは、東京弁護士会内の最大派閥・法友会の若手弁護士の会である法友全期会の債権法改正特別委員会が『改正民法 不動産売買・賃貸借契約とモデル書式』という本の中で発表した土地建物売買契約書(例)の条文です。

 

(契約不適合責任)

第11条 買主は売主に対し、本件物件に下記(1)ないし(4)の瑕疵があるなど、本件物件が本契約の内容に適合しないものであった場合、相当の期間を定めて当該瑕疵の修補等、履行の追完を催告し、その期間内に履行がないときは、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる。この場合、減額する代金額は、当事者間での協議により決定するが、協議がまとまらない場合には、契約内容不適合がなければ本件物件が有したであろう価値に対して、本件物件の実際の価値との間で成立する比率に従って代金額を減額するものとする。

(1) 雨漏り

(2) シロアリの害

(3) 建物構造上主要な部位の腐蝕

(4) 給排水管(敷地内埋設給排水管を含む。)の故障

 なお、買主は売主に対し、本件物件について、前記瑕疵を発見したとき、すみやかにその瑕疵を通知して、修復に急を要する場合を除き売主に立ち会う機会を与えなければならない。

〔以下、省略〕

 

この契約書(例)の条文について違和感を感じないでしょうか?この違和感を感じるには202041日から施行される改正民法における瑕疵担保責任のことを知っておくことが必要です。

 

これまで、不動産(土地・建物)や中古動産(自動車・機械)などの特定物の売買については、その物自体を売却するという契約なのだから、その物自体を引き渡せば売主の責任は果たしたことになるが(いわゆる特定物ドグマ)、ただ、目的物に隠れた瑕疵(=通常有すべき品質・性能を欠くことがある)ときに売主に何も責任追及できないとすると買主に酷なので、瑕疵担保責任という責任を法律が特別に認めたのだ(法定責任説)と解されていたのです。

それに対し、改正民法では、いえいえ特定物であろうが、不特定物であろうが、売買の当事者は、その合意した一定の品質・性能を有する目的物を売買の対象にすることを意図していたのであるから、その意図した目的物が引き渡されなかったのであれば、契約上の責任が発生するのだ(契約責任説)という立場に立っています。つまり、瑕疵担保責任といっても、それは債務不履行責任と同じだというのです。

そこから、

1.これまでは「隠れた」瑕疵しか責任追及できなかったが、改正民法では、隠れていたか否かにかかわらず、目的物が契約に不適合なものであれば、債務の履行が行われたとは言えないので、売主に対して責任を追及できる。

2.これまでは、瑕疵担保責任は法定責任という前提があったため、そこにおける損害賠償は信頼利益(現実に発生した損害)のみが対象になると考えられていたが、改正民法では、通常の債務不履行と異ならないから、逸失利益(得べかりし利益)も対象になる。
などの違いが導かれるのです。

 

そして、ここが重要な点なのですが、「瑕疵」という用語は、国民一般からは理解しにくい用語ですし、従来から判例上「瑕疵」は「契約の内容に適合しないこと」と解釈されていたところ(最判平成22.6.1、最判平成25.3.22)、「瑕疵」という用語では、当事者が目的物上のキズを問題にしていなくとも客観的にキズがあれば売主に責任が発生するなどいう誤解を招くおそれもあるので、積極的に使わないとの決断がなされ、民法典からは一掃されてしまったのです(「一問一答 民法(債権関係)改正」(275頁)参照)。

 

ですから、上記の条文で、「本件物件に下記(1)ないし(4)の瑕疵があるなど」とか、「当該瑕疵の修補等、履行の追完を催告し」とか「前記瑕疵を発見したとき」とか、「瑕疵」という用語を使うのは、民法改正の趣旨をよくわかっていないと言わざるを得ないと思うのです。私としては「欠陥」とか「不適合」とかもっと現代的な言い回しにした方がいいと思います。


ただ、いずれにしても、改正民法は202041日から施行されますので、クライアントの皆様にとっては、契約書式の見直しが急務になりますね。

ビットコイン スタートBook
江嵜 宗利
大蔵財務協会
2019-04-10



江嵜弁護士の『ビットコイン スタートBook』を読んでいて初めて知りましたが、ビットコインについては、既に国税庁からタックスアンサー(Q&A)国税庁見解が公表されていて、ビットコインの売買には消費税はかからないものの、個人が取引する場合は、事業所得と認識されるような場合を除き、原則として雑所得になり、けっこう高い税率で課税され、法人が取引する場合には、法人の所得として法人税が課されることになる、ということです。

で、ちょっと不合理だなと思ったのは、ビットコインで物を買った場合でも、課税が起こるという点。例えば、4月1日に1BTCを40万円で購入して、4月10日にヤマダ電機で家電製品60万円分を、その時点の1BTCのレートが60万円だったので1BTCを払って購入した場合、60万円-40万円=20万円の雑所得があるということになります。しかし、いちいち物を買うたびに、その時点のレートを記録しておき、ビットコイン購入費のレートと比較しなければならないということになると、おちおち買い物もできませんし、そもそも論として、コンビニやスーパーで頻繁に買い物をすることは著しく困難になると思うのです。これでは、せっかく我が国は先進国に先駆けて仮想通貨に関する法整備をしたのに、仮想通貨が普及することはなく、尻つぼみの結果になるなと一人憤っていました。

ところが、知り合いの税理士の先生に聞いたところ、このような取扱は、外国通貨でも同じだそうです。たとえば、4月1日に400米ドルを40万円で購入したところ、急激に円安が進行して、4月10日に家電製品60万円分を米ドルでの支払いも受け付ける家電量販店で400米ドルで購入した場合、やはり20万円の雑所得があるということになるそうです。で、この税理士の先生曰く、ドルで物を購入するといっても、円から換算してドルの金額を決めているということであれば、所得を観念せざるを得ないので、税法の発想として理論的に間違っているとはいえない、とのことです。

したがって、このような税法を変えるには、ビットコインが日本円に匹敵するほど流通し、いちいち円に換算して物を買う必要がなくなることが必要ということでしょう。いつかそうなることを夢見て。

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