最近のビットコインですが、9月から10月にかけて、1BTC=75万円前後をうろちょろしていましたが、数日前に、70万円を切り、また、上昇して、この記事を書いている現在(2018/10/18)、1BTC=72万円前後で推移しています。

さて、ビットコインに関するニュースとして、最近興味を引いたのは、3万ビットコイン(BTC)が、送金手数料(トランザクション手数料)0.00001464ビットコイン(BTC)で送金できた、というニュースです。

当時、日本では、1BTC=70万円前後で推移していましたので、日本円になおすと、約210億円が、約10円で送金できたことになります。これを、銀行を使った海外送金と比較すると、例えば、SMBCHPhttp://www.smbc.co.jp/kojin/otetsuduki/sonota/kaigai/)では、「円普通預金から出金、または円現金を店頭にお持ち込みされ、円貨建てで送金される場合」の手数料として、海外送金手数料:4,000円、関係銀行手数料:2,500円、円為替取扱手数料:送金金額の0.05%(210億円であれば1050万円)がかかるとのことですので、これを単純に計算・合計すれば10506500円の手数料がかかる計算になります(ただ、そもそも、210億円を1回で送れるか、という問題もありますが。)。こうしてみると、送金手数料10円というのは、破格の安さですね。

 

ちなみに、なぜ、そんなことが分かったのか、というと、ビットコインは、取引台帳(ブロックチェーン)が公開されているため、いくらのビットコインが動いたか、という情報は、誰にでも分かるためです(但し、台帳には個人情報は記録されていないため、誰が送金したのかは分かりません。)。

実際、ブロックチェーンの情報を表示できるWebサイトを見ると(以下のURL)、3BTCが、手数料0.00001464BTCで送金されていることが分かります(正確には、3BTCが、手数料を引いて、0.8316BTC29,999.16838536 BTCに分かれて、2箇所に送金されています。)。https://www.blockchain.com/btc/tx/bace354d53088d92740485ade3211309d80b427355b931a790575b6646970202?show_adv=true 

このトランザクション手数料ですが、実は、銀行の送金手数料のように、額が決まっているものではなく、仕組み上、送金者が自由に設定することができます(※但し、送金するソフトなどの環境によっては、自動で設定され、変更できないものもあるかもしれません。また、通常は、何も設定を加えなければ、ウォレット=送金ソフトが適切な手数料を設定しますので、ビットコインを使ったことがある方でも、あまり、なじみがない方もいらっしゃるかもしれません。)。

このトランザクション手数料は、ビットコインの台帳を更新するマイナーと呼ばれる人たちに渡る、いわばチップのようなものです。チップが多ければ、その分、早く送金され(つまり、早く、取引情報が台帳に書きこまれ)、チップが安ければ、送金に時間がかかる、というのが一般的です。マイナーとしても、チップを多く貰いたいですから、チップが多いものから優先して台帳に書きこんでゆくためです。

 

トランザクション手数料を巡っては、これまでに、ビットコインのトランザクション手数料は高い、いや、安い、などといった議論がなされてきました。

自由に決められるチップに、高いも安いもないように思いますが、特に、取引が込み合ってきた際、この程度のトランザクション手数料にしておかなければ、取引の承認が後回しになり、なかなか取引が承認されない、などという事態が生じます。その結果、昨年末などには、平均的なトランザクション手数料が高くなった時期もあったようです。しかし、今回のニュースをみると、やはり、ビットコインの送金手数料は(銀行の手数料などに比べると)遥かに安いなと感じます。

土地区画整理組合の最高意思決定機関は組合員で組織される総会ですが(土地区画整理法30条、31条参照)、その総会の招集権者については、土地区画整理法32条1項及び2項において、通常総会と臨時総会のいずれについても「理事」と定められています。
 通常は、理事長が組合を代表しますので、理事会の決議を経たうえで、理事長の名義で総会を招集することが多いでしょう。
 では、組合員が総会を招集することができないか?についてですが、これについては、土地区画整理法32条3項が「組合員が組合員の5分の1以上の同意を得て会議の目的である事項及び招集の理由を記載した書面を組合に提出して総会の招集を請求した場合においては、理事は、その請求のあった日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない。」と定めています。したがって、個々の組合員も、組合員の5分の1以上の同意を得れば、理事に臨時総会を招集するよう請求できることになります。

 実務的に、組合員が、5分の1の同意を得て、臨時総会の招集を請求することなどあるのか?と疑問に持つ方もいらっしゃると思いますが、これが結構あるのです。特に、組合の事業資金が不足して、組合員に賦課金を課そうなどと議論し出すと反対派グループが組織され、5分の1の同意を得た総会の招集請求に到るということが多いようです。

 ところで、この総会招集請求がなされたときにいつも頭を悩ませるのが、「理事は、その請求があった日から20日以内に臨時総会を招集しなければならない」という文言の解釈です。これは、単に20日以内に招集通知を発送すれば良いのか?それとも20日以内に総会を開催しなければならないのか?という問題です。仮に、20日以内に総会を開催しなければならないとすると、土地区画整理法32条8項本文は「総会を招集するには、少なくとも会議を開く日の5日前までに、会議の日時、場所及び目的である事項を組合員に通知しなければならない。」と規定していますので、組合員から請求があった日から15日後までには、理事会を開催したうえで、招集通知等の印刷、封入れを終え、組合員に発送しなければならないということになりますので、かなり忙しいのです。

 この点、会社法では、例えば株式会社の取締役会の招集において、定款又は取締役会で招集権者として定められた取締役(通常は代表取締役)以外の取締役も取締役会の招集を招集権者たる取締役に請求することができると規定し、その場合、「請求のあった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする取締役会の招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役は、取締役会を招集することができる。」(会社法336条3項)と規定しています。

 つまり、請求があった日から2週間以内の日を開催日とする取締役会の招集通知を、請求があった日から5日以内に発しなければならないことが明確になっているのです。

 しかし、土地区画整理法では、この点の記載が明確ではなく、どのように判断したらよいのか迷います。
 で、私も次の文献を調べてみたのですが、この点に関する記載がないのです。
(1)「逐条解説 土地区画整理法(第2次改訂版)」 国土交通省都市局市街地整備課監修 土地区画整理法制研究会編著

(2)「条解・判例 土地区画整理法」大場民男著

(3)「実務問答 土地区画整理」土地区画整理法制研究会編

(4)「特別法コンメンタール 土地区画整理法」松浦基之著

 ただ、(4)の松浦先生のコンメンタールには、32条7項の「第14条〔設立の認可〕第1項に規定する認可を受けた者は、その認可の公告があった日から1月以内に、最初の理事及び監事を選挙し、又は選任するための総会を招集しなければならない。」との規定の解釈について、「公告のあった日から1カ月以内に総会を開くという趣旨である。招集が1カ月以内であれば、総会の日は1月を超えてもいいというのではない。」(167頁)とあります。これと同様に考えるのであれば32条3項の「20日以内に臨時総会を招集しなければならない。」も20日以内に総会を開催しなければならないと読むのでしょう。

 で、お前はどう考えるか?ですって。

(1)   32条2項の文言からは、「20日以内に招集すれば良い」と読むのが自然なようにも感じますが、そうすると20日以内に招集通知を発送すれば、総会は1カ月後でも2カ月後でも良いなどということになりかねませんので、総会開催についての時間的縛りが曖昧になってしまいます。

(2)   仮に、20日以内に招集通知を発送すればよいと考えて、実際にそうしたが、あとで20日以内に総会も開催しなければダメ、などと裁判所で判断された場合、総会決議が無効になるリスクも存在することになります。

したがって私は、保守的に考えて、組合には「20日以内に総会を開催するのが適当」とアドバイスしています。この点については、土地区画整理法も会社法のように解釈の余地がないほど明確に定めてほしいですね。

大手予備校(福岡校)が、長年講師として働いてきた労働者(有期労働契約)を、無期転換ルールの適用直前になって雇い止めを行い、その雇い止めについて、福岡労働局が「雇い止めが無効の可能性がある」と指摘したというニュースがありました。
(毎日新聞:https://mainichi.jp/articles/20181024/k00/00m/040/210000c

「無期転換ルール」とは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルールです。このルールは労働契約法第18条で規定され、同条は平成2541日以後に締結した労働契約に適用されます。

この無期転換ルール「逃れ」のために、今後雇い止めが増えるのではないかと懸念されていましたが、やはりこのようなニュースが出てきました。

私がこのニュースを見て気になったのは、①労働者の年齢と②今までの契約更新事情という点です。

①まず労働者の年齢について、今回雇い止めされた労働者は68歳であり比較的高齢の方ですが、実は無期転換時の年齢については注意する必要があります。
というのも、仮にこの方に無期転換ルールが適用されて、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換した場合には、定年の問題が生じることになるからです。

無期転換後の労働者に適用される就業規則を準備していない場合には定年の規定が適用されませんし、仮に60歳定年の規定がある就業規則が適用されたとしても、無期転換時に60歳を超えている労働者については、60歳定年の定めは適用がないものとして扱われてしまいます。

これはどういうことかというと、無期転換時に60歳を超えている労働者については、いわば「定年なし」の状態になり、会社は、労働者自身が退職を申し出るか、心身の故障等の解雇事由が発生しない限り、その労働者を雇用し続けなければならないことになってしまうのです。

このような事態を回避するにはどうすればいいか?というと、無期転換後の労働者に適用される就業規則をきちんと準備しておく必要があります。

無期転換後の労働者に適用される就業規則に60歳定年の規定を定めておき、さらに、例えば「無期転換権を行使した有期雇用労働者で、無期雇用契約開始時に満60歳以上の者については、無期転換後2年間で定年とする。」といった内容の定年規定を置くことで、事前に対処が可能です。

今回の大手予備校はきちんと就業規則を整備していなかったと予想していますが、定年だけでなくその他の労働条件についても、会社の運用に沿った内容を定めた無期転換用の就業規則を作成しておくことが望ましいでしょう(無期転換後の就業規則の作成については当事務所で扱っておりますので遠慮なくご連絡ください。)。

②次に今までの契約更新事情についてですが、今回ニュースになった方は、29年間も講師として働いており、雇い止めの直前は1年契約を6回更新しており、また今回雇い止めされるまで特に会社から指導等はなかったという事情があります。

このような事情があったため、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるとされた結果、雇い止めの無効の指摘がなされたので、無期転換ルール適用直前の雇い止めであれば、全て無効になるという判断が今回なされたわけではありません。
すなわち、無期転換ルール適用直前の雇い止めであっても、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」がないのであれば(かつ同条1号に該当しない場合)、雇い止めは有効になりますのでこの点は留意する必要があるでしょう。

とはいえ、そもそも無期転換ルールが作られた趣旨は、労働者が雇用の安定している無期労働契約に転換できるという労働者保護の観点が大きいため、この無期転換ルールがあるために雇い止めが助長される等、契約更新の足枷となってしまっては本末転倒です。また今回労働局も「無期転換ルールを意図的に避ける目的で雇い止めをすることは、法の趣旨に照らして望ましくない」と指摘しています。

したがって、今後の無期転換ルール適用直前の雇い止めについては、従来では契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるに至らないとされる段階であったとしても、今までよりも労働者保護の判断(雇い止め無効)に行政・司法とも移行していくものと予想しています。

高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門的知識等を必要とする業務に就いている一定の年収(年収1,075万円以上 ※現在)の労働者のうち、その労働者の同意があること等を前提に、労働基準法に定められている労働時間、休日及び深夜の割増賃金等の規定が適用されないという制度で、労働基準法の改正により、平成3141日に施行予定の新しい制度です。

それでは残業代が発生しない制度は今までなかったのか?というとそういうわけではなく、現行の制度でも、みなし労働時間制度を定めた「裁量労働制」という制度があります。
裁量労働制には①「企画業務型」裁量労働制と②「専門業務型」裁量労働制という2種類のパターンがあり、「企画業務型」裁量労働制(①)は、事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務を対象業務とし、「専門業務型」裁量労働制(②)は、新聞記者、デザイナー、金融商品の開発や建築士、公認会計士、証券アナリストなどの専門的な業務が対象業務となっています。
この裁量労働制が適用されると、労働者は実際に働いた時間とは関係なく、労使であらかじめ定めた時間を働いたものとみなされます。高度プロフェッショナル制度も、労働者が実際に働いた時間を算定しない制度です。 

また、「専門業務型」裁量労働制(②)の場合は、そもそもの業務の性質上、その遂行方法を労働者の大幅な裁量に委ねる必要性がある業務に適用されるものですので、同じく業務の性質上労働時間の設定が難しい専門的業務を対象とする高度プロフェッショナル制度と、対象業務が重なる場合があります。

このように、高度プロフェッショナル制度と専門業務型裁量労働制は一見すると似ていますが、以下の点で異なっています。


1)みなし労働時間

専門業務型裁量労働制は、労使協定で決めた時間を働いたものとみなす制度ですので、労使協定で決めた時間がもともと法定労働時間を超えている場合には、その超えた時間分の時間外手当を使用者は支払わなければなりません。 
一方、高度プロフェッショナル制度は、労働時間に制限はなくあらかじめ労働時間を設定するわけではないので、みなし労働時間という概念はありません(法定労働時間が適用されないので、時間外手当という発想はありません)。


2)深夜勤務手当と休日手当

専門業務型裁量労働制においても、深夜労働(午後10時~午前5時の労働)や法定休日の休日労働については、みなし労働時間制は適用されず、使用者は実労働時間の把握を行い、深夜勤務手当と休日手当の割増賃金を支払う必要があります。また、所定休日(法定外休日)の休日労働においても、労働時間と同じ週の他の日の労働時間の合計が、法定労働時間である週40時間を超えた場合、時間外手当の支払いが必須となります。
一方、高度プロフェッショナル制度においては、たとえ深夜労働や休日労働を行ったとしても、労基法上の深夜労働や休日労働の制度の適用はないので、使用者は深夜勤務手当と休日手当の割増賃金を支払う必要はありません。


3)休憩時間

専門業務型裁量労働制においても、休憩時間制度(労基法第34条第1項)の適用がありますので、労使協定で定めた労働時間に対応する休憩時間(6時間を超え8時間以内なら45分以上、8時間を超えるなら60分以上)を労働者に与えなければなりません。
一方、高度プロフェッショナル制度においては、休憩時間の適用はありませんので、使用者がわざわざ休憩時間を与える必要はありません。


4)年収要件

高度プロフェッショナル制度には専門業務型裁量労働制とは異なって、適用するためには、業務内容の要件以外に年収要件(年収1,075万円以上)があります。

 

使用者にとっては、上記(1)~(3)を考えなくてよいため、業務要件(アナリスト業務やコンサルタント業務等)と年収要件(4)をいずれも充たすのであれば、専門業務型裁量労働制よりも、高度プロフェッショナル制度のほうが使い勝手が良いと思います。
また業務要件・年収要件を充たすような労働者にとっても、深夜労働禁止・休日労働禁止されて労働時間を制限されると、かえってやりにくい方もいると思われますのでので、そういう方は専門業務型裁量労働制よりも、高度プロフェッショナル制度のほうを選択することになるのではないでしょうか。

2018年10月12日の日本経済新聞朝刊に「兼業・副業「許可せず」75% 労研機構調べ 政府推進も進まず 」との見出しの興味深い記事がありました。
以下、記事の抜粋です。

「政府が推進する会社員の兼業、副業について、独立行政法人労働政策研究・研修機構が企業や労働者にアンケートをしたところ、企業の75.8%が「許可する予定はない」とし、労働者も56.1%が「するつもりはない」と回答したことが分かった。
政府は2017年3月にまとめた働き方改革実行計画の中で、兼業や副業を「新たな技術の開発、起業の手段、第二の人生の準備として有効」としたが、浸透していない実態が浮き彫りになった。
〔中略〕
許可しない理由を複数回答で尋ねたところ、「過重労働となり、本業に支障を来すため」が82.7%で最多。「労働時間の管理・把握が困難となる」も45.3%を占めた。」

この記事を読む限り、日本では、将来的に人口減少による様々な社会制度の崩壊が叫ばれているところですが、まだまだ人々の生活は安定していて、現業・副業を具体的に考えているわけではないということでしょうか。

ところで、この記事によれば、現業・副業を許可しない企業側の理由として「労働時間の管理・把握が困難となる」というものがありますが、これはどういうことでしょう?

実は、労働基準法第38条第1項は、

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定していて、この「事業場を異にする場合」とは、同一事業者の下で事業場を異にする場合のみならず、別使用者の下で事業場を異にする場合も含まれると解釈するのが通説・行政解釈(昭23・5・14基発769号)なのです。

つまり、Aさんが、事業者Bさんのもとで4時間働いて、事業者Cさんのもとで5時間働いたとすると、Aさんの一日の労働時間は9時間となるので、後で雇ったCさんは、1時間の残業代を支払わなければならない、という結論になるのです。

しかし、Aさんからしてみれば、Bさんのもとで働いていることを隠しておきたいというのが多いのではないかと思いますし、Cさんとしても、労働時間の計算がややっこしくなるので、Aさんの兼職のことを知ると、採用に消極的になるのでしょう。

そこで、上記の行政通達(昭23・5・14基発769号)でも、次のように質問がなされます。

「<事業場を異にする場合の意義>
問 本条において事業場を異にする場合においても」とあるが、これを事業主を異にする場合も含むと解すれば、個人の側からすれば1日8時間以上働いて収入を得んとしても不可能となるが、この際、個人の勤務の自由との矛盾を如何にするか〔中略〕。」

で、それに対する回答がこれなのです。とても冷たい。
「答 「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含む。」

したがって、行政解釈は、労働者がある職場で8時間以上働いている場合、事実上、どの労働者が兼業や副業により別に収入をえることが事実上不可能になっても良いと考えると言えるように思います。

しかし、今の安倍政権が兼業・副業を推進していることからも明らかのように、少子高齢化、人口減少が進む将来において、我が国の労働者が兼業・副業ができるようになることは不可欠であるということがいえるでしょう。
学説でも、労働法の大家である菅野和夫教授は「私としては、週40時間制移行後の解釈としては、この規定は、同一使用者の下で事業場を異にする場合のことであって、労基法は事業場ごとに同法を適用しているために通算規定を設けたのである、と解しても良かったと思っている。」(菅野『労働法第11版』464頁)と述べています。
労働者が副業・兼職をしたいと希望しているときに、法律が、労働者保護を理由に副業・兼職を事実上制限するのは適当ではありません(個人の勤務の自由に対する過度は制約)。

したがって、私としては、早く上記の行政通達(昭和23・5・14基発769号)を廃止し、労働者が兼業・副業を行うにつき法的障害がないようにしてあげなければならないと考えております。

 宅建業者であるクライアントから、「自殺が重要事実に含まれることは知っているが、では、隣の家で自殺があったことも、重要事実(宅建業法4711号ニ)として説明しなければならないのか?」との趣旨の質問を受けることがあります。

 確かに、裁判例では、いわゆる「心理的瑕疵」の有無について、「目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥があるのか否か」、という基準に判断されており(東京地裁平成7531日判決など)、典型的には、建物の売買の際に、その建物「内」で過去に自殺があったといったケースで、心理的瑕疵が認められた例が多く存在します(大阪高裁平成26918日判決など)。

 しかし、ご質問のように、その建物自体ではなく、隣の家で自殺があったような場合はどうでしょう。これについては、自殺のあった建物自体ではないため、自殺のあった不動産から離れて、どこまで「心理的瑕疵」が認められるか否かが問題となります。

 この点について、裁判例をリサーチしたところ、1件だけ、土地上にかつて存在した建物内で、過去に殺人事件があったケースで、その隣地にも心理的瑕疵ありと認定されたケースがありました(大阪高裁平成181219日判決)。

 しかし、このケースは、

 ・自殺ではなく、殺人事件のケースであったこと

 ・報道によって殺人事件として近隣住民にも広く知れわたっていること

 ・殺人事件を理由に、別の購入希望者との土地売買の話が破談になった経緯がある
  こと(つまり、一般的にも、事件を知ったら、取引を中止する程に買いたくない
  土地、と認識されている)

 ・売買取引としても、事件があった土地と隣接地を合わせた、いわばセット(一
  括)での売買取引であったこと(つまり隣地ではあるが売買の対象にはなってい
  る)

 ・土地自体も比較的狭いものであったこと

という特殊な事例であり、ご質問のケースとは事案の性質が異なるものようです。
 これ以外に、自殺等と不動産の心理的瑕疵については、例えば、末尾のような裁判例がありますが、基本的に、自殺のあった物件以外で心理的瑕疵が認められるとしても、あくまで、自殺等のあった建物の敷地程度が限界であり、自殺によって隣地まで心理的瑕疵が認められたものはないようです。

 さらに、事案は若干異なりますが(売買契約ではなく、競売での取得の事案)、競売にて取得した土地建物の隣地で、その所有者が自殺していたことが判明した事案で、買主が売買の取り消しを求めた事案において、裁判所は、「交換価値の著しい減少があったものとまで解することができない」として、売買の取り消しを否定しました(仙台高裁平成835日決定。仮に、競売ではなく、通常の契約による売買の事案であれば、心理的瑕疵の問題として議論されていた論点かと思います。)。


以上を踏まえると、隣接地で自殺があったからといって、心理的瑕疵があるとは認められない(告知は不要)と考えられます。

【自殺等と不動産の心理的瑕疵に関する裁判例】

〇肯定例

①土地上にかつて存在した建物内での火災死傷事故(東京地裁平成2238日)

 土地の心理的瑕疵と認定

  ※自殺ではなく、事故のケース

②土地上の物置での自殺(東京地裁平成7531日判決)

 土地建物の心理的瑕疵と認定

③建物からの飛び降り自殺(東京地裁平成20428日判決)

 建物・土地売買に際して、告知しなかったことに関し、不動産業者の告知義務違
  反肯定
 ※この裁判例では、「瑕疵」という用語は用いられていませんが、実質的に、心理
  的瑕疵を肯定したものと考えられます。


〇否定例

①建築中のマンションのエレベーターシャフト内での作業員の死亡事故(東京地裁平
 成23525日判決)
 →マンションの心理的瑕疵否定

②土地上にかつて存在した建物内での焼身自殺(東京地裁平成1975日判決)
 →土地の心理的瑕疵否定
 ※8年前の事件で、建物も解体され、事件としても風化している点を指摘

③土地上にかつて存在した建物内での首吊り自殺(大阪地裁平成11218日判決)
 →土地の心理的瑕疵否定

 

労働者が始業及び終業時刻を自由に選択できる「フレックスタイム制」(労基法第32条の3)ですが、フレックスタイム制を採用する企業では、顧客対応の必要性等の理由から、労働者が必ず勤務しなければならない時間帯の「コアタイム」を設けることが多いでしょう。

フレックスタイム制を導入するにあたり、コアタイムを設けることは必須ではありませんが、コアタイムを設ける場合には、労使協定においてコアタイムの開始及び終了時刻を定める必要があり(労基則第12条の3)、また就業規則にもコアタイムの開始及び終了時刻を規定する必要があります。

例えば、以下のような内容を就業規則及び労使協定に定めることが考えられます。

・フレキシブルタイム:午前6時~午前10時、午後3時~午後7

・コアタイム:午前10時~午後3

・休憩時間:正午~午後1時(1時間)

(以上につき下記図参照)

図:フレックスタイム制(コアタイムを設けた場合の例)

フレキシブルタイム

コアタイム

休憩

時間

コアタイム

フレキシブルタイム

6:00                 10:00          12:00    13:00          15:00                  19:00

さて、労働者が必ず勤務しなければならない時間帯の「コアタイム」ですが、このコアタイムに遅刻したり、早退したりする従業員がいる場合には、コアタイムを設けた意味がなくなりますので、使用者としては非常に困ったことになります。
そのため、使用者としては、コアタイムに遅刻・早退した時間分の従業員の賃金を控除する、又は就業規則の遅刻早退規定に基づいてその従業員を懲戒処分する・・・ことができるかといったらそう簡単にはいきません。

そもそもフレックスタイム制は、労働基準法第32条の3が「始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる」ものであると定義しており、行政解釈においても、フレックスタイム制は始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定に委ねる必要があるとしています(昭63.1.1基発1、平成11.3.31基発168)。
すなわち、フレックスタイム制は労働者が始業時刻も終業時刻も自由に決定できることに眼目があり、いつ出社・退社するのかは労働者の意思に委ねられているのです。
このような前提があるため、フレックスタイム制ではあくまでも清算期間の総労働時間をもって労働時間の過不足を清算しており、清算期間の総労働時間をみたしている限り、ノーワーク・ノーペイの原則は妥当せず、コアタイムに遅刻・早退した時間分の賃金控除を行うことはできないことになると考えられます。

それでは、賃金控除ができないとしても、就業規則の遅刻早退規定に基づいてその従業員を懲戒処分することはできないのか?という点ですが、就業規則に「正当な理由なく欠勤、遅刻、早退するなど勤務を怠ったとき」には懲戒処分を行うことができるという規定を設けている会社は多いと思いますが、この規定がそのままコアタイムの遅刻・早退に適用できるかといったらそれは難しいと考えられます。

というのも、懲戒処分を行うには、①懲戒事由の該当性、②懲戒の種類・程度(量刑)の相当性、③適正手続の遵守というステップを踏んでいく必要がありますが、「懲戒事由の該当性」(①)は罪刑法定主義の観点から、あらかじめ懲戒となる事由が明示的に定められている必要があり、特に実務上は労働者保護の見地から懲戒事由の文言を限定解釈する傾向にあります。
そのため、遅刻・早退の観念がそのまま妥当しないフレックスタイム制の下では、ましてやフレックスタイム制の労働者と通常の労働者とが混在している職場では特に、「正当な理由なくコアタイムに欠勤、遅刻、早退するとき」に懲戒処分を行うことができると明確に規定する必要があります。

ここで、フレックスタイム制は労働者が始業時刻も終業時刻も自由に決定できることに眼目があるのに、コアタイムの遅刻・早退を懲戒事由にして良いのか?という疑問がでてきます。つまりコアタイムの遅刻・早退を処分したら始業及び終業の時刻を労働者の自由な決定にゆだねたことにならないのでは?という疑問です。

フレックスタイム制においても、任意に出退勤可能なフレキシブルタイムに上限を設けることを認めており、また勤務時間も清算期間の範囲内にすることが前提となっていますので、完全に労働者に勤務時間の自由を与えているわけではありません。深夜労働や休日労働も通常の労働者と同じく割増されるため、深夜労働や休日労働を使用者が制限することも可能です。(厚生労働省 フレックスタイム制QAhttps://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/kijunkyoku/flextime/980908time06.htm
この点、出退勤時刻だけでなく、勤務時間までも完全に自由な「高度プロフェッショナル制度」とは異なり、フレックスタイム制は、ちょうど通常の労働者と高度プロフェッショナル制度の労働者の中間の位置付けというイメージです。

そのため、フレックスタイム制においても完全に労働者に勤務時間の自由を与えているわけではなく、企業秩序維持の観点(コアタイムに出勤しないと引継ぎができない、取引先との打ち合わせができない等)から、労働者の出退勤時刻決定の自由という利益は一歩後退し、コアタイムの遅刻・早退を懲戒事由にすることが可能であると考えられます。ただし、懲戒処分の種類・程度(量刑)については、フレックスタイム制の趣旨を加味して慎重に判断する必要があります。
その他のコアタイムの遅刻・早退への対応策は、コアタイムの出退勤を、勤怠考課や賞与の査定項目に反映させることが考えられます。


一昨日(2018年10月16日)、積水ハウス西五反田詐欺被害事件の地面師グループが一斉逮捕されましたが、この事件は非常に興味深いです。

1.まずは、本人確認の難しさ。

報道によれば、地面師たちは、まず今回対象になった西五反田の土地の所有者(女性)のパスポートを偽造し(もちろん写真は今回逮捕された成りすまし役の女性のものにする。)、そのパスポートをもとに、区役所でその土地所有者の印鑑登録をして、印鑑登録証明書の発行を受けたようです。また、積水ハウスのプレスリリースを読むと「〔なりすまし役の女性の〕パスポートや公正証書等による本人確認を過度に信頼し切って〔中略〕契約を進めてしまいました。」とあるので、地面師たちは、土地の権利証が手に入らなかったためだと思いますが、本人確認情報の制度(不動産登記法23条4項)により登記手続きを行うことを計画して、成りすまし役の女性が土地の所有者であることを公証人が認証する公正証書も作成したようです。その公正証書作成の際に利用されたのもおそらく偽造パスポートでしょう。したがって、本件では、偽造パスポートが成りすましの出発点なのです。で、そのパスポートは、ネットで写真が見れますが、司法書士や公証人が見ても偽造されたものと気が付かないくらいなのですから、かなり精巧に作られていたのでしょう。世間では、なぜパスポートや公正証書以外の本人確認をしなかったのだ?などと非難めいたことが言われていますが、不動産登記法では、パスポートや運転免許証などの写真付きの身分証明書の提示を受けた場合、それで本人確認をして良いということになっておりますので(不動産登記規則72条2項1号)、何か相当疑わしい事実でも出てこない限り、わざわざ物件の近所の人たちに聞き取り調査をする必要まではないことになるかと思います。実際、私もよく破産管財人として不動産の売却をしていますが、司法書士の先生から運転免許証の提示は求められますが、それ以上に、私の近所の人たちに私が本当に飛田博という人物なのか聞き取り調査をしたなどということは聞いたことがありません。まして、昨日の報道では、地面師グループは、西五反田の土地上にあった建物(旅館)の鍵を勝手に付け替えて、積水ハウスの担当者に建物の内覧をさせていたり、地面師グループ側にも本当の弁護士がついており、その弁護士も成りすましの事実を知らずに積水ハウスに対応していたりしたようなので(ちなみに、その弁護士は今回逮捕されていません。)、いくら不動産取引のプロといっても、積水ハウス側が成りすましを見破るのはかなり難しかったのではないかと思います。

追記)本日の報道では、司法書士の本人の確認の際になりすまし役の女性が、本人の生年月日や干支を間違えて答えたそうなので、司法書士の本人確認に問題があったかもしれません。

2.次に、報道によると、売買契約を締結し、手付の14億円を支払ってから、残代金49億円を支払うまでに、積水ハウスは、本当の所有者を名乗る人物から「仮登記がされて驚いている。無効なので抹消せよ。」などと警告する内容証明を4通も受け取っていたらしいのですが、なぜそのような内容証明を受け取っていながら地面師に騙されていることに気が付かなかったのでしょうか?

この点については、積水ハウスのプレスリリースでは、「これらリスク情報を取引妨害の類と判断し、十分な情報共有も行われませんでした。」ということなのですが、「取引妨害の類」と判断されるような内容・形式の文章であったのか少々興味がありますね。ネットで調べても、どのような内容証明だったのかは公表されていなかったので、何とも言えないところですが、もし普通に読めば「この取引は大丈夫か?」という内容だったのであれば、積水ハウスのガバナンスには重大な問題があったということになるかと思います。

3.さらに本件で、最終的に法務局で所有権移転登記が却下された経緯についても気になります。

報道によれば、印鑑証明書が偽造であることがわかって、申請が却下されたようなのですが、印鑑踏力証明書自体はきちんと区役所で発行されたものでしょうから、本件では、真の所有者または周りの人たちがあらかじめ法務局に事情を話して所有権移転登記を阻止しようとしていない限り、法務局が印鑑証明書の偽造を見破るのは難しかったのでは?と思います。そのように考えないと、なぜ契約締結時点に仮登記を入れられたのに(したがって、このときは法務局は印鑑登録証明書の偽造に気が付かなかった。)、本登記の際に、印鑑登録証明書の偽造に気が付いたのでしょう。

4.とまあ、この件については色々な論点・疑問点があるのですが、最後に、不動産取引特有の事情についても指摘したいと思います。

不動産取引では、対象となる土地の価格が大きいため、①買主にとっては代金を支払ったにもかかわらず所有権移転登記を移転してもらえない事態を防ぐため、また、②売主にとっては物件の登記を移転したのに代金の支払いを受けられない事態を防ぐため、ほとんどの場合、代金の支払いと登記の移転は同時履行とされます。しかし、実際には、登記手続には1週間くらいかかるため、同時履行とされるのは、代金の支払いと(登記手続の完了ではなく)登記移転に必要な書類の受け渡しなのです。

不動産取引の最終決済のイメージはこんな感じです。不動産に担保権がついていると、その担保権者にも来てもらわなければならないので複雑になりますが、最も単純な担保権がついていないパターンで説明すると、
① まず、買主は売買代金の融資を銀行から受けることが多いので、多くの場合、その銀行の会議室に、売主、買主、担当司法書士が集合する。
② 次に、売主が司法書士に登記必要書類(委任状、住民票、登記識別情報、原因証書)を交付する。
③ 司法書士が登記必要書類に不備がないことを確認し、OKを出してから、買主は、売主の口座に売買代金を振り込む。
④ 買主が着金を確認したら、取引は終了し、解散する。
⑤ その後、司法書士が法務局に行き、移転登記や銀行の担保権設定の手続きをする。

実務的には、司法書士のOKが出て買主が振込みの手続して売主の口座にお金が着金するまでに時間を要することがあり、会議室の中で、皆なにもすることがなく気まずい雰囲気になることが多いので、そこをどう乗り切るかが課題だったりするのですが、そのようなつまらないことは置いておいて、いずれにしても、我が国の不動産取引で代金の支払いと同時履行になるのは、登記手続の完了ではなく、その前段階の司法書士への登記書類の引渡しなのです。したがって、不動産取引において司法書士の先生方は非常に重要な役割を果たしているのですが、本件の場合、印鑑証明書と公証人の本人確認書面で移転登記をしようとしているので、登記必要書類には不備はなかったのでしょう。だとすれば、本件のようなケースは、通常の不動産取引のプロセスのなかでは防ぎようがなかったということになるかと思います。

このような事態を防ぐにはどうしたら良いのでしょう?

それは、簡単で、代金が売主に支払われるタイミングを登記の完了まで遅らせれば良いのです。もちろん、売主が移転登記手続の申請をしたのに、買主が何もしなくてよいというのは公平ではありませんので、例えば、買主は、中立公平な第三者に売買代金を預け、移転登記が完了した時点で、その売買代金が売主にリリースされるという仕組みを確立すればよいのです。そうです。外国でいうエスクローの仕組みを不動産取引に広く導入するということです。私は、不動産取引においける司法書士の先生方のこれまでの経験や役割からして、このエスクロー制度は司法書士会などが先鞭をきって導入するのが良いのではないかと思うのですが、いかがですかね?最近司法書士の先生の仕事が減っていると聞いていますので、業界の起爆剤になるのでは?

もっとも、最終的に移転登記も完了して、売買代金も売主にリリースされたが、後で地面師による売買であることが判明したような場合には、無権利者からの売買であり、登記には無効な売買を有効にするまでの効力はありませんので、買主は保護されないということになります。

不動産取引は難しいですね。

馬場弁護士の「高度プロフェッショナル制度のメリットは?」という記事に刺激を受けての投稿です。

私は、実はこの「高度プロフェッショナル制度」を好意的に考えています。それは、私の経験に基づきます。

私は2000年から2010年まで10年間大手法律事務所で働いていましたが、そのときの状況はまさに「高度プロフェッショナル制度」が適用されるにふさわしい状態だったと思います。自分が任された案件をどのように進めるかについてはかなり裁量が認められている反面、最終的には結果が求められますので、かなり緊張感があり、拘束時間も長かったのです。が、その反面、今とは比較にならないくらい高い給料を貰っており、仕事も日経新聞の1面を飾るような案件がゴロゴロしていたので、日本経済のために頑張るというような気概もありました。月に300時間を超えて働くことはザラにありましたが、それでも、嫌でやっていたというよりは好きでやっていたという感じであり、今思い返してみてもあまりネガティブな気持ちはないのです。まして残業代が欲しいと思ったことは1度もありません。そもそも貰っている給料が残業代を欲しがるようなレベルではなかったからです。当時は高度プロフェッショナル制度などというものはなかったので、残業代のことを言い出せば請求できたかもしれませんが、誰も残業代のことなど問題にしません。このような職場においては、基本的に労働時間のみで管理される従来の雇用制度には相当違和感があり、まさに高度プロフェッショナル制度がふさわしい制度だと思います。

馬場弁護士は、一般的に言われている高度プロフェッショナル制度のメリットとして、効率的に仕事を進めることができれば、残業しないでも仕事を終えられることを紹介しながら、高度プロフェッショナル制度の対象となる業種がいずれも長時間労働で有名なことから、実際はそうならないのではないか、と反論していました。
この点、私も、高度プロフェッショナル制度の対象となるような労働者は、実態としては、かなりの長時間労働をしているのではないかと思います。なぜなら、良い成果を出すにはある程度時間が必要ですし、何より、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人は、仕事が面白くて、良い成果を残すために、自己研鑽の時間を含め惜しみなく時間を使うタイプの人が多いと思われるからです。しかし、これは仕事に集中したいというポジティブな気持ちからであって、特にデメリットとして考える必要はないのではないかと思います。
逆に言えば、「定時に帰りたい。」「もし定時を過ぎて働くのであれば残業代が欲しい。」というマインドの人は、高度プロフェッショナル制度の対象とすることに向かない人であり、そういう人を高度プロフェッショナル制度の対象にできるような制度設計は適切ではないということになるでしょう。

馬場弁護士の記事の中に、「(高度プロフェッショナルに向いているような)方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いた方が良いのではないか」という文章がありますが、良いポイントを付いていると思います。

つまり、高度プロフェッショナル制度の対象とするにふさわしい人は、会社に頼らずフリーランスとしてもバリバリにお金を稼げる人であるが、企業側に、その人を囲い込んで他社では仕事はさせたくない等の思惑があり雇用契約で縛らざるを得ない、というイメージで考えるのがわかりやすいと思います。だからこそ、高度プロフェッショナル制度のもとでは、普通のサラリーマンより高額の年収を保証しなければならないのです。会社の社長よりも高給取りということも珍しくないでしょう。

以上のように考えると、現状の1075万円という年収要件はちっと低いのではないかという気がします。

大企業などでは、通常のサラリーマンでも1075万円くらいの年収を得ている方はそれなりにいますし、また、法律事務所のような専門職の職場では、新人弁護士で1075万円を貰っていることがあるとも聞きます。これらの方のマインドがサラリーマン的なものであれば、高度プロフェッショナル制度を適用するのは気の毒と言わざるを得ません。

したがって、私としては、高度プロフェッショナル制度の年収要件としては2000万円が良いのではないかと思っています。2000万円の年収があれば、1つの会社からしか収入を得ていないサラリーマンであっても確定申告が必要であり、税務的にももはや普通のサラリーマンではありません。残業代が欲しいという年収額でもないでしょうから、高度プロフェッショナルとして認める一つの指標になると思うのです。

皆さんはどう思われますか?

629日の参院本会議で成立した「働き方改革関連法」の柱である、「高度プロフェッショナル制度」について検討したいと思います。

 

1 高度プロフェッショナル制度とは何か?

高度プロフェッショナル制度とは、「残業代ゼロ法案」や「ホワイトカラーエグゼンプション」ともいわれていますが、高度の専門的知識等を必要とする業務に就いている一定の年収(年収1,075万円以上 ※現在)の労働者のうち、その労働者の同意があること等を前提に、労働基準法に定められている労働時間、休日及び深夜の割増賃金等の規定が適用されないという制度です。要は、就業時間に縛られない代わりに、深夜残業しようが、休日出勤しようが、残業代や深夜勤務手当、休日勤務手当は支払われないという制度です(以下の表参照)。

[表:高度プロフェッショナル制度の特徴]

高度プロフェッショナル制度の特徴

労基法上の規制

一般労働者

高度プロフェッショナル

法定労働時間

時間外割増賃金

休日・深夜割増賃金

休憩時間

                     ○…適用、☓…不適用

この制度を設けた趣旨は、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないとされている業務(アナリストやコンサルタント等)については、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応えて、労働者の意欲や能力を十分に発揮できるようにするためと説明されています
(労働政策審議会「今後の労働時間法制等の在り方について」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.htmlなど)

これはつまり、成果主義的な色彩の強い業務の場合には、成果さえ出せば早く帰れるということにすれば、勤務時間に縛られないことになり、意味もなく勤務の終了時間まで居残り続ける必要はなく、また残業代のためにダラダラ仕事を続けることがなくなるので、労使双方にとってメリットがあるという話です。
本当にこのような理想的な結果になるのか?という疑問があるので検討してみます。

 

2 対象となる業務等

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタント業務、研究開発業務等を想定しているということですが、これらの業種は総じて長時間労働が常態化している業種であるといえます。
これらの業種の労働者は、業務が早く終わったので帰りたい、というよりも業務が終わらないので帰りたくても帰れないというほうが多いのではないでしょうか。

仮に業務を終えて帰れる余裕がある方でも、帰れるのは最初だけで、管理職(使用者)に早く帰っているのを目撃されたら最後、「まだまだ余裕があるな」と思われて、更なる業務を課されるのが目に見えています。そのようにならないように(又はそのようになったとしても)、労使共に納得できるように、成果(目標)をきちんと設定することが必要不可欠になってきます。
それでも、高給取り(現在のところ年収1,075万円以上)だからいいのでは?という意見があります。

本当に高給の労働者が対象なのかを見てみますと、今回の法律では、高度プロフェッショナル制度の対象者の年収が「基準年間平均給与額(略)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省で定める額以上であること」(改正労基法第41条の22号ロ)とされています。
すなわち、高度プロフェッショナルの基準となる年収額は、少なくとも労働者全体の年間平均給与額の「三倍の額」を上回ることが「法律」で定められているので、高度プロフェッショナル制度が高給の労働者を対象としていることは疑いがないでしょう(現在のところ年収1,075万円以上)。

そのため、巷で言われているような、国(厚生労働省)が年収基準をどんどん下げてしまい、大勢の労働者が高度プロフェッショナル制度の対象者になってしまうのではないか、という指摘は当たらないと思います。なぜなら、高度プロフェッショナル制度の対象者を増加させるためには、この「三倍」ルールを撤廃(法律を改正)しなければなりませんので、国(厚生労働省)の一存では少なくとも平均の三倍未満に年収を引き下げることはできないためです。

 

3 労働者にとって得な制度なのか?

もっとも、高度プロフェッショナル制度の対象者が高給であったとしても、残業代や休日手当、深夜勤務手当等は支払われないので、毎月何十時間も所定労働時間よりも多く労働した場合には、時給換算で考えるとどんどん時給が下がっていきます。結局、時給で見てみると他の労働者の時給とさほど変わらなかった、という事態になってしまう可能性があります。

それでも、短時間で成果が出せれば良いので、実力さえあれば高度プロフェッショナル制度のほうが労働者にとって有利なのではないか?という考え方について、そもそも欧米型成果主義が日本企業にどれだけ定着できるのか(定着しているのか)という問題があります。売上以外の数値化できるものを除き、「成果」というものを定義することは難しいため適切な目標設定ができず、目標未達による労働者のストレスや、従業員間に連携が生まれにくい等の問題があります。また定時に帰る労働者を良しとしない会社においては、働き方についての考え方を変えない限り、なかなか導入は難しいと思われます。

「高度プロフェッショナル」という言葉は何となく聞こえがよいので、「君は今日から『高度プロフェッショナル』だ。」と言われて、あまりよく考えないで同意してしまうと、後で自分に合わない制度だったことに気づくことになりかねません。(又は制度をよく理解したとしてもパワーバランスから断れないこともあるでしょう。)

成果主義に合った業務内容で、労働時間に縛られないほうが成果を出せるタイプで、かつ労働時間も長時間にならずに成果を出せる実力がある労働者であれば、高度プロフェッショナルに向いていると思います。もっとも、そのような方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いたほうが良いのではないか…と思います。

高度プロフェッショナル制度が、単に使用者が残業代や深夜勤務手当等の支払いを避けるためだけに用いられることがないように、上手く成果(目標)の設定をして、労使双方にとってメリットになる運用がなされることに期待したいと思います。

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