2019年7月7日の朝日新聞デジタルに、次の記事が上がりました。

 

「JASRAC、音楽教室に『潜入』2年 主婦を名乗り

音楽教室での演奏から著作権料を徴収しようとしている日本音楽著作権協会(JASRAC)が、職員を約2年間にわたって『生徒』として教室に通わせ、潜入調査していたことが分かった。9日には、両者の間で続く訴訟にこの職員が証人として出廷する予定だ。…JASRAC側が東京地裁へ提出した陳述書によると、職員は2017年5月に東京・銀座のヤマハの教室を見学。その後、入会の手続きを取った。職業は『主婦』と伝え、翌月から19年2月まで、バイオリンの上級者向けコースで月に数回のレッスンを受け、成果を披露する発表会にも参加した。」

https://www.asahi.com/articles/ASM756DFSM75UTIL041.html?iref=pc_extlink

 

 この訴訟の争点について、上述の朝日新聞の記事では「訴訟では、教室での講師や生徒の演奏が、著作権法が定める『公衆に聞かせる目的の演奏』に当たるかどうかが争われている。」と書かれていますので、JASRACは、音楽教室で講師や生徒が曲を演奏することが、著作者の「演奏権」(著作権法第22条)の侵害に当たると主張し、その証拠として、教室に潜入した職員の証言を提出しようとしているようです。

 

 著作権法第22条には「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上映し、又は演奏する権利を専有する。」との規定があり、著作権者以外の者が、無断で「著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として上映し、又は演奏する」ことは、原則としてできないことになっています。

 

 もっとも、既にお気付きのとおり、著作権者以外の者が一切著作物を演奏できないというわけではなく、「公衆に直接…聞かせることを目的として」演奏する場合に限って著作権侵害になりますので、おそらく、上記訴訟では、①音楽教室の講師や生徒が「公衆」に当たるか、②授業内での演奏が「公衆に直接…聞かせることを目的にして」に当たるか、といった点が争われているものと予想されます。

 

 これらについて、訴訟の中で具体的にどう争われているのか分かりませんが、私としては、講師の演奏にしろ生徒の演奏にしろ、授業内での演奏は、その曲を他の出席者に聞かせることが目的ではなく、その曲に使われている楽器の奏法を練習したり伝達したりすることが目的になっていることが多いと思うのです。そのため、音楽教室での演奏を「公衆に直接…聞かせることを目的にし」たものと考えるのには、原則として、かなり違和感があると思います。

 

 いずれにしても、音楽教室での曲の演奏については、著作権法上グレーゾーンが多いとされてきましたので、今回、裁判所がどのような判断をするか注目されます。

 

 ところで、なぜ今回この事件を取り上げたかと言いますと、実は、私も今、ヤマハの音楽教室に通っていまして、通い始めて1年半くらいになります。通っているのは銀座の教室ではないのですが、事務所が近いので、銀座の教室を見に行ったこともあります。

 それだけに、このニュースを初めて見たときは結構ショックで、同じクラスの仲間がJASRACの調査員だったらどうしよう、実は私も演奏権を侵害していた?などと考えてしまいました。それに、講師の立場で見てみれば、2年も指導した挙げ句、実は裁判の証拠集めに利用されていただけと知るとは、かなりショックが大きかったでしょう。

 法的な問題を超えて、印象に残った事件だったので、今回のテーマにしました。

 

 JASRACとヤマハの訴訟については、一弁護士としても、一ヤマハの音楽教室の生徒としても、興味深いと思っていますので、今後も動向を注視したいと思います。

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最近、外資系企業に転職した友人から、アメリカ(本社)の法律が適用されると書かれた労働契約書にサインしたが、たとえ日本で働いているとしても、日本の労働法は守ってくれないのかという趣旨の質問を受けました。そこは飲み会の席だったのですが、サインをしたかに関わりなく、そもそも外資系企業には日本の労働法の適用はないので例えばアメリカの法律に従ったら解雇などは簡単にされてしまうのではないかと考えている人もいました。

 

日本の労働法には解雇権濫用法理(合理性と相当性を充たしていないと解雇ができない法理論)という労働者を保護する規定がありますが、もし外資系企業に就職してしまうと、このような日本の保護規定が労働者に適用されないのでしょうか?

 

ご承知のとおり日本には「労働法」という名称の法律はなく、労働基準法、労働組合法、労働契約法等と労働に関する法律がいくつかあり、これらをひっくるめて単に「労働法」と一言で表したりします。

労働法の中は、私法という私人間の関係を規律する法律と、公法という国家と私人との関係を規律する法律とに分かれており、一般的には、労働基準法や労働組合法は公法、労働契約法は私法というように区分されています。

公法に当たる労働基準法等は、属地主義といって、たとえ外国に本店を置く外資系企業であったとしても、労働者が日本国内の事業に使用されていれば、労働契約書にどう記載されていようが、適用されることになります。

 

一方、私法にあたる労働契約法等の場合においては、どこの国の法律を適用するのかということを予め当事者(使用者と労働者)との間で取り決めた場合は、その国の法律が適用されることになります(法の適用に関する通則法第7条)。

もし当事者間でどこの国の法律を適用するのかを決めなかった場合には、「最も密接な関係がある地の法」(最密接関係地法)によるとされています(通則法第8条)。

なお、労働契約法が先に述べました解雇権濫用法理を定めた法律になりますので(第16条)、日本は労働者を解雇するのが難しいという話は、私法である労働契約法の話になります。

 

さて、日本の解雇権濫用法理は労働者に有利ですので、労働者としては日本の労働契約法を適用させたいと思うところでしょう。

ところが、例えば上の話のように、本店をアメリカに置く外資系企業の日本現地法人に就職する際に、働く場所は日本であるにもかかわらず、「この労働契約には本社のある米国の○○州法が適用される」という内容の契約書を渡された場合、サインしないと就職できないし、かといってアメリカの法律は分からないし…と悩むと思います。

 

実はこの点は、仮にサインしてしまったとしても、労働者は自分が働く場所の強行法規(当事者の合意では排除できない法規)を適用すると意思表示した場合には、その強行法規が適用されることになるという労働者保護の規定が法律上定められています(通則法第12条第1項)。もし適用される法律を当事者間で合意していなかった場合には、労務提供地の法律が最密接関係地法と推定されることになり、労務提供地の法律が適用されることになります(同条第3項、第8条)。

上の例であれば、たとえアメリカの州法が適用されるという内容の労働契約書にサインしたとしても、労働者は強行法規である解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用を求めることができますし、この強行法規には判例も含まれると考えられているので、労働者は日本の労働法(のうち強行法規)によって保護されることになります。

 

したがって、たとえ外資系企業に就職したとしても、日本で働いていれば日本の労働法の適用はあり、また、たとえ外国法が適用されるという内容の労働契約にサインしたとしても、日本の労働法(のうち強行法規)の適用を求めることができますので、外資系企業だから日本の労働法の保護が及ばずに解雇が認められやすい、というのは誤りということになります。

 

それでも、外資系企業は一般に解雇が認められやすいといわれておりますが、このことは別の理由になります。

例えば外資系企業は、成果主義を取り入れていることが多く、また中途採用者も多いので、採用時に具体的な成果目標が決められていたり、元々それなりに重い責任を負った役職で採用されていたりするので、日本の新卒一括採用などのゼネラリスト採用とは異なった視点で解雇の有効性が判断されることになります。具体的な目標を定められ、地位を特定して採用されたほうが、目標に到達しなかった場合に解雇が有効と判断されやすくなります。ただし、そのような重い責任に見合った給与が支払われていることが前提となり、年収1,075万円以上(労基法第14条第1項の「高度の専門的知識を有する労働者」として厚生労働大臣が定める基準)が実務上の一つの目安とされています。外資系企業は高給だが解雇されやすい、というのはこういう理屈になります。

 

最近は売り手市場となり転職業界が活気づいてきており、また副業を解禁する企業も増えてきたことから人材交流が今後も盛んになっていくと予想されます。それに伴い働き方や働かせ方のバリエーションも増えてきますので、日本的企業がいいのか外資系的企業がいいのか、はたまた従来とは異なった企業形態がいいのかについて、使用者と労働者は一緒に考えて作り上げていければ良いのではないでしょうか。

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ビットコインですが、8月に入った頃には上昇傾向にあり、1BTC=110万円台から、1BTC=120万円台へと上昇しましたが、その後下落し、現在(2019/08/1513時頃)では、1BTC=103万円で推移しています。

 

下落の原因として、報道によれば、米国でのビットコインに関する金融商品の承認が遅れたことや、米国の中国に対する関税の延期、景気後退の前兆とされる米国債の長期金利と短期金利の逆転、米国株の急落などが指摘されているようです。

 

 

さて、前回、Facebookが提唱する新たな仮想通貨「Libra」についてコメントさせていただきましたが、どうやら、最近は、中国の中央銀行が、デジタル通貨を発行することを計画しているようです。

 

ちなみに、報道によれば、この中国のデジタル通貨は、これから計画する、というレベルではなく、2014年から取り組みを開始して、既に発行準備が整った段階だ、とされています。

 

この点、国レベルで仮想通貨を発行しよう(自国の通貨をデジタル化しよう)、という動きは、それほど目新しいものではなく、中国以外にも、例えば、スウェーデンでは、自国の通貨をデジタル化したeクローナを発行する計画が進行中のようです。ただ、仮想通貨に対して厳しい姿勢を見せてきた中国が(例えば、国内での仮想通貨取引所の運営は禁止されています)、国レベルでデジタル通貨の発行しようというのですから、おもしろい話です。また、現在、GDP世界第2位の中国が国としてやることですから、そのインパクトは、他国の同様の試みよりも、大きなものになるのではないでしょうか。

 

この中国のデジタル通貨の詳細が、具体的にどういったものになるのか(そもそも仮想通貨と呼べるものなのか、電子マネー的なものなのか)、詳細については、まだよく分かりませんが、報道によれば、「2層システム」なる仕組みを採用するとのことで、他の仮想通貨のように、単純に発行者が発行→流通、という形ではなく、

 

 ・中央銀行→金融機関

 ・金融機関→消費者

 

といった流通構造になるそうです。

 

ただ、デジタル通貨というぐらいですから、おそらくは、その後、民間レベルで転々流通することも予定されているでしょう。そうすると、やろうとしていることは、(もちろん、細部では違いがありますが)かなり、Libraとダブってくるようにも見えます。Libraが発表されて、それほど間も開けずに、こういった報道がされるのは、中国人民銀行としても、Libraを意識しているのかもしれません。

 

さて、現在、Libraに対しては、リスクがある等々、様々な批判の声が寄せられ、G7でも(Libraだけを狙ったものではないですが、おそらく、主としてLibraの規制を意図して)規制枠組みが議論されている最中です。しかし、Libraの規制を議論している間に、中国が同じようなことをやって、覇権を握ってしまう、というのでは、何のための議論だったんだ、という話にもなってしまいます。

 

特に、Libraは、技術的な新しさというよりは、参画企業の豪華さが売りな面がありますが、中国が仮想通貨を発行しようというのであれば、いわば、中国企業全体が参画者になる、といった言い方もできるのではないでしょうか。

 

もちろん、仕組みによっては、Libraとは競合しない全くの別物になるかもしれませんが、今後も、国レベルで仮想通貨を発行する、という動きは進行してゆくでしょうし、その際、Libraの規制ばかりに気を取られていると足元をすくわれるかもしれません。

 

今後の動向に注目したいです。

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 今回は、「組合員である株式会社の代表者が死亡したが、実は、その会社が休眠会社らしく、新しい代表者が選任されない場合、組合はどうしたらいいのか?」という問題を扱いたいと思います。組合としては、その会社に(代表取締役ではないが)平取締役がいる場合、その取締役に対して通知することで、事業を進めたいところですが、果たしてそれで良いのか?という問題です。

 

 このような問題が実際にあるのか?という方がいらっしゃるかもしれません。
 ところが、実務をしていると、ちょくちょく出くわすのです。
 たとえば、地元の小さい不動産会社が土地区画整理事業の始まる前に、施行地区内の土地を買って分譲して売ったが、一部形の悪い土地が売れ残っており、そうこうするうちに、その不動産会社は休眠状態に陥り、社長が死亡後も後継者もいない、といった事案です。

 

 まず、この株式会社が、取締役会が設けられている取締役会設置会社の場合はどうなるでしょう。取締役会設置会社の場合、代表権を有する代表取締役以外の平取締役には業務執行権が認められておらず(会社法348条1項括弧書)、組合の行う換地処分等の行政処分を受領する権限もありません。そこで、この会社の取締役会が新しく代表取締役を選任しないのであれば、組合としては、会社法351条2項に基づき、裁判所に一時代表取締役の選任するよう申立てなければならないということになります。

 

 次に、その会社が、取締役会を設置していない会社の場合はどうでしょうか?このような株式会社の形態は、平成18年に新会社法が施行されることにより認められるようになりましたが、有限会社から株式会社に移行した会社や、新会社法施行後に設立された小規模な会社には多い組織形態です。
 この場合、会社法の定めでは、各取締役が原則として会社の業務を執行し(会社法348条1項)、会社を代表する権限を有しますので(会社法349条1項・2項)、他に取締役がいれば、その取締役に通知することができそうにも思うのですが、実は、代表取締役を選任した場合には、他の取締役は代表権を有しないこととなっており(会社法349条1項但書)、仮に選任された代表取締役が死亡したとしても他の取締役の代表権が復活することはないと解釈されています(相澤哲編『立法担当者による新・会社法の解説』103頁)。
 したがって、取締役会を設置していない会社にあっても、代表取締役が選任されている場合には、その代表取締役が死亡した場合には、新たに株主総会等で代表取締役を選任してもらわなければならないということになります。選任されないのであれば、結局、会社法351条2項に基づき、裁判所に一時代表取締役を選任してもらわなければならないということになるのです。

 

 では、裁判所に一時代表取締役を選任してもらうにしても、その手続きにはどれくらいの費用と時間がかかるのか?というのを知りたいですよね。
 これについては、私の経験から、各管轄裁判所においてスポット申立てという簡易な申立てを認めているかによる、ということが言えるかと思います。スポット申立てというのは、裁判所によって選任された一時代表取締役には、組合からの書類の受領と、もし将来的に清算金の交付が見込まれるのであれば、その清算金の受領をしていただきたい(ほかの業務はありません)と一時代表取締役の職務を限定して申立てをするのです。その際に、一時代表取締役候補者として地元の弁護士を推薦することができると、裁判所の手間が省けますのでスムーズになります。この辺は、裁判所にいかに事案を理解していただき、手続きを円滑に進められるかという問題ですので、まさに弁護士の腕の見せ所だと思います。

 

 弊事務所ではスポット申立ての経験がありますので、もし類似案件にお困りのときは、遠慮なくご相談いただければと存じます。

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 近年ますますグローバル化が進み、家族の中に外国籍の人がいる方や、家族が外国に資産を持っている方も増えているのではないでしょうか。

 このような場合、家族が全員日本国籍で、資産も全て日本国内にあるという方とは違う、難しい問題が起きる可能性があります。

 

 まず、法の適用に関する通則法第36条には次の定めがあります。

「相続は、被相続人の本国法による。」

 

 「本国法」とは、原則として、国籍国の法のことを言いますので、被相続人が外国籍の場合は、その国の法に従って遺産が相続されることになります。

 例えば、韓国籍の夫、日本国籍の妻、日本国籍の子という組み合わせの家族がいて、夫が死亡したという場合、残された妻や子が全員日本国籍であっても、夫の相続については韓国法が適用されることになります。この場合、遺産相続について揉めたりすると、日本人である妻や子が、遺産相続について韓国法がどのような定めをしているのかを確認しなければならなくなりますし、この問題を日本の裁判所と韓国の裁判所のどちらに持ち込むのかといった問題も出てくるため、家族全員が日本国籍者の場合に比べて問題が複雑になります。

 

 また、被相続人が日本国籍の場合は、日本法に従って相続がされることになりますが、その場合でも、被相続人が海外に資産を持っていると、現地の裁判所等で一定の相続手続を取らなければならない場合があります。

 例えば、アメリカのプロベイト手続が代表的ですが、アメリカに不動産や預金を持った状態で亡くなった場合、その人がたとえ日本国籍だったとしても、登記名義や口座名義を変更するには、アメリカの裁判所でプロベイトと呼ばれる手続をしなければならないことがあります。

 

 このように、家族の中に外国籍の人がいたり、家族が外国に資産を持っていたりする場合には、日本国内で完結している場合に比べて、相続の際にややこしい問題が出る可能性が高くなります。

 

 相続の問題は、一般的に、できるだけ問題が起きないように生前に対策しておくことが重要になりますが、特に上記のような方は、事前に家族で話し合ってプランニングしておくことが重要になってきます。また、いざという時にその国の専門家等を探せるよう、その国に詳しい人と繋がっておくことなども重要かもしれません。

 こういったプランニングには時間がかかる場合も多いですので、お心あたりの方は、お早めの計画・対応をおすすめいたします。

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先月、神戸市は、山から海を見下ろす眺望を保全しようと、建築物の高さ等を規制する検討に入ったとのことです。大阪湾を見渡すことのできる眺望が損なわれないようなルールを設定し、さらに神戸港内の特色ある地形や、神戸ポートタワー、神戸海洋博物館等の見晴らしを守ろうという狙いがあるそうです。
(神戸新聞社:https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201906/0012439723.shtml

 

私の母の実家が神戸だった関係で、神戸に遊びに行くことが多かったのですが、六甲山から見下ろす神戸の街の夜景は格別で、この眺望を守りたいという気持ちはよく分かります。

 

ご存知のとおり、建物を建築しようと思っても、建築主が自由に建物の高さを決められるのではなく、どこに建てるのか、道路はどこにあるのか等の各条件によって、建てられる建物の高さの限度が変わってきます。

建物の高さの制限は、先に述べた地方自治体(神戸市)の条例による制限の他に、①絶対高さ制限、②道路斜線制限、③隣地斜線制限、④北側斜線制限、⑤日陰制限があり、この中で適用のある複数の制限のうち、最も厳しい制限が、そこで建てられる建物の高さの限度になります。

 

絶対高さ制限(①)は、第一種・第二種低層住宅専用地域に建物を建てる場合に適用があり、高さは10m又は12mまでと制限されてしまいます(建築基準法第55条第1項)。例えば大田区の田園調布は、大部分がこの第一種低層住宅専用地域になりますので、駅前にもかかわらず低層の住宅しか建てることができません。

また道路斜線制限(②)は、敷地が面している道路の幅等によって定められる制限であり、この計算が複雑で、道路の反対側に川や公園があるような場合や、2つ以上の道路に敷地が面している場合、道路の幅が12m以上ある場合等には計算値が変わります。法令を読んでも、慣れないと何が何だか分からないような書きぶりになっており、図でも書いてくれればいいのにと常々思っています。

 

ところで、私は、大学の学部は建築学科だったということもあり、今月の始めに、2級建築士試験を受けてきました。1級建築士と2級建築士の違いですが、2級建築士は建てられる建物の規模(高さや面積等)に制限があり、また、1級建築士の受験資格には建築の実務経験が必要になりますが、2級建築士の受験資格は大学で建築を学んだような場合には実務経験は課されていません。ユニクロの柳井社長のご自宅などの大豪邸でない限り、多くの戸建て住宅は2級建築士免許で建てることができます。

 

2級建築士試験の概要を簡単にご紹介しますと、試験は、学科試験と製図試験の2つのパートに分かれており、学科試験に合格した人だけが、9月に行われる製図試験を受けることができます。

学科試験は、①建築計画、②建築法規、③建築構造、④建築施工の4種類に分かれており、例えば建築計画(①)は、光や音の性質に関する知識や建築物の環境負荷、給水管径の知識、他には建築物の歴史など出題されます。今年は、修学旅行で人気の奈良の薬師寺にある東塔が、三重塔か五重塔のどちらかが分かっていないと解けない問題がありました(かなり迷いました)。

 

建築法規(②)は、司法試験とは異なり判例を覚えたり抽象的な法文を解釈したりするというわけではないのですが、時間内に条文を探さなければならないだけでなく、読みにくい条文を読み解かなければなりませんので、大丈夫だろうと高をくくってあまり勉強をしていなかったこともあり、難しく感じました。先に述べた建築物の高さ制限の法令も非常に難しかったです。

 

建築構造(③)は建築部材にかかる力の計算問題や地震力や風力に関する知識等で、元々計算は好きだったせいか楽しんで取り組むことができました。

建築施工(④)は、施工するための足場や基礎工事の知識、塗装や工法等に関する問題が出題されます。最近銀座では建設ラッシュのせいか、どこもかしこも工事中ですので、施工中の足場や機材・部材等を直接観察することができるので、試験勉強にとても役立ちました。

 

今回幸い学科は突破しましたので、9月の製図試験に向けて夜な夜な製図の勉強をしています。もっとも、今年の製図試験は木造設計だそうで、自分は鉄筋コンクリートを中心に研究していたということもあり木造の知識があやふやで、正直どうなることやらと思っています。とにかく9月の製図試験は頑張ります!

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先月、メールマガジンをお送りした際には、1BTC=100万円で推移している状況でしたが、その後、一時は、1BTC=140万円を超え、その後も、1BTC=120130万円あたりで上下していましたが、現在(2019/7/22)は、下落して、1BTC=114万円ほどで推移しています。

 

さて、前回もピックアップしたFacebookが提唱する新しい仮想通貨「Libra」ですが、各国の規制当局からは、多くの懸念が示されているようです。

 

米国議会では、Libraに関する公聴会が実施され、信用できない、等々、厳しい批判の声もありました。これに対し、Facebook側は、規制上の懸念に完全に対処し、適切な承認を得るまで、FacebookLibraを提供しないと証言しています(「 And I want to be clear: Facebook will not offer the Libra digital currency until we have fully addressed regulatory concerns and received appropriate approvals. - 米国上院で証言をしたDavid Marcus氏の証言原稿。https://www.banking.senate.gov/imo/media/doc/Marcus%20Testimony%207-16-19.pdf。 Facebookは、過去に個人情報の流出事件を起こしており、議員に対し、その印象が拭えていない面もあるようです。

 

また、G77か国財務大臣・中央銀行総裁会議)では、Libraを名指しして、次のような議長総括が示されています(財務省ウェブサイト・「議長総括:7か国財務大臣・中央銀行総裁会議(仮訳)(2019717日~18日 於:フランス・シャンティイ)」。https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g7/cy2019/g7_20190718.htm)。

 

「ステーブルコイン及びその他の様々な金融商品  

 大臣・総裁は、金融セクターにおける技術革新は大きな便益をもたらしうるが、それらはまたリスクも伴うものであることを認識した。大臣・総裁は、リブラのようにグローバルで潜在的にシステミックな足跡を伴う取組を含め、ステーブルコイン及びその他の現在開発されている様々な金融商品は、深刻な規制上ないしシステミックな懸念とともに、幅広い政策上の課題を引き起こすことに合意した。これらの懸念や課題はいずれも、こうした取組が実施される前に対処される必要がある。  

 規制上の懸念に関し、大臣・総裁は、今後実現する可能性のあるステーブルコインのイニシアティブ及びその運用者が、金融システムの安定や消費者保護を脅かすことのないよう、いかなる場合においても、特にマネーロンダリング及びテロ資金供与対策をはじめとする最高水準の金融規制を満たす必要があることに合意した。規制上生じうるギャップについても、対処される必要がある。  

 システミックな懸念に関し、大臣・総裁は、リブラのような取組が通貨主権や国際通貨システムの機能にも影響しうることに合意した。 大臣・総裁はしかし、こうした取組が、国境を超える決済システムが顕著に改善され、消費者にとってより安価になる必要があることを示していることでも合意した。 」

 

要するに、金融システムの安定、消費者保護、マネーロンダリング及びテロ資金供与対策などの観点から、事前規制の必要性があると考えているようです。総論的なところは、あまり害がないことを言っているようにみえます。

 

ただ、少しうがった見方をすると、少し、過剰な規制をしようとしているのではないか、といった疑いも生じます。具体的には、Libraの現在の参加メンバーには、大手の銀行は含まれておらず(https://libra.org/en-US/association/?noredirect=en-US#founding_members)、Libraとしても、銀行口座を持っていない方々をターゲットとしている(つまり、銀行を介さずに直接仮想通貨の流通ができるようにする)ことから、Libraが普及すれば、銀行は徐々に蚊帳の外に置かれることになる可能性があります。言い換えれば、Libraは、明確に、銀行の敵になりうる存在と考えられます(ビットコインも、使われ方によっては、銀行の敵となりえますが、現状では、決済手段というよりも、投資・投機の手段が主な使われ方となっており、銀行も、Libraほど、危機感をもってはいなかったのではないでしょうか。)。また、Libraは、参画メンバーが豪華であり(VISAMastercardPayPaleBayUbervodafone等々)、影響力も大きいと予想されます。そうすると、あくまで個人的な見解ですが、銀行側としては、あまり、面白い話ではない(規制したい)のではないかと考えられます。

 

特に、G7作業グループの「ステーブルコインに関するG7作業グループ議長によるアップデート」では、次のような言及がされています(財務省ウェブサイト・「ステーブルコインに関するG7作業グループ議長によるアップデート (仮訳)」。https://www.mof.go.jp/international_policy/convention/g7/cy2019/g7_20190719.htm)。なお、以下にいう「ステーブルコイン」の定義には、「複数の資産で構成されるバスケットに「コイン」を結び付けることで、価格変動を抑制することを企図している」ものが含まれているため、Libraが含まれます。

 

「第一に、ステーブルコインの取り組みは、最も高い水準の規制を満たし、当局の慎重な監督やオーバーサイトに服することで、社会的信認を得ることが求められる。」

 

「第二に、ステーブルコインの取り組みは、全ての関連法域において、確かな法的基盤を示し、全ての関係者および利用者に対して十分な保護と保証を確保することが求められる。少なくとも、ステーブルコインの発行者には、コイン保有者に対して履行を約束している事項の性質や、当該資産を保有することに伴うリスクを、明確に説明することが求められる。 」

 

「最も高い水準の規制」ということを言われてしまうと、かなり、構えてしまいます。特に、コイン「保有者」に対してリスク等々を説明せよ、というのは、(発行者から直接購入をする人など、一部の人に対しては可能かもしれませんが)少々無理な部分もあるのではないでしょうか。

 

この点、Libraを含めた仮想通貨は転々流通します。個人から個人への移転も可能です。そういった個人から個人への移転の際に、全てのLibra受領者に「説明」をすることは、難しい印象を受けます。日本円でも、日本銀行が、日本円を受け取った人全てに対し、「日本円とはなんぞや」という説明はしていませんし、説明することもできません。貴金属でも、株式(特に、未公開株)でも同様です。

 

なお、細かな話になりますが、Libraに限って言えば、(詳細な技術的仕様は分かりませんが)例えば、Facebook率いるLibra陣営が、Libra専用のウォレット(仮想通貨の送受信に使う、いわば、財布に相当するソフトウェア)でなければLibraを送受信できない、という仕組みを採用し、ウォレット起動時などに、「説明」文書と同意ボタンを設置することで、ある程度の「説明」対応は可能かもしれません。しかし、Libra陣営以外の第三者がウォレット開発・提供する可能性は否定できず、そういった場合に、Libra陣営のコントロール外にあるLibra保有者に対して、「説明」をすることは困難と思われます。また、例えば、相続によってLibraを取得した場合、Facebookとしては、そういった相続による包括承継は知りようがありませんので、相続人=新たな保有者に対して「説明」をすることは困難です。そもそも、規制を作るとした場合、Libraのみを対象とすることはできず、広く、ステーブルコインに対する規制を作ることになるのではないかと予想されますが、既に公開・使用されているステーブルコインは、いまさら仕様を大きく変えることも難しく、そういったコインは、後からできた「説明」などの規制に対応できない可能性も考えられます。

 

以上のように、Libraに関しては、世界的に規制の動きがあり、また、(個人的には)過剰な規制を受けそうなリスクがあるように思われます。もちろん、消費者保護やマネーロンダリング防止が重要であり、必要な範囲で一定の規制を加える必要性があることは否定しませんが、だからといって、サービスそのものを否定してしまうような過剰な規制をするのは行き過ぎです。

 

今回の機会に、(過剰ではない)適切な規制枠組みを作りがされることを期待します。

 

ちなみに、G7の作業部会は、IMF世銀年次総会(2019年は、1018日~20日予定)までに最終報告を出すことが期待されている、とのことでしたので、その頃までには、一定の規制の方向性が明らかになるのかもしれません。

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 皆様、先日のNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」(https://www6.nhk.or.jp/special/detail/index.html?aid=20190602)をご覧になりましたか?ネットでもかなり話題になり、再放送もされたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。
 この番組は、安楽死を希望する日本人女性が、スイスで安楽死するまでの過程に密着したもので、彼女が亡くなる瞬間も含めて放映されています。私もこの番組を見ましたが、実際に人が安楽死するまでの過程を映像で見るとかなり衝撃的で、改めて多くを考えさせられました。

 

 ところで、安楽死には、「積極的安楽死(直接的安楽死)」、「間接的安楽死」、「消極的安楽死(尊厳死)」の三種類があるとされています。
 積極的安楽死(直接的安楽死)とは、患者を苦痛から解放するために、患者の意思により生命を断つこと、間接的安楽死とは、患者の苦痛の除去・緩和が間接的に死期を若干早めること、消極的安楽死(尊厳死)とは、無益で苦痛をもたらすにすぎない延命措置を中止すること、のことを言います(山口厚「刑法総論 第3版」177ページ)。
 上の定義で言うと、NHKスペシャルの事例は、積極的安楽死(直接的安楽死)に当たりますね。

 

 法律の世界では、安楽死は、死に関する自己決定をどこまで尊重すべきかという文脈で登場することが多く、具体的には、安楽死を実行したり助けたりした医療従事者・家族等を処罰することができるかという形で問題になることが多いです。

 

 日本には、現在、安楽死に関する明確な法制はなく、関連するいくつかの判例があるにとどまっています。
 代表的なところでは、最判平成2112 7日(刑集 63111899頁)、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)、名古屋高判昭和371222日(高刑159674頁)などがありますが、例えば、横浜地判平成 7 328日(判タ 877148頁)は、安楽死が許容される要件として、①患者に耐え難い激しい肉体的苦痛が存在すること、②患者について死が避けられず、かつ死期が迫っていること、③患者の意思表示があること(間接的安楽死の場合は推定的意思で足りるが、直接的安楽死の場合は明示の意思表示に限る。)を挙げています。

 

 もっとも、上記いずれの事例についても、患者本人の意思に基づくとは認められないなどの理由で、結果的に被告人(医師)には罪が成立するとされていますので、一般論として、安楽死許容の要件は挙がっているものの、具体的にどのような状況であれば、安楽死を実行・手助けしても刑事責任が問われないのかは、はっきりとは分からないままになっています。
 この点は、今後、明確な法制やガイドラインを作るなどして、医療関係者等が混乱しないようにしていく必要があるように思います。

 

 なお、最近、時たま作成の依頼をいただくことがあるのですが、現在、公証役場で作成できる公正証書の類型に、「尊厳死宣言公正証書」というものがあります。(http://www.koshonin.gr.jp/business/b06/q0603
 これは、公正証書の嘱託人が、将来病気にかかり、回復見込みのない末期状態に至ったときは、尊厳死を望む、すなわち死期を延ばすためだけの延命措置を差し控え、中止する旨等の宣言をし、公証人がその宣言を公正証書の形にするものです。
 この公正証書があることで、患者本人が尊厳死を望んでいることが明確となるため、医療現場としても尊厳死を容認しやすくなると言われています。将来的に、尊厳死を望まれる方は、この公正証書を作成することも検討されると良いのではないかと思います。

 

 今回、番組を通じて社会で話題になったこともあり、安楽死に関しては、今後、日本でもますます議論が進んでいくと予想されます。まだご覧になっていない方には、ぜひNHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」のご視聴をおすすめします。

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職場でのパワーハラスメント(以下、パワハラ)を防ぐため、企業にパワハラの防止策を義務づける関連法案が、先月の参院本会議で可決され、成立しました。パワハラの規制に関する部分の法律名は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」となっています。
(日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45402610Z20C19A5EAF000/

 

今までパワハラは、特に法律上定義されていたわけではなく、厚生労働省のワーキング・グループが、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義らしきものを報告書にまとめていたので、実務ではこれをパワハラの判断基準として使っていました。

 

今回成立した改正法は、パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と従来よりもやや広げて定義付けています。
さらに、パワハラの防止策をとることを企業に義務付け、これに従わない企業には、厚生労働省が改善を求め、これにも応じない場合には企業名を公表する場合があるとのことであり、これは企業のレピュテーションに直結しますので、パワハラの抑止につながることが期待されています。

 

なお、今回争点となっていた企業への罰則は見送られることになりました。
結局のところパワハラは、業務上必要な範囲の指導との境界が曖昧であり、明確な線引きが難しいため、企業側に配慮したといわれています。
とはいえ、最近は会社の事後対応の悪さについても、独自に不法行為ないし安全配慮義務違反として損害が認定されているケースも増えてきており、少なくともパワハラが起こってしまってから(またはそのおそれがあることを認識してから)の事後対応(調査や配転等の人事措置)を怠った場合の罰則については規定しても良かったのではないかと考えています。

 

例えば、備前市社会福祉事業団事件(岡山地判平26.4.23)では、会社に代わり指揮監督を行うべき上司が、過度な叱責状況や被害職員の精神状態の悪化を認識していたにもかかわらず、結局人事異動等を行わず何の対処もしなかったことについて、会社の安全配慮義務違反が認定されています(被害職員は精神疾患を発症し、後に焼身自殺)。
この事件では約5700万円の損害賠償請求が認められており、会社の規模によっては会社が潰れかねないほどの金額です。パワハラは事後対応の悪さによっても、重大なことになるおそれがあることを啓蒙ないし警告する意味で、罰則もあり得ると思います。

 

ところで、このパワハラの損害額ですが、細かく項目に分けて整理すると以下のとおりになります。(セクハラ等の他のハラスメントにも共通)

①治療費、通院費用等の実費

②慰謝料

③休業損害(休業したために得ることができなくなった収入)

④逸失利益

⑤弁護士費用

⑥過失相殺、素因による減額

⑦損益相殺(労災保険給付金など二重取り禁止)

 

慰謝料(②)の基準は特にないですが、数万円の場合や、前記判例のように被害者が亡くなった場合には極めて高額になります。家族や遺族が多大な精神的苦痛を受けた場合には、家族や遺族にも固有の慰謝料が認められる場合があります。
逸失利益(④)については、被害者が亡くなった場合だけでなく、パワハラによって精神疾患を発症した場合や、退職を余儀なくされたような場合に、パワハラがなければ得られたはずの収入がここで計算されます。
被害者の素因による減額(⑥)は、例えば過度に落ち込みやすい性格の方だったような場合には一定の金額を相殺するという考え方で、中にはこれを認める裁判例はあります。もっとも、電通事件(最判平12.3.24)ではこれを認めず、「労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」被害者の素因を過失相殺として考慮することはできないとしており、前提として使用者は労働者各人の性格を把握した上で適切な指導を行うことが求められていますので、(余程の事情がある場合は別として)被害者の性格を積極的に過失相殺の適用場面と見ることには違和感があります。

 

パワハラは被害者だけでなく、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼすおそれがあり、企業にとっても、貴重な人材の損失につながるおそれがあります。
デスクワーク、医療現場、工事現場等と業種によって職場環境は異なるので、適切な指導かどうかの線引きは難しいところですが、少なくとも指導する前には、本人の性格や立場等を常に考える必要があるでしょう。
相手の性格や立場等を知ることは、使用者・労働者双方に言えることで、お互いにコミュニケーションを重ねていくことがハラスメントの解決の糸口になるのではないでしょうか。
難しい問題ですが今後も注視していきたいと思います。

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ビットコインですが、2019616日、1BTC=100万円を突破しました。これは、昨年5月頃以来の高値となります。その後、一旦100万円を割り込んだものの、現時点(2019/6/20)では、また上昇し、約1BTC=100万円で推移しています。

 

今回の上昇理由については、様々な理由がささやかれており、例えば、

・各種取引所が、米国市民向けに、一部の種の仮想通貨の取引を中止することに伴う、ビットコインの需要増加や、

・米国におけるビットコイン先物取引に向けたテスト実施の報道

・後述のFacebookの仮想通貨に関する報道(当時は詳細の公式発表前)

・香港でのデモ(による、安全資産としてビットコインの購入増)


等々、が挙げられています。ただ、メディアによって分析は異なるようで、「これが上昇の要因だ」という統一見解は、現時点ではできていないようです。諸要因により変動した、といった表現が一番正確かもしれません(上記以外にも、従前からの継続的な事情として、米中貿易戦争なども挙げられと思われます。)。

ちなみに、過去、2017年の年末頃、ビットコイン価格が初めて1BTC=100万円を突破した際には、その後約10日で、2倍の、1BTC=200万円となりました(今振り返れば、当時は、間違いなく、猛烈なバブルでした。)。その後、ビットコイン価格は下落し、一時は1BTC=36万円前後にまで至ったこともあります。しかし、ここにきて、また、1BTC=100万円にまで戻ってきました。単なる数字の変動ですが、非常に感慨深いです。

 

さて、最近の仮想通貨関連のニュースでは、Facebookが、独自の仮想通貨の発行を発表しました。その名も"Libra"(日本語的な発音は「リブラ」ないし「リーブラ」でしょうか。)。なお、Libraに関してFacebookが設立した子会社・兼・Libraを扱うソフトウェアの名称は"Calibra"だそうです。既に、各種メディアでも大きく報道されていますので、ご存知の方も多いかと思います。

Facebookと言えば、一時は(というか昨年)、仮想通貨関連の広告を広く禁止していたこともあり、仮想通貨を嫌っていた印象があります。今では、一定程度、規制が緩和されているようですが、そのFacebookが主導して、仮想通貨を発行しようというのですから、大きな変化です。仮想通貨に対する社会の認識も変わってきた、ということかもしれません。

このLibraの詳細に関して、Facebookの公式ウェブサイトによれば、世界中の約半数の人が銀行口座を持っていない状況にあり、これに対処するのが、課題である旨の記載がされています(https://newsroom.fb.com/news/2019/06/coming-in-2020-calibra/)。また、スマートフォンでテキストメッセージを送るかのように、簡単・即時に誰にでも送金できるようになるとのことです(実際に使えるようになるのは2020年を予定、とのこと)。

さらに、Libraのホワイトペーパーなどによれば、特定の法定通貨とペッグ(相場を固定)はしないものの、裏付けとなる資産を準備することによって、価格変動を抑える仕組みとのこと(https://libra.org/en-US/white-paper/)。

技術的目線で付け加えるならば、新しいプログラミング言語(Move言語)が採用されて、送金操作などのカスタマイズや、スマートコントラクトが実現できるようになるそうです。このあたりは、イーサリアム的な要素がありますね。既に技術資料も公開されています(https://developers.libra.org/docs/assets/papers/libra-move-a-language-with-programmable-resources.pdf)。

このLibraの計画には、VisaMastercardなど多数の著名企業も参画しています。クレジットカード会社などは、資金決済の面で、仮想通貨業界とは競合しそうではありますが、敵対するのではなく、取り込んでしまおう、ということでしょうか。

正直なところ、現状の報道の内容だけでは、めちゃくちゃ新しい技術を提唱している、という印象は受けませんが、何より、主導しているのが、いわゆるGAFAGoogleAmazonFacebookApple)の一角であるFacebookであり、著名な企業も多数参画しているため、個人的には、影響力はそれなりに大きいのではないかと推測します。

この計画が成功すれば、支払手段として仮想通貨が利用される機会が飛躍的に増加するかもしれませんし(現状、残念ながら、仮想通貨は、投機・投資のための使用が中心で、電子マネー的な支払手段としての使用は、それほど多くありません。)、Facebook(ないしLibraの陣営)が、仮想通貨の業界、ひいては、各国の仮想通貨規制の場面において、大きな影響力を持つようになるかもしれません。ただ、現状、計画が全て順風満帆と言うわけではなく、現時点でも、過去のFacebookによる個人情報流出の点を指摘して、米議会から反対の声も出ているようです。

 

ちなみに、他のGAFAはどうかというと、Googleは、以前から、仮想通貨Rippleに出資しています。


また、Appleに関しては、昨年、支払手段としてRippleを採用するのではないかと報道はされていました(ただ、現状で、採用にまでは至っていないようです。)。

 

Amazonは、過去、ビットコイン決済に対応するのではないかと報道がありましたが、現時点で、Amazon自体は、直接、ビットコイン決済を受け付けていません。しかし、最近、ブラウザの拡張機能などにより、第三者の企業を間に挟む形で、Amazonでのビットコイン決済を可能にする技術が開発されたと報道されています(https://jp.cointelegraph.com/news/you-can-now-pay-by-cryptos-at-amazoncom-what-is-the-plan-in-japan)。スキームとしては、間に、Amazon以外の第三者(仲介者)が入り、ビットコインを一旦法定通貨に換金して、Amazonに支払う形のようで、Amazon自体が直接ビットコイン決済を受け付けている形ではありません。しかし、報道を見る限り、技術的には、Amazonの決済画面で、(ブラウザ拡張機能によって)Bitcoinで支払うといった画面が表示され、ボタンを押せば決済できるようであるため、一見すると、Amazonが直接Bitcoin決済を受け付けているかのように使えそうです。既に米国などでは使えるようですが、現状、日本のAmazonでは使えないようです。将来的な日本への進出が期待されます(ビットコインは、着金に10分以上は時間がかかるため、対面よりは、ネット通販など、11秒を気にしない場面での決済に親和性が高い、と個人的には思っています。)。

 

GAFAを巻き込んで、仮想通貨が今後どう発展してゆくのか、見ものです。

 

・・・ちなみに、Wikipediaによれば、Libra(リーブラ)は、もともとはラテン語で天秤を意味し、古代ローマの通貨・質量の単位だったとのこと(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%A9)。イタリアの旧通貨「リラ」や、ポンドの通貨記号の「£」(L)なども、リーブラ由来だそうです。また、本当にどうでもいい話ですが、東京弁護士会の会誌の名前も「LIBRA」です(https://www.toben.or.jp/message/libra/)。

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