昨年、弊事務所のメルマガに載せた原稿を修正したものですが、ブログにも掲載させていただきます。

先日、ある人から、「預金通帳を落としてしまったが、拾ってくれた人が現れた場合、報労金を支払わなくてはならないのか?」という質問を受けました。預金通帳は既に再発行してもらっていて、落とした通帳は使えなくなっているそうですが、拾った人が現れて、お金を請求されるのが心配とのことです。調べてみたところ、面白い結果になりましたので、以下、簡単に説明させていただきます。


落し物を拾って届けてくれた人に報労金を支払わなければならないか、については、遺失物法という法律が規定しています。私としては、現金を拾ってもらった場合でなければ、特に報労金など支払う必要はないのではないかと思っていましたが、遺失物法281項は、「物件の返還を受ける遺失者は、当該物件の価格の百分の五以上百分の二十以下に相当する額の報労金を拾得者に支払わなければならない。(抜粋)」と規定しており、報労金の対象となる逸失物について、現金に限定してはいませんでした。つまり、現金に限らず、物件の返還を受けたときは、その物件の価格の5%20%を報労金として支払わなければならないようです。

では、通帳の場合、遺失物法281項にいう「物件価格」はどのように評価したらよいのでしょうか?


実際に通帳の価値を直接算定した裁判例があれば話は早いのですが、そのような裁判例は見つかりませんでした。そこで、類似の問題として、有価証券の拾得者への報労金算定について、裁判例の動向を見てみることにしました。


すると、株券について「価格は額面額や時価そのものではなく、・・・遺失者が損害を受ける危険の程度を標準として決定すべきである」と判示する裁判例(大阪高判平成20 125日)や、手形について「遺失手形の価格はその手形の遺失者が手形を遺失したことによつて受ける経済的な不利益又は危険と他面その手形の拾得と返還によつて遺失者が受ける危険防止の利益すなわち経済的利益とを基礎として算定するのが相当である。」とする裁判例(名古屋地判昭和4034日)がありました。

また、小切手についても同様に、「小切手が現金化され又は第三者に善意取得されて遺失者が財産上の損害を被る危険の程度を勘案し、当該小切手金額及び右危険の程度を考慮して「物件の価格」を定めるべきである。」と判示した裁判例(東京高判昭和58 628日)があります。この事件においては小切手が現金化される可能性は絶無であったとして、小切手金額の2%の金額をもって、遺失物法281項の「物件の価格」とする、としています(例えば、100万円の小切手であったとすれば、100万円×0.02×0.05(遺失物法281項に定める下限割合5%)=1000円 が報労金ということです。)。

以上のように、有価証券の金銭評価は、遺失者に経済的損害が発生する「危険性」をもって判断するようです。本件で問題となっている預金通帳は有価証券ではありませんが、有価証券と同じ議論ができるとすれば、通帳を遺失したことにより発生しうる経済的不利益又は危険(通帳を使って口座から預金が下ろされ、財産上の損失を被る可能性がどのくらいあったか)を考慮して報労金が算出されると考えることができます。

この点、2009年に、残高800万円の通帳及び印鑑を拾得した者が報労金支払いを求めて提訴した事件がありましたが、この事件は、和解によって30万円の報労金支払にて解決しています(平成22113日新潟地裁長岡支部)。そこでは、800万円×0.75×0.0530万円 という計算式が推測されますので、通帳残高の75%相当が「物件の価格」とされたのではないかと考えられます。これは、通帳のみならず印鑑も一緒に落とした事案であったため、比較的容易にお金を引き出されて遺失者が経済的損失を被る危険性がありましたので、「物件の価格」が高く設定されたのではないでしょうか。

したがって、私に質問した人の場合のように、通帳を落としただけで、印鑑や暗証番号情報等が拾得者に知れていないような場合は、通帳だけで預金を引き出せる可能性はかなり低いので、報労金が発生するとしても極めて少額なのではないかと予想しています。

いずれにしても、何かを落として、後日警察から「出てきましたよ」などと電話があったときは、報労金のことを心配しなければならないようですね。私は携帯電話が見当たらなくなって慌てることがよくあるのですが、携帯電話の場合は報労金はいくらになるのでしょう。最近の携帯はお財布機能等いろいろ付いていますから、「物件の価格」や「経済的損害」の算定も複雑になりそうですね。

民法改正: 契約のルールが百年ぶりに変わる (ちくま新書)
民法改正: 契約のルールが百年ぶりに変わる (ちくま新書)


   現在、民法の改正作業が進められています。   
   2009年11月に、法務大臣の諮問機関である法制審議会の民法(債権関係)部会で、民法改正についての審議がスタートし、2011年5月には「中間的な論点整理」が公表され、6月にはパブリックコメントが実施され、7月からはパブリックコメントを踏まえて、また審議が開始され、2013年までに中間試案を取りまとめる予定だそうです。

   この民法改正作業について、何故今、改正が必要なのか? どのような点が改正の対象になりそうなのか? といった疑問に答えてくれるのがこの本です。新書ということもあり、法律関係の仕事をしている人だけでなく、一般の人にも理解しやすいように平易に説明されています。

   この本によれば、民法を改正する必要性・理由は次の3点あります。

 1つ目は、現行民法はとてもわかりにくいということです。民法第95条の錯誤規定のように、条文を読んだだけでは意味が分からない、具体的な事案について規範内容が導けないことが多いため、膨大な判例法というものが形成されているのですが、民法典を読んでも、一般の国民がどう行動してよいかわからないのでは、一般国民にルールを提示すべき法律の役目を果たしていないことになります。私も、常々この点は感じますね。特に、不当利得と不法行為は、何とかしてもらいたい。

 2つ目は、現行民法は古すぎるということです。現行民法が制定されたのは、日清戦争が終了した1年後の1896年(明治29年)のことです。どのような時代だったかというと、その7年前にようやく新橋・神戸間で東海道線が開通し(東海道新幹線ではなく、東海道線です。)、3年後に、東京・大阪間で長距離電話ができるようになった時代とのことです。したがって、当然のことながら、現行民法は現代社会に対応できていないことになります。例として、消滅時効制度、法定利息、約款、預金取引、サービス提供契約、不可抗力による免責、事情変更の原則などが挙げられています。私の弁護士としての実感としても、そのとおりという気がします。

 3つ目は、国際化に対応できていないということです。グローバル取引の時代を迎え、今、各国で民法の改正が行われており、これから準拠法をどの国の法律にするか等々で、国際競争が行われようとしています(というか現に行われているのでしょう。)。その際に、古臭くて、穴だらけで、判例や学説を調べなければ、具体的に裁判で使われている規範が確定できないような民法では、たちうちできないということです。日本国民及び日本の法曹は、諸外国に引けを取らない知的水準にあると思うのですが、道具が悪くて負けてしまうなんて、とてももったいないことです。我が国の発展のために、民法改正を実現しなければならないという気になりました。 

   以上のようなことが、現行民法の制定過程に遡って、また具体例も多数挙げて、わかりやすく述べられています。民法改正の議論を早わかりするには最も適した本だと思いますので、おすすめ致します。

 ところで、著者の内田貴先生についてですが(弊事務所の弁護士はいずれも、面識はもありませんが)、民法改正作業のため、東京大学法学部教授の職を2007年に辞め、現在は法務省民事局参与として民法改正作業に従事されているとのことです。内田先生が東京大学出版から出している民法の教科書は、司法試験受験生であれば一度は参照したことがあるといっても過言ではないでしょう。とてもわかりやすいくて定評のある教科書です。末は大学者になると思っていましたが、教授の地位を投げ打って、民法改正に身を投じるとは。その心意気に感じ入りました。弊事務所の弁護士は、「民法が改正されるとまた新法を覚えなければならなくなるから、改正に反対」などと、器の小さい議論は決して致しません。

 内田先生を応援しています。


1. オリンパスの危機対応の進捗状況 
   オリンパス事件は、どんどん進展してゆきます。
 1月17日に、オリンパスの監査役等調査委員会が、監査役や監査法人の責任を調査し、調査報告書を公表しました。これを受けて、同社は、同日、元・現監査役5人に計10億円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こしたことが報道されています。
 また、1月18日には、同社の高山社長が会見を行い、4月後半に臨時株主総会を開催し、高山社長が臨時総会で辞任する方針であることを正式に表明したことが報道されました。
 さらに、1月20日には、東京証券取引所がオリンパスの上場を維持することを発表しました。

 昨年12月6日に公表された第三者委員会の報告書では、「サラリーマン根性の集大成」などと批判された同社ですが、近時の危機対応を見ていると、さすが「世界のオリンパス」といった感じです。「サラリーマン根性」も、悪い方に働くと、今回の損失隠しのようなことになってしまいますが、良い方向に働くと、こんなにもスピード感をもって高い水準の危機対応ができる、ということなのかもしれません。

2. 本エントリーの検討課題 
   ところで、今回のエントリーでは、ちょっと前に戻って、1月10日に公表された、取締役責任調査委員会の調査報告書107頁~114頁に記載されている、マイケル・ウッドフォード氏の代表取締役解職等の取締役会決議に賛成した各取締役の善管注意義務違反の問題について取り上げたいと思います。ご承知のとおり、ウッドフォード氏は、昨年10月14日に開催のオリンパス取締役会での決議により、代表取締役等の役職を解職されたわけですが、その決議に賛成した取締役(とはいっても、出席した取締役の全員が賛成し、反対者はいませんでした。)に、善管注意義務違反があったのか、それともなかったのか、という問題です。

3. 報告書の結論 
    報告書では、今回の損失隠し等に関与し、又はこれを認識していた3名の取締役及び1名の監査役については、そもそも違法行為を隠蔽せずに解消すべき義務があるのに、①2011年9月以降のウッドフォード氏による疑惑指摘について取締役会できちんと議論しようとせず、②損失先送りについて認識がない取締役に対し事実を隠蔽し、③ジャイラスや国内3社のM&Aに関しては違法と言われるような問題は何もないとの虚偽の説明を続け、④ウッドフォード氏と付き合いが浅く同人のことを良く知らない取締役に対してウッドフォード氏のことを非難して解職に賛成する方向に導いたとして、善管注意義務違反を認定しています(報告書110頁)。これはいわば故意犯ですので、誰にとっても異論がないところでしょう。 
   しかし、今回の損失隠し等に関与又は認識していなかった者以外の取締役(11名 以下「非関与・不認識の取締役」)については、「ウッドフォード解職に賛成した理由は、その認識の当否は別にして、ウッドフォードの社長としての適性に疑問を持ったためであり、指摘されている疑惑についてどう対応してゆくかを取締役会等の場で議論してゆくことについては、ウッドフォード解職とは別問題として、その必要性を認識しており、そうする意思はあったものとして認められる。」(報告書113頁)と認定し、「損失先送りの事実を認識していない各取締役が、ウッドフォード氏による疑惑指摘後にとった行動は、取締役としての善管注意義務(違法行為の疑いを指摘された場合には調査する義務)に違反するものであるという評価まではできないと考える。」(報告書113頁)と結論付けているのです。


4. 私の感想 
    しかし、報告書だけからしか事実関係がわからないのであまり軽々しく言うべきではないのですが、この非関与・不認識の取締役の善管注意義務違反を認定しなかった判断については、ちょっと違和感を覚えたというのが私の率直な感想です。前回の更新から少々間があいたのは、仕事が忙しかったということもありますが、この問題について自分の考えがまとまらなかったという面が大きいです。以下、報道等からしか本件を知らない外部の見解に過ぎませんが、私の考えを述べてみたいと思います。  


5. 違和感の原因 
   私が報告書の結論に違和感を覚えた原因としては2つあります。1つ目は、善管注意義務違反を認定する際の『判断基準』がそれ以前の「国内3社の株式取得に関する取締役の善管注意義務違反」及び「ジャイラス買収に係るFA報酬支払に関する善管注意義務違反」の検討の際のものとは違うのではないかという点、2つ目は、非関与・不認識の取締役らがウッドフォード氏の解職決議に賛成した理由についての事実認定がちょっと不自然なのではないかという点です。


 6. 報告書が認定する解職決議に至るまでの経緯 
   まず、報告書が認定する、ウッドフォード氏の代表取締役解職決議に至るまでの経緯について見てみましょう(ちょっと省略しますので、詳しい内容を知りたい方は、報告書に直接あたってみてください。)。

 報告書によれば、

 (1)    2011年7月31日、ウッドフォードは知人から、「オリンパス『無謀M&A』巨額損失の怪」と題するFACTA8月号の翻訳記事を入手し、本件国内3社の取得額及びジャイラス株式取得に関するFA報酬額について疑念を抱いた。  

(2)    ウッドフォードは、菊川会長、森副社長らにFACTAの記事の真相を問い質したが、期待するような返答を得られなかった。  

(3)    9月20日には、「オリンパスの『尻尾』はJブジッリ 巨額M&Aの闇を暴く調査報告第2弾」と題するFACTA10月号が発行され、ウッドフォードは翻訳記事も読んだ。  

(4)    9月23日から28日にかけて、イギリスにいるウッドフォードから森又は菊川に対し、連日EメールでM&A疑惑に関する質問や資料提出(英語への翻訳も含む。)要請がなされた。このやり取りは、CCで他の役員にも送付されるとともに、日本、欧州及び米国のアーンスト・アンド・ヤング(会計事務所)にも送付された。  

(5)    9月30日定例取締役会が開催され、ウッドフォードは、前日来日して、菊川、森と会談したうえで、この取締役会に出席した。この取締役会では、もともと予定されていた議案の他に、10月1日付でウッドフォードをCEOに任命すること、第1階層及び第2階層の人事に関する取締役会への提案権をウッドフォードに与えること、10月1日以降の経営執行会議には菊川は出席しないこと等が決議された。その際、ウッドフォードは、 
・   FACTAが指摘する内容をきちんと確認しておきたいというのが、Eメールでのやり取りを行った理由である。 
・   昨日、菊川及び森と話し合うことによって、非常に建設的な理解に達した。
・   誰も個人的な利益を得たりしていないことは確信できたので、前向きに未来に目を向けていくつもり。 
といったことを述べた。  

(6)    10月3日、イギリスに戻ったウッドフォードは、資料をプライスウォーターハウスLegal LLP(「PwC」)に渡して調査を依頼し、10月11日に、「不適切な行為が行われた可能性を排除することはできない。」「不適切な会計処理や財務アドバイス、取締役の忠実義務違反を含む、他の違法行為の可能性もある。」等と記載された中間報告書を入手した。  

(7)    PwCの中間報告書を入手したウッドフォードは、菊川宛10月11日付書簡で、「私の見解では、ジャイラスをはじめ、実質的に価値のない企業を買収したという問題は、オリンパスの下級職員ではなく、最上級管理職員によって取引が行われたことから、さらに悪い事態だと言えます。」「現状に至ってはもはや擁護できない事態であることが明白であり、これから前向きに進む上での対策として、あなた方両者(菊川・森)が役員会を辞職することが必要です。」「もし、あなたに辞任の意思がないということであれば、私の代表取締役の責務として、当社のガバナンスに関して私が持つ基本的な懸念をしかるべき団体に提起することになります。」等と述べて、菊川及び森の辞任を求めるとともに、同書簡とPwCの中間報告書を、全ての役員及び日本、欧州及び米国のアーンスト・アンド・ヤングにEメールで送付した。  

(8)    これを受け、10月13日夜に、菊川は、ウッドフォード以外の取締役を集めて、これまでの経緯を説明し、「9月30日の取締役会では一緒に前を向いてやっていこうというようなことで終わったと思っていたのに、社長とはいえ、独断でPwCに資料を持ち込んで調査を依頼しておりけしからん。」「独断専行に過ぎ、社長として任せておくこことは問題だ。」といったようなことを述べ、明日の臨時取締役会でウッドフォードを解職する予定であることを告げた。  

(9)    10月14日午前9時の臨時取締役会の議題は、「過去のオリンパスの買収案件について」であったが、当日、議案変更ということで、ウッドフォードの解職等が審議され、特別利害関係者たるウッドフォードを除く出席者全員の賛成で可決された。所要時間は5分足らずであった。  

(10)   10月14日のウッドフォード解職決議に賛成した(非関与・不認識の)取締役は、自身の経験として、あるいは伝聞として、ウッドフォードについて、以下のような思いを抱いていた。  

①     オリンパスはメーカーであり、中・長期的視野が必要であるが、ウッドフォードは短期的な業績を重視し、理解が得られないことが多い。  

②     製品に一つでもミスがあると致命的になるので、製造現場は本当に大変な苦労をしてやっているのであるが、社長に就任してからも製造現場(工場)に足を運んでくれず、製造現場の苦労を理解してもらえないように感じる。  

③     欧米流ということなのかもしれないが、事業の進め方や人事施策において、理解しにくい面がある。  

④     日本にいないことが多く、十分なコミュニケーションがとりにくい。 

⑤     9月30日の取締役会では、社内の関係者が個人的な利益を得たというようなことはないことが確信できた、非常に建設的な理解に達した、前を向いて進んでいこうというような趣旨の発言をしており、FACTA指摘の疑惑に関してどう対応するかは引き続き取締役会等の場で議論していくということであろうと理解していたのに、その後、議論の提案はなく、すぐにイギリスに戻って資料をPwCに提供し調査依頼をし、いきなり10月12日に、PwCの中間報告書を添えて、菊川に対し、菊川及び森が辞任しないのであれば、しかるべき機関に訴えるという書簡が送付されてきた。今後、取締役会等で議論していくものであるはずなのに、何の呼びかけもなく、日本からも離れ、しかも、不正の事実を断定しているわけでもない中間報告書を根拠に、辞任しなければしかるべき機関に訴えるというのは、ちょっとやり方として違うのではなかろうか。

   以上のような経緯を認定したうえで、報告書は、「損失先送りを認識していない各取締役は、それぞれ差はあるものの、自らの経験から、あるいは伝聞情報から、ウッドフォードの社長としての資質に疑問を持ち、このままウッドフォードが代表取締役でいることは会社のためにもならないのではないかと思い、10月14日の臨時取締役会において、海外にいたため欠席であった渡邉及び来間を除く全員が、解職に賛成した。」(報告書112頁)とか「損失先送りの事実を認識していない取締役がウッドフォード解職に賛成した理由は、その認識の当否は別にして、ウッドフォードの社長としての適性に疑問を持ったためであり、指摘されている疑惑についてどう対応していくかを取締役会等の場で議論していくことについては、ウッドフォードの解職とは別問題として、その必要性を認識しており、そうする意思はあったものとして認められる。」(報告書113頁)とか述べて、「菊川、森、山田らの事実隠蔽に基づく虚偽説明を信用し、ウッドフォードによる疑惑指摘を軽視してしまったという結果については、コーポレートガバナンスの視点からは十分反省すべきものではあるが」と断りつつも、「損失先送りの事実を認識していない各取締役が、ウッドフォード氏による疑惑指摘後にとった行動は、取締役としての善管注意義務(違法行為の疑いを指摘された場合には調査する義務)に違反するものであるという評価まではできないと考える。」(報告書113頁)と結論付けたのです。 

7.善管注意義務違反の判断基準について 
   前述したように、私の第一の疑問点は、善管注意義務違反有無の判断基準です。
   報告書では、ウッドフォード解職よりも前に検討されている「国内3社の株式取得に関する取締役の善管注意義務違反」及び「ジャイラス買収に係るFA報酬支払に関する善管注意義務違反」の問題の箇所では、この基準について次のように述べられています。 

「会社経営は、時々刻々変化する諸々の要素を的確に把握して総合評価し、短期的・長期的な将来予測を行ったうえ、時機を失することなく経営判断を積み重ねてゆかなければならないことから、取締役には、その職務を遂行するにあたり、広い裁量が与えられているものと解されている(経営判断の原則)。そのため、取締役の経営判断に関する善管注意義務違反の責任に関しては、 
① 経営判断をする前提となった事実の認識の過程(情報収集とその分析・検討)に不注意な誤りがあり合理性を欠いているか否か 
② その事実認定に基づく判断の推論過程及び内容が明らかに不合理なものであったか否か 
という観点から、取締役の判断に許容された裁量の範囲を超えた善管注意義務違反があるか否かを判断する」 (報告書71頁)

   この判断基準は、過去の判例において確立されてきたものであり、学説においてもほぼ異論のないところだと思います(江頭憲治郎『株式会社法 第4版』437頁)。 

   ところが、ウッドフォードの解職決議の箇所では、この基準に言及されていません。すなわち、非関与・不認識の取締役らが今回の解職決議に賛成する前提となった事実について、「ウッドフォードの社長としての資質に疑問を持ち、このままウッドフォードが代表取締役でいることは会社のためにもならない」との取締役の認識を認定後、そのような認識に至った情報収集と検討に不注意な誤りがないか、その事実認定に基づく判断の推論過程及び内容に明らかに不合理な点はないか、などの上記の基準による篩(ふるい)をかけないまま、直ちに、「損失先送りの事実を認識していない取締役がウッドフォード解職に賛成した理由は、その認識の当否は別にして、ウッドフォードの社長としての適性に疑問を持ったためであり、〔中略〕取締役としての善管注意義務(違法行為の疑いを指摘された場合には調査する義務)に違反するものであるという評価まではできない」と結論付けているのです。

   もし上記の判断基準が採用されているとすれば、取締役らが、解職決議に賛成した判断の前提となった事情、すなわち、①ウッドフォードは短期的な業績を重視し、中長期的視野について理解が得られないこと、②製造現場(工場)を訪問せず、製造現場の苦労を理解しくれないこと、③事業の進め方や人事施策において、理解しにくいこと、④日本にいないことが多く、十分なコミュニケーションがとれないこと、というような事情については、(イ)どこから収集した情報で、本当に事実なのか?(ロ)事実だとしても、ウッドフォードの方針や進め方にはデメリットしかないのか?(ハ)コミュニケーションの問題は、英語が使えるというメリットもあるのではないか?(ニ)そもそもウッドフォードの資質はオリンパスの業績を低迷させていたのか?というようなことを検討しなければならないのではないかと思われます。 

   また、取締役らの認識の⑤については、取締役会としての「和」を乱すな的な、手続に関する不満であると思われますが、今回の問題は、国内3社及びジャイラスのM&Aを進めてきた取締役らの責任追及という面を孕むのですから、取締役会の「和」を重視して事にあたることなど不可能なように思われます。FACTAの記事やPwCの中間報告書が存在していたにもかかわらず、自らは何も調べもしないで、ウッドフォードの今回の行動(独自に調査して責任追及をした行動)を社長としての適性に問題があると捉えた推論過程に合理性があると言えるのか、少々疑問が生じます。 
   したがって、仮にウッドフォードの解職決議に賛成することの善管注意義務違反の認定について、報告書が国内3社買収についての善管注意義務及びジャイラス買収の際のFA報酬についての善管注意義務違反を認定したときと同じ「判断基準」を使っていたら、結論は異なってきたのではないかと思います。 

   しかし、今回改めて考えてみると、代表取締役の解職決議については、会社の業務に関する決議とは異なって、上記の判断基準は使われないと考える理論的な余地があるのではないかと考えた次第です。というのは、代表取締役の交替自体は、ただちに会社に損害をもたらす性質のものではありません。例えば、ジャイラス買収に関する多額のFA報酬の支払に賛成すれば会社に直ちに損害が発生しますが、オリンパスの社長がウッドフォードから高山氏に変わっても(その間に菊川氏が社長になっていますが)直ちにオリンパスに損害が発生するわけではありません。また、法律論としても、株主総会が取締役を解任するには、特に理由は必要なく、ただ正当な理由がないときは、取締役に発生した損害を賠償しなければならないと定められています(会社法第339条)。そうであれば、取締役会が代表取締役を解職する場合も、特に理由は必要ない、いちいち、情報収集、その検証及びこれに基づく推論過程について不合理なところがなかったか、などと考える必要はない、と考えることができそうです。 

   何冊かの基本書にあたってみましたが、このようなことを言っているものはなかったので、私の一人説かもしれませんが、報告書の記載を合理的に説明するには、このように考えるしかないだろうと思った次第です。
 皆さんは、どのように考えますでしょうか?


8.事実認定について

    私のもう一つの違和感は、事実認定についてです。既に見たように、報告書は、(非関与・不認識の)取締役らは、ウッドフォードの社長としての資質に疑問を持ったから解職に賛成したのであり、指摘されている疑惑について調査する必要性と意思は有していた、との趣旨の事実認定をしているのですが、どちらもピンと来ませんでした。 

   第1に、ウッドフォードは、2011年4月1日付で社長執行役員に就任、同年6月29日の株主総会後に代表取締役社長執行役員・COOに就任し、解職決議のわずか14日前の取締役会(9月30日)において、CEOに就任しています。9月30日の取締役会でのCEO就任には、何となく、菊川氏、森氏とウッドフォードとの間で、これ以上責任を追及しないかわりにCEOにするというようなバーター取引のにおいがしますが、非関与・不認識の取締役らは、そのようなことを認識しえないはずですから、社長としての資質があると思ってCEOの就任決議に賛成したということでしょう。
   したがって、10月14日の解職決議に賛成した理由としては、ウッドフォードの社長としての資質ではなく、上記の取締役の認識⑤の今回の問題について「和」を乱すようなやり方が適当でないと思ったというところが大きかったのではないでしょうか。 

   第2に、非関与・不認識の取締役らに、「指摘されている疑惑について、どう対応していくかを、取締役会等で議論していくことについて〔中略〕必要性を認識しており、そうする意思はあった」という認定についてですが、非関与・不認識の取締役らは、菊川氏、森氏らの提案を受け入れて、ウッドフォード解職に賛成したのであり、菊川氏、森氏が国内3社やジャイラス買収を進め、何も不正はなかったとの立場であったことからすれば、そこでいう「対応」とは、更に深く調査するというような対応では『ない』と考えられます。つまり、これ以上調査するつもりはなく、せいぜい、マスコミ等で騒がれたときに、それを静める方向で対応するということのように思えるのです。 

   報告書では、非関与・不認識の取締役について、調査の意思があったことを補強する事実として、「少なくとも、損失先送りの事実を認識していない取締役の中に、第三者委員会を立ち上げて、指摘されている疑惑について調査してもらうことについて消極的な意見を表明する者がいたという事実は認められず、10月21日にはプレスリリースで第三者委員会の設立準備を進めていることも明らかにし、相応のスピード感で11月1日には第三者委員会を設立し、それが11月8日の真相判明につながっている。」(報告書113頁)と認定しているのですが、これは、10月14日に解職された後、ウッドフォード社長がマスコミのインタビューに応じ、マスコミが騒ぎ始め、オリンパスが不正はないと説明したにもかかわらず、あまりにも買収価格やFA報酬等の金額が巨額で疑わしかったため、企業が存続するために、第三者委員会を立ち上げざるを得なかったというのが本当のところではないでしょうか。むしろ、第三者委員会が立ち上がってから、1週間ちょっとしか経過していないのに、不正が明らかになるほど疑わしい事実だったのに、何故、取締役会として解明できなかったのか?というところが重視されるべきではないでしょうか。 

   ただ、報告書を作成する立場からすれば、本人たちが調査をする意思はあったと述べているときに、客観的な証拠がない中で、事実経過だけで、「非関与・不認識の取締役らは、菊川氏、森氏の説明を不注意に信じたので、調査をする意思はなかった」などとは認定できなかったかもしれませんね。また、そのような認定をした場合、現取締役のほとんどに善管注意義務違反があったということになり、今後の対応もやりにくくなるという配慮も事実上影響したかもしれません。
   皆さんはどう思われますか?

 企業法務を行っている弁護士からすると、オリンパス事件は、『企業の危機管理の生の教材』というべきものであり、自分が相談を受けたらどのように助言するかという観点でみると、とても考えさせられます。

 1月10日に公表された同社の取締役責任調査委員会の報告書によると、現取締役11名のうち高山社長を含む6名について、(今回の損失隠し等の問題には直接の関与又は認識がなかったものの)国内3社の株式買収金額を決めた取締役会や、ジャイラス買収のFA報酬等を決めた取締役会において、職務上要請される調査を尽くさずに承認してしまったことに善管注意義務違反があると認定しました。これに基づいて、オリンパスは、高山社長を含む現取締役6名に対しても、1月8日に東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したとのことです。そして、今後の対応について、同社は、「責任ありと判断され提訴されるに至った現取締役は、当社の業務執行に支障をきたさないよう、業務の引継を完了させた上で、平成24年3月から4月を目途に開催する予定の臨時株主総会時をもって、全員取締役を辞任する予定であります。」とのプレスリリースをしています。

 

 ただ、1月9日の当ブログの私の記事でちょっと触れましたが、今後、責任があるとされた者が過半数を占める取締役会で、少なくとも3月から4月開催予定の臨時株主総会までは業務を行い、経営体制の刷新案(陣容と意思決定の仕組み等)などを作成することの問題については特に触れられていません。この点は、同社と利害関係を有しない社外の有識者で構成される経営改革委員会による指導・勧告や、次期株主総会への提案事項について同委員会の事前の審議・承認を受けることによって、ある程度はカバーされるということなのかもしれませんが、同委員会の委員は、これまで同社に関与したことのない『社外』の有識者ですので、どうしても原案は、現取締役会や(現取締役のもとで業務を行っているオリンパスの)担当部署が作っていかざるをえないものと思われ、現経営陣の意向がある程度反映される可能性はあるように思います(もちろん、反映されることが直ちに悪いと言っているわけではありません。)。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       


 そこで、私などは、①一見して不自然な株式購入やFA報酬の問題性を見破ることができず、②月刊誌FACTAで問題が指摘されたにもかかわらず特に動かず、③反対に、問題を指摘したマイケル・ウッドフォード元社長を(出席した取締役の)全員一致で解職してしまった現取締役会に、経営体制刷新案(特に、次期の取締役候補が重要)が提案できるのか、また、そのような現取締役会の提案を、はたして株主が承認してくれるのかということが心配になってしまいます。


 しかし、「では、今すぐにでも臨時株主総会を開催して、新たに取締役を選任しなおすというドラスティックな対応が適当なのか?」と言われれば、それはそれでちょっと考え込んでしまいます。理想論としてはそうなのでしょうが、結局、候補者をどうするのか等々、問題も多く、仮に現取締役会の推薦する候補者対ウッドフォード元社長の擁立する候補者で委任状獲得合戦が行われるような展開になるとかなりの混乱も予想されます。「サラリーマン根性の集大成」などと批判されたオリンパスの閉鎖的な企業体質では、(外部から取締役を連れてきて経営させるというような)ドラスティックな改革では、かえって組織自体がもたない可能性がある、という認識もあり得るかもしれません。つまり、現実的な選択肢ではないとも考えられるということです。


 危機管理的には、臨時株主総会で新取締役(新体制)について承認が得られるようにすることが最重要課題であると考えられますので、臨時株主総会まで混乱がなく、かつ総会で主要株主からも承認も得られそうなやり方がベストと言うことになりそうです。この種の問題は、法的な問題というよりは、オリンパスという会社の体質や、オリンパスの株主である国内の主要な株主の動向をどう読むかの「読み」の問題が重要なのです。そして、現在、オリンパスで危機管理についてアドバイスしている専門家の読みとしては、今のようなやり方が最も混乱がなく、かつ、これで臨時株主総会の承認も得られるということなのでしょうね。私のような潔癖症の人間は、責任がある者が過半数を占める現取締役会に次期取締役候補者を選ばせること等にはちょっと抵抗がありますが、報道を見ても、確かにこの点はあまり問題視されていませんので、今のところ、うまくいっているとは言えそうです。

 ただ、オリンパスの企業体質は、温存されてしまうかもしれませんが・・・・

オリンパス事件は、どんどん進行していきますね。
今日(1月9日)の日経新聞の朝刊には、8日に、オリンパスが、菊川前社長らに損害賠償を求めて東京地方裁判所に訴訟を提起したことが載っています(8日は日曜日なので、裁判所の宿直の窓口に訴状を提出したということなのか、郵便で訴状を裁判所に発送したということなのか、それとも先週中に訴えを提起して、そのことを8日に発表したということなのかちょっと記事からではわかりません。)。損失隠しに関する新旧取締役の責任を調べていた取締役責任調査委員会がまとめた報告書を踏まえて提訴したということのようです。
注目すべきは、訴えを提起した対象者として、損失隠しを主導したと言われている菊川氏、森前副社長、山田前監査役の他に、「高山修一社長〔中略〕も対象としたももようだ。」と書かれている点です。
この記事にもあるとおり、高山社長は、「経営債権にめどをつけたうえで、自身を含む現経営陣が交代する方針を示している。」ところであり、少なくとも、3月~4月に開催予定の臨時株主総会までは、オリンパスの代表取締役(及び取締役)にとどまり、同社の改革案(原案)を作成していくことが予定されています。そうすると、過去の損失隠しに責任のある人が改革案(原案)を作成していくということになり、その正当性に疑問が生じないのかなという気がします(経営改革委員会でチェックするといっても、経営改革委員会の委員の人選もオリンパスの現取締役会で決められたものですので・・・)。可能性としては、高山社長の責任は、損失隠しを見破れなかったことであり、損失隠しを主導していた人たちほど責任は重くないので、しっかりした改革案を作ることはできるというような説明なのでしょうか?
「オリンパスは報告書の全文と提訴の内容などを10日に開示する」ということですので、このあたりをオリンパスがどのように説明するかがポイントとなりそうです。

 一昨日(1月5日)にアップした記事の続報になりますが、昨日(1月6日)の夕刊に、マイケル・ウッドフォード元社長が、3月~4月に開催予定のオリンパスの臨時株主総会で仕掛けようとしとしていた委任状争奪線を『断念する』と正式に表明したことが報道されています。その理由としては、自らの議案を提出させるために必要な支持を主要株主(特に日本国内の機関投資家)から得られないと判断したことと、ウッドフォード氏の奥様にとって、衆目を集める争いによる不安定さや家族に向けられる敵意が耐え難いものとなっていることが挙げられています。ただし、昨年10月の取締役会で、オリンパスの代表取締役を解任されたことについては、不当解雇として提訴を求める方針であるとも報道されているところです。

 以上は、昨日(1月6日)午後のウッドフォード氏の記者会見に基づく報道とのことですので、これから更に続報が続くものと思われますが、さしあたって、(あくまでも報道からしか事態を知り得ない第三者的な感想ですが)感想を述べると次のとおりです。

1.昨年12月にウッドフォード氏が取締役を自ら辞任したことについて、下の記事では、「実は大株主等の有力なスポンサーがいて、かなり高い勝算があるのか、明確な勝算はないが、とにかく正義心からそうせざるをえなかったのかのどちらかだと思います。」と述べましたが、今回の件で、少なくとも大株主等の有力なスポンサーがいなかったことは明らかになったと思います。

2.ウッドフォード氏は、昨年10月に代表取締役を解任された件で、オリンパスを不当解雇として訴える方針のようですが、そうであれば、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を自ら辞任してしまったことについては、戦略として適当なものであったのか疑問が残ります。

 というのは、この種の紛争でよく行われる訴訟類型としては、(代表取締役を解任した)取締役会決議の効力を争い、依然として代表取締役の地位にあることの確認を求める訴え(又は仮処分)なわけですが、ウットフォード氏が、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を辞めてしまったことにより、取締役会決議の効力が無効となっても、もはや代表取締役には復帰できないため、そのような訴訟類型を選択する余地がなくなったと思われるからです(訴えても、訴えの利益なしとして却下されるものと思われます。)。

 したがって、提訴するとすれば、代表取締役を解任されたことが民法第709条の不法行為にあたるとして、損害賠償請求をするということになりそうですが、ただ、その場合、①不当な解任決議をしたのは当時のオリンパスの個々の取締役なので、訴える相手は、オリンパスという会社ではなく、(不当な解任決議に賛成した)個々の取締役になるのではないか?②自ら取締役を辞任してしまった昨年12月以降の分については、役員報酬の減額等について、代表取締役解任に伴う「損害」として観念し得ないのではないのか?という問題があるように思います。

 下の記事で触れたように、そもそも今回の件ではウッドフォード氏に、役員報酬の減額があったのか自体が問題になるところですが、仮にそれがあるとしても、上記②の論点で、取締役辞任後の役員報酬の減額等については損害を請求できないという結論になった場合には、ウッドフォード氏の損害の内容は、代表取締役解任やそれに伴うプレス発表により名誉等を傷つけられたことによる精神的損害が主なものということになそうです。しかし、精神的損害ということになると、せいぜい数千万円単位の請求金額に過ぎませんので、(もちろん我々にとっては大きな金額ですが)企業のトップにいたような方にとってはそれほど実益のある金額ではないかもしれません。

 今後、ウッドフォード氏がどのような訴訟を提起するかについても注目していきたいと思います。

弁護士の飛田です。昨年末の弊事務所のメルマガに載せた文章ですが、時事ネタなので、今の時期にブログにもアップさせていただきます。

 企業法務の世界における今年(2011年)の最大の事件は、何と言ってもオリンパス事件でしょう。

 読者の皆さんの方が詳しいかもしれませんが、簡単に振り返ってみると、今から2ヶ月くらい前の10月14日の夕刊紙で、突然、オリンパスのマイケル・ウッドフォード社長が、同社取締役会で代表取締役を解職されたと報道されたのが発端です。当初のオリンパスの発表では、ウッドフォード氏が日本の文化的風土に配慮を欠いた経営をしたことが原因という説明でしたので、外国人経営者によくありがちな問題だな、などと考えていましたが、同氏のインタビュー等により、実際には、2008年に同社が実施した英国の医療機メーカーの買収に伴いFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払われた手数料や、同年に国内3社を買収したときの買収金額があまりにも多額であったことが問題であり、ウードフォード氏が、買収を進めた菊川会長や森社長の辞任を要求したところ、逆に解職されてしまったことが明らかになりました。

 そこから、何か裏にありそうだということで騒ぎが大きくなり、10月26日付で、菊川会長兼社長と森副社長が、(騒ぎの責任をとってと言うことだと思いますが)退任し、新たに高山専務が社長に就任しました。

 ただ、その時点では、まだオリンパスの説明では「買収の手続も金額も訂正」ということでしたが、11月1日に同社内に弁護士・会計士等から構成される第三者委員会が設置されて調査に乗り出したところ、11月8日には、手数料や買収額が多額だったことは過去の損失隠しと関連していたことが発表されたのです。すなわち、オリンパスでは、1990年代の財テクの失敗により金融資産の含み損が1000億円を超えていたところ、2001年の時価会計の導入によりそれが表面化することを回避するため、2000年ころ、含み損を抱えた金融商品を海外の投資ファンドに移す「飛ばし」が行われ、それがそのまま解消されないまま逆に膨らんできたので、2008年に行われた企業買収の手数料や買収代金を多額にして、それを損失解消のために使ったということでした。

 その後、12月6日に、第三者委員会は最終報告書(オリンパスのホームページで読むことができます。)を提出し、翌7日には、オリンパスから、その報告書を踏まえた今後の対応が発表されています(とても手際が良い!)。この対応では、取締役会の委嘱機関として、オリンパスとは利害関係のない有識者で構成される経営改革委員会を設置し、経営体制の見直し等について指導・勧告・答申を受けるということと、来年3月から4月にかけて、臨時株主総会を開催して、経営体制を刷新することが骨子となるようです。新聞報道では、この臨時株主総会において、役員は総退陣するような報道がなされていますが、会社の発表を見る限り、そこまで突っ込んだコミットメントはなされていないようです。現在は、この経営改革委員として、弁護士らが選任されたこと等が報道されています。

 オリンパス事件では、その他に、今後、東京証券取引所がオリンパスの上場を廃止する判断をするのか、他社による買収があるのか、増資をするのか、旧経営陣らに対する刑事責任の追及はどうなるのか等々、様々な動きがあるところです。この問題が表面化した約2ヶ月前から、怒涛の勢いで事態が動いているという感じで、この案件に関わっている、弁護士・会計士の方はさぞ大変なのではないかと思いますし、初期のころを除いて、結構、タイムリーかつ適切な対応がなされているように思いますので、「かなりやるな」という感想を持っています。
  
   ところで、ようやく本題です。

 このように、オリンパスを巡っては、現在、様々な動きがあるわけですが、私が最も注目しているのは、マイケル・ウッドフォード氏の動きです。同氏は、取締役会で代表取締役を解職されたものの、株主総会で取締役であることの解任決議されたわけではありませんので、代表取締役解職後も、オリンパスの取締役にとどまっていました。代表取締役を解職された後、様々なところでマスコミの取材に応じていましたので、動向を注目していましたが、11月30日の日経新聞の報道では、同氏がトップ復帰に改めて意欲を表明したとの趣旨の記事がでていましたので、このまま内部にとどまって改革を進めるのかなと思っていました。しかし、12月1日には、自ら申し出て、オリンパスの取締役を辞任してしまいました。その際、「新たな経営陣を構成する取締役の候補者を提案すべく、あらゆるステークホルダーと連携していく。現経営陣に直ちに臨時株主総会を招集することを求める。」との声明を出しています。したがって、外部の大株主と連携して、臨時株主総会で取締役に選任してもらうという形で外部からオリンパスを改革していくものと考えられ、一部では、臨時株主総会で、オリンパスの現経営陣とウッドフォード氏との間で委任状取得合戦が行われるのではないかという報道もなされているところです。
  
    どうしてウッドフォード氏の動向に注目しているのか?ですって。一般にはちょっとうっかりするところなのですが、企業法務の観点からすると、取締役報酬がいったん具体的に定められたら、その金額は取締役と会社間の契約内容となるので、代表取締役を解職されていわゆる平取締役になっても、本人の同意がない限り、株主総会等の決議等によっても、その金額を変更できないというのが最高裁判例(平成4.12.18民集46巻9号6006頁)です。下級審の中には、あらゆる場合について本人の同意が必要というのではちょっと厳しすぎると思ったのか、取締役の報酬等が個人ごとではなく、役職ごとに定められ、任期中に役職の変動が生じた取締役に対し当然に役職につき定められた報酬等の額が支払われている会社において、当該報酬等の定め方・慣行等を了知した上で取締役に就任したような場合は、任期中の役職の変動に伴う報酬等の減額に黙示に同意したものと判断するものもあります(東京地判平成2.2.20判時1350号138頁)。しかし、会社法第339条第2項が、(取締役会よりも更に上位の機関である)株主総会が(正当な理由がなく)取締役を解任したような場合にすら、(解任自体は認めるものの)損害(残任期の報酬額合計と解釈されている。)を賠償しなければならないと定められていることとの均衡から、このような黙示の同意は簡単に認められるべきではないと解されています(安易に黙示の同意を認めなかった最近の判例として、福岡高判平成16.12.21判タ1194号271頁)。

 何が言いたいかというと、オリンパスとウッドフォード氏との間でどのような(取締役報酬に関する)契約が締結されていたかがわからないので安易な推測はできませんが、オリンパスの2011年の有価証券報告書によると、12人の(社内)取締役の報酬額の上限が約6億2900万円ですので、単純に12で割ったとしても約5200万円になり、ウッドフォード氏は、アメリカの企業のプロのCEOまではいかないにしても、それなりに高い報酬を貰っていたものと思われます。そして、その報酬は、ウッドフォード氏が自ら辞めない限り、残任期中は保障されていた可能性が高かったのです。それを投げ打って、外部からオリンパスの改革を図ろうとするのは、ちょっと生き方として感じるところがあります。実は大株主等の有力なスポンサーがいて、かなり高い勝算があるのか、明確な勝算はないが、とにかく正義心からそうせざるを得なかったのか、のどちらかだと思いますが、ウッドフォード氏は、イギリスのオリンパスの子会社から、本社の社長になった人で、いわゆる会社から会社を渡り歩くプロの経営者ではないようですので、私としては後者のような感じがしております。いずれにしても、この先も、オリンパス事件、特にウッドフォード氏の動向には注目してきたいと思います。

明けましておめでとうございます。
弊事務所は本日(1月5日)から本年の業務を開始致しました。
昨年は、震災・津波・原発・猛暑・台風と色々なことがありましたが、
本年は、明るいニュースが沢山ある1年にしたいですね。
我々にはやるべきことが沢山あります。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

35

(写真は、1月3日のFUJITENスキー場から眺めた富士山です。)

 ウイズダム法律事務所のマーク及びロゴが完成致しました。
 デザイナーの渡邊幹人(わたなべみきと)先生にお願いして、作成していただいたものです。マークの説明については、下記をご参照ください。

W11
 
【マークについて】
 WISDOMのWをもとに、「Win」と「Victory」をコンセプトにデザインされたものです。
   「We win the victory.」 
 お客様・クライアントのために、勝利を勝ち取っていくという想いが込められております。

【ロゴについて】
 伝統的な明朝体を前提としつつ、近代的なスタイルを取り入れたフォントで構成されています。
 伝統や実績を大切にしながらも、新しいものを取り入れていこうという事務所の方針を示しています。
 
【色調について】
 冷静さ、知性、誠実さ、信頼等を象徴する青色を基調としています。
 冷静さと知性をもって、誠実に取り組み、お客様・クライアントから、社会から信頼される事務所になろうという想いが込められております。

 所員一同、とても気に入っています。
 このマークに負けないよう、頑張っていきたいと思います。

1.土地区画整理組合とは何か?

 土地区画整理事業とか土地区画整理組合とかいうと馴染のない方も多いかもしれません。そこでまず、土地区画整理事業とか土地区画整理組合とは何かというところから説明しましょう。

 土地区画整理事業とは、土地区画整理法に基づき施行される事業のことです。土地区画整理法第1条によると、「公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、土地の区画形質の経項及び公共施設の新設又は変更を行う事業」と定義されていますが、イメージ的にいうと、一面田んぼで土地の区画もばらばらな地域を市街地化するために、道路、上下水道、公園等の公共施設を整備し、田んぼを宅地化して、さらに土地の区画を整備しなおす(土地登記の区画も整備もする)事業のことなのです。よく郊外や地方にいくと駅前などで「○○土地区画整理事業」などと看板が掲げられているところが見られますが、そのようなところで土地区画整理事業が行われているのです。

 土地区画整理事業のやり方としては、施行地区内に土地を持っている地権者が少しずつ土地を供出して(これを「減(げん)歩(ぶ)」といいます。)、その供出された土地で、道路、公園等の公共施設を整備するとともに、「保留地」を作って事業資金の調達のために第三者に売却するという方法をとります。他方、もともとの地権者に対しては、通常、もともとの土地(「従前地」といいます。)の価値に応じて仮換地の指定がなされて、工事や保留地の売却が終了した後に換地処分が行われ、登記上も区画が整備された土地を取得することになるのです。

 このような土地区画整理事業は、市町村などの地方公共団体が施行主体となることもあれば(同法3条3項)、一定の地区の地権者が、その地区の地権者の3分の2以上の同意を得た上で、都道府県知事の認可を受けて組合を設立し、その組合が施行主体となって行われることもあります(同法3条2項、14条、18条参照)。この場合の組合が「土地区画整理組合」です。ちなみに、土地区画整理組合は、民法上の「組合」とは違い、自らが権利を有し義務を負担することができる「法人」です(同法22条)。  

2.地方公共団体と土地区画整理組合との関わり

 ところで、市町村等の地方公共団体が土地区画整理事業の施行者となる場合を「公共団体施行」、組合が施行者となる場合を「組合施行」などと呼ぶことがありますが(法的にはこの区別ははっきりしているものの)、実態的には、この区別が曖昧な場合が多いのです。

 というのは、地方公共団体側がある一定の地区を市街地化しようとする場合に、自らが地権者側と対立的な立場に立たされることを回避するために、その地区の自治会等に働きかけて、地権者に土地区画整理組合を設立させ、土地区画整理事業を行わせることがあるからです。

 形式的には組合施行ですが、実質的には、公共団体が主導して組合が設立され、事務局の運営も公共団体の職員又はOBによって行われ、地権者(組合員)側の意識としても、自らが事業を行っているという意識が希薄である場合が多くあります。そのため、ひとたび組合が破たんし、組合員に責任の分担が求められるようになると、組合員の公共団体に対する不満が噴出し、公共団体に強く支援(助成)要請がなされることになります。この点は後述します。  

3.土地区画整理組合の窮境の原因
 では、どうして土地区画整理組合が、現在、経済的破綻に陥っているのでしょうか。

 その原因は、多くの場合、バブル経済の崩壊に伴う地価の下落に求められます。すなわち、組合では、農地を宅地化したり、区画を整備したりするための事業資金が必要になりますが、その事業資金は前述した通り、組合員である地権者の土地を減歩し、保留地予定地を作り出して、これを第三者に売却することによって調達されます(土地区画整理法96条1項参照)。

 しかし、保留地予定地が販売できるようになるまでには工事等に時間がかかるので、それまでの繋ぎの事業資金として、金融機関からの借入が利用されているのです。かつての右肩上がりの土地神話が有効であった時代には、このような借入れをしても何ら問題はありませんでしたが、バブル期に設立された組合は、高騰した地価を基礎に事業計画が立てられているにもかかわらず、バブル崩壊によって保留地予定地をかなり安く売らざるを得なかったため、結局、事業資金に不足が生じ、金融機関に対する返済資金ができなくなっています。

 これまでは、利息を支払うことによって、何とか問題の解決を先延ばしにしてきましたが、近時は利息すら支払えない組合も多く、金融機関が組合を相手方として裁判所に貸付金返還訴訟を提起するなどして、この問題は表面化してきています。実数を掴んでいるわけではありませんが、全国的には経済的に破綻し、事業が事実上凍結状態にある組合がかなり存在すると聞いています。  

4.再建の方向性

 土地区画整理組合の再建には、一般事業会社の再建のように、企業の永続性を考慮する必要がないため(つまり、土地区画整理をやり遂げれば、あとは解散となる)、比較的単純です。組合には、保留地予定地という財産があるので、まず何よりも、これを売却して資金化することが必要です。その上で土地区画整理事業を完成するのに足りない事業資金は、再減歩または賦課金により、組合員の自助努力で賄うことが原則になります。

 ただし、ここで念頭に置いている破綻組合の多くは、設立から相当の年数が経過しており、既に施行地区内の土地利用が進んでいて、改めて再減歩を行うことが事実上不可能である場合が多いため、具体的な自助努力の方策としては、賦課金が選択される場合が多いと思われます。そして、それでも足りない事業資金については、地方自治体に助成を求めたり、金融機関に債権放棄を求めたりすることで解決を図ることになります。

 この、

① 保留地予定地の売却

② 組合員からの賦課金の徴収

③ 地方公共団体への助成要請

④ 金融機関への債権放棄要請

 の4点が再建策の柱になるのです。
5.法的手段の選択

 このような土地区画整理組合の破綻案件を処理するのに、どのような法的手段を選択するのが適当でしょうか?実務家として真っ先に思い浮かぶのが破産手続です。

① 破産手続

 学説では、そもそも土地区画整理組合が破産をすることができるか否かを巡って争いがあります。かつては公法人である土地区画整理組合には破産能力がないとする見解が通説でしたが、今日では、破産清算の結果、法人格を消滅させることを是認できない国や地方公共団体の他、その法人限りで資産・負債の精算の必要のないものを除き、広く破産能力を認めるべきであるというのが有力な見解です。

 しかし、これまでの実務では、土地区画整理組合に破産手続が利用されたことは報告されていません。

 私としても、理論の点は措くとして、実務的な観点からすると、破産手続では、土地区画整理組合の破綻を適切に処理することは難しいと考えています。

 なぜなら、第一に、経済的に破綻している組合の大部分は、換地処分に至る前に、金融機関に対し借入金を返済できず、事業が頓挫している組合だからです。したがって、組合の唯一の財産というべき保留地は、まだ保留地『予定地』の段階にあり、未だ組合の所有物ではなく(土地区画整理法 104条11項参照)、破産管財人がこれを換価しようとしても、換価のしようがないのです。つまり、この時点での組合には、自己の資産がないので、破産手続を利用すること自体に無理があるのです。

 第二に、仮に破産管財人が事業を継続して、換地処分を行うことを前提にするとしても、換地処分を行うには、調査設計費などに数千万単位でお金がかかるので、その資金をどこから調達するかという問題が生じます。組合員から賦課金を徴収するには、組合員で組織される総会の決議が必要ですが(同法31条7号)、組合員との間に地縁的な繋がりのない破産管財人が、組合員に賦課金の負担を説得するのはかなり難しいでしょう。

② 民事再生手続

 では、民事再生手続であればどうでしょうか?民事再生手続であれば、組合事業の継続を前提としますし、かつ、(管財人ではなく)組合自身が事業を遂行できますので、破産手続よりは破綻処理に適しているものといえます。実際にこれまでに、二つの土地区画整理組合の破綻処理において民事再生手続が利用されているようです。

 ただし、一部に誤解があるようですが、民事再生手続を利用すれば、組合員が賦課金を負担しなくてもよくなるというわけではありません。民事再生手続においても、金融機関側は、組合員の賦課金による負担を求めるのが通常であって、それがなければ債権者集会で再生計画に賛成してもらうことは難しいのです。

 そもそも、通常の組合にとって、取引銀行は1行~5行程度(しかも、地銀、信金、信組、農協が殆ど。)であって、民事再生手続を利用しなければ処理できない債権者数でもありません。

 したがって、私としては、特に金融機関側から民事再生を利用するようにとのリクエストがある場合や、多数決原理によって再生計画の成立を強制できる見込みが立っているような場合を除いて、民事再生手続を選択することは適当ではないのではないかと考えています。

③ 私的整理・特定調停

 以上から、土地区画整理組合の破綻処理には、手続が柔軟な私的整理や特定調停が適当なのではないかと考えています。ただし、最近の実務の傾向として、行政や金融機関は、手続きの透明性を担保のため裁判所の関与を求めてくる傾向があるため、その意味では、特定調停の利用が最も適当なのかもしれません。組合が金融機関から訴えられている場合には、訴訟の中で和解をすることが考えられます。  

6.再建のポイント

 最後に、私が考える土地区画整理組合再建のポイントについて触れることにします。

① 賦課金について

 まず、なんといっても賦課金についてです。ここでの法律関係を説明すると、金融機関は、組合員に対して、直接、組合に対する貸付金の返済を請求できるわけではありません。まして、個々の組合員に対し、組合に賦課金を納付するよう請求できるわけではありません。組合員は、組合の総会で、賦課金の額及び賦課金徴収方法が決議されない限り、組合員に対して賦課金納付義務を負わないのです(土地区画整理法31条7号)。

 それにもかかわらず、金融機関側が、賦課金決議を求めてくるのはどうしてでしょうか。それは、金融機関にとってみれば、金融機関から借り入れた資金によって施行地区内が整備され、それによって個々の組合員の土地の価値が増加したのですから、その増加によって得た利益のいくらかでも、借入金の返済のために吐き出してもらいたいということでしょう。そうでなければ、金融機関の犠牲のもとで組合員のみが利益を得ていることになり、金融機関側としては到底容認できない結論なのだと考えられます。実際、私が調べた限り、組合員が賦課金を決議せずに、金融機関が債権放棄に応じた案件はないようです。

 ただ、ここで問題となるのが、果たして賦課金の額をいくらにしたらよいかという問題と、組合員に対し賦課金の負担をどのように説得するかです。

 前者については、組合員が得た利益とはいっても具体的な金額で表せるようなものではなく、一義的な答えがあるわけではありません。結局、組合の借入金総額、施行地区内の土地の時価水準、組合員の負担能力、他の同規模の組合との比較などを勘案して、適当な落とし所を求めるしかないのでしょう。

 次に、後者も難問です。法律的には、組合員が賦課金を負担せず、金融機関との間で再建計画の合意が成立しないのであれば、組合はいつまでたっても換地処分ができず、組合員は換地に応じた登記を取得できません。いわば半完成品のような土地を取得したままの状態が続くことになります。

 しかし、単に仮換地を使用するだけでよいと考えている組合員にとっては現状のままでも何らかの不利益があるわけではありません。したがって、そのような組合員にとっては、賦課金を負担するインセンティブを欠くこととなり、賦課金決議に反対することが多いのです。私としては、それはそれで仕方がないので、組合員にありのままの法律関係を誠実に説明し、その判断を仰ぐしかないと考えています。

 実際の案件では、賦課金の総会を開催するまでに、何度も賦課金に関する説明会を開催し、また、組合員から寄せられた典型的な質問にはQ&Aを作成して、これを配布するなどして、賦課金に関する理解を深めていただくことになります。さらに、総会直前には、理事や総代に各組合員を個別に訪問していただき、総会への出席や賦課金への賛成を説得していただくことになります。組合員といっても、大きな組合では1,000人を超えることもあり、その多くはサイレント・マジョリティなので、このようないわば選挙活動のようなことをしなければ、実際には、総会で賦課金決議を得ることは難しいと感じています。

② 保証人の取り扱いについて

 保証人の取り扱いは、土地区画整理組合の再建にとって難問中の難問の一つです。組合の借入れについて、一般に理事が連帯保証人となっていることが多く、金融機関との間で和解等を行うには、この理事の保証の問題をどのように取り扱うかが問題です。

 一般の会社の再建案件であれば、代表取締役等が保証人になっている場合、保証人である以上、自己破産していただくか、自分には財産がないことを証明してもらうか(あれば金融機関への配当にあてていただく)ということになるでしょう。

 しかし、土地区画整理組合の場合、理事は、公共事業に協力するつもりで保証人になっていることが多く、本当に保証意思があったといえるか疑問があるケースが多々見受けられます。それに加えて、理事には、金融機関との和解が成立した後も、組合員からの賦課金の徴収等で働いてもらわなければならず、その理事に自己破産をするのと同じ程度の個人負担を求めることは期待できません。多くの組合において理事の高齢化が進んでおり、新たな理事の担い手もいないことも問題を複雑にしているのです。

 そこで、組合の連帯保証人(理事)については、あえて責任を追及しない取り扱いや、一律一定額までの負担で保証を解除するような柔軟な取り扱いができないか、という点が今後の課題となると考えています。

③ 地方公共団体の助成

 前述のとおり、多くの組合では、市や町といった地方公共団体が設立や運営に深く関与しており、組合員からも、地方公共団体側の責任を問う声が強いのが普通です。

 私としても、法的責任の有無は別にして、行政側が組合の設立及び運営に積極的に関与しているような組合については、行政の助成がなされることが適当であると考えています。なぜなら、土地区画整理事業には、公共施設を整備し、健全な市街地を造成することにより、公共の福祉の増進に資するという公共目的が含まれているのであって(同法1条参照)、単に施行地区内の地権者の利益だけのために行われているわけではないからです。また、地方公共団体側が事態をこのまま放置し、地域の荒廃を招くとすれば、全体にとってより大きな不利益になるでしょうし、設立や運営を主導していた行政が、何らの負担もしないことになれば、行政への信用が失われ、無形のダメージが発生すると考えられるからです。

 ただ、近時、市民オンブズマンなどの活動により、地方公共団体が組合救済のために助成金を支出すると、地方公共団体の長に対して住民訴訟が提起される傾向があります。私としては、日韓高速船事件の最高裁平成17年11月10日判決の示す基準からして、議会決議等の一定の手続きを踏めば、そのような住民訴訟を提起されても、地方公共団体側が敗訴する可能性はほとんどないと考えていますが、住民訴訟が頻発していること自体により、現実には、行政に対して相当の委縮効果がもたらされているのでしょう。

 組合側の弁護士としては、地方公共団体側が、組合を助成しやすいように、裁判所を関与させ、あえて裁判所から和解勧告を出してもらったり、調停手続きでは、いわゆる17条決定を出してもらったりするなどの手段を講じることが有効であるように思われます。 
弁護士 飛田 博
2010年12月8日

↑このページのトップヘ