企業法務を行っている弁護士からすると、オリンパス事件は、『企業の危機管理の生の教材』というべきものであり、自分が相談を受けたらどのように助言するかという観点でみると、とても考えさせられます。

 1月10日に公表された同社の取締役責任調査委員会の報告書によると、現取締役11名のうち高山社長を含む6名について、(今回の損失隠し等の問題には直接の関与又は認識がなかったものの)国内3社の株式買収金額を決めた取締役会や、ジャイラス買収のFA報酬等を決めた取締役会において、職務上要請される調査を尽くさずに承認してしまったことに善管注意義務違反があると認定しました。これに基づいて、オリンパスは、高山社長を含む現取締役6名に対しても、1月8日に東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したとのことです。そして、今後の対応について、同社は、「責任ありと判断され提訴されるに至った現取締役は、当社の業務執行に支障をきたさないよう、業務の引継を完了させた上で、平成24年3月から4月を目途に開催する予定の臨時株主総会時をもって、全員取締役を辞任する予定であります。」とのプレスリリースをしています。

 

 ただ、1月9日の当ブログの私の記事でちょっと触れましたが、今後、責任があるとされた者が過半数を占める取締役会で、少なくとも3月から4月開催予定の臨時株主総会までは業務を行い、経営体制の刷新案(陣容と意思決定の仕組み等)などを作成することの問題については特に触れられていません。この点は、同社と利害関係を有しない社外の有識者で構成される経営改革委員会による指導・勧告や、次期株主総会への提案事項について同委員会の事前の審議・承認を受けることによって、ある程度はカバーされるということなのかもしれませんが、同委員会の委員は、これまで同社に関与したことのない『社外』の有識者ですので、どうしても原案は、現取締役会や(現取締役のもとで業務を行っているオリンパスの)担当部署が作っていかざるをえないものと思われ、現経営陣の意向がある程度反映される可能性はあるように思います(もちろん、反映されることが直ちに悪いと言っているわけではありません。)。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                       


 そこで、私などは、①一見して不自然な株式購入やFA報酬の問題性を見破ることができず、②月刊誌FACTAで問題が指摘されたにもかかわらず特に動かず、③反対に、問題を指摘したマイケル・ウッドフォード元社長を(出席した取締役の)全員一致で解職してしまった現取締役会に、経営体制刷新案(特に、次期の取締役候補が重要)が提案できるのか、また、そのような現取締役会の提案を、はたして株主が承認してくれるのかということが心配になってしまいます。


 しかし、「では、今すぐにでも臨時株主総会を開催して、新たに取締役を選任しなおすというドラスティックな対応が適当なのか?」と言われれば、それはそれでちょっと考え込んでしまいます。理想論としてはそうなのでしょうが、結局、候補者をどうするのか等々、問題も多く、仮に現取締役会の推薦する候補者対ウッドフォード元社長の擁立する候補者で委任状獲得合戦が行われるような展開になるとかなりの混乱も予想されます。「サラリーマン根性の集大成」などと批判されたオリンパスの閉鎖的な企業体質では、(外部から取締役を連れてきて経営させるというような)ドラスティックな改革では、かえって組織自体がもたない可能性がある、という認識もあり得るかもしれません。つまり、現実的な選択肢ではないとも考えられるということです。


 危機管理的には、臨時株主総会で新取締役(新体制)について承認が得られるようにすることが最重要課題であると考えられますので、臨時株主総会まで混乱がなく、かつ総会で主要株主からも承認も得られそうなやり方がベストと言うことになりそうです。この種の問題は、法的な問題というよりは、オリンパスという会社の体質や、オリンパスの株主である国内の主要な株主の動向をどう読むかの「読み」の問題が重要なのです。そして、現在、オリンパスで危機管理についてアドバイスしている専門家の読みとしては、今のようなやり方が最も混乱がなく、かつ、これで臨時株主総会の承認も得られるということなのでしょうね。私のような潔癖症の人間は、責任がある者が過半数を占める現取締役会に次期取締役候補者を選ばせること等にはちょっと抵抗がありますが、報道を見ても、確かにこの点はあまり問題視されていませんので、今のところ、うまくいっているとは言えそうです。

 ただ、オリンパスの企業体質は、温存されてしまうかもしれませんが・・・・

1 はじめに
  かねてから「有期労働契約の在り方」について審議をしてきた労働政策審議会が、平成23年12月26日、厚生労働大臣に対して、建議を行ったことが公表されました。
  厚生労働省のサイトの下記のページにて、公表されています。
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z0zl.html
  これを受けて、厚生労働省は、次期通常国会にて法改正を目指す予定のようです。
  そこで、本記事においては、会社の経営者や人事担当者の方々のために、いずれなされるであろう法改正に備えて、どのような内容の法改正がされるのか(建議内容の紹介)と法改正に対して使用者側はどのような対応をすべきか(対応方法)についての私見を述べさせていただきたいと思います。



2 建議内容の重要ポイント
  まずは、建議の内容のうち、使用者側の対応に影響を与えうる重要ポイントを下記にまとめてみます。建議の全てを確認されたい方は、下記URLをクリックしてください(厚生労働省のサイト内にアップされているPDFファイルとなっております)。
  http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000001z0zl-att/2r9852000001z112.pdf

(1) 有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応

① 有期労働契約が、同一の労働者と使用者との間で5年(以下「利用可能期間」という。)を超えて反復更新された場合には、労働者の申出により、期間の定めのない労働契約に転換させる仕組み(転換に際し、期間の定めを除く労働条件は、別段の定めのない限り従前と同一とする。)を導入することが適当
  たとえば、1年間の有期労働契約を締結した労働者を5回契約更新して継続雇用した場合に、労働者から「期間の定めのない契約にしてください」という申し出があったときには、1年間の有期労働契約ではなく、期間の定めのない労働契約に転換することになるということを意味しています。また、転換後の労働条件は、特に定めがない限り、従前と同一となるとしています。

② 一定期間をおいて有期労働契約が再度締結された場合、反復更新された有期労働契約の期間の算定において、従前の有期労働契約と通算されないこととなる期間(以下「クーリング期間」という。)を定めることとし、クーリング期間は、6月(通算の対象となる有期労働契約の期間(複数ある場合あっては、その合計)が1年未満の場合にあっては、その2分の1に相当する期間)とすることが適当
  たとえば、1年間の有期労働契約を締結した労働者を3回契約更新して継続雇用した場合(この時点で通算4年となる)に、次の更新をせずに期間満了で契約関係を解消し、6か月経過後に再度1年間の有期労働契約を締結した場合には、利用可能期間の算定の際には、通算4年とは合算されずに一からカウントされることになり
ます。

③ 制度導入後に締結又は更新された有期労働契約から、利用可能期間の算定を行うこととすることが適当


(2) 「雇止め法理」の法定化

・ 有期労働契約があたかも無期労働契約と実質的に異ならない状態で存在している場合、又は労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合には、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められない雇止めについては、当該契約が更新されたものとして扱うものとした判例法理(いわゆる「雇止め法理」)について、これを、より認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止するため、その内容を制定法化し、明確化を図ることが適当

(3) 契約更新の判断基準

・ 契約更新の判断基準は、労働基準法第15条第1項後段の規定による明示をすることが適当



3 使用者側の対応

  上記2の建議内容について、それが法制化された場合に必要となる使用者側の対応を中心に検討してみたいと思います。


(1) 「有期労働契約の長期にわたる反復・継続への対応」に関して

    制度導入後に締結又は更新された有期労働契約から、利用可能期間の算定を行うことになりますので、制度導入前に締結かつ更新されていた有期労働契約については、算定対象から外れることになります。
    したがって、実際に有期労働契約が期限の定めのない労働契約へ転換されるのは、制度導入から約5年後となります。

    いずれにしましても、会社にとっては、転換の対応を避けるためには、利用可能期間内に、期間満了による契約関係の解消(一般的に言われる「雇止め」。個人的には、「雇止め」というワードは、負の印象を受けるため使用を避けます。)をする必要があります。その際には、後述する(2)に留意しなければなりません。なお、クーリング期間を利用するということも理論的には考えられますが、クーリング期間中は、労働者は他の会社で勤めざるを得ませんし、会社としても代替する人員を雇用する必要がありますので、クーリング期間による対応は難しいでしょう。

    他方、転換を前提に労働者の雇用を継続する場合には、期間の定めのない契約に転換された後を見込んだ対応をしておく必要があります。パッと思いつくのは、解雇事由と定年制の整備です。
    実務的に有期労働契約者については、契約の中途解消(解雇)ではなく期間満了による終了(雇止め)で対応するというのが基本的対応です。しかしながら、転換後は、期間の定めがない契約になりますので、当然期間満了ということを待つことはできず、解雇(普通解雇又は懲戒解雇)で対応せざるをえなくなります。
    また、解雇事由がない場合、定年制の定めもなければ正社員の定年を超えても転換された元有期労働契約者は契約が終了しないことになってしまいます。
    この点、建議では、「転換に際し、期間の定めを除く労働条件は、別段の定めのない限り従前と同一とする」とされておりますので、別段の定め(労働契約、就業規則等)により転換後に適用される解雇事由や定年制を適切に定めておく必要があるものと考えられます。
    次に、この別段の定めを定める時期が問題となります。
    上記建議の法的な読み方として、「原則として条件同一」ということになりますので、転換の際に労働者側が拒否した場合には、条件が変更されないまま転換せざるをえなくなってしまう可能性も生じえます。
    具体的に法律がどうなるのかに注意する必要がありますが(したがって暫定的な見解として述べますが)、利用可能期間を超える更新がされる見込みがある場合には、転換時になってからではなく、雇入れ段階で、「本契約が期間の定めのない契約に転換された場合には、・・・なる。ただし、本規定は何ら更新を保障するものではない。」という条項についてもあらかじめ合意内容に取り込んでおくことが妥当ではないかと考えています。雇入れ段階であれば、合意をすることは難しくはないと思われますし、合意を拒否する者は採用しないという手段を採ることが可能だからです。


(2) 「『雇止め法理』の法定化」に関して

    当事者間で期間を定めた以上、期間の満了をもって契約が終了するのが原則です。
    しかしながら、判例上、例外的に、期間満了による終了に合理的理由を要求するという法理が確立しています。
   有期労働契約の終了場面の類型としては、

A 当然終了型……原則どおり、契約期間の満了によって当然に契約関係が終了する
B 実質無期型……期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態にいたっている
C 期待保護型……契約関係継続への合理的な期待が認められる
D 継続特約型……更新されることを前提に契約を締結した
と整理されるのが一般的です(菅野和夫著『労働法〔第9版〕』弘文堂、192頁参照)。


  Aの当然終了型は、亜細亜大学事件(東京地裁昭和63年11月25日判決・労判532-63)のほかニッセイテック事件(大阪地裁昭和59年2月2日判決・労判426-31)が代表的判例です。
  亜細亜大学事件では、非常勤講師として雇用契約が20回更新され21年間にわたって継続してきたものの、期間満了による契約終了に際して、制約を加える必要はないと判断されました。裁判所は、専任教員と非常勤講師との採用手続、担当職務内容その他の労働条件の相違、更新手続の存在や他の非常勤講師の更新状況等を考慮したうえで、上記の結論を導きました。


  Bの実質無期型は、東芝臨時工解雇事件(最高裁昭和49年7月22日判決・判タ312-151)が代表的判例です。
  この事件では、2か月の期間の定めのある契約を締結し、更新回数が5回ないし23回と重ねられた臨時従業員について、基幹臨時工としての業務内容が正規と差異がないこと、他の臨時工も自ら希望して退職するもののほか長期間にわたって継続雇用されていたこと、必ずしも契約期間満了の都度新契約締結の手続をとっていたわけでないこと等を考慮したうえで、「あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたものといわなければならず、……実質において解雇の意思表示にあたる、……そうである以上、本件各雇止めの効力の判断にあたっては、その実質にかんがみ、解雇に関する法理を類推すべきである」と判断されました。


  Cの期待保護型は、日立メディコ柏工場事件(最高裁昭和61年12月4日判決・判タ629-117)が代表的判例です。
  当初20日間の期間を定めて会社に雇用され、その後期間2か月の契約が5回更新された臨時員について、その業務の恒常性等に着目し、「その雇用関係はある程度の継続が期待されていたものであり、……このような労働者を契約期間満了によって雇止めにするに当たっては、解雇に関する法理が類推され〔る〕」と判断されました。


  Dの継続特約型は、福岡大和倉庫事件(福岡地裁平成2年12月12日判決・労判578-59)や龍神タクシー事件(大阪高裁平成3年1月16日判決・労判581-36)が代表的判例です。
  福岡大和倉庫事件では、組合との間で、「双方に支障がない限り契約期間満了後も契約更新を前提に協議する」との協定が締結されていた等の事情を考慮し、「雇用契約を終了させてもやむを得ないと認められる特段の事情が存しない限り、期間満了を理由として直ちに雇止めをすることは、信義則上からも許されないといわなければならない」と判断されました。


  以上のように、単に判例法理とはいっても、それぞれの事件に応じた事情を考慮して判断されており、目の前にある事案に対して裁判所はどのような判断を下すのかという問いに答えるのは簡単ではありません。
  今回の建議によれば、「より認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止するため、その内容を制定法化し、明確化を図る」とされていますので、会社側にとってもこの制定法化は望まれるところではないかと思われます。
  どのような法案になるのかは今後注目していく必要がありますが、

・ 適用要件(要件は総合考量にならざるをえないものと考えられます。)、
・ 判断要素(一般に上記判例で考慮されている①職務内容の臨時性・常用性、②更新回数、③通算期間、④更新手続、⑤期待を生じさせるような事情の有無等が挙げられると考えられます。)、
・ 適用された場合の効果(どの程度の制約が課せられるのかが問題となりえます。正社員との違いはあるとしても、類型間での制約の強さの違いはどうなるのかという点も含みます。)

について、できる限り明確なものとなることが紛争防止の観点からは望ましいと考えます。

  なお、改正は現在の判例法理を受けたものですので、現在採られている予防法務的対応は、基本的には改正後も活きつづけるものと思われます。
  そこで、その予防法務的対応のチェック事項(判例法理の適用リスクをできる限り抑えるためのチェック事項)を最後に列記しておきます。ぜひ、チェックしていただけたらと思います。

ア 契約内容面
    ・ 基幹業務に従事させない
    ・ 長期雇用を前提とした規定を外す
    ・ 当初から更新回数の上限を設けておく
イ 契約手続面
    ・ 更新手続及び管理を厳格に行う
    ・ 更新する場合には、期間満了前に新しい雇用契約書を作成する
    ・ 更新回数をできる限り重ねない
    ・ 期間満了とともに終了という先例を確立する
    ・ 問題がある労働者に対しては、更新しない。
   するとしても問題点を指摘し、改善がなければ次回は更新しない旨を明確に意思表示しておく
    ・ 最後の更新であれば、今回限りという特約を設けて合意する
        (ただし、特約の効力を否定される場合がある)
ウ その他
    ・ 労働者に対し、雇用継続を期待させる言動をしない
    ・ 適用される就業規則から、長期雇用を前提とした規定群を外す


(3) 「契約更新の判断基準」に関して

    現在、有期労働契約の「更新の有無」及びその「判断の基準」については、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平15厚労告357号、平20.1.23改正。以下「告示」といいます。)第1条によって明示することが求められています。もっとも、告示は、明示方法を規定しておらず、口頭によって明示することが許されています。
    更新基準の記載内容については、「労働基準法の一部を改正する法律の施行について」(平15.10.22基発1022001号、平20.1.23改正。以下「通達」といいます。)で、以下の例が記載されています。

「更新の有無」 
    a 自動的に更新する
    b 更新する場合があり得る
    c 契約の更新はしない
「判断の基準」
    a 契約期間満了時の業務量により判断する
    b 労働者の勤務成績、態度により判断する
    c 労働者の能力により判断する
    d 会社の経営状況により判断する
    e 従事している業務の進捗状況により判断する
    以上の告示及び通達に従い、実務上、雇用契約書又は通知書によって明示している会社が多いのではないかと思われますが、他方で、全く明示していない会社もまだまだ多いのではないかと推測されます。
    そこで、上記建議では、契約更新の「判断の基準」を、労働基準法第15条第1項後段の規定により明示することが適当であるとしております。
    労働基準法第15条第1項は、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。」と定めております。
    ここにいう「厚生労働省令で定める方法」は、労働基準法施行規則第5条第3項により、労働者に対する書面の交付とされています。
    すなわち、これまで告示及び通達レベルで要請されていた明示が、労働基準法レベルにより書面の交付による明示という要請に「格上げ」されることになります。
    この書面の交付による明示は法的義務であり、違反者は、労働基準法第120条第1号に基づき30万円以下の罰金に処される可能性があります。
    したがって、告示及び通達を知らず、あるいは知っていても告示及び通達レベルだからという理由でこれまで十分な明示をしてこなかった会社も、雇用契約書ないし通知書等の書面により明示するという対応をしなければならなくなります。
    もっとも、この書面による明示を現時点で実施していない場合には、法改正を待つまでもなく直ちに実施すべきであると考えます。上記(2)で述べたとおり、契約関係解消の場面においても更新手続の管理状況というのは重要な考慮要素になっており、その前提として労働者に対して更新の有無、更新条件を明確に通知しておくことは重要だからです。

オリンパス事件は、どんどん進行していきますね。
今日(1月9日)の日経新聞の朝刊には、8日に、オリンパスが、菊川前社長らに損害賠償を求めて東京地方裁判所に訴訟を提起したことが載っています(8日は日曜日なので、裁判所の宿直の窓口に訴状を提出したということなのか、郵便で訴状を裁判所に発送したということなのか、それとも先週中に訴えを提起して、そのことを8日に発表したということなのかちょっと記事からではわかりません。)。損失隠しに関する新旧取締役の責任を調べていた取締役責任調査委員会がまとめた報告書を踏まえて提訴したということのようです。
注目すべきは、訴えを提起した対象者として、損失隠しを主導したと言われている菊川氏、森前副社長、山田前監査役の他に、「高山修一社長〔中略〕も対象としたももようだ。」と書かれている点です。
この記事にもあるとおり、高山社長は、「経営債権にめどをつけたうえで、自身を含む現経営陣が交代する方針を示している。」ところであり、少なくとも、3月~4月に開催予定の臨時株主総会までは、オリンパスの代表取締役(及び取締役)にとどまり、同社の改革案(原案)を作成していくことが予定されています。そうすると、過去の損失隠しに責任のある人が改革案(原案)を作成していくということになり、その正当性に疑問が生じないのかなという気がします(経営改革委員会でチェックするといっても、経営改革委員会の委員の人選もオリンパスの現取締役会で決められたものですので・・・)。可能性としては、高山社長の責任は、損失隠しを見破れなかったことであり、損失隠しを主導していた人たちほど責任は重くないので、しっかりした改革案を作ることはできるというような説明なのでしょうか?
「オリンパスは報告書の全文と提訴の内容などを10日に開示する」ということですので、このあたりをオリンパスがどのように説明するかがポイントとなりそうです。

 一昨日(1月5日)にアップした記事の続報になりますが、昨日(1月6日)の夕刊に、マイケル・ウッドフォード元社長が、3月~4月に開催予定のオリンパスの臨時株主総会で仕掛けようとしとしていた委任状争奪線を『断念する』と正式に表明したことが報道されています。その理由としては、自らの議案を提出させるために必要な支持を主要株主(特に日本国内の機関投資家)から得られないと判断したことと、ウッドフォード氏の奥様にとって、衆目を集める争いによる不安定さや家族に向けられる敵意が耐え難いものとなっていることが挙げられています。ただし、昨年10月の取締役会で、オリンパスの代表取締役を解任されたことについては、不当解雇として提訴を求める方針であるとも報道されているところです。

 以上は、昨日(1月6日)午後のウッドフォード氏の記者会見に基づく報道とのことですので、これから更に続報が続くものと思われますが、さしあたって、(あくまでも報道からしか事態を知り得ない第三者的な感想ですが)感想を述べると次のとおりです。

1.昨年12月にウッドフォード氏が取締役を自ら辞任したことについて、下の記事では、「実は大株主等の有力なスポンサーがいて、かなり高い勝算があるのか、明確な勝算はないが、とにかく正義心からそうせざるをえなかったのかのどちらかだと思います。」と述べましたが、今回の件で、少なくとも大株主等の有力なスポンサーがいなかったことは明らかになったと思います。

2.ウッドフォード氏は、昨年10月に代表取締役を解任された件で、オリンパスを不当解雇として訴える方針のようですが、そうであれば、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を自ら辞任してしまったことについては、戦略として適当なものであったのか疑問が残ります。

 というのは、この種の紛争でよく行われる訴訟類型としては、(代表取締役を解任した)取締役会決議の効力を争い、依然として代表取締役の地位にあることの確認を求める訴え(又は仮処分)なわけですが、ウットフォード氏が、昨年12月にオリンパスの取締役であること自体を辞めてしまったことにより、取締役会決議の効力が無効となっても、もはや代表取締役には復帰できないため、そのような訴訟類型を選択する余地がなくなったと思われるからです(訴えても、訴えの利益なしとして却下されるものと思われます。)。

 したがって、提訴するとすれば、代表取締役を解任されたことが民法第709条の不法行為にあたるとして、損害賠償請求をするということになりそうですが、ただ、その場合、①不当な解任決議をしたのは当時のオリンパスの個々の取締役なので、訴える相手は、オリンパスという会社ではなく、(不当な解任決議に賛成した)個々の取締役になるのではないか?②自ら取締役を辞任してしまった昨年12月以降の分については、役員報酬の減額等について、代表取締役解任に伴う「損害」として観念し得ないのではないのか?という問題があるように思います。

 下の記事で触れたように、そもそも今回の件ではウッドフォード氏に、役員報酬の減額があったのか自体が問題になるところですが、仮にそれがあるとしても、上記②の論点で、取締役辞任後の役員報酬の減額等については損害を請求できないという結論になった場合には、ウッドフォード氏の損害の内容は、代表取締役解任やそれに伴うプレス発表により名誉等を傷つけられたことによる精神的損害が主なものということになそうです。しかし、精神的損害ということになると、せいぜい数千万円単位の請求金額に過ぎませんので、(もちろん我々にとっては大きな金額ですが)企業のトップにいたような方にとってはそれほど実益のある金額ではないかもしれません。

 今後、ウッドフォード氏がどのような訴訟を提起するかについても注目していきたいと思います。

弁護士の飛田です。昨年末の弊事務所のメルマガに載せた文章ですが、時事ネタなので、今の時期にブログにもアップさせていただきます。

 企業法務の世界における今年(2011年)の最大の事件は、何と言ってもオリンパス事件でしょう。

 読者の皆さんの方が詳しいかもしれませんが、簡単に振り返ってみると、今から2ヶ月くらい前の10月14日の夕刊紙で、突然、オリンパスのマイケル・ウッドフォード社長が、同社取締役会で代表取締役を解職されたと報道されたのが発端です。当初のオリンパスの発表では、ウッドフォード氏が日本の文化的風土に配慮を欠いた経営をしたことが原因という説明でしたので、外国人経営者によくありがちな問題だな、などと考えていましたが、同氏のインタビュー等により、実際には、2008年に同社が実施した英国の医療機メーカーの買収に伴いFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に支払われた手数料や、同年に国内3社を買収したときの買収金額があまりにも多額であったことが問題であり、ウードフォード氏が、買収を進めた菊川会長や森社長の辞任を要求したところ、逆に解職されてしまったことが明らかになりました。

 そこから、何か裏にありそうだということで騒ぎが大きくなり、10月26日付で、菊川会長兼社長と森副社長が、(騒ぎの責任をとってと言うことだと思いますが)退任し、新たに高山専務が社長に就任しました。

 ただ、その時点では、まだオリンパスの説明では「買収の手続も金額も訂正」ということでしたが、11月1日に同社内に弁護士・会計士等から構成される第三者委員会が設置されて調査に乗り出したところ、11月8日には、手数料や買収額が多額だったことは過去の損失隠しと関連していたことが発表されたのです。すなわち、オリンパスでは、1990年代の財テクの失敗により金融資産の含み損が1000億円を超えていたところ、2001年の時価会計の導入によりそれが表面化することを回避するため、2000年ころ、含み損を抱えた金融商品を海外の投資ファンドに移す「飛ばし」が行われ、それがそのまま解消されないまま逆に膨らんできたので、2008年に行われた企業買収の手数料や買収代金を多額にして、それを損失解消のために使ったということでした。

 その後、12月6日に、第三者委員会は最終報告書(オリンパスのホームページで読むことができます。)を提出し、翌7日には、オリンパスから、その報告書を踏まえた今後の対応が発表されています(とても手際が良い!)。この対応では、取締役会の委嘱機関として、オリンパスとは利害関係のない有識者で構成される経営改革委員会を設置し、経営体制の見直し等について指導・勧告・答申を受けるということと、来年3月から4月にかけて、臨時株主総会を開催して、経営体制を刷新することが骨子となるようです。新聞報道では、この臨時株主総会において、役員は総退陣するような報道がなされていますが、会社の発表を見る限り、そこまで突っ込んだコミットメントはなされていないようです。現在は、この経営改革委員として、弁護士らが選任されたこと等が報道されています。

 オリンパス事件では、その他に、今後、東京証券取引所がオリンパスの上場を廃止する判断をするのか、他社による買収があるのか、増資をするのか、旧経営陣らに対する刑事責任の追及はどうなるのか等々、様々な動きがあるところです。この問題が表面化した約2ヶ月前から、怒涛の勢いで事態が動いているという感じで、この案件に関わっている、弁護士・会計士の方はさぞ大変なのではないかと思いますし、初期のころを除いて、結構、タイムリーかつ適切な対応がなされているように思いますので、「かなりやるな」という感想を持っています。
  
   ところで、ようやく本題です。

 このように、オリンパスを巡っては、現在、様々な動きがあるわけですが、私が最も注目しているのは、マイケル・ウッドフォード氏の動きです。同氏は、取締役会で代表取締役を解職されたものの、株主総会で取締役であることの解任決議されたわけではありませんので、代表取締役解職後も、オリンパスの取締役にとどまっていました。代表取締役を解職された後、様々なところでマスコミの取材に応じていましたので、動向を注目していましたが、11月30日の日経新聞の報道では、同氏がトップ復帰に改めて意欲を表明したとの趣旨の記事がでていましたので、このまま内部にとどまって改革を進めるのかなと思っていました。しかし、12月1日には、自ら申し出て、オリンパスの取締役を辞任してしまいました。その際、「新たな経営陣を構成する取締役の候補者を提案すべく、あらゆるステークホルダーと連携していく。現経営陣に直ちに臨時株主総会を招集することを求める。」との声明を出しています。したがって、外部の大株主と連携して、臨時株主総会で取締役に選任してもらうという形で外部からオリンパスを改革していくものと考えられ、一部では、臨時株主総会で、オリンパスの現経営陣とウッドフォード氏との間で委任状取得合戦が行われるのではないかという報道もなされているところです。
  
    どうしてウッドフォード氏の動向に注目しているのか?ですって。一般にはちょっとうっかりするところなのですが、企業法務の観点からすると、取締役報酬がいったん具体的に定められたら、その金額は取締役と会社間の契約内容となるので、代表取締役を解職されていわゆる平取締役になっても、本人の同意がない限り、株主総会等の決議等によっても、その金額を変更できないというのが最高裁判例(平成4.12.18民集46巻9号6006頁)です。下級審の中には、あらゆる場合について本人の同意が必要というのではちょっと厳しすぎると思ったのか、取締役の報酬等が個人ごとではなく、役職ごとに定められ、任期中に役職の変動が生じた取締役に対し当然に役職につき定められた報酬等の額が支払われている会社において、当該報酬等の定め方・慣行等を了知した上で取締役に就任したような場合は、任期中の役職の変動に伴う報酬等の減額に黙示に同意したものと判断するものもあります(東京地判平成2.2.20判時1350号138頁)。しかし、会社法第339条第2項が、(取締役会よりも更に上位の機関である)株主総会が(正当な理由がなく)取締役を解任したような場合にすら、(解任自体は認めるものの)損害(残任期の報酬額合計と解釈されている。)を賠償しなければならないと定められていることとの均衡から、このような黙示の同意は簡単に認められるべきではないと解されています(安易に黙示の同意を認めなかった最近の判例として、福岡高判平成16.12.21判タ1194号271頁)。

 何が言いたいかというと、オリンパスとウッドフォード氏との間でどのような(取締役報酬に関する)契約が締結されていたかがわからないので安易な推測はできませんが、オリンパスの2011年の有価証券報告書によると、12人の(社内)取締役の報酬額の上限が約6億2900万円ですので、単純に12で割ったとしても約5200万円になり、ウッドフォード氏は、アメリカの企業のプロのCEOまではいかないにしても、それなりに高い報酬を貰っていたものと思われます。そして、その報酬は、ウッドフォード氏が自ら辞めない限り、残任期中は保障されていた可能性が高かったのです。それを投げ打って、外部からオリンパスの改革を図ろうとするのは、ちょっと生き方として感じるところがあります。実は大株主等の有力なスポンサーがいて、かなり高い勝算があるのか、明確な勝算はないが、とにかく正義心からそうせざるを得なかったのか、のどちらかだと思いますが、ウッドフォード氏は、イギリスのオリンパスの子会社から、本社の社長になった人で、いわゆる会社から会社を渡り歩くプロの経営者ではないようですので、私としては後者のような感じがしております。いずれにしても、この先も、オリンパス事件、特にウッドフォード氏の動向には注目してきたいと思います。

明けましておめでとうございます。
弊事務所は本日(1月5日)から本年の業務を開始致しました。
昨年は、震災・津波・原発・猛暑・台風と色々なことがありましたが、
本年は、明るいニュースが沢山ある1年にしたいですね。
我々にはやるべきことが沢山あります。
本年もどうぞ宜しくお願い申し上げます。

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(写真は、1月3日のFUJITENスキー場から眺めた富士山です。)

 ウイズダム法律事務所のマーク及びロゴが完成致しました。
 デザイナーの渡邊幹人(わたなべみきと)先生にお願いして、作成していただいたものです。マークの説明については、下記をご参照ください。

W11
 
【マークについて】
 WISDOMのWをもとに、「Win」と「Victory」をコンセプトにデザインされたものです。
   「We win the victory.」 
 お客様・クライアントのために、勝利を勝ち取っていくという想いが込められております。

【ロゴについて】
 伝統的な明朝体を前提としつつ、近代的なスタイルを取り入れたフォントで構成されています。
 伝統や実績を大切にしながらも、新しいものを取り入れていこうという事務所の方針を示しています。
 
【色調について】
 冷静さ、知性、誠実さ、信頼等を象徴する青色を基調としています。
 冷静さと知性をもって、誠実に取り組み、お客様・クライアントから、社会から信頼される事務所になろうという想いが込められております。

 所員一同、とても気に入っています。
 このマークに負けないよう、頑張っていきたいと思います。

1.土地区画整理組合とは何か?

 土地区画整理事業とか土地区画整理組合とかいうと馴染のない方も多いかもしれません。そこでまず、土地区画整理事業とか土地区画整理組合とは何かというところから説明しましょう。

 土地区画整理事業とは、土地区画整理法に基づき施行される事業のことです。土地区画整理法第1条によると、「公共施設の整備改善及び宅地の利用の増進を図るため、土地の区画形質の経項及び公共施設の新設又は変更を行う事業」と定義されていますが、イメージ的にいうと、一面田んぼで土地の区画もばらばらな地域を市街地化するために、道路、上下水道、公園等の公共施設を整備し、田んぼを宅地化して、さらに土地の区画を整備しなおす(土地登記の区画も整備もする)事業のことなのです。よく郊外や地方にいくと駅前などで「○○土地区画整理事業」などと看板が掲げられているところが見られますが、そのようなところで土地区画整理事業が行われているのです。

 土地区画整理事業のやり方としては、施行地区内に土地を持っている地権者が少しずつ土地を供出して(これを「減(げん)歩(ぶ)」といいます。)、その供出された土地で、道路、公園等の公共施設を整備するとともに、「保留地」を作って事業資金の調達のために第三者に売却するという方法をとります。他方、もともとの地権者に対しては、通常、もともとの土地(「従前地」といいます。)の価値に応じて仮換地の指定がなされて、工事や保留地の売却が終了した後に換地処分が行われ、登記上も区画が整備された土地を取得することになるのです。

 このような土地区画整理事業は、市町村などの地方公共団体が施行主体となることもあれば(同法3条3項)、一定の地区の地権者が、その地区の地権者の3分の2以上の同意を得た上で、都道府県知事の認可を受けて組合を設立し、その組合が施行主体となって行われることもあります(同法3条2項、14条、18条参照)。この場合の組合が「土地区画整理組合」です。ちなみに、土地区画整理組合は、民法上の「組合」とは違い、自らが権利を有し義務を負担することができる「法人」です(同法22条)。  

2.地方公共団体と土地区画整理組合との関わり

 ところで、市町村等の地方公共団体が土地区画整理事業の施行者となる場合を「公共団体施行」、組合が施行者となる場合を「組合施行」などと呼ぶことがありますが(法的にはこの区別ははっきりしているものの)、実態的には、この区別が曖昧な場合が多いのです。

 というのは、地方公共団体側がある一定の地区を市街地化しようとする場合に、自らが地権者側と対立的な立場に立たされることを回避するために、その地区の自治会等に働きかけて、地権者に土地区画整理組合を設立させ、土地区画整理事業を行わせることがあるからです。

 形式的には組合施行ですが、実質的には、公共団体が主導して組合が設立され、事務局の運営も公共団体の職員又はOBによって行われ、地権者(組合員)側の意識としても、自らが事業を行っているという意識が希薄である場合が多くあります。そのため、ひとたび組合が破たんし、組合員に責任の分担が求められるようになると、組合員の公共団体に対する不満が噴出し、公共団体に強く支援(助成)要請がなされることになります。この点は後述します。  

3.土地区画整理組合の窮境の原因
 では、どうして土地区画整理組合が、現在、経済的破綻に陥っているのでしょうか。

 その原因は、多くの場合、バブル経済の崩壊に伴う地価の下落に求められます。すなわち、組合では、農地を宅地化したり、区画を整備したりするための事業資金が必要になりますが、その事業資金は前述した通り、組合員である地権者の土地を減歩し、保留地予定地を作り出して、これを第三者に売却することによって調達されます(土地区画整理法96条1項参照)。

 しかし、保留地予定地が販売できるようになるまでには工事等に時間がかかるので、それまでの繋ぎの事業資金として、金融機関からの借入が利用されているのです。かつての右肩上がりの土地神話が有効であった時代には、このような借入れをしても何ら問題はありませんでしたが、バブル期に設立された組合は、高騰した地価を基礎に事業計画が立てられているにもかかわらず、バブル崩壊によって保留地予定地をかなり安く売らざるを得なかったため、結局、事業資金に不足が生じ、金融機関に対する返済資金ができなくなっています。

 これまでは、利息を支払うことによって、何とか問題の解決を先延ばしにしてきましたが、近時は利息すら支払えない組合も多く、金融機関が組合を相手方として裁判所に貸付金返還訴訟を提起するなどして、この問題は表面化してきています。実数を掴んでいるわけではありませんが、全国的には経済的に破綻し、事業が事実上凍結状態にある組合がかなり存在すると聞いています。  

4.再建の方向性

 土地区画整理組合の再建には、一般事業会社の再建のように、企業の永続性を考慮する必要がないため(つまり、土地区画整理をやり遂げれば、あとは解散となる)、比較的単純です。組合には、保留地予定地という財産があるので、まず何よりも、これを売却して資金化することが必要です。その上で土地区画整理事業を完成するのに足りない事業資金は、再減歩または賦課金により、組合員の自助努力で賄うことが原則になります。

 ただし、ここで念頭に置いている破綻組合の多くは、設立から相当の年数が経過しており、既に施行地区内の土地利用が進んでいて、改めて再減歩を行うことが事実上不可能である場合が多いため、具体的な自助努力の方策としては、賦課金が選択される場合が多いと思われます。そして、それでも足りない事業資金については、地方自治体に助成を求めたり、金融機関に債権放棄を求めたりすることで解決を図ることになります。

 この、

① 保留地予定地の売却

② 組合員からの賦課金の徴収

③ 地方公共団体への助成要請

④ 金融機関への債権放棄要請

 の4点が再建策の柱になるのです。
5.法的手段の選択

 このような土地区画整理組合の破綻案件を処理するのに、どのような法的手段を選択するのが適当でしょうか?実務家として真っ先に思い浮かぶのが破産手続です。

① 破産手続

 学説では、そもそも土地区画整理組合が破産をすることができるか否かを巡って争いがあります。かつては公法人である土地区画整理組合には破産能力がないとする見解が通説でしたが、今日では、破産清算の結果、法人格を消滅させることを是認できない国や地方公共団体の他、その法人限りで資産・負債の精算の必要のないものを除き、広く破産能力を認めるべきであるというのが有力な見解です。

 しかし、これまでの実務では、土地区画整理組合に破産手続が利用されたことは報告されていません。

 私としても、理論の点は措くとして、実務的な観点からすると、破産手続では、土地区画整理組合の破綻を適切に処理することは難しいと考えています。

 なぜなら、第一に、経済的に破綻している組合の大部分は、換地処分に至る前に、金融機関に対し借入金を返済できず、事業が頓挫している組合だからです。したがって、組合の唯一の財産というべき保留地は、まだ保留地『予定地』の段階にあり、未だ組合の所有物ではなく(土地区画整理法 104条11項参照)、破産管財人がこれを換価しようとしても、換価のしようがないのです。つまり、この時点での組合には、自己の資産がないので、破産手続を利用すること自体に無理があるのです。

 第二に、仮に破産管財人が事業を継続して、換地処分を行うことを前提にするとしても、換地処分を行うには、調査設計費などに数千万単位でお金がかかるので、その資金をどこから調達するかという問題が生じます。組合員から賦課金を徴収するには、組合員で組織される総会の決議が必要ですが(同法31条7号)、組合員との間に地縁的な繋がりのない破産管財人が、組合員に賦課金の負担を説得するのはかなり難しいでしょう。

② 民事再生手続

 では、民事再生手続であればどうでしょうか?民事再生手続であれば、組合事業の継続を前提としますし、かつ、(管財人ではなく)組合自身が事業を遂行できますので、破産手続よりは破綻処理に適しているものといえます。実際にこれまでに、二つの土地区画整理組合の破綻処理において民事再生手続が利用されているようです。

 ただし、一部に誤解があるようですが、民事再生手続を利用すれば、組合員が賦課金を負担しなくてもよくなるというわけではありません。民事再生手続においても、金融機関側は、組合員の賦課金による負担を求めるのが通常であって、それがなければ債権者集会で再生計画に賛成してもらうことは難しいのです。

 そもそも、通常の組合にとって、取引銀行は1行~5行程度(しかも、地銀、信金、信組、農協が殆ど。)であって、民事再生手続を利用しなければ処理できない債権者数でもありません。

 したがって、私としては、特に金融機関側から民事再生を利用するようにとのリクエストがある場合や、多数決原理によって再生計画の成立を強制できる見込みが立っているような場合を除いて、民事再生手続を選択することは適当ではないのではないかと考えています。

③ 私的整理・特定調停

 以上から、土地区画整理組合の破綻処理には、手続が柔軟な私的整理や特定調停が適当なのではないかと考えています。ただし、最近の実務の傾向として、行政や金融機関は、手続きの透明性を担保のため裁判所の関与を求めてくる傾向があるため、その意味では、特定調停の利用が最も適当なのかもしれません。組合が金融機関から訴えられている場合には、訴訟の中で和解をすることが考えられます。  

6.再建のポイント

 最後に、私が考える土地区画整理組合再建のポイントについて触れることにします。

① 賦課金について

 まず、なんといっても賦課金についてです。ここでの法律関係を説明すると、金融機関は、組合員に対して、直接、組合に対する貸付金の返済を請求できるわけではありません。まして、個々の組合員に対し、組合に賦課金を納付するよう請求できるわけではありません。組合員は、組合の総会で、賦課金の額及び賦課金徴収方法が決議されない限り、組合員に対して賦課金納付義務を負わないのです(土地区画整理法31条7号)。

 それにもかかわらず、金融機関側が、賦課金決議を求めてくるのはどうしてでしょうか。それは、金融機関にとってみれば、金融機関から借り入れた資金によって施行地区内が整備され、それによって個々の組合員の土地の価値が増加したのですから、その増加によって得た利益のいくらかでも、借入金の返済のために吐き出してもらいたいということでしょう。そうでなければ、金融機関の犠牲のもとで組合員のみが利益を得ていることになり、金融機関側としては到底容認できない結論なのだと考えられます。実際、私が調べた限り、組合員が賦課金を決議せずに、金融機関が債権放棄に応じた案件はないようです。

 ただ、ここで問題となるのが、果たして賦課金の額をいくらにしたらよいかという問題と、組合員に対し賦課金の負担をどのように説得するかです。

 前者については、組合員が得た利益とはいっても具体的な金額で表せるようなものではなく、一義的な答えがあるわけではありません。結局、組合の借入金総額、施行地区内の土地の時価水準、組合員の負担能力、他の同規模の組合との比較などを勘案して、適当な落とし所を求めるしかないのでしょう。

 次に、後者も難問です。法律的には、組合員が賦課金を負担せず、金融機関との間で再建計画の合意が成立しないのであれば、組合はいつまでたっても換地処分ができず、組合員は換地に応じた登記を取得できません。いわば半完成品のような土地を取得したままの状態が続くことになります。

 しかし、単に仮換地を使用するだけでよいと考えている組合員にとっては現状のままでも何らかの不利益があるわけではありません。したがって、そのような組合員にとっては、賦課金を負担するインセンティブを欠くこととなり、賦課金決議に反対することが多いのです。私としては、それはそれで仕方がないので、組合員にありのままの法律関係を誠実に説明し、その判断を仰ぐしかないと考えています。

 実際の案件では、賦課金の総会を開催するまでに、何度も賦課金に関する説明会を開催し、また、組合員から寄せられた典型的な質問にはQ&Aを作成して、これを配布するなどして、賦課金に関する理解を深めていただくことになります。さらに、総会直前には、理事や総代に各組合員を個別に訪問していただき、総会への出席や賦課金への賛成を説得していただくことになります。組合員といっても、大きな組合では1,000人を超えることもあり、その多くはサイレント・マジョリティなので、このようないわば選挙活動のようなことをしなければ、実際には、総会で賦課金決議を得ることは難しいと感じています。

② 保証人の取り扱いについて

 保証人の取り扱いは、土地区画整理組合の再建にとって難問中の難問の一つです。組合の借入れについて、一般に理事が連帯保証人となっていることが多く、金融機関との間で和解等を行うには、この理事の保証の問題をどのように取り扱うかが問題です。

 一般の会社の再建案件であれば、代表取締役等が保証人になっている場合、保証人である以上、自己破産していただくか、自分には財産がないことを証明してもらうか(あれば金融機関への配当にあてていただく)ということになるでしょう。

 しかし、土地区画整理組合の場合、理事は、公共事業に協力するつもりで保証人になっていることが多く、本当に保証意思があったといえるか疑問があるケースが多々見受けられます。それに加えて、理事には、金融機関との和解が成立した後も、組合員からの賦課金の徴収等で働いてもらわなければならず、その理事に自己破産をするのと同じ程度の個人負担を求めることは期待できません。多くの組合において理事の高齢化が進んでおり、新たな理事の担い手もいないことも問題を複雑にしているのです。

 そこで、組合の連帯保証人(理事)については、あえて責任を追及しない取り扱いや、一律一定額までの負担で保証を解除するような柔軟な取り扱いができないか、という点が今後の課題となると考えています。

③ 地方公共団体の助成

 前述のとおり、多くの組合では、市や町といった地方公共団体が設立や運営に深く関与しており、組合員からも、地方公共団体側の責任を問う声が強いのが普通です。

 私としても、法的責任の有無は別にして、行政側が組合の設立及び運営に積極的に関与しているような組合については、行政の助成がなされることが適当であると考えています。なぜなら、土地区画整理事業には、公共施設を整備し、健全な市街地を造成することにより、公共の福祉の増進に資するという公共目的が含まれているのであって(同法1条参照)、単に施行地区内の地権者の利益だけのために行われているわけではないからです。また、地方公共団体側が事態をこのまま放置し、地域の荒廃を招くとすれば、全体にとってより大きな不利益になるでしょうし、設立や運営を主導していた行政が、何らの負担もしないことになれば、行政への信用が失われ、無形のダメージが発生すると考えられるからです。

 ただ、近時、市民オンブズマンなどの活動により、地方公共団体が組合救済のために助成金を支出すると、地方公共団体の長に対して住民訴訟が提起される傾向があります。私としては、日韓高速船事件の最高裁平成17年11月10日判決の示す基準からして、議会決議等の一定の手続きを踏めば、そのような住民訴訟を提起されても、地方公共団体側が敗訴する可能性はほとんどないと考えていますが、住民訴訟が頻発していること自体により、現実には、行政に対して相当の委縮効果がもたらされているのでしょう。

 組合側の弁護士としては、地方公共団体側が、組合を助成しやすいように、裁判所を関与させ、あえて裁判所から和解勧告を出してもらったり、調停手続きでは、いわゆる17条決定を出してもらったりするなどの手段を講じることが有効であるように思われます。 
弁護士 飛田 博
2010年12月8日

 不動産賃貸業を営まれる顧問先の方々から、「賃貸借契約解除後の賃貸物件への立入り及び残置物の処分」というテーマについて、よく相談を受けます。ここでは、このテーマについて、より深く検討した結果を報告したいと思います。

[ケース] 

 建物の賃借人が賃料の不払いを継続したため賃貸人が賃貸借契約を解除した場合(注1)、賃貸物件の立入り及び残置物の処分が問題となるのは、以下のようなケースです。

(ケース①―「夜逃げケース」)

 賃借人と連絡がとれず、しかも賃借人が、借りている部屋に数ヶ月間帰宅している形跡がなく、部屋の中にも無価値な物(又は必ずしも無価値とまでは言えないが、ほとんど価値がなく賃借人が捨てて行ったとしか思われないような物)しか残っていない場合

(ケース②―「退去表明ケース」)

 退去交渉の中で、賃借人が一定の日に退去することを表明したが、その後連絡がとれなくなり、その一定の日に退去したかどうかが不明であるものの、その後賃借人が部屋に帰宅している形跡はなく、部屋の中にも無価値な物(又は必ずしも無価値とまでは言えないが、ほとんど価値がなく賃借人が捨てて行ったとしか思われないような物)しか残置されていない場合

(注1)  本ケースにおいては、あくまでも賃貸借契約が解除されたことを前提としています。賃貸借契約が解除されていない限り、賃借人は賃貸物件(部屋)について賃借権という明確な権利を有しているので、賃貸物件への無断立入りは、原則として住居侵入罪(刑法第130条)を構成し、損害賠償(民法第709条)の対象になると考えられるからです。

 ただし、東京弁護士会易水会編『賃貸住居の法律Q&A〔4訂版〕』(住宅新法社、2008年10月)285頁〔弁護士荻野明一執筆部分〕は、「賃貸借の期間中とはいえ、賃借人が黙ったまま家財道具や荷物を運び出して室内をからっぽにしたまま出ていき、何の連絡もなく戻って来ないうえ、また賃料も払わないといった状態が相当長い間続くなど、社会常識的にみて賃借人がみずから賃貸借契約を終了させて賃貸物件を明け渡したと認められるような例外的な場合には、新入居者を入れても住居妨害にはならないでしょう。」との記述もあります。

[問 題] 

 上記のケースにおいて、賃貸人としては、賃貸物件を開錠し、立ち入ったうえで、残置物を処分したいと考えるのが通常です。そこで、「果たして、これらの行為をして法的に問題はないのか」ということが問題となります。

 この問題を、より分析的に記述すると、以下のとおりとなります。

1. 賃貸人(賃貸人から部屋の管理業務の委託を受けている管理会社も含む。以下同じ。)が、賃借人に無断で解錠し、賃貸物件(部屋)の中に立ち入った場合、刑事の問題として、住居侵入罪(刑法第130条)が成立するか? また、民事の問題として、不法行為(民法第709条)を理由に損害賠償請求の対象になるか?

2. 賃貸人が、賃借人の残置物を無断で処分した場合、刑事の問題として器物損壊罪(刑法第261条)が成立するか? また、民事の問題として、不法行為(民法第709条)を理由として損害賠償請求の対象になるか?

[検 討]

 さて、それでは、上記の問題について検討していきたいと思います。

第1 一般的な理解及び本問の特殊性

 (1) 類似質問についての一般的な理解

 弁護士に相談すると、どのような回答が返ってくるのでしょうか。

 まず、本問に類似する質問に対する一般的な理解を調査してみますと、次のような書籍の記載がありました。

① 水本浩他編『借家の法律相談(第3版補訂版)法律相談シリーズ』(有斐閣、2002年2月)406頁~407頁〔水本浩=東川始比古執筆部分〕は、「賃借人が夜逃げした場合、荷物を処分し空家にして他の人に貸せるか」という設問について、次のように回答しております。

 「最近、サラ金などの借金苦のため、借家人が家財道具をそのままにして夜逃げをする例がよくあるそうです。そのような場合、借家人が残していった荷物を運び出したり、残された家財道具を勝手に処分して滞納した家賃に充当していることもあるそうですが、そのような行為は、強制執行手続による明渡および他人の財産の差押・競売による滞納家賃の充当という法的手続を潜脱する違法な行為なのです。したがって、夜逃げした賃借人やその家族から後にそのような行為の責任を追及された場合、損害賠償等の民事上の責めを負うことになるのはもちろん、場合によっては窃盗や横領などの刑事上の責任を追及されかねませんので、そのような手段は避けるべきでしょう。」

② また、野辺博編『借地借家の法律実務』(学陽書房、2001年3月)207頁~210頁〔上條司執筆部分〕も、「建物の賃借人が長期不在となってしまいました。賃貸人としては、借家契約を解除して、建物を明け渡してもらいたいのですが、どのように対処すればいいでしょうか。」という設問について、次のように回答しております。

 「賃借人の部屋に勝手に入る行為は、たとえ賃貸人であっても刑事上は住居侵入罪などの犯罪行為に該当する可能性があり、また、民事上も違法な行為として慰謝料などを請求される可能性が高いと考えます。したがって、賃借人に無断でその部屋へ入るべきではありません。」

 「長期不在の賃借人との借家契約が解除できたとしても、賃借人が建物内にその所有物などを残していたばあい、賃貸人としては、その残置物を搬出しなければ、他の者に建物を貸すことができませんし、また、残置物を廃棄処分できないとなると、近親者などが保管してくれないかぎり、その置き場にも困ることとなります。

 しかしながら、賃貸人が困るとはいっても、勝手に賃借人の残置物を廃棄処分することができないのは当然です。」

 したがって、弁護士に本問のような質問をすると、弁護士の標準的な回答は、「無断立入りには住居侵入罪(刑法第130条)、残置物の処分には器物損壊罪(刑法第261条)が成立する可能性があり、無断立入り・残置物の処分のいずれについても不法行為として損害賠償の対象になる可能性がある(民法第709条)。建物明渡訴訟を提起し、判決(債務名義)を取得したうえで、建物明渡の強制執行を実施し、その中で処理した方が適当である。」というものと考えられます(注2)。

(注2) このように考える背景として、賃貸人の自力救済は、強制執行手続を潜脱する違法な行為に該当する可能性があるので、可能な限り避けるべきであること、及び、この場合に賃貸人に(自力救済ではなく)建物明渡訴訟・強制執行といった法的手続きの履践を求めても、公示による意思表示(民法第98条ノ2)により賃貸借契約は解除でき、建物明渡訴訟の提起、判決の取得、強制執行の申立てにより、強制的に賃借人を退去させることができ、執行手続の中で残置物も処分できるため、何の支障もないという認識があるものと思われます(前掲・水本浩編『借家の法律相談(第3版補訂版)法律相談シリーズ』407頁参照)。

  しかしながら、本問のような夜逃げケース及び退去表明のケースの中には、もはや賃借人が住居から退去しているとみられるケースが多く存在し、あえて賃貸人が「自力救済」をしたとか、強制執行手続を潜脱したとか言うほどの必要もないと思われます。また、現実の実務では、建物明渡訴訟の提起、判決の取得、強制執行の実施といった手順を踏むには、最短でも3か月から5か月(公示による意思表示や公示送達を行う必要がある場合には更に時間がかかる。)の時間を要するのが通常であり、賃貸人にとって決して軽い負担ではありません。

 もう少し事案を細かく分析して、裁判制度を利用する必要のないケースを検討すべきではないだろうかというのが当職の問題意識です。

 (2) 一般的理解の評価

① 確かに、刑法第130条(住居侵入罪)は、「正当な理由がないのに、人の住居〔中略〕に侵入し〔中略〕た者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。」と定めているところ、判例は、「住居侵入罪は故なく人の住居〔中略〕に侵入す〔中略〕〔る〕ことによって成立するのであり、その居住者〔中略〕が法律上正当な権限を以って居住〔中略〕するか否かは犯罪の成立を左右するものではない〔傍点は筆者による。〕」(最判昭28.5.14刑集7巻5号1042頁)と判示するため、たとえ賃貸借契約が解除され、実体的には不法占拠者に過ぎない可能性がある者であっても、居住権者として認められることになり、その住居に無断で立ち入れば、住居侵入罪(刑法第130条)が成立する可能性があるということができます。

② また、民法第709条(不法行為による損害賠償)は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護されている利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めているところ、上記のとおり、賃貸借契約が解除された後であっても、賃借人の住居に対する居住権(占有)が刑法上保護される以上、民法上も賃借人には法律上保護される利益があるというべきであるから、賃貸人が無断で住居に立ち入る行為は、その利益を侵害することとなり、民法第709条により損害賠償の対象になる可能性があるということになります(注3)。

(注3) 建物賃借人が賃借建物から退去し、約半年間賃料の支払いを怠り連絡がない場合に、賃貸人が同建物の施錠を破壊し内部に立ち入って残置物を廃棄処分した事案について、大阪高判昭和62年10月22日(判タ667号161頁)は、賃借人から賃貸人に対するプライバシー侵害を認め慰謝料請求の一部を認容しました。

③ さらに、たとえ賃借人が退去したと認められるような場合であっても、賃借人が残置物の所有権を放棄したとは限らないから、賃貸人が賃借人の同意を得ることなく残置物を処分すれば、刑事的には、その態様により、窃盗罪(刑法第235条)、占有離脱物横領罪(刑法第254条)、器物損壊罪(刑法第261条)が成立する可能性があり(注4)、さらに民事的には、民法第709条の不法行為により損害賠償請求の対象になる可能性があるということになります。 

(注4) 賃借人の住居に対する占有が失われていなければ、賃貸人が残置物を第三者に売却して処分する場合、不法領得の意思に基づく占有侵害が認められるから、窃盗罪(刑法第235条)が成立することになると思われます。それに対して、賃借人の住居に対する占有が失われていれば、残置物は占有離脱物になるから、第三者に売却する場合等不法領得の意思が認められれば占有離脱物横領罪(刑法第254条)、単に廃棄処分する場合には器物損壊罪(刑法第261条)ということになると考えられます。


 したがって、上記の各書籍の見解は、上記の各書籍でとりあげれた質問への回答としては、いずれも正しいとの評価が可能です。

 しかしながら、このような見解を本問にそのままあてはめることは適当ではないと考えられます。

 というのは、個々の案件には、それぞれ特徴があるので、個々のケースを具体的・詳細に考えなければなりません。そのうえで、本当に刑法犯が成立し、民事賠償の対象になるといえるかが問題なのです
(3) 本問の特殊性

 上記(1)で検討した書籍の設問は、「夜逃げ」又は「長期不在」は認められるものの、もっぱら残置物の処分を問題にしていることからして、賃借人が賃貸物件(部屋)の中に私物を殆ど残していったことが想定されています。これに対して、本問については、賃借人は残置物がないか、あったとしても無価値(又は必ずしも無価値とはいえないが、ほとんど価値がなく、賃借人が捨てて行ったとしか思えないような物)といえるような物です。

 つまり、これまで上記の各書籍で検討されている案件は、賃借人の行方が不明であるものの、まだ客観的には住居内に多くの残置物が残っている等の事情から、賃借人の住居に対する占有が認められるような案件であるのに対し、本問の事例は、残置物もなく(又はほとんどなく)そもそも賃借人に「占有」が認められるかが争点となるようなケースであるといえます。 

 実務上、賃借人が夜逃げ等をするケースでは、住居内にあるもののうち必要なものは賃借人が持って出るのが通常であり、賃借人が着の身着のままで逃げることはむしろ稀です。したがって、従来の設問は、実務において問題となる多くの案件を補足できないうらみがあるといえます。

 では、本問を具体的に検討した場合、どのように考えればよいのでしょうか。以下、本問のケースについて、立入りと残置物の処分に分けて検討していきます。

 

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 最近、濫用的会社分割について質問を受けることがしばしばあります。濫用的会社分割とは、典型的には次のような事例です(図が書けないのでわかりにくくて申し訳ありません。)。

① 経済的危機に瀕したA社が、再生を図るため、採算がとれる事業の継続等に必要なGoodな資産(及び契約関係)と、買掛債務のように事業継続に不可欠な負債のみ(ただし、資産とつり合うような借入金等の負債を含めることがある)を、会社分割により、B社に移転する。その際B社は、会社分割の対価として、A社に対しB社株を発行するが、多くの事例では、その後B社株は、A社から協力者の第三者に譲渡され、さらにB社において第三者割当て増資を行い、A社に発行したB社株の価値を薄める。

② 会社分割後のA社には、ほとんど資産は残っていないか、又はBadな資産しか残っていない状態であるのに対して、金融債務等の負債はほとんど残っていることから、当然のことながら、その後、債務不履行状態になるが、もう収入はないので、そのまま放置される又は、A社の経営陣に法的にきちっとやろうなどという意識が残っているときは、破産や民事再生の申立てがなされることもあるが、いずれにしても資産はほとんどないので、A社に残された金融機関等の債権者は、微々たる配当しか受けられない。

③ B社(新会社)は、過剰債務を抱えることなく採算のとれる事業を譲り受けたので、(見事?)再生を果たすことができる。他方、A社(旧会社)に残された債権者にとっては、上記のように弁済を受けられず、実質的には債権放棄を強制される結果となる。 

 もともとこのような方法は、『第二会社方式』などと呼ばれ、事業再生の業界ではおなじみのスキームであったと思います。 

 しかし、平成18年5月に会社法が施行される前には、分割会社と分割承継会社の双方において「債務の履行の見込みがあること」が会社分割の効力要件であると考えられていたので、債務超過の会社は会社分割はできないと理解されており、事業を移す手段としては『事業譲渡』(当時は「営業譲渡」と呼ばれていた)が利用されていました。しかし、事業譲渡スキームの場合、これによってA社(旧会社)に残された債権者が不利益を受けるとなると、民法424条の債権者取消権を行使され、事業譲渡を取り消される可能性があるし、A社(旧会社)がその後破産したような場合には、破産管財人が事業譲渡を否認する可能性があるとのことで、このスキームを利用するには、A社(旧会社)に残される債権者の同意が必要だとされていました。

 ところが、会社法制定により、債務超過会社も会社分割ができると解釈されるようになり(ただし、学説上は有力な反対説がある。注1)、しかも、事業譲渡の場合は、契約関係を譲受会社に移転するときには相手方の承諾が必要ですが、会社分割の場合はそれが必要ではなく(注2)、さらに、移転の際の税金も少なくて済む場合が多いため(注3)、事業再生の分野では、『事業譲渡』ではなく『会社分割』により、資産、負債を含む事業を移転させるスキームが多くなったのです。 

 ただし、事業譲渡であろうと会社分割であろうと、A社(旧会社)に残された債権者に、実質債権放棄という不利益を与えることには変わりありません。そこで、きちんとした専門家が関与しているスキーム(例えば、中小企業再生支援協議会が策定を支援しているスキーム)では、必ず、不利益を受ける債権者、上記の例でいえばA社(旧会社)に残される債権者(金融機関)から、スキーム(計画)についての同意を得ることになっています。

 しかし、この債権者の同意を得るのがけっこう難しいのです。計画に同意した方が同意しない場合よりも、結果的に回収が多くなること(経済合理性があること)をきちんと説明し、理解していただかなければなりません。その過程で、債権者(金融機関側)からは経営陣の退陣を求められたり、経営陣の保証債務を求められたりする等の厄介な問題も発生します。そこで、ちょっと怪しげなコンサルタントが提案するスキームの中には、債権者の同意を得ないで会社分割による第二会社スキームをやってしまえ、というものが現れてきます。これが濫用的会社分割と呼ばれているものです。

 では、このような濫用的会社分割をされた場合、A社(旧会社)に残された債権者(多くは金融機関でしょう。)としては、どのような対抗手段があるでしょうか? 

 実は、つい最近まで、この対抗手段がはっきりしませんでした(注4)。不当な事業譲渡がされた場合の対抗手段である債権者取消権(民法第424条)についても、会社分割に対して行使できるのか、否定的な見解もあったのです(注5)。ここに、このような怪しい再生スキームが跋扈(ばっこ)してしまった原因があると思います。


 しかし最近は、このような濫用的会社分割の問題性が広く認識されるに至り、裁判所は、A社(旧会社)に残された債権者に救済の手段を認めるようになっています。

 まず、債権者取消権ですが、これは、東京地裁が平成22年5月27日判決(金融商事法務1902号144~156頁)で会社分割の事例でも行使できることを認め、東京高裁が平成22年10月27日判決(金融商事法務1910号77~87頁)でこの東京地裁判決の判断を追認しています。

 次に、債務者会社(A社、旧会社)であるサービサーが、弁済計画等について協議している最中に、債務者会社が会社分割を利用して、黙ってB社(新会社)に事業を移してしまったという少々特殊な事例ですが、福岡地方裁判所平成22年1月14日判決(金融法務事情1910号88~116頁)は、法人格否認の法理により、A社(旧会社)に残されたサービサーに対し、B社(新会社)に対して請求することを認めています。 

 さらに、A社(旧会社)とB社(新会社)が同じ店舗の名称で事業を営んでいるような場合には、会社法22条1項適用により、B社に連帯債務を認める判例(東京地方裁判所平成22年7月9日判決 金融法務事情1903号14~15頁)も現れています。
 さて、実務家として濫用的会社分割の相談を受けた場合にどうするか?という問題ですが、理論的には、法律学は自然科学ではありませんので、①そもそも現行会社法下でも債務超過会社となるような会社分割はできないという見解も成り立ちますし、②債務超過会社も会社分割をすることができ、それに対する債権者取消権等の行使は認められない、というような見解も成り立つのだと思います。 

 しかし、現在の社会的状況や判例の動向を見ると、私としては「債務超過であっても会社分割はできるが、A社(旧会社)の債権者を害するようなスキームはのちのち債権者取消権によって取り消されたり、破産管財人によって否認されたりするおそれがあり、リスクが高いので、やめた方がよい。」とアドバイスするのが適当であると考えています。

 特に重視すべきは、A社(旧会社)に残された債権者に債権者取消権の行使を認めた前述の東京地裁平成22年5月27日判決は、民事第8部(商事部)のものだということです。民事第8部は、会社関係訴訟や会社更生法を担当している専門部で、いわゆるエリートの“できる”裁判官が集まっているところです。この部に属していた裁判官・書記官による「類型別会社訴訟ⅠⅡ」という

 本も出版されており、(事実上)部としての統一的見解を持っています。

 「類型別会社訴訟Ⅱ」(第2版)778~779頁の該当箇所を読むと、民事第8部が、会社分割に債権者取消権を行使できると考えているのか否かいまひとつはっきりとしなかったのですが、上記判例によって、行使できると考えていることが明確になりました。しかも、上記判例を読んでいただくと、濫用的会社分割の社会的な問題性にも触れられており、かなり気合が入っていることが窺えます。今後社会の状況がかなり変化しないと、民事第8部の個々の裁判官がこの判決と違う判断をするのは期待できません(注6)。そうすると、私の主戦場とする東京23区内でこの種の紛争が起きて、

 民事第8部で判断されるに至った場合、よもや、解釈論として「債権者取消権の行使は認められない。」などと判断されることはないと思うからです。 

 弁護士として濫用的会社分割の問題に関与せよと言われれば、私としては、A社(旧社)に残された債権者(金融機関)側の代理人として、債権者取消権を主張する側に付きたいですね。


 以下の脚注は少々専門的になるので、興味のある方以外は読み飛ばしてください。



注---------------------------------------------------------------

1) 正確に言うと、会社法制定前は、会社分割を行う際に、分割会社(旧会社)及び分割承継会社(新会社)のいずれについても「各会社ノ負担スベキ債務ノ履行ノ見込アルコト及其ノ理由ヲ記載シタル書面」の開示が要求されていたため(会社法制定前商法第374条ノ2第1項第3号・第374条ノ18第1項第3号)、「債務の履行の見込みがあること」が会社分割の効力要件であると解されていたが、会社法では、事前開示事項については会社法規則に委ねられ、その文言も「債務の履行に関する事項」(会社法規則第183条第6号、第192条第7号、第205条第7号)に改められたことから、「会社分割をする場合において、仮に債務の履行の見込みがないというときは、上記事前備置書面にその旨を記載すれば足り、そのために会社分割が無効となることはない。」(『論点解説 新・会社法』674頁)と解されている。ただし、江頭憲治郎『株式会社(第3版)』829頁は、「会社法の下でも、いずれかの会社に債務の履行の見込みのないことが会社分割の無効事由であることに変わりはない。」という。


2) なお、事業譲渡とは異なり、会社分割では、債権者保護手続を経る必要がある(会社法第789条、第798条、第806条ないし第809条)。これは、会社分割をする前に、債権者に会社分割をする旨及びこれに異議があれば述べることができる旨を公告し(定款上の会社の公告方法が官報公告の場合は、知れたる債権者に個別に通知することも必要。)、債権者から異議が述べられたときは、会社分割をしても債権者を害することがないと言えない限り、会社は、弁済、担保提供又は弁済のための財産信託をしなければならないという制度である。


  しかし、会社法上、(剰余金の配当又は全部取得条項付種類株式の取得をしない場合には)分割会社(A社・旧会社)に対し債権の全額を請求することができる債権者は、債権者保護手続の対象ではないとされており、また、分割会社(A社・旧会社)が分割承継会社(B社・新会社)の債権者の連帯保証人になるときにも、分割承継会社の債権者について債権者保護手続を行う必要はないとされている(会社法第789条第1項第2号、第810条第1項第2号)。したがって、濫用的会社分割のケースでも、適法に債権者保護手続を省略することができ、実際にも省略されているのが通常である。


3) 事業譲渡よりも会社分割の方が、事業を移転する際に要する登録免許税、不動産取得税、消費税、印紙税について有利又は有利になる可能性があることについては、藤原敬三著『実践的中小企業再生論』217頁~219頁参照。


4) 会社法上は、会社分割の効力を争う手段として、「会社分割無効の訴え」が用意されているが、この訴えの提起権限は(すべての債権者にあるわけではなく、)債権者保護手続において異議を述べた債権者にしかなく(会社法第828条第2項第9号・第10号)、そもそも債権者保護手続の対象ではない本件のA社(旧会社)に取り残された債権者の救済には役立たない。


5) 岡信浩「濫用的会社分割と民事再生手続」NBL922号8頁~9頁


6) 債権者取消権を行使して会社分割を取り消すという類型の訴訟が、会社関係訴訟として常に民事第8部の担当になるのかは少々分からないのですが、上記の判例を前提とすると、原告代理人は会社訴訟として当然民事第8部に直接事件を持ちこむであろうと推測できます。



弁護士 飛田 博
2011年12月15日






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