1. はじめに

  土地区画整理組合の仕事(特に再生の仕事)をしていると、よく組合員の方から「土地区画整理組合は破産できるでしょうか?」という質問を受けます。何故こんな質問を受けるかというと、組合の財政が苦しくなり、組合員に賦課金の負担を要請しなければならない段階になると、組合員の方でも、「いっそのこと、組合は破産してしまえばよいのではないか?そうすれば自分たちが賦課金を負担する必要がないのではないか?」との発想になるからのようです。つまり、賦課金を負担するぐらいなら、組合を破産させてしまおうと考えての質問であることが多いようです。

  では、初めの質問に戻って、そもそも土地区画整理組合は、破産できるのでしょうか?この問題は、講学上は「土地区画整理組合の破産能力」というテーマで論じられています。「破産能力」というと、「破産するのに何か特別な能力を要求されるのか」などと、変な感じがしますが、法律用語で「破産手続開始決定を受け得る資格」とか「債務者が破産者たり得る資格」とかいう意味です。一般には、個人、法人、法人でない社団等に破産能力が認められ(破産法第13条、民事訴訟法第28条、第29条)、さらに、破産法上、相続財産や信託財産にも破産能力が認められています(破産法第10章、第10章の2)

  一介の実務家である私がこの問題を論じてもあまり影響力はないかもしれませんが、よく質問される問題なので、自分自身のためにも、ここで整理しておきたいと思います。私が知る限り、いまだ土地区画整理組合が破産手続を利用した実例はないので、ここでの議論は、判例上どうなっているかではなく、理論的にどのように考えるべきかという問題になります。 

2. 破産法学者の見解

  この問題は、伝統的には、「公法人に破産能力が認められるか?」という論点の応用として考えられてきました。公法人とは、「国家のもとに特定の国家的・公益的事業を行うために設立された法人」と定義され(注釈民法〈新版〉(2) 15頁〔林良平〕)、土地区画整理組合も土地区画整理法という法律のもとで公益的事業を行う公法人と考えられているからです。

  そして、従来、破産法学者の世界では、公法人に対しては破産能力を否定するのが通説的見解でした。その理由としては、「破産の宣告があれば、債務者の総財産は破産管財人の占有管理に移され、債権者のために換価処分に附されるので、公法人はその公共的機能を果たすことができなくなる。債権者の私的利益のために公法人の公共的使命の達成を不可能にすることは許されない。」(兼子一著『破産法』142頁(青林書院新社))というのです。しかし、この通説的見解は、総論としては公法人の破産能力を否定しながらも、各論として、土地改良区、土地区画整理組合、健康保険組合等の公共組合については、「公共的色彩の薄い公共組合などは別途考慮すべきものがある。」とし、これを規律する各法律の定めを検討することにより破産能力の有無を検討すると考えます。では、土地区画整理組合はどうなるのかというと、実は、あまり深く論じられていません。結局のところ、土地区画整理組合に破産能力が認められるか否かは判然としませんでした。

  しかし、最近では、「公法人の事業がいかに公共的であっても、支払不能や債務超過に陥り、清算の必要があるときには、破産手続の開始を認めるのが合理的である。」とする有力な見解が見られるようになりました。これは、「いわゆる本源的統治行為と呼ばれる国家や地方自治体などについては、破産清算の結果、法人格が消滅することを法秩序上是認しえないから、破産能力が否定されるが、それ以外の公法人については、破産能力を肯定できないものは、その法人限りで資産・負債の清算をする必要のないものだけである。」(伊藤眞著『破産法・民事再生法(第4版)』60頁(有斐閣))と考え、法に特別の規定がない限り、公法人にも破産能力を認めるとするものです。この近時の有力説からは、「土地改良区や土地区画整理組合についても同様である。」(伊藤・前掲書61頁)とするので、(土地区画整理組合の場合、債務超過に陥っても国や地方公共団体が当然に債務を引き受けてくれるわけではなく、その土地区画整理組合限りで資産・負債の清算をする必要があるということになりますので)土地区画整理組合の破産能力は認められることになるでしょう。 

3. 土地区画整理の実務家の見解

  しかし、このような土地区画整理組合の破産を認める考え方は、土地区画整理の実務家の間では、あまり評判がよくありません。おそらく、実務に鑑みると、次のような不都合があるからだと思います。

①      経済的に破綻している組合の大部分は、換地処分に至る前に、金融機関に対し借入金を返済することができず、事業が頓挫している組合です。したがって、組合の主要な財産というべき保留地は、いまだ保留地『予定地』の段階にあり、組合の所有物ではなく(土地区画整理法第104条第11項参照)、破産管財人がこれを換価しようとしても、換価しようがないと思われるのです。したがって、換地処分前の組合には、預金、多少の事務用品などを除けば、ほとんど資産が無い状態なので、この時点で破産手続によって清算を行うことは、意味がないということになりそうです。それどころか、破産管財人は、既に道路や宅地造成等の工事が行われた部分、建物等の移転が行われた部分、販売済みの保留地予定地部分(購入者の家が建っていることが多い)等について、(換地処分が行われる見込みがなく、従前の権利関係が維持されるので)現状を土地区画整理事業が開始される前の状態に戻す必要があると解するとすれば、組合の資産はほとんど無いのですから、およそ破産手続の遂行自体が不可能な場合も多いということになります。

②      また、仮に管財人が裁判所の許可を得て事業を継続し(破産法第36条)、少なくとも換地処分まで事業を行うことを試みるとしても、換地処分を行うには、未払工事費と(換地処分のための)調査設計費などに数億円から数千万単位でお金がかかることが想定されますので、その資金をどこから調達するかの問題が発生します。保留地予定地を売るにしても、破産した組合から、しかも換地処分ができるか否か不透明な組合から購入しても良いと考える買主は普通はいないように思われますし、組合員から賦課金を徴収しようとしても、賦課金の聴衆には、組合員で組織される総会の決議が必要なので(同法第31条第7号)、組合員との間に地縁的な繋がりのない管財人が、組合員に賦課金の負担を説得することはかなり困難であるということが言えると思います。

③      さらに、破産管財人は、弁護士が選任されるのが通例ですが、多くの弁護士は土地区画整理事業のことを知らないので、そのような者にたとえ換地処分までであったとしても、土地区画整理事業をまかせて大丈夫かとの心配もあるでしょう。事業の進捗に従い必要となる行政の許認可の取得についても、行政との事前の綿密な打ち合わせが必要とされるので、弁護士の破産管財人では支障が生じる心配もあります。

  そこで、(土地区画整理法について多くの著書がある)大場民男弁護士は、「土地区画整理組合が事業執行中においては、総会(総代会)、理事、監事等の機関のもとで事業目的を達成させるべきであって、破産管財人に事業の執行を委ねるべきでないので破産を認めるべきではない。」(大場民男『土地区画整理組合に対する融資・回収上の諸問題(11)』銀行法務21・612・72)と主張されています。条文上の根拠としては、平成18年6月の公益法人制度改革による改正前の民法第81条第1項は「清算中に法人の財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算人は、直ちに破産手続の申立てをし、その旨の公告をしなければならないと規定されていたところ(現在は、一般社団・財団法人法第215条に受け継がれている。)、土地区画整理法にその種の規定がないのは、土地区画整理組合の破産を否定したからであると考えることになります。

  しかし、大場弁護士も、土地区画整理法第45条1項4号が定める「事業の完成又はその完成の不能」により解散に至る場合についても、破産があり得ないのかという問題については、「賦課金の決議を得ることは容易ではなく、借入金があるときはその債権者の同意がなければ解散も出来ず、仮に解散しても債権放棄がなければ清算結了もできないということでは、好ましくない状態が永続することになる。解釈論として破産ができるとの説に与し得ないが、立法的に破産を考えるべき時代が到来したように思う。」(大場・前掲論文(11)72頁)とも述べており、破産手続きの利用を認めるべき場合もあるとも考えているようです。

4. 私の見解

  では、どのように考えるべきでしょうか。私は、かつてこの問題を問われたときに、上記のような実際上の難点を考慮して、「換地処分前は破産能力が認められないが、換地処分後は(保留地・換地の登記も終了しており、組合を破産させても大きな混乱はないと思われるので)破産能力を認めることができるのではないか。」などと回答しておりました。

  しかし、破産能力が換地処分の前後であったりなかったりするのは理論的にはすっきりしません。したがって、最近は、「理論上は、土地区画整理組合には破産能力は認められるが、時期によっては破産手続の利用が適当でない場合がある。」というふうに説明するようにしています。このように考えるに至ったのは、一律に破産能力を認めないよりも、認めた方が適切な解決を導くことができるケースもあることに気が付いたからです。

 例えば、

①      設立後まだ間もなく、工事があまり進んでいない段階で、財政的な事情により事業が頓挫したような場合には、破産手続を利用し、事業自体を止めるのが適当でしょう。まだ工事もあまり行われておらず、保留地『予定地』の販売も行われていないような場合には、地域に混乱を引き起こすことなく、破産手続の遂行が可能であるとも考えられるからです。

②      ある程度事業が進んだ組合であっても、組合の執行部において不正が行われているようであるが、外部からはよくわからないというような場合(例えば賦課金等の組合財産が隠匿されていそうな場合)には、債権者としては、色々な困難が伴うとしても、裁判所が選任した破産管財人に関与してもらって、(少なくとも換地処分までは)公明正大に事業を進めてほしいという場合があると思います。この場合には、債権者申立てによる破産を認めるのが適当でしょう。

③      さらに、財政的に破綻し、組合員から賦課金を徴収できる可能性もなく、行政の助成金も、銀行等の債権放棄も期待できず、事実上、事業が凍結しているような組合の場合でも、破産管財人が関与すれば何とか工事を完成させ、換地処分まで到達できそうなケースの場合、事業を凍結したままの状態にしておくよりも、破産手続を利用した方が組合員にとっても、債権者(銀行)にとっても適当なのではないかと思います。

  上記②及び③の場合には、裁判所の事業継続についての許可を得て、破産管財人のもとで換地処分まで事業を進捗させることが必要になりますので、はたして残工事や調査設計費等の資金を調達できるのか、また弁護士の管財人に、実際問題として、土地区画整理事業を適正に行うことができるのか、などが問題となってきますが、資金調達の問題については、残保留地『予定地』の売却(換地処分が行われることを条件にして業者に一括して売却するようなスキームにすることになるでしょう。)、行政の助成金、組合員の賦課金等を利用することにより、(それぞれハードルは高いものの)不可能とまでは言えないと思います。また、破産管財人が具体的な区画整理事業や行政との交渉ができるかとの問題については、コンサル等の専門家を雇えばよいだけの話のようにも思うのです。

  要するに、私としては、土地区画整理組合の多くの案件では、破産手続の利用は適切ではないと考えるものの、前記の例のとおり破産手続でしか処理できない(又は破産手続きを利用した方がうまく処理できる)ケースもあるのであって、それにもかかわらず、破産能力を否定することによって、土地区画整理組合に破産手続利用の道を閉ざしてしまうのは適当ではないと考えている次第です。

  ただし、理論としては以上のとおりですが、(土地区画整理法関係の著作も多い)坂和章平弁護士が指摘されているとおり、土地区画整理組合の破産能力が認められることによって、「赤字を抱えて解散できないでいる土地区画整理組合や市街地再開発組合が、破産すればこと足りると考える風潮が蔓延することは妥当ではない」(土地区画整理実務研究会編『問答式土地区画整理の法律実務』1110ノ31頁(新日本法規、平成11年3月))ということはいえると思います。

  したがって、賦課金を負担したくない等の安易な理由から破産手続が利用されることは適当ではないし、あくまでも破産手続の利用は、行政による公的支援、組合員の賦課金負担、債権者の債権放棄などの手段が尽きたときの最後の手段と考えるべきであると思います(注)

 

(注)

 土地区画整理組合の破産能力を認めることによって懸念されるのは、事業に反対の組合員や、賦課金の負担に反対の組合員から、濫用的に破産の申立てがなされないかということだと思います。しかし、具体的に考えてみると、破産法上、破産の申立権を認められているのは、原則として「債権者」と「債務者」です(破産法第18条第1項)。組合員自身は、組合の債権者ではなく、また、この条文にいう「債務者」とは、破産する者自身(つまり組合自身)のことをいいますので、通常の組合員は、組合に対する破産申立権を有していないということになりそうです。

 そうすると、次に懸念されるのは、破産法上、理事に破産申立権が認められていますので(破産法第19条第1項第1号、同条第4項)、理事会に内部対立などがあり、組合員に賦課金を課すことに反対の一部理事から、組合の破産が申し立てられるような場合でしょうか。

 この点で参考になりそうな判例は、広島高裁岡山支部平成14年9月20日決定(判タ1905-90)です。事案は、岡山市にある窮境に陥ったある再開発組合について、県の是正処理案に基づいて、行政の助成、債権者の債権放棄、組合員の賦課金の負担を柱とする清算スキームが進行中のところ、これに反対する一部理事から、組合の破産が申し立てられたというものです。これについて、広島高裁岡山支部は、①債権放棄をすることになる債権者が上記スキームによる弁済を希望しており、破産手続きによる清算を望んでいないこと、②そのほかの債権者も上記スキームの実行に同意しており、破産宣告の必要性に乏しいこと、③本件スキームは組合が窮境に至った原因を踏まえて総会で決議されたものであり、組合員の多数の同意を得ていること、を認定して、理事の破産の申立てを「申立権の濫用」として認めませんでした。

 したがって、仮に、まだ債権者や行政との間で再建に関する話し合いが続いているにもかかわらず、一部の理事から、破産が申し立てられたような場合には、このような破産申立権の濫用(破産法第30条第1項第2号)という理屈で対抗すべきなのではないかと考えています。

弁護士 飛田 博
2011年4月18日

 企業法務とは、具体的に何をするのか?特に法律事務所が顧問となり企業法務を行う場合、どのような仕事を行うのか?なんとなく理解できているようでいて、実は具体的にはイメージができない方が多いと思います。そこで、ここでは私が考えている企業法務について説明したいと思います。

 法律事務所が、会社の顧問として企業法務を行う場合、パターンとしては3つぐらいあると思います。

(1) 日々の業務の中で、具体的な紛争や問題が発生したときだけ事後的に弁護士に相談があるパターン

 例えば、

  •     再三督促したのに、売掛先がお金を払わないので、法的手段を講じたい。
  •     自社製品について顧客から常軌を逸するようなクレームがあったので、その対応をお願いしたい。
  •     業務の縮小に伴い従業員を解雇したところ、従業員から解雇無効の確認を求めて訴えが提起されたので、これに対応してほしい。

というようなパターンです。

 従来の顧問弁護士のイメージは、まさにこのパターンであり、企業側から見ると、顧問弁護士とは何かあったときの用心棒的な存在であり、よく「『保険』として顧問をお願いしている。」などと言われたりもします。

 顧問料としては、月10万円~5万円程度の定額の場合が多いでしょう。ただ、企業側からすれば、何か問題が発生しない限り、弁護士とは何もお付き合いがないので、顧問料は「高い」(若しくは無駄)と思われがちであり、不景気になると、顧問契約を解消したいとの申し入れが多くなります。


(2) 日々の業務の中で、問題が発生しそうなときに、事前又は予防的に弁護士に相談するパターン

 例えば、

  •     ある取引先と重要な契約書を締結したいが、このような契約書で良いか?契約書(案)のレビューをお願いしたい。
  •     新しい事業を行いたいが各種の業法上の制限を受けることがないか(つまり適法に新事業を行うことができるか。)?
  •     不良債権の処理(債権放棄等)を行いたいが、後日株主代表訴訟等で問題となることがないよう検討してほしい。場合によっては、取締役会の資料とするために意見書を書いてほしい。
  •     株主総会、取締役会をはじめとして、会社のコンプライアンス体制なども継続的にみてもらいたい。内部通報制度の窓口にもなってほしい。

というようなことを相談するパターンです。

 これから企業が行う事業や行為についての相談であることが多いので、事前法務とか予防法務とか言われています。企業の法務部や関連部署との密接な協同が要請される仕事が多く、現在の企業社会において顧問弁護士として期待されているのは、この分野であると考えられます。

 顧問料としては、顧問先の会社の業務内容によって弁護士側の作業量が異なってくるので、その会社の案件に費やした時間によって顧問料が決まるタイムチャージ制が適していると思います(顧問料としては月額5万円と定額を決めておき、6カ月ごとにタイムチャージでも弁護士報酬を計算し、タイムチャージでの弁護士報酬が定額顧問料を上回るときは、その超過部分を支払ってもらうというような方式も考えられます。)。


(3) 専門分野についての外出し

 さらに、銀行が、ノンリコースローンやアセットファイナンス等の案件物を扱う場合に、ファイナンスの諸契約を弁護士に依頼する場合、事業会社が、M&Aを行う場合に、関連する契約書一式を依頼する場合、破綻の危機に瀕した会社が、事業の存続をかけて民事再生や会社更生の申立てをする場合などのパターンです。

 ただし、このような分野ではかなりの専門性が要求されますし、クライアントの方でも、案件ごとにそれに適した弁護士をお願いしたいとの希望があるので、通常顧問案件としては扱いません。

 

 私の夢は、ある程度、企業側が、これまでは法務部等が行っていた仕事を外出ししても、対応ができるような法律事務所を作ることです。例えば、法律事務所内にgeneral corporate を専門に扱う部門があり、その部門にはA~Cという3つぐらいのチームがあって、1チーム3~5名くらいの弁護士で組織され、1チームで30~50程度の企業をクライアントとします。各チームは、『外部』としての法律事務所の独立性は維持しつつ(つまり『外部』の観点からの意見は言えるようにしておく)、従来の弁護士事務所よりも深くクライアント企業の法務に関わります。求められれば会社の法務部等と連携して、日常発生し、または発生すると予想される問題について対応するとともに、取締役会に参加して、法律上の論点について説明したり意見を述べたり、意見書を書いたりします。何か具体的な問題が発生して、ある程度の専門性が要求されるような場合には、法律事務所内の専門チームと共同して対処します。

 顧問料としては、タイムチャージ制が良いでしょう。大手の法律事務所も、M&A、ファイナンス、事業再生、訴訟といった専門性の高い分野では組織的な対応がなされていますが、general corporateという分野は、実は、まだまだ個々の弁護士がそれぞれに対応するという街弁護士事務所的対応がなされ、必ずしも組織的な対応やノウハウの蓄積がされているわけではないように思います。そこを組織化、効率化、高品質化できないかと考えています。


弁護士 飛田 博
2011年2月25日

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