2022年11月8日 日経新聞朝刊1頁

「東芝買収、2.2兆円軸に」「非公開化 国内連合が提案」「十数社が出資意向」との見出しの記事から

「東芝は4月に設立した特別委員会でJIPの提案を協議する。特別委は7人の社外取締役で構成され、大株主であるアクティビスト(物言う株主)の幹部2人も含む。」

「東芝の株価は2021年春に非公開化の初期提案を受けて以降、再編期待から高値で推移している。アクティビストが大株主となった、東芝の17年の増資の発行価格は1株あたり2628円だ。」


(飛田コメント)

 記事によると、JIP(日本産業パートナーズ)が提案したTOB価格は、「足元の株価(7日終値で5118円)をわずかに上回る程度の提案になった」とのことなのですが、いずれにしてもアクティビストの有する東芝の株価は、17年の取得価格から約2倍近くになっていますので、やはりスゴ腕ですね。
 
 記事中で、あえて特別委員となる社外取締役7名の中にアクティビストの幹部2名が含まれていることを明示したのは、おそらく何らかの引っかかりを感じるからでしょう。東芝が買収提案についてまず(取締役会ではなく)社外取締役で構成される特別委員会の中で協議するものとしたのは、社内取締役も含まれる取締役会では、取締役自身の保身のバイアスが入るので、いくらかでも中立的な立場にある社外取締役に検討させるところにあると思うのですが、アクティビスト株主については、TOB価格などに直接の利害関係があるので、中立的な判断を期待できないように思うのですが、いかがでしょう?
 まあ、そもそも任意の委員会なので、法的な問題を生ぜしめるものではないのですが…。
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2022年11月7日 日経新聞朝刊15頁

「整理解雇、下がるハードル」「裁判所、『4要件』を柔軟運用」「企業の回避努力カギ」という見出しの記事から

「労働契約法16条は「合理的な理由がなく社会通念上相当でない解雇」を無効と定める。従業員の整理解雇がこの規定に接触するかどうかについて、裁判所では長らく「整理解雇4要件」と呼ばれる判断基準が定着していた。具体的には①人員削減の必要性②解雇回避への努力③解雇者選定の合理性④解雇までの協議の妥当性-の4点を精査する方法だ。1975年の大村野上裁判判決で登場し、50年近く行われている。当初裁判所は4要件を厳格に捉え、一つでも満たさなければ「解雇不当」の判決が出ることが多かった。特に人員削減の必要性について、企業が破綻に直面するような状態でなければ認めない傾向があった。」

「ただ2000年以降、雇用管理の実態が日本企業と異なる外資系企業の裁判を中心に、人員削減の必要性と解雇回避努力について柔軟に解釈し、経営判断による人員削減でも場合により解雇有効とする判決が出始めた。」



(飛田コメント)
 Twitter社の大量解雇が話題となっているときに、とてもタイムリーな記事だと思います。
 記事では、ユナイテッド航空小会社の案件とクレディ・スイス証券の案件が紹介されていますが、ユナイテッド航空小会社の案件では、「年収維持を前提に地上職への異動を提案。さらに通常の退職金に基本給の20ヵ月分を加え、1人1545万~1824万円を支払う退職条件を提示」、クレディ・スイス証券の案件では、「元部長に割増退職金を含め1885万円強の退職パッケージや、社内公募で異動できる可能性がある複数のポストを示すなどしていた。」とのことであり、手厚い退職補償があったようです。
 この2つの案件の詳しい事情は知りませんが、実務弁護士としての経験から言うと、実は従業員側も復職を希望していないのに、和解金をつり上げるために争うということがあり、そのような場合、会社側からそれなりの金額の提示がなされていると、裁判所も「もうこの辺で解決したら?」という雰囲気になることがあります。この2つの案件はそれなりに手厚い退職金を提示できたのですが、そのような退職金を提示できない場合にまで裁判所は4要件を緩和するものではないのでは?と推測します。実務弁護士としては、上乗せ退職金がどれくらいであれば整理解雇が認められやすくなるのかというところをもう少し明確化してほしいように思います。
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2022年11月5日 日経新聞7頁

「部活顧問が暴行、高1自殺」「学校、不適切指導で謝罪 福岡」という見出しの記事から

遺族や学校側との合意書などによると、男性顧問1人が○○さんに体当たりを繰り返す、竹刀で叩く、何度も倒すなどの暴行を加えたほか、「貴様、やる気あるんか」と他の部員全員の前で暴言を吐いた。もう1人の顧問は状況を認識しながら止めなかった。
部活動を休みがちになると、2人は「おまえには特待生としての責任がある」などと責めた。20年8月、○○さんは列車にはねられて死亡した。



(飛田コメント)
 高校の剣道部の顧問による女子生徒に対する暴行や暴言の事件です。女子生徒は自殺しており、とても痛ましい事件になってしまいました。
 この年(年齢)になって思うのは、スポーツは楽しむものということです。練習できついこともありますが、(やらされるのではなく)自分から望んできつい練習をするようにしないと、ある一定のところで伸び悩みますし、長く続けることはできません。そもそも、たかがスポーツですので、教える側が暴行や暴言をする必要はないし、生徒の側も、楽しくなければやめてもいいと思います(この件は「特待生」だったということで、そういうわけにはいかなかったのかもしれませんが・・・)。いずれにしても、スポーツなんですから、教える側は、暴行や暴言をしては絶対にいけないと思います。
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2022年11月5日 日経新聞夕刊1頁

「マスク氏『1日400万ドル損失』」「ツイッター、人員削減収益改善に着手」「解雇、日本含め世界で」との見出しの記事から

「米起業家のイーロン・マスク氏が経営権を握った米ツイッターで4日、大規模な人員削減が始まった。マスク氏は『1日400万ドル(約6億円)以上の損失を出しており、不可避だ』などと説明している」
「今回の人員削減の対象は米国外で働く社員も含み、日本でも幅広い部署で社員を解雇したとみられる。関係者によると日本の広報部門は全員が対象になった。」


(飛田コメント)

 日本の労働法では、労働者を解雇するには合理的な理由が必要です。その合理的な理由の中には、いわゆる整理解雇も含みますが、その場合でも、本当に事業を整理する必要があったのかとか、整理する必要があったとしても、他の部署に配置転換して雇用を維持することはできなかったのかなどを問われ、簡単に解雇できるなどということはありません。ツイッター社が手厚い退職金を支払っているような場合を除き、この件は揉めるのではないでしょうか。
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2022年11月3日 日経新聞朝刊41頁

「成年後見進まぬ利用」「『報酬一生』『手続き煩雑』で敬遠」「柔軟な選任・交代必須」との見出しの記事から

認知症などで判断能力が低下した人を法律的に支援する成年後見制度の利用が進んでいない。高齢社会を支える制度として2000年に介護保険とともに導入されたが、成年後見人に支払う報酬や煩雑な手続きを敬遠して利用をためらう人が目立つ。法務省などは6月に有識者研究会を設置。財産の処分時など必要なときに柔軟に利用できるよう制度を見直す検討を始めた。


(飛田コメント)
 私の経験からも、成年後見制度を利用するのは、認知症になった親の不動産を売却するときや、親のお金で親を施設に入所させるようなときに、不動産屋や施設側から勧められて、という場合がほとんどです。
 これは、親の預金をおろすことなどは、親のキャッシュカードを預かってしまえば事実上できてしまうからで、成年後見を選任する実際上の必要性が乏しいからでしょう。ただ、それはそれで問題があるのですが(例えば相続の際に親の預金額が通常の生活費以上に減っていて、親の面倒をみていた相続人が過剰に引き出していたのではないなどと争いの種になる)、しかし、多くの場合には、相続人間で何らかの話ができていたり、常識の範囲内で預金が使われているようであり、一部の例外を除いて、あまり問題にはなっていないようです。
 そうだとすれば、この記事中で言及されているように、不動産を売るときや、親を施設に入れるときだけ利用されるスポットの成年後見制度というものがあってもよいのでしょう。
 議論の行方に注目したいと思います。
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2022年11月2日 日経新聞朝刊3頁

「7月参院選、初の『違憲』」「仙台高裁、無効請求は棄却」との見出しの記事から

「小林久起裁判長は判決理由で、7月参院選の1票の格差は19年選挙の最大3.00倍から拡大し「憲法の要求に反する著しい不平等状態だった」と指摘した。国会が是正しなかったのは「裁量権を逸脱したものと評価せざるを得ない」と判断した。そのうえで、7月参院選について「憲法に違反する無効な議員定数配分により行われた違法な選挙」と批判した。一方、「憲法違反の状態は選挙を無効としても直ちに是正されず、法律を改正しなければできない」として選挙無効の請求は棄却した。」


(飛田コメント)
 皆様、「違憲状態」と「違憲」とは異なるということを知っておりましたでしょうか?
 何が違憲状態で、何が違憲なのか、という場合のこの「何か」(つまり対象)のところが違うのです。
 違憲状態の対象は、議員定数の配分状況とか一票の格差の状況のことで、違憲の対象は、そこで行われた選挙のことになります。
 議員定数の配分により1票の格差が違憲状態になっていたとしても、法律を改正するのは時間がかかるので、その違憲状態で行われた選挙が必ずしも違憲というこことにはならず、議員定数を是正しなかったことについて国会の裁量権を逸脱していなければ違憲ではなく、逸脱していなければ違憲ということになります。
 さらに、違憲ではあっても、裁判所が違憲と言っても解決出来る問題ではなく、かえって選挙を無効とすることで世の中を混乱させることになるから、事情判決という種類の判決で、「無効」とはしないということになります。
 複雑ですね。
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2022年11月1日 日経新聞朝刊1頁

「マンション改修要件緩和」「同意8割に、老朽化対策促す 政府検討」「建て替えず長期利用」という見出しの記事から

「政府は既に建て替えの同意の要件は現行の「5分の4」から「4分の3」などに下げる案を提示済みだ。さらにリノベの要件も緩める。建て替えの要件にあわせて、「4分の3」にする案件もある。
エレベーターや廊下、外壁などの共有部分だけの修繕なら要件は「過半数」または「4分の3」だが、個人が所有する専有部分を含める大規模改修は「全員」になる。」



(飛田コメント)
 記事によると、21年末でマンションは686万戸あり、うち築40年以上は116万戸もあるとのことですので、このマンションの建て替え・改修については大問題なわけですが、なかなか前に進みません。その1つの原因が区分所有権法に規定された建て替えや改修要件が重すぎることですが、今回政府がこの点を改善しようとしているとのことで評価に値すると思います。
 しかし、要件を「4分の3」に下げても、区分所有者が10人いたら7人以上の賛成が必要ですので、まだまだ重いハードルです。
 また、反対者がマンションに居住し続ける場合に、それを退去させるのに裁判をして、強制執行をしなければならないとすると、それだけで1年~2年かかる可能性があり、建て替えや改修は進まないでしょう。かといって、住む所がないような人を強制的に退去させるとすると、その人の生活はどうなるかの問題があります。
 したがって、この問題はとても重要で、ニーズもあると思うのですが、都心の一等地のマンションを除き、いまひとつビジネスとして成り立っていない感があります。
 あと、この分野の仕事をするには、一人一人の居住者に向き合わなければならず、合理的なことを言っても恨みをかう可能性があるので、とても高度な技術・ノウハウが必要だと思います。その辺のスキルの蓄積とか、人材の育成をどうするかも課題だと思います。
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2022年10月29日 日経新聞夕刊7頁

「佐藤九段マスク外し反則負け」「将棋の規定違反」との見出しの記事から。

「28日に東京都渋谷区の将棋会館で指された将棋の第81期名人戦A級順位戦、永瀬拓矢王座(30)-佐藤天彦九段(34)戦で、佐藤九段が対局中にマスクを着用しない臨時対局規定違反をしたため、反則負けとなった。」
「日本将棋連盟は、新型コロナウイルスの流行を受け、臨時対局規定で健康上のやむを得ない理由を除いて、対局中はマスクを着用しなければならないと定めている。」


(飛田コメント)

 おそらく佐藤九段は積極的にこの対局規定に違反してやろうと思っていたのではなく、コロナ収束に向かいつつある最近の状況や他の棋士もマスクを外して対局をし続ける例がないわけでもないこと、負けという結論が出る前に注意があってから然るべきと思われることから、終盤の難所に差し掛かっていることもあって、ついマスクを外していたということなのではないかと推測します。
法律家的にこの問題を争うとすると

1.まず、この臨時対局規定の文言が、これに違反した場合、直ちに負けという効果を
   導くものと解釈できるのか?

というところから始め、

2.条文の文言が直ちに負けという効果を導くものであった場合、そもそもそういう規
   定自体がおかしい、すなわち無効なのではないか?


というところを問題にするのでしょう。しかし、この臨時対局規定に対する上位規範(法律の世界でいう憲法)は存在しないと思うので、このような争い方は難しいのでしょう。

3.そうであれば、
 1)他にもマスクを外して対局を続ける例があるのに、それらはお咎めなしで、自分
         の対局だけ罰せられるのは不平等である。
 2)何の警告もなしに、いきなり罰するのは手続保障に反しないか?
 3)コロナの初期の時期であればまだしも、ほとんど皆がコロナワクチンを数回打
         ち、世の中全体としてもコロナ収束に向かいつつある現在において、うっかりマ
         スクを外していたら負けとするのは、罪と罰の均衡がとれていないのではない
         か?

などと理屈をつけて、何とか法的な土俵に乗るように努めますが、将棋連盟内部の規定に関することなので、(上記のような平等原則とか、手続保証とか、罪と罰の均衡などの諸原則を定める内部規定はないように思うので)、なかなか論理を組み立てるのは難しいでしょう。
 しかし、いち将棋ファンとしては、将棋ではなく、マスク着用の有無で決着がついてしまったのは非常に残念です。
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2022年10月29日 日経新聞朝刊42頁

「『大将』社長射殺容疑で逮捕」「工藤会系組幹部の受刑者 証拠乏しく立証に壁も 京都府警」との見出しの記事から

「捜査関係者によると、たばこの吸い殻は事件の現場となった本社付近で見つかった。DNA型鑑定などの結果、15年に付着物が田中容疑者のものと一致したことが判明。府警は重要証拠と位置づけた。」
「甲南大学の園田寿名誉教授(刑法)は「(現場付近の吸い殻は)男が現場にいたことを示せても、射殺の直接的な証拠にはならない」と指摘。「容疑者が犯人だと確信できるまで複数の間接証拠を積み上げる必要があり、立証のハードルは高い。」とみる。」


(飛田コメント)

 私がこの記事で注目したのは、2015年には警察・検察は現場に落ちていたたばこの吸い殻が田中容疑者のDNAと一致していたのに、これまで逮捕しなかったということ。園田名誉教授がいうように、たばこの吸い殻だけでは射殺事件の証拠として不十分であるから、今まで捜査を続けていたはずで、何かを手にしたから、今回逮捕に踏み切ったのではないかな?などと推測してしまいます。その何かが何なのか、今後明らかになってくると思いますので、注目したいと思います。
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2022年10月28日 日経新聞朝刊43頁

「ネットいじめ2万人超」「小中高いじめ61万件 昨年度最悪」「自治体、通報アプリ導入」との見出しの記事から

「2021年度に全国の小中高などで認知したいじめが過去最多の61万5351件だったことが27日、文部科学省の「問題行動・不登校調査」で分かった。SNS(交流サイト)などを通じ嫌がらせを受ける「ネットいじめ」も認知件数が初めて2万件を超えた。ネットいじめは海外でも問題になっている」

「対策として、教員や親や子どもへの啓発活動とともに各国で重視されているのが通報システムの整備だ。米国では14年に民間企業が通報アプリ「ストップイット」を開発。チャットで手軽にやりとりできるのが特徴で、カナダやオーストラリアなど7カ国に広がった。」


(飛田コメント)

 いじめの件数が昨年度で61万5351件とは、かなり多いですね。
 ネットいじめについては、司法制度を使って解決できれば良いのですが、裁判では当事者に主張させて、反論を聞いて、証拠調べで事実を確定させて、ようやく判決となって、判決に任意に従わなければ強制執行ということになりますので、時間がかかりすぎて、この種の問題について、有効な対策になり得ません。この記事の中にあるように、通報アプリの開発などによって、もっと効果的に対応できる手段の開発が急務だと思います。SNSや交流サイトの開設者に対し、このような問題を対応するアイデアを出してもらうというのも手ではないかと思います。
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