最近、濫用的会社分割について質問を受けることがしばしばあります。濫用的会社分割とは、典型的には次のような事例です(図が書けないのでわかりにくくて申し訳ありません。)。

① 経済的危機に瀕したA社が、再生を図るため、採算がとれる事業の継続等に必要なGoodな資産(及び契約関係)と、買掛債務のように事業継続に不可欠な負債のみ(ただし、資産とつり合うような借入金等の負債を含めることがある)を、会社分割により、B社に移転する。その際B社は、会社分割の対価として、A社に対しB社株を発行するが、多くの事例では、その後B社株は、A社から協力者の第三者に譲渡され、さらにB社において第三者割当て増資を行い、A社に発行したB社株の価値を薄める。

② 会社分割後のA社には、ほとんど資産は残っていないか、又はBadな資産しか残っていない状態であるのに対して、金融債務等の負債はほとんど残っていることから、当然のことながら、その後、債務不履行状態になるが、もう収入はないので、そのまま放置される又は、A社の経営陣に法的にきちっとやろうなどという意識が残っているときは、破産や民事再生の申立てがなされることもあるが、いずれにしても資産はほとんどないので、A社に残された金融機関等の債権者は、微々たる配当しか受けられない。

③ B社(新会社)は、過剰債務を抱えることなく採算のとれる事業を譲り受けたので、(見事?)再生を果たすことができる。他方、A社(旧会社)に残された債権者にとっては、上記のように弁済を受けられず、実質的には債権放棄を強制される結果となる。 

 もともとこのような方法は、『第二会社方式』などと呼ばれ、事業再生の業界ではおなじみのスキームであったと思います。 

 しかし、平成18年5月に会社法が施行される前には、分割会社と分割承継会社の双方において「債務の履行の見込みがあること」が会社分割の効力要件であると考えられていたので、債務超過の会社は会社分割はできないと理解されており、事業を移す手段としては『事業譲渡』(当時は「営業譲渡」と呼ばれていた)が利用されていました。しかし、事業譲渡スキームの場合、これによってA社(旧会社)に残された債権者が不利益を受けるとなると、民法424条の債権者取消権を行使され、事業譲渡を取り消される可能性があるし、A社(旧会社)がその後破産したような場合には、破産管財人が事業譲渡を否認する可能性があるとのことで、このスキームを利用するには、A社(旧会社)に残される債権者の同意が必要だとされていました。

 ところが、会社法制定により、債務超過会社も会社分割ができると解釈されるようになり(ただし、学説上は有力な反対説がある。注1)、しかも、事業譲渡の場合は、契約関係を譲受会社に移転するときには相手方の承諾が必要ですが、会社分割の場合はそれが必要ではなく(注2)、さらに、移転の際の税金も少なくて済む場合が多いため(注3)、事業再生の分野では、『事業譲渡』ではなく『会社分割』により、資産、負債を含む事業を移転させるスキームが多くなったのです。 

 ただし、事業譲渡であろうと会社分割であろうと、A社(旧会社)に残された債権者に、実質債権放棄という不利益を与えることには変わりありません。そこで、きちんとした専門家が関与しているスキーム(例えば、中小企業再生支援協議会が策定を支援しているスキーム)では、必ず、不利益を受ける債権者、上記の例でいえばA社(旧会社)に残される債権者(金融機関)から、スキーム(計画)についての同意を得ることになっています。

 しかし、この債権者の同意を得るのがけっこう難しいのです。計画に同意した方が同意しない場合よりも、結果的に回収が多くなること(経済合理性があること)をきちんと説明し、理解していただかなければなりません。その過程で、債権者(金融機関側)からは経営陣の退陣を求められたり、経営陣の保証債務を求められたりする等の厄介な問題も発生します。そこで、ちょっと怪しげなコンサルタントが提案するスキームの中には、債権者の同意を得ないで会社分割による第二会社スキームをやってしまえ、というものが現れてきます。これが濫用的会社分割と呼ばれているものです。

 では、このような濫用的会社分割をされた場合、A社(旧会社)に残された債権者(多くは金融機関でしょう。)としては、どのような対抗手段があるでしょうか? 

 実は、つい最近まで、この対抗手段がはっきりしませんでした(注4)。不当な事業譲渡がされた場合の対抗手段である債権者取消権(民法第424条)についても、会社分割に対して行使できるのか、否定的な見解もあったのです(注5)。ここに、このような怪しい再生スキームが跋扈(ばっこ)してしまった原因があると思います。


 しかし最近は、このような濫用的会社分割の問題性が広く認識されるに至り、裁判所は、A社(旧会社)に残された債権者に救済の手段を認めるようになっています。

 まず、債権者取消権ですが、これは、東京地裁が平成22年5月27日判決(金融商事法務1902号144~156頁)で会社分割の事例でも行使できることを認め、東京高裁が平成22年10月27日判決(金融商事法務1910号77~87頁)でこの東京地裁判決の判断を追認しています。

 次に、債務者会社(A社、旧会社)であるサービサーが、弁済計画等について協議している最中に、債務者会社が会社分割を利用して、黙ってB社(新会社)に事業を移してしまったという少々特殊な事例ですが、福岡地方裁判所平成22年1月14日判決(金融法務事情1910号88~116頁)は、法人格否認の法理により、A社(旧会社)に残されたサービサーに対し、B社(新会社)に対して請求することを認めています。 

 さらに、A社(旧会社)とB社(新会社)が同じ店舗の名称で事業を営んでいるような場合には、会社法22条1項適用により、B社に連帯債務を認める判例(東京地方裁判所平成22年7月9日判決 金融法務事情1903号14~15頁)も現れています。
 さて、実務家として濫用的会社分割の相談を受けた場合にどうするか?という問題ですが、理論的には、法律学は自然科学ではありませんので、①そもそも現行会社法下でも債務超過会社となるような会社分割はできないという見解も成り立ちますし、②債務超過会社も会社分割をすることができ、それに対する債権者取消権等の行使は認められない、というような見解も成り立つのだと思います。 

 しかし、現在の社会的状況や判例の動向を見ると、私としては「債務超過であっても会社分割はできるが、A社(旧会社)の債権者を害するようなスキームはのちのち債権者取消権によって取り消されたり、破産管財人によって否認されたりするおそれがあり、リスクが高いので、やめた方がよい。」とアドバイスするのが適当であると考えています。

 特に重視すべきは、A社(旧会社)に残された債権者に債権者取消権の行使を認めた前述の東京地裁平成22年5月27日判決は、民事第8部(商事部)のものだということです。民事第8部は、会社関係訴訟や会社更生法を担当している専門部で、いわゆるエリートの“できる”裁判官が集まっているところです。この部に属していた裁判官・書記官による「類型別会社訴訟ⅠⅡ」という

 本も出版されており、(事実上)部としての統一的見解を持っています。

 「類型別会社訴訟Ⅱ」(第2版)778~779頁の該当箇所を読むと、民事第8部が、会社分割に債権者取消権を行使できると考えているのか否かいまひとつはっきりとしなかったのですが、上記判例によって、行使できると考えていることが明確になりました。しかも、上記判例を読んでいただくと、濫用的会社分割の社会的な問題性にも触れられており、かなり気合が入っていることが窺えます。今後社会の状況がかなり変化しないと、民事第8部の個々の裁判官がこの判決と違う判断をするのは期待できません(注6)。そうすると、私の主戦場とする東京23区内でこの種の紛争が起きて、

 民事第8部で判断されるに至った場合、よもや、解釈論として「債権者取消権の行使は認められない。」などと判断されることはないと思うからです。 

 弁護士として濫用的会社分割の問題に関与せよと言われれば、私としては、A社(旧社)に残された債権者(金融機関)側の代理人として、債権者取消権を主張する側に付きたいですね。


 以下の脚注は少々専門的になるので、興味のある方以外は読み飛ばしてください。



注---------------------------------------------------------------

1) 正確に言うと、会社法制定前は、会社分割を行う際に、分割会社(旧会社)及び分割承継会社(新会社)のいずれについても「各会社ノ負担スベキ債務ノ履行ノ見込アルコト及其ノ理由ヲ記載シタル書面」の開示が要求されていたため(会社法制定前商法第374条ノ2第1項第3号・第374条ノ18第1項第3号)、「債務の履行の見込みがあること」が会社分割の効力要件であると解されていたが、会社法では、事前開示事項については会社法規則に委ねられ、その文言も「債務の履行に関する事項」(会社法規則第183条第6号、第192条第7号、第205条第7号)に改められたことから、「会社分割をする場合において、仮に債務の履行の見込みがないというときは、上記事前備置書面にその旨を記載すれば足り、そのために会社分割が無効となることはない。」(『論点解説 新・会社法』674頁)と解されている。ただし、江頭憲治郎『株式会社(第3版)』829頁は、「会社法の下でも、いずれかの会社に債務の履行の見込みのないことが会社分割の無効事由であることに変わりはない。」という。


2) なお、事業譲渡とは異なり、会社分割では、債権者保護手続を経る必要がある(会社法第789条、第798条、第806条ないし第809条)。これは、会社分割をする前に、債権者に会社分割をする旨及びこれに異議があれば述べることができる旨を公告し(定款上の会社の公告方法が官報公告の場合は、知れたる債権者に個別に通知することも必要。)、債権者から異議が述べられたときは、会社分割をしても債権者を害することがないと言えない限り、会社は、弁済、担保提供又は弁済のための財産信託をしなければならないという制度である。


  しかし、会社法上、(剰余金の配当又は全部取得条項付種類株式の取得をしない場合には)分割会社(A社・旧会社)に対し債権の全額を請求することができる債権者は、債権者保護手続の対象ではないとされており、また、分割会社(A社・旧会社)が分割承継会社(B社・新会社)の債権者の連帯保証人になるときにも、分割承継会社の債権者について債権者保護手続を行う必要はないとされている(会社法第789条第1項第2号、第810条第1項第2号)。したがって、濫用的会社分割のケースでも、適法に債権者保護手続を省略することができ、実際にも省略されているのが通常である。


3) 事業譲渡よりも会社分割の方が、事業を移転する際に要する登録免許税、不動産取得税、消費税、印紙税について有利又は有利になる可能性があることについては、藤原敬三著『実践的中小企業再生論』217頁~219頁参照。


4) 会社法上は、会社分割の効力を争う手段として、「会社分割無効の訴え」が用意されているが、この訴えの提起権限は(すべての債権者にあるわけではなく、)債権者保護手続において異議を述べた債権者にしかなく(会社法第828条第2項第9号・第10号)、そもそも債権者保護手続の対象ではない本件のA社(旧会社)に取り残された債権者の救済には役立たない。


5) 岡信浩「濫用的会社分割と民事再生手続」NBL922号8頁~9頁


6) 債権者取消権を行使して会社分割を取り消すという類型の訴訟が、会社関係訴訟として常に民事第8部の担当になるのかは少々分からないのですが、上記の判例を前提とすると、原告代理人は会社訴訟として当然民事第8部に直接事件を持ちこむであろうと推測できます。



弁護士 飛田 博
2011年12月15日