下町ロケット


145回(平成23年/2011年上半期)の直木賞受賞作であり、販売冊数は35万部を超えたようですので、このブログの読者のなかにも、既に読まれた方も多いのではないでしょうか。

この小説は、ももともと宇宙科学開発機構でロケットエンジンを研究していた主人公の佃航平が、ロケットの打ち上げの失敗を契機に、同機構を辞め、親から引き継いだ佃製作所(町工場・中小企業)をめぐる物語です。
佃製作所が、上場企業から主力商品について特許訴訟を仕掛けられ、資金繰り難等の経営危機を迎えつつ、紆余曲折もありながら、辣腕弁護士の力を借りて、反対に、自社の別の特許を利用してこの上場企業に特許訴訟を提起し返し、この上場企業と闘っていきます。
そして、以上の特許訴訟とは別に、自社で開発していた水素エンジンのバルブの特許権を見直して、我が国で宇宙開発をしている別のトップ大企業に対して法律的に有利な立場を築き、この特許権が欲しいこのトップ企業との間で、たくましく交渉していくのです(そして、どうなったかは読んでのお楽しみです。)。
最終的に、佃製作所一丸となって、主人公の夢を実現させ、会社としても成長していきます。

特許訴訟が、単に裁判上の「勝った・負けた」にとどまらず、企業の経営戦略(この本で描かれているように悪意の戦略に利用される場合もある。)にも利用されるという意味で、現実の企業社会における特許の意味が良くわかる秀作であり、特許等の知的財産に興味のある方には、特に、一読をお勧めします。

私個人としては、佃製作所の顧問弁護士で当初特許訴訟を担当した老弁護士に、弁護士の悲哀を感じました。どこに悲哀を感じたかは読んでのお楽しみですが、このような弁護士にならないよう精進したいと思います。