企業法務を行っている弁護士からすると、オリンパス事件は、『企業の危機管理の生の教材』というべきものであり、自分が相談を受けたらどのように助言するかという観点でみると、とても考えさせられます。
1月10日に公表された同社の取締役責任調査委員会の報告書によると、現取締役11名のうち高山社長を含む6名について、(今回の損失隠し等の問題には直接の関与又は認識がなかったものの)国内3社の株式買収金額を決めた取締役会や、ジャイラス買収のFA報酬等を決めた取締役会において、職務上要請される調査を尽くさずに承認してしまったことに善管注意義務違反があると認定しました。これに基づいて、オリンパスは、高山社長を含む現取締役6名に対しても、1月8日に東京地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起したとのことです。そして、今後の対応について、同社は、「責任ありと判断され提訴されるに至った現取締役は、当社の業務執行に支障をきたさないよう、業務の引継を完了させた上で、平成24年3月から4月を目途に開催する予定の臨時株主総会時をもって、全員取締役を辞任する予定であります。」とのプレスリリースをしています。
ただ、1月9日の当ブログの私の記事でちょっと触れましたが、今後、責任があるとされた者が過半数を占める取締役会で、少なくとも3月から4月開催予定の臨時株主総会までは業務を行い、経営体制の刷新案(陣容と意思決定の仕組み等)などを作成することの問題については特に触れられていません。この点は、同社と利害関係を有しない社外の有識者で構成される経営改革委員会による指導・勧告や、次期株主総会への提案事項について同委員会の事前の審議・承認を受けることによって、ある程度はカバーされるということなのかもしれませんが、同委員会の委員は、これまで同社に関与したことのない『社外』の有識者ですので、どうしても原案は、現取締役会や(現取締役のもとで業務を行っているオリンパスの)担当部署が作っていかざるをえないものと思われ、現経営陣の意向がある程度反映される可能性はあるように思います(もちろん、反映されることが直ちに悪いと言っているわけではありません。)。
そこで、私などは、①一見して不自然な株式購入やFA報酬の問題性を見破ることができず、②月刊誌FACTAで問題が指摘されたにもかかわらず特に動かず、③反対に、問題を指摘したマイケル・ウッドフォード元社長を(出席した取締役の)全員一致で解職してしまった現取締役会に、経営体制刷新案(特に、次期の取締役候補が重要)が提案できるのか、また、そのような現取締役会の提案を、はたして株主が承認してくれるのかということが心配になってしまいます。
しかし、「では、今すぐにでも臨時株主総会を開催して、新たに取締役を選任しなおすというドラスティックな対応が適当なのか?」と言われれば、それはそれでちょっと考え込んでしまいます。理想論としてはそうなのでしょうが、結局、候補者をどうするのか等々、問題も多く、仮に現取締役会の推薦する候補者対ウッドフォード元社長の擁立する候補者で委任状獲得合戦が行われるような展開になるとかなりの混乱も予想されます。「サラリーマン根性の集大成」などと批判されたオリンパスの閉鎖的な企業体質では、(外部から取締役を連れてきて経営させるというような)ドラスティックな改革では、かえって組織自体がもたない可能性がある、という認識もあり得るかもしれません。つまり、現実的な選択肢ではないとも考えられるということです。
危機管理的には、臨時株主総会で新取締役(新体制)について承認が得られるようにすることが最重要課題であると考えられますので、臨時株主総会まで混乱がなく、かつ総会で主要株主からも承認も得られそうなやり方がベストと言うことになりそうです。この種の問題は、法的な問題というよりは、オリンパスという会社の体質や、オリンパスの株主である国内の主要な株主の動向をどう読むかの「読み」の問題が重要なのです。そして、現在、オリンパスで危機管理についてアドバイスしている専門家の読みとしては、今のようなやり方が最も混乱がなく、かつ、これで臨時株主総会の承認も得られるということなのでしょうね。私のような潔癖症の人間は、責任がある者が過半数を占める現取締役会に次期取締役候補者を選ばせること等にはちょっと抵抗がありますが、報道を見ても、確かにこの点はあまり問題視されていませんので、今のところ、うまくいっているとは言えそうです。
ただ、オリンパスの企業体質は、温存されてしまうかもしれませんが・・・・