本


この本は、英国ハートフォードシャー大学で心理学の研究しているリチャード・ワイズマン(Richard Wiseman)教授が、心理学上の成果を、自己啓発の分野に応用し、「手っとり早く自分を変える」ための方法を示してくれる本です。科学的な裏付けが示されているので、とても説得力があるし、「『自己啓発』はあなたを不幸にする!」とか「『面接マニュアル』は役立たずだった!」とか「イメージトレーニングは逆効果」とか、刺激的な内容に満ちているので、普通の読み物としても面白い本です。

弊事務所では、現在、離婚の無料相談を実施していますが、この本の中で、ワイズマン教授は、「離婚の危機に瀕しているあなたに」という見出しのもとで、円満な夫婦生活を送るためのテクニックを紹介しています。離婚の相談にいらっしゃる方は、このようなテクニックを使っても「万策尽きた」ということなのだと思いますが、本ブログの読者には参考になるかと思います。ちょっとだけ、要約させていだくと次のとおりです(ただ、厳密な要約ではないので、興味のある方は本を読んでいただければ幸いです。)。

1. 円満な夫婦関係の基本は、相手の言葉を別の言葉で言い換えたり、相槌をうったりして、相手を理解しようとする会話の進め方(アクティブ・リスニング)にあると言われたりする。例えば、妻が夫に「あなたはいつも酒の匂いをぷんぷんさせて帰ってきて真夜中までテレビを見ている。」と文句を言ってきたら、アクティブ・リスニングの観点からは、夫は妻の不満を自分の言葉に置き換え、妻がなぜ怒っているのか理解するよう努めることがお勧めということになる。
しかし、アクティブ・リスニングには効果がない。というよりも、心理学者で円満な夫婦生活に関する世界的権威のジョン・ゴットマンが1990年代に実施した調査によれば、そもそも、夫婦が円満であろうとなかろうと、現実の夫婦の会話には、アクティブ・リスニングを思わせる会話はめったに表れていなかった。そもそもアクティブ・リスニングを行うには、「感情のアクロバティック的な操作」が必要で、普通の人には難し過ぎる。
ただ、ゴッドマンによると、長続きするカップルには、対立したときのパターンに独特の特徴がある。それは女性の方がたいてい厄介な問題を切り出し、問題の分析を行い、解決法をいくつか提示し、男性がその案を一部でも受け入れて女性に協力する姿勢を示すと関係が長く続くが、はぐらかしたり、馬鹿にしたりすると、関係が壊れやすいということだ。

2.
 恋人たちは、お互いのことを好きなので、じっと目を見つめ合うことがある。
ただ、超能力(テレパシー)に関する実験であると嘘をついて、見ず知らずの男女に数分間じっと目を見つめ合ってもらって、実験後に相手に対してどれくらい好意を抱いたか調査したところ、参加者たちは、相手に対して驚くほど好意や魅力を感じていた。
つまり、私たちの思考や感情は行動に影響を与えるが(好きだから見つめ合う)、同時に行動が思考や感情に影響を与えるのだ(見つめ合うと好きになる)。
夫婦関係にもこれを応用すればよい。
実験によると、夫婦の右手と左手、右足と左足をマジックテープで結び、発砲スチロールで作られた1メートルの障害物を乗り越えることが必要な障害物競争を行わせた場合と、単に夫婦が片方ずつ順番に玉ころがしを行う競争を行わせた場合とでは、前者の方が、実験後に相手に対する愛情を感じる度合がはるかに高かった。これは、前者の方が、2人が初めて出会い、毎日胸をときめかせていたころの体験とよく似ているからだ。つまり、恋愛時代と同じ行動を行うと、夫婦の間にかつての情熱がよみがえるのだ。
これは、夫婦に関する数々の調査結果でも裏付けられている。すなわち、幸せな生活を続けている夫婦は、2人で一緒に休日を過ごすことが多く、互いにときどき相手の意表をつくことがあり、刺激的で受け身でいるより積極的に行動する。
したがって、夫婦で、スポーツ、アマチュア演劇、ロッククライミングなどに挑戦する、知らない場所に出かける、ダンスを習う、いつもと趣向の違う旅をする、などの活動を行い、一緒に人生の障害物を乗り越えれば、夫婦はいつでも仲睦まじくいられる。

3.
 女性と男性では、愛を感じるロマンチックな行為の評価が違っている。たとえば、「君は最高に素敵な女性だと妻に言う」という行動のロマンチック度に最高点を付けた女性は25パーセントもいたのに、男性はわずか11パーセントしかいなかった。同様に、「仕事で嫌な思いをした妻のために、くつろげる風呂を用意する」のロマンチック度に満点をつけた女性は22パーセントだったのに対し、男性は10%だった。つまり男性がロマンチックな行為をしないのは、愛情が無いわけでも怠け者なわけでもなく、そういう行為に女性が愛を感じるとは思っていないからだ。女性のことがよくわかっていない男性のために、女性が「ロマンチックな愛を感じる行為」として最高点を付けた上位10項目を挙げると次のとおり。
① 彼女に目隠しをしたあと、思いがけないプレゼントをしてよろこばせる
② 週末にいきなり彼女を素敵な場所に連れて行く
③ 彼女について詩を書く
④ 君は最高に素敵な女性だと彼女にいう
⑤ 仕事で嫌な思いをした彼女のために、くつろげる風呂を用意する
⑥ 彼女にロマンチックな言葉を書いて郵便やeメールで送る、あるいは家のどこかに残しておく
⑦ 彼女が寝ているベットに朝食を運んで起こす
⑧ 彼女が寒がっているときに、自分のコートを着せかける
⑨ 彼女に宛てて大きな花束かチョコレートを仕事場へ送る
⑩ 彼女の好きな曲を集めてダビングし、CDを作る
注目すべきは、現実離れした意表をつく行為(サプライズ)がトップで、それに思いやりのある行為が続き、物で愛を表現する行為は下位になるということだ。

4.
 前述の心理学者ジョン・ゴットマンの30年以上の実証研究によると、円満な夫婦関係を続けるには、会話の中に、プラスの表現(共感、理解、許し等々)がマイナスの表現(敵意、批判、軽蔑等々)の5倍必要であるとのことである。これは、例えば、片方がほめると(「そのネクタイ素敵ね」)、相手もプラスの言葉を返す(「ありがとう、君のドレスも素敵だよ」)又は、そのような言葉に慣れてくると何も返ってこない(「いま、何時だい?そろそろパーティに出かけようか。」)ということになるが(慣れると何も返ってこないので、プラスの表現は多く必要ということになる。)、マイナスの表現は、少しでも批判めいた言葉を口にすると(「そのネクタイ、大丈夫?」)、相手からマイナスの言葉が山ほど返ってくることになるため(「うるさいな。俺はこのネクタイが気に入っているのだ。君のドレスこそセンス悪いよ。」)、少しの言葉で関係を悪化させることになるからだ。
また、円満な関係が続いている夫婦の会話には、「でも」という言葉を使い、相手の欠点について否定的なニュアンスを和らげる傾向があることもわかっている。たとえば、「夫はなまけ者なの。でも、それをネタにして2人で笑えるわ。」「妻は料理が下手でね。でも、そのおかげで、2人で外食して美味しいものが食べられます。」「彼女には冷たいところがある。でも、それは子供の頃に苦労したからなのだ。」という感じである。

5.
 恋人のいる学生を100人以上集め、異性の写真を見せ、肉体的に最も魅力的だと思う異性を選ばせて、その後、参加者を2つのグループに分け、一つのグループには、自分の恋人に愛情を強く感じる瞬間についての作文を書いてもらい、もう一つのグループには好きなことを書いてもらい、参加者に、作文を書く間、魅力的な肉体の写真の異性のイメージが頭に浮かんだ回数をチェックしてもらったところ、恋人についての作文を書いている人の方が、写真の異性のことが頭に浮かんだ回数がはるかに少なかった。これは、愛する人について考えていると、魅力的な異性への関心が大幅に減ることを示している。したがって、①パートナーからもらった思い出の指輪、ペンダントを身につける、②パートナーからのプレゼントを家や仕事場においておく、③2人の写真をサイフやバックに入れておくなど、自分のパートナーのことを思い出させる品物を身近においておくと、魅力的な他の異性の誘惑に負けずに、いつまでも仲のいい夫婦でいられる可能性が高い。

どうです? 参考になりましたでしょうか?
その他、この本には、幸福になるためにはどうしたらいいのか、面接で好感度を上げるにはどういうテクニックが有効か、人生で成功するにはどうしたらよいのか、ストレスを解消するにはどうしたらいいのか、子供の教育にはどのような誉め方が有効か、等々、心理学を踏まえた役に立ちそうなテクニックが紹介されています。興味のある方は、是非一読をお勧めいたします。