民法改正: 契約のルールが百年ぶりに変わる (ちくま新書)
民法改正: 契約のルールが百年ぶりに変わる (ちくま新書)


   現在、民法の改正作業が進められています。   
   2009年11月に、法務大臣の諮問機関である法制審議会の民法(債権関係)部会で、民法改正についての審議がスタートし、2011年5月には「中間的な論点整理」が公表され、6月にはパブリックコメントが実施され、7月からはパブリックコメントを踏まえて、また審議が開始され、2013年までに中間試案を取りまとめる予定だそうです。

   この民法改正作業について、何故今、改正が必要なのか? どのような点が改正の対象になりそうなのか? といった疑問に答えてくれるのがこの本です。新書ということもあり、法律関係の仕事をしている人だけでなく、一般の人にも理解しやすいように平易に説明されています。

   この本によれば、民法を改正する必要性・理由は次の3点あります。

 1つ目は、現行民法はとてもわかりにくいということです。民法第95条の錯誤規定のように、条文を読んだだけでは意味が分からない、具体的な事案について規範内容が導けないことが多いため、膨大な判例法というものが形成されているのですが、民法典を読んでも、一般の国民がどう行動してよいかわからないのでは、一般国民にルールを提示すべき法律の役目を果たしていないことになります。私も、常々この点は感じますね。特に、不当利得と不法行為は、何とかしてもらいたい。

 2つ目は、現行民法は古すぎるということです。現行民法が制定されたのは、日清戦争が終了した1年後の1896年(明治29年)のことです。どのような時代だったかというと、その7年前にようやく新橋・神戸間で東海道線が開通し(東海道新幹線ではなく、東海道線です。)、3年後に、東京・大阪間で長距離電話ができるようになった時代とのことです。したがって、当然のことながら、現行民法は現代社会に対応できていないことになります。例として、消滅時効制度、法定利息、約款、預金取引、サービス提供契約、不可抗力による免責、事情変更の原則などが挙げられています。私の弁護士としての実感としても、そのとおりという気がします。

 3つ目は、国際化に対応できていないということです。グローバル取引の時代を迎え、今、各国で民法の改正が行われており、これから準拠法をどの国の法律にするか等々で、国際競争が行われようとしています(というか現に行われているのでしょう。)。その際に、古臭くて、穴だらけで、判例や学説を調べなければ、具体的に裁判で使われている規範が確定できないような民法では、たちうちできないということです。日本国民及び日本の法曹は、諸外国に引けを取らない知的水準にあると思うのですが、道具が悪くて負けてしまうなんて、とてももったいないことです。我が国の発展のために、民法改正を実現しなければならないという気になりました。 

   以上のようなことが、現行民法の制定過程に遡って、また具体例も多数挙げて、わかりやすく述べられています。民法改正の議論を早わかりするには最も適した本だと思いますので、おすすめ致します。

 ところで、著者の内田貴先生についてですが(弊事務所の弁護士はいずれも、面識はもありませんが)、民法改正作業のため、東京大学法学部教授の職を2007年に辞め、現在は法務省民事局参与として民法改正作業に従事されているとのことです。内田先生が東京大学出版から出している民法の教科書は、司法試験受験生であれば一度は参照したことがあるといっても過言ではないでしょう。とてもわかりやすいくて定評のある教科書です。末は大学者になると思っていましたが、教授の地位を投げ打って、民法改正に身を投じるとは。その心意気に感じ入りました。弊事務所の弁護士は、「民法が改正されるとまた新法を覚えなければならなくなるから、改正に反対」などと、器の小さい議論は決して致しません。

 内田先生を応援しています。