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(労働法といえば、菅野和夫教授のこの本。我々もいつも参照させていただいております。)


1.はじめに

パート、アルバイト、契約社員、高齢者が多い会社(今多くなくても将来多くなりそうな会社)にとっては、この4月1日(平成25年4月1日)から、とても影響の大きい労働法制の変更が2点あります。
 

1つは、パート・アルバイト・契約社員のような有期労働契約による労働者について、5年経過後には、労働者側の希望によって無期労働契約への転換できる制度の導入(無期労働契約への転換制度)です。

もう1つは、(実質的)65歳定年制の本格導入です。

2.無期労働契約への転換制度

これは、有期労働契約が繰り返し更新され、通算5年を超えたときは(ただし、施行日である平成25年4月1日以後の日を契約期間の初日とする有期労働契約から適用-同日以降に更新されるものも含むので注意。)、労働者の申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールのことで、労働契約法第18条1項に規定されます。

厚生労働省のパンフレットによれば、「有期労働契約で働く人の約3割が、通算5年を超えて有期労働契約を繰り返し更新している実態にあり、その下で生じる雇止めの不安の解消が課題となって」いたことから、「こうした問題に対処し、働く人が安心して働き続けることができる社会を実現するため」に、このような制度が導入されることになったようです。

私の認識としては、会社側が有期労働契約を選択しているのは、景気の波や会社の業績の変動に応じて、雇用調整をしたいという強いニーズがあるにもかかわらず、正社員(無期労働契約で働く人たち)を解雇することが法律によって厳しく制限されているため、有期労働契約で雇用調整をしている(つまり短期の有期労働契約を締結し、景気や業績が悪くなったら、解雇ではなく、契約期間が終了したからという理由で辞めていただく。)との理解でしたので、雇用調整をしたいという会社側のニーズの方に何らの手当てもせずに、このような制度を作ることは、かえって5年を超える契約更新をしない(つまり無期労働契約に返還されるような有期労働契約をしないようにする)という選択を会社側に促すようなもので、有期労働契約者の地位は今以上に悪くなる可能性があるのではないかと心配します。

しかし、いずれにしても既に成立してしまった法律であり、約2週間後の4月1日からこの制度が導入されるので、会社側(特に、パート、アルバイト、契約社員などの有期労働契約者が多く、かつ、繰り返し更新されている会社)では、真剣に対応を考えなければなりません

対応としては、次の2つの方向性が考えられます。

① 無期労働契約へ転換される有期労働契約をなくす方向性

前述のとおり、無期雇用契約への転換は、有期労働契約が繰り返し更新され、通算5年を超えたときに、労働者側に申込権が発生するというものですので、無期労働契約への転換を認めたくないのであれば、通算で5年を超えないようにすればよいということになります。ただし、5年の直前の更新の際に、「無期労働契約に転換されたくないから」という理由で契約の更新をしないことは、雇止め禁止の法理(労働契約法19条参照)から認められません。したがって、有期労働契約を締結する当初から、雇用契約書又は労働条件通知書で、更新が無い又は更新の年数について5年を上限とすること明示しておくのが適当です。

まとめると、有期労働契約の全部について(又は特定の職種の一部について)無期労働契約への転換を認めたくないという方針の会社については、この4月1日以降に有期労働契約を締結する場合、雇用契約書又は労働条件通知書中に、更新をする予定がないこと又は更新の年数の上限を5年とすることを明示するというように社内ルールを変更をする必要があります

② 無期労働契約に転換される有期労働契約を認める方向性

会社によっては、無期労働契約に転換する者が発生することもやむを得ない、と考えるところもあるでしょう(例えば、ある職種については、無期労働契約への転換を認めたくないが、ある職種については、無期労働契約への転換が発生するのもやむを得ないと考える場合等です。)。

 ただ、その場合考えておかなければならないことは、就業規則等の別段の定めがないと、無期労働契約に転換された後も、従前と同じ契約内容となることです(労働契約法18条1項第2文)。したがって、無期労働契約になった以上、例えば、重い責任のある役職に就任させる余地を求めたいとか、配置転換ができるようにしたいとか、有期労働契約のときとは違う条件を求めたいのであれば、無期転換雇用契約者にも適用される就業規則を作っておかなければダメということになります

なお、この無期労働契約への転換制度の5年の通算期間計算の例外として、クーリング期間というものがあります。これは、例えば、1年以上の有期労働契約の場合、6か月仕事から離れていると、前の契約期間はリセットされて、またゼロから5年の期間がカウントされるようになるというものです(労働契約法18条2項参照)。この制度を利用して、例えば、4年経過後に、6ヶ月間仕事から離れてもらい(つまり一旦労働契約を終了させて)6か月後に再雇用するというような方法も考えられますが、現実には、仕事から離れている際の有期労働契約者の生活をどうするのかという問題がありますので、無期労働契約への転換を回避する方法として、このクーリング期間を利用することは難しいと考えられます。

3.65歳定年制の本格導入について

これは、年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられるのに対応して、事業者に対し、定年制をこれまでの60歳から65歳に引き上げさせようとするものです(詳しくは厚生労働省のパンフレット参照。)。

この制度を説明しようとすると少々複雑なのですが、今現在も「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」という法律があり、事業者は、60歳を下回る定年制を設けられないことを前提に(高年齢者雇用安定法8条)、

① (65歳以上への)定年の引上げ

② 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)の導入

③ 定年制の廃止

という3つの措置のいずれかを講じることが義務付けられています(同年9条1項)。したがって、今の制度でも、事業者は、65歳以上の定年制を設けるのか、継続雇用制度を導入するのか、定年制を廃止するのかの選択をしなければならないのですから、「法律の定める定年の年齢は?」と問われたら、65歳以上と言ってもいいように思えます。

しかし、実際には、高年齢者雇用安定法9条2項に、労使間で、「継続雇用制度の対象となる高齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは」、継続雇用制度を導入したものとみなすという規定があり、この労使間の協定で継続雇用制度の対象者から外すことができたため、全員が65歳定年とは言えない状況だったのです。

 今回の改正で、この労使間協定による(継続雇用制度の対象除外という)例外が、平成25年4月1日から廃止されます。これにより、制度としては、①定年を65歳以上に引き上げるか、②例外なしに継続雇用制度を採用するか、③定年制を廃止するか、の3つしか残されておらず、しかも、これらの措置を講じないと企業前が公表されるというペナルティがあるので(厚生労働省のパンフレットによれば、「いずれかの措置を会社の制度として導入する義務であり、個々の労働者の雇用義務ではない」とか「定年引き上げの義務化ではない」と説明されていますが)、実質的には、65歳定年(又は継続雇用もしくは定年なし)の義務化といってもよいでしょう。

① 経過措置

ただ、今回の変更は、国の年金制度と関連していますので、年金の受給対象年齢が段階的に引き上げられることに対応して、厚生年金(報酬比例部分)の受給年齢に到達した以降の者(つまり年金を受給できる者)に対しては、労使協定により引き続き継続雇用する者を限定できるという経過措置が認められています。つまり、男性については、昭和36年4月2日以降に生まれた人から65歳が厚生年金の受給開始年齢になりますので、これらの人が65歳になるまで(したがって、平成37年12月1日まで)、この経過措置が使えることになります(附則2条-経過措置については、このパンフレットの5頁の図がわかりやすいです。)。

ただし、この経過措置を受けるには、平成25年3月31日までに、労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが必要になりますので、このような労使協定のない会社については、(経過措置を受けたければ)労使協定の作成が急務となります

② 就業規則

また、厚生労働省が公表しているQ&Aでは、就業規則に定める「退職・解雇事由」に該当する者は継続雇用をしないものとする余地が認められています。例えば、就業規則の中で、①健康に障害があり、業務に支障がある、②協調性に著しく欠け、業務に支障がある、③勤務成績、勤務態度不良等で従業員として不適格なとき、④やむを得ない事由により事業の閉鎖または縮小をするとき、ならびに経済事情の都合により人員整理の必要があるとき、等の「退職・解雇事由」がある場合には、継続雇用をしないことも認められることになります。したがって、会社側としては、もう一度就業規則を見直してみる必要があるでしょう

③ 定年後に無期労働契約に転換されないために

さらに、例えば、60歳定年の会社で、継続雇用により、1年間の有期労働契約として雇用を継続する場合、これからは労働契約法18条の適用により、5年が経過すると無期労働契約に転換される事態も発生し続けます。したがって、現在60歳が定年で、継続雇用制度によって対応しようとしている企業は、(定年後再雇用者に対する)就業規則などで、65歳以上を再(第2)定年にする規定がないと、「定年なし」状態になってしまいますので、この点の手当ても忘れないようにしなければなりません

4.おわりに

以上みてきたとおり、パート、アルバイト、契約社員、高齢者の多い会社にとっては、今回の労働法制の変更は、雇用関係の実務にとてもインパクトの大きな影響を与えます。いま一度、今回の労働法制の変更に自社が対応できているかチェックしてみましょう。