夜の歌舞伎座




本文とは関係ありませんが、ライトアップされた歌舞伎座です。4月2日の開場以来、事務所の前の晴海通りと昭和通りの人通りは確実に増えて、にぎやかになりました。



1.個人的には大変残念な判決(正確には「決定」)が出ました。
いわゆる「預金額最大店舗指定方式」による差押命令の申立てを否定した最判平成25年1月17日決定(金法1966号110頁)がそれです。


2.少々背景事情を説明させていただくと、預金の差押えをする場合、具体的な口座番号までわかっている必要はないが、「〇〇銀行〇〇支店(又は本店)」の口座である、というところまでは特定する必要があるというのが今の実務です。

したがって、例えば、債務者が三井住友銀行築地支店に口座を有していたとして、債権者が、それを知らず、債務者の事務所の近くの三井住友銀行銀座支店に差押えをかけても、(同じ三井住友銀行であっても支店が違うから)差押えは空振りに終わる(つまり何も差押えられていない。)という結論になります。

しかし、この結論は、とても不合理なのです。

なにせ、銀行は沢山あって、さらに支店はもっと沢山あるので、債権者が(債務者が口座を有する)支店を特定するのは大変な作業となるし、また、債務者としては、債権者側に知られていない銀行の支店に口座を設けて、そこに(差押えをされないように)資金を移動させてしまうことが簡単に出来るようになるからです。

銀行口座の差押えは、不動産の競売などよりも、簡易に、(不動産を有している人は限られるが、預金口座はほとんどの人が持っているという意味で)かつ多くの債務者を対象にして行うことができる最も効率的・実践的なものであるずなのですが、この「支店」の特定の問題があって、預金口座の差押えをするのは容易でないという状態になっているのです。

そのため、せっかく裁判までして判決を得ても、強制執行ができないから一銭も回収できない、判決は「絵に描いた餅」と同じ、という悲しい事態が発生することになります。


3.そこで、これではいけないということで、工夫されたのが、「全店一括順位付け」方式という申立て方法です。

これは、例えば、三大メガバンクおよび郵貯ぎんこうに対する預貯金債権の差押えを求める申し立てをするにあたり、①三大メガバンクについては、取扱い銀行を一切限定せずに、「複数の店舗に預金債権があるときは、支店番号の若い順序による」という順位付けをする方式により、②ゆうちょ銀行に対する貯金債権については、全国の貯金事務センターを全部列挙して、「複数の貯金事務センターの貯金債権があるときは、別紙貯金事務センター一覧表の番号の若い順序による」という順位付けをする方法により、差押債権の表示をする方法です。

 
しかし、最判平成23920日(金法139469頁)が、不適法と結論付けてしまいました。

その主な理由は、「民事執行規則1332項の求める差押債権の特定とは、債権差押命令の送達を受けた第三債務者において、直ちにとまではいえないまでも、差押えの効力が上記送達の時点で生ずることにそぐわない事態とならない程度に速やかに、かつ、確実に、差し押さえられた債権を識別することができるものでなければならないと解するのが相当であり、この要請を満たさない債権差押命令の申立ては、差押債権の特定を欠き不適法というべきである。」としたうえで、

「本件申立ては、大規模な金融機関である第三債務者らの全ての店舗を対象として順位付けをし、先順位の店舗の預金債権の額が差押債権額に満たないときは、順次予備的に後順位の店舗の預貯金債権を差押え債権とする旨の差押えを求めるものであり、各第三債務者において、先順位の店舗の預貯金債権の全てについて、その存否及び先行の差押えまたは仮差押えの有無、定期預金、普通預金等種別、差押命令送達時点での残高等を調査して、差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り、後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しないのであるから、本件申立てにおける差押債権の表示は、送達を受けた第三債務者において上記の程度に速やかに確実に差し押さえされた債権を識別することができるものであるということはできない。そうすると、本件申立ては、差押債権の特定を欠き不適法というべきである。」

というのです。

この決定のうち、「各第三債務者において、先順位の店舗の預貯金債権の全てについて、その存否及び先行の差押えまたは仮差押えの有無、定期預金、普通預金等種別、差押命令送達時点での残高等を調査して、差押えの効力が生ずる預貯金債権の総額を把握する作業が完了しない限り、後順位の店舗の預貯金債権に差押えの効力が生ずるか否かが判明しない」という点は、ソフトの組み方次第なのではないか(きちんとしたソフトができれば、ちょっとデータを入力してワンクリックするだけで結論が出てくるのでは?)という気がしないでもないですが、まあ、最高裁がいうことなので、そのとおりなのでしょう。  


4.しかし、現状の判決の実効性の無さはあまりにも酷いので、次に考え出されたのが、今回の判例で問題となった「預金額最大店舗指定方式」というものです。

これは、申立ての際に、差押債権を表示するにあたって、銀行の具体的な店舗を特定することなく、「複数の店舗に預金債権があるときは、預金債権額合計の最も大きな店舗の預金債権を対象とする。なお、預金債権額合計の最も大きな店舗が複数あるときは、そのうち支店番号の最も若い店舗の預金債権を対象とする。」と表示します。

預金額最大の店舗がわかれば、その店舗に差押えをかけ、後の店舗は差押えの対象になりませんので、債権残高がある限り、先順位の店舗を順次調査しなければならないという「全全店一括順位付け方式」に対する批判は免れています。


この「預金額最大店舗指定方式」については、下級審で認めるとする裁判所(東京高決平成23.10.25金融法務事情1941151頁、名古屋高決平成24.9.20金判195716頁)と、不適法とする裁判所(東京高決平成10.10金法1957116頁)とで、判断が分かれていましたが、前述のとおり、残念ながら、最高裁は、簡潔に、「本件抗告理由は、違憲をいうが、その実質は原決定の単なる法令違反を主張するもの」とか「原審の判断は、正当として是認できる」と述べるだけで、抗告を棄却してしまいました。
これで、不適法とする原審の決定が確定したことになります。  


5.「預金額最大店舗指定方式」を認めた下級審決定と、否定した下級審決定を比べてみると、一方は、既にシステムが出来上がっており、「預金額最大店舗指定方式」にしても、銀行側の負担は大きくはならない、としているのに対し、否定する決定は、まだまだシステムは出来上がっておらず、銀行側に過度の負担をかけるといいます。

私は、銀行のシステムの現状がどのようなものかちょっと分かりかねますが(メガバンクと地銀とでは大分様子が違うでしょう。ただ、名寄せができるのであれば、システムを組めば、出来るのではないかとは推測するのですが・・・)、現状は、強制執行逃れの悪質な人だけを利すような状態になっており、変えていかなければならな

いということは確かだと思っています。

また、これを変えていくことによって一番の利益を受けるのは、実は、債権回収をもっとも必要とする業界、つまり銀行なのではないかとも思っています。


そこで、次のように変えることはできないでしょうか。


(1) 銀行の預貯金債権の差押えについては、「預金額最大店舗指定方式」(システムが追い付けば、、「全店一括順位付け方式」でもよい。)にすることを法律または規則に規定してしまう(銀行以外の債務者につていは、前記最判平成23920日決定の田原補足意見が示唆するところですが、システムが追い付いていかないと思うので現状維持とします。)。

(2)
 そうすると、第三債務者である銀行の負担が増大することは予想されるので、たとえば、差押の処理1件につき1,000円とか、差し押さえられた金額の〇%とか、銀行に手数料が落ちる仕組みにする。これによって、銀行側でもビジネスになるので、差押を嫌がらなくなるし、効率的なソフト開発や事務の進め方に力をいれることになるでしょう。

(3)
 債権差押えの分野は、画一的な処理に馴染む分野であり、IT化ができる分野である。したがって、IT化を進め、一般人でも簡単に申立てができるようにする(判決の実効性が高まり、法化社会を推し進めることができることになります。)。

いいアイディアだとおもうのですが、いかがでしょうか?