ひまわり



銀座の花屋さんのひまわりです。
このところの暑さでちょっと元気がないかな。






とてもマニアックな話で恐縮ですが、最近、賃貸建物の売買の案件で、「賃貸人たる地位は免責的に承継されました」という文章をめぐって、少々、考えることがありました。

第三者に賃貸している建物の売買の場合、賃貸建物の売買(所有権の移転)に伴って、賃貸人たる地位も、売主から買主に承継されます。
そこで、売主(旧賃貸人)と買主(新賃貸人)の連名で、賃借人に対し、①賃貸人が変わったことや、②敷金の返還も新賃貸人に請求してほしいことや、③新賃貸人のもとでの新しい賃料の振込先等、を連絡するため、書面(通知書)を賃借人に送付しなければなりませんが、その文面として、よく、「賃貸建物の所有権の移転に伴い、賃貸人たる地位も旧賃貸人から新賃貸人に『免責的』に承継されました。」という文章が使われることがあるのです。

しかし、よくよく考えてみると、新賃貸人は、旧賃貸人の責任を免責するわけではないし、そもそも、旧賃貸人が賃貸借契約上負っている債務は賃借人に対するものなので、旧賃借人と新賃借人との間で免責をうんぬんすることなどできないはずなのです。つまり、賃借人しか旧賃借人の債務を免責することなんてできないはずなんです。

そこで、判例をリサーチしてみると、「自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物を第三者に譲渡して所有権を移転した場合には、特段の事情のない限り、賃貸人の地位もこれに伴って当然に右第三者に移転し、賃借人から交付されていた敷金に関する権利義務関係も右第三者に承継されると解すべきであり」(最判平11.3.25判タ100177頁)と述べていて、「免責的に承継」なる文言を使っていません。
学説でも、「免責的に承継」なる用語を使っている例は(私の見る限り)ないように思われるのです。

賃貸物件の譲渡に伴い、賃貸人たる地位が新所有者に移転し、旧所有者が以後賃貸人としての義務を負わなくなるのは、旧所有者が賃貸借契約から『離脱』すると考えられているからです。誰かから賃貸人たる義務の免責を受けたわけではないですし、承継前に既に発生した賃貸借契約上の債務について、旧所有者が賃借人に対する義務を免れるわけでもありません。

 

考えられるとすれば、新所有者が、旧所有者に対し、「もし(承継前に既に発生していた)賃貸借契約上の義務について、賃借人が旧所有者に請求したら、新賃貸人が代わりに履行してあげ、賃借人に対する関係で、免責を得させてあげるよ。」という意味で使っていることですが、そのような使い方がされるのは、売買契約前に詳細なデューデリジェンスが行われ、買主が、既発生の売主の賃貸借契約上の具体的な債務について、「賃貸人から請求されたら買主が支払います。」と明示的に約束しているような非常にまれな例でしょうし、また、このような関係を、具体的な債務の限定を付けずに、かつ、誰が誰の債務を免責するのかを明示せずに、『免責的に承継』などと一言で説明するのは言葉の使い方として適当ではないでしょう。 


なお、譲渡人が契約関係から離脱するような承継の仕方を「免責的承継」という用語を使って説明しているのかなとも思ってみましたが、そのような用語の使い方をしている例は(私の調べた限りでは)ありませんでした。

また、関連する話として、(通常の例とは異なり)テナントが賃貸借契約について対抗要件(建物の引渡し)を備えていない場合に、賃貸物件の譲渡に伴い新賃貸人が賃貸人たる地位を承継していることを(免責的)債務引受の議論で説明しようとする見解があるようですが、しかし、これも理論を説明するために、(免責的)債務引受の理屈を借りるだけで、「免責的に承継」などという用語を使っているわけえではありません。 


というわけで、私は、この種の通知の中に「免責的に承継」なる用語を使うのは間違えなのではないのかなと考えています。書くとすれば、、「賃貸建物の所有権の移転に伴い、賃貸人たる地位も旧賃貸人から新賃貸人に承継され、旧賃貸人は賃貸借契約から離脱しました。」という文面なのではないかなと思います。

マニアックな話題で恐縮ですが、何かのご参考になれば幸いです。