画像 001
(今日は朝から雨でしたが、夕方外に出てみると、雨上がりの銀座の空に
大きな虹が出ていました。)


1.クライアント(債権者)が勝訴判決を得て、さあ債務者の銀行口座に差し押さえをしようということになったときに、債権者側で必要となる情報はなんでしょうか? 

それは、どの銀行のなんという支店に債務者の預金口座があるかという情報だとされています。

口座番号の情報までは必要ありません。

しかし、どの支店に口座があるらしいということころまでわからないと、裁判所に銀行口座の差押えの申立て(専門用語でいうと「債権差押命令の申立て」といいます。)はできないのです。

そして、実務上は、差押えができたかどうかは支店単位で判断されます。

たとえば、みずほ銀行の銀座支店を取扱店として預金口座の差押えの申立てをした場合、同じみずほ銀行の渋谷支店に預金があっても、銀座支店に預金がなければ、差押は「空振り」に終わることになります(つまり「何も差し押さえられない」ということです。)。 


2.ただ、実は、実務上、債務者がどの銀行の何支店に口座を有しているのかということを調べるのは大変です。

何故か?

それは、そもそもそれまでに取引がなくて銀行口座を知りようがない債務者もいますし(不法行為のケース等々)、取引があっても、悪い債務者の場合、差押えの危険があるときには、他の金融機関の支店の口座にお金を移してしまうからです。 


そこで、甚だしい例では、裁判所から合計で数億円の支払いを命じられながら、自分名義の資産を無くして、かつ、収入が振り込まれる銀行をわからないようにして、民事執行(差押え)を免れ、実質的には高額の収入を維持しながら、のうのうと生活している例なども発生しています。 


3.で、債権者側も色々と工夫し、たとえば、銀行口座の差押えを申立てる際に、支店を特定せずに、複数の店舗に預金があるときは、支店番号の若いものから順番に差し押さえていくという「全店一括順位付け方式」という申立て方法や、預金額が最大の店舗の口座のみ差し押さえるという「預金額最大店舗指定方式」という申立て方法を開発しました。

しかし、いずれも、第三債務者(金融機関)において、速やかに確実に差し押さえられた債権を識別できない、という理由で、最高裁は、このような申立てを認めていません(全店一括順位付け方式について、最決H23.9.20金商137916。預金額最大店舗指定方式について最決H25.1.17金商14128頁)。 


4.しかし、私としては、この問題は、本当に大きな問題だと思うのです。もし多くの国民が制度の欠陥というべき側面を悪用するようになると、民事司法制度自体が機能しなくなる可能性もあると思っています。

逆に、預金口座の差押えがもっと効果的に認められれば、民事訴訟はもっと実効性の高いものとなり(なぜなら、不動産をもっていない人は沢山いますが、銀行口座を持っていない人はあまりいません。)、少なくとも、財産があるのに、民事判決を無視できるなどという悲しき事態は発生しないでしょう。 


5.では、どうすればよいのか?

私としては、現在の金融機関のシステムが、裁判所がいうように、本当に全店舗における預金者の名寄せができないものなのか(支店単位でしか管理できないものなかのか、そんなシステムしかゆうしていないの?)と疑問に思っているのですが、確かに、一口に金融機関といっても、メガバンク、地銀、信金、農協等々色々とあるので、裁判所の『解釈』で、一律に「預金額最大店舗指定方式」などを導入することには難しいかもしれません。しかし、だからと言ってこの問題を放っておいていいのではなく、立法による対応をしていけばいいのではないかと思っています。


(1) 法律で預金口座の差押えについては、「全店一括順位付け方式」または「預
金額最大店舗指定方式」が可能であることを規定する。


(2) システムが追いつかない金融機関については、国がシステム改善を助成する。


(3) 預金口座の差押えについての金融機関側の事務負担増大を考慮して、差押の申立て1件1,000円というように手数料制を導入する。


(4) 金融機関の間で不平等が発生するのを防ぐため、日本で営業する金融機関については、外国の金融機関も含めて、全て上記(1)から(3)を強制し、対応できない金融機関については我が国における営業を認めない。
 


司法に対する信頼を維持するためにも、預金口座差押えについての制度改革は急務だと思うのですが、いかがでしょう。