著者の長谷川晶一さんとは、早稲田大学に通っていた当時、ルポルタージュ研究会(今はなき任意のサークル)で一緒でした。当時から、とても文章がうまかったのですが、最近、プロ野球もの、女子プロ野球、アイドルもの等のノンフェクションで頭角をあらわしています。
で、今回のこの『夏を赦す』という本は、元日本ハム・ファイターズのエースで、現野球評論家の岩本勉さんをめぐるお話しです。
岩本さんは、高校3年生のときに、夏の地区予選を目前にして、後輩の暴力事件により、チームそのものが出場を辞退せざるを得ず、小さいころから目指してきた「甲子園出場」の夢をはたせませんでした。チームみんなが集められた教室で、部長から出場辞退を聞いたときには、涙が「涸れる」まで泣いたのです。
その後、岩本さんは、ドラフトで日本ハムに指名され、苦労のすえ、日本ハムのエースとなりますが、高校のチームメートには、最後の夏に実績を残せなかったため、実力がありながら、野球をあきらめざるを得なかった者も多いそうです。
この事件を中心にして、岩本さんのその後の人生、その背景としてある父親・母親の物語、チームメートのその後の人生、暴力事件を起こしたKへの気持ちなどが綴らた話です。
私は、岩本さんというと、ヒーローインタビューの際の「まいどー」という明るい雄叫び(?)しか知りませんでしたが、彼の背後には、こんなにドラマがあるんだと知って、とても興味深く読めました。
今回の著作では、長谷川さんが、この岩本さんの物語を知るにいたった経緯から、岩本さんのご両親、チームメート等々にインタビューする過程も書かれ、いつもよりも長谷川さん自身が登場する場面が多かったように思います。私は、ノンフェクションものの中でも、たんたんと事実を述べるものより、その事実に対して、登場人物がどのように感じたのか、さらには、著者がどのように感じているのか、というところを強く出したものの方が好きなので(人間のドラマが好きなのです。)、これからも、(全部とはいかないでしょうが)この調子で頑張ってほしいと思います。
野球好きにはたまらない一冊だと思いますので、是非ともお勧めします。