実は、この度、縁あって、NPO法人日本情報技術取引所(JIET:ジェット)の顧問弁護士に就任いたしました。 JIETは、会員のIT会社(システムの開発会社)が、ソフトウェア開発の案件と人材の流通を図り、技術者と仕事のマッチングをするため、ビジネスマッチングサイト運営、交流会、商談会などの開催等の活動をしているNPO法人です。会員は、なんと全国に約700社もいるのですよ。

というわけで、これまでも弊事務所は、IT会社からの相談が多かったわけですが、今後ますます増えることが予想されますので、これまで以上にIT会社の法務に精通する所存です。
で、今回は、現在、IT業界で問題となっている『労働者派遣法の改正』について簡単に説明させていただきます。

ちょっと意外に思うかもしれませんが、IT会社(システムの開発会社)では、かなり多くの会社が派遣元会社になって、他の企業にIT技術者を派遣しています。これは、自社で開発等をしたシステムの管理のために、一般の事業会社にIT技術者を派遣している場合もありますし、(IT業界は、恒常的な人手不足の状態にありますので)大手IT企業が大きな案件を受注した場合などに、中小のIT会社から、大手のIT会社にIT技術者が派遣されるということもあります。

で、これまでの労働者派遣法では、ソフト開発等も含まれる専門26業務とそれ以外に分け、専門26業務については、特定労働者派遣事業として届出をするだけで、しかも「原則1年・例外3年」という(一般労働者派遣事業に適用される)期間の制限なく、IT技術者の派遣を行うことができたのです。しかし、現在、まさに国会で審議されている改正案では、特定労働者派遣事業は廃止され、すべて派遣元に厚生労働大臣の許可が必要な一般派遣事業となり、一律に3年間という期間制限がかけられることになりました。

細かいところをいうと、①現行法の「原則1年・例外3年」という期間制限は、対象となる業務についての制限であるのに対し、改正案の3年という期間制限は、派遣される労働者についての制限であったり(したがって、派遣先企業にとっては、特定の業務について、人さえ変えれば、ずっと派遣業務にすることができるようになります。)、②改正案では、派遣労働者の保護のために、3年経過時に、派遣労働者の希望があれば、派遣先企業に直接その派遣労働者を雇うように申し入れたり、派遣元が派遣者派遣社員を無期限で雇用したり、次の派遣先を紹介したりと、雇用の安定を図るための措置を講じなければなりません(詳しい内容については厚生労働省のサイトをご覧ください。)。

ただ、IT会社にとって重要な点は、これまで届出さえすれば認められたIT技術者の派遣が、厚生労働大臣の許可が必要になったことです。そして、許可の条件として、現在の一般労働者派遣事業のように「純資産が2000万円以上あること」とか「事業資金として現金・預金が1500万円以上あること」が引き継がれる予定とのことです。そのため、そのような金銭面の許可条件を満たすことができない中小のIT会社にとっては、もはやIT技術者の派遣はできなくなるのでは?と言われているのです。

 このような労働者派遣法の改正については、いろいろと議論があるところですが、これまでのところ、業界内では、いずれ派遣事業は継続が難しくなるとして、派遣業務はやめて、自社での開発に特化しようとしている会社、一般派遣事業の許可を取るために財務基盤を強化しようとしている会社など色々と動きがあります。
ただ、改正時に、特定労働者派遣事業から一般労働者派遣事業に移行する要件を暫定的に緩める経過措置が盛り込まれるのではないか?等々の噂もありますので、業界の一般的な傾向としては、まだまだ様子見というところでしょうか。

いずれにしても、この労働者派遣法の改正については注視していく必要があります。順調に進めば、本国会で法案として成立し、平成27年4月1日から施行される予定です。