建物賃貸借契約の中に、よく「賃貸人または賃借人は、相手方について、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続き開始または特別清算手続開始の各申立てがあったときは、何らの催告を要せず賃貸借契約を解除することができる。」という規定があることがあります。
そうすると、もしそのような規定がある賃貸借契約なのであれば、表題の問題については、賃借人が破産した、つまりその前提として破産の申立てがあったのですから、当然、家主は賃貸借契約を解除することができる、という結論になるように思います。
ところが、そういう結論にならないところが法解釈の不思議なところ。
この点については、最高裁判例(最判S43.11.21・民集22-12-2728)があり
平成4年8月1日に借地借家法が制定され、借家法は廃止されましたが、同法の基本的な構造は借地借家法に受け継がれており、借家法1条ノ2は借地借家法28条に、借家法6条は借地借家法30条になっていますので、上記の判例を現在の借地借家法に当てはめて読むと、「借地借家法28条の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法30条により無効と解すべきである」ということになります。
では、単に「申立て」ではなく、「破産手続開始決定」を受けたら解除することができるという規定の場合はどうでしょうか?
この点、平成17年1月1日の新破産法施行前には、民法621条があり、「賃借人カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ賃貸借ニ期間ノ定アルトキト雖モ賃貸人又ハ破産管財人ハ第617条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得そ此場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス」と規定していたため、この条文の解釈として争われていて、判例は、財産的価値の違いから、借家の場合には、賃貸人は借家法上の正当事由を考慮することなく、民法621条により賃貸借契約を解約することができるが、借地の場合には、賃貸人の解約には借地法上の正当事由が必要であるなどと解していました。
しかし、この民法621条の規定は、新破産法の制定時に削除されてしまったので、以降は次の3つの解釈の可能性があります。
① 民法621条が削除されたのは、賃借人が破産した場合に、それだけの理由から賃貸人が賃貸借契約を解除することを認めることが不合理であるからであるから、賃貸借契約で、賃借人が破産した場合には解除できると規定したとしても、この立法趣旨からして、そのような規定は無効である。
② 民法621条が削除されたからといって、そこまでの趣旨を読み取ることは困難であり、賃貸借契約で、賃借人が破産した場合には解除できると定めれば、それは有効であり、賃貸人は賃借人が破産した場合賃貸借契約に従い解除することができる。
③ ともそも倒産解除条項一般の問題として考え、倒産解除条項の効力を認めると、破産管財人に双方未履行双務契約について解除または履行の選択権(破産法53条1項)を与えた意味がなくなるから、倒産解除条項は無効であり(伊藤眞『破産法・民事再生法[第2版]』274頁参照)、賃貸借契約の上記のような規定も無効である。
この点については、まだ判例はないと理解しています(もしあったら、すみません。)。
実務では、①または③の解釈が有力という理解です。
しかし、私としては、そこまで契約自由の原則を狭める必要はなのであり、②の解釈が適切であると考えています。
ただ、実は、この問題は、あまりシビアな争いを生んでいません。
というのは、破産するような賃借人は、すでに家賃を支払わないで債務不履行に陥っている場合が殆どであり(その場合、破産手続き開始決定がなされても、賃貸人が債務不履行を理由に賃貸借契約を解除できることは争いがありません。)、また、破産管財人の側でも、Officeの賃貸借などでは(そもそも営業を止めて会社を清算することになるので)賃貸借契約を存続させることにあまりこだわらない人が多いからです。
というわけで、法律上は、効力があるかどうか疑わしい「賃貸人に破産手続開始決定が出たときは(又は申立てがあったときは)賃貸人に賃貸借契約を解除できる」という規定は、いくらか実務上の有用性が認められることがあり、そのため、これからもたくましく生き残っていくことが予想されます。
そうすると、もしそのような規定がある賃貸借契約なのであれば、表題の問題については、賃借人が破産した、つまりその前提として破産の申立てがあったのですから、当然、家主は賃貸借契約を解除することができる、という結論になるように思います。
ところが、そういう結論にならないところが法解釈の不思議なところ。
この点については、最高裁判例(最判S43.11.21・民集22-12-2728)があり
と判示しています。建物の賃借人が差押えを受け、または破産宣告の申立てを受けたときは、賃貸人は直ちに賃貸借契約を解除することができる旨の特約は、賃貸人の解約を制限する借家法1条ノ2の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法6条により無効と解すべきであるとした原審の判断は正当であって、原判決には何ら所論の違法はなく、論旨は理由がない。
平成4年8月1日に借地借家法が制定され、借家法は廃止されましたが、同法の基本的な構造は借地借家法に受け継がれており、借家法1条ノ2は借地借家法28条に、借家法6条は借地借家法30条になっていますので、上記の判例を現在の借地借家法に当てはめて読むと、「借地借家法28条の規定の趣旨に反し、賃借人に不利なものであるから同法30条により無効と解すべきである」ということになります。
では、単に「申立て」ではなく、「破産手続開始決定」を受けたら解除することができるという規定の場合はどうでしょうか?
この点、平成17年1月1日の新破産法施行前には、民法621条があり、「賃借人カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ賃貸借ニ期間ノ定アルトキト雖モ賃貸人又ハ破産管財人ハ第617条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得そ此場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス」と規定していたため、この条文の解釈として争われていて、判例は、財産的価値の違いから、借家の場合には、賃貸人は借家法上の正当事由を考慮することなく、民法621条により賃貸借契約を解約することができるが、借地の場合には、賃貸人の解約には借地法上の正当事由が必要であるなどと解していました。
しかし、この民法621条の規定は、新破産法の制定時に削除されてしまったので、以降は次の3つの解釈の可能性があります。
① 民法621条が削除されたのは、賃借人が破産した場合に、それだけの理由から賃貸人が賃貸借契約を解除することを認めることが不合理であるからであるから、賃貸借契約で、賃借人が破産した場合には解除できると規定したとしても、この立法趣旨からして、そのような規定は無効である。
② 民法621条が削除されたからといって、そこまでの趣旨を読み取ることは困難であり、賃貸借契約で、賃借人が破産した場合には解除できると定めれば、それは有効であり、賃貸人は賃借人が破産した場合賃貸借契約に従い解除することができる。
③ ともそも倒産解除条項一般の問題として考え、倒産解除条項の効力を認めると、破産管財人に双方未履行双務契約について解除または履行の選択権(破産法53条1項)を与えた意味がなくなるから、倒産解除条項は無効であり(伊藤眞『破産法・民事再生法[第2版]』274頁参照)、賃貸借契約の上記のような規定も無効である。
この点については、まだ判例はないと理解しています(もしあったら、すみません。)。
実務では、①または③の解釈が有力という理解です。
しかし、私としては、そこまで契約自由の原則を狭める必要はなのであり、②の解釈が適切であると考えています。
ただ、実は、この問題は、あまりシビアな争いを生んでいません。
というのは、破産するような賃借人は、すでに家賃を支払わないで債務不履行に陥っている場合が殆どであり(その場合、破産手続き開始決定がなされても、賃貸人が債務不履行を理由に賃貸借契約を解除できることは争いがありません。)、また、破産管財人の側でも、Officeの賃貸借などでは(そもそも営業を止めて会社を清算することになるので)賃貸借契約を存続させることにあまりこだわらない人が多いからです。
というわけで、法律上は、効力があるかどうか疑わしい「賃貸人に破産手続開始決定が出たときは(又は申立てがあったときは)賃貸人に賃貸借契約を解除できる」という規定は、いくらか実務上の有用性が認められることがあり、そのため、これからもたくましく生き残っていくことが予想されます。