このところ、このブログで社外取締役のことを取り上げる機会が多くなっていますが、この問題を考えるにあたり、『株式会社法体系』(2013年8月、有斐閣)の冒頭に収められている江頭教授の『株式会社の株主』(3頁~25頁)という論文を紹介してみたいと思います。
この論文は、2012年8月に公表された法制審議会会社法部会の「会社法制の見直しに関する要綱案」で、金融商品取引法適用会社等への1名以上の社外取締役選任の義務づけ案が提案されたことを検討したものです。平成26年改正会社法も、義務づけはしないものの、社外取締役を選任しないときは、選任しないことを相当とする理由を説明せよと説明を強制することにより、(我が国の横並び社会を前提とすると)事実上の社外取締役の義務づけと評価できると思いますので、現在でも同論文は参考になるかと思います。
この論文の中で、江頭教授は、社外取締役の義務づけの議論には、「株主の利益になることが経営者の妨害により実現しないので、法令によって強制する必要がある。」との認識があるとしたうえで、本当に日本の会社の株主がそんなに弱い存在なのか?との疑問をもちます。「逆に、本当に株主が弱く、社外(独立)取締役や会計監査人への株主のサポートが期待できないのであれば、法令で社外(独立)取締役の選任等を義務づけてみても、結局それらは機能しないのではないか。」というわけです。
そこから、上場会社の株主の実態調査を始めます。
そして、
① 日本の上場会社の中でも、アクティビズムによって経営者に要求を突き付けかねない非安定大口株主(投資信託、公的年金、私的年金、ファンド等、外国法人等)は45.5%も存在すること、
② ただし、一口に上場会社といっても、会社の規模には相当の格差があり、会社の規模が大きくなるほど、非安定大口株主の持ち株比率が高くなること、
③ さらに、非大口株主の持ち株比率が高くなると、社外取締役が選任される傾向にあり、その境界線は、連結売上高・約1500億円あたりにあること、
という実態を明らかにします。
そこから、「連結売上高・約1200億円-1500億円辺りに、非安定大口株主の関心の対象になる上場会社であるか否かに関する1つの境界線があり、それにより上の会社の経営者は、非安定大口株主からの圧力を感じ、独立取締役1名以上を選任しようと考えているということではないか。」と推測します。
そして、
第1に、「連結売上高が1500円程度を超えれば、業界によっては3分の2以上の会社、少ない業界でも過半数の会社には、独立取締役が存在する」こと、
第2に、「非安定大口株主の経営者に対する圧力は、ぜいぜい少数の独立取締役を選任させるにとどまる〔中略〕いいかえると、経営者は、単に独立取締役を選任するだけであれば、たいした抵抗は感じない」こと、
第3に、小規模な上場会社で独立取締役を置く会社が少ないのは、非安定大口株主の持ち株比率が少なく、経営者に対する圧力が乏しいか、あるいは選任したくても就任してくれる人がいないか、
と述べたうえで、次のように結論づけています。
第1から第3のことを前提とすると、法制審議会・会社法部会に存在した、法令により金融商品取引法の適用会社等に対し社外(独立)取締役の選任を義務づけるべきであるとする立法論には、疑問を感じざるをえない。一定規模以上の会社の場合、すでに独立取締役がいる例が多く、かつ、1名以上の独立取締役選任を強制しても当該会社を「構成員の過半数が独立取締役から成る取締役会」とか委員会設置会社の採用に導く保証はまったくない。そこで、当該立法論の実質は、金融商品取引法の適用会社等のうち小規模なものに対し法令で強制を加えようというに等しい。しかし、上場会社であっても小規模な会社は、創業者等が支配株式を有している例も多く、非安定大口株主からの圧力もないから、社外(独立)取締役が選任されても機能する可能性は低く、それだけに、良い人材が就任する可能性も低いと思われる。そのような立法に意味があるのだろうか。
現行法は、社外取締役の強制ではなく、社外取締役を選任しない場合には、選任しないことを相当することの理由を説明しなさい、ということなので、江頭教授の上記見解は、現行法に対する批判としてはぴったりあてはまらないかもしれません。
しかし、今後、小規模な上場会社で、単に法改正があったから、又は、他社も選任しているから、という『形式的』な理由だけで社外取締役が選任されるようだと、社外取締役制度は、費用だけかかって無駄なことをしたという評価になりかねないように思います。
したがって、社外取締役の実質的な意義を理解して、しっかりとした人材(取締役会の中に空気の支配が強くても、また、非安定大口株主からの支援が得られなくとも、経営陣にしっかりと意見できる方)を選任してほしいですね。