ネットの宿泊仲介サービスをご存知ですか?
基本的なコンセプトとしては、自宅などの空き部屋を旅行者に提供することを仲介するサービスです。学生などが旅行する際に、ホテルとは違って、実際に現地の住んでいる人と触れ合うことができるし、安い値段で泊まれるのでとても便利です。
えっ、知らない人を自宅に泊めて大丈夫なの?または、知らない人の部屋に泊まって安全なの?と心配になるかもしれませんが、これらのネットのサービスでは、部屋を提供するホスト側と部屋に泊まる宿泊者側が、それぞれの評価をネットに書きこむことによって、このホストは大丈夫なのかとか、この宿泊者は大丈夫なのかということを判断するようです。完全に安全というわけではありませんが、それなりに機能しており、現在、世界中で急速に普及しているサービスです。ホストは宿泊者から宿泊料をいただき、サイトは、ホスト及び宿泊者から一定の手数料をいただくことでビジネスが成り立っています。
で、このサービス、日本で行うには3つの法的な障害があります。
(1)そもそもホストも部屋を所有しているのではなく、オーナーから借りているような場合には、賃貸借契約で同居者が制限されていたり、転貸が禁止されたりするのが普通です。そのような場合に、賃貸人に黙ってこのサービスを利用すると、賃貸借契約を解除されるなどのトラブルに発展することがあり得ます。
(2)次に、マンション等を所有していたとしても、マンションの管理規約等で、マンションの部屋を居住目的以外(たとえば営業目的)で使用することが禁止さているような場合にはトラブルになることがあります。居住の雰囲気を大切にしているマンションなどでは、急に外国人の旅行者がたくさん出入りするようになったということで管理組合や他の入居者から規約違反のクレームを受けることになります。
(3)さらに、旅館業法上の規制があります。
我が国には昭和23年に旅館業法が作られ、「寝具を使用させて、宿泊料を受ける」営業については、原則として都道府県知事の許可が必要となります(旅館業法第3条第1項)。自宅も旅館に当たるの?と疑問に思うかもしれませんが、この法律では、対象となる施設について「ホテル」、「旅館」、「簡易宿所」に分け、「ホテル」にも「旅館」にも該当しないものは「簡易宿所」と解釈されているようなので、自宅に旅行者を泊めて宿泊料をいただいても形式的には旅館業に抵触してしまうようなのです。しかも、都道府県知事の許可を得るには、トイレを男女別にしたり、一定の広さの客室を設けたりしなければならず、かなりハードルが高いのです。無許可で旅館業を営んだ場合には、6か月以下の懲役または3万円以下の罰金に処せられることになり(旅館業法第9条)、実際、昨年5月には、足立区で、ネットの宿泊サービスを利用して観光客を泊まらせていたイギリス人が摘発されています。
問題は、上記(1)及び(2)については仕方がないとしても、(3)の旅館業法上の規制までする必要があるか?ということです。
私としては、不特定多数の者が宿泊する施設の場合には、宿泊者の安全や衛生管理のために、行政的な規制を課すことが正当化されると思うのですが、自宅などに少人数の旅行者を泊める場合には、それほど安全や衛生面は問題とならないように思いますので、現状の旅館業法のようなハードルの高い規制を及ぼす必要はないのではないかと考えています。宿泊者側もホテルや旅館並みの安全性や衛生管理を期待していないでしょう。
この観点から旅館業法を読むと、実は、旅館業法も、「ホテル」でも「旅館」でもなければ「簡易宿所」に該当するというような定め方をしていないことに気が付きます。すなわち、旅館業法第2条第4項は、「簡易宿所営業」について「宿泊する場所を多人数で共用する構造及び設備を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊する営業で、下宿営業以外のものをいう。」と定義しており、対象となる施設としては、「宿泊する場所を多人数で共用する構造及び設備」が備えられている施設というふうに積極的な意味内容を盛り込んでいるのです。
では、「多人数」とはどれくらいの人数をいうのでしょう?
「多人数」とは「少人数」の反対語であり、私の日本語の感覚としては、少なくとも片手の指の数にも満たないのであれば「少人数」であり、もはや「多人数」とは言えないように思います。安全性や衛生管理という面からみても、自宅に4人程度の旅行者を泊めても、問題が発生するとは思えません。
したがって、通常の自宅(たくさんの人が泊まれる大豪邸は除きます。)に宿泊料を取って旅行者を泊めたとしても、その自宅は「簡易宿所」に該当しないから、旅館業法上の規制は及ばないと解することができるように思います。
ただし、以上は私の個人的な見解であり、行政の見解とは異なるように思いますし、学説上の通説でもない点にご注意ください。
以上の議論は、次のような価値観に基づいています。
そもそも日本は国民に自由な経済活動を保障していますので(憲法22条、29条)、それに対する規制は必要性が認められる合理的な範囲にとどめるべきです。そうであるにもかかわらず、現状、自宅に旅行者を泊めて宿泊料を受け取ることすら許されない結果になっているというのでは、過剰な規制のように思うのです。旅館業法が、宿泊者(究極的には国民)の保護のための法律ではなく、既存の旅館・ホテル業者の保護のための法律(競争制限的な法律)になってしまいます。
いかがでしょう?
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