私は裁判の遅さについて危機感を募らせています。
現状、裁判をして紛争を解決しようとすると、いわゆる欠席裁判になる場合を除き、1審の判決が出るのに1年以上の時間がかかるのが普通なのですが、今の時代、1年以上かかるというのは時間がかかり過ぎだと思うのです。実は、裁判が紛争を解決したのではなく、時間が紛争を解決したというような場合も多いように思っています。

そのため、裁判をしても、時間もかかるし、費用もかかるし、おまけに強制執行制度もうまく機能していないため、正直なところ、裁判してもあまり意味ない、というケースが多いように感じます。また、裁判が効果がないため、「やり勝ち」「やられ損」的な事態も結構発生しているように思うのです。


これまで裁判というと、本当に最後の手段で、出来ればやりたくない、というような消極的なイメージだと思います。

ただ、これは、マーケティングという観点からするとかなり失敗しているわけで、紛争が起きたら、裁判所にもっていけば解決するというような積極的なイメージを持ってもらうことが必要だと思います。

でも、私が司法試験受験生だった20年以上前から裁判の迅速化ということはいわれているのですが、かつてよりはましになったものの、まだまだ遅いと思います。特にビジネスの世界では、1年もすれば経営環境はガラッと変わっているので、今の裁判の遅さは致命的だと思います。訴訟手続きについて、今の仮処分なみに3ヶ月もすれば一定の結論がでるというふうにする必要がありますし、仮処分の手続は、1週間程度で結論を出すいわば救急病院的なものにする必要があると思っています。


ただ、裁判の迅速化は、それこそ20年以上前から言われていますが、全然実現していないと思います。そこで、現行の法制度を前提とすると一部暴論もありますが、とにかく思い切ったアイディアを出すことが必要なのではないかと思いますので、ブレーンストーミング的に書いてみたいと思います。

1.月1回のペースを速める

今の通常訴訟では、月1回のペースで期日が開催され、しかもその期日では書面の交換だけで、「では、相手方は次回まで反論してください。」で終わりますので、ほとんど争点整理に役立っていないように感じます。したがって、まず、期日を月1回から週1回のペースにする。


2.書面を簡略化する

なぜ期日を月1回にするというような運用になっているかといえば、弁護士の立場からすれば準備書面を書くのに時間がかかるからであるように思います。今の準備書面は、『弁護士文学』といような言い回しに凝ったところが多く、あまり争点整理に役立つ書面とは言えないと思います。中には、むしろわかりにくく書こうとする代理人もいます。裁判官が読んで、相手の書面と突き合わせて、争点は何かまた頭の中で整理して、という作業が必要であり、この作業で数時間が必要になってきます。したがって、もう準備書面なんてやめにして、初めから争点整理表を原告・被告が書きあう、それぞれの主張について何が証拠なのか明示していく、という感じで進めていけば良いように思います。当事者の主張が一つのシートで、しかもそれぞれの主張と反論が対応して行われるので、とってもわかりやすくなるでしょう。おそらくそのシートが完成した段階で、だいたい訴訟の結果も見えてくると思います。


3.判決を簡略化する

裁判所サイドで一番時間がかかるのは判決を書くことだと思います。これも、今の判決は、『裁判官文学』というようなもので、大部分の民事事件では、そこまで丁寧に書く必要はないと思います。いやいや丁寧に書くなと言っているのではありません。スピードと丁寧さのどちらを重視すべきかというと、スピードなのではないかと言っているのです。争点整理の部分は当事者が作成した争点整理表を引用する形にして、判断の部分のみ本当に簡潔に書くという形にすればよいでしょう。


4.証拠調べ手続きを簡略化する

現在、労働審判事件で行われているように、原則として、第1回期日までに、当事者双方に主張を全部出させて、当事者本人または担当者等も裁判所に連れてこさせて、裁判官側も、代理人だけではなく、担当者等にも話を聞くことができるということにすれば良いと思います。陳述書を出させるのに1期日、そこから裁判所の証人採用の決定までに1期日、証拠調べの実施までに、裁判所の法廷が取れないため3ヶ月後、などという手続きを取るのは、多くの事件では不要だと思います。


5.事務手続きを簡略化する

我が国はIT立国なのにもかかわらず、司法の世界は相変わらず、紙の世界で、世の中の動きから20年は遅れています。裁判所と代理人、代理人と裁判所の間の遣り取りは、電子ファイルでできるようにして、裁判にかかる事務手続きを効率化すべきです。

東京高裁から最高裁に事件が移審したときなど、記録の整理や記録の送付手続きだけで1カ月以上かかるようなときもあるのですが、IT化すればクリック一つでできるようになります。
 

6.訴訟類型に応じた手続をつくる

何度かブログに書きましたが、定型的な賃料不払いに基づく建物明け渡し請求事件を通常訴訟でやることはとてもばかげています。東京地裁では、交通部とか建築部とかいろいろな専門部があるわけですが、そこでのノウハウを利用して、各訴訟類型に適した手続きを作るべきだと思います。


6.弁護士数の増加

これを言うと同業者から批判されますが、もし弁護士側が月1回の期日にしか対応できないということであれば、我々の弁護士の業務が効率化されておらず、国民が満足するような迅速裁判ができないといことですので、増やすべきでしょう。


7.弁護士資格を裁判ができる資格に

現在は弁護士法72条により弁護士が法律業務全部を独占していますが、そのこと自体にはあまり合理性はないように思います(実際、M&Aの法務は、投資銀行やコンサルティングファームの方が詳しいでしょうし、その他の専門分野も同じです。)。むしろ、リーガルが求められる分野はたくさんあるのに、弁護士以外はアドバイスができないような制度設計になっており、法化社会への障害になっているように思います。弁護士資格に合理性が認められるのは、弁護士は要件事実の教育を受けていて、これらの者が裁判に関与すれば裁判手続きがスムーズに進むというところにあるように思いますので、弁護士資格を裁判に代理人として関与できる資格と限定して、弁護士の独占業務の範囲を狭めるべきです。これにより、社会全体のリーガル度があがり、結果として紛争解決がスムーズになることが予想されます。


8.裁判官にインセンティブを与える
現在の裁判所では、裁判官の事件処理のインセンティブは、裁判官の強いモラル感(noblesse oblige)と裁判所内での出世しかないように思われますので、金銭面や社会的評価面でのインセンティブも与えるのはいかがでしょう。そのために、事件処理数に応じた歩合給を導入したり、また、優れた裁判官については、大手弁護士事務所へのキャリアパスがスムーズになるというルートを定着していくべきと思います。
 

9.裁判所間の競争も導入する

たとえば、東京地裁・大阪地裁には全ての事件の管轄を持たせ、裁判所間で競争が起きるようにする。

また、東京には、第1~第3地裁までを作り、その地裁間でも、競争が起きるようにする。


10.ADRができる組織をもっと認めていく
ADRができる組織が、業界団体を巻き込んだり、積極的な営業活動をしたりして、たとえば一定の契約書類型には、かならず特定のADRを使うというような条項を入れさせるようにして、裁判所との間で、どちらが良く紛争を解決できるか?という点で競争が起きるようにする。