金融・商事判例2015915日号(№1474号)の「金融商事の目」は、本山敦立命館大学法学部教授の『遺言控除を憂う』という記事で、これもとても面白かった。

現在、自民党の「家族の絆を守る特命委員会」が検討している「遺言控除」の新設の問題点を検討している記事だ。

本山教授は、次の問題点を挙げている。要約すると次のとおり。

第1は、怪しからん相続人らが遺言控除を目的に自筆証書のねつ造に及ぶ可能性があるため、遺言控除が受けられる対象を公正証書遺言に限定することが考えられるが、民法の構成上、自筆証書遺言が遺言の原則形態と解されるので、自筆証書遺言を控除の対象外にするにはかなりの説明が必要となる。

2は、仮に遺言控除の対象を公正証書遺言に限定するとすれば、公証人は全国で約500名なのに対し平成26年度の遺言は104,490件で、公証人役場はかなりバタバタしていると推察されるから、遺言控除の導入により、公証人の執務が雑になり、公正証書の無効事例も急増することが懸念される。

3は、控除適用の基準時の問題であり、遺言控除制度が開始した日以後に作成された遺言書が対象になるのか(作成日基準)、それとも、遺言控除制度が開始した日以後に死亡した遺言者が対象になるのか(死亡時基準)についてであるが、遺言者の意思の尊重という観点から、作成日基準が適当ではないかとする。

4に、遺言控除の控除額が数約万円になると、相続税の納税義務者(遺言者)が遺言をするよう被相続人に迫るようになり、多数の遺言が飛び交い、却って紛争を誘発する可能性があるという。

私としては、第
1は、遺言の作成を促し、相続に関する紛争を未然に防ぐというこの制度の目的から、あまりこだわる必要がない(公正証書遺言が一番相続に関する紛争を未然に防いでいるように思えるので、これを促進しようとするのは適当だ。)、第2は、公証人になりたい人はたくさんいるし、遺言書の作成実務は既に固まっているのであまり心配はいらいない(公証人役場としては仕事が増えることはWelcomeなのでは?)、第3はキメの問題、第4もキメの問題で、それほど「憂う」必要はないのではないか、と思うのですが、いずれにしても考えさせてくれる良いコラムですね。