9月29日のこのブログの「いよいよ民泊が認められるぞ!」という記事で、日本経済新聞の次の記事を引用しながら、国家戦略特別区域法により、大田区で旅館業法の網が外れて民泊が認められることになるらしいという記事を書きました。

(日本経済新聞2015年9月28日電子版より)
「政府は28日、一般の家を宿泊施設として活用する「民泊」について、全国で初めて東京都大田区で実現させる方針を固めた。旅館業法は多くの人からお金をもらって繰り返し泊める場合、必要な設備を整えることを求めているが、大田区ではマンションなどの個人住宅で外国人を泊める事業が来年中に可能となる見通しだ。」
「大田区は政府が地域限定で規制を緩和する国家戦略特区の対象地域。政府は来年に開く国家戦略特区諮問会議で大田区の民泊の計画を承認する。大田区は年内にも条例を制定する。」

しかし、よくよく調べてみると、それほど大きな規制緩和でもないな、と思い出しました。
これは、国家戦略特別区域法第13条で、旅館業法の網を外すには、

① 国家戦略特別会議が、国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業として政令で定める要件に該当する事業を定めた区域計画について、内閣総理大臣の認定を受ける

② 当該事業を行おうとしている人が、その行おうとしている事業が政令で定める要件に該当している旨の都道府県知事の認定を受ける

という2つの要件をクリアーすることが必要です。しかし、上記①及び②の要件を見て重要なのは、すべての民泊に旅館業法の適用が排除されるというわけではなくて、「国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業として政令で定める要件に該当する事業」のみが適用を排除される、という点です。

で、その政令の定める要件がどこに定められているかですが、国家戦略特別区域法施行令という政令があり、その第12条に定められています。その定める要件は次のとおりです。


(法第十三条第一項 の政令で定める要件)
第十二条  法第十三条第一項 の政令で定める要件は、次の各号のいずれにも該当するものであることとする。
一  当該事業の用に供する施設であって賃貸借契約及びこれに付随する契約に基づき使用させるもの(以下この条において単に「施設」という。)の所在地が国家戦略特別区域にあること。
二  施設を使用させる期間が七日から十日までの範囲内において施設の所在地を管轄する都道府県(その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合にあっては、当該保健所を設置する市又は特別区)の条例で定める期間以上であること。
三  施設の各居室は、次のいずれにも該当するものであること。
イ 一居室の床面積は、二十五平方メートル以上であること。ただし、施設の所在地を管轄する都道府県知事(その所在地が保健所を設置する市又は特別区の区域にある場合にあっては、当該保健所を設置する市の市長又は特別区の区長)が、外国人旅客の快適な滞在に支障がないと認めた場合においては、この限りでない。
ロ 出入口及び窓は、鍵をかけることができるものであること。
ハ 出入口及び窓を除き、居室と他の居室、廊下等との境は、壁造りであること。
ニ 適当な換気、採光、照明、防湿、排水、暖房及び冷房の設備を有すること。
ホ 台所、浴室、便所及び洗面設備を有すること。
ヘ 寝具、テーブル、椅子、収納家具、調理のために必要な器具又は設備及び清掃のために必要な器具を有すること。
四  施設の使用の開始時に清潔な居室を提供すること。
五  施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること。
六  当該事業の一部が旅館業法 (昭和二十三年法律第百三十八号)第二条第一項 に規定する旅館業に該当するものであること。

で、この中で、
1.上記二の「施設利用期間が7日から10日までの範囲内」(ただし、7日から10日までの間の何日にするかは条例で定める。)
2.上記三イの「一居室の床面積は25平方メートル以上」(ただし、都道府県知事または保健所を設置している市の市長又は特別区の区長が、外国人旅客の快適な滞在に支障がないと認めた場合においては、この限りでない)
3.上記五の施設の使用方法に関する外国語を用いた案内、緊急時における外国語を用いた情報提供その他の外国人旅客の滞在に必要な役務を提供すること

については、かなり民泊を規制する方向に働きそうです。
一つの場所の滞在期間が7日から10日となると、かなり対象となる外国人宿泊者は限られてくるでしょうし、一居室の床面積が25平方メートル、などと言っていては、小さいマンションに住む人が民泊を利用するのは難しいでしょうし、外国語の案内や緊急時における情報提供についても、一般の人々にはハードルが高い人が多いでしょう。

そのなかでも、はやり滞在期間が7日から10日という点が一番大きな制約要素になるように思います。せめてこの要件だけでも外せば大分規制緩和の程度が大きくなるのではないでしょうか。

なお、民泊については、マンションの管理規約上、営業行為として禁止されていることが多いという点にも注意が必要です。

というわけで、政令の定める要件をもう少し緩めないと、旅館業法に代わる新しい規制を設けただけで、全然規制緩和になっておらず、特区を定めた意味がなくなるように思うのですが、いかがでしょうか?