金融・商事判例2016年2月1日号(№1483)の巻頭「金融商事の目」の金山直樹慶応義塾大学大学院法務研究科教授の「無責任男の再来」というコラムは、とても示唆的で良いコラムだと思いました。

「例えば、詐欺によって
Xが不動産を購入してしまったとしよう。その場合、Xに対して詐欺行為を行っていたのが、売主Yではなく、独立のセールスマンAだったとすると、XYを訴えても、勝てる可能性はほとんどない。AY<関係>を証明できない限り、715条や96条2項の要件が壁となって、YAの違法行為につき責任を負わないのが原則だからである。」

おっしゃるとおりで、我々実務家は似たような事例にいつも頭を悩ませているのですが、我が国には、ディスカバリー制度等の証拠収集制度が存在しないので、
Xが通常関知していないAYの関係に関する証拠を集めることは、(警察が捜査でもしてくれない限り)かなり難しいといわなければなりません。そのため、多くの消費者が、AYとの間に怪しい関係が推定されるのに、泣き寝入りをせざるを得ないということになっています。

そこで、金山教授は、

法典の欠缺を補うため、Yが、Aによる契約締結補助行為を認容・利用した上で、契約を締結した場合には、Aの違法行為はY自身の違法行為として評価されるべきだと考える。YAの詐欺行為を知っていたか、あるいは、Aと指揮命令関係にあったかは、全く問題にならない。それは、あたかも履行補助者の故意・過失について債務者が責任を負うのと同じことである。具体的には、Xには、Aの詐欺行為を理由として、契約の取消権、および、Yに対する損害賠償請求権が付与されることになる。」

との解釈論を展開しているとのこと。
(『現代における契約と給付』137頁以下(有斐閣・2013年、法学研究88巻7号1頁(2015年)に議論を展開しているとのことです。)。

この問題は、証拠の収集方法を強化するよう法制度を変えるか、実体法の解釈の方を変えていくのかの問題だと思うのですが、前者には色々と議論があるでしょうし、実際問題として立法作業が伴うためなかなか前に進まないでしょうから、私としては、金山教授のアプローチが良いように思います。新しい問題に対処するため、新しい解釈論が提唱されることに期待します。