2016年3月15日の日本経済新聞1面の『民泊、管理業者に登録制 政府が新法 トラブル対応義務に』という見出しの記事は興味深いですね。

「住宅の空き部屋を宿泊施設として使う民泊の普及に向け政府が検討する新法の骨格が分かった。管理業者を登録制とし、近隣住民との間でトラブルが起きた場合の対応を義務付ける。問題を放置した場合は営業を禁じる。責任の所在と問題への対応を明確にする一方、住宅地での民泊や短期の宿泊も認めるなど営業の要件を緩める。訪日客急増による大都市のホテル不足〔中略〕に対応する。」

とのこと。

私はこの問題について、このブログ(記事1記事2記事3)や他のニュースサイトに記事を書いていますが、いよいよ新法の制定か、という感じですね。

この問題については、次の3つのレベルの問題があります。

1.マンション、アパート、戸建てを借りて住んでいる借家人が民泊営業をする場合の家主と借家人との問題(賃貸借契約上の問題)
2.
マンションで民泊営業をする場合の他の居住者(マンションの管理組合)との問題(区分所有権法上の問題)
3.そもそも行政の許可を得なければ民泊ができないのかという問題(旅館業法上の問題)

上記1.については、家主と借家人間の契約上の問題ですので当事者間の契約に委ねれば良い(注
1)、上記2.も各マンションの自治の問題なので各管理組合の判断に委ねれば良い(注2)、上記3.については、1棟のビルを丸々民泊に供するような実質的に見てホテル、旅館経営と変わらない場合は格別、そうでないのであれば旅館業法で民泊自体を事実上できなくする必要性まではない(注3)、というのが私の意見です。

(注
1)賃貸借契約上、「転貸」は禁止されているのが普通ですので、民泊が「転貸」といえるような場合には、賃貸借契約違反となります。また、家主が、借家内で民泊を禁止したい場合には、そのことを契約書上明確にしておけば良いと考えております。

(注
2)実務上は、(居住用の)マンションの管理組合に民泊の苦情が持ち込まれ、民泊を明確に禁止する管理規約に改正する流れが増えていると認識していますが、これはマンション住民の自治の問題であり、規約で民泊の禁止を明確化することに問題はないでしょう。逆に、民泊が自由というコンセプトのマンションがあれば業者や投資家に人気が出るかもしれません。

3)旅館業法上の営業許可の要件が厳しすぎて事実上個人が許可をとることは難しいところが問題です。賃貸借契約上の問題や、マンションの管理組合との問題をクリアーしたとしても、「旅館業法の許可がとれないので民泊ができない。」という結論になってしまいます。持ち家であったとしても、また、マンションを一棟所有していたとしても、旅館業法上の許可が得られないため、民泊はできません。民泊営業をしたい側にも憲法上221項の営業の自由が保障されなければならず、このような規制は、旅館業法上の目的(利用者の保護や公衆衛生)達成のための合理性を有しない過度な規制である可能性があります。

上記記事によると、今回の新法の内容については、

「新法の柱は民泊業者の登録制だ。実際の物件の管理者が対象で、不動産を仲介する宅建業者や旅館業者を想定。カギの管理、宿泊者の本人確認、ゴミ出しのルール告知などの義務を課す。
 「夜に騒がしい」「ゴミ出しマナーが悪い」などの苦情があれば業者は対応する責任を負う。職員にトラブル対応の研修を求める。問題を放置すれば登録を取り消し営業を禁じる。業者に賠償保険への加入を求め、宿泊業者がマンションの共有設備などを壊した場合は確実に償うようにする。
 米エアビーアンドビー社をはじめ民泊仲介サイトの運営業者は実際に物件を管理していないので、新法の対象に想定していない。一方、仲介サイトに空き部屋を載せる個人などは民泊業者の登録番号を求められる可能性がある。業者に物件の管理を委託する個人が増える見通しだ。
 トラブル対応を強化する一方、民泊の使い勝手は高める。マンションなどの民泊を「旅館」ではなく「住宅」と定義し、フロント設置などを求めた旅館業法から外す。」

ということです。

これは、東京オリンピックや訪日観光客の急増から、民泊の必要性を正面から認めて旅館業法上の規制は外すものの、近隣とのトラブル等の問題に配慮して、単にマンションの管理組合の自治に任せるだけでなく、広く民泊をしようとする人には登録制を採用し、トラブル解決義務を課すなど、行政としても積極的に関与していこう、という方向性と理解しました。

まぁ、私の経験からすると、(ちょっと残念ではあるのですが)日本社会では自分たちの生活空間の中に異なる価値観を持った人たちが入り込むことに対する抵抗がかなり強いし、実際問題として管理組合などの自治能力もそれほど強くないので(もちろん例外はあります。)、このような規制を考えざるを得ないのかな~という感じです。

「国土交通省や厚生労働省の有識者会議で法案を詰め、2017年の通常国会への提出をめざす。」

ということです。引き続き、この問題には注目していきたいと思います。