つい先日まで、ある女性タレントが、ミュージシャンの男性と交際していた件で世間から強い非難を受けていました。そのミュージシャンの男性には妻がいたので、不倫ではないかというわけです(注)。これを民事的に説明すると、その女性タレントに民法709条の不法行為が成立するかどうか、という問題になります。
(注)女性タレントが記者会見で男性との交際を否定したことを捉えて、嘘をついていると非難した面もありますが、その点はこの原稿では触れません。
この点、最高裁は、「夫婦の一方の配偶者と肉体関係を持った第三者は、故意又は過失がある限り、右配偶者を誘惑するなどして肉体関係を持つに至らせたかどうか、両名の関係が自然の愛情によって生じたかどうかにかかわらず、他方の配偶者の夫又は妻としての権利を侵害し、その行為は違法性を帯び、他方の配偶者の被った精神上の苦痛を慰藉すべき義務があるというべきである。」(S54.3.30)と述べています。
簡単に言うと、相手に妻又は夫があることを知りながら、その相手と肉体関係を持った場合には、相手の妻又は夫の権利を侵害したのだから、慰謝料を支払う義務がある、というのです。
ただ、この判例については、学者から強い批判があります。夫や妻としての権利は、結婚相手の妻や夫には主張できるけれど、それを超えて第三者に主張できるような権利ではないのではないか、ということです。価値判断としても、悪いのは不倫をした夫や妻なわけですが、「そんな人間を配偶者として選んでしまったのはあなたなので、夫婦間で解決しなさいよ、第三者に慰謝料なんて請求するのは、ちょっとやり過ぎですよ。」ということでしょうか。
ただ、最高裁はこうも言っています。
「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係をもつことが甲に対する不法行為となるのは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとは言えないからである。」(H8.3.26)
つまり、配偶者がいる人と肉体関係をもっても、その人の婚姻関係が破綻しているときは、もはや権利侵害行為がないから、その人の妻又は夫から慰謝料を請求されることはありません。
さらにいえば、不法行為が成立するためには、「故意又は過失」という主観的な要件が必要ですので、配偶者がいる人であると知っていたとしても既に夫婦としての関係が破綻していると思っていたときは、「故意又は過失という」主観的な要件を満たさないことが多く、不法行為が成立しない可能性が高いのです。
報道によると、女性タレントは、ミュージシャンの男性から、離婚協議中で、妻は家を出ていて、年内には離婚したい、と言われていたとのことですので、この報道が本当であれば、夫婦関係は既に破綻していた可能性がありますし、少なくとも女性タレントは破綻しているという認識だったのかもしれません。
翻って考えてみると、相手に配偶者がいる場合には、交際をためらう場合が多いのではないかと思いますので、世にいう「不倫」には、(とりわけ初期の段階では)この種の案件が多いのでしょうネ。