(こんにちは、弁護士の萩原です。本記事は、今月の弊所メールマガジンからの転載に、裁判例の整理を追加したものです。)

平成28627日付のインターネットニュースで、岡山県津山市にある農協(JAつやま)の正職員の3分の2にあたる200人超が、未払残業代の支払いを求めて訴訟を提起したという情報に接した。請求している未払残業代の額は約3億円にのぼるとのことだ(その他付加金も請求しているため、請求額全体は約6億円)。

団体交渉もしてきたようだが、結局、支払いの実現には至らず、訴訟提起になったようである。ニュースの中では、訴状(つまり労働者側の主張)によると、被告であるJA側は、原告の一部を「管理監督者」に一方的に変更し、残業代の支払義務を否定しているとのこと。

私は、このニュースに接して、ここまで徹底抗戦になってしまっていることに驚いたが、「管理監督者」性が問題となっていることが気になった。

確かに、労働基準法412号の「管理監督者」(監督若しくは管理の地位にある者)は、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用が除外されるため、時間外労働や休日労働の割増賃金の支払いは要しない(深夜業は別)。しかしながら、世間の認識でいう管理職と「管理監督者」は、イコールではない。というよりも、かなり乖離しているというのが実感だ。

この「管理監督者」の問題というと、遡ること平成20年のマクドナルドの事件で、店長の「管理監督者」性が否定されたことを想起される方もいらっしゃると思うが、今回は、古くからあるこの問題を取り上げたい。

管理監督者の定義及び該当性の判断基準に関しては、確立した最高裁判例はない。もっとも、おおむね、実務的には、「労働条件の決定その他労務管理等の重要な職務・権限を有し、それに伴う責任も負うなど経営者と一体的な立場にある者」などと定義され、その判断に際しては、以下の3点を中心に総合的に考慮したうえで判断していると分析される。

① 職務内容、権限および責任の重要性

② 勤務態様(労働時間の裁量・労働時間管理の有無、程度)

③ 賃金等の待遇

ただし、この判断の結果、「管理監督者」であるとされるケースはかなり限られている。非常に、非常に、ハードルが高い。予防法務(賃金の設定、賃金体系の設計)の際には、楽観的に「管理監督者」であるから残業代の支払義務を不要とすることは、危険なので要注意だ。

「うちは、係長になったら管理監督者として扱っています、お金も払っているし、、、」というお話をお伺いすることがあるが、残念ながら肩書といった形式で決まるものではなく、実態として、経営者と一体的な立場にあるといえるかどうかが勝負。「お金も払っているし、、、」という点も、あまり決め手にならない。

お金の面は、上記でいうと③の要素にあたる。この点、上記①②③のウエイトが気になるところであるけれども、裁判官の論考では、①と②が中心で、しかも、①、②の順で検討すべきであり、①、②の点において管理監督者性を肯定するのが難しい場合には、③を検討するまでもなく、管理監督者性を否定するのが相当な場合もあると考えられる、という趣旨のことが述べられている(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』135頁以下)。

今回、この記事を書くに当たって、ウエストロージャパンで、「管理監督者」というキーワード検索を行い、その結果の中で、東京地裁の判決であること、管理監督者性が争点となり、かつ、その判断がなされていること、という要件を満たす裁判例のうち、本日時点で直近のもの2つを確認してみた(後記【1】と【2】の裁判例)。

そうしたところ、上記裁判官の論考の見解にも整合的であり、あまり①と②を詳細に検討したうえで、③についてはお金の面が良くても結論を覆すに至っていない(後記【2】の裁判例では、年収1000万円近くの待遇であったけれども、管理監督者性は否定されている)。なお、【1】の労働者の肩書は副所長であり、【2】の労働者の肩書は、部長である。

そして、やはり、管理監督者性の判断は厳格である。後記【1】と【2】の部分を読んでいただくとおわかりいただけると思う(特に【2】の判断は非常に具体的)。

JAつやまの訴訟では、どのような判断がなされるかはわからないが、一般的には管理監督者性が認められることは非常に難しい。

そのため、経営サイドの皆さまには、管理監督者性のハードルの高さをぜひご認識のうえで、労働条件・賃金体系の見直し(例えば定額残業代の導入・適用)をご検討していただきたいと切に願う。

★裁判例【1】 東京地裁平成27年9月18日判決(WestLawJapan2015WLJPCA09188011)

[規範部分]

管理監督者には労働時間,休憩及び休日に関する労働基準法の規定を適用しない旨を定める労働基準法41条2号の趣旨は,管理監督者は,労働条件の決定その他労務管理等の重要な職務・権限を有し,それに伴う責任も負うなど経営者と一体的な立場にあるため,同法の定める労働時間規制を超えて活動することが要請されるところ,出退勤等の自己の労働時間につき自由裁量を有し,かつ,その地位にふさわしい待遇を受けているため,厳格な労働時間規制をしなくても労働者保護に欠けることにはならないことにあるというべきである。

そこで,管理監督者に該当するかは,その業務内容,権限及び責任に照らし,労務管理等に関して経営者と一体的な立場にあるといえるか,出退勤等の自己の労働時間について裁量権を有しているか,その地位にふさわしい待遇を得ているか,等の諸点を総合して判断するべきである。

[あてはめ]

・原告は、入間営業所の副所長として所長に次ぐ地位にあったこと、夜間の従業員の労務管理を行っていること、入間営業所における重要会議に出席していたことが認められる反面、採用、配置転換、解雇等の人事権は有しておらず、所長会議のような全社的な会議に出席する権限はない。以上によれば、原告について、被告の入間営業所内では一定の重要権限を有するとはいえるものの、事業所内の部分的な権限にとどまり、それを超えて企業全体との関係での権限は有しない。そうすると、経営者と一体的な立場にあるとまでは言い難く、この点をもってしても、原告が管理監督者であるとは評価できない。

・原告の勤務状況からは、原告は長時間労働が常態化し、休日も十分に取得できていない状況にあるというべきであるから、自由に出退勤が決められる客観的な状況にあるとは認められない。また、被告の入間営業所内においては上位の待遇にあることは被告主張のとおりであるとしても、年収400万円台では、残業代を支払わなくても長時間労働が正当化できるだけの十分な待遇が受けられているとは評価し難い

[結論]

管理監督者性を否定。

★裁判例【2】 東京地裁平成27年6月24日判決(WestLawJapan2015WLJPCA06248004)

[規範部分]

労働基準法41条2号は、いわゆる管理監督者について、同法第4章等に定める労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないとしている。その趣旨は、ここで想定する管理監督者が、当該事業の経営者に代わって労務管理を行う地位にあり、労働者の労働条件を決定し、労働時間に従った労働者の作業を監督する者であって、このような者は、その権限故に自らの労働時間を自らの裁量で自由に定めることができ、また、地位に応じた高い待遇を受けることから、上記労働時間等に関する規定の適用を除外されても、同法の基本理念に反し、又は労働者保護にも欠けることにならないためと解される。

 このような趣旨等に照らせば、管理監督者に該当するか否かを判断するに当たっては、その職位等の名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであり、管理監督者と認められるためには、①事業主の経営に関する決定に参画し、部下に対する労務管理上の決定権限を有していること(職務権限)、②自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していること(労働時間の裁量)、③一般の従業員に比してその地位と権限にふさわしい賃金上の処遇を与えられていること(賃金等の待遇)が必要と解するのが相当である。

[あてはめ]

①職務権限について

・部下に対して指導監督を行うことは、上司として当然のことである上、顧客・人脈の開拓という点も、営業に関わる者の営業活動の一環といい得る性格のものであって、いずれも被告における経営方針等の決定に関して原告が職務権限を有していたことを直ちに裏付けるものではない

・重要な懸案事項の処理に関してであるが、個別の案件において、一部原告が独自の判断で処理したものがあったとしても、そのことから直ちに原告が被告の経営に関する決定に参画していたことを基礎づけるものではない。

企画立案に関しても、原告の提案した制度は結果的に実施されなかったこと、その他の提案は被告代表者らからの指示ないし提案で行ったものであることが認められるのであって、原告がこれらの施策ないし方針を立案・実行できるだけの権限、裁量を有していたことを裏付けるものとはいえない。

・被告は、原告が年に2回行われる「役員部長会」に出席し、そこで業務の進捗状況に関する報告等のほか、新たな商流の提案等を行っていたと主張するが、原告自身の関与が単にこうしたことの提案にとどまるのであれば、経営方針の決定等に対する関与としては非常に限定的と言わざるを得ず、これを超えて、原告がこれらの新規事業の実行や新商流の採用に当たって、どのような権限・裁量を行使したのか不明である。加えて、原告は、役員部長会議の上位の会議である経営会議に参加したことはない

・被告が管理する学生寮やマンションの管理人の採用権限があったほか、部長として、各部の新卒採用及び中途採用に当たって1次面接を担当し、また、人事考課に当たっては、原告が上記3か部の社員の2次評価者として総合評価するほか、統括部長となった後は東京本部全体の人事評価表を取りまとめたことが認められるのであって、一定の人事労務管理を行う権限を有していたものと認められるが、被告東京本部の従業員の採用に関しては、最終面接は原告の上司に当たる東京本部長が担当し、原告はこれに関与していなかったものと認められるから、上記採用に関する権限・裁量は限定的なものである。

・原告の在籍中、原告や他の部長が下した評価とは無関係に、原告等への説明等もなく、被告代表者らの決定により直属の部下が減給された例が複数例あり、その額も大きなものでは年額で約100万円もの減給がされた者が2名いたことからすると、通常の権限委譲を前提とした人事評価権限を原告が有していたとすることと整合しない

・かえって、原告は、個別案件の交渉や対応にも頻繁に当たっていた上、時には応援要員として店舗に出向き、募集業務等に従事したほか、自ら被告が管理している物件の視察や見回り、管理人業務も行うなど、管理職としての業務以外の現場業務にも相当程度携わっていたことが認められるのであって、こうした事情は、原告の管理監督者性を否定すべき重要な事実というべき。

②労働時間の裁量について

・原告は、執行役員を除く他の従業員と同様、出退勤した際にタイムカードソフトを起動し、表示された出退勤ボタンを押下した時刻を入力することを義務づけられており、直行直帰する場合も同ソフト上で申請し、上司の承認を得ることとされていたことが認められるのであって、一般の従業員同様の出退勤の管理を受けていた。

・実際の出退勤時刻によれば、原告は雇用契約上の始業時刻である午前9時までに出勤し、終業時刻である午後6時までは就業すべきことが義務づけられていたものと解するのが相当であり、原告が、自己の労働時間を自らの裁量で自由に定めることができたとは認められない。

(③待遇について)

・以上に指摘した各点に照らせば、原告の職務権限は非常に限定的で、被告の経営に関わる決定に参画していたともいえず、自己の出退勤を始めとする労働時間について裁量権を有していたとも認められないのであって、原告が、人事労務管理に関わる一応の権限を有していたほか、毎月15万円の役職手当を支給され、年収が約1000万円で、執行役員と同水準の待遇を受けていたことを考慮しても、なお原告を労働基準法412号所定の管理監督者と認めるには足りないというべき。

[結論]

管理監督者性を否定。