厚生労働省における「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」が、平成29315日、法整備に向けた論点整理の報告書を公表しました。

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000155434.pdf

 

この同一労働同一賃金の法整備に関して、「立証責任」を労働者が負うのか、使用者が負うのかという点が、一論点として注目されていましたが、上記報告書においては、「主な意見」として、以下のとおり整理されています(報告書4頁・(2))。

 

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いわゆる「立証責任」については、待遇差の合理性・不合理性は、法的には「規範的要件」と呼ばれるものであり、いずれにせよ労使双方が主張立証し、裁判官が判断するものである。一方で、現在議論されているのは、「法律用語」としての「立証責任」ではなく、①不合理性を立証する現行法を維持するのか、②合理性を立証する EU 式に変更するのかの違いとして捉えられる「一般用語」としての「立証責任」が論点とされた上で、②(EU式)への変更は問題が大きいのではないかという意見があった。

また、「立証責任」より説明義務の強化こそ、労使間の情報の偏在を解消することで裁判における不合理な待遇差の是正を容易にするという意見があった。

説明義務の強化の必要性については概ね意見の一致が見られた。説明義務の具体的内容を明確化する必要性についても一致した指摘があった。そのほか、説明義務の履行に関する実務上の問題に関し、待遇差を説明する際の比較対象労働者を雇用管理区分単位とすることについて複数の意見があり、また、説明時期を雇入れ時とすること等についての意見があった。

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上記報告書でいうところの「『一般用語』としての『立証責任』」って何?(一般用語で、立証責任なんて使われていないのでは・・・)と思ったのですが、ここの表現の仕方はともかくとして、法規定の内容(仕方)の問題のことが議論されたという点は納得です。

具体的には、①不合理性を立証する現行法を維持するか、②合理性を立証するEU式へ変更するか、ということになりますが、私は、①が妥当であり、不合理であることの立証責任を労働者が負うべきであると考えます。


現行の労働契約法第20条をみてみると、「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」とし、この規定に違反していることを主張したい労働者側が、待遇差の不合理性を立証する責任を負うことになっています。不合理性というのは評価の問題(規範的要件)なので、不合理であることを基礎づける事実を主張し、立証しなければならないことになります。

確かに、労働者にとっては、当該立証は容易なものではないとは思いますが(証拠の偏在の問題)、だからといって、立証責任を転換して、EU方式に変えるとすると、使用者側が、11つの訴えにつき、待遇差が合理的であることを立証していかなければなりません(規定のイメージとしては「労働条件の相違は、……、合理的であると認められるものでなければならない」というものになります。)。

これこそ、不合理であると思います。企業ごとに、人事・賃金体系は多種多様なものがあり、極めて複雑ですので、それを逐一裁判所に主張・立証し、「合理的である」という判断を得なければならないことは非常に負担となると思われます。

 

また、待遇差について、

(ア)不合理である

(イ)不合理とも合理的ともいえない(≒(積極的に)合理的であるとまではいえない)

(ウ)合理的である

という3段階があったとして、(イ)のケースについてどうするか?という点も考えなければなりません。

私としては、待遇差が不合理といえない限り、たとえ積極的に合理的であるとは認められないとしても、裁判所(司法)が企業経営に介入して規律することは望ましくないと考えます。安易に、裁判所が介入することは、健全な労使関係の構築を阻害することにつながると思います。

裁判所が、「不合理であるとまでは認められない」という場合には、労働者の請求を棄却する方が妥当と考えます。

 

この点、検討会における中間報告参考資料(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000149824.pdf)の中に記載のあった、立教大学の神吉先生の以下の意見にシンパシーを感じましたので、引用させていただきます。

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仮に、現行の「不合理な格差禁止」から「合理的理由のない格差の禁止」へと転換した場合、労働者が非正規であることと格差の存在を立証すれば、使用者は、格差の合理性を立証できない限り違法との評価に至る。とすれば、使用者の職務分離の懸念だけでなく、労働者および労働組合にとっても、裁判に訴えることが最も有効な手段ということになり、労使が自ら交渉し、納得のいく労働条件を設定するインセンティブを失わせるおそれがある。その結果、自律的な労使関係の基盤がゆらぎかねない。そこでやはり、現行法における不合理禁止という判断枠組を維持した上で、非正規の利害を十分に考慮した労使交渉や協議により、不合理な格差のない労働条件設定に誘導することが妥当だと考える。

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今回の報告書では、立証責任よりも説明義務が重要であるというトーンでまとめられています。ここでは、東京大学の水町先生のご意見を引用してご紹介いたします(http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11601000-Shokugyouanteikyoku-Soumuka/0000150894.pdf)。

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〇待遇差の合理性・不合理性について、裁判上の立証責任を使用者が負うのか労働者が負うのかに注目が集まっている。法的には、この点は「規範的要件」と呼ばれるものであり、いずれにしても、使用者と労働者の双方がそれぞれ自らの主張を基礎づける事実について立証をし、裁判官が責任をもって判断すべきものであると考えられている。

 1)「待遇の相違は合理的なものでなければならない」と法律で規定

→ 使用者が評価根拠事実(待遇の相違が合理的であること)を立証

労働者が評価障害事実(待遇の相違が合理的でないこと)を立証

 ⇒ 裁判官が両者を踏まえて「合理的」か否かを判断

 2)「待遇の相違は不合理なものであってはならない」と法律で規定

→ 労働者が評価根拠事実(待遇の相違が不合理であること)を立証

 使用者が評価障害事実(待遇の相違が不合理でないこと)を立証

⇒ 裁判官が両者を踏まえて「不合理」か否かを判断

ここでより重要なのは、労働者の待遇について制度の設計と運用をしている使用者に、待遇差についての労働者への説明義務を課し、労働者と使用者の間の情報の偏りをなくすことである。これによって、待遇に関する納得性・透明性を高めるとともに、不合理な待遇差がある場合にその裁判での是正を容易にすることができる。

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現行法の方式を維持しつつ、説明義務を導入していく方向性については私も賛成です。

おそらく、EU方式の採用はなく、説明義務を規定する方向で進んでいくと思われますが、今後の法制度設計に注目していきたいと思います。