金融・商亊判例1514号(2017年4月15日号)43頁以下に掲載されている東京地裁平成29年1月26日判決を読んでいて、あれっ?と思ったので、紹介させていただきます。

簡単に事案を説明すると、ある会社Yが株主総会で(代表)取締役Xを解任したところ、そのAさんからY社に対し会社法第339条2項に基づき、損害賠償請求がなされたというものです。

参考:
339条 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
 2  前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。

この種の紛争では、解任に「正当な理由」があるか否かが争われることが多く、この訴訟でも主に「正当な理由」の有無が争われたわけですが、私が注目したのは、「損害」に関するY社の次の主張。

「会社と取締役との間で現に締結された委任契約において、会社の解除権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているのであれば、かかる規定に従う限り、会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じず、賠償すべき「損失」を観念することもできないというべきである。本件においては、原告が被告の取締役に就任した際、本件委任契約が締結されており、同契約においては、被告は、約定の解約事由がなくても、いつでも本件委任契約を解約することができる旨定められ(10条2項)、かつ、その解除が被告の都合によるものであれば、原告は退職一時金を請求することができる旨も定められており(7条1項1号)、原告の利益の保護も十分に図られている。よって、本件解任については、会社法339条2項により賠償すべき「損害」は観念しえない。」

これに対して、この判例は、次のように述べて、上記のY社の主張を排斥しています。

「被告らは、前記第2の3(2)(被告らの主張)アのとおり、会社と取締役との間の委任契約において、会社の解散権及び解除に伴う処理が具体的に規定されているのであれば、かかる規定に従う限り、会社法339条2項において保護すべき取締役の損失(委任契約に基づく期待権の喪失)は生じず、賠償すべき「損害」を観念することもできない旨主張する。しかしながら、会社と取締役間の委任契約(取締役任用契約)において、会社の無条件の解除権や解除された場合の処理が具体的に規定されたとしても、そのことをもって、当該取締役の任用に対する期待権(前記1(1)参照)が生じないなどと解することはできず、同項の「損害」を観念することができないともいえないから、被告らの上記主張は採用することもできない。」

ちょっと、えっ!と思いませんか?
任用契約中で、取締役が会社の都合で解任された場合の処理(たとえば、会社は損害賠償として〇〇円支払う)というような決め事をしていても、当該(解任)取締役は、その決められた金額の他に、会社法339条2項に基づき会社に損害賠償請求をすることができるだなんて・・・。
判旨を読むと、「(解任された場合の処理が定められた任用契約があるからといって)当該取締役の任用に対する期待権が生じないなどと解することはできず」と言っているので、残任用期間中に貰える報酬合計額よりも高い退職金等が定められていれば339条2項の適用はなくなるのかなという気がしますが、しかし、どうして私的な利益について事前に当事者で決めておくことができないのかよくわかりません。

ちなみに、小説「ハゲタカⅡ」の主人公の鷲津政彦氏が、ホライズン・パートナーズから首切りにあったときに、1億ドル(1ドル100円で計算すると100億円)の大金が支払われる任用契約が締結されていたわけですが、この判例に従えば、鷲津氏がさらに稼げるようだと、100億円を超えて、ホライズン・パートナーに損害賠償請求をすることができるという結論になりそうですね。

ただ、金融・商亊判例のこの判例の解説部分には、

「なお、損害における判示であるが、本判決は、取締役任用契約において、会社の無条件の解除権や解除された場合の処理が具体的に規定されていることをもって、当該取締役の任期に対する期待権が生じないなどと秋することはできないとするが、これが、会社と役員等の特約により会社法339条2項を排除することを禁止する趣旨を判示したとまで読めるかどうかは議論の余地があろう。」
との記載もあります。

私の意見を言わせていただくと、会社と任用契約を締結するような役員は、(カルロス・ゴーン等々の)経営のプロフェッショナルであり、会社と対等な力関係の場合が多いでしょう。したがって、「会社と役員等の特約により会社法339条2項を排除することを禁止する」必要など全くありません。我が国では「契約自由」が原則なのですから、裁判所は、会社と役員等との間の契約を尊重すべきであり、任用契約中で会社法339条2項の適用が排除されているのであれば、当然、それは認められるべきでしょう。