2017427日付日本経済新聞(電子版)で、「違法残業などで送検、HPで公表へ 厚労省」という見出しの記事が出た。記事によると、「厚生労働省は5月から違法残業の疑いで書類送検した事案などを同省のホームページ(HP)で一括掲載する。」とあり、主な掲載内容は、「企業名・事業所名」「所在地」「法違反の内容」を予定しているとのこと。また、「各都道府県の労働局長が企業の経営トップに対して長時間労働を是正するよう指導し、公表した事案もHPに載せていく。」とある。

 

以上の厚生労働省の取り組みについての掲載基準をまとめた通達は、実は、平成29330日付基発033011号で既に出されている。

http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/170510-02.pdf

掲載する事案は、「送検事案」と「局長指導事案」の2種。掲載内容は、①企業・事業場名称、②所在地、③公表日、④違反法条項、⑤事案概要、⑥その他参考条項の6点。掲載は、毎月更新され、概ね1年間とされている。

 

これを受けて、平成29510日、厚生労働省労働基準局監督課は、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」をHP上に掲載した。書類送検した334件につき企業名等が公開されている。

http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/151106.html

http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/170510-01.pdf

今回は、すべて「送検事案」のようである(ちなみに、(株)電通も入っている。)。ただ、よくみると、既に送検後に不起訴となっている会社についても、公表されて(しまって)いる。例えば、三菱電機(株)情報技術総合研究所もその1つである。

 

ロースクールで、刑事訴訟法や行政法(新しい司法試験では必修科目)を勉強してきた私の第一感は、以下のとおりである。

 

え?いいの?法律の根拠ないよね?書類送検しただけでは有罪であることも確定しないのに。警察が書類送検した事案を警察のホームページで公表するようなものだよね(※労働基準法101条は、労働基準監督官が司法警察官の職務を行う旨規定)。それってダメじゃないの?行政の指導監督機能の実効性を強化したいというのはわかるけれど、「公表」という手段を用いることはどうなのか?

 


そこで、今回は、この点に関連して問題提起をしたい。上記通達(厚生労働省の一括掲載)のもとになっている通達がある。2017年1月20日付の基発0120第1号だ。同通達は、概ね以下のとおり。

 

違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業について、本社管轄の労働基準監督署長(署長)から当該企業の経営幹部に対して監督指導を行い、再度違法な長時間労働等や過労死を複数の事業場で発生させた場合には、本社管轄の労働局長(局長)から、指導を行い、指導を行った事実を企業名とともに公表する。

具体的な要件を整理すると、以下の3つに場合分けできる。

(a) 1事業場で10人以上又は当該事業場の4分の1以上の労働者について、①1か月当たり80時間を超える時間外・休日労働が認められること、かつ、②労働時間関係違反であるとして是正勧告を受けていること

(b) 過労死にかかる労災支給決定事案の被災労働者について、①1か月当たり80時間を超える時間外労働・休日労働が認められ、かつ、②労働時間関係違反であるとして是正勧告を受けていること

(c) 概ね1年程度の期間に2箇所以上の事業場で、(a)又は(b)が認められ(本社で2回認められる場合も含む。)、かつ、(b)の実態が1箇所以上の事業場で認められること

 

 今回の問題意識との関連では、この通達には次の記載がある。

 

「なお、当該公表は、その事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、もって、同種事案の防止を図るという公益性を確保することを目的とし、対象とする企業に対する制裁として行うものではないこと。」

 

前記した要件を見るに悪質性が強く認められる(であろう)事案であり、行政のお気持ちもよくわかるけれども、公表による不利益性を威嚇力として、是正勧告の実効性を担保しようとするものという側面があることは否定できないと思う。そうすると、果たして手段として適切なのかという点がどうしてもひっかかる。

 

「公表は、義務履行確保の手段として高い効果が期待される半面、氏名を公表される当該個人ないし企業に深刻な不利益を与える可能性があり、また、いったん誤った情報が公にされると原状回復が事実上困難であるという特質がある。そこで、義務履行確保のための公表制度を設けるには法律の根拠が必要であり、公表に先立って直接の利害関係者に意見書提出を認める等の事前手続を整備すべきである」という指摘がある(櫻井敬子・橋本博之『行政法』・179頁)。

 

しかも、労働基準監督署の是正指導や是正勧告は、法律上、行政指導にすぎないことに鑑みれば、「行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」という行政手続法32条2項との関係でも、疑問が残る。実質的には、公表は、行政指導に従わなかったことを理由とした不利益な取扱いともいいうるからだ。

 

送検事案に限って公表するとしても、送検しただけで罪が確定したわけではない。送検後に、検察官が起訴をして、裁判所が有罪判決を出してその判決が確定しない限り、無罪推定が働くことは、法学部の学生が学部時代に習う基礎中の基礎だ。この関係で、現在の公表制度が適切なのかも検討されなければならないと思う。

 

なお、誤解なきよう付記しておくと、私も、労働基準法に違反することはよくないことであると考えているはもちろんであるし、実際に、コンプライアンスの観点から日ごろの法的アドバイスをしているし、労働基準監督署からの是正指導や是正勧告に対しても真摯に対応するという前提で実務上のアドバイスをしており、あくまでも、今回、問題提起したかったのは、「公表」という手段の部分についてである。