●はじめに

先の記事では、ハードフォークの話題について触れさせていただきました。しかし、先の記事でも書かせていただいたとおり、その後、BitcoinUnlimitedでは、一部の、特許技術を使うことができる者のみが儲かる構造となっていることなどが判明しました。これにより、BitcoinUnlimitedは支持を失ってゆき、BitcoinUnlimitedによるハードフォークのリスクは低下しました。

が、しかし、この問題、形を変えて、現在でも続いています。いわゆる「スケーラビリティー」問題と呼ばれるもので、現在、ビットコインは、混乱の真っ只中にあります。これを反映して、現在、ビットコインの価格は乱高下しています。


ごくごく簡単に言ってしまえば、BitcoinUnlimitedの時と同様、

  ビットコインが2つに分岐するかもしれない!!??

という問題が発生しています。



以下、順を追ってご説明致します(なお、この記事は、平成29年6月19日時点で記載されたものです。)。



●前提知識:スケーラビリティ問題

まずは、今回の問題の前提となる知識をご説明します。

ビットコインのシステムでは、

  ・約10分間ごとに
  ・世界中で生じた新たなビットコイン取引をまとめて
  ・それを新たなブロック(取引台帳)に記入し、
  ・チェーンのように、従前の台帳につなげてゆく

という仕組みがとられています。いわゆるブロックチェーンと呼ばれる仕組みです。


しかし、この1つのブロックのサイズは固定サイズ(1MB)であるため、近年の取引量増加に対応しきれなくなりつつあります。要するに、10分に1回しか取引台帳に新しいページを追加できないけれども、10分間の取引量が1頁分の分量を超えてしまって、台帳に書ききれなくなってしまうのです。


書ききれなくなるとどういうことが起こるかというと、取引がなかなか確定せず(台帳に書き込まれず)、送金に遅延が生じます。また、ビットコインは、これまで、送金手数料が0ないし非常に低い金額でしたが、この送金手数料が増加するという事態も発生します。


これらの問題は「スケーラビリティ問題」と呼ばれ、これまで、様々な対応策が検討されてきました。以前ご紹介したSegwitや、BitcoinUnlimtiedも、このスケーラビリティー問題への対応策の候補です。BitcoinUnlimitedは、その後、下火になりましたが、それで問題が解決したわけではありません。スケーラビリティー問題は依然として残っているのです。




●BIP148

このスケーラビリティー問題に関して、これまで様々な対応策が提案されてきました。その1つがSegwitですが、以前お伝えしたとおり、ネットワーク参加者の大半の賛成を得るには至らず、導入できずにいます。

このSegwitをなんとか、半ば強行して導入しようと考えられた導入方法の1つの案が、「BIP148」と呼ばれる案で、現在、非常にホットな話題となっています(https://github.com/bitcoin/bips/blob/master/bip-0148.mediawiki)。BIPとは、Bitcoin Improvement Proposalsの略で、ビットコインに関する改善の提案です。そして、「BIP148」とは148番目の改善提案ということになりますが、その具体的内容は、ごく簡単に言えば、以下のとおりです。

  ・このまま、Segwitの導入が見込めない場合
  ・2017年8月1日の夜中の0時0分(UTC=協定世界時≒グリニッジ標準時)以降
  ・Segwitを導入していないブロック(台帳)は拒絶する
  ・という仕組みをビットコインのプログラムに盛り込む


要するに、ネットワーク参加者の過半数も同意が取れていないSegwitを、言わば強行導入しようとするものです。一見するとかなり過激な提案ですが、これはうまくいくのでしょうか。

ただ、Segwit導入に全く勝算が無いわけではありません。これを理解するには、ビットコインに、どのようなプレーヤーがいるのかを理解する必要があります。まず、当然ながら、ビットコインを使う側、ユーザーサイドの人たちがいます。具体的には、個々のビットコイン保有者や、取引所、ウォレットのプログラムを提供している業者などです。

また、当然ながらビットコインを開発している人たちがいます。

さらに、ビットコインの台帳に取引情報を書き込む(マイニングといいます。)人たちもいます(マイナー)。この人達は、報酬として、ビットコインを受領しています(システム上、新規にビットコインが発行され、それを報酬として受け取ります。)。これらは、1人の人が複数該当することもあれば、1つしか該当しない場合もあります。以上をざっくりまとめると、以下のとおりです。


  ①ビットコインのユーザーサイドの人たち

     ・個々のビットコインユーザー(保有者・利用者)

     ・取引所

     ・ウォレットのプログラムを提供している業者

  ②開発者

  ③マイナー(採掘者)



さて、このうち、Segwitの賛成者が伸び悩んでいる、というとき、主にどのプレイヤーを指すのかと言えば、③のマイナーです。ビットコインのプログラムは、マイナーのコンピューターなどに導入され、このプログラムを前提に、取引情報が台帳に記載されます。そのため、マイナーの賛同が多くなければ、ビットコインの仕様を変更(プログラムを変更)したくても、なかなか難しいのです。


しかし、前記のプレイヤーのうち、①ユーザーサイド、特に、取引所の大多数が一致団結すると、③マイナーにSegwit導入を促すことが可能になります。具体的に言えば、マイナーは、ビットコインを台帳に書き込むことにより、ビットコインを対価として得ています(マイニング)。マイニングは、もはやビジネスになっており、マイナーは、多数の専用のコンピューターを大量に用いてマイニングをしています。そうすると、特に②取引所が一致団結して、「Segwitを導入せずにマイニングされたビットコインを一切取引対象にしない」こととすれば、マイナーとしては、自分がマイニングしたビットコインを通貨に換金できず困ってしまいます。これにより、マイナーとしては、Segwitを導入せざるを得ない、、、というシナリオが描けるのです。このような理由から、BIP148(ないしSegwitの導入)に全く勝算が無いわけではありません。

ちなみに、(かなり荒っぽく説明すれば)このように、ビットコインを使う側が主導してビットコインの使用を変えてゆく試みを、UASF(User-Activated Soft Fork)などと読んでいます。


しかし、もちろん、BIP148が100%成功するとも言えません。例えば、取引所が一致団結できず、一部、Segwit反対側に回れば、上記のシナリオは容易く崩れてしまいます。最悪のシナリオとしては、
  ・Segwit導入済みのビットコインと
  ・Segwit未導入のビットコイン
に分かれてしまうというリスク、つまり、ビットコインが分裂するリスクも指摘されています。




●NYアグリーメント

スケーラビリティー問題に対応する今一つのホットの対応策は、5月23日にニューヨークで開催された「CONSENSUS 2017」と呼ばれるサミットでの合意です。

この協定は、バリー・シルバートという人物が主導し、ビットコインの関係者の多数が集まって行われたため「シルバート協定」と呼ばれたり、開催地から「ニューヨークアグリーメント」などと呼ばれたりしています。また、アイデア自体は、別の人が、既に3月に提案していたもので、「Segwit2Mb」や「Segwit2x」などと呼ばれています。呼ばれ方が多くて混乱しますが、最近は、「Segwit2x」と呼ばれることが多くなっているようです。


さて、この具体的な合意内容ですが、以下のとおりです。

 ・80%の賛同(マイナーパワー)を境にしてSegwitを導入する
 ・その後、6ヶ月以内に、ハードフォークを行い、ブロックサイズを増加させる(2MBにする)
 ・という仕組みをビットコインのプログラムに盛り込む


なにやら複雑そうですが、要するに、Segwit(1MBのブロックサイズは変更しない)を導入したい派と、ブロックサイズ自体を増加させたい派を調和させるため、どちらの案も盛り込んだ妥協案です。

ハードフォークと聞いてギョッとする方もいるかもしれませんが、少なくとも、マイナーの大多数の賛同があることが前提なので、BitcoinUnlimitedの際のハードフォークとは状況が違います。


このニューヨークアグリーメントでは、22の国から58の企業が参加し、マイナーからも多くの同意(合計のハッシュパワーは、83.28%)が得られています。一見すると、マイナーの同意も前提とされるため、BIT148と比較して、こっちの方が良い案のようにも思えますが、その後に問題が生じています。具体的な仕様を確定してゆく中で、例のASIC BOOSTを排除しないようにしたらどうか、という提案がなされたのです。ASIC BOOSTとは、いわば、ビットコインの脆弱性をついて、マイナーが非常に効率的にビットコインのマイニングをできるようにする仕組みです。元々のSegwitでは、ASIC BOOSTが適用できない仕様になっていましたが、そこを改変しようということです。当然、Segwit推進派は反対して議論が紛糾しています。

また、従来のBITCOIN開発者は、この合意に一切参加していないという点も、ネガティブ要素として指摘されています。




●今後の流れ

当初、BIP148は、今ほど注目されていませんでしたが、感覚的には、Segwit2xの雲行きが怪しくなった結果、Segwit2xにするくらいだったらBIP148がいい!としてBIP148の支持者が増えたように思います。ただ、どちらかが決定的に支持を集めているのか否かは、明らかになっていません。さらに、このような中で、大手マイナーのBitmainが、さらに独自のハードフォークを提案するなどして、議論は紛糾しています(ただ、この案については、あまり支持されていないようです。)。



現在の計画では、
  ・Segwit2xは、7月21日に始動開始
  ・BIP148は、8月1日に実行
されることとなっています。



また、現段階で、
 ・BIP148が採用されるのか
 ・Segwit2xの内容が採用されるのか
 ・はたまたどちらも採用されないのか
といったことは、よく分からない状況です。ただ、インターネット上では、見たところ、BIP148の支持が多くなっているようです。


今後の動向にもよりますが、ビットコインをお持ちの方は、事前に、
 ・ビットコインを取引所に預けたままにせず
 ・ペーパーウォレットやハードウェアウォレットに移動し
 ・混乱が収束するまで取引は控える
といった対応が望ましい、などと言われています。




このような紛争が生じていることについてネガティブな見方もできるかもしれませんが、これまで懸案となっていた問題についてメスが入る良い機会ととらえる事もできるかと思います。

今回の問題を乗り越え、ビットコインがさらなる発展を遂げることを期待します。ひとまず、これから8月にかけてのビットコインの動向に注目です。