69日、厚生労働省の労働政策審議会(部会)は、同一労働同一賃金に関する法整備に関する検討結果を報告した。これを受けて、616日に、労働政策審議会は、厚生労働大臣に建議を行った。今後、法案要綱の作成段階に入ることになる。報道によると、政府は、今年秋の臨時国会に関連法案を提出し、2019年度の制度導入を目指しているそうだ。

 

今回の建議(=報告書)の内容は、厚生労働省のサイトから閲覧・ダウンロードできる。

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000167781.html

 

内容の項目は、以下の5つから構成されている(合計11頁)

1 基本的考え方

2 労働者が司法判断を求める際の根拠となる規程の整備

3 労働者に対する待遇に関する説明の義務化

4 行政による裁判外紛争解決手続の整備等

5 その他

 

今回は、「1 基本的な考え方」の感想のみ述べることとする。

 

同項目では、法改正の必要性が語られている。正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇格差は社会全体へ負の影響を及ぼしているから是正されなければならない、それ故上記2から4等の法改正を行うべきだ、とされている。これが「同一労働同一賃金」に関する法整備である、と。

でも、待ってほしい。「同一労働同一賃金」は、正規雇用と非正規雇用との間だけではなく、正規雇用の中でも実現されていないと思う。職能給制度を中心とする年功序列型の賃金制度が適用されている会社はまだまだ多いだろう。純粋に労働の内容等をベースとして賃金を決定している会社はどれだけあるだろうか。正規雇用の中でも問題が内包しているにもかかわらず、正規雇用と非正規雇用だけをくくりだして、ここだけの待遇差を解消し、「同一労働同一賃金」の実現、というのは、ものすごく違和感を抱かざるを得ない。

正規雇用と非正規雇用との点だけをパッチ的に対応するのではなく、全社の賃金体系や人事評価制度全体を変えていく大工事をしなければ、真の「同一労働同一賃金」は実現できないと思う。この大工事には、現在の正規雇用労働者の賃金等を下げざるを得ない場面が出てくることが想定され、いわゆる不利益変更のハードルを突破しなければならない。がしかし、今回の政府の「大号令」があることがその突破理由になる保障もない。

総額人件費が決まっている中で、会社はどう対処していけばよいのか、法改正をするのであればそこの解を示すべきだ。

 

また、報告の中では、待遇格差の解消が生産性向上につながるといった趣旨の言及もなされているが、私としては、生産性向上というマジックワードに飛びついていて中身がない印象を受ける。私が不勉強なだけなのだろうけれど、どういうロジックで生産性向上に結び付くのかよくわからない。非正規雇用労働者は能力開発機会が乏しいという評価に基づいているようにもうかがえるが、能力開発機会に相対的に恵まれている正規雇用労働者だって生産性が低いこともあるであろう。雇用形態や待遇によって生産性が変わるということはなく、単なるモチベーション、やる気の向上につながる(かもしれない)だけではないか。生産性という問題を単なるやる気の問題だけに引き直してしまっていないだろうか。

 

さらに、政府が提示した「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」のときも同様であったが、今回の報告においても、賃金決定基準やルールなどの処遇体系全体を労使の話し合いによって明確化していくべきという趣旨のことが書かれている。しかし、そもそも賃金決定基準やルールは会社が決め、そのうえで個別の契約交渉に委ねるべきではないだろうか。会社において賃金決定基準やルールは戦略の一部であり、会社が行うべき意思決定の対象であると思う。あくまでも、その中で、個別の契約交渉で入社時の待遇が決定されればよく、そのあとも会社のルールを基本としていけばよいと思う。納得がいかないという場合も含めて、個人面談でフィードバックをすることになるだろう。

もちろん、従業員側の希望にマッチしないケースは生じる(ただ、これは従業員が人間であることに起因するものであろうから、制度を変えても必ず生じる問題だと思う。必ず従業員側の希望にマッチしなければならないということは無理難題だ。)。入社時の待遇に不満があれば、その会社に入社せず、他の会社を選択する自由があるし、入社後も転職の自由がある。会社側にとっても自社の賃金決定基準をどのように設定して、どのような人材を獲得・維持していくかについては自由がある。そもそも賃金の水準を最重要要素としている人材を獲得するのかどうか(獲得したいのであれば可能な限り賃金を上げるという方向に働く)、やりがいといった非金銭報酬の側面を訴求するのか、等々を考えて、職能給・職務給・役割給といった賃金体系の内容、人事評価の基準(自社は何を重視するのか)を戦略的に決定していくべきであり、かつ、それで足りるのではないだろうか。

このあたりに政府が深く介入することは、日本における企業経営を難しくするような気がしてならない。幸福の総和が小さくならないだろうか。

 

報告書で指摘されている、女性が働きにくい社会、子育てや介護をしながら働いていくことが難しい社会や、貧困の問題などを放置してよいと言うつもりはまったくない。積極的に取り組んでいくべきだ。

けれど、今回の法改正の考え方は腹落ちしていない。各論、法改正の具体的内容についての感想は次の機会とする。