月や火星等の天体を所有することはできるのでしょうか。

“所有する”とは、法的に言えば、動産又は不動産に対して所有権を有するということですが、月や火星等の天体に対して所有権を有することはできるのでしょうか。

 

宇宙条約2条は「月その他の天体を含む宇宙空間は…(中略)国家による取得の対象とはならない」と規定しています。しかし同条は、あくまでも「国家による取得」を禁止しているに過ぎないので、私人による取得は禁止していない、と反対解釈することによって月の土地を販売する会社があります。

 

「(※私人による取得は禁止していないという)盲点を突いて合法的に月を販売しようと考えた同氏(※アメリカルナエンバシー社CEOのデニス・ホープ氏)は、1980年にサンフランシスコの行政機関に出頭し所有権の申し立てを行ったところ、正式にこの申し立ては受理されました。

これを受けて同氏は、念のため月の権利宣言書を作成、国連、アメリカ合衆国政府、旧ソビエト連邦にこれを提出。

この宣言書に対しての異議申し立て等が無かった為、LunarEmbassy.LLC(ルナ・エンバシー社:ネバダ州)を設立、月の土地を販売し、権利書を発行するという「地球圏外の不動産業」を開始しました。」

(株式会社ルナエンバシージャパン(http://www.lunarembassy.jp/shop/about)より)

 

月の土地を販売するには、月の土地に所有権を有していることが前提になります。そもそも土地に法律上の所有権を及ぼすには、その土地がその国の領土であることが必要になりますが、ひとまずそれは措いておき、今現在、所有権概念が(地球上の)日本の土地と同じように月の土地にも妥当するのかを検討してみます。

 

所有権とは、客体を一般的・全面的に支配する物権のことをいいますが(我妻榮著「新訂 物権法(民法講義Ⅱ)」257頁)、ある土地に所有権を有していると、その土地を売却・賃貸したり、その土地上に建物を建築したりする等、自由に使用収益できることになります。

 

この所有権は土地の上下に及びます(民法207条)。そのため、字句通りにそのまま解釈すると、地下はマントルを突き抜けて地球の核まで、上空は宇宙の果てまで所有権が及ぶ…といったら、常識的に考えてあり得ないことは明らかです。

例えば日本の法令でも、40m以上の地下は、行政から使用認可を得られれば、土地所有者の意思を問うことなく使用することが可能になりますので、この法令には、40m以上の地下は通常物理的に利用できないので所有権が及ばなくてもいいでしょ、という価値判断が反映されています。土地の遥か上空において、ヘリコプターや飛行機が通過する際にその土地の所有者の許可を必要とすることが妥当でないことも当然といえるでしょう。

そのため、所有権は、物理的に管理・利用が可能な範囲(所有権者の利益が観念できる範囲)に限って及ぶと考えるべきです。

 

この考えは、欧州では法律上明文化しており、ドイツ民法は「土地所有権は、これを禁止するについてなんらの利益のない高所又は深所における侵害を禁ずることはできない」とあり、スイス民法は「土地の所有権は、その行使につき利益の存する限度において空中及び地下に及ぶ」と明確に規定しております(我妻榮他著「我妻・有泉コンメンタール民法(第3版)」432頁参照)。

 

上記の会社も含め、私人で物理的に月の土地を管理・利用している人はいませんので、そもそも論として現時点では月の土地を対象とする所有権を観念することができないと考えられます。

そうすると、私人が月の土地を販売するにしても、「月の土地の所有権を移転させる」という内容の不動産販売であれば、(そもそも月の土地が米国や日本に編入されていないということもありますが、所有権概念からしても)その契約は実現可能性の無い契約として、無効ないし取り消し得る契約になってしまうでしょう。

 

この点、上記の会社のウェブサイトを見ると、

 

「私どもは、「月の土地」を楽しんでいただけることを目的としております。日本の不動産と同じように考えていただくと無理のある商品と思われます。」

http://www.lunarembassy.co.jp/faq/2008/08/nasa.htmlより抜粋)

 

としており、あらかじめジョーク商品であることを明示しています。ジョーク商品を楽しむという内容の契約とすれば問題なく成立するでしょう。

なお、ブラジルでは月の土地を販売した業者が逮捕されており、また、火星はイエメン人が所有しているというイエメンの神話があるようで、イエメン人が米国の火星探査の中止を求めてNASAを訴えた例があります(小塚荘一朗他著「宇宙ビジネスのための宇宙法入門」38頁参照)。

 

宇宙空間の利用はすべての国の利益のために行う(宇宙条約第1条)、という理念からすれば、私人が月や火星などの天体の土地を所有できるようになるのは難しいかもしれません。しかし、将来技術が進歩して誰でも月や火星に行けるほど人間の活動領域が広がるようになれば、私人による天体所有もあり得るかもしれません。

もっとも、その頃にはVR(仮想現実)技術も今より進化して、仮想現実空間で物を所有していれば、現実に物を所有しなくても別にいい、という感覚になっているかもしれませんね。