今月、国際宇宙ステーション(International Space Station。以下「ISS」。)にいるクルーの交替がありました。3名のクルーを乗せたロシアの有人宇宙船は、今月13日にロケットで打ち上げられ、その日のうちにISSにドッキングし、無事3名のクルーはISSに到着しました。最近ではクルーの交代はそこまで大きなニュースになりませんが、このことは昔に比べればロケット技術等が遥かに進歩したことの現れでしょう。

ISS計画は、G8サミット(主要国首脳会議)の全メンバーも参加している巨大なプロジェクトであり、ISSでは、様々な国籍の宇宙飛行士達がそこに居住しながら日々研究しています。16.5時間労働、土日が休みで、祝日はクルーの国籍に応じて各国の祝日を調整して決定していくそうです(JAXA(宇宙航空研究開発機構)ウェブサイトより。http://fanfun.jaxa.jp/faq/detail/177.html)。

このISSですが多くの国が参加し、様々な国籍のクルーが居住しているため、権利関係の存否について疑義が生じた場合や、(考えたくはないですが)宇宙飛行士の間で紛争が生じた場合などのため、あらかじめ法的な取り決めをしていく必要があります。参加国は国際宇宙ステーション協定(以下「IGA」。)を締結しており、ISSでは、各国がそれぞれ登録した物体や、自国の国籍を有するISSにいる人員ごとに、各国の管轄権が与えられています。この管轄権は、(登録した)宇宙物体上で発生する事実や行為について、登録国の国内法が適用され、その国内法の遵守を強制する権限(法律を執行する権限)をいいます。

日本が登録しているISSにある実験棟のJEM(きぼう)内では、日本の国内法である民法等が適用されます。また、日本人搭乗員同士で喧嘩して損害賠償という話になったら、民法の不法行為(709条)等の規定を根拠に解決していくことになります。

仮に他国の搭乗員と揉めた場合には、IGAでは、当事国の政府間協議等での解決を目指し、この解決が不調に終わったら、紛争当事国間で合意された紛争解決手続(調停、仲裁等)で解決するよう定められています。

IGAは刑事事件に関する規定もあり、このことは以前取り上げたことがあるのですが、ISS内で犯罪行為が行われた場合は、ステーションのどの区画で犯罪があったかどうかは関係なく、被疑者である宇宙飛行士の国の法律で裁かれることが原則となっています(221項)。そのため、例えばA国の宇宙飛行士がB国の宇宙飛行士に傷害を加えた場合には、被疑者はA国の宇宙飛行士となり、このA国の宇宙飛行士はA国の法律で裁かれることになります。

なぜ被疑者の国の法律で裁かれるかというと、宇宙飛行士の活動は自国の国民から大きな関心が寄せられるため、他の参加国によって自国の宇宙飛行士が裁かれることは国際関係上好ましくないという理由から、属人主義(自国民による犯罪に対しては犯罪地を問わず自国の刑法を適用するという考え方)が取られています(小塚荘一郎著「宇宙ビジネスのための宇宙法入門」150頁参照)。

なお、日本人搭乗員が刑事事件の被疑者となった場合には、日本の刑法の定めが適用されますが、ISSは宇宙にあり日本国内ではないので、刑法の国外犯規定しか適用はありません。刑法の国外犯規定とは、日本国外の犯罪行為であっても日本の刑法が適用されるというもので、通貨偽造、殺人、傷害、窃盗、詐欺や強盗等が定められています。ISSで想定される刑事犯罪は基本的にはこの国外犯規定でカバーされていると思いますが、例えばISSで国内犯規定しかない賭博(刑法185条)が行われても、少なくとも日本人搭乗員には刑法の適用がなく不可罰になります。

最近は宇宙旅行が現実味を帯びてきましたが、並行して、法の適用がどのようになるのかを規定していかないと、例えば宇宙旅行中に旅行者間で賭博をしたり、国民が勝手に宇宙にカジノを作っても刑法の適用が無いなど、後から問題が生じることが増えていくことでしょう(“宇宙カジノ”という響きは魅力的に聞こえるかもしれませんが…)。

アメリカでは刑法の国内犯規定をISS内でも適用させるように、30年以上も前に刑法を改正しています。日本はえてしてこのような動きが遅いので、その行為が合法なのか違法なのかを明確にするという意味でも、想像力を働かせてどんどん法律を整備していく必要があると思います。日本は仮にも宇宙先進国の一つに数えられているので、世界にアピールする意味でも、今後の法整備を期待しています。