1024日に厚生労働省は企業などがデジタルマネーで給与を従業員に支払えるよう規制を見直す方針を固めたとのニュースがありました。従業員に支払う給与を、銀行口座を通さずに、プリペイドカードやスマートフォンの資金決済アプリなどに送金できるようにするそうです。(日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36868440U8A021C1MM8000/

 

最初に法的な原則論を整理しますと、従業員に対して支払う給与(賃金)については、「通貨」によって支払わなければなりません(通貨払の原則:労基法第24条第1項)。
「通貨」とは、我が国に強制通用力のある貨幣及び紙幣を意味しており、要は日本円の硬貨と紙幣(日本銀行券)で支払わなければならないということになります。
ちなみに「通貨」には外国通貨は含まれませんので、会社が一方的に「今日から給与はドルで支払うことにした」と言って給与をドル払いにすることはできません。

以上が原則論で、これを修正する例外が3パターンあります(労基法第24条第1項但書)。

①法令に別段の定めがある場合

②労働協約に別段の定めがある場合

③(確実な支払の方法として)厚生労働省令で定める場合

①法令に別段の定めがある場合
まず1つめの、法令に別段の定めがある場合ですが、今のところここでいう「法令」は存在しないので、特に問題にはなりません。

②労働協約に別段の定めがある場合
次に2つめの、労働協約に別段の定めがある場合について、労働協約とは、労働組合と会社との間の書面で締結される協定のことをいいますが、労働組合がない会社では、労働協約によって通貨払いの原則を修正することはできないので注意が必要です。

③厚生労働省令で定める場合
最後に3つめの、厚生労働省令で定める場合ですが、これが冒頭で挙げたニュースの話です。
現在では厚生労働省令(労働基準法施行規則第7条の2)によって、労働者の同意があることを前提に、給与を金融機関口座に振込むことが可能となっています。
なぜこれが通貨払の原則の例外なのか?というと、給与の振込みでは、厳密に言えば、労働者は通貨そのものを受領できるのではなく、金融機関に対する預金債権を取得することになるので、通貨払の原則の例外になるのです。
金融機関口座への振込みでも、確実に労働者の手元にいくので、それなら許容しましょうという価値判断です。

 

今回厚生労働省は、これを更に拡大して、従業員に支払う給与を、プリペイドカードやスマートフォンの資金決済アプリなどにも送金できるようにするそうです。
これは昨今の労働者人口の減少に伴う外国人労働者の受け入れをみると、必然的な流れではないでしょうか。

ただし、この記事によればこの手続きの利用ができるのは、デジタルマネーを手数料無しで現金化できることが条件となっていますが、現在のところ(銀行所定のプリペイドカードを除けば)デジタルマネーを現金化するのは難しいと思いますので、実現のためには今後インフラが整備される必要があります。

とはいえ今後銀行口座を間に入れずに給与の振込みができるようになると、外国人労働者にとって働きやすくなるでしょう。
給与の現金払いでは安全面の心配や、確実に給与を支払った証拠を確保するためにも、最近では給与の銀行口座への振込が一般的になってきましたが、銀行口座を外国人が開設しようとすると大変です。短期滞在(90日以内)の場合は開設できないですし、長期滞在ビザを持っていたとしても、日本での滞在期間が6ヶ月未満の場合は開設ができないなどハードルが高いですが、銀行口座が不要となると、外国人労働者でも給与の支払いを受けることが容易になります(今後は併せて就労ビザの拡大も行われていくと考えられます)。

デジタルマネー決済の昨今の状況をみると、クレジットカードや電子マネーの利用のみ(現金不可)の店が出てきたり、病院の診療費の支払いに電子マネーの利用ができたり、経済産業大臣がクレジットカード会社に対し手数料の引き下げを要請する考えを示したりするなど、デジタルマネー決済の推進(キャッシュレス化)の流れに入っています。
このままキャッシュレス化が拡大すれば、上記のデジタルマネー現金化の条件もなくなるのではないでしょうか。

ちなみにアメリカでは、既に「ペイロールカード」というものがあって、会社は銀行を介さずに直接このカードに入金し、従業員はこのカードでショッピングをすることが可能になっており、日本の一歩先を行っています。
ただし、アメリカではペイロールカードの現金引出しの際の手数料について批判がされているので、厚生労働省はこの批判を避けるために、今回あらかじめデジタルマネーを手数料無しで現金化できることを手続利用の条件にしているのではないでしょうか。

今回のデジタルマネーによる給与支払いは、外国人労働者受け入れの布石となることでしょう。