最近では、リクルートグループやソフトバンクグループ等、従業員の副業を解禁する企業が増えてきました。なかには副業を推進するような先進的な企業もあります。
とはいえ、これらの企業はあくまでも例外であって、まだまだ就業規則において、他の業務に従事することを禁止する兼業禁止規定や、他で就業することを禁止する二重就職禁止規定(以下、併せて「兼業禁止規定」といいます。)を設けている会社が多くあります。
使用者としては自社の職務に専念して欲しいと考える理由から兼業禁止規定を設けている場合が多いですが、一方で、本来、就業時間以外のプライベートな時間をどのように使うのかは従業員の自由であり、兼業禁止規定のような就業時間外においても使用者の拘束を及ばす規定はいかがなものかとも考えられます。

 

古くから兼業禁止規定は、「他の継続的雇用関係に入り、余分の労務に服することとなるとその疲労度は加速度的に加わり、従業員たる地位において要請される誠実な労務に服することができなくなる」ことを理由に有効と考えられてきました(大阪地判昭321113日・労民集86807頁)。
もっとも、近年ではこの理由だけではなく、「兼業」を行うことによって、①会社に対する業務提供に支障をきたすと考えられる場合や、②会社の対外的信用や体面を傷つける可能性がある場合においては、就業規則によって使用者の許可制とすることが肯定されています(京都地判平24713日・労判105821頁等)。

 

しかしながら、労務提供が不完全であれば、人事考課でマイナス評価をすればいいし、労務を誠実に提供する義務の違反や、勤務成績不良や勤務態度不良を理由として懲戒処分を検討すればいいと思います。また、会社の対外的信用や体面を傷つける可能性などは、そのようなことがあって初めて企業の信用毀損を理由とした懲戒処分を検討すればよく、前もって兼業禁止規定を設けておく合理性に乏しいと考えます。

 

また、時間外労働の際の割増賃金支払い義務に関して、実務上、不合理な解釈・運用がなされていることも、兼業禁止規定が今もなお続いている理由にもなっているでしょう。
すなわち、使用者は、原則として、1日の労働時間が8時間を超えるか、1週間の労働時間が40時間を超えた場合には、その時間外の労働時間に応じて割増賃金(0.25倍等)を従業員に支払わなければなりません(労働基準法第37条等)。

実務上、この時間外の労働時間については、異なる使用者に雇用される場合においては各使用者下での労働時間を合算するとされており、「後で労働者と労働契約を締結した使用者」が割増賃金の支払義務を負うとされています(労働基準局長通達「昭和23514日基発769号」、厚生労働省「副業・兼業の促進に関するガイドライン」Q&A https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000193040.pdf)。

 

これはどういうことかというと、元々A社で働いていた方が、B社で兼業することになった場合、A社で月~金の5日間合計40時間労働し、土日にB社で18時間ずつ労働したとします。この場合には、B社で労働した土日の16時間は、全て時間外労働として扱われてしまい、B社はこの労働者に割増賃金を支払わなければならないことになります。

A社で働いているのを隠してB社に入社し、「実はA社で働いていたので割増賃金を支払って欲しいです」と言われて、さらに利息(年6%。商法第514条)まで請求されては困りますし、割増賃金支払義務違反(労働基準法第119条第1号)があると労基署に駆け込まれてはかないません。
時間外労働について、このような運用がされてしまっているのでは、兼業を禁止したいと会社が考えてしまうのも無理はありません。

 

そもそも兼業禁止規定は、それこそ労働者が一つの会社に骨を埋めることができる終身雇用制度・年功序列制度が維持されており、いわば会社=家とも考えられていた時代ならともかくとして、これらの制度が崩壊したと言われている昨今において、この兼業禁止規定を維持することの合理的な説明は難しいと思います。
定年まで安定して勤め上げることが難しいのであれば、従業員としても他でスキルを身に付けたいと考えたり、もしものために他でも収入を確保したいと考えてしまうのは必然的な流れかと思います。

 

時間外労働の不合理な運用が改められることもそうですが、今後は、雇用の流動性を覚悟し、むしろ他社や他業種で身につけたスキルやノウハウを、(秘密保持義務の範囲内で)会社で発揮してもらうことで、シナジーを期待するほうが時代に合っているのかもしれません。今後も動向に注目したいと思います。