主に債権法部分が改正された新民法が令和2年(2020年)41日に施行されます。

 

現行の民法では、債権一般についての消滅時効の期間は10年ですが(第167条第1項)、債権の種類等によっては消滅時効の期間が3年や2年、あるいは1年と異なっており(第170条~174条)、非常に複雑なものとなっています。

 

今回の民法改正によって、これらの消滅時効の規定が整理され(第170条~174条が削除、5年の消滅時効を定めた商法第522条も削除)、新民法では、債権については原則として、

①債権者が権利を行使することができることを知った時から5

又は

②権利を行使することができる時から10

で時効消滅すると定められました(新民法第166条第1項)。

 

現在のところ、残業代支払請求権や有給休暇の請求権等の労働債権は、民法の特別法である労働基準法によって、2年間の消滅時効にかかることになっていますが(第115条)、今回の民法改正に合わせて、今後労働基準法が改正され、この労働債権の消滅時効も5年間になる可能性があります。

この点に関しては、厚生労働省において「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」において検討されていますが、まだ結論が出ていないところです。

 

元々、給料の支払いに関する債権は、現行民法において、債権一般の消滅時効10年を修正して、短期消滅時効として1年と定められており(第174条第1号)、それでは短過ぎるということで、さらにこれを労働基準法によって2年間に延長したという経緯ですので(第115条)、2段階の修正がなされています。

このような経緯に加えて、今回の民法の消滅時効を整理した趣旨は、適用の誤りや規定の見落としの危険、また短期消滅時効の債権に類似する債権との間の不合理性等が指摘されていたため、消滅時効期間を統一して短期消滅時効を廃止したということです(筒井健夫編「民法(債権関係)改正」(商事法務)53頁)。

 

これらのことからすれば、労働債権に関しても区別せずに一律に(少なくとも)5年の消滅時効とするのが論理的な帰結であると思います。

労働債権の消滅時効が5年間となると、実務上大きく影響が出るのが、残業代支払請求権と、有給休暇の請求権です。

今までは残業代支払請求権が2年分だったのが、(単純に計算すると)2.5倍の金額となり、有給休暇の請求権も5年分になりますので、いきなり労働債権の消滅時効が5年となると、金額や対応面だけでなく、人事労務管理のシステムの改変も必要となり、企業側へは大きなインパクトとなります。

 

とはいえ今の世の中の流れは、確実に労働者保護に傾いてきていますので、民法の改正と合わせた令和2年(2020年)には間に合わないとしても、今後一定の経過措置を設けたうえで、労働債権の消滅時効も5年となるのではないかと予想しております。

この経過措置の間に、企業側としては、未払いの労働債権や有給休暇の精算等を行っていくことになろうかと思います。

 

良くも悪くも、我が国は外圧が無い限りドラスティックな改革が苦手ですので、なるべくソフトランディングな形として、経過措置を長めにとった上で、まずは大企業と中小企業とを分け、努力義務を混ぜ込みながら、徐々に改正を行っていくのだと思います。前記のとおり新民法は主観的な消滅時効(①)と客観的な消滅時効(②)の2つがありますので、この点については企業側に配慮して、分かりやすく、労働債権については「権利を行使することができる時から5年」となる可能性が高いのかなと予想しております。