今年の326日に、2016年に課長級の管理職として在職中に死亡した男性(当時42歳)に対する未払い残業代約520万円を求めた訴訟で、横浜地裁は、労働基準法で残業代の支給対象外となる「管理監督者」に該当しないとして、350万円余りの支払いを認める判決を下しました。(日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42964030X20C19A3CC0000/

 

労働基準法第41条には、労働者のうち、労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されないとされる労働者の種類が列挙されており、同条第2号にはいわゆる「管理監督者」について定められています。

「管理監督者」に該当する労働者に対しては、時間外や休日労働に関する賃金(以下「割増賃金」といいます。)を支払う必要はありません。

 

割増賃金の請求が問題になる事案においては、割増賃金の請求をされる側(企業側)の反論として、そもそもの労働時間の算定方法の反論の他に、管理監督者に該当することの反論(割増賃金の支払は不要である等)をすることがあります。

 

実務上は、管理監督者に該当するかどうかは、裁判例及び行政通達(昭和63.3.14基発150号)に基づき、以下の3つの要素を総合考慮して判断されています。

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮命令権限を有するなど経営者と一体的な立場にあること

②自己の出退勤を始めとする労働時間について自由裁量があること

③一般の従業員と比較して、その地位と権限にふさわしい賃金上の待遇を与えられていること

 

もし上記①と②に該当していれば、労働者とはいってもむしろ経営者側として労働者を管理する立場にあり、また労働時間にも自由裁量があるので、労働時間の規制を適用するのが適当ではないという価値判断に傾きます。

 

もっとも、要素③についてですが、そもそもこの賃金要素は労基法上に規定されているわけではないですし、仮に賃金が一般の従業員と比較して高かったとしても、労働時間の規制の適用とどう関係があるのか疑問です。経営者性の判断の補強要素になるのでしょうか?それとも賃金上の高待遇を受けているのであれば、割増賃金ぐらい我慢しましょうよということなのでしょうか?

 

先に述べた日産自動車の事件では、男性の年収は1000万円を超えており、同社同年代の従業員の平均年収(約800万円)よりも高収入であったとのことですが、裁判所は、待遇は管理監督者にふさわしいが「経営の意思形成に対する影響力は間接的に留まる」として、同社の管理監督者性の主張を退けており、上記③の要素は重視されませんでした。

 

「管理監督者」性については、伝統的な3つの要素に拘らず、もっと言えば上記①及び②の要素のみを考慮したうえで、労働時間の規制を適用するのがふさわしいかどうかを判断するのが適当なのではないかと考えます。

 

今回のような裁判例が出てきており、残業を好ましくないとする最近の流れからしても、今後は上記③の賃金要素は、「管理監督者」性の判断において、実務上は重要な要素にはならなくなってくると予想しております。

 

確かに高年収の方に割増賃金を支払うとなると、基礎賃金が高い分、割増賃金額が高額になるので会社の負担が増えることになりますが、これからは高年収の方は経営者側に昇格させて、労働時間に裁量を与えるとか、残業をさせないようにワークシェアリングの発想を取り入れるとか、(使い勝手に疑問がありますが)高度プロフェッショナル制度を採用するとか、働き方だけでなく、「働かせ方」の転換期にきているのかもしれません。

 

割増賃金の問題は金額が多額になることが多く、実務上非常に重要ですので、今後も動向を注視していきたいと思います。