日本で登録している弁護士は、全国に52ある弁護士会のいずれかに必ず所属しており、一定の事由がある場合(「職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があったとき」)には、所属弁護士会から懲戒を受けるとされています(弁護士法第56条)。

 

懲戒の種類は、①戒告(弁護士に反省を求め、戒める処分)、②2年以内の業務停止(一定期間弁護士業務を行うことを禁止する処分)、③退会命令(弁護士たる身分を失うが、弁護士となる資格は失わない処分)、④除名(弁護士たる身分を失い、3年間弁護士となる資格も失う処分)の4つあり(弁護士法第57条第1項)、弁護士会が懲戒相当と判断した場合には、対象弁護士に対して、①~④のいずれかの処分がされることになります。

 

この懲戒請求は、誰でも行うことができ(弁護士法第58条第1項)、懲戒請求があると、まずは、弁護士会の「綱紀委員会」というところで事案の調査がされることになります。

綱紀委員会の調査の中で、対象弁護士は、調査のための説明や資料提出を求められたり、出頭を求められたりすることがあります。

 

調査の結果、綱紀委員会が、「懲戒委員会」の審査を求めるのを相当としたときは、次は、弁護士会の懲戒委員会が、懲戒を相当とするかしないかを判断します。

懲戒相当とされた場合には、上の①~④のいずれかの処分がされることになり、懲戒不相当とされた場合には、懲戒されずに終了することになります。

(厳密には、弁護士会で懲戒相当or不相当と判断された後、判断が不当だと思う場合には、審査請求や異議申出といった方法で日本弁護士連合会に再判断を求めることができます。)

 

 この懲戒請求制度に関し、昨年頃から、誰でも懲戒請求ができることを利用して、大量の不当懲戒請求を行った事案が取り沙汰されています。(同事件を取り上げたNHKの番組のページ:https://www.nhk.or.jp/gendai/articles/4200/index.html

 事案としては、在日外国人の排斥を主張するブログに影響を受けたブログ読者らが、在日コリアンの弁護士や、朝鮮学校への補助金を求める弁護士会声明に賛同したとされる弁護士、その弁護士に多数の懲戒請求書が届いたことを問題視するツイートをした弁護士等に対して、当該ブログに掲載されていた雛形を利用するなどして、大量の懲戒請求をしたというものです。(弁護士1人につき数百~数千通の懲戒請求書が届いたようです。)

 これらはおよそ懲戒事由に当たらないので、現実に懲戒がされることはありませんでしたが、懲戒請求を受けた弁護士らは、不当な懲戒請求への対応を余儀なくされ、損害を被ったとして、懲戒請求者らに対し、損害賠償を求める訴訟を起こしました。(報道によると、懲戒請求者の中には、匿名で懲戒請求ができると考えていた人もいたようですが、実際には、懲戒請求者の氏名と住所は対象弁護士に通知されます。)

 

 弁護士に対する懲戒請求については、本件以前に、最高裁判例(最判平成19424日民集6131102頁)が、「同項(注:弁護士法第58条第1項)に基づく懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合において、請求者が、そのことを知りながら又は通常人であれば普通の注意を払うことによりそのことを知り得たのに、あえて懲戒を請求するなど、懲戒請求が弁護士懲戒制度の趣旨目的に照らし相当性を欠くと認められるときには、違法な懲戒請求として不法行為を構成すると解するのが相当である。」との判断を示しており、一定の場合には不法行為となることが認められています。

 

 今回、懲戒請求の対象となった弁護士等が起こした裁判でも、基本的に弁護士側が勝訴しています。妥当な決着だと思いますが、このような反撃は、訴訟に慣れた弁護士が被害者であり、かつ、数百万円かかると言われている訴訟費用についてカンパが集まったからこそできたことなのだろうと思われ、そうでなければ、反撃を諦めざるを得なかった可能性も高いと思います。

 

 今回の事件は、誰でも利用できる制度だからといって、どのような使い方をしても良いわけではないということを改めて教えてくれるとともに、思いの外簡単に、多くの人が洗脳され、自分の生活に無関係の人間にでさえ集団で害意を向けることがある、という恐ろしい事実をも、改めて世に知らしめたのではないでしょうか。