「同一労働同一賃金」という言葉が出てきて久しくなってきていますが、この「同一労働同一賃金」の対象となる労働者は、パートタイム労働者や有期雇用労働者だけでなく、派遣労働者も含まれます。
今年の41日に、この派遣労働者の「同一労働同一賃金」を実現するための改正派遣法が施行されます。

 

従来から、派遣労働者と派遣先の正社員(※ここでは「無期雇用のフルタイム労働者」と定義します。)との待遇の不公平感が話題になっていましたが、今回の改正によって、派遣元企業は、①派遣先の労働者との待遇を均等・均衡にする改善方法(均等・均衡方式)(改正派遣法第30条の3)、②派遣元と派遣労働者との間の労使協定に基づく待遇の改善方法(労使協定方式)(改正派遣法第30条の4)のどちらかを選択できるようになりました。

 

改正派遣法は、実際に働いている派遣先の正社員と比較すると出てくる不公平を是正するために改正されたものなので、派遣労働者が派遣先の正社員と同じ働き方をするのであれば、均等・均衡方式(①)が原則という立て付けになっています。
しかし、それだと大企業に派遣される場合は正社員との均衡待遇で給与が高くなる一方で、中小企業に行った場合は給与が下がってしまうので、給与が不安定になる等の理由で特例として労使協定方式(②)を認めています。
ただし、給与を派遣先に合わせる手間や、「なるべく自社の賃金データは開示したくない」という派遣先の事情から(労使協定方式だと情報提供義務が緩和されます。改正派遣法施行規則第24条の4参照)、多くは労使協定方式になると言われています。

 

さて、労使協定方式にする場合には、「その地域の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金」と比較して、同等以上の賃金になるようにしなければならないとされています(改正派遣法施行規則第25条の9)。
そのため、労使協定方式にする場合でも一定水準以上の賃金確保が必要となり、派遣元企業は従来の派遣料金を維持することはできず、派遣料金の値上げは必至です。
なお、大手人材派遣会社は今年の4月以降、派遣料金を12割値上げするとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54305270Q0A110C2MM8000/

 

こうなると、派遣料金の値上げに対応できない派遣先企業は、派遣労働者の受入れを減らすことになるため、結果的に派遣元企業による派遣労働者の雇用維持が難しくなるのは目に見えています。
ただでさえ無期雇用転換の回避のために、派遣労働者の雇止めが増えてくるといわれているのに、ますます派遣労働者の立場は不安定になると考えられます。
ただし優秀な派遣労働者の場合には、今回の改正派遣法をきっかけに派遣先企業から直接雇用のオファーがあるかもしれません。

 

こう考えると、派遣労働者の格差是正のためという理由で施行される今回の改正派遣法ですが、実力のある派遣労働者は派遣元企業に残ることができ(又は派遣先企業から直接雇用のオファーがあり)、他方でそうではない派遣労働者は居場所がなくなるおそれがあるので、結果的に実力主義が促進され、派遣労働者全体の保護には繋がらないでしょう。

 

日本の派遣制度は、派遣先の正社員よりも待遇面で立場が下になるような制度になってしまいましたが、もしかしたら当局としては、派遣法を改正することによって、派遣先企業の正社員以上に実力のある労働者又は専門的能力を持った労働者を派遣するという、アメリカのような派遣制度にシフトしていきたいのかもしれません。

 

以上のような改正派遣法に加え、近年では派遣会社は従来の届出制から許可制に変わり、許可の要件としても一定の基準資産額が求められる等、派遣事業への維持だけでなく参入もどんどん厳しくなってきています。
こうなると当然、派遣元も派遣先も共に、派遣制度を回避する方法はないか?という頭になりますので、「偽装請負」が促進されてしまうおそれがあります。
この偽装請負をチェックするために、労働局は今以上に目を光らせ、面談や立入調査を増やしていくことになるでしょう。派遣と(偽装)請負の境界は曖昧ですので、調査も簡単ではなく、それに対応することになる派遣企業も大変です。

 

今回の派遣法の改正によって、派遣先企業としては派遣料の値上げにより派遣制度の利用が難しくなり、派遣元企業としては派遣制度を維持できる体力のある派遣会社とそうでない派遣会社の2極化が進むと予想されます。改正派遣法の施行で、派遣制度は大きな転換期を迎えることを余儀なくされるでしょう。