厚生労働省によれば、今年の521日時点で、新型コロナウイルスの影響によって新卒採用の内定を取り消された方が少なくとも98人いるとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASN5Q4GZBN5QULFA004.html

 

採用内定が会社から出ると、法的には、「始期付解約権留保付労働契約」が会社と採用内定者との間で成立したと考えられますので、条件付きとはいえ労働契約が締結された以上、いったん出した採用内定を、会社が自由に撤回できるということにはなりません。

 

実務上は、採用内定の取消事由となるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされています(最判昭54.7.20労判323-19)。

 

つまりは、採用内定者の態度が気に食わないなどの理由だけでは、採用内定を取り消すことはできません。
※採用内定を出す前の段階では、採用内定を出すかどうかについて会社に広範な裁量があるので、この程度の理由でも不採用にするということはよく聞く話です。

 

採用内定の取消事由となり得る主なケースは、以下のようなものがあり、採用内定時に署名する誓約書や承諾書に、これらが採用内定の取消事由になると具体的に記載されていることが多いです。企業側の観点からすれば、取消しの有効性に関わってきますので、できるだけ解約権の行使事由を明記しておくことは重要です。

 

・採用内定者の提出書類に虚偽記載(学歴詐称等)がある場合

・大学を卒業することができない場合

・身体又は精神の故障によって予定入社日からの就労の見込みがない場合

・会社の経営難等のやむを得ない事由がある場合

 

今回の新型コロナウイルスの影響による採用内定の取消しは、「会社の経営難等のやむを得ない事由がある場合」を理由にしているものと考えられますが、経営難を理由として採用内定の取消しを行うには、「いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する…4要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである」という裁判例があります(東京地決平9.10.31。※中途採用の裁判例)。

 

整理解雇の有効性の判断基準は厳格な基準ですが、採用内定の取消しは、採用内定者の他社就労の機会を奪っており、採用内定者の今後の生活・キャリアにも関わってきますので、慎重な判断が求められるべきという基準は適当であると思います。

 

したがって、今回の新型コロナウイルスの影響による経営難も、単に経営の見通しが不安等の漠然とした理由ではなく、具体的な数字に基づいて、きちんとした根拠を示せないと、採用内定の取消しは認められないと考えられます。

 

なお、内定取消・入職時期の繰下げにあった方のために、厚生労働省が4月から特別相談窓口を設置していますので、下記URLをご参照ください。
※厚生労働省「新卒者内定取消等特別相談窓口」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000193580_00003.html