昨年10月のオリンパスのウッドフォード社長解任や、今年2月のTSIホールディングスの中島社長解任のように、取締役会において代表取締役を突然解任してしまうことがよくあります。
 
たいていの場合、反現代表取締役派(以下「反社長派」といいます。)が事前に多数派工作を根回ししておき、取締役会の冒頭で、「代表取締役解任の動議を提出します!」などと動議を出して(なお、社長自身は、特別利害関係人のため、自分を解任するか否かの決議に加われません。)あまり審議もしないで速やかに決をとって解任してしまい、続いて直ぐに新しい代表取締役を選任するという手続がとられます。
 
この場合、ちょっとうっかりしがちなのが、取締役会の議事を事前に各取締役に通知することを定める定款や取締役会規程との関係です。すなわち、多くの会社では、定款や取締役会規程の中で、取締役会開催の37日前までに会議の目的事項を記載した招集通知を各取締役に送付しなければならないとの規定が存在するため、その通知の中に記載されていない代表取締役解任を議題とすることができるかが問題になるのです。
 
この点について、江頭憲治郎「株式会社法 第4版」(有斐閣、201112月)391頁の注10には、
 「定款・取締役会規程等に取締役会の招集通知は会議の目的を記載した書面で行う旨定められていた場合でも、招集通知に記載のない事項を審議・決議することは、本文記載の取締役会の制度趣旨に鑑み、当然に違法とはならない(名古屋高判平成12.1.19金判108718頁〔代表取締役の解職〕〔中略〕)」
と記載されており、我々の業界では、ほぼ決着のついた問題であると理解されています。つまり、単に定款や取締役会規程に、取締役会を開催するには、事前に議題を記載した招集通知を送付することが必要と規定されていても、招集通知に議題として記載されていなかった代表取締役解任の動議が提出されれば、取締役会はこれを審議することができるのです。
 
しかし、定款又は取締役会規程に、単に事前に議題を通知することが必要であると書いてあるにとどまらず、招集通知に記載された議題しか審理できない(つまり積極的に禁止する)と規定されていた場合はどうなるでしょうか?

実は、このように踏み込んだ規定があるときに、代表取締役解任の動議が出せるか否かを論じている文献はあまりないようなのですが(私が単に知らないだけかもしれません。)、おそらく、このような場合にまで取締役会が審議できるという結論にはならないと考えられます。
なぜなら、会社法の強行法規性には議論があるところですが(前掲・江頭『会社法』5354頁参照。)、取締役会の招集手続を定める会社法第366条~第368条を見ても、定款で、事前に通知された議題しか取締役会で審議してはならない、と定めることを禁止しているとまでは読むこと(解釈すること)はできないと考えられるし、後述のように、このような定款の定めにも、一定の合理性が認められると考えることができるからです。
 
前述の江頭「会社法」391頁の注10が引用する名古屋高判平成12.1.19金判108718頁は、取締役会規程に、「取締役会の招集通知をする場合には、開催日時、場所及び会議の目的事項を記載した書面をもってすべきことを要求している」ケースですが、判旨は、代表取締役の解任決議を有効と判断するにあたり、〔上記のような取締役会規定の条項のみでは〕「取締役会において右招集通知に記載されていない事項について審議又は決議することを禁じているものと解することは出来ない。」と述べているので、定款又は取締役会規程で、あえて招集通知に記載されていない事項について審議及び決議することを禁じる条項を設けた場合については、この判決の結論は適用されないと考えることができると思います。
 
最近、私個人としては、この問題がちょっと気になり出しています。というのは、このところ、日本の上場会社に社外取締役の設置を義務付けようという議論がされていますが、社外取締役というと、少なくとも理屈上は、会社内の社長派とか反社長派のいずれにも属さない人が多いのではないかと思うので、取締役会に行ったら、いきなり一方の派閥から代表取締役解任の動議が出て、訳がわからないうちに決議されてしまったということになると、株主に対する責任を果たすことができず、困るのではないかと思うからです。
 
さらに言うと、米国や英国のように、上場企業のボードの過半数を社外の者が占めるような制度を構築する場合、取締役会では、あまり社内の細かいマネジメントのことは議題としてふさわしくなくなり、株主の代表者として、会社の経営が株主価値を増大させるものであるかという大きな方向性のチェックというものが主なものになると考えられますし(したがって、一刻を争うほど「機動的」である必要は小さくなります。)、また、普段、社内にいない人たちの会議ということになるので、事前準備というものが今よりも重要なものになると考えられるからです。
 
したがって、結論としては、定款等で、事前に通知されていない議題を決議することはできないと規定したら、それを認めてあげる必要があると思うのですが、いかがでしょうか。