先日、このメルマガの読者の方から、共有不動産の地権者数の数え方について質問がありました。
ご承知のとおり、土地区画整理法第130条第1項には、宅地の共有者は、「併せて一の所有者とみなす。」と書かれていますので、例えば、ABC共有の土地がある場合には、一人と数えることになりますが、A、B、Cがそれぞれ単独で他に土地を有していたり、BC共有の土地がある場合にはどう数えるのか?という問題です。
A B C ABC BC
この場合、2通りの考え方があり、
① 共有者全員が他に単独所有の土地を持っていれば、独立してカウントする必要なし
⇒ 上記はA、B、Cの3人と数える
② 法130条1項により、共有の場合は、あくまで一人としてカウントするのだから
⇒ 上記はA、B、C、ABC、BCの5人と数える
上記①は、土地区画整理審議会委員の選挙における共有者の選挙権の取扱いについて国土交通省の土地区画整理事業運用指針Ⅴ-1の3(3)(https://www.mlit.go.jp/common/001052004.pdf)に記載されているカウント方法で、実務的には、こちらの運用が多いと思います。しかし、ご質問いただいた方によると、比較的経験年数の多い古参の社員の中には、上記②のように考えている方も実際にいるとのことです。
では、どのように考えるべきでしょう?
まず、実務家としては、国土交通省の見解である上記①の考え方に従うべきでしょう。法律は、科学ではなく、人間が決めたルールに過ぎないので、誰が言っているかが非常に重要です。私が調べた限り、この問題について、裁判所の見解や有力な学者の見解はないようですので、国土交通省の見解に従っておくのがもっとも安全でしょう。
次に、実質的に考えてみても、上記①の考え方のほうが適当かな、と思います。というのは、この問題は、実は、法130条1項の解釈の問題というよりも、どのような基準で「名寄せ」をすべきかという「名寄せ」の問題で、土地区画整理法自体は明確には定めていません。したがって、設問のような場合を3人としてカウントするのが適当か、5人としてカウントするのが適当か、という価値判断の問題でもあります。
この点、考えてみると、土地区画整理法では、組合員は施行地区内に数筆の土地を有していたとしても、一票しか持たないのが原則です(土地区画整理法38条1項)。つまり、施行地区内にどんなに多くの土地を有していたとしても、議決権としては、小さな土地しか有しない地主と同じ権利(一票)しか有しません。大地主にとっては酷なような感じがしますが、法律の定めはそうなっているのです。
そうすると、たとえば、
A B A B
という土地の場合には、議決権数としては、名寄によりAとBの2名になります。
これとの比較により、
A B AB
という場合、名寄によりAとB2名と考えるのが良いのか、名寄せをしないでA、B、AB 3名と考えるのが良いのかの問題となります。単独で所有権を有していても名寄せされられてしまうのだから、共有で有していても名寄せするのがバランスとして宜しいのではないでしょうか。②のように考える人は、AとBの共有となった場合には、AでもBでもない、Xになるのだ、と考えるのだと思いますが、実際には、いくらAとBが協議しても、AとBとは違うXになるのは稀なのではないかと思います。
他方、
A B ABC
の場合には、Cが単独で土地を所有しておらず、共有の土地以外でCの意見表明の場もないので、この場合は、3人と考えてよいのでしょう。
問題なのは、
A B AC BC
というバターンです。
この場合、①の考え方でも、Cが他に単独所有の土地を有していないので、A、B、AC、BCの4名になりますが、Cの意見表明の場がACとBCの2つもあるようにみえますので、少々問題があるように思います。実際、ある組合で、このパターンを悪用され、単独所有地を持たない第三者と共有にすることで、事業反対派のたくさんの票を作り出され、大変苦労したことがあります。
ただし、②の考え方では、単独所有地があっても名寄せがされないので、さらに悪用されることになりますし、そもそもこの問題は「キメ」の問題というところがありますので、多少の弊害が生じるのはやむを得ないのでしょう。
というわけで、実務的には、①の考えで運用するのが適切だと思います。