1. 
既にネットのニュースなどで大きく取り上げられているので、ご存知の人が多いと思いますが、野村ホールディングス株式会社の平成24627日開催の予定の定時株主総会における株主提案の内容が少々変わっております。

ネットで検索すれば、同社の招集通知自体を見ることができるので、興味のある方は、直接招集通知をご覧になることをお勧めしますが、簡単に紹介させていただくと、この株主は、野村ホールディングスの商号を「野菜ホールディングス」へ変更することをはじめとして、100個の提案を行い、そのうち「株主総会に付議するための要件を満たすもの」として、第2号議案から第19号議案までの18議案が招集通知に記載されています。


正直に申し上げると、あまりまじめに考えたとは思えないような提案があり、例えば
 


3号議案 定款一部変更の件(商号の国内での略称および営業マンの前置きについて)

提案の内容:当社の日本国内における略称は「YHD」と表記し、「ワイエイチデイ」と呼称する。

営業マンは初対面の人に自己紹介をする際に必ず「野菜、ヘルシー、ダイエツトと覚えてください」と前置きすることとし、その旨を定款に定める。

提案の理由:「社を挙げた意識改革」を求めて提案する。

貴社の現在の称号は長すぎて、著しく業務効率を悪化させている。17のモーラがあれば俳句も詠めようというものだ。これから三菱東京UFJ銀行の支配下に入りでもしたら、野菜證券は三菱UFJモルガンスタンレー野菜證券となってしまうのではないかと考えると今から悩ましい。

ただ、まあこの変更によって当面年間のべ1000人日の人件費を節約することができる。


12号議案 定款一部変更の件(日常の基本動作の見直しについて)

提案の内容:貴社のオフィス内の便器はすべて和式とし、足腰を鍛練し、株価四桁を目指して日々ふんばる旨定款に明記するものとする。

提案の理由:貴社はいままさに破綻寸前である。別の表現をすれば今が「ふんばりどき」である。営業マンに大きな声を出させるような精神論では破綻は免れないが、和式便器に毎日またがり、下半身のねばりを強化すれば、かならず破綻は回避できる。できなかったら運が悪かったと諦めるしかない。


13号議案 定款一部変更の件(取締役の呼称について)

提案の内容:取締役の社内での呼称は「クリスタル役」とし、代表取締役社長は代表クリスタル役社長と呼ぶ旨定款に定める。

提案の理由:取締役という言葉の響きは堅苦しい。また昨年の株主総会で気がついたのだが、取締役会では支配下の子会社の業績に関して全く取り締まっている様子がない。トマト栽培が儲かっていないという報告があった場合、取締役会では「なぜ儲からないのか」「どうやったら儲かるか」を諮らねばなるまい。しかし「利益はそれほど出ていません」で済ませるのは取締役会ではない。従って呼び方はいい加減なもので済ませることとする。


17号議案 定款一部変更の件(暦法について)

提案の内容:定款第21条に「定時株主総会は、毎年41日から3カ月以内に招集し」とあるを「定時株主総会は、毎年グレゴリオ暦協定世界時における41日および101日からそれぞれ3カ月以内に召集し」と改める。

提案の理由:太陰暦およびグリニッジ標準時に基づいて貴社社員が有給休暇を取得する事故を防ぐため。


などの提案があります。

(もっとも、第4号議案(報酬委員会の定める役員報酬の制限について)、第6号議案(取締役の責任軽減について)、第8号議案‐定款一部変更の件(役員報酬としてのストックオプション制度について)、第9号議案‐定款一部変更の件(増資の方法について)等は、個人株主であれば会社の方針について一言意見を言いたい箇所であり、それほど変な提案ではないと思います。)

2. この野村ホールディングスの株主提案を見て、少々衝撃的だったのは、このような提案も、要件を満たす株主から請求があれば、招集通知に議案として記載し、総会に諮らなければならないことです。頭の中では理解していましたが、実際にこのような例を見ると驚きというか、会社側の弁護士として、ちょっと引いてしまうようなところがありますね。


3.
株主提案権についてちょっと復習してみると、株主提案権とは、株主が取締役に対し、一定の事項を総会の目的とすること、具体的には、①一定の事項を議題とすること、又は②議案の要領を招集通知に記載すること、を請求する権利です(会社法第303条第1項、第305条)。

全ての株主が行使できるというわけではなく、上場会社のような公開会社である取締役会設置会社の場合は、①総株主の議決権の
100分の1(これを下回る割合を定款で定めた場合にあってはその割合)以上の議決権又は300個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を、
6か月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主、
のみが行使できるとの制限があります(会社法第
303条第2項、第305条第2項)。

また、株主総会の日から
8週間前に請求しなければならないという請求の時期の制限もあります(会社法第305条第2項)。

さらに、上記の要件を満たす株主は何でも議題にすることができるというわけではなく、株主総会の決議事項(会社法第295条)に含まれ、かつ、当該株主が議決権を行使できるものでなければならないし(会社法第303条第1項)、実質的に同一の議案について10分の1以上の賛成を得られなかった総会から3年を経ていないときはこの権利の行使は認められません(会社法第305条第5項)。


4. 
しかし、今回のように定款変更にかこつけて提案されたのでは、株主総会の決議事項ではないということは難しいので、原則として、何でも提案できてしまいそうです。ただ、第12号議案(和式便器についてのもの)のような議題は、一見しておかしいと思われるので、権利濫用と判断して招集通知に載せないという判断もあり得たのでは?と思われます。しかし、実務ではコンサバに考えることになるので、広く招集通知に載せざるをえなかったのでしょうね。
いずれにしても、会社側の法務をやっている者としては、あまり嬉しくない前例ですね。

参考: 
(株主総会の権限) 
  会社法第295条  
株主総会は、この法律に規定する事項及び株式会社の組織、運営、管理その他株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる。
 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、株主総会は、この法律に規定する事項及び定款で定めた事項に限り、決議をすることができる。
 この法律の規定により株主総会の決議を必要とする事項について、取締役、執行役、取締役会その他の株主総会以外の機関が決定することができることを内容とする定款の定めは、その効力を有しない。