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このブログでも既に取り上げましたが、最高裁は、本年1月に、専ら節税目的の養子縁組であっても直ちに縁組意思がないということはできないとの判決を出しました。

事案は、亡きAの長女X1と二女X2が、Aの長男Bの息子(Aの孫)Yに対して、AYとの養子縁組は、民法8021号の「当事者間に縁組をする意思がないとき」に該当することを理由に、養子縁組の無効確認を求めたものです。

一審は、縁組意思はあったと認定し、控訴審は、縁組意思はなかったと認定しています。

最高裁では、次のとおり判示して、Yを勝たせました。つまり、縁組意思はあったと認定したわけです。

「養子縁組は、嫡出親子関係を創設するものであり、養子は養親の相続人になるところ、養子縁組をすることによる相続税の節税効果は、相続人の数が増加することに伴い、遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。したがって、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに養子縁組について民法802条にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない

 そして、前記事実関係の下においては、本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく、「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」

(私の感想)

1. 本件のケースについて、最高裁は、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」と言っていますが、控訴審における本件の事実認定を見ると

(1) 
本件の養子縁組は、Aの妻が亡くなった直後に、BBの妻及びBの税理士がAの自宅を訪問して、Y(約1歳)と養子縁組することによる節税メリットについて説明し、それを受けて行われたものであること

(2) 養子
縁組以降、AYは同居しておらず、面会することもなかったこと

(3) 
Bはクリニックの院長を務める医師であり、資産も保有し、Yを養育できない環境にはないこと

などが認定されていますので、一般人の感覚からすると、「本件養子縁組について、縁組をする意思がないことをうかがわせる事情」は「あった」ということになるのではないでしょうか。

2. 
また、最高裁は、「相続税の節税のために養子縁組をすることは、このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず、相続税の節税の動機と縁組をする意思とは、併存し得るものである。」というのですが、この「併存しえる」という部分を重視すると不都合な結果が出てくるのではないかと思います。
 例えば、過去の判例で、縁組意思がないと判断されているものを挙げると、

(1) 
旧法のもとで去家を禁止されていた法定推定家督相続人である女子を他家へ嫁がせるための便法として、他の男子を一時養子とするいわゆる借養子縁組(最判昭和23.12.23民集2-14-493

(2) 
戸主や嗣子に与えられていた兵役免除を目的として二男以下の者が養子縁組をする兵役養子(大判明治39.11.27刑録12-1288)

(3) 芸子家業をさせることを目的とするいわゆる芸子養子(大判大正11.9.2民集1-448

(4) 
女子の婚姻に際し家格を引き上げるためにされる仮親縁組(大判昭和15.12.6民集19-2182

などがあるようなのですが、これらの判例の中に現れた様々な動機部分と縁組意思は「併存しえないか?」と言われると、どのような動機であれ、真に親子関係を創ろうという意思は持ち得るのですから、「併存しえる」と言えなくもないでしょう。

4. で、縁組意思の学説は、大雑把に、次のようなものがあるようですが、いずれも判例の立場を統一的に説明できないようです。

(1) 
実質的意思説
  
習俗的標準に照らして親子と認められるような関係を創設しようとする意思

(2) 
形式的意思説
  
縁組の届け出をしようとする意思

(3) 法
律的定型説
  民法上の養親子関係の定型に向けられた効果意思

5. 
そこで、この判例を契機に、つらつらと考えてみましたが、判例の立場は、次のように説明できるのではないでしょうか(自分ではオリジナルな意見ではないかと思っていますが、それは浅学なだけで、既に同じようなことを言っている人がいるかもしれません。
 
すなわち、日本の場合、養子縁組は、(特別養子縁組の場合を除き)当事者の意思で自由にできます。役所に養子縁組届を提出するときも、実質的意思説がいう「真に親子として認められるような関係を創設しようとする意思」があるかどうかなんて確認されません。形式的に記載事項がきちんと書かれているかチェックされるだけです。したがって、制度的に本来の養子縁組制度の趣旨から逸脱した様々な届け出がなされることになります。それを裁判所でいちいち無効などと判断していては、社会的にかなりのコストがかかってしまいますし、大変な混乱が生じるおそれがあります。したがって、裁判所のスタンスとしては、(実質的意思説を採用しているなどと思わせつつ、実際は形式的意思説的に)縁組意思を広く有効にできるように運用しつつ、その時代、時代で、どうしても認めることができないようなもの(その時代の公序良俗に反するようなもの)だけを縁組意思を無効とするというものではないでしょうか。

6. 
で、冒頭に戻って、節税目的の縁組についてですが、先日のブログで触れたとおり、現在、節税目的の縁組はかなり広汎に行われており、ある調査によると5億円以上の相続財産があるケースの約4割で節税目的の縁組が行われていたとのこと。これを無効ななどと言うと、縁組無効確認の裁判が頻発して大混乱になる可能性があるので、最高裁としても、「併存しうる」などと変な理屈を持ち出して無効とは言えなかったのではないかと・・・・。幸いにして、この種の案件が問題となるのは相続開始後の相続人間であり、(一番事実を知っている)被相続人は亡くなっているので、死人に口なしで、多少無理があるとは認識しつつも「縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく」などと言いきってしまえばいいですしね(冗談です)。

7.
ただ、さらに翻って考えてみると、実際に行われている節税目的の養子縁組のケースで、当事者間に真に親子関係を作ろうとする意思などあるケースはほとんどないと考えられ、それなのに、縁組意思があるなどと言わなければならないのはやっぱりおかしいと思います。
 そこで、このような判断をせざるを得ない現行の制度自体を変えることはできないかしら。具体的には、当事者の意思で、ほぼ無審査でできてしまうというのはおかしいので、本当に親子関係を創ろうとする意思の有無を事前に裁判所なり公証人なりにチェックさせるような制度にできませんかね?

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遺言書を書いておく必要があるのはどのような場合かというと、法定相続の結論が、意図している結論とかなり違ってくる場合であると思います。

そのような場合として、子供のいない夫婦の相続が挙げられます。

子供がいない夫婦の場合、配偶者は常に法定相続人になりますが(民法890)、その他は、親がいれば親が(民法889Ⅰ①)、親がいない場合でも兄弟がいれば兄弟が法定相続人として登場することになります(民法889Ⅰ②)。
相続分は、配偶者と親の場合には、配偶者が3分の2、親が3分の1です(民法900②)。

配偶者と兄弟姉妹の場合には、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ということになります(民法900③)。

ところで、子供がいない夫婦で配偶者が亡くなった場合、夫婦の意思としては、(もちろん例外はあるとは思いますが、通常は)配偶者に全財産が相続されると思っているのではないでしょうか?

しかし、遺言がなく法定相続が行われたとすると、上記のとおり、亡くなった夫または妻の親や兄弟姉妹が出てくるのです。親や兄弟姉妹が物わかりの良い人で「私たちは相続財産なんていらないわ。」などと言って相続放棄をしてくれれば良いのですが、中には、自分たちにも法定相続分があるから、遺産をもらって何が悪いの!ということで権利主張をしてくる場合もあるでしょう。

したがって、子供のいない夫婦にとっては、お互いに自分の財産をすべて相手に相続させる旨の遺言書を書いておく必要性は非常に高いといえるでしょう。

もちろん、遺言書を作っても遺留分という権利は侵害できませんが、親の遺留分は相続持ち分の2分の1ですので(民法1028②)、遺産紛争が起きても解決が楽になりますし、兄弟姉妹には遺留分は認められていませんので(民法1028)、既に親が亡くなっていて、配偶者の他には法定相続人が兄弟姉妹しかいない場合には、遺言書を書くことにより、自分の財産をすべて配偶者に引き継ぐことができますね。

なお、遺言書を作るときは、のちのち変な争いにならないように、公証人役場で公正証書遺言を作るのがおすすめです。

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金融・商事判例2015915日号(№1474号)の「金融商事の目」は、本山敦立命館大学法学部教授の『遺言控除を憂う』という記事で、これもとても面白かった。

現在、自民党の「家族の絆を守る特命委員会」が検討している「遺言控除」の新設の問題点を検討している記事だ。

本山教授は、次の問題点を挙げている。要約すると次のとおり。

第1は、怪しからん相続人らが遺言控除を目的に自筆証書のねつ造に及ぶ可能性があるため、遺言控除が受けられる対象を公正証書遺言に限定することが考えられるが、民法の構成上、自筆証書遺言が遺言の原則形態と解されるので、自筆証書遺言を控除の対象外にするにはかなりの説明が必要となる。

2は、仮に遺言控除の対象を公正証書遺言に限定するとすれば、公証人は全国で約500名なのに対し平成26年度の遺言は104,490件で、公証人役場はかなりバタバタしていると推察されるから、遺言控除の導入により、公証人の執務が雑になり、公正証書の無効事例も急増することが懸念される。

3は、控除適用の基準時の問題であり、遺言控除制度が開始した日以後に作成された遺言書が対象になるのか(作成日基準)、それとも、遺言控除制度が開始した日以後に死亡した遺言者が対象になるのか(死亡時基準)についてであるが、遺言者の意思の尊重という観点から、作成日基準が適当ではないかとする。

4に、遺言控除の控除額が数約万円になると、相続税の納税義務者(遺言者)が遺言をするよう被相続人に迫るようになり、多数の遺言が飛び交い、却って紛争を誘発する可能性があるという。

私としては、第
1は、遺言の作成を促し、相続に関する紛争を未然に防ぐというこの制度の目的から、あまりこだわる必要がない(公正証書遺言が一番相続に関する紛争を未然に防いでいるように思えるので、これを促進しようとするのは適当だ。)、第2は、公証人になりたい人はたくさんいるし、遺言書の作成実務は既に固まっているのであまり心配はいらいない(公証人役場としては仕事が増えることはWelcomeなのでは?)、第3はキメの問題、第4もキメの問題で、それほど「憂う」必要はないのではないか、と思うのですが、いずれにしても考えさせてくれる良いコラムですね。

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今日(平成25年12月5日)の日経新聞の朝刊によると、

結婚していない男女間に生まれた婚外子(非嫡出子)の遺産相続分を法律上の夫婦の子(嫡出子)の半分とする規定を削除する改正民法が5日未明の参議院本会議で可決、成立した。

とのことです。
今年9月の最高裁の違憲判決を受けての措置ですが、一部の議員が「家族制度を否定するようなものだ」というようなことを言って、削除に否定的との報道も出ていたので、医薬品のネット販売に関する最高裁判決や、一票の格差に関する最高裁判決のその後の動向と並んで、大丈夫かな?と心配しておりました。司法に携わる者として、憲法の定める「三権分立制度を否定するようなもの」にならなくて、ちょっとホッとしました。

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カウンタック


ランボルギーニ・カウンタック
@自動車博物館(河口湖)
我々の子供のころに、子供達の間でスーパーカーブームが起こりましたが、その時の中心的なスーパーカーがカウンタックでした。とても懐かしい。(本文とは全く関係ありません。)




先日、相続の話題を書いたので、もう一題。
 

遺言書を書こうとすると、どの財産を誰にどう分けるのかで悩むことになります。
これは、「全て」の財産について誰にどう分けるかを考えるから悩むのであって、特定の財産に限ってみれば、「この財産は長男に相続させたい」とか、「この財産は○○さんに遺贈したい」というふうに、比較的容易に誰に相続させるかを決めることができるのではないでしょうか。

そこで、遺言書を書くハードルを低くするために、特定財産についてだけの遺言書というものを提案することがあります。

例えば、特定の不動産については長男に相続させる、又は○○さんに遺贈する、という条項を設け、それ以外の財産については、法定相続分に従い法定相続人に相続させる(もちろん、長男に特定財産を相続させたときは、その財産も法定持分の計算の際にカウントされます。)とするのです(もしくは、残りの財産については何も触れない。)。


弁護士がアドバイスしている案件では、もちろん全ての財産について、(遺留分や相続税などにも配慮しつつ)もれなく分けるような遺言書を作成するのが理想ですが、諸々の事情により、全ての財産を把握できない場合もありますし、特定の財産以外の遺産の分け方は相続人間にまかせたいという場合もあります。そのような場合でも、遺言書はないよりもあった方が良いですので、(クライアントにリスクを説明しつつ)特定の財産のみについての遺言書を作成することは、なお有益だと思います。

 

ご参考まで。

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ゼロ戦
(本文とは全く関係ありませんが、山梨県の河口湖の自動車博物館(飛行館)で撮った

ゼロ戦です。この博物館は8月しか開館していない珍しい博物館です。
今年は、小説「永遠の0」の映画化や、ジブリの「風立ちぬ」などでゼロ戦ブームという
感じですね。



残暑お見舞い申し上げます。

暑い日々が続いておりますが、皆さん、夏バテなどしておりませんでしょうか?

 

さて、先週はお盆で帰省されていた方も多いかと思いますが、帰省して家族や親戚が集まると、お墓の話題って出ませんか?

私が死んだらお墓の管理は○○にさせる、とか、いや○○より△△の方がいい、などという話題が出ますよね(えっ、出ない!私の家だけでしょうか。)。

 

この点について、法律の定めを整理してみると次のとおりです。
 

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