カテゴリ: 労働法務

産休には、出産予定日の6週間前(多胎妊娠(双子以上)の場合は14週間前)の「産前休業」と、出産の翌日から8週間の「産後休業」の2種類があります。
この「産前休業」と「産後休業」とを併せて単に「産休」と一般的には呼んでいますが、両者の休業は取扱いが異なるので注意が必要です。

 

まず、「産前休業」ですが、これは6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間以内)に出産する予定の女性が、産前休業を請求した場合において、使用者がその者に与える休業のことをいいます(労働基準法第65条第1項)。
すなわち産前休業は、あくまでも妊娠した本人の「請求」があってはじめて付与すればいいので、請求がない場合には産前休業を与える必要はありません。

 

これに対して「産後休業」ですが、これは労働基準法上の「産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない」(第65条第2項)という規定があることにより与えられる休業で、使用者には産後休業を与えることが義務付けられています。そのため、産前休業と異なって、妊娠した本人の請求を待つまでもなく、使用者は当然にその本人を休業させなければなりません。
ただし、産後6週間を過ぎ、かつ職場復帰に支障がないと医師が認めた場合には、例外的に8週間を経過せずとも職場復帰させることが可能です(同項但書)。

 

これら産休の対象労働者は、「6週間以内(略)に出産する予定の女性」と「産後8週間を経過しない女性」となっており特に制限は設けられていません。
そのため、正社員、契約社員、パート労働者等の区別なく、産休をとることが可能であり、かつ時期に制限もないので入社後すぐに産休をとることも可能です(入社後すぐの産休については色々あると思いますが、産休中に解雇その他の不利益取扱いを行うことは法律上明確に禁止されています。労働基準法第19条第1項、男女雇用機会均等法第9条第3項)。

 

産休中は、就業規則等に定めがない限り無給となりますが、健康保険に加入している場合には、産休中に出産手当金(標準報酬額の3分の2)が支給されます。
ちなみに、フリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリは、産休中(だけでなく産前10週の特別休暇中と産後約6カ月の期間)でも100%の給与を保証しているそうなので、随分と太っ腹な対応をしていますね。

 

ところで、上記のとおり原則として産休中は無給ですが、この産休中に有給休暇をとることで、少しでも給料を確保したいと考える方がいるかもしれません。
この点、有給休暇とは、「労働者の労働義務」と「使用者の賃金支払義務」が併存している中で、「労働者の労働義務」だけを免除して、「使用者の賃金支払義務」のみを残す休暇です。すなわち有給休暇を取得するためには、そもそも「労働者の労働義務」があることが前提になるのです。

 

上記の「産前休業」と「産後休業」の違いについてもう一度確認しますと、産前休業はあくまでも、妊娠した本人の「請求」があって初めて付与されるものなので、たとえ出産予定日の6週間以内であったとしても、産前休業の請求をしない限り、「労働者の労働義務」は存続し続けることになります。
これに対して、「産後休業」は、妊娠した本人の請求を待つまでもなく、使用者は当然に産後8週間(医師が認めた場合は6週間)まで休業させなければいけないものですから、産後8週間の期間については、そもそも「労働者の労働義務」は存在しません。

 

したがって、産前期間中(出産予定日の6週間前以内)にもかかわらず産前休業を請求していない期間においては、有給休暇の取得が可能となりますが、産後8週間の期間については有給休暇を取得することはできません。

 

以上の「産前休業」と「産後休業」の違いをまとめると以下の表のとおりとなります。

表:「産前休業」と「産後休業」の違い

 

産前休業

産後休業

期間

出産予定日の6週間前以内

産後8週間(医師が認めた場合は6週間)

取得方法

労働者の請求

法律上当然に取得

給与

原則無給

※就業規則等の定めがある場合有給

※健康保険加入なら出産手当金(標準報酬額の3分の2)あり

原則無給

※就業規則等の定めがある場合有給

※健康保険加入なら出産手当金(標準報酬額の3分の2)あり

有給休暇

出産予定日の6週間前以内でも産前休業の申請がない期間は取得可能

不可

このように、「産前休業」と「産後休業」には違いがありますので、一緒くたに「産休」として取り扱うと間違えることがありますので、注意が必要です。

 

休日振替と代休は、一見すると似ているので、あまり区別なく使用されていることがありますが、実は時期や割増賃金の支払い等、取扱いが両者で異なっていますのできちんと区別する必要があります。


休日振替とは、就業規則上休日と定められた特定の日を事前に変更して労働日とし、別の労働日とされている日を休日に変更することをいい、これに対し、代休とは、就業規則上の休日に休日労働させた後、これに代わって労働を免除する日を付与することをいいます。


結局どう違うのか?ということで、両者の違いをまとめたのが以下の表です。

  (休日振替と代休の区別)

 

休日振替

代休

時期

事前

事後

就業規則の定め

必要

不要

※ただし、賃金控除を行う場合には定めておくほうが適当

割増賃金の支払い

不要

必要

休日の指定

使用者が指定

労使間の自由

 

休日労働が法定休日(毎週1日又は4週間に4日の労基法上定められた最低限の休日)に該当する場合には、35分の割増賃金の支払いが必要になります。


ところが、休日振替を行うことにより、もともとの法定休日が労働日に変更になるので、この労働日に働いても「休日労働」とはならず、休日労働に対する割増賃金の支払義務は発生しません。
これに対して、代休の場合は、法定休日の労働が行われた後に、いわばその代償として以後の特定の労働日を休みとするものであって、前もって法定休日を振り替えたことにはなりません。そのため、法定休日に「休日労働」した事実は消えませんので、休日労働分の割増賃金の支払義務が発生します。
(ただし、法定休日ではない休日(所定休日)について、休日振替や代休が行われても、就業規則に別段の定めがない限り、休日割増賃金という話にはなりません。)


また、休日振替は、労働契約の内容として特定されている休日を、使用者が一方的に他の日に変更することになるので、労働条件の変更になります。つまり、労働契約上の命令権の根拠が必要となり、就業規則の定めが必要になります。
これに対し、代休は、休日労働させた後に、別の労働日における就労義務を免除するものですので、労働者に有利な取扱いになるとして就業規則の定めは必須ではありません。逆に言えば、就業規則に使用者の義務として定められていない限り、代休を付与することは使用者の義務ではないのです。

 

ただし、代休取得後に就労免除分の賃金の控除を行う場合には、後々疑義が生じないように控除方法について就業規則に定めておくことが適当です。
例えば、「代休が付与された場合、法定休日における労働については、労働基準法所定の割増賃金(35分)のみを支払うものとする」等ときちんと定めておくことも検討したほうが良いと思います。


このように、休日振替と代休は、取扱いがそれぞれ異なっており、割増賃金の計算を間違えたりするおそれがあるので、きちんと区別することが必要不可欠でしょう。

1024日に厚生労働省は企業などがデジタルマネーで給与を従業員に支払えるよう規制を見直す方針を固めたとのニュースがありました。従業員に支払う給与を、銀行口座を通さずに、プリペイドカードやスマートフォンの資金決済アプリなどに送金できるようにするそうです。(日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO36868440U8A021C1MM8000/

 

最初に法的な原則論を整理しますと、従業員に対して支払う給与(賃金)については、「通貨」によって支払わなければなりません(通貨払の原則:労基法第24条第1項)。
「通貨」とは、我が国に強制通用力のある貨幣及び紙幣を意味しており、要は日本円の硬貨と紙幣(日本銀行券)で支払わなければならないということになります。
ちなみに「通貨」には外国通貨は含まれませんので、会社が一方的に「今日から給与はドルで支払うことにした」と言って給与をドル払いにすることはできません。

以上が原則論で、これを修正する例外が3パターンあります(労基法第24条第1項但書)。

①法令に別段の定めがある場合

②労働協約に別段の定めがある場合

③(確実な支払の方法として)厚生労働省令で定める場合

①法令に別段の定めがある場合
まず1つめの、法令に別段の定めがある場合ですが、今のところここでいう「法令」は存在しないので、特に問題にはなりません。

②労働協約に別段の定めがある場合
次に2つめの、労働協約に別段の定めがある場合について、労働協約とは、労働組合と会社との間の書面で締結される協定のことをいいますが、労働組合がない会社では、労働協約によって通貨払いの原則を修正することはできないので注意が必要です。

③厚生労働省令で定める場合
最後に3つめの、厚生労働省令で定める場合ですが、これが冒頭で挙げたニュースの話です。
現在では厚生労働省令(労働基準法施行規則第7条の2)によって、労働者の同意があることを前提に、給与を金融機関口座に振込むことが可能となっています。
なぜこれが通貨払の原則の例外なのか?というと、給与の振込みでは、厳密に言えば、労働者は通貨そのものを受領できるのではなく、金融機関に対する預金債権を取得することになるので、通貨払の原則の例外になるのです。
金融機関口座への振込みでも、確実に労働者の手元にいくので、それなら許容しましょうという価値判断です。

 

今回厚生労働省は、これを更に拡大して、従業員に支払う給与を、プリペイドカードやスマートフォンの資金決済アプリなどにも送金できるようにするそうです。
これは昨今の労働者人口の減少に伴う外国人労働者の受け入れをみると、必然的な流れではないでしょうか。

ただし、この記事によればこの手続きの利用ができるのは、デジタルマネーを手数料無しで現金化できることが条件となっていますが、現在のところ(銀行所定のプリペイドカードを除けば)デジタルマネーを現金化するのは難しいと思いますので、実現のためには今後インフラが整備される必要があります。

とはいえ今後銀行口座を間に入れずに給与の振込みができるようになると、外国人労働者にとって働きやすくなるでしょう。
給与の現金払いでは安全面の心配や、確実に給与を支払った証拠を確保するためにも、最近では給与の銀行口座への振込が一般的になってきましたが、銀行口座を外国人が開設しようとすると大変です。短期滞在(90日以内)の場合は開設できないですし、長期滞在ビザを持っていたとしても、日本での滞在期間が6ヶ月未満の場合は開設ができないなどハードルが高いですが、銀行口座が不要となると、外国人労働者でも給与の支払いを受けることが容易になります(今後は併せて就労ビザの拡大も行われていくと考えられます)。

デジタルマネー決済の昨今の状況をみると、クレジットカードや電子マネーの利用のみ(現金不可)の店が出てきたり、病院の診療費の支払いに電子マネーの利用ができたり、経済産業大臣がクレジットカード会社に対し手数料の引き下げを要請する考えを示したりするなど、デジタルマネー決済の推進(キャッシュレス化)の流れに入っています。
このままキャッシュレス化が拡大すれば、上記のデジタルマネー現金化の条件もなくなるのではないでしょうか。

ちなみにアメリカでは、既に「ペイロールカード」というものがあって、会社は銀行を介さずに直接このカードに入金し、従業員はこのカードでショッピングをすることが可能になっており、日本の一歩先を行っています。
ただし、アメリカではペイロールカードの現金引出しの際の手数料について批判がされているので、厚生労働省はこの批判を避けるために、今回あらかじめデジタルマネーを手数料無しで現金化できることを手続利用の条件にしているのではないでしょうか。

今回のデジタルマネーによる給与支払いは、外国人労働者受け入れの布石となることでしょう。

各都道府県労働局に設置されている総合労働相談センターへの労働相談は、10年連続で100万件を超えており、内容は「いじめ・嫌がらせ」(ハラスメント)が6年連続トップになっています。
厚生労働省の統計データによれば、解雇に関する相談は10年前に比べて2分の1に減少していますが、「いじめ・嫌がらせ」(ハラスメント)に関する相談は、ここ10年で2倍になっています。(厚生労働省「平成29年度個別労働紛争解決制度の施行状況」https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000213218.pdf


最近では女子レスリングや体操のパワーハラスメント(以下「パワハラ」といいます。)問題が世間を賑わせたこともあり、パワハラ問題に関するニュースが多くなっている印象です。
もっとも取り上げられるニュースはその時期の「流行り」という面がありますので、ニュースとして取り上げられることが多くなることと、実際にハラスメント行為が増えていることとは別問題ですが、年々、特にパワハラは増加の一途を辿っています。

パワハラは昔からあったはずですが、ネットやニュースで「パワハラ」という言葉が一般に認知され、「パワハラ=悪」という印象が世間的にも広がり、パワハラ被害を受けた人が声を上げやすい世の中になってきていると思います。一方で、いじめや嫌がらせの類を強いものから弱いものまで十把一絡げに「パワハラ」だと認定してしまっている傾向もあるでしょう。その意味で、パワハラが本当に増加しているかは簡単には判断できないでしょう。

「パワハラ」は、法律上定義されているわけではありませんが、厚生労働省円卓会議ワーキング・グループが、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義らしきものを報告書にまとめており、実務上はこれをパワハラかどうかの一つの基準にしています。

またワーキング・グループは、パワハラの行為類型として、以下の類型を挙げています。

①身体的な攻撃(暴行、傷害等)
②精神的な攻撃(脅迫、名誉毀損、侮辱、暴言等)
③人間関係からの切り離し(隔離、仲間外し、無視等)
④過大な要求(業務上明白に無理なこと・不要なことを要求等)
⑤過小な要求(仕事を与えない等)
⑥個の侵害(私的なことに立ち入る等)

個人的には、暴行や傷害、脅迫などは明確な犯罪行為であり、「ハラスメント(harassment)」(嫌がらせ)の語義から外れていると思いますので、単に暴行罪・傷害罪・脅迫罪と言えば足り、「パワハラ」という言葉で曖昧・抽象化する必要はないと思っています。

少し嫌な思いをしたら、何でもパワハラになるのではなく、上記の基準に当てはまるかを考える必要があります。この基準のうち特に「業務の適正な範囲を超えて」という部分がキーワードになります。

業務の適正な範囲を超えた行為とは、例えば、自分の考えを長時間にわたって「指導」と称して押し付けることや、自分の納得しない報告は受け入れず、ダメ出しを繰り返すことなどがあります(過度のダメ出しなんかは役所に多いので、個人的にはハラスメント行為だと思っています)。

またパワハラに当たるかは、時代(特にテクノロジーの発達)によって変わっていきますので、注意が必要です。
昔はネットやメールがなかったので、休日に上司等から連絡が来ることはなく、休日になれば仕事から完全に解放されたと聞きます。今では休日でも連絡がメール等でできてしまうので、パワハラと認定されるかはさておき、それが問題となり得る時代になっていることは認識しておくべきだと思います。
タイミング的に休日にメールを送らざるを得ないとしても、メールのタイトルに【月曜日に見ること】などの言葉をつける配慮をしている方もいます。

上司が部下に行った「叱咤激励」が、部下にとっては「パワハラ」に感じるということはよく聞く話ですが、コミュニケーション不足に原因があると思います。コミュニケーションが不足しているから、部下としては現れた言葉や行為しか見れなかったり、上司としても意味もなく強い言動をとってしまったりするのではないかと思います。
時代が違う、世代が違うから仕方ないと片付けてしまうのではなく、お互いに置かれた環境なども考慮しながら、言葉だけでなく言葉以外のノンバーバルな部分にも注意を傾けていく必要があるでしょう。

大手予備校(福岡校)が、長年講師として働いてきた労働者(有期労働契約)を、無期転換ルールの適用直前になって雇い止めを行い、その雇い止めについて、福岡労働局が「雇い止めが無効の可能性がある」と指摘したというニュースがありました。
(毎日新聞:https://mainichi.jp/articles/20181024/k00/00m/040/210000c

「無期転換ルール」とは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるというルールです。このルールは労働契約法第18条で規定され、同条は平成2541日以後に締結した労働契約に適用されます。

この無期転換ルール「逃れ」のために、今後雇い止めが増えるのではないかと懸念されていましたが、やはりこのようなニュースが出てきました。

私がこのニュースを見て気になったのは、①労働者の年齢と②今までの契約更新事情という点です。

①まず労働者の年齢について、今回雇い止めされた労働者は68歳であり比較的高齢の方ですが、実は無期転換時の年齢については注意する必要があります。
というのも、仮にこの方に無期転換ルールが適用されて、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換した場合には、定年の問題が生じることになるからです。

無期転換後の労働者に適用される就業規則を準備していない場合には定年の規定が適用されませんし、仮に60歳定年の規定がある就業規則が適用されたとしても、無期転換時に60歳を超えている労働者については、60歳定年の定めは適用がないものとして扱われてしまいます。

これはどういうことかというと、無期転換時に60歳を超えている労働者については、いわば「定年なし」の状態になり、会社は、労働者自身が退職を申し出るか、心身の故障等の解雇事由が発生しない限り、その労働者を雇用し続けなければならないことになってしまうのです。

このような事態を回避するにはどうすればいいか?というと、無期転換後の労働者に適用される就業規則をきちんと準備しておく必要があります。

無期転換後の労働者に適用される就業規則に60歳定年の規定を定めておき、さらに、例えば「無期転換権を行使した有期雇用労働者で、無期雇用契約開始時に満60歳以上の者については、無期転換後2年間で定年とする。」といった内容の定年規定を置くことで、事前に対処が可能です。

今回の大手予備校はきちんと就業規則を整備していなかったと予想していますが、定年だけでなくその他の労働条件についても、会社の運用に沿った内容を定めた無期転換用の就業規則を作成しておくことが望ましいでしょう(無期転換後の就業規則の作成については当事務所で扱っておりますので遠慮なくご連絡ください。)。

②次に今までの契約更新事情についてですが、今回ニュースになった方は、29年間も講師として働いており、雇い止めの直前は1年契約を6回更新しており、また今回雇い止めされるまで特に会社から指導等はなかったという事情があります。

このような事情があったため、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるとされた結果、雇い止めの無効の指摘がなされたので、無期転換ルール適用直前の雇い止めであれば、全て無効になるという判断が今回なされたわけではありません。
すなわち、無期転換ルール適用直前の雇い止めであっても、労働者が契約更新されると期待する「合理的な理由」がないのであれば(かつ同条1号に該当しない場合)、雇い止めは有効になりますのでこの点は留意する必要があるでしょう。

とはいえ、そもそも無期転換ルールが作られた趣旨は、労働者が雇用の安定している無期労働契約に転換できるという労働者保護の観点が大きいため、この無期転換ルールがあるために雇い止めが助長される等、契約更新の足枷となってしまっては本末転倒です。また今回労働局も「無期転換ルールを意図的に避ける目的で雇い止めをすることは、法の趣旨に照らして望ましくない」と指摘しています。

したがって、今後の無期転換ルール適用直前の雇い止めについては、従来では契約更新されると期待する「合理的な理由」(労働契約法192号)があるに至らないとされる段階であったとしても、今までよりも労働者保護の判断(雇い止め無効)に行政・司法とも移行していくものと予想しています。

2018年10月12日の日本経済新聞朝刊に「兼業・副業「許可せず」75% 労研機構調べ 政府推進も進まず 」との見出しの興味深い記事がありました。
以下、記事の抜粋です。

「政府が推進する会社員の兼業、副業について、独立行政法人労働政策研究・研修機構が企業や労働者にアンケートをしたところ、企業の75.8%が「許可する予定はない」とし、労働者も56.1%が「するつもりはない」と回答したことが分かった。
政府は2017年3月にまとめた働き方改革実行計画の中で、兼業や副業を「新たな技術の開発、起業の手段、第二の人生の準備として有効」としたが、浸透していない実態が浮き彫りになった。
〔中略〕
許可しない理由を複数回答で尋ねたところ、「過重労働となり、本業に支障を来すため」が82.7%で最多。「労働時間の管理・把握が困難となる」も45.3%を占めた。」

この記事を読む限り、日本では、将来的に人口減少による様々な社会制度の崩壊が叫ばれているところですが、まだまだ人々の生活は安定していて、現業・副業を具体的に考えているわけではないということでしょうか。

ところで、この記事によれば、現業・副業を許可しない企業側の理由として「労働時間の管理・把握が困難となる」というものがありますが、これはどういうことでしょう?

実は、労働基準法第38条第1項は、

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定していて、この「事業場を異にする場合」とは、同一事業者の下で事業場を異にする場合のみならず、別使用者の下で事業場を異にする場合も含まれると解釈するのが通説・行政解釈(昭23・5・14基発769号)なのです。

つまり、Aさんが、事業者Bさんのもとで4時間働いて、事業者Cさんのもとで5時間働いたとすると、Aさんの一日の労働時間は9時間となるので、後で雇ったCさんは、1時間の残業代を支払わなければならない、という結論になるのです。

しかし、Aさんからしてみれば、Bさんのもとで働いていることを隠しておきたいというのが多いのではないかと思いますし、Cさんとしても、労働時間の計算がややっこしくなるので、Aさんの兼職のことを知ると、採用に消極的になるのでしょう。

そこで、上記の行政通達(昭23・5・14基発769号)でも、次のように質問がなされます。

「<事業場を異にする場合の意義>
問 本条において事業場を異にする場合においても」とあるが、これを事業主を異にする場合も含むと解すれば、個人の側からすれば1日8時間以上働いて収入を得んとしても不可能となるが、この際、個人の勤務の自由との矛盾を如何にするか〔中略〕。」

で、それに対する回答がこれなのです。とても冷たい。
「答 「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含む。」

したがって、行政解釈は、労働者がある職場で8時間以上働いている場合、事実上、どの労働者が兼業や副業により別に収入をえることが事実上不可能になっても良いと考えると言えるように思います。

しかし、今の安倍政権が兼業・副業を推進していることからも明らかのように、少子高齢化、人口減少が進む将来において、我が国の労働者が兼業・副業ができるようになることは不可欠であるということがいえるでしょう。
学説でも、労働法の大家である菅野和夫教授は「私としては、週40時間制移行後の解釈としては、この規定は、同一使用者の下で事業場を異にする場合のことであって、労基法は事業場ごとに同法を適用しているために通算規定を設けたのである、と解しても良かったと思っている。」(菅野『労働法第11版』464頁)と述べています。
労働者が副業・兼職をしたいと希望しているときに、法律が、労働者保護を理由に副業・兼職を事実上制限するのは適当ではありません(個人の勤務の自由に対する過度は制約)。

したがって、私としては、早く上記の行政通達(昭和23・5・14基発769号)を廃止し、労働者が兼業・副業を行うにつき法的障害がないようにしてあげなければならないと考えております。

馬場弁護士の「高度プロフェッショナル制度のメリットは?」という記事に刺激を受けての投稿です。

私は、実はこの「高度プロフェッショナル制度」を好意的に考えています。それは、私の経験に基づきます。

私は2000年から2010年まで10年間大手法律事務所で働いていましたが、そのときの状況はまさに「高度プロフェッショナル制度」が適用されるにふさわしい状態だったと思います。自分が任された案件をどのように進めるかについてはかなり裁量が認められている反面、最終的には結果が求められますので、かなり緊張感があり、拘束時間も長かったのです。が、その反面、今とは比較にならないくらい高い給料を貰っており、仕事も日経新聞の1面を飾るような案件がゴロゴロしていたので、日本経済のために頑張るというような気概もありました。月に300時間を超えて働くことはザラにありましたが、それでも、嫌でやっていたというよりは好きでやっていたという感じであり、今思い返してみてもあまりネガティブな気持ちはないのです。まして残業代が欲しいと思ったことは1度もありません。そもそも貰っている給料が残業代を欲しがるようなレベルではなかったからです。当時は高度プロフェッショナル制度などというものはなかったので、残業代のことを言い出せば請求できたかもしれませんが、誰も残業代のことなど問題にしません。このような職場においては、基本的に労働時間のみで管理される従来の雇用制度には相当違和感があり、まさに高度プロフェッショナル制度がふさわしい制度だと思います。

馬場弁護士は、一般的に言われている高度プロフェッショナル制度のメリットとして、効率的に仕事を進めることができれば、残業しないでも仕事を終えられることを紹介しながら、高度プロフェッショナル制度の対象となる業種がいずれも長時間労働で有名なことから、実際はそうならないのではないか、と反論していました。
この点、私も、高度プロフェッショナル制度の対象となるような労働者は、実態としては、かなりの長時間労働をしているのではないかと思います。なぜなら、良い成果を出すにはある程度時間が必要ですし、何より、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人は、仕事が面白くて、良い成果を残すために、自己研鑽の時間を含め惜しみなく時間を使うタイプの人が多いと思われるからです。しかし、これは仕事に集中したいというポジティブな気持ちからであって、特にデメリットとして考える必要はないのではないかと思います。
逆に言えば、「定時に帰りたい。」「もし定時を過ぎて働くのであれば残業代が欲しい。」というマインドの人は、高度プロフェッショナル制度の対象とすることに向かない人であり、そういう人を高度プロフェッショナル制度の対象にできるような制度設計は適切ではないということになるでしょう。

馬場弁護士の記事の中に、「(高度プロフェッショナルに向いているような)方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いた方が良いのではないか」という文章がありますが、良いポイントを付いていると思います。

つまり、高度プロフェッショナル制度の対象とするにふさわしい人は、会社に頼らずフリーランスとしてもバリバリにお金を稼げる人であるが、企業側に、その人を囲い込んで他社では仕事はさせたくない等の思惑があり雇用契約で縛らざるを得ない、というイメージで考えるのがわかりやすいと思います。だからこそ、高度プロフェッショナル制度のもとでは、普通のサラリーマンより高額の年収を保証しなければならないのです。会社の社長よりも高給取りということも珍しくないでしょう。

以上のように考えると、現状の1075万円という年収要件はちっと低いのではないかという気がします。

大企業などでは、通常のサラリーマンでも1075万円くらいの年収を得ている方はそれなりにいますし、また、法律事務所のような専門職の職場では、新人弁護士で1075万円を貰っていることがあるとも聞きます。これらの方のマインドがサラリーマン的なものであれば、高度プロフェッショナル制度を適用するのは気の毒と言わざるを得ません。

したがって、私としては、高度プロフェッショナル制度の年収要件としては2000万円が良いのではないかと思っています。2000万円の年収があれば、1つの会社からしか収入を得ていないサラリーマンであっても確定申告が必要であり、税務的にももはや普通のサラリーマンではありません。残業代が欲しいという年収額でもないでしょうから、高度プロフェッショナルとして認める一つの指標になると思うのです。

皆さんはどう思われますか?

629日の参院本会議で成立した「働き方改革関連法」の柱である、「高度プロフェッショナル制度」について検討したいと思います。

 

1 高度プロフェッショナル制度とは何か?

高度プロフェッショナル制度とは、「残業代ゼロ法案」や「ホワイトカラーエグゼンプション」ともいわれていますが、高度の専門的知識等を必要とする業務に就いている一定の年収(年収1,075万円以上 ※現在)の労働者のうち、その労働者の同意があること等を前提に、労働基準法に定められている労働時間、休日及び深夜の割増賃金等の規定が適用されないという制度です。要は、就業時間に縛られない代わりに、深夜残業しようが、休日出勤しようが、残業代や深夜勤務手当、休日勤務手当は支払われないという制度です(以下の表参照)。

[表:高度プロフェッショナル制度の特徴]

高度プロフェッショナル制度の特徴

労基法上の規制

一般労働者

高度プロフェッショナル

法定労働時間

時間外割増賃金

休日・深夜割増賃金

休憩時間

                     ○…適用、☓…不適用

この制度を設けた趣旨は、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないとされている業務(アナリストやコンサルタント等)については、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応えて、労働者の意欲や能力を十分に発揮できるようにするためと説明されています
(労働政策審議会「今後の労働時間法制等の在り方について」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.htmlなど)

これはつまり、成果主義的な色彩の強い業務の場合には、成果さえ出せば早く帰れるということにすれば、勤務時間に縛られないことになり、意味もなく勤務の終了時間まで居残り続ける必要はなく、また残業代のためにダラダラ仕事を続けることがなくなるので、労使双方にとってメリットがあるという話です。
本当にこのような理想的な結果になるのか?という疑問があるので検討してみます。

 

2 対象となる業務等

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタント業務、研究開発業務等を想定しているということですが、これらの業種は総じて長時間労働が常態化している業種であるといえます。
これらの業種の労働者は、業務が早く終わったので帰りたい、というよりも業務が終わらないので帰りたくても帰れないというほうが多いのではないでしょうか。

仮に業務を終えて帰れる余裕がある方でも、帰れるのは最初だけで、管理職(使用者)に早く帰っているのを目撃されたら最後、「まだまだ余裕があるな」と思われて、更なる業務を課されるのが目に見えています。そのようにならないように(又はそのようになったとしても)、労使共に納得できるように、成果(目標)をきちんと設定することが必要不可欠になってきます。
それでも、高給取り(現在のところ年収1,075万円以上)だからいいのでは?という意見があります。

本当に高給の労働者が対象なのかを見てみますと、今回の法律では、高度プロフェッショナル制度の対象者の年収が「基準年間平均給与額(略)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省で定める額以上であること」(改正労基法第41条の22号ロ)とされています。
すなわち、高度プロフェッショナルの基準となる年収額は、少なくとも労働者全体の年間平均給与額の「三倍の額」を上回ることが「法律」で定められているので、高度プロフェッショナル制度が高給の労働者を対象としていることは疑いがないでしょう(現在のところ年収1,075万円以上)。

そのため、巷で言われているような、国(厚生労働省)が年収基準をどんどん下げてしまい、大勢の労働者が高度プロフェッショナル制度の対象者になってしまうのではないか、という指摘は当たらないと思います。なぜなら、高度プロフェッショナル制度の対象者を増加させるためには、この「三倍」ルールを撤廃(法律を改正)しなければなりませんので、国(厚生労働省)の一存では少なくとも平均の三倍未満に年収を引き下げることはできないためです。

 

3 労働者にとって得な制度なのか?

もっとも、高度プロフェッショナル制度の対象者が高給であったとしても、残業代や休日手当、深夜勤務手当等は支払われないので、毎月何十時間も所定労働時間よりも多く労働した場合には、時給換算で考えるとどんどん時給が下がっていきます。結局、時給で見てみると他の労働者の時給とさほど変わらなかった、という事態になってしまう可能性があります。

それでも、短時間で成果が出せれば良いので、実力さえあれば高度プロフェッショナル制度のほうが労働者にとって有利なのではないか?という考え方について、そもそも欧米型成果主義が日本企業にどれだけ定着できるのか(定着しているのか)という問題があります。売上以外の数値化できるものを除き、「成果」というものを定義することは難しいため適切な目標設定ができず、目標未達による労働者のストレスや、従業員間に連携が生まれにくい等の問題があります。また定時に帰る労働者を良しとしない会社においては、働き方についての考え方を変えない限り、なかなか導入は難しいと思われます。

「高度プロフェッショナル」という言葉は何となく聞こえがよいので、「君は今日から『高度プロフェッショナル』だ。」と言われて、あまりよく考えないで同意してしまうと、後で自分に合わない制度だったことに気づくことになりかねません。(又は制度をよく理解したとしてもパワーバランスから断れないこともあるでしょう。)

成果主義に合った業務内容で、労働時間に縛られないほうが成果を出せるタイプで、かつ労働時間も長時間にならずに成果を出せる実力がある労働者であれば、高度プロフェッショナルに向いていると思います。もっとも、そのような方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いたほうが良いのではないか…と思います。

高度プロフェッショナル制度が、単に使用者が残業代や深夜勤務手当等の支払いを避けるためだけに用いられることがないように、上手く成果(目標)の設定をして、労使双方にとってメリットになる運用がなされることに期待したいと思います。

フレックスタイム制とは、あらかじめ1ヶ月以内の一定の期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、清算期間を平均して1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で、始業・終業時刻を労働者の選択に委ねる制度です(労働基準法第32条の3)。

このフレックスタイム制は、労働者が各労働日の労働時間を自分で決められることから、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことをその狙いとしています。

 

1 導入の方法

フレックスタイム制を導入するには、以下の①と②を行う必要があります。

①就業規則その他これに準ずるものにおいて、始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めること

 例えば会社の就業規則において、以下のような条項を定めることが考えられます。

第●条

フレックスタイム制が適用される従業員の始業及び終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は午前6時から午前10時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は午後3時から午後7時までの間とする。

ここでいう就業規則に「準ずるもの」とは、10人未満の従業員を使用する会社においては就業規則の作成義務がないため、例えば、上記の内容を定めた書面を作成する必要があります。なお、本論と外れますが、就業規則の作成義務がない会社であっても、画一したルール作りのためや、懲戒処分の根拠規定を設けるためにも就業規則を作成して周知しておいたほうが良いでしょう。

②労使協定を過半数労働組合又は過半数労働者代表との間で締結すること

 以下の表記載の事項(※(1)~(6))について、労使協定を締結する必要があります。ただし、この労使協定は36協定等と異なって、所轄労働基準監督署長への届出義務はありません。

表:労使協定に定める必要のある事項

労使協定に定める必要のある事項

備考

1)対象となる労働者の範囲

各人ごと、課ごとなど柔軟に範囲を定めることができます。

2)清算期間

1ヶ月以内に限りますが、1ヶ月とすることが一般的です。

3)清算期間における起算日

具体的な日を定める必要があります。例えば、「毎月1日」「毎月26日」等です。

4)清算期間における総労働時間

清算期間における総労働時間は、

「清算期間の暦日数/ 7 ×1週間の法定労働時間」

の範囲内にする必要があります(下記表参照)。

5)標準となる1日の労働時間

1日の標準となる労働時間(時間数)を定める必要があります。

6)コアタイム

労働者が1日のうち必ず働かなければならない時間帯で(ex.午前10時~午後3時)、必ず定めなければならないものではありません。コアタイムを設ける場合には開始と終了の時刻を明記する必要があります。

7)フレキシブルタイム

労働者が自らの選択により労働ができる時間帯(フレキシブルタイム)に制限を設ける場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻を明記する必要があります。


表:清算期間における法定労働時間の総枠

 

週の法定労働時間数

40時間

44時間

清算期間の暦日数

31日の場合

177.1時間

194.8時間

30日の場合

171.4時間

188.5時間

29日の場合

165.7時間

182.2時間

28日の場合

160.0時間

176.0時間

(※東京労働局「フレックスタイム制の適正な導入のために」参照

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/2014318104110.pdf


2 始業又は終業時刻の一方のみを固定するフレックスタイム制の可否

例えば朝礼ないし伝達事項があるので、朝は定時出勤にし、終業時刻のみ労働者の選択に委ねるフレックスタイム制を導入したいという企業があるかもしれません。

しかし、フレックスタイム制を定めた労働基準法第32条の3が、フレックスタイム制を「始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる」ものであると定義しています。

また行政解釈では、フレックスタイム制は始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定に委ねる必要があるとして、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ、労働者の決定に委ねるものでは足りないとしています(昭63.1.1基発1、平成11.3.31基発168)。

 そのため、朝は定時出勤にし、終業時刻のみ労働者の選択に委ねるような、始業時刻のみ固定するフレックスタイム制は導入できないものと考えられます。

 しかし、私としては、フレックスタイム制の導入は労使間の合意(労使協定)を前提としており、またフレックスタイム制を導入しても実労働時間の把握義務は使用者側に依然として課されたままであるため、始業時刻のみ固定するフレックスタイム制を導入しても、労働者の権利を害するような事態は生じないものと思います。

そのため、フレックスタイム制を硬直的に定義し運用する必要はないと思いますので、始業時刻又は終業時刻の一方が固定されるようなフレックスタイム制の導入を認めても良いと考えています。

 

3 導入している企業の割合

 このフレックスタイム制ですが、どのくらいの企業が導入しているかを見てみますと、以下の表のとおり、全企業のうち変形労働時間制(1年単位の変形労働時間制、1ヶ月単位の変形労働時間制、フレックス制)を採用している企業は57.5%と多いですが、変形労働時間制のうちフレックスタイム制を導入しているのは、全体で5.4%であり、導入している企業は少ないと考えられます。
 フレックスタイム制は、ワークライフバランスの取れた働き方や残業削減といった狙いがあると思いますが、上記2のように使い勝手が良いものとはいえず、またフレックスタイム制の勤怠管理は難しいので人事部の負担や、チーム間や取引先との時間調整の難しさが導入を遠ざけているのかもしれません。

表:フレックスタイム制の導入企業の割合

企業規模

変形労働時間制の採用

フレックスタイム制導入

全体

57.5

5.4

1000人以上

74.3

23.6

300~999

67.9

14.2

100~299

63.3

6.4

30~99

54.3

3.7

※調査対象数6,367、有効回答数4,432、有効回答率69.6

(厚生労働省「平成29年就労条件総合調査 結果の概要」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/17/dl/gaiyou01.pdf

6月29日の参院本会議で、いわゆる「働き方改革関連法」が成立しました。

残業代の上限規制や、同一労働同一賃金制度の導入、またいわゆる高度プロフェッショナル制度の導入が柱となっており、労働基準法や労働契約法等の複数の改正された法律を、一言で「働き方改革関連法」と呼んでいます。

残業代の上限規制についてですが、現行の労働基準法が規定している労働時間は、18時間、週40時間となっており、この時間を超えて労働者を働かせるためには、いわゆる36協定を労使間で締結する必要があります。

36協定を締結した場合は時間外労働が可能になりますが、今回、時間外労働について以下の上限規制が設けられました。

・月45時間、年360時間まで

・臨時的な特別な場合があっても、年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)まで

従来までは、厚生労働省が時間外労働の限度に関する基準の告示を出してはいましたが、今回その基準が法律に格上げされ、罰則による強制力を持たせることになりました。

これにより、行き過ぎた時間外労働に歯止めをかけることが期待されています。

もっとも、①1ヶ月100時間の時間外労働又は②2ヶ月~6ヶ月の間に1ヶ月80時間を超える時間外労働については、健康障害リスクが高まるという基準(いわゆる過労死ライン)があり(基発第1063号・https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11a.pdf)、今回規制された上限はこの基準に近いものになっています。

そのため、この上限規制の範囲内であっても、健康障害リスクは皆無とはいえず、果たして今回の上限規制が十分な基準と言えるかどうかは正直難しいところだと思います。

また、長時間労働の是正のために、今回新しく年次有給休暇の強制付与制度も設けられました。これは、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち5日について、毎年、使用者は時季を指定して与えなければならないとされました。 

この制度の対応策として、今まで会社が任意に定めている夏季休暇や冬季休暇を所定休日とするのではなく、これらの休暇を有給休暇として取り扱うことで、この年次有給休暇の強制付与制度をしのごうとする会社もあると予想されます。

このような有給休暇の入れ替え行為は、現時点でも会社が労働者に無断で進めてしまうこともあると思いますが、このような行為は年次有給休暇の計画的付与(労基法第39条第6項)に当たるので、労使協定が必要になりますので注意が必要です。

「働き方改革関連法」の成立の背景には、労働人口の減少、長時間労働、少子高齢化等の様々な問題があり、問題の種類によっては解決法が相矛盾するものもあるので(ex.労働人口の減少と長時間労働)、これらを一挙に解決することは簡単ではありません。

また、何をしようとしても抵抗勢力が出てきますので、抜本的な解決は難しいところです(人間自分が一番なので、内容によっては私も抵抗勢力側につくことになるかもしれません)。

今後「働き方改革関連法」の柱である同一労働同一賃金制度や高度プロフェッショナル制度についても、検討していきたいと思います。

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