カテゴリ: 労働法務

IMG_2781(写真は、2020年7月17日お昼の銀座中央通。東京都の新規コロナ感染者が293人と過去最高だったからか、それとも梅雨の長雨が続いているからか、人通りがまばらで、寂しげな様子です。)



(この原稿は使用者サイドから見た法律関係を説明します。)


まず、使用者が設問のような命令を出すことができるか?ですが、使用者は労働者の業務や職場の環境について指揮命令権・管理権を有するとともに、労働者について安全配慮義務を負っています。

新型コロナウイルスの感染拡大が重大な問題となっている現在の状況で、ゴホゴホ咳をしていて、コロナ感染が疑われる従業員に勤務を続けさせることは、仮に本当にコロナに感染していたときは、他の従業員に対する安全配慮義務も尽していないことになるので、使用者としては、当然に、従業員に対する指揮命令権、職場環境についての管理権の一環として、帰宅するよう命じることができると考えてよいでしょう。
で、この従業員の仕事が自宅でできるものだったらよかったのですが、できない場合、労働者に休業させることになります。

次に、その場合、休業手当(給料の60%以上)を支払う必要があるかについて問題となります。多くの会社では、そこまで厳密な取り扱いはしておらず、従業員が風邪などで休んでも定額の給料を支払っているということかもしれませんが、法的に詰めて考えると、「ノーワーク・ノーペイ」が原則ですから、労働者が休業していた期間は給料を支払わなくてよいのでは?という疑問が発生するわけです。

この点について規定しているのが、労働基準法第26条です。

 

(休業手当)

26条  使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の60以上の手当を支払わなければならない。

 

つまり、コロナに感染している疑いのある労働者に帰宅を命ずることが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するかがポイントです。

考え方としてはいくつかあるでしょう。
例えば、コロナに感染していることが確認されている従業員であればいざしらず、コロナ感染の「疑い」だけで、ノーペイという不利益を課すのは「推定無罪」という法原則に反すると考えて、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するという考え方もあるでしょう。

また、労働法という分野では労働者を社会的弱者と考えて保護することに重点が置かれますので、この問題を考えるにあたっても、労働者保護にウエイトを置き、コロナ感染の「疑い」で休業命令を出すのは、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するのだ、という考え方もあるでしょう。

しかし、ゴホゴホ咳をしていても、PCR検査でコロナ陽性が確定していない従業員に休業を命じると全て「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当すると考えるのは不合理です。なぜなら、実際にコロナウイルスに感染していることを確認してから休業命令を出すとするとコロナ感染予防対策として効果がなく、他の従業員に対する安全配慮義務も尽くせなくなるからです。

これに対しては、「いやいや使用者の指揮命令権の一環として休業命令自体は出せるのだから、使用者は休業手当の支払いを覚悟して休業命令を出せば良いではないか?」という人がいるかもしれません。

しかし、一方では(コロナ感染拡大予防対策などといって)休業命令を出すことを推奨しておきながら、他方ではその休業命令を出すことを躊躇させるような解釈をするのは、ベクトルの方向がちぐはぐで、良い解釈論とは言えないと思います。

そこで、労働者の状態がどの程度であれば、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するのか?という更に細かい議論に入っていきます。極端な例で言えば、労働者がちょっと咳をしただけで休業命令を出すとすれば、それは「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払いの対象になるが、従業員が、ゴホゴホ、ゼーゼーしながら咳をしていて、見るからに苦しそうであれば「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないということについては誰もが納得すると思うのですが、その間の事案についてはどう考えればよいのか?ということです。

で、この点に言及しているのが、厚生労働省のHPにある次のQ&Aです。

 

〈感染が疑われる方を休業させる場合〉

3 新型コロナウイルスへの感染が疑われる方について、休業手当の支払いは必要ですか。

感染が疑われる方への対応は「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)症状がある場合の相談や新型コロナウイルス感染症に対する医療について問1「熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。」」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1)をご覧ください。

これに基づき、「帰国者・接触者相談センター」でのご相談の結果を踏まえても、職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

 
このAnswerの中で、「「帰国者・接触者相談センター」でのご相談の結果を踏まえても」という部分は、そんな相談をしている余裕はないので、適当ではないです。その点は置いておいて、上記のAnswerで引用されている「問1「熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q5-1)のQ&Aを見てみると、次のとおりです。

 

問1 熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。

 発熱などのかぜ症状がある場合は、仕事や学校を休んでいただき、外出は控えてください。休んでいただくことはご本人のためにもなりますし、感染拡大の防止にもつながる大切な行動です。そのためには、企業、社会全体における理解が必要です。厚生労働省と関係省庁は、従業員の方々が休みやすい環境整備が大切と考え、労使団体や企業にその整備にご協力いただくようお願いしています。
 咳などの症状がある方は、咳やくしゃみを手でおさえると、その手で触ったドアノブなど周囲のものにウイルスが付着し、ドアノブなどを介して他者に病気をうつす可能性がありますので、咳エチケットを行ってください。

 帰国者・接触者相談センター等にご相談いただく際の目安として、少なくとも以下の条件に当てはまる方は、すぐにご相談ください。

息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場

重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

 

このAnswerを読んでも、使用者が従業員を休業させる場合に、従業員がどのような状態であれば、「使用者の責に帰す事由による休業」といえるのか直接の言及がないように思うのですが、なんとなく、

 

息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場

重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

 
☆の場合には、「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください、としているのですから、この場合には、休業命令を出すこともやむを得ないと考えているのかなと思います。


上記のような状態にある場合には、新型コロナウイルスへの感染の可能性が高いと合理的に判断できますので、使用者側が休業命令を出すこともやむを得ない、むしろ労働者が(何らかの理由により)無理をして出勤してきているような場合には、休業命令を出すべきといえます。

というわけで、私の結論としては、従業員が上記の状態に当てはまる場合には、使用者の判断で休業させても、「使用者の責に帰す事由による休業」には該当しないと考えます。

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2018年10月12日の日本経済新聞朝刊に「兼業・副業「許可せず」75% 労研機構調べ 政府推進も進まず 」との見出しの興味深い記事がありました。
以下、記事の抜粋です。

「政府が推進する会社員の兼業、副業について、独立行政法人労働政策研究・研修機構が企業や労働者にアンケートをしたところ、企業の75.8%が「許可する予定はない」とし、労働者も56.1%が「するつもりはない」と回答したことが分かった。
政府は2017年3月にまとめた働き方改革実行計画の中で、兼業や副業を「新たな技術の開発、起業の手段、第二の人生の準備として有効」としたが、浸透していない実態が浮き彫りになった。
〔中略〕
許可しない理由を複数回答で尋ねたところ、「過重労働となり、本業に支障を来すため」が82.7%で最多。「労働時間の管理・把握が困難となる」も45.3%を占めた。」

この記事を読む限り、日本では、将来的に人口減少による様々な社会制度の崩壊が叫ばれているところですが、まだまだ人々の生活は安定していて、現業・副業を具体的に考えているわけではないということでしょうか。

ところで、この記事によれば、現業・副業を許可しない企業側の理由として「労働時間の管理・把握が困難となる」というものがありますが、これはどういうことでしょう?

実は、労働基準法第38条第1項は、

「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定していて、この「事業場を異にする場合」とは、同一事業者の下で事業場を異にする場合のみならず、別使用者の下で事業場を異にする場合も含まれると解釈するのが通説・行政解釈(昭23・5・14基発769号)なのです。

つまり、Aさんが、事業者Bさんのもとで4時間働いて、事業者Cさんのもとで5時間働いたとすると、Aさんの一日の労働時間は9時間となるので、後で雇ったCさんは、1時間の残業代を支払わなければならない、という結論になるのです。

しかし、Aさんからしてみれば、Bさんのもとで働いていることを隠しておきたいというのが多いのではないかと思いますし、Cさんとしても、労働時間の計算がややっこしくなるので、Aさんの兼職のことを知ると、採用に消極的になるのでしょう。

そこで、上記の行政通達(昭23・5・14基発769号)でも、次のように質問がなされます。

「<事業場を異にする場合の意義>
問 本条において事業場を異にする場合においても」とあるが、これを事業主を異にする場合も含むと解すれば、個人の側からすれば1日8時間以上働いて収入を得んとしても不可能となるが、この際、個人の勤務の自由との矛盾を如何にするか〔中略〕。」

で、それに対する回答がこれなのです。とても冷たい。
「答 「事業場を異にする場合」とは事業主を異にする場合を含む。」

したがって、行政解釈は、労働者がある職場で8時間以上働いている場合、事実上、どの労働者が兼業や副業により別に収入をえることが事実上不可能になっても良いと考えると言えるように思います。

しかし、今の安倍政権が兼業・副業を推進していることからも明らかのように、少子高齢化、人口減少が進む将来において、我が国の労働者が兼業・副業ができるようになることは不可欠であるということがいえるでしょう。
学説でも、労働法の大家である菅野和夫教授は「私としては、週40時間制移行後の解釈としては、この規定は、同一使用者の下で事業場を異にする場合のことであって、労基法は事業場ごとに同法を適用しているために通算規定を設けたのである、と解しても良かったと思っている。」(菅野『労働法第11版』464頁)と述べています。
労働者が副業・兼職をしたいと希望しているときに、法律が、労働者保護を理由に副業・兼職を事実上制限するのは適当ではありません(個人の勤務の自由に対する過度は制約)。

したがって、私としては、早く上記の行政通達(昭和23・5・14基発769号)を廃止し、労働者が兼業・副業を行うにつき法的障害がないようにしてあげなければならないと考えております。

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馬場弁護士の「高度プロフェッショナル制度のメリットは?」という記事に刺激を受けての投稿です。

私は、実はこの「高度プロフェッショナル制度」を好意的に考えています。それは、私の経験に基づきます。

私は2000年から2010年まで10年間大手法律事務所で働いていましたが、そのときの状況はまさに「高度プロフェッショナル制度」が適用されるにふさわしい状態だったと思います。自分が任された案件をどのように進めるかについてはかなり裁量が認められている反面、最終的には結果が求められますので、かなり緊張感があり、拘束時間も長かったのです。が、その反面、今とは比較にならないくらい高い給料を貰っており、仕事も日経新聞の1面を飾るような案件がゴロゴロしていたので、日本経済のために頑張るというような気概もありました。月に300時間を超えて働くことはザラにありましたが、それでも、嫌でやっていたというよりは好きでやっていたという感じであり、今思い返してみてもあまりネガティブな気持ちはないのです。まして残業代が欲しいと思ったことは1度もありません。そもそも貰っている給料が残業代を欲しがるようなレベルではなかったからです。当時は高度プロフェッショナル制度などというものはなかったので、残業代のことを言い出せば請求できたかもしれませんが、誰も残業代のことなど問題にしません。このような職場においては、基本的に労働時間のみで管理される従来の雇用制度には相当違和感があり、まさに高度プロフェッショナル制度がふさわしい制度だと思います。

馬場弁護士は、一般的に言われている高度プロフェッショナル制度のメリットとして、効率的に仕事を進めることができれば、残業しないでも仕事を終えられることを紹介しながら、高度プロフェッショナル制度の対象となる業種がいずれも長時間労働で有名なことから、実際はそうならないのではないか、と反論していました。
この点、私も、高度プロフェッショナル制度の対象となるような労働者は、実態としては、かなりの長時間労働をしているのではないかと思います。なぜなら、良い成果を出すにはある程度時間が必要ですし、何より、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人は、仕事が面白くて、良い成果を残すために、自己研鑽の時間を含め惜しみなく時間を使うタイプの人が多いと思われるからです。しかし、これは仕事に集中したいというポジティブな気持ちからであって、特にデメリットとして考える必要はないのではないかと思います。
逆に言えば、「定時に帰りたい。」「もし定時を過ぎて働くのであれば残業代が欲しい。」というマインドの人は、高度プロフェッショナル制度の対象とすることに向かない人であり、そういう人を高度プロフェッショナル制度の対象にできるような制度設計は適切ではないということになるでしょう。

馬場弁護士の記事の中に、「(高度プロフェッショナルに向いているような)方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いた方が良いのではないか」という文章がありますが、良いポイントを付いていると思います。

つまり、高度プロフェッショナル制度の対象とするにふさわしい人は、会社に頼らずフリーランスとしてもバリバリにお金を稼げる人であるが、企業側に、その人を囲い込んで他社では仕事はさせたくない等の思惑があり雇用契約で縛らざるを得ない、というイメージで考えるのがわかりやすいと思います。だからこそ、高度プロフェッショナル制度のもとでは、普通のサラリーマンより高額の年収を保証しなければならないのです。会社の社長よりも高給取りということも珍しくないでしょう。

以上のように考えると、現状の1075万円という年収要件はちっと低いのではないかという気がします。

大企業などでは、通常のサラリーマンでも1075万円くらいの年収を得ている方はそれなりにいますし、また、法律事務所のような専門職の職場では、新人弁護士で1075万円を貰っていることがあるとも聞きます。これらの方のマインドがサラリーマン的なものであれば、高度プロフェッショナル制度を適用するのは気の毒と言わざるを得ません。

したがって、私としては、高度プロフェッショナル制度の年収要件としては2000万円が良いのではないかと思っています。2000万円の年収があれば、1つの会社からしか収入を得ていないサラリーマンであっても確定申告が必要であり、税務的にももはや普通のサラリーマンではありません。残業代が欲しいという年収額でもないでしょうから、高度プロフェッショナルとして認める一つの指標になると思うのです。

皆さんはどう思われますか?

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労働契約上の無期転換ルールをご存知でしょうか?
これは、2012年の労働契約法の改正により、新たに労働法18条に定められたルールです。

簡単に説明すると、契約社員・パート・アルバイトなどの期間が決められた労働契約をしている労働者(有期契約労働者と呼ばれています。)が、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、有期契約労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。たとえば、 契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に無期転換の申込権が発生します。有期契約労働者が無期転換の申込みをした場合、使用者は、断ることができず、無期労働契約が成立することになります。

で、重要なのが、この労働契約法18条の無期転換ルールは、2013年4月1日から施行されたので、無期転換ルールにおける「5年間の期間」は、既に2013年4月1日から起算されており、来年2018年4月1日から無期転換権を取得する有期労働者が発生することです。

では、有期契約労働者が無期転換権を行使した場合、会社とこの労働者との契約関係はどのようになるのでしょうか?

労働契約法18条1項によれば、原則として、期間が有期から無期になること以外はそれまでの労働契約が適用されます。したがって、期間1年、週3日、1回あたり6時間、給料月額10万円のバイトが無期転換権を行使した場合には、単に期間が1年契約だったものが無期になるだけで、週3日、1回あたり6時間、給料月額10万円という労働条件には変更がないのです。

しかし、これには例外があります。すなわち、会社にこの無期転換権を行使した労働者(無期転換労働者)に適用される定めがある場合には、その定めが適用されることになります。たとえば、これまで正社員規則、契約社員規則、アルバイト規則しかなかった会社が、新たに、無期転換労働者に適用される規則を作れば、それが適用されることになりますが、もし特別にそのような規則を作らなかったのであれば、有期が無期になる点を除いて、従前は契約社員だった人には契約社員規則が、従前はアルバイトだった人にはアルバイト規則が、それぞれ適用されるということになるのでしょう。

というわけで、現在、来年4月1日以降に無期転換労働者が発生する可能性がある会社では、無期転換労働者に適用する規則を作っている会社も多いのではないかと推測します、その準備を後押しするために、厚生労働省では、ウェップで就業規則のサンプルを公開したりしていますね(http://muki.mhlw.go.jp/point/)。

ただ、ここで私には、どのように解釈したら良いのかわからない問題があります。

(1) たとえば、バイトばかりがいる会社が、バイトの無期転換権行使を阻止するために、無期転換労働者用の就業規則を作り、そこには、正社員並みの労働条件、たとえば、週5日労働、1回8時間労働、転勤命令に従う義務あり、残業命令に従う義務あり、もちろん給料は正社員なみに支払う、などと定められていたとする。そのため、多くのバイトは、事実上、無期転換権を行使できないでいる。このような就業規則は、実質的には、労働契約法18条の無期転換ルールの趣旨を没却するものであり、また労働契約の不利益変更禁止の精神も没却するから、無効なのではないか?

(2) IT業界では、案件をわたりあるく契約社員の方が正社員よりも給料が高い場合があるが、無期転換労働者規則において、給料は正社員並みにすることとした。しかし、そもそも無期転換権行使により給料を減額することは、上記と同様、無期転換ルールの趣旨を没却し、労働契約の不利益変更禁止の原則にも反するので、許されないのではないか?

労働法を専門にしている弁護士に、上記の質問を聞いてみましたが、まだ事例がなく、はっきりとした答えはないようです。

私の弁護士としての経験からすると、日本の会社は、上記(1)及び(2)のようなことは、法律上許されても社会からの非難を恐れてやらないところが多いのではないかと推測しますが、価値観の違う外資系の会社であれば、法律上許されるのであれば、実際にやるところが出てきそうです。
これからどのような解釈になるのか、注目してみたいと思います。

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ちょっと古いニュースになってしまいましたが、2015年(平成27年)9月11日に改正派遣法も成立いたしました。

(2015年9月11日の日経新聞電子版の記事から)

「企業の派遣受け入れ期間を事実上なくす改正労働者派遣法が11日昼の衆院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。」

「政府が進める労働法制改革の柱の一つで、9月30日に施行する。」

派遣法改正は、過去に2度ほど廃案となっており、今回も日本年金機構の個人情報流出問題などの影響で参院での審議が停滞していたため、今回も「2度あることは3度ある」なのか?と思いましたが、「3度目も正直」でようやく成立しましたね。この改正については、私もいろいろと意見があるところなのですが、成立した以上、よい運用を期待しています。
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2015年6月20日の日経新聞朝刊3頁の『労働改革ようやく前進』『派遣法改正、成立へ』『脱時間給 労基法は不透明』という見出しの記事で、派遣法の改正案が衆議院を通過したことが報道されています(というか、他のマスコミでも大々的に報道されました。)。


企業が派遣社員を受け入れる期間の上限を事実上なくす労働者派遣法改正案が19日の衆院本会議で自民、公明両党と次世代の党の賛成多数で可決された。維新、共産両党は反対した。政府・与党は24日までの今国会会期を2カ月超延長する方針で、成立は確実だ。改正案は安倍政権が岩盤規制改革とみなす労働法制見直しの柱。過去2回の国会で廃案になったが、実現に向けて前進した。


今度こそ、派遣法の改正案が成立することはほぼ間違いないようです。私には、中小の会社のクライアントも多いので、特定派遣の廃止に関連する問題のアドバイスが多くなりそうです。 

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少々前のニュースになりますが、2015年3月26日の日本経済新聞電子版の『不当解雇に解決金制度 規制改革会議が意見書 職場に戻る代わりに補償』という見出しで、興味深い記事を配信していました。

 

政府の規制改革会議は25日、すでに裁判で不当と認められた解雇を、金銭補償で解決する制度の導入をめざす意見書をまとめた。解雇された労働者から申し立てがある場合だけに適用する制度とする。不当解雇をめぐるルールを明確にし、労働者が泣き寝入りを迫られる事態を防ぐ。経営者側も労働紛争の決着を見通しやすくなる。

 

解決金制度は裁判で不当解雇と認められたとき、労働者が職場に戻るかわりに、法律で定められた一定額の補償金を使用者から払い、雇用関係を解消する仕組み。〔中略〕ただ、不当解雇と認められたなら職場に復帰したい、という労働者もいる。〔規制改革会議は〕あくまで「労働者側からの申し立てのみ認めるべきだ」と強調した。

 

この制度は、お金を払えば解雇できるという制度ではなく、不当解雇が認定されたときに、労働者側から申し立てがあれば、職場復帰ではなく、金銭補償で解決を図るというものです。私としては、以前、労働者側の代理人となって不当解雇を争ったこともあるのですが、既にクライアントはもとの会社で雇用を継続する意欲を失っている場合が多く、解雇が無効と認定されても、職場に戻ることなぞ全然考えていないことがほとんどだと思いますので、よい制度なのではないかと思います。ただ、補償金の金額が低いと不当解雇をした方が得ということにもなりかねないので、補償金の金額をいくらにするかという点で、非常に揉めるかもしれませんね(法令に定めないで、裁判所の個別判断にするのかな?)。
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派遣法の改正案が再び国会に提出されました。

 

(2015年3月14日日経新聞朝刊5頁から)

政府は13日、派遣法社員に同じ仕事を任せる期間の制限を事実上なくす労働者派遣法の改正案を閣議決定し、国会に提出した。企業は派遣社員を活用しやすくなる。同時に派遣社員が雇用上の不利益を被らないように、派遣社員に対して派遣社員が期間終了後も働き続けられるように対応することを義務づけた。

9月1日の施行を目指す。ただ野党は「一生派遣につながる」として強く反対し、これまで2回廃案になっている。塩崎恭久厚労相は13日の閣議後の会見で「3度目の正直で成立させたい」と強調したが、閣議は難航が予想される。

 (私の感想)

私自身は、

① 日本の労働者派遣は、「正社員が本則で、派遣は一時的・臨時的な働き方」という位置づけで作られており、実務的には、「正社員の解雇が厳しく制限されているため、経済的な負担が大きくても雇用調整をしやすい派遣を使う」という発想で使われ、職場における正社員と派遣社員間の差別(同じ仕事をしているのに待遇が違う)を助長する方向で機能している。

② しかし、「正社員が本則で、派遣は一時的・臨時的な働き方」という位置づけ自体がおかしい。専門職などでは会社単位に働くよりも、案件・仕事単位で働く方が適している場合があり、そういう場合には、派遣は一時的・臨時的な働き方ではなく、恒久的な働き方とも位置付けられる。

③ また、雇用調整の必要性があるから派遣を増やす(雇いやすくする)という発想もおかしい。そもそも日本の社会および企業は、従業員を定年までずっと雇えるほどの体力がなくなっているのだから、雇用調整の必要性は、(派遣を増やす方向ではなく)一定の補償のもとで、正社員の解雇制限の規制を緩める方向で検討されなければならない。


という考えを持っています。

 

ところが、今回の派遣法の改正は、これまでの正社員と派遣社員の区別(雇用調整のための派遣)を前提としつつ、一方で、企業側で派遣を使いやすく、他方で派遣労働者側の立場にも配慮するというもので、そもそも問題の根本である正社員の解雇制限の問題に手をつけていません。したがって、私のような考えを持っている者からすると、この改正は、中途半端というべきもので、若干ひややかな目で見ています。

ただ、最近、竹中平蔵氏が、上記と同様の趣旨の発言をしたところ、ネット等でかなり叩かれましたので、おそらく、このような考え方は、まだまだ少数派なのでしょう。現状では、ドラスティックな制度変更は望めません。

 

だとすれば、問題のある現状を少しでも改善していく方向で考えなくてはなりません。

いずれにしても、労働法制は我が国の成長性を高めるうえでとても重要な分野ですので、国会で、今国会では実りある議論がなされることを望みます。 

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今朝(2015年2月4日)の新聞各紙で報道されておりますね。以下、日経新聞からの引用です。

<厚生労働省は2016年4月から社員に年5日分の有給休暇を取らせるよう企業に義務付ける方針だ。19年4月からは中小企業の残業代も引き上げる。時間ではなく成果に対して賃金を払う制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)も、対象が広がりすぎないよう年収基準に歯止めを設ける。働き過ぎを防ぎながら規制を緩める「働き方改革」を促す。

以前にも書きましたが、私は、職場(同僚)への配慮で有給を取りにくいというのは極めて日本的な現象なのではないかと思っていたのですが、欧州でも同じような事情があるようであり、同記事によれば、「欧州諸国は事実上の消化義務を課しており取得率が100%近い。日本でも同じような仕組みを入れる必要性があると判断した。」と解説がされています。

しかし、もしそうだとするなら、そもそも社員から申告してお休みをとるという有給休暇の仕組み自体に問題があるということなのかもしれませんね。
今回の記事を読んで、そんなことを考えました。
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本日(2015年1月8日)の日本経済新聞朝刊1面のトップ記事に、『年収1075万円以上を対象 専門職 労働時間規制外す』とうい見出しで大々的に報道されておりました。


厚生労働省は7日、働く時間ではなく成果で賃金を払う「ホワイトカラー・エグゼンプション」の制度案をまとめた。対象は年収1075万円以上の専門職に限り、週40時間を基本とする労働時間規制(3面きょうのことば)から外す。過労を防ぐために年104日の休日なども導入の条件にする。「岩盤」といわれる雇用規制を崩す第一歩をなる。


同省は16日に開く労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の分科会にこれらの労働時間規制の改革案を示す。今後、与党との調整を経て労働基準法改正案を閣議決定し、26日召集の通常国会での成立と16年春めどの施行を目指す。


何度もこのブログでは触れているように、このホワイトカラー・エグゼンプションは、政府が導入しようとすると、マスコミ等から「残業代ゼロ法案」とか「過労死法案」などと批判されて、導入ができないという状態が続きました。

しかし、今回は、年収1075万円以上の専門職のみを対象とするということで、おそらく「残業代ゼロ法案」などという批判は全く的外れになるのではないかと思います(年収1075万円を稼ぐには、通常、残業をしただけでは足りず、自分の仕事に対して残業以上の付加価値を付けなければならないと思われるからです。)。また、報道によれば、「労使が①年104日の休日取得②1カ月間の在社時間などの上限③就業から翌日の始業までに一定時間の休息-のいずれかを選ぶ」という「働き過ぎを防ぐ対策」とセットで導入されるということであり、「過労死法案」という批判もあたらないものになると思われます。私は、この政府の施策については、硬直的な我が国の労働法制について、現実に即した柔軟な修正を加えるものとして、積極的に評価したいと思います。どのような法案になるのか注目ですね。

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