カテゴリ: 労働法務

馬場弁護士の「高度プロフェッショナル制度のメリットは?」という記事に刺激を受けての投稿です。

私は、実はこの「高度プロフェッショナル制度」を好意的に考えています。それは、私の経験に基づきます。

私は2000年から2010年まで10年間大手法律事務所で働いていましたが、そのときの状況はまさに「高度プロフェッショナル制度」が適用されるにふさわしい状態だったと思います。自分が任された案件をどのように進めるかについてはかなり裁量が認められている反面、最終的には結果が求められますので、かなり緊張感があり、拘束時間も長かったのです。が、その反面、今とは比較にならないくらい高い給料を貰っており、仕事も日経新聞の1面を飾るような案件がゴロゴロしていたので、日本経済のために頑張るというような気概もありました。月に300時間を超えて働くことはザラにありましたが、それでも、嫌でやっていたというよりは好きでやっていたという感じであり、今思い返してみてもあまりネガティブな気持ちはないのです。まして残業代が欲しいと思ったことは1度もありません。そもそも貰っている給料が残業代を欲しがるようなレベルではなかったからです。当時は高度プロフェッショナル制度などというものはなかったので、残業代のことを言い出せば請求できたかもしれませんが、誰も残業代のことなど問題にしません。このような職場においては、基本的に労働時間のみで管理される従来の雇用制度には相当違和感があり、まさに高度プロフェッショナル制度がふさわしい制度だと思います。

馬場弁護士は、一般的に言われている高度プロフェッショナル制度のメリットとして、効率的に仕事を進めることができれば、残業しないでも仕事を終えられることを紹介しながら、高度プロフェッショナル制度の対象となる業種がいずれも長時間労働で有名なことから、実際はそうならないのではないか、と反論していました。
この点、私も、高度プロフェッショナル制度の対象となるような労働者は、実態としては、かなりの長時間労働をしているのではないかと思います。なぜなら、良い成果を出すにはある程度時間が必要ですし、何より、高度プロフェッショナル制度の対象となるような人は、仕事が面白くて、良い成果を残すために、自己研鑽の時間を含め惜しみなく時間を使うタイプの人が多いと思われるからです。しかし、これは仕事に集中したいというポジティブな気持ちからであって、特にデメリットとして考える必要はないのではないかと思います。
逆に言えば、「定時に帰りたい。」「もし定時を過ぎて働くのであれば残業代が欲しい。」というマインドの人は、高度プロフェッショナル制度の対象とすることに向かない人であり、そういう人を高度プロフェッショナル制度の対象にできるような制度設計は適切ではないということになるでしょう。

馬場弁護士の記事の中に、「(高度プロフェッショナルに向いているような)方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いた方が良いのではないか」という文章がありますが、良いポイントを付いていると思います。

つまり、高度プロフェッショナル制度の対象とするにふさわしい人は、会社に頼らずフリーランスとしてもバリバリにお金を稼げる人であるが、企業側に、その人を囲い込んで他社では仕事はさせたくない等の思惑があり雇用契約で縛らざるを得ない、というイメージで考えるのがわかりやすいと思います。だからこそ、高度プロフェッショナル制度のもとでは、普通のサラリーマンより高額の年収を保証しなければならないのです。会社の社長よりも高給取りということも珍しくないでしょう。

以上のように考えると、現状の1075万円という年収要件はちっと低いのではないかという気がします。

大企業などでは、通常のサラリーマンでも1075万円くらいの年収を得ている方はそれなりにいますし、また、法律事務所のような専門職の職場では、新人弁護士で1075万円を貰っていることがあるとも聞きます。これらの方のマインドがサラリーマン的なものであれば、高度プロフェッショナル制度を適用するのは気の毒と言わざるを得ません。

したがって、私としては、高度プロフェッショナル制度の年収要件としては2000万円が良いのではないかと思っています。2000万円の年収があれば、1つの会社からしか収入を得ていないサラリーマンであっても確定申告が必要であり、税務的にももはや普通のサラリーマンではありません。残業代が欲しいという年収額でもないでしょうから、高度プロフェッショナルとして認める一つの指標になると思うのです。

皆さんはどう思われますか?

629日の参院本会議で成立した「働き方改革関連法」の柱である、「高度プロフェッショナル制度」について検討したいと思います。

 

1 高度プロフェッショナル制度とは何か?

高度プロフェッショナル制度とは、「残業代ゼロ法案」や「ホワイトカラーエグゼンプション」ともいわれていますが、高度の専門的知識等を必要とする業務に就いている一定の年収(年収1,075万円以上 ※現在)の労働者のうち、その労働者の同意があること等を前提に、労働基準法に定められている労働時間、休日及び深夜の割増賃金等の規定が適用されないという制度です。要は、就業時間に縛られない代わりに、深夜残業しようが、休日出勤しようが、残業代や深夜勤務手当、休日勤務手当は支払われないという制度です(以下の表参照)。

[表:高度プロフェッショナル制度の特徴]

高度プロフェッショナル制度の特徴

労基法上の規制

一般労働者

高度プロフェッショナル

法定労働時間

時間外割増賃金

休日・深夜割増賃金

休憩時間

                     ○…適用、☓…不適用

この制度を設けた趣旨は、従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないとされている業務(アナリストやコンサルタント等)については、時間ではなく成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズに応えて、労働者の意欲や能力を十分に発揮できるようにするためと説明されています
(労働政策審議会「今後の労働時間法制等の在り方について」https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000073981.htmlなど)

これはつまり、成果主義的な色彩の強い業務の場合には、成果さえ出せば早く帰れるということにすれば、勤務時間に縛られないことになり、意味もなく勤務の終了時間まで居残り続ける必要はなく、また残業代のためにダラダラ仕事を続けることがなくなるので、労使双方にとってメリットがあるという話です。
本当にこのような理想的な結果になるのか?という疑問があるので検討してみます。

 

2 対象となる業務等

高度プロフェッショナル制度の対象となる業務は、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、アナリスト業務(企業・市場等の高度な分析業務)、コンサルタント業務、研究開発業務等を想定しているということですが、これらの業種は総じて長時間労働が常態化している業種であるといえます。
これらの業種の労働者は、業務が早く終わったので帰りたい、というよりも業務が終わらないので帰りたくても帰れないというほうが多いのではないでしょうか。

仮に業務を終えて帰れる余裕がある方でも、帰れるのは最初だけで、管理職(使用者)に早く帰っているのを目撃されたら最後、「まだまだ余裕があるな」と思われて、更なる業務を課されるのが目に見えています。そのようにならないように(又はそのようになったとしても)、労使共に納得できるように、成果(目標)をきちんと設定することが必要不可欠になってきます。
それでも、高給取り(現在のところ年収1,075万円以上)だからいいのでは?という意見があります。

本当に高給の労働者が対象なのかを見てみますと、今回の法律では、高度プロフェッショナル制度の対象者の年収が「基準年間平均給与額(略)の三倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省で定める額以上であること」(改正労基法第41条の22号ロ)とされています。
すなわち、高度プロフェッショナルの基準となる年収額は、少なくとも労働者全体の年間平均給与額の「三倍の額」を上回ることが「法律」で定められているので、高度プロフェッショナル制度が高給の労働者を対象としていることは疑いがないでしょう(現在のところ年収1,075万円以上)。

そのため、巷で言われているような、国(厚生労働省)が年収基準をどんどん下げてしまい、大勢の労働者が高度プロフェッショナル制度の対象者になってしまうのではないか、という指摘は当たらないと思います。なぜなら、高度プロフェッショナル制度の対象者を増加させるためには、この「三倍」ルールを撤廃(法律を改正)しなければなりませんので、国(厚生労働省)の一存では少なくとも平均の三倍未満に年収を引き下げることはできないためです。

 

3 労働者にとって得な制度なのか?

もっとも、高度プロフェッショナル制度の対象者が高給であったとしても、残業代や休日手当、深夜勤務手当等は支払われないので、毎月何十時間も所定労働時間よりも多く労働した場合には、時給換算で考えるとどんどん時給が下がっていきます。結局、時給で見てみると他の労働者の時給とさほど変わらなかった、という事態になってしまう可能性があります。

それでも、短時間で成果が出せれば良いので、実力さえあれば高度プロフェッショナル制度のほうが労働者にとって有利なのではないか?という考え方について、そもそも欧米型成果主義が日本企業にどれだけ定着できるのか(定着しているのか)という問題があります。売上以外の数値化できるものを除き、「成果」というものを定義することは難しいため適切な目標設定ができず、目標未達による労働者のストレスや、従業員間に連携が生まれにくい等の問題があります。また定時に帰る労働者を良しとしない会社においては、働き方についての考え方を変えない限り、なかなか導入は難しいと思われます。

「高度プロフェッショナル」という言葉は何となく聞こえがよいので、「君は今日から『高度プロフェッショナル』だ。」と言われて、あまりよく考えないで同意してしまうと、後で自分に合わない制度だったことに気づくことになりかねません。(又は制度をよく理解したとしてもパワーバランスから断れないこともあるでしょう。)

成果主義に合った業務内容で、労働時間に縛られないほうが成果を出せるタイプで、かつ労働時間も長時間にならずに成果を出せる実力がある労働者であれば、高度プロフェッショナルに向いていると思います。もっとも、そのような方は、そもそも雇用契約上の労働者としてではなく、業務委託契約でフリーランスとして働いたほうが良いのではないか…と思います。

高度プロフェッショナル制度が、単に使用者が残業代や深夜勤務手当等の支払いを避けるためだけに用いられることがないように、上手く成果(目標)の設定をして、労使双方にとってメリットになる運用がなされることに期待したいと思います。

フレックスタイム制とは、あらかじめ1ヶ月以内の一定の期間(清算期間)の総労働時間を定めておき、清算期間を平均して1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えない範囲内で、始業・終業時刻を労働者の選択に委ねる制度です(労働基準法第32条の3)。

このフレックスタイム制は、労働者が各労働日の労働時間を自分で決められることから、生活と業務との調和を図りながら効率的に働くことをその狙いとしています。

 

1 導入の方法

フレックスタイム制を導入するには、以下の①と②を行う必要があります。

①就業規則その他これに準ずるものにおいて、始業及び終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨を定めること

 例えば会社の就業規則において、以下のような条項を定めることが考えられます。

第●条

フレックスタイム制が適用される従業員の始業及び終業の時刻については、従業員の自主的決定に委ねるものとする。ただし、始業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は午前6時から午前10時まで、終業時刻につき従業員の自主的決定に委ねる時間帯は午後3時から午後7時までの間とする。

ここでいう就業規則に「準ずるもの」とは、10人未満の従業員を使用する会社においては就業規則の作成義務がないため、例えば、上記の内容を定めた書面を作成する必要があります。なお、本論と外れますが、就業規則の作成義務がない会社であっても、画一したルール作りのためや、懲戒処分の根拠規定を設けるためにも就業規則を作成して周知しておいたほうが良いでしょう。

②労使協定を過半数労働組合又は過半数労働者代表との間で締結すること

 以下の表記載の事項(※(1)~(6))について、労使協定を締結する必要があります。ただし、この労使協定は36協定等と異なって、所轄労働基準監督署長への届出義務はありません。

表:労使協定に定める必要のある事項

労使協定に定める必要のある事項

備考

1)対象となる労働者の範囲

各人ごと、課ごとなど柔軟に範囲を定めることができます。

2)清算期間

1ヶ月以内に限りますが、1ヶ月とすることが一般的です。

3)清算期間における起算日

具体的な日を定める必要があります。例えば、「毎月1日」「毎月26日」等です。

4)清算期間における総労働時間

清算期間における総労働時間は、

「清算期間の暦日数/ 7 ×1週間の法定労働時間」

の範囲内にする必要があります(下記表参照)。

5)標準となる1日の労働時間

1日の標準となる労働時間(時間数)を定める必要があります。

6)コアタイム

労働者が1日のうち必ず働かなければならない時間帯で(ex.午前10時~午後3時)、必ず定めなければならないものではありません。コアタイムを設ける場合には開始と終了の時刻を明記する必要があります。

7)フレキシブルタイム

労働者が自らの選択により労働ができる時間帯(フレキシブルタイム)に制限を設ける場合には、その時間帯の開始及び終了の時刻を明記する必要があります。


表:清算期間における法定労働時間の総枠

 

週の法定労働時間数

40時間

44時間

清算期間の暦日数

31日の場合

177.1時間

194.8時間

30日の場合

171.4時間

188.5時間

29日の場合

165.7時間

182.2時間

28日の場合

160.0時間

176.0時間

(※東京労働局「フレックスタイム制の適正な導入のために」参照

https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/library/2014318104110.pdf


2 始業又は終業時刻の一方のみを固定するフレックスタイム制の可否

例えば朝礼ないし伝達事項があるので、朝は定時出勤にし、終業時刻のみ労働者の選択に委ねるフレックスタイム制を導入したいという企業があるかもしれません。

しかし、フレックスタイム制を定めた労働基準法第32条の3が、フレックスタイム制を「始業及び終業の時刻をその労働者の決定にゆだねる」ものであると定義しています。

また行政解釈では、フレックスタイム制は始業及び終業の時刻の両方を労働者の決定に委ねる必要があるとして、始業時刻又は終業時刻の一方についてのみ、労働者の決定に委ねるものでは足りないとしています(昭63.1.1基発1、平成11.3.31基発168)。

 そのため、朝は定時出勤にし、終業時刻のみ労働者の選択に委ねるような、始業時刻のみ固定するフレックスタイム制は導入できないものと考えられます。

 しかし、私としては、フレックスタイム制の導入は労使間の合意(労使協定)を前提としており、またフレックスタイム制を導入しても実労働時間の把握義務は使用者側に依然として課されたままであるため、始業時刻のみ固定するフレックスタイム制を導入しても、労働者の権利を害するような事態は生じないものと思います。

そのため、フレックスタイム制を硬直的に定義し運用する必要はないと思いますので、始業時刻又は終業時刻の一方が固定されるようなフレックスタイム制の導入を認めても良いと考えています。

 

3 導入している企業の割合

 このフレックスタイム制ですが、どのくらいの企業が導入しているかを見てみますと、以下の表のとおり、全企業のうち変形労働時間制(1年単位の変形労働時間制、1ヶ月単位の変形労働時間制、フレックス制)を採用している企業は57.5%と多いですが、変形労働時間制のうちフレックスタイム制を導入しているのは、全体で5.4%であり、導入している企業は少ないと考えられます。
 フレックスタイム制は、ワークライフバランスの取れた働き方や残業削減といった狙いがあると思いますが、上記2のように使い勝手が良いものとはいえず、またフレックスタイム制の勤怠管理は難しいので人事部の負担や、チーム間や取引先との時間調整の難しさが導入を遠ざけているのかもしれません。

表:フレックスタイム制の導入企業の割合

企業規模

変形労働時間制の採用

フレックスタイム制導入

全体

57.5

5.4

1000人以上

74.3

23.6

300~999

67.9

14.2

100~299

63.3

6.4

30~99

54.3

3.7

※調査対象数6,367、有効回答数4,432、有効回答率69.6

(厚生労働省「平成29年就労条件総合調査 結果の概要」

https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/17/dl/gaiyou01.pdf

6月29日の参院本会議で、いわゆる「働き方改革関連法」が成立しました。

残業代の上限規制や、同一労働同一賃金制度の導入、またいわゆる高度プロフェッショナル制度の導入が柱となっており、労働基準法や労働契約法等の複数の改正された法律を、一言で「働き方改革関連法」と呼んでいます。

残業代の上限規制についてですが、現行の労働基準法が規定している労働時間は、18時間、週40時間となっており、この時間を超えて労働者を働かせるためには、いわゆる36協定を労使間で締結する必要があります。

36協定を締結した場合は時間外労働が可能になりますが、今回、時間外労働について以下の上限規制が設けられました。

・月45時間、年360時間まで

・臨時的な特別な場合があっても、年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)まで

従来までは、厚生労働省が時間外労働の限度に関する基準の告示を出してはいましたが、今回その基準が法律に格上げされ、罰則による強制力を持たせることになりました。

これにより、行き過ぎた時間外労働に歯止めをかけることが期待されています。

もっとも、①1ヶ月100時間の時間外労働又は②2ヶ月~6ヶ月の間に1ヶ月80時間を超える時間外労働については、健康障害リスクが高まるという基準(いわゆる過労死ライン)があり(基発第1063号・https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/dl/040325-11a.pdf)、今回規制された上限はこの基準に近いものになっています。

そのため、この上限規制の範囲内であっても、健康障害リスクは皆無とはいえず、果たして今回の上限規制が十分な基準と言えるかどうかは正直難しいところだと思います。

また、長時間労働の是正のために、今回新しく年次有給休暇の強制付与制度も設けられました。これは、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち5日について、毎年、使用者は時季を指定して与えなければならないとされました。 

この制度の対応策として、今まで会社が任意に定めている夏季休暇や冬季休暇を所定休日とするのではなく、これらの休暇を有給休暇として取り扱うことで、この年次有給休暇の強制付与制度をしのごうとする会社もあると予想されます。

このような有給休暇の入れ替え行為は、現時点でも会社が労働者に無断で進めてしまうこともあると思いますが、このような行為は年次有給休暇の計画的付与(労基法第39条第6項)に当たるので、労使協定が必要になりますので注意が必要です。

「働き方改革関連法」の成立の背景には、労働人口の減少、長時間労働、少子高齢化等の様々な問題があり、問題の種類によっては解決法が相矛盾するものもあるので(ex.労働人口の減少と長時間労働)、これらを一挙に解決することは簡単ではありません。

また、何をしようとしても抵抗勢力が出てきますので、抜本的な解決は難しいところです(人間自分が一番なので、内容によっては私も抵抗勢力側につくことになるかもしれません)。

今後「働き方改革関連法」の柱である同一労働同一賃金制度や高度プロフェッショナル制度についても、検討していきたいと思います。

今年の41日から、労働契約法第18条に規定されている無期転換ルールが開始されました。
まだ始まったばかりなので、実際に無期転換の申込みがどの程度行われているのか、使用者と労働者との間で何らかの問題が生じている等の報告やデータは集まっていませんが、今後使用者と労働者との間で生じるおそれのある問題を挙げていきます。

①業務形態の偽装

有期雇用契約から無期雇用契約に転換できるいわゆる「無期転換申込権」は、労働者側にイニシアチブがあるので、無期転換申込権の行使を防ぎたいと考えている使用者がいるかもしれません。
無期転換申込権は、有期労働契約が通算5年間を超えた場合に発生しますが、「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約」であることが前提なので、無期転換申込権が発生しないように、間に派遣会社を入れて派遣契約にシフトすることや、請負契約にチェンジすることが考えられます。

すなわち、派遣契約にすれば、使用者は派遣会社になるので、「同一の使用者」との間で有期労働契約を締結していることにはならず、この場合には形式的には無期転換申込権は発生しないようにも思えます。
しかし、そもそも派遣契約では特定目的行為(派遣労働者を特定する行為)は禁止されているところですが(労働者派遣法第26条第6項)、形式的に使用者を変えるだけの行為を行ったとしても、結局通算契約期間の計算上の「同一の使用者」とみなされることになると解されます。
(厚生労働省・平成24810日付基発08102号「労働契約法の施行について」では、このような行為は「法を潜脱するもの」であると指摘しています。http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002hc65-att/2r9852000002hc8t.pdf)

また、仮に請負契約にチェンジしたとしても、「労働者性」の有無は、あくまでも実質的に判断されますので、実態としては労働契約であるとして、「同一の使用者」との間で有期労働契約があったとみなされることになるでしょう。

②無期転換申込権の不行使条項

無期転換申込権の行使を防ぐために、有期労働契約に無期転換申込権の不行使を定めることや、無期転換申込権の不行使を契約更新の条件にして更新することが考えられます。

労働者が同意をしているのだから許されるのではないか、というわけにはいかず、雇止めを恐れる労働者の足元を見て得られた同意であり、実質は使用者が無期転換申込権の放棄を強要しているに過ぎないと裁判所にみなされる可能性があります。

このような行為は、結局労働契約法第18条の脱法行為であり、無期転換申込権の不行使条項や、更新の条件である無期転換申込権の不行使条件は、公序良俗に反して無効になると解されます。

③無期労働契約の労働条件の低下

労働者が無期転換申込権を行使すると、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)になるに過ぎず、その他の労働条件は従前と同一となります。

もっとも、期間の定め以外の労働条件を変更することは可能であり、労働契約法第18条も「別段の定め」があれば可能であると明記しております。この「別段の定め」は、就業規則や労働協約、個別の労働契約が該当します。

この部分を利用して、事実上無期転換申込権の行使を防ぐために、例えば無期転換行使後に適用される就業規則が、従前適用されていた就業規則の労働条件から著しく低下するような内容にすることが考えられます。

結局そのような就業規則は、労働契約法第18条で無期転換申込権を定めた趣旨を没却するものとして、就業規則に要求されている合理性を満たさず(労働契約法第7条)、当該就業規則の適用がなされないと考えられます(それ以外の既に規定されている就業規則のほうが適用される)。

無期転換ルールが開始された今、なんとか無期転換申込権の行使を防ぎたいと考えている方がいるかもしれませんが、立法経緯からすると現状では難しいと思います。
無期転換ルールについては、上記の想定される問題や、その他の問題が生じる可能性があり、今後もその動向に注目していきたいと思います。

ご存知のとおり労働基準法では、労働時間の限度を規律する法定労働時間(18時間、週40時間)が規定されており、この法定労働時間を超えて労働者に労働させるためには、時間外労働(及び休日労働)に関する協定(いわゆる三六協定)を使用者と労働者との間で締結しなければなりません(労基法第36条第1項)。

この点、いわゆる法内残業(会社が定めた所定労働時間を超えてはいるが、法定労働時間内で行われた残業)であれば、三六協定の締結は必要ありません。
三六協定を締結し労働者に残業をさせた場合には、使用者は残業代(割増賃金含む。)を支払わなければなりません(上記の法内残業であれば、時間分の賃金だけで割増賃金の支払いは不要です)。
その計算方法は次のとおりです。

・時間外労働の時間×1時間あたりの賃金(月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間)×1.25

※さらに、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合には、その超える部分の時間については、1.5倍の割増賃金になります。ただし、中小企業については猶予措置が定められていますが、平成313月末日までの見込みです(「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」の答申(平成2732日))。
従業員の労働時間管理は、タイムカードやICカード等の客観的な記録を基礎として行わなければならず、自己申告制を行う場合には適切な措置を講じなければなりません(詳細は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省労働基準局監督課平成29120日策定)参照 https://www.startuproudou.mhlw.go.jp/pdf/guidelines.pdf)

時間外労働の計算は客観的な記録を基礎として1分単位で行わなければならず、実務上(労基署対応上)、始業開始の何分か前は労働時間に算入しないことがありますが、これは労基署のいわばお目こぼしであり、やはり原則としては1分単位で計算する必要があります。

ちなみに、深夜労働(午後10時~午前5時)を労働者が行った場合には、深夜労働の割増賃金として、次のとおり加算されます(さらに法定労働時間外であれば、合計の割増率は1.5倍になります。)

・深夜労働の時間数×1時間あたりの賃金×0.25

次に、休日労働を労働者が行った場合は、1.35倍の割増率・・・かといったら必ずしもそうではありません。
労基法が定める週1日の「法定休日」に行われた労働と、それ以外に就業規則や労働契約で定められた週の休日である「法定外休日」に行われた労働とを区別しなければなりません。

すなわち、「法定休日」の労働については、次のとおり使用者には割増賃金を支払うことが義務づけられています(労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令)。

・法定休日労働の時間数×1時間あたりの賃金×1.35
(さらに深夜労働(割増率0.25)があれば、合計の割増率は1.6倍になります。)

一方で、「法定外休日」に行われた労働に関する賃金ついては、特に法律は規定していませんので、仮にその休日労働が時間外労働であれば1.25倍の割増賃金を支払わなければなりませんが、特に時間外労働にあたらなければその賃金は労働契約・就業規則の定めによって決まることになります。

「法定休日」に行われた労働と「法定外休日」に行われた労働とを区別せず、休日労働に対しては必ず1.35倍の割増賃金を支払う(貰える)と考えている方もいらっしゃるかと思いますが以上のとおり注意が必要です。

残業代の計算は、従業員数が多くなればなるほど大変な計算になり、また2年間の消滅時効にかかるとはいえ(労基法第115条)、6%の遅延損害金も加算されるので放置しておくとかなりの金額になるので気を付けなければなりません。なお、残業代は退職者に対しても支払う必要があり、退職者に対しては、退職後から14.6%の遅延損害金(賃金の支払の確保等に関する法律第6条第1項)が発生することになりますので注意する必要があります。

最近では労働者の意識も変わり、残業代もきっちり貰うという流れになってきており、金額が大きくなりがちな残業代の精算は、使用者にとっては頭の痛い問題ですね。
今では社会的にも「残業を前提としない働き方」が求められていますので、私自身も頑張りたいと思います(ちなみに弊事務所では専門型裁量労働制が導入されており、深夜・休日労働を除き残業代は発生しないので、私にとって「残業を前提としない働き方」は切迫した課題です)。

今年(平成30年)の41日から、「無期転換ルール」が実施されるようになります。

「無期転換ルール」とは、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みによって、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できるルールです。

このルールは労働契約法第18条で規定され、同条は平成2541日に施行されているのですが、経過措置によって、施行の日以後に締結した労働契約に適用されます。
そのため、実施されるのが最も早い方は、今年の41日にこのルールが適用されます。

今まで企業側としては、有期労働者を雇止めすることができたので、これが制限されるとなるとかなりの負担になります。
それでは、この無期転換ルールが、企業側にとってどのようなメリットがあるのかというと、厚生労働省のハンドブック(http://muki.mhlw.go.jp/policy/handbook_2017_3.pdf)によれば、

・長期的な視点に立って社員育成を実施することが可能になる

・会社の実務や事情等に精通する無期労働契約の社員を比較的容易に獲得できる

というメリットがあるとのことです。

しかし、無期転換ルールは、あくまでも労働者に無期転換への申込みを行う権利を認めたものなので、無期転換にするかどうかのイニシアチブは労働者側にあります。
そのため、上記の企業側のメリットはこじつけというか、結局メリットにはなっていないでしょう。

労働者としては、雇用の安定している無期労働契約に自分の意思で転換できるというのは大きなメリットです。しかし注意しなければならないのは、無期転換の申込みを行っても、あくまでも従前の有期労働契約の労働条件のうち、契約期間が無期になるだけですので、自動的に正社員と同様の待遇(給与、賞与、退職金等)になるわけではありません。

会社として注意しなければならないのは、無期転換した労働者に、会社のどの就業規則が適用されるのかをはっきりさせておかなければなりません。
通常は有期労働契約用の就業規則には定年を規定していない場合が多いので、仮に無期転換した労働者の適用される就業規則が、有期労働契約用の就業規則しかなかったとすると、会社は無期転換の労働者を、定年を過ぎても雇い続けなければなりません。

そのため、このような事態にならないように、定年だけでなくその他の労働条件についても、会社の運用に沿った内容を定めた無期転換用の就業規則を作成しておくことが望ましいでしょう。

人生100年時代です。
定年以降に有期労働契約を締結し、これが無期に転換した場合はどうするのか等、超高齢化社会を見据えて、就業規則等を用意しなければなりません。
実際に無期転換権を行使する労働者がどのくらいの人数・割合になるのかはまだ分かりませんが、今後の動向に注目したいと思います。

労働契約上の無期転換ルールをご存知でしょうか?
これは、2012年の労働契約法の改正により、新たに労働法18条に定められたルールです。

簡単に説明すると、契約社員・パート・アルバイトなどの期間が決められた労働契約をしている労働者(有期契約労働者と呼ばれています。)が、同一の使用者(企業)との間で、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合、有期契約労働者からの申込みにより、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換されるルールのことです。たとえば、 契約期間が1年の場合、5回目の更新後の1年間に無期転換の申込権が発生します。有期契約労働者が無期転換の申込みをした場合、使用者は、断ることができず、無期労働契約が成立することになります。

で、重要なのが、この労働契約法18条の無期転換ルールは、2013年4月1日から施行されたので、無期転換ルールにおける「5年間の期間」は、既に2013年4月1日から起算されており、来年2018年4月1日から無期転換権を取得する有期労働者が発生することです。

では、有期契約労働者が無期転換権を行使した場合、会社とこの労働者との契約関係はどのようになるのでしょうか?

労働契約法18条1項によれば、原則として、期間が有期から無期になること以外はそれまでの労働契約が適用されます。したがって、期間1年、週3日、1回あたり6時間、給料月額10万円のバイトが無期転換権を行使した場合には、単に期間が1年契約だったものが無期になるだけで、週3日、1回あたり6時間、給料月額10万円という労働条件には変更がないのです。

しかし、これには例外があります。すなわち、会社にこの無期転換権を行使した労働者(無期転換労働者)に適用される定めがある場合には、その定めが適用されることになります。たとえば、これまで正社員規則、契約社員規則、アルバイト規則しかなかった会社が、新たに、無期転換労働者に適用される規則を作れば、それが適用されることになりますが、もし特別にそのような規則を作らなかったのであれば、有期が無期になる点を除いて、従前は契約社員だった人には契約社員規則が、従前はアルバイトだった人にはアルバイト規則が、それぞれ適用されるということになるのでしょう。

というわけで、現在、来年4月1日以降に無期転換労働者が発生する可能性がある会社では、無期転換労働者に適用する規則を作っている会社も多いのではないかと推測します、その準備を後押しするために、厚生労働省では、ウェップで就業規則のサンプルを公開したりしていますね(http://muki.mhlw.go.jp/point/)。

ただ、ここで私には、どのように解釈したら良いのかわからない問題があります。

(1) たとえば、バイトばかりがいる会社が、バイトの無期転換権行使を阻止するために、無期転換労働者用の就業規則を作り、そこには、正社員並みの労働条件、たとえば、週5日労働、1回8時間労働、転勤命令に従う義務あり、残業命令に従う義務あり、もちろん給料は正社員なみに支払う、などと定められていたとする。そのため、多くのバイトは、事実上、無期転換権を行使できないでいる。このような就業規則は、実質的には、労働契約法18条の無期転換ルールの趣旨を没却するものであり、また労働契約の不利益変更禁止の精神も没却するから、無効なのではないか?

(2) IT業界では、案件をわたりあるく契約社員の方が正社員よりも給料が高い場合があるが、無期転換労働者規則において、給料は正社員並みにすることとした。しかし、そもそも無期転換権行使により給料を減額することは、上記と同様、無期転換ルールの趣旨を没却し、労働契約の不利益変更禁止の原則にも反するので、許されないのではないか?

労働法を専門にしている弁護士に、上記の質問を聞いてみましたが、まだ事例がなく、はっきりとした答えはないようです。

私の弁護士としての経験からすると、日本の会社は、上記(1)及び(2)のようなことは、法律上許されても社会からの非難を恐れてやらないところが多いのではないかと推測しますが、価値観の違う外資系の会社であれば、法律上許されるのであれば、実際にやるところが出てきそうです。
これからどのような解釈になるのか、注目してみたいと思います。

ちょっと古いニュースになってしまいましたが、2015年(平成27年)9月11日に改正派遣法も成立いたしました。

(2015年9月11日の日経新聞電子版の記事から)

「企業の派遣受け入れ期間を事実上なくす改正労働者派遣法が11日昼の衆院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。」

「政府が進める労働法制改革の柱の一つで、9月30日に施行する。」

派遣法改正は、過去に2度ほど廃案となっており、今回も日本年金機構の個人情報流出問題などの影響で参院での審議が停滞していたため、今回も「2度あることは3度ある」なのか?と思いましたが、「3度目も正直」でようやく成立しましたね。この改正については、私もいろいろと意見があるところなのですが、成立した以上、よい運用を期待しています。


2015年6月20日の日経新聞朝刊3頁の『労働改革ようやく前進』『派遣法改正、成立へ』『脱時間給 労基法は不透明』という見出しの記事で、派遣法の改正案が衆議院を通過したことが報道されています(というか、他のマスコミでも大々的に報道されました。)。


企業が派遣社員を受け入れる期間の上限を事実上なくす労働者派遣法改正案が19日の衆院本会議で自民、公明両党と次世代の党の賛成多数で可決された。維新、共産両党は反対した。政府・与党は24日までの今国会会期を2カ月超延長する方針で、成立は確実だ。改正案は安倍政権が岩盤規制改革とみなす労働法制見直しの柱。過去2回の国会で廃案になったが、実現に向けて前進した。


今度こそ、派遣法の改正案が成立することはほぼ間違いないようです。私には、中小の会社のクライアントも多いので、特定派遣の廃止に関連する問題のアドバイスが多くなりそうです。 

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