カテゴリ: 労働法務

adtDSC_6205厚生労働省によると、73日時点において、新型コロナウイルスの影響で、勤め先から解雇や雇い止めにあった人が見込みも含めて全国で3万人(うち非正規労働者は約1万人)を超えたとのことです。
(厚生労働省:「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について(73日現在集計分)」https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000646779.pdf

 

新型コロナウイルスは多くの業界に影響していますが、今回は、新型コロナウイルスを理由として、正社員(期間の定めのない労働契約を締結している労働者)の解雇はできるのか?という点を検討したいと思います。

 

そもそも解雇とは、労働者との間に締結された労働契約を会社が一方的に解除することをいいますが、解雇と言っても、普通解雇(社員の勤務態度、仕事の能力などを理由に行われる解雇)、懲戒解雇(重大な違反行為をした場合の解雇)、整理解雇(会社の経営難を理由とした解雇)などがあります。
新型コロナウイルスを理由とした解雇は、会社の経営難を理由とした解雇ということになると思いますので、整理解雇に位置づけられるでしょう。

 

労働契約法では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」(第16条)と定められていますが、特に普通解雇と整理解雇などを区別しているわけではなく、また「合理的な理由」や「社会通念上相当」かどうかは解釈に委ねられています。
実務上、整理解雇の合理性・相当性については、以下の4つの要素によって判断されるとされています。ただし近年では、「退職条件」(割増退職金の支払い、就職先のあっせん等)の有無・程度も考慮要素にしている裁判例もあります。

 

①人員削減の必要性

②解雇回避努力

③人選の合理性

④手続の相当性

 

この中の解雇回避努力(②)について、解雇をすると従業員の生活の糧を奪うことになるので、いわば最終手段的なものであり、会社としては解雇を避けようと努力したけど結局駄目でした、という事実が重要になります。
一般的には、整理解雇をする前に、経費削減、時間外労働の中止、新規採用の中止、賞与の支給停止、休業、非正規労働者の労働契約の解消、希望退職者の募集などを行い、それでも会社の経営状況から考えて整理解雇をせざるを得ないといえる場合には、この解雇回避努力(②)を充たしていると評価されます。

 

また、今回、新型コロナウイルスに対する各種救済制度があるので、解雇回避努力(②)を充たしているといえるためには、これらの利用を検討する必要もあるでしょう。
ただし会社の経営状況によっては、上記の経費削減等の策をとっている暇がない場合もあるので(人員削減の必要性(①)の程度が高度な場合)、まずはこの救済制度が利用できないかを検討することもあり得ると思います。

 

この救済制度ですが、例えば、厚生労働省の雇用調整助成金、経済産業省の持続化給付金(中小企業向けの給付金)、各金融機関による事業者の元金弁済期の猶予(リスケジュール)等の支援、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫の新型コロナウイルス感染症特別貸付、各自治体による支援制度(融資のあっせん、利息負担の軽減等)などがあります。

 

上記の雇用調整助成金は、労働者を休業させた場合に支払う休業手当の一部を助成する制度ですが、いち早く大手航空会社のANA(全日本空輸)は客室乗務員の休業を行い、この雇用調整助成金の申請をしたことがニュースになりました。
雇用調整助成金は、今回の新型コロナウイルス騒動の前からあった制度であり(今回、助成率や上限額が引き上げられました。)、2008年のリーマン・ショックの時にも多くの会社が利用して、雇用維持につながったという事実がありますので、今回も大いに活躍することが予想されます。

 

その他に、上記要素(①、③及び④)の有無・程度も重要になってきますので、「新型コロナウイルスを理由とした(整理)解雇はできるのか?」という問いは、簡単に答えが出るものではなく、諸事情を総合的に検討する必要があります。

 

新型コロナウイルスによって各業界が大きな打撃を受けており、今後整理解雇が増えていくおそれがありますが(最初の段階は退職勧奨や希望退職者の募集が増えるおそれ)、労使双方が休業や各種制度の利用について協議・検討できれば、解雇にまで至らないケースもあると思いますので、労使が一緒になって今回のコロナ禍を切り抜けるための方策を模索できればと思います。
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IMG_2781(写真は、2020年7月17日お昼の銀座中央通。東京都の新規コロナ感染者が293人と過去最高だったからか、それとも梅雨の長雨が続いているからか、人通りがまばらで、寂しげな様子です。)



(この原稿は使用者サイドから見た法律関係を説明します。)


まず、使用者が設問のような命令を出すことができるか?ですが、使用者は労働者の業務や職場の環境について指揮命令権・管理権を有するとともに、労働者について安全配慮義務を負っています。

新型コロナウイルスの感染拡大が重大な問題となっている現在の状況で、ゴホゴホ咳をしていて、コロナ感染が疑われる従業員に勤務を続けさせることは、仮に本当にコロナに感染していたときは、他の従業員に対する安全配慮義務も尽していないことになるので、使用者としては、当然に、従業員に対する指揮命令権、職場環境についての管理権の一環として、帰宅するよう命じることができると考えてよいでしょう。
で、この従業員の仕事が自宅でできるものだったらよかったのですが、できない場合、労働者に休業させることになります。

次に、その場合、休業手当(給料の60%以上)を支払う必要があるかについて問題となります。多くの会社では、そこまで厳密な取り扱いはしておらず、従業員が風邪などで休んでも定額の給料を支払っているということかもしれませんが、法的に詰めて考えると、「ノーワーク・ノーペイ」が原則ですから、労働者が休業していた期間は給料を支払わなくてよいのでは?という疑問が発生するわけです。

この点について規定しているのが、労働基準法第26条です。

 

(休業手当)

26条  使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の60以上の手当を支払わなければならない。

 

つまり、コロナに感染している疑いのある労働者に帰宅を命ずることが、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するかがポイントです。

考え方としてはいくつかあるでしょう。
例えば、コロナに感染していることが確認されている従業員であればいざしらず、コロナ感染の「疑い」だけで、ノーペイという不利益を課すのは「推定無罪」という法原則に反すると考えて、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するという考え方もあるでしょう。

また、労働法という分野では労働者を社会的弱者と考えて保護することに重点が置かれますので、この問題を考えるにあたっても、労働者保護にウエイトを置き、コロナ感染の「疑い」で休業命令を出すのは、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するのだ、という考え方もあるでしょう。

しかし、ゴホゴホ咳をしていても、PCR検査でコロナ陽性が確定していない従業員に休業を命じると全て「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当すると考えるのは不合理です。なぜなら、実際にコロナウイルスに感染していることを確認してから休業命令を出すとするとコロナ感染予防対策として効果がなく、他の従業員に対する安全配慮義務も尽くせなくなるからです。

これに対しては、「いやいや使用者の指揮命令権の一環として休業命令自体は出せるのだから、使用者は休業手当の支払いを覚悟して休業命令を出せば良いではないか?」という人がいるかもしれません。

しかし、一方では(コロナ感染拡大予防対策などといって)休業命令を出すことを推奨しておきながら、他方ではその休業命令を出すことを躊躇させるような解釈をするのは、ベクトルの方向がちぐはぐで、良い解釈論とは言えないと思います。

そこで、労働者の状態がどの程度であれば、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するのか?という更に細かい議論に入っていきます。極端な例で言えば、労働者がちょっと咳をしただけで休業命令を出すとすれば、それは「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当の支払いの対象になるが、従業員が、ゴホゴホ、ゼーゼーしながら咳をしていて、見るからに苦しそうであれば「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当しないということについては誰もが納得すると思うのですが、その間の事案についてはどう考えればよいのか?ということです。

で、この点に言及しているのが、厚生労働省のHPにある次のQ&Aです。

 

〈感染が疑われる方を休業させる場合〉

3 新型コロナウイルスへの感染が疑われる方について、休業手当の支払いは必要ですか。

感染が疑われる方への対応は「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)症状がある場合の相談や新型コロナウイルス感染症に対する医療について問1「熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。」」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-1)をご覧ください。

これに基づき、「帰国者・接触者相談センター」でのご相談の結果を踏まえても、職務の継続が可能である方について、使用者の自主的判断で休業させる場合には、一般的に「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当てはまり、休業手当を支払う必要があります。

 
このAnswerの中で、「「帰国者・接触者相談センター」でのご相談の結果を踏まえても」という部分は、そんな相談をしている余裕はないので、適当ではないです。その点は置いておいて、上記のAnswerで引用されている「問1「熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。」(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00001.html#Q5-1)のQ&Aを見てみると、次のとおりです。

 

問1 熱や咳があります。どうしたらよいでしょうか。

 発熱などのかぜ症状がある場合は、仕事や学校を休んでいただき、外出は控えてください。休んでいただくことはご本人のためにもなりますし、感染拡大の防止にもつながる大切な行動です。そのためには、企業、社会全体における理解が必要です。厚生労働省と関係省庁は、従業員の方々が休みやすい環境整備が大切と考え、労使団体や企業にその整備にご協力いただくようお願いしています。
 咳などの症状がある方は、咳やくしゃみを手でおさえると、その手で触ったドアノブなど周囲のものにウイルスが付着し、ドアノブなどを介して他者に病気をうつす可能性がありますので、咳エチケットを行ってください。

 帰国者・接触者相談センター等にご相談いただく際の目安として、少なくとも以下の条件に当てはまる方は、すぐにご相談ください。

息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場

重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

 

このAnswerを読んでも、使用者が従業員を休業させる場合に、従業員がどのような状態であれば、「使用者の責に帰す事由による休業」といえるのか直接の言及がないように思うのですが、なんとなく、

 

息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場

重症化しやすい方(※)で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合

※高齢者をはじめ、基礎疾患(糖尿病、心不全、呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)など)がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤などを用いている方

上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合

(症状が4日以上続く場合は必ずご相談ください。症状には個人差がありますので、強い症状と思う場合にはすぐに相談してください。解熱剤などを飲み続けなければならない方も同様です。)

 
☆の場合には、「帰国者・接触者相談センター」にご相談ください、としているのですから、この場合には、休業命令を出すこともやむを得ないと考えているのかなと思います。


上記のような状態にある場合には、新型コロナウイルスへの感染の可能性が高いと合理的に判断できますので、使用者側が休業命令を出すこともやむを得ない、むしろ労働者が(何らかの理由により)無理をして出勤してきているような場合には、休業命令を出すべきといえます。

というわけで、私の結論としては、従業員が上記の状態に当てはまる場合には、使用者の判断で休業させても、「使用者の責に帰す事由による休業」には該当しないと考えます。

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厚生労働省によれば、今年の521日時点で、新型コロナウイルスの影響によって新卒採用の内定を取り消された方が少なくとも98人いるとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASN5Q4GZBN5QULFA004.html

 

採用内定が会社から出ると、法的には、「始期付解約権留保付労働契約」が会社と採用内定者との間で成立したと考えられますので、条件付きとはいえ労働契約が締結された以上、いったん出した採用内定を、会社が自由に撤回できるということにはなりません。

 

実務上は、採用内定の取消事由となるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされています(最判昭54.7.20労判323-19)。

 

つまりは、採用内定者の態度が気に食わないなどの理由だけでは、採用内定を取り消すことはできません。
※採用内定を出す前の段階では、採用内定を出すかどうかについて会社に広範な裁量があるので、この程度の理由でも不採用にするということはよく聞く話です。

 

採用内定の取消事由となり得る主なケースは、以下のようなものがあり、採用内定時に署名する誓約書や承諾書に、これらが採用内定の取消事由になると具体的に記載されていることが多いです。企業側の観点からすれば、取消しの有効性に関わってきますので、できるだけ解約権の行使事由を明記しておくことは重要です。

 

・採用内定者の提出書類に虚偽記載(学歴詐称等)がある場合

・大学を卒業することができない場合

・身体又は精神の故障によって予定入社日からの就労の見込みがない場合

・会社の経営難等のやむを得ない事由がある場合

 

今回の新型コロナウイルスの影響による採用内定の取消しは、「会社の経営難等のやむを得ない事由がある場合」を理由にしているものと考えられますが、経営難を理由として採用内定の取消しを行うには、「いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する…4要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである」という裁判例があります(東京地決平9.10.31。※中途採用の裁判例)。

 

整理解雇の有効性の判断基準は厳格な基準ですが、採用内定の取消しは、採用内定者の他社就労の機会を奪っており、採用内定者の今後の生活・キャリアにも関わってきますので、慎重な判断が求められるべきという基準は適当であると思います。

 

したがって、今回の新型コロナウイルスの影響による経営難も、単に経営の見通しが不安等の漠然とした理由ではなく、具体的な数字に基づいて、きちんとした根拠を示せないと、採用内定の取消しは認められないと考えられます。

 

なお、内定取消・入職時期の繰下げにあった方のために、厚生労働省が4月から特別相談窓口を設置していますので、下記URLをご参照ください。
※厚生労働省「新卒者内定取消等特別相談窓口」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000193580_00003.html

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弊事務所の馬場悠輔弁護士が、Webメディア「スモビバ!」にて
「【新型コロナ】契約キャンセルや支払遅延、休業要請でも発生する店舗賃料...個人事業主を法律は守ってくれる?弁護士が解説!」(https://www.sumoviva.jp/trend-tips/20200525_1834.html)と
「従業員への賃金支払いや出社命令、取引先との契約トラブル対処など法人の新型コロナにまつわる悩みを弁護士が解説!」(https://www.sumoviva.jp/trend-tips/20200525_1835.html)と題する記事を2つ執筆し、公開されました。

是非、「スモビバ!」で記事をご覧くださいませ!
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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍首相は411日に緊急事態宣言の対象となっている7都府県の全事業者に対して、オフィス出勤者を最低7割削減するよう要請し、併せて全国の繁華街で接客を伴う飲食店への出入り自粛も呼びかけました。(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57959650R10C20A4EA3000/?n_cid=DSREA001

 

事業者として、オフィス出勤者の7割削減の要請に応えるためには、テレワークを導入するか、しばらく休業して出勤者自体を減らすかの選択を迫られることになります。
テレワークとは、時間や場所の制約を受けずに柔軟に働くことができる就業形態のことで、①在宅勤務、②モバイルワーク(カフェや飛行機のラウンジ、取引先の会社等の使用)や③サテライトオフィスでの勤務(レンタルオフィス、シェアオフィス等)と区分されています。

 

新型コロナウイルス感染予防のためのテレワークとしては、必然的に上に挙げたテレワークの区分のうち在宅勤務(①)になるでしょう。
もちろん、そもそもテレワークを導入することができない業種や、設備・セキュリティの面で難しい事業者もあると思いますので、新型コロナウイルス感染予防のために、時差出勤や時短勤務を導入することが考えられます。

 

まず、在宅勤務に関してですが、そもそも採用時に在宅勤務制度があることを労働条件通知書や就業規則の規程等で明示しているのであれば、使用者の業務命令として通常の勤務から在宅勤務へ変更が可能ですが、在宅勤務制度がない場合には、在宅勤務について労使間の合意が必要です。
また、在宅勤務においては労働時間の管理が問題となりますが、まず原則として使用者には労働者の労働時間を管理する義務がありますので、始業時・終業時に上長にEメールを送るなどを指示することで管理する方法があります。また昼食時間等により一定時間離席するような場合にも上長等に連絡することで、使用者は労働時間を管理することが考えられます。

 

※このほかに労働時間の管理方法としては、厚生労働省が方法やツールを紹介していますのでご参照ください。

「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/02.pdf 

「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf 

 

在宅勤務のようなテレワークにおいては、よく事業場外みなし労働時間制(所定労働時間、労働したものとみなす制度)が適用されるのかが問題となりますが、そもそも同制度が就業規則等に明記されていないと適用されず、また労働者が随時使用者の具体的な指示に基づいているような場合には適用できないので、注意が必要です(その他に、使用する情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態においていないことの要件が必要です)。

 

実は、今回の新型コロナウイルス感染症対策として、テレワークを新規で導入する中小企業の事業主に対して、所定の要件を充たした場合には、国から助成金が支給される制度があります。(厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html

 

また、時差出勤については、これも元々始業時間・終業時間が労働契約で決まっており、これを変更する必要があるので、始業時間・就業時間の繰り下げや繰り上げを定める就業規則がなければ一方的に行うことはできません。
今回のような緊急のケースでは、悠長に就業規則の変更手続を行う時間がないと思いますので、労働者との合意により、始業時間・終業時間の変更をすることになるでしょう。
ただし、多くの企業が時差出勤を導入すると、繰り上げた時間・繰り下げた時間に通勤者が増え、かえって新型コロナウイルスの感染予防にはならないので、状況に応じて始業時間・終業時間を変更していく必要があるでしょう。

 

今回の政府によるオフィス出勤者の最低7割削減という要請は、元々準備をしていない企業にとっては非常に難しいものであり、多くの事業者に動揺が生じることは想像に難くありませんが、労使間で十分に協議しながら進めていく必要があると思います。
新型コロナウイルスの感染者数は日々増加していますが、今後は、これにより働き方に対する国民全体の意識・価値観の変化が生じることになると予想されます。

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新型コロナウイルスの感染が全国的に広がっていることを受けて、日本政府は、47日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を発令しました。
今回の緊急事態宣言の対象区域は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫及び福岡の7都府県で、対象期間は今のところゴールデンウイーク明けの56日までの1ヶ月間としています。

 

緊急事態宣言が出されると、対象区域の都道府県知事は、不要不急の外出自粛を要請したり、多数の者が利用する施設の管理者に対して、施設の使用制限の措置を講ずるよう要請(休業要請等)したりすることができ(特措法第45条)、今回も上記の都道府県知事から外出自粛要請(※休業要請については、4月10日現在、延期されるという話が出ています。)が出されています。
この外出自粛要請・休業要請に従って休業することにした会社は、従業員に休業してもらうことになりますが、これが「使用者の責に帰すべき事由」による休業といえる場合には、会社(使用者)は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を従業員に支払わなければなりません(労働基準法第26条)。

 

それでは、今回の緊急事態宣言(及び外出自粛要請・休業要請)を理由とした会社休業が、果たして「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?については、かなり解釈が分かれるものと思います。

 

上記のとおり、今回の緊急事態宣言及びそれに基づく外出自粛要請・休業要請は、あくまでも「要請」に過ぎないので強制力はなく、仮にこの要請に従わなかったとしても罰則があるわけではありません。この要請に従わない場合には、「指示」に格上げすることができますが、この「指示」に従わなかったとしても、やはり罰則があるわけではありません(特措法第453項)。

 

ということは、今回の緊急事態宣言(及び外出自粛要請・休業要請)を理由とした会社休業は、罰則のないような要請に、あくまでも会社が自主的な判断で従ったのであるから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するとして、会社は、休業期間中の休業手当を従業員に支払う必要がある・・・ということになるかというと、必ずしもそうはならないでしょう。

 

休業要請が出ているのに営業を続けた場合に、もし感染者を出してしまったときは、社会的に非難されることは避けられませんし、施設の消毒や検査等により完全休業せざるを得なくなるおそれもあります。また、外出自粛要請が出ている中で、来客の見込みがなく休業せざるを得ないケースもありますので、これらを全て「使用者の責に帰すべき事由」に当たると考えることは、法解釈としては難しいと思います。

 

この点、厚生労働大臣は47日の記者会見で、緊急事態宣言が発令され、特定施設の使用が制限された場合、使用者側の休業手当支払い義務について「一律に、直ちになくなるものではない」と述べましたが、これはあまりに不明確かつ無責任な発言でしょう。(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200407-00000066-kyodonews-bus_all

 

また、使用者が休業手当を支払った場合には、「雇用調整助成金」の制度の利用が考えられますが、支給金額には上限が設けられており、また、助成金はいつ支給されるのかが今のところ不明であるため、キャッシュに余裕のない使用者は、この助成金を当てにして休業手当を支払っていいものか迷うことになります。

 

結局、緊急事態宣言が出されても自粛「要請」に過ぎず、厚生労働大臣も上記のような曖昧な態度であると、ケースバイケースという話になり、使用者は休業手当を支払っていいものか、労働者は休業手当をもらえるのかについて、その結論は不明確となり、不安が続くことになります。

 

政府には、これこれの業種は営業を続けて欲しい、それ以外の業種で休業した場合は従業員に休業手当を支払うべきであり、休業手当を支払った会社には助成金を支給する、キャッシュフローに不安がある会社のために支給時期を明確にする・早める等のアナウンスをして、不安を解消して欲しいものです。そうはいっても、財源はないし、人手も足りないので、企業へ補償することなど今の時点で明確にすることはできないのだ、と言うのかもしれません。
だとしたら、そういった理由があることをきちんと数字を示して国民に説明するべきであり、それが民主主義の基本であり、そのあたりを省略してしまっては国民の納得を得ることは難しいでしょう。

 

今まで様々なことを政府は曖昧にしていますが、ある意味日本人の“人の良さ”に助けられている部分が多いと思いますので、是非ともリーダーシップを発揮して、できる限り国民の不安を取り除くような舵取りをして欲しいところです。

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新型コロナウイルスを理由として、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定しましたが、従業員の時差出勤を促したり、在宅勤務に切り替えたりと労働環境にも大きな影響を及ぼしています。旅客事業を営む会社では需要の落ち込みから、従業員に休業してもらう措置を講じているところもあります。

 

会社による従業員の賃金補償(休業手当)については、労働基準法第26条に定められており、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
この休業手当を支払う必要があるかは、新型コロナウイルスを理由とした休業が「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?という点を検討する必要があります。

 

政令によって、新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」として定められたため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」といいます。)によって、新型コロナウイルスの感染者だけでなく、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」や「感染症の無症状病原体保有者」に対して、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことが可能となりました(第7条、第18条)。
ただし、この就業制限は、厚生労働省令で定める業務(飲食物の製造・販売、接客業等)に限られていますので、その他の業務に就いている方には、感染症法に基づく就業制限の対象とはなりません。

 

感染症法に基づく就業制限の対象とならない場合について、この点について、厚生労働省のWebページでは不明確なのですが、新型コロナウイルスは、労働安全衛生法施行規則第6111号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に該当するとして、新型コロナウイルスに罹患した場合は、同法第68条に基づいて、事業者はその従業員の就業を禁止させる法的義務を負うと考えます。
(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQA」「6安全衛生 問1」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q6-1 
「感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません。」とありますが、反対解釈として、感染症法により就業制限が行えない場合には、労働安全衛生法第68条の適用対象になると読めるのではないでしょうか。)

 

そのため、従業員が新型コロナウイルスに罹患した場合には、法律に基づいて従業員の就業が制限・禁止されるので、これによる休業は「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。
仮に、労働安全衛生法第68条が適用されないと解釈したとしても、使用者は他の従業員に対する伝染予防の義務(安全配慮義務)があるでしょうから、罹患した従業員を業務命令により休業させることは、いずれにしても「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられるでしょう。

 

問題になるのは、従業員が新型コロナウイルスに罹患した「疑い」がある場合の取扱いです。
この場合は、労働安全衛生法第68条の適用はなく(同条は罹患した場合の規定です。)、また感染症法に基づく就業制限がされないときは、どのようにして「使用者の責に帰すべき事由」かを判断するのかが問題になります。

 

この点について、厚生労働省のQA(問2843)によれば、a.風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)、又はb. 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、「帰国者・接触者相談センター」での相談を促しており、この症状が1つのメルクマールになると考えられます。
これらの症状がある従業員に休業してもらう場合には、他の従業員に対する感染予防の観点から、「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。

 

もっとも、今の時期は、使用者も敏感になり、上記a.又はb.の症状がなく軽い発熱程度の従業員にも休業してもらうことが多いと思いますが、このような場合の休業は、使用者による自主的判断であるとして、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたる(=休業手当を支払う必要がある)と考えられ、厚生労働省QA44)でも同じ解釈がされています。
使用者による自主的判断といっても、もし従業員が新型コロナウイルスに罹患していた場合には、会社(場合によっては会社が入っているビル全体)を長期間閉鎖せざるを得ず、後で罹患が判明したときの経済的リスクや社会的非難を受けるリスクを考えると、使用者は従業員に休業してもらうのもやむを得ないように思います。しかし、休業手当は従業員の生活補償の意味合いが強いので、このような場合でも、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたると考えられます。
(この意味で、民法上の「使用者の責めに帰すべき事由」(民法536条)については、過失責任主義に基づく帰責事由があると解される可能性は低いと考えられ、全額補償する必要はないと考えられます。)

 

以上をまとめますと、次のとおりとなると思います。もっとも以下は原則論で、就業規則に別段の定めがあれば、それに従うことになります(ただしその内容の合理性については解釈の余地は有り得るでしょう。)。

 

①新型コロナウイルスに罹患した従業員自ら会社を休んだケース

②新型コロナウイルスに罹患した従業員に会社を休むよう命令したケース

・法律上の就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・法律上の就業制限がない場合→休業手当を支払う必要なし

 

③新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるとして従業員が自ら会社を休んだケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・感染症法に基づく就業制限がない場合→(通常の病欠と同じ扱いとして)休業手当を支払う必要なし

※ただし、会社が、上記a.又はb.に至らない症状(業務ができる状態)でも休むように指示を出していた場合には、休業手当を支払う必要あり。

 

④新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるので従業員に会社を休むよう命令したケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がない場合→休業手当を支払う必要あり

※会社が指示を出す、方針を打ち出す程度でも、現状従業員は従わざるを得ないので、ここでいう「命令」に含まれると考えられます。

 

いわゆる新型コロナ特措法が成立し対策本部が設置され、オーバーシュートやロックダウン等の普段耳慣れない言葉も使われ始め、不安な日々が続きますが、早く収束していくことを祈ります。

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「同一労働同一賃金」という言葉が出てきて久しくなってきていますが、この「同一労働同一賃金」の対象となる労働者は、パートタイム労働者や有期雇用労働者だけでなく、派遣労働者も含まれます。
今年の41日に、この派遣労働者の「同一労働同一賃金」を実現するための改正派遣法が施行されます。

 

従来から、派遣労働者と派遣先の正社員(※ここでは「無期雇用のフルタイム労働者」と定義します。)との待遇の不公平感が話題になっていましたが、今回の改正によって、派遣元企業は、①派遣先の労働者との待遇を均等・均衡にする改善方法(均等・均衡方式)(改正派遣法第30条の3)、②派遣元と派遣労働者との間の労使協定に基づく待遇の改善方法(労使協定方式)(改正派遣法第30条の4)のどちらかを選択できるようになりました。

 

改正派遣法は、実際に働いている派遣先の正社員と比較すると出てくる不公平を是正するために改正されたものなので、派遣労働者が派遣先の正社員と同じ働き方をするのであれば、均等・均衡方式(①)が原則という立て付けになっています。
しかし、それだと大企業に派遣される場合は正社員との均衡待遇で給与が高くなる一方で、中小企業に行った場合は給与が下がってしまうので、給与が不安定になる等の理由で特例として労使協定方式(②)を認めています。
ただし、給与を派遣先に合わせる手間や、「なるべく自社の賃金データは開示したくない」という派遣先の事情から(労使協定方式だと情報提供義務が緩和されます。改正派遣法施行規則第24条の4参照)、多くは労使協定方式になると言われています。

 

さて、労使協定方式にする場合には、「その地域の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金」と比較して、同等以上の賃金になるようにしなければならないとされています(改正派遣法施行規則第25条の9)。
そのため、労使協定方式にする場合でも一定水準以上の賃金確保が必要となり、派遣元企業は従来の派遣料金を維持することはできず、派遣料金の値上げは必至です。
なお、大手人材派遣会社は今年の4月以降、派遣料金を12割値上げするとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54305270Q0A110C2MM8000/

 

こうなると、派遣料金の値上げに対応できない派遣先企業は、派遣労働者の受入れを減らすことになるため、結果的に派遣元企業による派遣労働者の雇用維持が難しくなるのは目に見えています。
ただでさえ無期雇用転換の回避のために、派遣労働者の雇止めが増えてくるといわれているのに、ますます派遣労働者の立場は不安定になると考えられます。
ただし優秀な派遣労働者の場合には、今回の改正派遣法をきっかけに派遣先企業から直接雇用のオファーがあるかもしれません。

 

こう考えると、派遣労働者の格差是正のためという理由で施行される今回の改正派遣法ですが、実力のある派遣労働者は派遣元企業に残ることができ(又は派遣先企業から直接雇用のオファーがあり)、他方でそうではない派遣労働者は居場所がなくなるおそれがあるので、結果的に実力主義が促進され、派遣労働者全体の保護には繋がらないでしょう。

 

日本の派遣制度は、派遣先の正社員よりも待遇面で立場が下になるような制度になってしまいましたが、もしかしたら当局としては、派遣法を改正することによって、派遣先企業の正社員以上に実力のある労働者又は専門的能力を持った労働者を派遣するという、アメリカのような派遣制度にシフトしていきたいのかもしれません。

 

以上のような改正派遣法に加え、近年では派遣会社は従来の届出制から許可制に変わり、許可の要件としても一定の基準資産額が求められる等、派遣事業への維持だけでなく参入もどんどん厳しくなってきています。
こうなると当然、派遣元も派遣先も共に、派遣制度を回避する方法はないか?という頭になりますので、「偽装請負」が促進されてしまうおそれがあります。
この偽装請負をチェックするために、労働局は今以上に目を光らせ、面談や立入調査を増やしていくことになるでしょう。派遣と(偽装)請負の境界は曖昧ですので、調査も簡単ではなく、それに対応することになる派遣企業も大変です。

 

今回の派遣法の改正によって、派遣先企業としては派遣料の値上げにより派遣制度の利用が難しくなり、派遣元企業としては派遣制度を維持できる体力のある派遣会社とそうでない派遣会社の2極化が進むと予想されます。改正派遣法の施行で、派遣制度は大きな転換期を迎えることを余儀なくされるでしょう。

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未払い賃金や残業代等がある場合に、労働者が会社に遡って請求できる期間は法律上2年間とされています(労働基準法第115条)。それを超える期間の未払い残業代については、会社は時効によって消滅したことを理由に支払いを拒むことができます。

 

今年41日施行の改正民法(新第166条)では、債権の消滅時効の期間について、

(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5

(2)権利を行使できる時から10年(※ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については20年 新第167条)

という整理をして、現行の民法の10年間という消滅時効期間を修正しました。

 

元々、民法では、労働者の給料に関する債権の消滅時効を1年間と定めていましたので(第174条第1号)、労働基準法の制定時に、このままでは労働者の保護に欠けるなどの理由で、民法の特別法たる労働基準法によって、1年間から2年間に延長したという経緯があるのです。
今回の改正民法では、この短期消滅時効の規定が削除され、債権について、一律5年以上の消滅時効の期間になったわけなので、そうすると今度は、「労働者に不利だった民法の消滅時効の規定が修正されたのだから、もう労働基準法の消滅時効期間の定めはいらないのではないか?」という話になります。

上述のとおり、労働者の保護のために時効期間を労働基準法で延長したのに、今度はその定めが労働者に不利な定めに変わってしまうのはおかしいので、このような話がでてくるのはごく自然な流れなのです。

 

それでは、労働基準法も、今回の改正民法の消滅時効期間に合わせることにしましょう・・・ということになるかというと、そう簡単な話ではありません。
今度は会社側に対するインパクトが大きすぎるのです。

 

M&Aで法務デュー・デリジェンス(買収先企業の法的リスクの調査)をするときに、未払い残業代を計算してみると、中小企業でも、その金額が数千万円になってしまうことも珍しくありません。ちなみに、退職金の未払いも見つかったりしますが、退職金についてはもともと消滅時効の期間は5年間になっています(労働基準法第115条)。

 

仮に今回、未払い残業代の消滅時効の期間を、今までの2年間ではなく、改正民法に合わせて5年間にした場合には、未払い残業代の金額が単純計算で2.5倍になり、会社にとってかなりのインパクトになります。会社の規模によっては、それこそ会社が立ち行かなくなるほどの金額になります。

このような理由で、労働債権の消滅時効期間については、改正民法と併せてその動向が注目されていたのです。

厚生労働省は昨年の1227日に、労働債権(未払い賃金・残業代等)の消滅時効期間を、労働基準法も改正民法に合わせて原則は5年としつつも、「当面3年」に改める方針を決めたということです。同省は今年の通常国会に労働基準法改正案を出し、改正民法と同時の施行をめざすとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASMDV5TL2MDVULFA02J.html

 

「当面」ということなので、今後どうなるのかはまだ不明ですが、いつか5年になる可能性があることを覚悟しておく必要があります。
会社としては、この暫定的な猶予期間があるうちに、未払い残業代が生じないような方策に本気で取り組まざるを得ないでしょう。

 

働き方改革による労働生産性の向上には、労働者側にも様々なメリットがありますが、残業代の消滅時効という数字として分かりやすい話にも繋がっていますので、労働生産性の向上は労働者・企業双方の目標になってきているといえるのではないでしょうか。

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最近話題の働き方改革ですが、このテーマに関して、先日、株式会社ワーク・ライフバランスの代表取締役である小室淑恵社長が弁護士会で講演をされ、この内容に大変感銘を受けましたので、この講演内容について少し話したいと思います。

小室社長が推進されているワーク・ライフバランスの考え方は、多くのメディアで取り上げられ、小室社長自身、テレビ等に出演されています。小室社長は、「働き方改革関連法」に関する国会審議の場に参考人として招かれ、安倍内閣の産業競争力会議の民間議員にも就任されています。

 

「ワーク・ライフバランス」という言葉を聞いて多くの人が勘違いしているのが、この言葉を、「仕事」と「家庭」の両立、と捉えてしまうことだそうです。このように捉えてしまうと、家庭(配偶者、子ども)のある人に配慮しましょうということで、独身者に多くの仕事を課してしまい、家庭のある人と独身者との間の対立構造を生む結果となり、結局組織として一つになれず、業績はマイナスになっていくとのことです。

そうではなく、「ワーク・ライフバランス」の「ライフ」はもっと広い意味で、「家庭」だけでなく、自己研鑽や運動、遊び、婚活なども含まれており、こう捉えることで、従業員のインプットや多様性に繋がって付加価値を生み出すことになり、結果的に業績にプラスになるというのです。

 

日本は現在GDP世界3位の先進国ですが、先進主要国の中で最も労働生産性が低い(21年間連続最下位)というのは有名な話です。労働生産性の算定は、付加価値を金銭だけで計算しているので色々と議論はあるところですが、とにかく先進主要国の中で日本が最も労働者一人あたりの就業時間が多いというのは事実です。

 

今後は少子高齢化が進み、国際競争力が低下することになり、このままでは日本はジリ貧になっていきます。このような日本が抱える課題を解決するには、今の時代がどうなっているのかを正確に把握する必要があります。ここで小室社長は、説得力のある根拠として、ハーバード大学のデービットブルーム教授の研究を挙げます。

 

一つの国の社会では、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」(※onus:重荷、負担)の2つの時期があります。

「人口ボーナス期」は、若者が多く人口構造が経済的にプラスになる時期で、安い労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方で、社会保障費が嵩まないので爆発的発展をするのは当然という時期のことをいいます。日本では、1960年頃~1990年代半ばがこの時期にあたり、中国はもうすぐこの時期が終わり、インドはもうしばらく続くそうです。

もう一つの「人口オーナス期」ですが、これは働く人よりも支えられる人が多くなることで、社会保障制度の維持のためにどんどん国民全体が貧しくなっていく時期をいい、日本は既に人口オーナス期に突入しています。重要なのは、一度人口オーナス期に入ると、二度と人口ボーナス期には戻れないという点です。

 

さて、日本よりも早く欧米諸国はこの人口オーナス期に入りましたが、欧米諸国とは異なり、日本は対策をとれず少子高齢化も進んでどんどん深刻化していっています。

それでは、どうすればこの状況を打開できるか?というと、人口オーナス期特有の働き方にシフトする必要があるとのことです。

 

時代と共に頭脳労働の比率がどんどん上がっていき、使える労働力を使おうと思ったとき、日本が持っている潜在的な国力に目を向ける必要があります。この潜在的な国力というのが「女性」であり、人口オーナス期で経済発展するためには男女共に「短時間で」働く必要があるとのことです。

日本は男女共に同じ教育を受けるシステムができあがっており、現在の大学進学率も男女共に50%前後で、このような高度教育を受けた女性を家庭の中に留めておくのはもったいないという発想です。これにいち早く気づいた欧米諸国は女性の社会進出を進め、フランスでは女性の就業率が8割を超えています。

 

ここで素朴な疑問が湧く方もいると思います。女性の社会進出を進めると少子化がますます進んでしまうのでは?というものです。この点、気になったので調べて見ると、フランスの出生率は1.922016年)と日本の1.442016年)よりも高く、長年2.00前後で推移しているというから驚きです(先進国の理想的な出生率は2.01です。2018年のフランスは1.88とちょっと下がったようですが)。

なぜフランスは女性の社会進出が進んでいるのに、出生率も高いのかというと、労働生産性が高いからというのがその理由になります。なお、夫婦が2人目の子どもを作りたいかどうかは、夫が育児に関わる時間が多いほどその割合が高くなるという結果が出ているそうなので、女性だけでなく、男性も労働生産性を上げて早く帰ることができれば、少子化対策にもなるのです。

 

労働生産性を上げる方法は色々とあるとのことですが(詳しくは小室社長の著書参照)、まず評価方法として、「期間あたりの生産性」ではなく「時間あたりの生産性」が高い人を評価するような仕組みを作らないと、労働生産性が上がりません(上げようと思わない)。

次に長時間残業の是正を行い、休業・時短を経ても継続就業できる制度を整備し、それからようやく女性を積極採用するという手順が重要であるそうです。

ちなみに小室社長は(よく言われるそうですが)フェミニストというわけではなく、日本に勝って欲しいから啓蒙活動をされているそうです。

 

今は女性活躍推進法によって、一定規模の企業は、男女別離職率や女性管理職比率、平均残業時間も公開されるようになっています。最近は人手不足で売り手市場ですが、就職活動では、企業のブランドやネームバリューなどよりも、男女共に、育休産休の取得の有無・期間、残業時間等も見て企業を選ぶようになってきています。

そうすると、良い人材を採れる企業とそうでない企業は今後二極化することになることが予想されますので、いち早く労働生産性に着目し、ワーク・ライフバランスの確保の重要性に気が付いた企業が生き残るのではないかと考えられます。

 

「働き方改革関連法」の施行により、残業代の上限規制が設けられましたが、勤務間インターバル制度(終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定する制度)は、まだ努力義務に留まっています。労働生産性を上げるためにも、勤務間インターバル制度についても早く法的義務になるべきと考えています。

労働生産性を上げるためには、まずは休息することが大切ですので、とりあえず今日は早く帰って休みましょう(私もこれを書き終えたので帰って休むことにします)。
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