カテゴリ: 労働法務

こんにちは。弁護士の萩原です。
以下は、今月発行のメルマガからの転載です。
賃金体系について労働契約法20条の観点から見直してみていただくきっかけとなれば幸いです。


平成28727日の日経朝刊によれば、正社員と契約社員の手当格差(労働契約法20条)に関する大阪高裁判決が、同月26日に言い渡された。

物流会社の有期契約の運転手が賃金格差の是正を求めた事案であり、一審(大津地裁彦根支部)は、「通勤手当」の不支給につき違法と判断していたが、控訴審である大阪高裁は、正社員に支給されている7種類の手当のうち、「通勤手当」のみならず「無事故手当」など4種類の手当の不支給について違法と判断したとのこと。その他の賃金の格差については、契約社員と正社員との間で、転勤や出向がないという事情を考慮したうえで、是正の必要性はない(適法)と判断したようだ。

先月、弊事務所ブログに「定年後の再雇用と労働契約法20条に関する判決」(東京地裁平成28513日判決)をテーマにした記事をアップしたばかり。

http://blog.tplo.jp/archives/47690816.html

労働契約法20条は、平成25年施行であるため、徐々に浸透し、現在も各地でさまざまな訴訟が係属しているだろう。和解で解決する事案ももちろんあるだろうが、訴訟上は当事者である当該労働者のみの賃金格差の話であるものの、その結果によっては事実上全社レベルでの賃金体系の変更が問題となってくる(今回の物流会社についても大阪高裁の判断に従う場合には、訴訟当事者である運転手以外にも同様の有期契約の運転手の賃金を見直す必要がある)。そのため、和解にならずに判決も出るケースが今後も続くのではないか。

こうした判決(裁判例)の集積が実務へ影響を及ぼすことは間違いない。とくに、今回は、高裁レベルで、しかも、「大阪」高裁の裁判例ということでその影響度は大きいと思われる。

判決文を入手できていないので推測になるが、今回の大阪高裁は、通勤手当以外の各手当の性質や位置づけを詳らかに検討したうえで、不合理性を判断したものと思われる。たとえば、無事故手当の性質は、運転業務において安全を奨励し、かつ安全を維持した社員に対する報奨であることからすると、契約社員も正社員同様の運転業務を担っており当然ながら無事故(安全)であることも求められていることに照らし、契約社員についてのみ不支給とすることは不合理と言わざるを得ない、といった具合に。

なお、行政解釈(厚生労働省)では、「とりわけ、通勤手当、食堂の利用、安全管理などについて労働条件を相違させることは、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されるものであること。」とされており(基発08102号)、手当については、「通勤手当」が例示されたうえで、その相違は特段の理由がない限り合理的とは認められないと解されるという見解が示されている。

通勤手当は言わずもがなであるが、その他の手当についても、正社員のみ支給対象としているものがある場合には、その合理性(不合理ではないか)を検討した方がよい。

正社員にのみに支給している○○手当は、どのような性質のものであり、なぜ正社員にのみ支給しているのかという趣旨に立ち返って検討するべきである。 

(こんにちは、弁護士の萩原です。本記事は、今月の弊所メールマガジンからの転載に、裁判例の整理を追加したものです。)

平成28627日付のインターネットニュースで、岡山県津山市にある農協(JAつやま)の正職員の3分の2にあたる200人超が、未払残業代の支払いを求めて訴訟を提起したという情報に接した。請求している未払残業代の額は約3億円にのぼるとのことだ(その他付加金も請求しているため、請求額全体は約6億円)。

団体交渉もしてきたようだが、結局、支払いの実現には至らず、訴訟提起になったようである。ニュースの中では、訴状(つまり労働者側の主張)によると、被告であるJA側は、原告の一部を「管理監督者」に一方的に変更し、残業代の支払義務を否定しているとのこと。

私は、このニュースに接して、ここまで徹底抗戦になってしまっていることに驚いたが、「管理監督者」性が問題となっていることが気になった。

確かに、労働基準法412号の「管理監督者」(監督若しくは管理の地位にある者)は、労働時間、休憩及び休日に関する規定は適用が除外されるため、時間外労働や休日労働の割増賃金の支払いは要しない(深夜業は別)。しかしながら、世間の認識でいう管理職と「管理監督者」は、イコールではない。というよりも、かなり乖離しているというのが実感だ。

この「管理監督者」の問題というと、遡ること平成20年のマクドナルドの事件で、店長の「管理監督者」性が否定されたことを想起される方もいらっしゃると思うが、今回は、古くからあるこの問題を取り上げたい。

管理監督者の定義及び該当性の判断基準に関しては、確立した最高裁判例はない。もっとも、おおむね、実務的には、「労働条件の決定その他労務管理等の重要な職務・権限を有し、それに伴う責任も負うなど経営者と一体的な立場にある者」などと定義され、その判断に際しては、以下の3点を中心に総合的に考慮したうえで判断していると分析される。

① 職務内容、権限および責任の重要性

② 勤務態様(労働時間の裁量・労働時間管理の有無、程度)

③ 賃金等の待遇

ただし、この判断の結果、「管理監督者」であるとされるケースはかなり限られている。非常に、非常に、ハードルが高い。予防法務(賃金の設定、賃金体系の設計)の際には、楽観的に「管理監督者」であるから残業代の支払義務を不要とすることは、危険なので要注意だ。

「うちは、係長になったら管理監督者として扱っています、お金も払っているし、、、」というお話をお伺いすることがあるが、残念ながら肩書といった形式で決まるものではなく、実態として、経営者と一体的な立場にあるといえるかどうかが勝負。「お金も払っているし、、、」という点も、あまり決め手にならない。

お金の面は、上記でいうと③の要素にあたる。この点、上記①②③のウエイトが気になるところであるけれども、裁判官の論考では、①と②が中心で、しかも、①、②の順で検討すべきであり、①、②の点において管理監督者性を肯定するのが難しい場合には、③を検討するまでもなく、管理監督者性を否定するのが相当な場合もあると考えられる、という趣旨のことが述べられている(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』135頁以下)。

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報道によると、平成28513日、東京地裁にて、労働契約法20条を適用し、賃金格差が不合理であるとした判決がありました。佐々木宗啓裁判長とのことですので、労働専門部民事第11部の判決ですね。

事案としては、定年後に嘱託社員として再雇用されたトラック運転手3名が、職務の内容は変わっていないのにもかかわらず、約3割の賃下げを受けたことは不合理であると、会社(運送会社)を訴えたものです。

問題になったのは、平成25年施行の改正労働契約法20条。
同条は、次のように規定しています。

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

20条 有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

長いですが、ざっくり申し上げると、

1)有期労働契約者と無期労働契約者の労働条件を比較して、期間の定めがあることにより相違する場合、その相違は不合理と認められるものであってはならない

2)不合理の判断要素は、
①業務の内容
②業務に伴う責任の程度
③上記①及び②並びに配置の変更の範囲
④その他の事情

と定めています。

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◇◆◇【どのような事件だったの?】◇◆◇

少し前になりますが、東日本大震災でシンガポールに避難したフランス国籍の元NHKスタッフ(フランス人女性)が、NHKを被告として訴訟提起した事案の判決がありました(東京地裁平成271116日判決)。

フランス人女性は、判決後、記者会見にて、「日本の司法制度は、人への敬意を重んじる国であることを証明してくれたと思います」「ダビデが巨人ゴリアテを倒したのです。どんなに強大な組織であっても、職員を大事にすることは企業の責任であること、個人に保障されている適正手続を否定する権利はないと思い出させてくれました」と語ったとのことです。

本件は、フランス人女性が、NHKに対して、

(1) NHKとの間で“労働契約”を締結しており、東日本大震災に際して業務を行わなかったことを理由に不当に解雇された(解雇無効)と主張して、労働契約上の権利を有する地位確認、賃金及び損害賠償金の支払を求め、

(2) (1)の請求が認められず、NHKとの間の契約が“業務委託契約”であったとしても、解除及び更新拒絶は無効であると主張して、業務委託料及び損害賠償金の支払を求めたという事案です。

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弁護士の萩原です。今回の記事に入る前にご紹介です。

労務関係に携わる法曹実務家必携というべき、菅野和夫先生の「労働法」(弘文堂)第 11 版が先月25日に発売となりました !!

第 10 版は 948 頁ありましたが、第 11 版はなんと 1166 頁にパワーアップしています。両版の差分の詳細については確認しておりませんが、取り急ぎご紹介でした。





▼休職制度に関する問題

さて、今回のテーマは、休職制度です。

ある社員が重い病気に罹患し、会社には、傷病で勤務に堪えない場合に最長 1 年間の休職を認める「私傷病休職制度」があるところ、医師の診断によれば 1 年以内に復帰するのは絶望的という状況の場合、休職制度を適用せずに解雇することは可能かどうかという問題を考えてみます。


▼結論(私の見解)

「 1 年以内に復帰するのは絶望的」であっても、休職期間中に傷病が治癒する余地が少しでもある場合、休職制度を適用しないままなされた解雇は、解雇権を濫用したものとして違法・無効と判断される可能性がある。実務上は休職制度を適用し、仮に休職期間満了時までに治癒しない場合に当然退職として労働契約を終了させるのが妥当。


▼ 1 .休職制度と解雇の関係

就業規則等で定められる「私傷病休職制度」は、一般的には、従業員が業務外の傷病により労務に従事することが不能になった場合において、当該従業員に対する解雇を猶予し、休職期間中に傷病が治癒すれば復職し、他方治癒しなかったときには、当然退職(自然退職)ないし解雇とするものです。

この私傷病休職制度の趣旨は、解雇を猶予し労働者を保護するという点にあります。

裁判例においても「この期間中の従業員の労働契約関係を維持しながら、労務への従事を免除するものであり、業務外の傷病により労務提供できない従業員に対して6 カ月間にわたり退職を猶予してその間傷病の回復を待つことによって、労働者を退職から保護する制度である」と判示されています(北産機工事件 札幌地裁 平11.9.21 判決 労働判例 769 号 20 ページ)。

他方で、就業規則等には、「職務遂行能力または能率が著しく劣り、改善の見込みがないと認められたとき」「精神または身体の障害もしくは病弱のため、業務の遂行に支障があると認められたとき」等の解雇事由が定められているのが通常です。

そこで、このような解雇事由に該当し得る従業員について、休職制度を適用しないまま解雇することができるか否か(労働契約法 16 条により「権利を濫用したもの」として無効と判断されてしまうか否か)が問題となります。


▼ 2 .検討

[ 1 ]解雇が有効となる場合

上記 1 で説明したとおり、休職制度は、休職期間中の解雇を猶予し、傷病の治癒を待ち、復職のチャンスを与えるもので、休職制度の利用により傷病が治癒する可能性があることが前提となっています。

このことからすると、休職制度を利用しても、その休職期間中に傷病が治癒する可能性がまったくないような場合には、休職制度を適用する前提を欠きますから、休職制度を適用せずに解雇をすることも許容されると考えられます。(農林漁業金融公庫事件[東京地裁平成 18 年 2 月 6 日判決・労判 911 号 5 頁]では、低酸素脳症による高次脳機能障害を負った職員について、「短期的に回復することがあっても、長期的には、大幅な回復が見込まれないものであるから、…就労能力の回復する可能性を十分に勘案していなかったとしても、そのことが被告の判断についての相当性を失わせる理由とはならない」とし、「客観的に就労能力のないと認められる原告について、…客観的な原告の症状、就労能力とも一致する資料に基づいて、原告に就労能力はないと判断し、休職命令を発しなかったことが相当でないということはできない」と判断されています)。


[ 2 ]解雇が無効となる場合

しかし、休職期間の利用により傷病が治癒する可能性が少しでもある場合には、解雇を猶予して、まずは休職制度を適用すべきであり、休職制度を適用しないままなされた解雇は、違法・無効と判断される可能性が高いと考えられます。

裁判例においても、「原告の躁の症状について、程度が重く、治療により回復する可能性がなかったということはできないから、…原告について、本件解雇当時、就業規則」に該当する解雇事由があったとはいえない旨判断されています( K 社事件東京地裁平成 17 年 2 月 18 日判決・労判 892 号 80 頁。本件解雇は解雇権を濫用したものとして無効とされました)。

東京地裁労働部におられた渡邉和義裁判官も、この K 社事件判決の存在を指摘し、「休職制度は、労働者の福利厚生の観点からの解雇猶予制度であるが、使用者が労働者に休職制度を適用する余地があるのにこれを適用せず、労働者を解雇した場合には解雇権の濫用として違法となることに留意しなければならない」と述べています(白石 哲編著『労働関係訴訟の実務』[商事法務] 211 頁)。


[ 3 ]実務対応

休職制度を適用する余地があるか否か、すなわち、休職制度を利用した場合の治癒可能性の有無の判断が重要となります。

しかし、この判断は、専門的な知識に基づく将来の予測判断となりますので、極めて難しいと言わざるを得ないでしょう。

また、従業員ごとに個別に治癒可能性の判断をする場合には、従業員間の公平性を担保しなければなりません(前掲 K 社事件判決においても、「被告は、 C 型肝炎から肝癌を患い、ラッシュ時の通勤及び 8 時間労働ができない者と遅くとも平成 15 年4 月以降平成 16 年 9 月までの間自律神経失調症を患っている者の雇用を継続している」ことを指摘し、「原告の症状の程度に照らすと、原告のみを解雇するのは、平等取扱いに反するというべきであり、本件解雇は解雇権を濫用したものと解される」とされています)。

そこで、実務上は、治癒可能性がまったくないことが明らかであるような極めて例外的な場合を除き、直ちに解雇するのではなく、まずは休職制度を適用するのが妥当といえます。


▼ 3 .まとめ

「 1 年以内に復帰するのは絶望的」と思われる場合であっても、実務対応としては、治癒可能性がまったくないことが明らかであるような極めて例外的なときを除き、傷病の治癒可能性が少しでもあるような場合には、直ちに解雇するのではなく、まずは休職制度を適用し、仮に休職期間満了時までに治癒しなかった場合には、当然退職として労働契約を終了させるのが妥当といえます。休職期間中に傷病が治癒した場合には復職させ、他方で治癒しなかった場合には、当然退職として対応すべきであると考えます。

今回は、出張中の特急列車内で、社員に過失がなく、不慮の事故(突然暴れ出した乗客の行為)に巻き込まれて負傷し、当該社員が担当していたこの日の重要な商談が不成立となり、会社は大きな損害を受けたというケースでの労務問題を考えてみます。
具体的には、①会社は安全配慮義務違反に問われるか、②労災となるか、③会社から加害者に損害賠償請求をすることは可能かについて検討します。

結論からすると、この場合、①会社は安全配慮義務違反に問われる可能性は低い、②労災となり得る、③会社から加害者に損害賠償請求をすることは不可能ではないが認容される可能性は低いと考えられます。以下、それぞれ検討したいと思います。

1.
 安全配慮義務違反の問題

1]労働契約法5
労働契約法5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定しています。これが判例上確立していた安全配慮義務に関して法文化された規定です。

2]安全配慮義務の性質

安全配慮義務は、個々の状況に応じて必要な配慮をする義務にすぎず、労働者の生命および身体等に被害が生じたことをもって直ちに義務違反とするものではありません。使用者がその事案において講じるべきであった措置の有無および内容がまず特定され、それが懈怠されたことが認められなければ、安全配慮義務違反は成立しないことになります。

3]具体的検討
今回のケースでは、社会通念上安全性が高い公共交通機関(特急列車)の利用を認めている以上、その過程で乗客の暴行により負傷することを予見することはできないといえます。例えば、使用者が、その労働者にボディーガードをつけること等の措置は、“講じるべきであった”とは評価し得ないと考えられます。
なお、これが仮に、使用者の施設内であり、現金や高価品が存在することが外部にも明らかというような事情下において、宿直を命じたケースであれば、例えば強盗等の不法侵入を防止し、危害を免れさせるための施錠ドア、オートロック、入室管理、カメラ付きインターホン、防犯ベル等の物的施設を設けるべきと考えられ、そのような措置を講じておらず、強盗の侵入を受け負傷をしたようなときには、安全配慮義務違反が成立するものと考えられます(川義事件 最高裁三小 昭59.4.10判決 労判42912ページ)。

2.
 労災の問題

1]「業務上」の解釈
「業務災害」とは、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」をいいます(労災保険法711号)。問題となる負傷が、ここでいう「業務上」といえるかどうかがポイントとなります。
「業務上」といえるには、まず「業務遂行性」を満たすことが必要です。「業務遂行性」は、労働者が事業主(使用者)の指揮命令下ないし管理下にあることを意味すると解釈されています。
次に、「業務遂行性」を満たした上で、「業務起因性」の要件をも満たさなければなりません。「業務起因性」とは、業務遂行に伴う危険が現実化したと経験則上認められることと解釈されています。

2]出張中の業務遂行性

原則として「出張中は交通機関や宿泊場所での時間も含めてその全般が業務遂行性を認められる」ことになります(菅野和夫『労働法 第10版』[弘文堂]453ページ)。出張は、使用者の命令に基づくもので、その支配下にあると認められます。
今回のケースでは、出張中の公共交通機関における移動時間での負傷ですので、業務遂行性は満たされるといえるでしょう。

3]第三者の行為による負傷の業務起因性
次に、業務起因性が問題となりますが、一般的には、業務遂行性が満たされる場合の災害は、原則として、業務起因性が認められることになります。とりわけ、業務遂行性が満たされる出張中の災害は、「危険にさらされる範囲が広いので業務起因性は広く認められる」と解されています(菅野・前掲書453ページ)。
もっとも、例外的に、業務とまったく関連のない私的行為や恣意的行為ないし業務遂行から逸脱した行為によって自ら招来した災害である場合には、業務遂行に伴う危険が現実化したものと経験則上認められないため、業務起因性は否定されると考えられます(大分労基署長[大分放送]事件 福岡高裁 平5.4.28判決 労判64882ページ)。
第三者からの不法行為によって負傷した場合にも、業務とまったく関連のない私的行為や恣意的行為ないし業務遂行から逸脱した行為によって自ら招来した災害でないときには、業務起因性は肯定されるものと考えられます。実際に、「第三者行為災害」と呼称され、類型化されています。
したがって、今回のケースのように「突然暴れだした乗客の行為」(不法行為)により負傷した場合にも、業務起因性は肯定されるので、業務災害に該当し、保険給付を受けられると考えられます。

3.
 会社が被った損害について加害者に対する賠償請求の問題
被害者である社員が、加害者に対して、不法行為に基づく損害賠償を請求することは可能です。なお、労災給付と重なる部分については調整が行われることとなります(労災保険法12条の4)。
それとは別に、使用者である会社が、社員の負傷の結果、商談が不成立となったことによる損害を加害者に賠償請求できるかという問題です。このようなケースはさまざまな捉え方があるものの、加害行為とその損害との間に「相当因果関係」が認められるかどうかがポイントとなります。
この点、「甲が交通事故により乙会社の代表者丙を負傷させた場合において、乙会社がいわゆる個人会社で、丙に乙会社の機関としての代替性がなく、丙と乙会社とが経済的に一体をなす等判示の事実関係があるときは、乙会社は、丙の負傷のため利益を逸失したことによる損害の賠償を甲に請求することができる」とした最高裁判例があります(最高裁二小 昭43.11.15判決 民集22122614ページ)。しかし、この判例は、負傷をしたのがいわゆる個人会社の代表者であったという顕著な特殊性が認められる事案での判断にすぎず、企業損害一般に言及したものではありません。むしろ、判例の考え方・趣旨からすると、このような特殊性が認められる限定的なケース以外においては、損害賠償請求は認められないと考えるのが妥当と考えられます。

したがって、今回のケースにおいても、負傷したのが通常の会社の一般社員である場合には、加害者の行為と会社が被った損害との間に相当因果関係がないとされ、損害賠償請求が認容される可能性は低いと考えられます。

今回は、下記のようなケースを考えてみます。

ある社員が、自身の身分を明かしつつ「自社商品をネット上で過大に評価する」行為を私的に繰り返しています。このような過剰な宣伝は世間的に“やらせ”等のイメージを持たれ、かえって逆効果となる懸念もあるため、再三やめるよう注意しましたが「会社のためを思って行っている。まして勤務時間外の活動であり制止され

るいわれはない」として聞き入れません。同人に近い社員の話では、どうやら悪意をもって当社の評判を落とそうと企図しているようですが、確かに同行為自体、表面的には非難されるものでなく、何より悪意に基づくとの証明もできないため、対応に苦慮しています。どうしたらよいでしょうか。

なかなか難しいケースではありますが、対応としては、あらためて当該行為を中止するように命令を出し、その際、違反した場合には懲戒処分の対象となりうることも伝えるべきです。それにもかかわらず、当該行為を中止しない場合には、懲戒処分を科すことを検討すべきでしょう。

以下は説明となります。

1】 企業秩序遵守義務
企業秩序は、「企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なもの」であるため、労働者は、会社に対して、労務提供義務に付随して「企業秩序遵守義務その他の義務を負う」ことになります([富士重工業事件]最高裁三小昭和521213日判決労判2877頁)。
そのため、会社は、「企業秩序を維持確保するため、これに必要な諸事項を規則をもつて一般的に定め、あるいは具体的に労働者に指示、命令することができ、また、企業秩序に違反する行為があつた場合には、その違反行為の内容、態様、程度等を明らかにして、乱された企業秩序の回復に必要な業務上の指示、命令を発し、又は違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため、事実関係の調査をすることができる」

とされています(前掲富士重工業事件)。

以上のとおり、会社は、労働者に対して、企業秩序を維持確保するため、(i)具体的な指示・命令、(ii)違反行為があった場合の制裁が可能です

2】 私生活上の行為の規制
労働者は、私生活上の行為の自由があり、企業の一般的な支配に服するものではありません。

そこで、会社は、企業秩序を維持確保するため、労働者の私生活上の行為についてまで指示・命令をすること及び制裁を行うことが可能か否かということが問題となります。

この点、判例では、「従業員の職場外でされた職務遂行に関係のない所為であつても、企業秩序に直接の関連を有するものもあり、それが規制の対象となりうることは明らかであるし、また、企業は社会において活動するものであるから、その社会的評価の低下毀損は、企業の円滑な運営に支障をきたすおそれなしとしないのであ

つて、その評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められるがごとき所為については、職場外でされた職務遂行に関係のないものであつても、なお広く企業秩序の維持確保のために、これを規制の対象とすることが許される場合もありうるといわなければならない」([国鉄中国支社事件]最高裁一小昭和49228

日判決労判19624頁)、「職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であつても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものもあるのであるから、使用者は、企業秩序の維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許される」

([関西電力事件]最高裁一小昭和5898日判決労判41529頁)と判示されています。

以上のとおり、労働者の私生活上の行為についても、(i)それが企業秩序に直接関連する場合、又は企業の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる場合には、会社の規制の対象となる、(ii)会社は、当該行為を理由として労働者に懲戒を課することも許される、ということになります。

3】 今回のケースの場合
今回のケースの場合、当該社員は、「自社商品をネット上で過大に評価する」行為を行っており、特に消費者からの企業に対する社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると考えられます。
当該社員からは、(i)会社のためを思って行っている、(ii)勤務時間外の活動であり制止されるいわれはない、という反論を受けていますが、(i)労働者が主観的に「会社のため」と思っていても、それによる企業の社会的評価の低下毀損が「客観的に」認められるのであれば規制対象となります。また、(ii)務時間外の活動であっても、企業の社会的評価の低下毀損が客観的に認められる場合には、会社は、労働者に対して、問題となる行為を止めるように指示・命令をし、違反した場合には制裁として懲戒処分を行うことも可能です。
以上を前提にすると、(これまで再三止めるよう注意してきたとのことですが、)改めて当該社員に対して当該行為を中止するように命令を出し、その際、違反した場合には制裁として懲戒処分の対象となりうることも伝えるべきです
それにもかかわらず、当該行為を中止しない場合には、懲戒処分を課することを検討することになるでしょう。ただし、どのような懲戒処分が適当かは、具体的な事情(当該行為の内容や違反の実体等)を考慮して慎重に判断する必要があります。

弁護士の萩原です。私の今年の第1回目の記事として、平成27年改正派遣法の経過措置について書いてみたいと思います。

(1)
 許可制一本化の概要

皆さまご存知のとおり、派遣法が今年改正され、今年の930に既に施行されています。

この平成27年改正法の内容として、許可制への一本化があります。特定労働者派遣事業は届出でOK一般労働者派遣事業は許可が必要という区別がなされていましたが、平成27年改正法では、この区別が廃止されました。法律上、特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業という文言もなくなり、「労働者派遣事業」として一本化され、すべて許可制となりました。労働者派遣事業を営むには、許可を得なければならなくなりました。

今まで特定労働者派遣事業を営んでいた事業者についても、改めて許可を得なければならなくなります。もっとも、この許可制への一本化は、多数の特定労働者派遣事業の会社への影響が大きいため、経過措置が定められています(改正法附則6条)。

(2)
 いつまでに許可をとればいいのか

この経過措置は猶予期間と考えていただくとわかりやすいですが、具体的には、平成27930日の時点で届出により特定労働者派遣事業を営んでいる場合には、3年後の平成30929日まで、許可を得ることなく改正前の特定労働者派遣事業を営むことは可能です。

では、平成30929日の直前に許可をとろうと動けばよいのか、というと、これは遅い!といえます。要注意です。
3年が経つまでに許可申請を行えば、その許可又は不許可処分が出されるまで事業は継続できるというルールも設けられていますが、仮に、不許可処分であった場合にはその時点で一度事業の打切りをしなくてはいけないため、実務上は、相当早い段階で許可申請をして、3年間のなかに不許可処分が出ても、事業を一応は継続しつつ、再度許可申請にトライできるようにすべきです。

申請から結果が出るまでに23か月かかるということなので、それを念頭にかなり早い段階でトライするべきでしょう。
許可基準(許可を得るための基準)は、今まで届け出のみで特定労働者派遣事業を営んでいた事業者にとってはなかなか厳しいものがあります(基準資産額、現預金額、事業所面積のほか、キャリア形成支援制度等)。この許可基準及び派遣法改正の概要についてお知りになりたい方は、以下のURLから取得できる厚生労働省のリーフレットが参考になります。

http://goo.gl/IGqgCF

厳しい許可基準を計画的にクリアしていくためにも、来年(平成28年)から許可を得るためのロードマップ、プランを立てることをおすすめいたします。

なお、上記で述べた3年の経過措置についてですが、他の改正部分には及びません。

平成27年改正法の内容は、雇用安定措置義務、キャリアアップ措置の実施義務、均衡待遇の促進に関するもの、その他管理台帳の記載事項の追加等多岐にわたっていますが、これらについても3年の猶予期間があるわけではないので注意が必要です。もちろん平成24年改正法の労働契約申込みみなし制度の適用も猶予されるわけではありません。 

ちょっと古いニュースになってしまいましたが、2015年(平成27年)9月11日に改正派遣法も成立いたしました。

(2015年9月11日の日経新聞電子版の記事から)

「企業の派遣受け入れ期間を事実上なくす改正労働者派遣法が11日昼の衆院本会議で、自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。」

「政府が進める労働法制改革の柱の一つで、9月30日に施行する。」

派遣法改正は、過去に2度ほど廃案となっており、今回も日本年金機構の個人情報流出問題などの影響で参院での審議が停滞していたため、今回も「2度あることは3度ある」なのか?と思いましたが、「3度目も正直」でようやく成立しましたね。この改正については、私もいろいろと意見があるところなのですが、成立した以上、よい運用を期待しています。


2015年6月20日の日経新聞朝刊3頁の『労働改革ようやく前進』『派遣法改正、成立へ』『脱時間給 労基法は不透明』という見出しの記事で、派遣法の改正案が衆議院を通過したことが報道されています(というか、他のマスコミでも大々的に報道されました。)。


企業が派遣社員を受け入れる期間の上限を事実上なくす労働者派遣法改正案が19日の衆院本会議で自民、公明両党と次世代の党の賛成多数で可決された。維新、共産両党は反対した。政府・与党は24日までの今国会会期を2カ月超延長する方針で、成立は確実だ。改正案は安倍政権が岩盤規制改革とみなす労働法制見直しの柱。過去2回の国会で廃案になったが、実現に向けて前進した。


今度こそ、派遣法の改正案が成立することはほぼ間違いないようです。私には、中小の会社のクライアントも多いので、特定派遣の廃止に関連する問題のアドバイスが多くなりそうです。 

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