カテゴリ:投稿者別 >   弁護士 馬場 悠輔

厚生労働省によれば、今年の521日時点で、新型コロナウイルスの影響によって新卒採用の内定を取り消された方が少なくとも98人いるとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASN5Q4GZBN5QULFA004.html

 

採用内定が会社から出ると、法的には、「始期付解約権留保付労働契約」が会社と採用内定者との間で成立したと考えられますので、条件付きとはいえ労働契約が締結された以上、いったん出した採用内定を、会社が自由に撤回できるということにはなりません。

 

実務上は、採用内定の取消事由となるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる」とされています(最判昭54.7.20労判323-19)。

 

つまりは、採用内定者の態度が気に食わないなどの理由だけでは、採用内定を取り消すことはできません。
※採用内定を出す前の段階では、採用内定を出すかどうかについて会社に広範な裁量があるので、この程度の理由でも不採用にするということはよく聞く話です。

 

採用内定の取消事由となり得る主なケースは、以下のようなものがあり、採用内定時に署名する誓約書や承諾書に、これらが採用内定の取消事由になると具体的に記載されていることが多いです。企業側の観点からすれば、取消しの有効性に関わってきますので、できるだけ解約権の行使事由を明記しておくことは重要です。

 

・採用内定者の提出書類に虚偽記載(学歴詐称等)がある場合

・大学を卒業することができない場合

・身体又は精神の故障によって予定入社日からの就労の見込みがない場合

・会社の経営難等のやむを得ない事由がある場合

 

今回の新型コロナウイルスの影響による採用内定の取消しは、「会社の経営難等のやむを得ない事由がある場合」を理由にしているものと考えられますが、経営難を理由として採用内定の取消しを行うには、「いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する…4要素を総合考慮のうえ、解約留保権の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかを判断すべきである」という裁判例があります(東京地決平9.10.31。※中途採用の裁判例)。

 

整理解雇の有効性の判断基準は厳格な基準ですが、採用内定の取消しは、採用内定者の他社就労の機会を奪っており、採用内定者の今後の生活・キャリアにも関わってきますので、慎重な判断が求められるべきという基準は適当であると思います。

 

したがって、今回の新型コロナウイルスの影響による経営難も、単に経営の見通しが不安等の漠然とした理由ではなく、具体的な数字に基づいて、きちんとした根拠を示せないと、採用内定の取消しは認められないと考えられます。

 

なお、内定取消・入職時期の繰下げにあった方のために、厚生労働省が4月から特別相談窓口を設置していますので、下記URLをご参照ください。
※厚生労働省「新卒者内定取消等特別相談窓口」(https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000193580_00003.html

このエントリーをはてなブックマークに追加

弊事務所の馬場悠輔弁護士が、Webメディア「スモビバ!」にて
「【新型コロナ】契約キャンセルや支払遅延、休業要請でも発生する店舗賃料...個人事業主を法律は守ってくれる?弁護士が解説!」(https://www.sumoviva.jp/trend-tips/20200525_1834.html)と
「従業員への賃金支払いや出社命令、取引先との契約トラブル対処など法人の新型コロナにまつわる悩みを弁護士が解説!」(https://www.sumoviva.jp/trend-tips/20200525_1835.html)と題する記事を2つ執筆し、公開されました。

是非、「スモビバ!」で記事をご覧くださいませ!
このエントリーをはてなブックマークに追加

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、安倍首相は411日に緊急事態宣言の対象となっている7都府県の全事業者に対して、オフィス出勤者を最低7割削減するよう要請し、併せて全国の繁華街で接客を伴う飲食店への出入り自粛も呼びかけました。(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57959650R10C20A4EA3000/?n_cid=DSREA001

 

事業者として、オフィス出勤者の7割削減の要請に応えるためには、テレワークを導入するか、しばらく休業して出勤者自体を減らすかの選択を迫られることになります。
テレワークとは、時間や場所の制約を受けずに柔軟に働くことができる就業形態のことで、①在宅勤務、②モバイルワーク(カフェや飛行機のラウンジ、取引先の会社等の使用)や③サテライトオフィスでの勤務(レンタルオフィス、シェアオフィス等)と区分されています。

 

新型コロナウイルス感染予防のためのテレワークとしては、必然的に上に挙げたテレワークの区分のうち在宅勤務(①)になるでしょう。
もちろん、そもそもテレワークを導入することができない業種や、設備・セキュリティの面で難しい事業者もあると思いますので、新型コロナウイルス感染予防のために、時差出勤や時短勤務を導入することが考えられます。

 

まず、在宅勤務に関してですが、そもそも採用時に在宅勤務制度があることを労働条件通知書や就業規則の規程等で明示しているのであれば、使用者の業務命令として通常の勤務から在宅勤務へ変更が可能ですが、在宅勤務制度がない場合には、在宅勤務について労使間の合意が必要です。
また、在宅勤務においては労働時間の管理が問題となりますが、まず原則として使用者には労働者の労働時間を管理する義務がありますので、始業時・終業時に上長にEメールを送るなどを指示することで管理する方法があります。また昼食時間等により一定時間離席するような場合にも上長等に連絡することで、使用者は労働時間を管理することが考えられます。

 

※このほかに労働時間の管理方法としては、厚生労働省が方法やツールを紹介していますのでご参照ください。

「テレワーク導入のための労務管理等Q&A集」https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/02.pdf 

「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」https://www.mhlw.go.jp/content/000553510.pdf 

 

在宅勤務のようなテレワークにおいては、よく事業場外みなし労働時間制(所定労働時間、労働したものとみなす制度)が適用されるのかが問題となりますが、そもそも同制度が就業規則等に明記されていないと適用されず、また労働者が随時使用者の具体的な指示に基づいているような場合には適用できないので、注意が必要です(その他に、使用する情報通信機器が使用者の指示により常時通信可能な状態においていないことの要件が必要です)。

 

実は、今回の新型コロナウイルス感染症対策として、テレワークを新規で導入する中小企業の事業主に対して、所定の要件を充たした場合には、国から助成金が支給される制度があります。(厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/jikan/syokubaisikitelework.html

 

また、時差出勤については、これも元々始業時間・終業時間が労働契約で決まっており、これを変更する必要があるので、始業時間・就業時間の繰り下げや繰り上げを定める就業規則がなければ一方的に行うことはできません。
今回のような緊急のケースでは、悠長に就業規則の変更手続を行う時間がないと思いますので、労働者との合意により、始業時間・終業時間の変更をすることになるでしょう。
ただし、多くの企業が時差出勤を導入すると、繰り上げた時間・繰り下げた時間に通勤者が増え、かえって新型コロナウイルスの感染予防にはならないので、状況に応じて始業時間・終業時間を変更していく必要があるでしょう。

 

今回の政府によるオフィス出勤者の最低7割削減という要請は、元々準備をしていない企業にとっては非常に難しいものであり、多くの事業者に動揺が生じることは想像に難くありませんが、労使間で十分に協議しながら進めていく必要があると思います。
新型コロナウイルスの感染者数は日々増加していますが、今後は、これにより働き方に対する国民全体の意識・価値観の変化が生じることになると予想されます。

このエントリーをはてなブックマークに追加

新型コロナウイルスの感染が全国的に広がっていることを受けて、日本政府は、47日に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を発令しました。
今回の緊急事態宣言の対象区域は東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫及び福岡の7都府県で、対象期間は今のところゴールデンウイーク明けの56日までの1ヶ月間としています。

 

緊急事態宣言が出されると、対象区域の都道府県知事は、不要不急の外出自粛を要請したり、多数の者が利用する施設の管理者に対して、施設の使用制限の措置を講ずるよう要請(休業要請等)したりすることができ(特措法第45条)、今回も上記の都道府県知事から外出自粛要請(※休業要請については、4月10日現在、延期されるという話が出ています。)が出されています。
この外出自粛要請・休業要請に従って休業することにした会社は、従業員に休業してもらうことになりますが、これが「使用者の責に帰すべき事由」による休業といえる場合には、会社(使用者)は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を従業員に支払わなければなりません(労働基準法第26条)。

 

それでは、今回の緊急事態宣言(及び外出自粛要請・休業要請)を理由とした会社休業が、果たして「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?については、かなり解釈が分かれるものと思います。

 

上記のとおり、今回の緊急事態宣言及びそれに基づく外出自粛要請・休業要請は、あくまでも「要請」に過ぎないので強制力はなく、仮にこの要請に従わなかったとしても罰則があるわけではありません。この要請に従わない場合には、「指示」に格上げすることができますが、この「指示」に従わなかったとしても、やはり罰則があるわけではありません(特措法第453項)。

 

ということは、今回の緊急事態宣言(及び外出自粛要請・休業要請)を理由とした会社休業は、罰則のないような要請に、あくまでも会社が自主的な判断で従ったのであるから、「使用者の責に帰すべき事由」に該当するとして、会社は、休業期間中の休業手当を従業員に支払う必要がある・・・ということになるかというと、必ずしもそうはならないでしょう。

 

休業要請が出ているのに営業を続けた場合に、もし感染者を出してしまったときは、社会的に非難されることは避けられませんし、施設の消毒や検査等により完全休業せざるを得なくなるおそれもあります。また、外出自粛要請が出ている中で、来客の見込みがなく休業せざるを得ないケースもありますので、これらを全て「使用者の責に帰すべき事由」に当たると考えることは、法解釈としては難しいと思います。

 

この点、厚生労働大臣は47日の記者会見で、緊急事態宣言が発令され、特定施設の使用が制限された場合、使用者側の休業手当支払い義務について「一律に、直ちになくなるものではない」と述べましたが、これはあまりに不明確かつ無責任な発言でしょう。(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200407-00000066-kyodonews-bus_all

 

また、使用者が休業手当を支払った場合には、「雇用調整助成金」の制度の利用が考えられますが、支給金額には上限が設けられており、また、助成金はいつ支給されるのかが今のところ不明であるため、キャッシュに余裕のない使用者は、この助成金を当てにして休業手当を支払っていいものか迷うことになります。

 

結局、緊急事態宣言が出されても自粛「要請」に過ぎず、厚生労働大臣も上記のような曖昧な態度であると、ケースバイケースという話になり、使用者は休業手当を支払っていいものか、労働者は休業手当をもらえるのかについて、その結論は不明確となり、不安が続くことになります。

 

政府には、これこれの業種は営業を続けて欲しい、それ以外の業種で休業した場合は従業員に休業手当を支払うべきであり、休業手当を支払った会社には助成金を支給する、キャッシュフローに不安がある会社のために支給時期を明確にする・早める等のアナウンスをして、不安を解消して欲しいものです。そうはいっても、財源はないし、人手も足りないので、企業へ補償することなど今の時点で明確にすることはできないのだ、と言うのかもしれません。
だとしたら、そういった理由があることをきちんと数字を示して国民に説明するべきであり、それが民主主義の基本であり、そのあたりを省略してしまっては国民の納得を得ることは難しいでしょう。

 

今まで様々なことを政府は曖昧にしていますが、ある意味日本人の“人の良さ”に助けられている部分が多いと思いますので、是非ともリーダーシップを発揮して、できる限り国民の不安を取り除くような舵取りをして欲しいところです。

このエントリーをはてなブックマークに追加

新型コロナウイルスを理由として、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定しましたが、従業員の時差出勤を促したり、在宅勤務に切り替えたりと労働環境にも大きな影響を及ぼしています。旅客事業を営む会社では需要の落ち込みから、従業員に休業してもらう措置を講じているところもあります。

 

会社による従業員の賃金補償(休業手当)については、労働基準法第26条に定められており、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
この休業手当を支払う必要があるかは、新型コロナウイルスを理由とした休業が「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?という点を検討する必要があります。

 

政令によって、新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」として定められたため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」といいます。)によって、新型コロナウイルスの感染者だけでなく、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」や「感染症の無症状病原体保有者」に対して、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことが可能となりました(第7条、第18条)。
ただし、この就業制限は、厚生労働省令で定める業務(飲食物の製造・販売、接客業等)に限られていますので、その他の業務に就いている方には、感染症法に基づく就業制限の対象とはなりません。

 

感染症法に基づく就業制限の対象とならない場合について、この点について、厚生労働省のWebページでは不明確なのですが、新型コロナウイルスは、労働安全衛生法施行規則第6111号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に該当するとして、新型コロナウイルスに罹患した場合は、同法第68条に基づいて、事業者はその従業員の就業を禁止させる法的義務を負うと考えます。
(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQA」「6安全衛生 問1」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q6-1 
「感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません。」とありますが、反対解釈として、感染症法により就業制限が行えない場合には、労働安全衛生法第68条の適用対象になると読めるのではないでしょうか。)

 

そのため、従業員が新型コロナウイルスに罹患した場合には、法律に基づいて従業員の就業が制限・禁止されるので、これによる休業は「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。
仮に、労働安全衛生法第68条が適用されないと解釈したとしても、使用者は他の従業員に対する伝染予防の義務(安全配慮義務)があるでしょうから、罹患した従業員を業務命令により休業させることは、いずれにしても「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられるでしょう。

 

問題になるのは、従業員が新型コロナウイルスに罹患した「疑い」がある場合の取扱いです。
この場合は、労働安全衛生法第68条の適用はなく(同条は罹患した場合の規定です。)、また感染症法に基づく就業制限がされないときは、どのようにして「使用者の責に帰すべき事由」かを判断するのかが問題になります。

 

この点について、厚生労働省のQA(問2843)によれば、a.風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)、又はb. 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、「帰国者・接触者相談センター」での相談を促しており、この症状が1つのメルクマールになると考えられます。
これらの症状がある従業員に休業してもらう場合には、他の従業員に対する感染予防の観点から、「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。

 

もっとも、今の時期は、使用者も敏感になり、上記a.又はb.の症状がなく軽い発熱程度の従業員にも休業してもらうことが多いと思いますが、このような場合の休業は、使用者による自主的判断であるとして、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたる(=休業手当を支払う必要がある)と考えられ、厚生労働省QA44)でも同じ解釈がされています。
使用者による自主的判断といっても、もし従業員が新型コロナウイルスに罹患していた場合には、会社(場合によっては会社が入っているビル全体)を長期間閉鎖せざるを得ず、後で罹患が判明したときの経済的リスクや社会的非難を受けるリスクを考えると、使用者は従業員に休業してもらうのもやむを得ないように思います。しかし、休業手当は従業員の生活補償の意味合いが強いので、このような場合でも、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたると考えられます。
(この意味で、民法上の「使用者の責めに帰すべき事由」(民法536条)については、過失責任主義に基づく帰責事由があると解される可能性は低いと考えられ、全額補償する必要はないと考えられます。)

 

以上をまとめますと、次のとおりとなると思います。もっとも以下は原則論で、就業規則に別段の定めがあれば、それに従うことになります(ただしその内容の合理性については解釈の余地は有り得るでしょう。)。

 

①新型コロナウイルスに罹患した従業員自ら会社を休んだケース

②新型コロナウイルスに罹患した従業員に会社を休むよう命令したケース

・法律上の就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・法律上の就業制限がない場合→休業手当を支払う必要なし

 

③新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるとして従業員が自ら会社を休んだケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・感染症法に基づく就業制限がない場合→(通常の病欠と同じ扱いとして)休業手当を支払う必要なし

※ただし、会社が、上記a.又はb.に至らない症状(業務ができる状態)でも休むように指示を出していた場合には、休業手当を支払う必要あり。

 

④新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるので従業員に会社を休むよう命令したケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がない場合→休業手当を支払う必要あり

※会社が指示を出す、方針を打ち出す程度でも、現状従業員は従わざるを得ないので、ここでいう「命令」に含まれると考えられます。

 

いわゆる新型コロナ特措法が成立し対策本部が設置され、オーバーシュートやロックダウン等の普段耳慣れない言葉も使われ始め、不安な日々が続きますが、早く収束していくことを祈ります。

このエントリーをはてなブックマークに追加

「同一労働同一賃金」という言葉が出てきて久しくなってきていますが、この「同一労働同一賃金」の対象となる労働者は、パートタイム労働者や有期雇用労働者だけでなく、派遣労働者も含まれます。
今年の41日に、この派遣労働者の「同一労働同一賃金」を実現するための改正派遣法が施行されます。

 

従来から、派遣労働者と派遣先の正社員(※ここでは「無期雇用のフルタイム労働者」と定義します。)との待遇の不公平感が話題になっていましたが、今回の改正によって、派遣元企業は、①派遣先の労働者との待遇を均等・均衡にする改善方法(均等・均衡方式)(改正派遣法第30条の3)、②派遣元と派遣労働者との間の労使協定に基づく待遇の改善方法(労使協定方式)(改正派遣法第30条の4)のどちらかを選択できるようになりました。

 

改正派遣法は、実際に働いている派遣先の正社員と比較すると出てくる不公平を是正するために改正されたものなので、派遣労働者が派遣先の正社員と同じ働き方をするのであれば、均等・均衡方式(①)が原則という立て付けになっています。
しかし、それだと大企業に派遣される場合は正社員との均衡待遇で給与が高くなる一方で、中小企業に行った場合は給与が下がってしまうので、給与が不安定になる等の理由で特例として労使協定方式(②)を認めています。
ただし、給与を派遣先に合わせる手間や、「なるべく自社の賃金データは開示したくない」という派遣先の事情から(労使協定方式だと情報提供義務が緩和されます。改正派遣法施行規則第24条の4参照)、多くは労使協定方式になると言われています。

 

さて、労使協定方式にする場合には、「その地域の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金」と比較して、同等以上の賃金になるようにしなければならないとされています(改正派遣法施行規則第25条の9)。
そのため、労使協定方式にする場合でも一定水準以上の賃金確保が必要となり、派遣元企業は従来の派遣料金を維持することはできず、派遣料金の値上げは必至です。
なお、大手人材派遣会社は今年の4月以降、派遣料金を12割値上げするとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54305270Q0A110C2MM8000/

 

こうなると、派遣料金の値上げに対応できない派遣先企業は、派遣労働者の受入れを減らすことになるため、結果的に派遣元企業による派遣労働者の雇用維持が難しくなるのは目に見えています。
ただでさえ無期雇用転換の回避のために、派遣労働者の雇止めが増えてくるといわれているのに、ますます派遣労働者の立場は不安定になると考えられます。
ただし優秀な派遣労働者の場合には、今回の改正派遣法をきっかけに派遣先企業から直接雇用のオファーがあるかもしれません。

 

こう考えると、派遣労働者の格差是正のためという理由で施行される今回の改正派遣法ですが、実力のある派遣労働者は派遣元企業に残ることができ(又は派遣先企業から直接雇用のオファーがあり)、他方でそうではない派遣労働者は居場所がなくなるおそれがあるので、結果的に実力主義が促進され、派遣労働者全体の保護には繋がらないでしょう。

 

日本の派遣制度は、派遣先の正社員よりも待遇面で立場が下になるような制度になってしまいましたが、もしかしたら当局としては、派遣法を改正することによって、派遣先企業の正社員以上に実力のある労働者又は専門的能力を持った労働者を派遣するという、アメリカのような派遣制度にシフトしていきたいのかもしれません。

 

以上のような改正派遣法に加え、近年では派遣会社は従来の届出制から許可制に変わり、許可の要件としても一定の基準資産額が求められる等、派遣事業への維持だけでなく参入もどんどん厳しくなってきています。
こうなると当然、派遣元も派遣先も共に、派遣制度を回避する方法はないか?という頭になりますので、「偽装請負」が促進されてしまうおそれがあります。
この偽装請負をチェックするために、労働局は今以上に目を光らせ、面談や立入調査を増やしていくことになるでしょう。派遣と(偽装)請負の境界は曖昧ですので、調査も簡単ではなく、それに対応することになる派遣企業も大変です。

 

今回の派遣法の改正によって、派遣先企業としては派遣料の値上げにより派遣制度の利用が難しくなり、派遣元企業としては派遣制度を維持できる体力のある派遣会社とそうでない派遣会社の2極化が進むと予想されます。改正派遣法の施行で、派遣制度は大きな転換期を迎えることを余儀なくされるでしょう。

このエントリーをはてなブックマークに追加

未払い賃金や残業代等がある場合に、労働者が会社に遡って請求できる期間は法律上2年間とされています(労働基準法第115条)。それを超える期間の未払い残業代については、会社は時効によって消滅したことを理由に支払いを拒むことができます。

 

今年41日施行の改正民法(新第166条)では、債権の消滅時効の期間について、

(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5

(2)権利を行使できる時から10年(※ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については20年 新第167条)

という整理をして、現行の民法の10年間という消滅時効期間を修正しました。

 

元々、民法では、労働者の給料に関する債権の消滅時効を1年間と定めていましたので(第174条第1号)、労働基準法の制定時に、このままでは労働者の保護に欠けるなどの理由で、民法の特別法たる労働基準法によって、1年間から2年間に延長したという経緯があるのです。
今回の改正民法では、この短期消滅時効の規定が削除され、債権について、一律5年以上の消滅時効の期間になったわけなので、そうすると今度は、「労働者に不利だった民法の消滅時効の規定が修正されたのだから、もう労働基準法の消滅時効期間の定めはいらないのではないか?」という話になります。

上述のとおり、労働者の保護のために時効期間を労働基準法で延長したのに、今度はその定めが労働者に不利な定めに変わってしまうのはおかしいので、このような話がでてくるのはごく自然な流れなのです。

 

それでは、労働基準法も、今回の改正民法の消滅時効期間に合わせることにしましょう・・・ということになるかというと、そう簡単な話ではありません。
今度は会社側に対するインパクトが大きすぎるのです。

 

M&Aで法務デュー・デリジェンス(買収先企業の法的リスクの調査)をするときに、未払い残業代を計算してみると、中小企業でも、その金額が数千万円になってしまうことも珍しくありません。ちなみに、退職金の未払いも見つかったりしますが、退職金についてはもともと消滅時効の期間は5年間になっています(労働基準法第115条)。

 

仮に今回、未払い残業代の消滅時効の期間を、今までの2年間ではなく、改正民法に合わせて5年間にした場合には、未払い残業代の金額が単純計算で2.5倍になり、会社にとってかなりのインパクトになります。会社の規模によっては、それこそ会社が立ち行かなくなるほどの金額になります。

このような理由で、労働債権の消滅時効期間については、改正民法と併せてその動向が注目されていたのです。

厚生労働省は昨年の1227日に、労働債権(未払い賃金・残業代等)の消滅時効期間を、労働基準法も改正民法に合わせて原則は5年としつつも、「当面3年」に改める方針を決めたということです。同省は今年の通常国会に労働基準法改正案を出し、改正民法と同時の施行をめざすとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASMDV5TL2MDVULFA02J.html

 

「当面」ということなので、今後どうなるのかはまだ不明ですが、いつか5年になる可能性があることを覚悟しておく必要があります。
会社としては、この暫定的な猶予期間があるうちに、未払い残業代が生じないような方策に本気で取り組まざるを得ないでしょう。

 

働き方改革による労働生産性の向上には、労働者側にも様々なメリットがありますが、残業代の消滅時効という数字として分かりやすい話にも繋がっていますので、労働生産性の向上は労働者・企業双方の目標になってきているといえるのではないでしょうか。

このエントリーをはてなブックマークに追加

最近話題の働き方改革ですが、このテーマに関して、先日、株式会社ワーク・ライフバランスの代表取締役である小室淑恵社長が弁護士会で講演をされ、この内容に大変感銘を受けましたので、この講演内容について少し話したいと思います。

小室社長が推進されているワーク・ライフバランスの考え方は、多くのメディアで取り上げられ、小室社長自身、テレビ等に出演されています。小室社長は、「働き方改革関連法」に関する国会審議の場に参考人として招かれ、安倍内閣の産業競争力会議の民間議員にも就任されています。

 

「ワーク・ライフバランス」という言葉を聞いて多くの人が勘違いしているのが、この言葉を、「仕事」と「家庭」の両立、と捉えてしまうことだそうです。このように捉えてしまうと、家庭(配偶者、子ども)のある人に配慮しましょうということで、独身者に多くの仕事を課してしまい、家庭のある人と独身者との間の対立構造を生む結果となり、結局組織として一つになれず、業績はマイナスになっていくとのことです。

そうではなく、「ワーク・ライフバランス」の「ライフ」はもっと広い意味で、「家庭」だけでなく、自己研鑽や運動、遊び、婚活なども含まれており、こう捉えることで、従業員のインプットや多様性に繋がって付加価値を生み出すことになり、結果的に業績にプラスになるというのです。

 

日本は現在GDP世界3位の先進国ですが、先進主要国の中で最も労働生産性が低い(21年間連続最下位)というのは有名な話です。労働生産性の算定は、付加価値を金銭だけで計算しているので色々と議論はあるところですが、とにかく先進主要国の中で日本が最も労働者一人あたりの就業時間が多いというのは事実です。

 

今後は少子高齢化が進み、国際競争力が低下することになり、このままでは日本はジリ貧になっていきます。このような日本が抱える課題を解決するには、今の時代がどうなっているのかを正確に把握する必要があります。ここで小室社長は、説得力のある根拠として、ハーバード大学のデービットブルーム教授の研究を挙げます。

 

一つの国の社会では、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」(※onus:重荷、負担)の2つの時期があります。

「人口ボーナス期」は、若者が多く人口構造が経済的にプラスになる時期で、安い労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方で、社会保障費が嵩まないので爆発的発展をするのは当然という時期のことをいいます。日本では、1960年頃~1990年代半ばがこの時期にあたり、中国はもうすぐこの時期が終わり、インドはもうしばらく続くそうです。

もう一つの「人口オーナス期」ですが、これは働く人よりも支えられる人が多くなることで、社会保障制度の維持のためにどんどん国民全体が貧しくなっていく時期をいい、日本は既に人口オーナス期に突入しています。重要なのは、一度人口オーナス期に入ると、二度と人口ボーナス期には戻れないという点です。

 

さて、日本よりも早く欧米諸国はこの人口オーナス期に入りましたが、欧米諸国とは異なり、日本は対策をとれず少子高齢化も進んでどんどん深刻化していっています。

それでは、どうすればこの状況を打開できるか?というと、人口オーナス期特有の働き方にシフトする必要があるとのことです。

 

時代と共に頭脳労働の比率がどんどん上がっていき、使える労働力を使おうと思ったとき、日本が持っている潜在的な国力に目を向ける必要があります。この潜在的な国力というのが「女性」であり、人口オーナス期で経済発展するためには男女共に「短時間で」働く必要があるとのことです。

日本は男女共に同じ教育を受けるシステムができあがっており、現在の大学進学率も男女共に50%前後で、このような高度教育を受けた女性を家庭の中に留めておくのはもったいないという発想です。これにいち早く気づいた欧米諸国は女性の社会進出を進め、フランスでは女性の就業率が8割を超えています。

 

ここで素朴な疑問が湧く方もいると思います。女性の社会進出を進めると少子化がますます進んでしまうのでは?というものです。この点、気になったので調べて見ると、フランスの出生率は1.922016年)と日本の1.442016年)よりも高く、長年2.00前後で推移しているというから驚きです(先進国の理想的な出生率は2.01です。2018年のフランスは1.88とちょっと下がったようですが)。

なぜフランスは女性の社会進出が進んでいるのに、出生率も高いのかというと、労働生産性が高いからというのがその理由になります。なお、夫婦が2人目の子どもを作りたいかどうかは、夫が育児に関わる時間が多いほどその割合が高くなるという結果が出ているそうなので、女性だけでなく、男性も労働生産性を上げて早く帰ることができれば、少子化対策にもなるのです。

 

労働生産性を上げる方法は色々とあるとのことですが(詳しくは小室社長の著書参照)、まず評価方法として、「期間あたりの生産性」ではなく「時間あたりの生産性」が高い人を評価するような仕組みを作らないと、労働生産性が上がりません(上げようと思わない)。

次に長時間残業の是正を行い、休業・時短を経ても継続就業できる制度を整備し、それからようやく女性を積極採用するという手順が重要であるそうです。

ちなみに小室社長は(よく言われるそうですが)フェミニストというわけではなく、日本に勝って欲しいから啓蒙活動をされているそうです。

 

今は女性活躍推進法によって、一定規模の企業は、男女別離職率や女性管理職比率、平均残業時間も公開されるようになっています。最近は人手不足で売り手市場ですが、就職活動では、企業のブランドやネームバリューなどよりも、男女共に、育休産休の取得の有無・期間、残業時間等も見て企業を選ぶようになってきています。

そうすると、良い人材を採れる企業とそうでない企業は今後二極化することになることが予想されますので、いち早く労働生産性に着目し、ワーク・ライフバランスの確保の重要性に気が付いた企業が生き残るのではないかと考えられます。

 

「働き方改革関連法」の施行により、残業代の上限規制が設けられましたが、勤務間インターバル制度(終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定する制度)は、まだ努力義務に留まっています。労働生産性を上げるためにも、勤務間インターバル制度についても早く法的義務になるべきと考えています。

労働生産性を上げるためには、まずは休息することが大切ですので、とりあえず今日は早く帰って休みましょう(私もこれを書き終えたので帰って休むことにします)。
このエントリーをはてなブックマークに追加

フィギュアスケートの2010年バンクーバー冬季五輪男子代表の織田信成氏が、1118日に、9月に関西大学アイススケート部の監督を辞任したのは、同大学所属の女性コーチによるハラスメント行為が原因だったとして、同コーチに対して1100万円の慰謝料などを求め大阪地裁に提訴したというニュースがありました。
(産経新聞:https://www.sankei.com/affairs/news/191118/afr1911180018-n1.html

 

今回のハラスメントはモラルハラスメント(道徳による精神的な暴力や、言葉や態度による嫌がらせ)だったと言っているメディアもありますが、昨今ハラスメントの種類が多くなり意味が分かりにくくなってきていますし、結局パワーハラスメントで整理できる事案が多いと思います。
訴訟内容が分からないので、確実とはいえないですが、いわゆるパワハラ規制法も成立したことですし、今回もおそらく伝統的なパワーハラスメントの類型に従って訴訟提起していると予想されます。

 

パワーハラスメントは、加害者が、優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行うことが前提ですが、必ずしも上司から部下に行われるものに限らず、先輩後輩間、同僚間、さらには部下から上司に対する行為なども、優位性が背景にあれば成立し得ます。
監督とコーチの身分による力関係は分かりませんが、少なくとも今回の女性コーチは、30歳近く織田氏よりも歳が上で、指導者としてのキャリアも長いので、少なくともある程度は優越的な立場にあったのではないでしょうか。

 

弁護士がパワーハラスメントを理由に訴訟を提起する場合には、加害者本人だけでなく、使用者責任(民法715条)を理由に使用者(会社等)も訴えるのが一般的です。個人だと支払能力が心配なので、使用者も巻き込むことで支払能力を確保するというのがその理由です。もっとも、記事だけでは分かりませんが、今回の女性コーチは有名な方で支払能力について心配はなさそうであることと、織田氏の「フィギュアスケート界の悪弊へ一石を投じる思いで提訴に至った」というコメントからすれば(お金目的とは思われない)、今回の訴訟の被告は女性コーチだけで、大学(使用者)は被告に含めていないのかもしれません。

 

今回の織田氏の請求金額は1100万円。
パワーハラスメントで訴訟提起する場合の損害の一般的な内訳は、①治療費、②慰謝料、③休業損害、④逸失利益、⑤弁護士費用です。
実務慣行として弁護士費用(⑤)は損害額の1割程度なので、100万円が弁護士費用、今回織田氏は辞任しているので休業損害(③)ではなく逸失利益(④)の請求になるでしょう。今回のケースは、パワーハラスメントで傷害を負ったとか精神疾患に罹患したというわけではないので、治療費(①)や慰謝料(②)があまり高額にはならないと予想されますので、逸失利益(④)が主戦場でしょう。

 

逸失利益は、パワーハラスメントによって退職のやむなきに至った場合、仮に退職していなければ得られたはずの収入をいいます。
裁判例では、9か月~1年の期間が認められる傾向にあるので、今回、1年分の請求をしたと考えられ、そうすると、織田氏の監督としての報酬は、1年で1000万円弱だったのかなと下世話ながら予想してしまいます。

 

パワーハラスメントが認められるか否かは、適正な業務指導の範囲内だったのか?ということが主題になり、適正な業務指導の中身は、職場ごとで変わります。
事務仕事が主な職場と、生命のために一分一秒を争う医療現場を比較すると、後者の現場のほうが、業務指導の内容が厳しくなってしまうことも実務上許容されますし、一般的な感覚からしても違和感はないと思います。

 

今回は世界を目指す運動部の指導者間の出来事であり、その指導結果に対して日本中が注目していることも考えれば、当然ながら各指導者は相当熱意をもって指導しているでしょうから、今回の指導方針をめぐった対立は、通常よりも「適正な業務指導の範囲」を広げて裁判所は判断するのではないかと思います。そうすると、原告側としてはなかなか難しい裁判のようにも思います。

 

とはいえ、織田氏の言うように本当にフィギュアスケート界に「悪弊」があるというのであれば、今回の訴訟はそれに一石を投じるという意味で極めて重要なものになると思います。
今後もこの訴訟の行方に注目したいと思います。

このエントリーをはてなブックマークに追加

学校現場でのいじめや虐待に対応するため、文部科学省は、「スクールロイヤー」と呼ばれる専門の弁護士を全国に約300人配置する方針を固めたということです。

各地の教育事務所などに拠点を置き、市町村の教育委員会からの相談をスクールロイヤーが受けるというもので、来年度からのスタートを目指して準備を進めるとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50112680T20C19A9CR8000/

 

学校現場では、生徒間のいじめや教師からの体罰、保護者からのクレーム対応等、様々な問題が生じており、法的アドバイスが求められることは少なくないでしょう。

文科省の説明によれば、このスクールロイヤーによって、いじめ問題の対処に関する助言やその予防教育等を主に想定しているようです。

 

ただ難しいと思うのは、いじめが暴力に及んだり、金品を要求したりするなど明らかに犯罪と言えるような場合であれば、弁護士としては「これは刑法上の○○罪に該当し得るので、直ちに止めさせてください」と明確に言えるのですが、犯罪とはいえないようないじめの場合には、弁護士として法的なアドバイスを行うのは困難です。むしろいじめが犯罪とはいえない場合のほうが多いのではないでしょうか。

 

例えば、特定の生徒を他の生徒が無視する行為は、いじめの代表格といえますが、これは犯罪とはいえません。しかし、無視のターゲットにされた生徒は、場合によっては暴力を受けるよりも辛い立場に置かれるかもしれません。

このような行為を止めさせるには、卑怯な行為は止めるべきだ、ということを教える必要があり、これは法律論ではなく道徳論ですので、弁護士が法律専門家としてどうこう言えるものではありません。

 

気をつけなければならないのは、今回は文科省が主体となって「スクールロイヤー」を設置し、主に教育委員会からの相談を受けるという点であり、弁護士は文科省や教育委員会を「お客様」扱いし過ぎるべきではないと思います。

というのも、ケースによっては、弁護士は行政側を批判する立場にもなるべきで、例えば、千葉県野田市の教育委員会では、虐待を受けていた女児が父親からの虐待を訴えた内容が記載された学校アンケートの回答コピーを、父親本人に渡してしまったということがありました。

司法書士は法務省(法務局)、行政書士は総務省が監督官庁になっていますが、弁護士は他の士業とは異なり、場合によっては行政を糾弾する(訴える)立場になりますので、文科省等の行政側から「スクールロイヤー」としての報酬を受け取るとしても、公共的かつ客観的な立場を忘れてはならず、ましてや事件の隠蔽やもみ消しに加担するようなことがあってはなりません。子供(生徒)の生命身体が最も優先されるべきであり、これに反するようなことを行政側が行うのであれば、明確にNOと言わなければなりません。

 

また、現在の構想では、市町村の教育委員会からの相談をスクールロイヤーが受けるというものですが、現場レベルから教育委員会まで上がってくるような問題の多くは、かなり深刻化してしまったものになるのではないでしょうか。

しかし予防法務という観点が重要で、例えば、保護者からのクレーム対応などでは、弁護士から早い段階で法的アドバイスがあると、教師としては心強いと思いますし、後々問題が深刻化しないで済む可能性もあると思います。

 

そのため、深刻な事態にならないように、早くから教師と弁護士とで現場レベルで連携できるように、教師も弁護士に相談しやすい場を作っていけるのであれば、スクールロイヤーがうまく機能するのではないでしょうか。

今回のスクールロイヤー制度が、生徒も、教師も(教育委員会も)泣き寝入りしないような制度になれば良いと思います。今後の動向に注目したいと思います。

このエントリーをはてなブックマークに追加

↑このページのトップヘ