カテゴリ:投稿者別 >   弁護士 馬場 悠輔

新型コロナウイルスを理由として、東京オリンピック・パラリンピックの延期が決定しましたが、従業員の時差出勤を促したり、在宅勤務に切り替えたりと労働環境にも大きな影響を及ぼしています。旅客事業を営む会社では需要の落ち込みから、従業員に休業してもらう措置を講じているところもあります。

 

会社による従業員の賃金補償(休業手当)については、労働基準法第26条に定められており、「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合には、使用者は、休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払わなければならないとされています。
この休業手当を支払う必要があるかは、新型コロナウイルスを理由とした休業が「使用者の責に帰すべき事由」といえるのか?という点を検討する必要があります。

 

政令によって、新型コロナウイルス感染症が「指定感染症」として定められたため、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(以下「感染症法」といいます。)によって、新型コロナウイルスの感染者だけでなく、「当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」や「感染症の無症状病原体保有者」に対して、都道府県知事が就業制限や入院の勧告等を行うことが可能となりました(第7条、第18条)。
ただし、この就業制限は、厚生労働省令で定める業務(飲食物の製造・販売、接客業等)に限られていますので、その他の業務に就いている方には、感染症法に基づく就業制限の対象とはなりません。

 

感染症法に基づく就業制限の対象とならない場合について、この点について、厚生労働省のWebページでは不明確なのですが、新型コロナウイルスは、労働安全衛生法施行規則第6111号の「病毒伝ぱのおそれのある伝染性の疾病」に該当するとして、新型コロナウイルスに罹患した場合は、同法第68条に基づいて、事業者はその従業員の就業を禁止させる法的義務を負うと考えます。
(厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQA」「6安全衛生 問1」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q6-1 
「感染症法により就業制限を行う場合は、感染症法によることとして、労働安全衛生法第68条に基づく病者の就業禁止の措置の対象とはしません。」とありますが、反対解釈として、感染症法により就業制限が行えない場合には、労働安全衛生法第68条の適用対象になると読めるのではないでしょうか。)

 

そのため、従業員が新型コロナウイルスに罹患した場合には、法律に基づいて従業員の就業が制限・禁止されるので、これによる休業は「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。
仮に、労働安全衛生法第68条が適用されないと解釈したとしても、使用者は他の従業員に対する伝染予防の義務(安全配慮義務)があるでしょうから、罹患した従業員を業務命令により休業させることは、いずれにしても「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられるでしょう。

 

問題になるのは、従業員が新型コロナウイルスに罹患した「疑い」がある場合の取扱いです。
この場合は、労働安全衛生法第68条の適用はなく(同条は罹患した場合の規定です。)、また感染症法に基づく就業制限がされないときは、どのようにして「使用者の責に帰すべき事由」かを判断するのかが問題になります。

 

この点について、厚生労働省のQA(問2843)によれば、a.風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く場合(解熱剤を飲み続けなければならないときを含む)、又はb. 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある場合には、「帰国者・接触者相談センター」での相談を促しており、この症状が1つのメルクマールになると考えられます。
これらの症状がある従業員に休業してもらう場合には、他の従業員に対する感染予防の観点から、「使用者の責に帰すべき事由」とはいえない(=休業手当を支払う必要はない)と考えられます。

 

もっとも、今の時期は、使用者も敏感になり、上記a.又はb.の症状がなく軽い発熱程度の従業員にも休業してもらうことが多いと思いますが、このような場合の休業は、使用者による自主的判断であるとして、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたる(=休業手当を支払う必要がある)と考えられ、厚生労働省QA44)でも同じ解釈がされています。
使用者による自主的判断といっても、もし従業員が新型コロナウイルスに罹患していた場合には、会社(場合によっては会社が入っているビル全体)を長期間閉鎖せざるを得ず、後で罹患が判明したときの経済的リスクや社会的非難を受けるリスクを考えると、使用者は従業員に休業してもらうのもやむを得ないように思います。しかし、休業手当は従業員の生活補償の意味合いが強いので、このような場合でも、労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」にあたると考えられます。
(この意味で、民法上の「使用者の責めに帰すべき事由」(民法536条)については、過失責任主義に基づく帰責事由があると解される可能性は低いと考えられ、全額補償する必要はないと考えられます。)

 

以上をまとめますと、次のとおりとなると思います。もっとも以下は原則論で、就業規則に別段の定めがあれば、それに従うことになります(ただしその内容の合理性については解釈の余地は有り得るでしょう。)。

 

①新型コロナウイルスに罹患した従業員自ら会社を休んだケース

②新型コロナウイルスに罹患した従業員に会社を休むよう命令したケース

・法律上の就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・法律上の就業制限がない場合→休業手当を支払う必要なし

 

③新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるとして従業員が自ら会社を休んだケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・感染症法に基づく就業制限がない場合→(通常の病欠と同じ扱いとして)休業手当を支払う必要なし

※ただし、会社が、上記a.又はb.に至らない症状(業務ができる状態)でも休むように指示を出していた場合には、休業手当を支払う必要あり。

 

④新型コロナウイルスに罹患している疑いがあるので従業員に会社を休むよう命令したケース

・感染症法に基づく就業制限がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がある場合→休業手当を支払う必要なし

・従業員に上記a.又はb.の症状がない場合→休業手当を支払う必要あり

※会社が指示を出す、方針を打ち出す程度でも、現状従業員は従わざるを得ないので、ここでいう「命令」に含まれると考えられます。

 

いわゆる新型コロナ特措法が成立し対策本部が設置され、オーバーシュートやロックダウン等の普段耳慣れない言葉も使われ始め、不安な日々が続きますが、早く収束していくことを祈ります。

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「同一労働同一賃金」という言葉が出てきて久しくなってきていますが、この「同一労働同一賃金」の対象となる労働者は、パートタイム労働者や有期雇用労働者だけでなく、派遣労働者も含まれます。
今年の41日に、この派遣労働者の「同一労働同一賃金」を実現するための改正派遣法が施行されます。

 

従来から、派遣労働者と派遣先の正社員(※ここでは「無期雇用のフルタイム労働者」と定義します。)との待遇の不公平感が話題になっていましたが、今回の改正によって、派遣元企業は、①派遣先の労働者との待遇を均等・均衡にする改善方法(均等・均衡方式)(改正派遣法第30条の3)、②派遣元と派遣労働者との間の労使協定に基づく待遇の改善方法(労使協定方式)(改正派遣法第30条の4)のどちらかを選択できるようになりました。

 

改正派遣法は、実際に働いている派遣先の正社員と比較すると出てくる不公平を是正するために改正されたものなので、派遣労働者が派遣先の正社員と同じ働き方をするのであれば、均等・均衡方式(①)が原則という立て付けになっています。
しかし、それだと大企業に派遣される場合は正社員との均衡待遇で給与が高くなる一方で、中小企業に行った場合は給与が下がってしまうので、給与が不安定になる等の理由で特例として労使協定方式(②)を認めています。
ただし、給与を派遣先に合わせる手間や、「なるべく自社の賃金データは開示したくない」という派遣先の事情から(労使協定方式だと情報提供義務が緩和されます。改正派遣法施行規則第24条の4参照)、多くは労使協定方式になると言われています。

 

さて、労使協定方式にする場合には、「その地域の同種の業務に従事する一般の労働者の平均的な賃金」と比較して、同等以上の賃金になるようにしなければならないとされています(改正派遣法施行規則第25条の9)。
そのため、労使協定方式にする場合でも一定水準以上の賃金確保が必要となり、派遣元企業は従来の派遣料金を維持することはできず、派遣料金の値上げは必至です。
なお、大手人材派遣会社は今年の4月以降、派遣料金を12割値上げするとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54305270Q0A110C2MM8000/

 

こうなると、派遣料金の値上げに対応できない派遣先企業は、派遣労働者の受入れを減らすことになるため、結果的に派遣元企業による派遣労働者の雇用維持が難しくなるのは目に見えています。
ただでさえ無期雇用転換の回避のために、派遣労働者の雇止めが増えてくるといわれているのに、ますます派遣労働者の立場は不安定になると考えられます。
ただし優秀な派遣労働者の場合には、今回の改正派遣法をきっかけに派遣先企業から直接雇用のオファーがあるかもしれません。

 

こう考えると、派遣労働者の格差是正のためという理由で施行される今回の改正派遣法ですが、実力のある派遣労働者は派遣元企業に残ることができ(又は派遣先企業から直接雇用のオファーがあり)、他方でそうではない派遣労働者は居場所がなくなるおそれがあるので、結果的に実力主義が促進され、派遣労働者全体の保護には繋がらないでしょう。

 

日本の派遣制度は、派遣先の正社員よりも待遇面で立場が下になるような制度になってしまいましたが、もしかしたら当局としては、派遣法を改正することによって、派遣先企業の正社員以上に実力のある労働者又は専門的能力を持った労働者を派遣するという、アメリカのような派遣制度にシフトしていきたいのかもしれません。

 

以上のような改正派遣法に加え、近年では派遣会社は従来の届出制から許可制に変わり、許可の要件としても一定の基準資産額が求められる等、派遣事業への維持だけでなく参入もどんどん厳しくなってきています。
こうなると当然、派遣元も派遣先も共に、派遣制度を回避する方法はないか?という頭になりますので、「偽装請負」が促進されてしまうおそれがあります。
この偽装請負をチェックするために、労働局は今以上に目を光らせ、面談や立入調査を増やしていくことになるでしょう。派遣と(偽装)請負の境界は曖昧ですので、調査も簡単ではなく、それに対応することになる派遣企業も大変です。

 

今回の派遣法の改正によって、派遣先企業としては派遣料の値上げにより派遣制度の利用が難しくなり、派遣元企業としては派遣制度を維持できる体力のある派遣会社とそうでない派遣会社の2極化が進むと予想されます。改正派遣法の施行で、派遣制度は大きな転換期を迎えることを余儀なくされるでしょう。

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未払い賃金や残業代等がある場合に、労働者が会社に遡って請求できる期間は法律上2年間とされています(労働基準法第115条)。それを超える期間の未払い残業代については、会社は時効によって消滅したことを理由に支払いを拒むことができます。

 

今年41日施行の改正民法(新第166条)では、債権の消滅時効の期間について、

(1)債権者が権利を行使できることを知った時から5

(2)権利を行使できる時から10年(※ただし、人の生命又は身体の侵害による損害賠償請求権については20年 新第167条)

という整理をして、現行の民法の10年間という消滅時効期間を修正しました。

 

元々、民法では、労働者の給料に関する債権の消滅時効を1年間と定めていましたので(第174条第1号)、労働基準法の制定時に、このままでは労働者の保護に欠けるなどの理由で、民法の特別法たる労働基準法によって、1年間から2年間に延長したという経緯があるのです。
今回の改正民法では、この短期消滅時効の規定が削除され、債権について、一律5年以上の消滅時効の期間になったわけなので、そうすると今度は、「労働者に不利だった民法の消滅時効の規定が修正されたのだから、もう労働基準法の消滅時効期間の定めはいらないのではないか?」という話になります。

上述のとおり、労働者の保護のために時効期間を労働基準法で延長したのに、今度はその定めが労働者に不利な定めに変わってしまうのはおかしいので、このような話がでてくるのはごく自然な流れなのです。

 

それでは、労働基準法も、今回の改正民法の消滅時効期間に合わせることにしましょう・・・ということになるかというと、そう簡単な話ではありません。
今度は会社側に対するインパクトが大きすぎるのです。

 

M&Aで法務デュー・デリジェンス(買収先企業の法的リスクの調査)をするときに、未払い残業代を計算してみると、中小企業でも、その金額が数千万円になってしまうことも珍しくありません。ちなみに、退職金の未払いも見つかったりしますが、退職金についてはもともと消滅時効の期間は5年間になっています(労働基準法第115条)。

 

仮に今回、未払い残業代の消滅時効の期間を、今までの2年間ではなく、改正民法に合わせて5年間にした場合には、未払い残業代の金額が単純計算で2.5倍になり、会社にとってかなりのインパクトになります。会社の規模によっては、それこそ会社が立ち行かなくなるほどの金額になります。

このような理由で、労働債権の消滅時効期間については、改正民法と併せてその動向が注目されていたのです。

厚生労働省は昨年の1227日に、労働債権(未払い賃金・残業代等)の消滅時効期間を、労働基準法も改正民法に合わせて原則は5年としつつも、「当面3年」に改める方針を決めたということです。同省は今年の通常国会に労働基準法改正案を出し、改正民法と同時の施行をめざすとのことです。
(朝日新聞デジタル:https://www.asahi.com/articles/ASMDV5TL2MDVULFA02J.html

 

「当面」ということなので、今後どうなるのかはまだ不明ですが、いつか5年になる可能性があることを覚悟しておく必要があります。
会社としては、この暫定的な猶予期間があるうちに、未払い残業代が生じないような方策に本気で取り組まざるを得ないでしょう。

 

働き方改革による労働生産性の向上には、労働者側にも様々なメリットがありますが、残業代の消滅時効という数字として分かりやすい話にも繋がっていますので、労働生産性の向上は労働者・企業双方の目標になってきているといえるのではないでしょうか。

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最近話題の働き方改革ですが、このテーマに関して、先日、株式会社ワーク・ライフバランスの代表取締役である小室淑恵社長が弁護士会で講演をされ、この内容に大変感銘を受けましたので、この講演内容について少し話したいと思います。

小室社長が推進されているワーク・ライフバランスの考え方は、多くのメディアで取り上げられ、小室社長自身、テレビ等に出演されています。小室社長は、「働き方改革関連法」に関する国会審議の場に参考人として招かれ、安倍内閣の産業競争力会議の民間議員にも就任されています。

 

「ワーク・ライフバランス」という言葉を聞いて多くの人が勘違いしているのが、この言葉を、「仕事」と「家庭」の両立、と捉えてしまうことだそうです。このように捉えてしまうと、家庭(配偶者、子ども)のある人に配慮しましょうということで、独身者に多くの仕事を課してしまい、家庭のある人と独身者との間の対立構造を生む結果となり、結局組織として一つになれず、業績はマイナスになっていくとのことです。

そうではなく、「ワーク・ライフバランス」の「ライフ」はもっと広い意味で、「家庭」だけでなく、自己研鑽や運動、遊び、婚活なども含まれており、こう捉えることで、従業員のインプットや多様性に繋がって付加価値を生み出すことになり、結果的に業績にプラスになるというのです。

 

日本は現在GDP世界3位の先進国ですが、先進主要国の中で最も労働生産性が低い(21年間連続最下位)というのは有名な話です。労働生産性の算定は、付加価値を金銭だけで計算しているので色々と議論はあるところですが、とにかく先進主要国の中で日本が最も労働者一人あたりの就業時間が多いというのは事実です。

 

今後は少子高齢化が進み、国際競争力が低下することになり、このままでは日本はジリ貧になっていきます。このような日本が抱える課題を解決するには、今の時代がどうなっているのかを正確に把握する必要があります。ここで小室社長は、説得力のある根拠として、ハーバード大学のデービットブルーム教授の研究を挙げます。

 

一つの国の社会では、「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」(※onus:重荷、負担)の2つの時期があります。

「人口ボーナス期」は、若者が多く人口構造が経済的にプラスになる時期で、安い労働力を武器に世界中の仕事を受注する一方で、社会保障費が嵩まないので爆発的発展をするのは当然という時期のことをいいます。日本では、1960年頃~1990年代半ばがこの時期にあたり、中国はもうすぐこの時期が終わり、インドはもうしばらく続くそうです。

もう一つの「人口オーナス期」ですが、これは働く人よりも支えられる人が多くなることで、社会保障制度の維持のためにどんどん国民全体が貧しくなっていく時期をいい、日本は既に人口オーナス期に突入しています。重要なのは、一度人口オーナス期に入ると、二度と人口ボーナス期には戻れないという点です。

 

さて、日本よりも早く欧米諸国はこの人口オーナス期に入りましたが、欧米諸国とは異なり、日本は対策をとれず少子高齢化も進んでどんどん深刻化していっています。

それでは、どうすればこの状況を打開できるか?というと、人口オーナス期特有の働き方にシフトする必要があるとのことです。

 

時代と共に頭脳労働の比率がどんどん上がっていき、使える労働力を使おうと思ったとき、日本が持っている潜在的な国力に目を向ける必要があります。この潜在的な国力というのが「女性」であり、人口オーナス期で経済発展するためには男女共に「短時間で」働く必要があるとのことです。

日本は男女共に同じ教育を受けるシステムができあがっており、現在の大学進学率も男女共に50%前後で、このような高度教育を受けた女性を家庭の中に留めておくのはもったいないという発想です。これにいち早く気づいた欧米諸国は女性の社会進出を進め、フランスでは女性の就業率が8割を超えています。

 

ここで素朴な疑問が湧く方もいると思います。女性の社会進出を進めると少子化がますます進んでしまうのでは?というものです。この点、気になったので調べて見ると、フランスの出生率は1.922016年)と日本の1.442016年)よりも高く、長年2.00前後で推移しているというから驚きです(先進国の理想的な出生率は2.01です。2018年のフランスは1.88とちょっと下がったようですが)。

なぜフランスは女性の社会進出が進んでいるのに、出生率も高いのかというと、労働生産性が高いからというのがその理由になります。なお、夫婦が2人目の子どもを作りたいかどうかは、夫が育児に関わる時間が多いほどその割合が高くなるという結果が出ているそうなので、女性だけでなく、男性も労働生産性を上げて早く帰ることができれば、少子化対策にもなるのです。

 

労働生産性を上げる方法は色々とあるとのことですが(詳しくは小室社長の著書参照)、まず評価方法として、「期間あたりの生産性」ではなく「時間あたりの生産性」が高い人を評価するような仕組みを作らないと、労働生産性が上がりません(上げようと思わない)。

次に長時間残業の是正を行い、休業・時短を経ても継続就業できる制度を整備し、それからようやく女性を積極採用するという手順が重要であるそうです。

ちなみに小室社長は(よく言われるそうですが)フェミニストというわけではなく、日本に勝って欲しいから啓蒙活動をされているそうです。

 

今は女性活躍推進法によって、一定規模の企業は、男女別離職率や女性管理職比率、平均残業時間も公開されるようになっています。最近は人手不足で売り手市場ですが、就職活動では、企業のブランドやネームバリューなどよりも、男女共に、育休産休の取得の有無・期間、残業時間等も見て企業を選ぶようになってきています。

そうすると、良い人材を採れる企業とそうでない企業は今後二極化することになることが予想されますので、いち早く労働生産性に着目し、ワーク・ライフバランスの確保の重要性に気が付いた企業が生き残るのではないかと考えられます。

 

「働き方改革関連法」の施行により、残業代の上限規制が設けられましたが、勤務間インターバル制度(終業時刻から、次の始業時刻の間に一定時間の休息を設定する制度)は、まだ努力義務に留まっています。労働生産性を上げるためにも、勤務間インターバル制度についても早く法的義務になるべきと考えています。

労働生産性を上げるためには、まずは休息することが大切ですので、とりあえず今日は早く帰って休みましょう(私もこれを書き終えたので帰って休むことにします)。
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フィギュアスケートの2010年バンクーバー冬季五輪男子代表の織田信成氏が、1118日に、9月に関西大学アイススケート部の監督を辞任したのは、同大学所属の女性コーチによるハラスメント行為が原因だったとして、同コーチに対して1100万円の慰謝料などを求め大阪地裁に提訴したというニュースがありました。
(産経新聞:https://www.sankei.com/affairs/news/191118/afr1911180018-n1.html

 

今回のハラスメントはモラルハラスメント(道徳による精神的な暴力や、言葉や態度による嫌がらせ)だったと言っているメディアもありますが、昨今ハラスメントの種類が多くなり意味が分かりにくくなってきていますし、結局パワーハラスメントで整理できる事案が多いと思います。
訴訟内容が分からないので、確実とはいえないですが、いわゆるパワハラ規制法も成立したことですし、今回もおそらく伝統的なパワーハラスメントの類型に従って訴訟提起していると予想されます。

 

パワーハラスメントは、加害者が、優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行うことが前提ですが、必ずしも上司から部下に行われるものに限らず、先輩後輩間、同僚間、さらには部下から上司に対する行為なども、優位性が背景にあれば成立し得ます。
監督とコーチの身分による力関係は分かりませんが、少なくとも今回の女性コーチは、30歳近く織田氏よりも歳が上で、指導者としてのキャリアも長いので、少なくともある程度は優越的な立場にあったのではないでしょうか。

 

弁護士がパワーハラスメントを理由に訴訟を提起する場合には、加害者本人だけでなく、使用者責任(民法715条)を理由に使用者(会社等)も訴えるのが一般的です。個人だと支払能力が心配なので、使用者も巻き込むことで支払能力を確保するというのがその理由です。もっとも、記事だけでは分かりませんが、今回の女性コーチは有名な方で支払能力について心配はなさそうであることと、織田氏の「フィギュアスケート界の悪弊へ一石を投じる思いで提訴に至った」というコメントからすれば(お金目的とは思われない)、今回の訴訟の被告は女性コーチだけで、大学(使用者)は被告に含めていないのかもしれません。

 

今回の織田氏の請求金額は1100万円。
パワーハラスメントで訴訟提起する場合の損害の一般的な内訳は、①治療費、②慰謝料、③休業損害、④逸失利益、⑤弁護士費用です。
実務慣行として弁護士費用(⑤)は損害額の1割程度なので、100万円が弁護士費用、今回織田氏は辞任しているので休業損害(③)ではなく逸失利益(④)の請求になるでしょう。今回のケースは、パワーハラスメントで傷害を負ったとか精神疾患に罹患したというわけではないので、治療費(①)や慰謝料(②)があまり高額にはならないと予想されますので、逸失利益(④)が主戦場でしょう。

 

逸失利益は、パワーハラスメントによって退職のやむなきに至った場合、仮に退職していなければ得られたはずの収入をいいます。
裁判例では、9か月~1年の期間が認められる傾向にあるので、今回、1年分の請求をしたと考えられ、そうすると、織田氏の監督としての報酬は、1年で1000万円弱だったのかなと下世話ながら予想してしまいます。

 

パワーハラスメントが認められるか否かは、適正な業務指導の範囲内だったのか?ということが主題になり、適正な業務指導の中身は、職場ごとで変わります。
事務仕事が主な職場と、生命のために一分一秒を争う医療現場を比較すると、後者の現場のほうが、業務指導の内容が厳しくなってしまうことも実務上許容されますし、一般的な感覚からしても違和感はないと思います。

 

今回は世界を目指す運動部の指導者間の出来事であり、その指導結果に対して日本中が注目していることも考えれば、当然ながら各指導者は相当熱意をもって指導しているでしょうから、今回の指導方針をめぐった対立は、通常よりも「適正な業務指導の範囲」を広げて裁判所は判断するのではないかと思います。そうすると、原告側としてはなかなか難しい裁判のようにも思います。

 

とはいえ、織田氏の言うように本当にフィギュアスケート界に「悪弊」があるというのであれば、今回の訴訟はそれに一石を投じるという意味で極めて重要なものになると思います。
今後もこの訴訟の行方に注目したいと思います。

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学校現場でのいじめや虐待に対応するため、文部科学省は、「スクールロイヤー」と呼ばれる専門の弁護士を全国に約300人配置する方針を固めたということです。

各地の教育事務所などに拠点を置き、市町村の教育委員会からの相談をスクールロイヤーが受けるというもので、来年度からのスタートを目指して準備を進めるとのことです。
(日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50112680T20C19A9CR8000/

 

学校現場では、生徒間のいじめや教師からの体罰、保護者からのクレーム対応等、様々な問題が生じており、法的アドバイスが求められることは少なくないでしょう。

文科省の説明によれば、このスクールロイヤーによって、いじめ問題の対処に関する助言やその予防教育等を主に想定しているようです。

 

ただ難しいと思うのは、いじめが暴力に及んだり、金品を要求したりするなど明らかに犯罪と言えるような場合であれば、弁護士としては「これは刑法上の○○罪に該当し得るので、直ちに止めさせてください」と明確に言えるのですが、犯罪とはいえないようないじめの場合には、弁護士として法的なアドバイスを行うのは困難です。むしろいじめが犯罪とはいえない場合のほうが多いのではないでしょうか。

 

例えば、特定の生徒を他の生徒が無視する行為は、いじめの代表格といえますが、これは犯罪とはいえません。しかし、無視のターゲットにされた生徒は、場合によっては暴力を受けるよりも辛い立場に置かれるかもしれません。

このような行為を止めさせるには、卑怯な行為は止めるべきだ、ということを教える必要があり、これは法律論ではなく道徳論ですので、弁護士が法律専門家としてどうこう言えるものではありません。

 

気をつけなければならないのは、今回は文科省が主体となって「スクールロイヤー」を設置し、主に教育委員会からの相談を受けるという点であり、弁護士は文科省や教育委員会を「お客様」扱いし過ぎるべきではないと思います。

というのも、ケースによっては、弁護士は行政側を批判する立場にもなるべきで、例えば、千葉県野田市の教育委員会では、虐待を受けていた女児が父親からの虐待を訴えた内容が記載された学校アンケートの回答コピーを、父親本人に渡してしまったということがありました。

司法書士は法務省(法務局)、行政書士は総務省が監督官庁になっていますが、弁護士は他の士業とは異なり、場合によっては行政を糾弾する(訴える)立場になりますので、文科省等の行政側から「スクールロイヤー」としての報酬を受け取るとしても、公共的かつ客観的な立場を忘れてはならず、ましてや事件の隠蔽やもみ消しに加担するようなことがあってはなりません。子供(生徒)の生命身体が最も優先されるべきであり、これに反するようなことを行政側が行うのであれば、明確にNOと言わなければなりません。

 

また、現在の構想では、市町村の教育委員会からの相談をスクールロイヤーが受けるというものですが、現場レベルから教育委員会まで上がってくるような問題の多くは、かなり深刻化してしまったものになるのではないでしょうか。

しかし予防法務という観点が重要で、例えば、保護者からのクレーム対応などでは、弁護士から早い段階で法的アドバイスがあると、教師としては心強いと思いますし、後々問題が深刻化しないで済む可能性もあると思います。

 

そのため、深刻な事態にならないように、早くから教師と弁護士とで現場レベルで連携できるように、教師も弁護士に相談しやすい場を作っていけるのであれば、スクールロイヤーがうまく機能するのではないでしょうか。

今回のスクールロイヤー制度が、生徒も、教師も(教育委員会も)泣き寝入りしないような制度になれば良いと思います。今後の動向に注目したいと思います。

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最近、外資系企業に転職した友人から、アメリカ(本社)の法律が適用されると書かれた労働契約書にサインしたが、たとえ日本で働いているとしても、日本の労働法は守ってくれないのかという趣旨の質問を受けました。そこは飲み会の席だったのですが、サインをしたかに関わりなく、そもそも外資系企業には日本の労働法の適用はないので例えばアメリカの法律に従ったら解雇などは簡単にされてしまうのではないかと考えている人もいました。

 

日本の労働法には解雇権濫用法理(合理性と相当性を充たしていないと解雇ができない法理論)という労働者を保護する規定がありますが、もし外資系企業に就職してしまうと、このような日本の保護規定が労働者に適用されないのでしょうか?

 

ご承知のとおり日本には「労働法」という名称の法律はなく、労働基準法、労働組合法、労働契約法等と労働に関する法律がいくつかあり、これらをひっくるめて単に「労働法」と一言で表したりします。

労働法の中は、私法という私人間の関係を規律する法律と、公法という国家と私人との関係を規律する法律とに分かれており、一般的には、労働基準法や労働組合法は公法、労働契約法は私法というように区分されています。

公法に当たる労働基準法等は、属地主義といって、たとえ外国に本店を置く外資系企業であったとしても、労働者が日本国内の事業に使用されていれば、労働契約書にどう記載されていようが、適用されることになります。

 

一方、私法にあたる労働契約法等の場合においては、どこの国の法律を適用するのかということを予め当事者(使用者と労働者)との間で取り決めた場合は、その国の法律が適用されることになります(法の適用に関する通則法第7条)。

もし当事者間でどこの国の法律を適用するのかを決めなかった場合には、「最も密接な関係がある地の法」(最密接関係地法)によるとされています(通則法第8条)。

なお、労働契約法が先に述べました解雇権濫用法理を定めた法律になりますので(第16条)、日本は労働者を解雇するのが難しいという話は、私法である労働契約法の話になります。

 

さて、日本の解雇権濫用法理は労働者に有利ですので、労働者としては日本の労働契約法を適用させたいと思うところでしょう。

ところが、例えば上の話のように、本店をアメリカに置く外資系企業の日本現地法人に就職する際に、働く場所は日本であるにもかかわらず、「この労働契約には本社のある米国の○○州法が適用される」という内容の契約書を渡された場合、サインしないと就職できないし、かといってアメリカの法律は分からないし…と悩むと思います。

 

実はこの点は、仮にサインしてしまったとしても、労働者は自分が働く場所の強行法規(当事者の合意では排除できない法規)を適用すると意思表示した場合には、その強行法規が適用されることになるという労働者保護の規定が法律上定められています(通則法第12条第1項)。もし適用される法律を当事者間で合意していなかった場合には、労務提供地の法律が最密接関係地法と推定されることになり、労務提供地の法律が適用されることになります(同条第3項、第8条)。

上の例であれば、たとえアメリカの州法が適用されるという内容の労働契約書にサインしたとしても、労働者は強行法規である解雇権濫用法理(労働契約法第16条)の適用を求めることができますし、この強行法規には判例も含まれると考えられているので、労働者は日本の労働法(のうち強行法規)によって保護されることになります。

 

したがって、たとえ外資系企業に就職したとしても、日本で働いていれば日本の労働法の適用はあり、また、たとえ外国法が適用されるという内容の労働契約にサインしたとしても、日本の労働法(のうち強行法規)の適用を求めることができますので、外資系企業だから日本の労働法の保護が及ばずに解雇が認められやすい、というのは誤りということになります。

 

それでも、外資系企業は一般に解雇が認められやすいといわれておりますが、このことは別の理由になります。

例えば外資系企業は、成果主義を取り入れていることが多く、また中途採用者も多いので、採用時に具体的な成果目標が決められていたり、元々それなりに重い責任を負った役職で採用されていたりするので、日本の新卒一括採用などのゼネラリスト採用とは異なった視点で解雇の有効性が判断されることになります。具体的な目標を定められ、地位を特定して採用されたほうが、目標に到達しなかった場合に解雇が有効と判断されやすくなります。ただし、そのような重い責任に見合った給与が支払われていることが前提となり、年収1,075万円以上(労基法第14条第1項の「高度の専門的知識を有する労働者」として厚生労働大臣が定める基準)が実務上の一つの目安とされています。外資系企業は高給だが解雇されやすい、というのはこういう理屈になります。

 

最近は売り手市場となり転職業界が活気づいてきており、また副業を解禁する企業も増えてきたことから人材交流が今後も盛んになっていくと予想されます。それに伴い働き方や働かせ方のバリエーションも増えてきますので、日本的企業がいいのか外資系的企業がいいのか、はたまた従来とは異なった企業形態がいいのかについて、使用者と労働者は一緒に考えて作り上げていければ良いのではないでしょうか。

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先月、神戸市は、山から海を見下ろす眺望を保全しようと、建築物の高さ等を規制する検討に入ったとのことです。大阪湾を見渡すことのできる眺望が損なわれないようなルールを設定し、さらに神戸港内の特色ある地形や、神戸ポートタワー、神戸海洋博物館等の見晴らしを守ろうという狙いがあるそうです。
(神戸新聞社:https://www.kobe-np.co.jp/news/sougou/201906/0012439723.shtml

 

私の母の実家が神戸だった関係で、神戸に遊びに行くことが多かったのですが、六甲山から見下ろす神戸の街の夜景は格別で、この眺望を守りたいという気持ちはよく分かります。

 

ご存知のとおり、建物を建築しようと思っても、建築主が自由に建物の高さを決められるのではなく、どこに建てるのか、道路はどこにあるのか等の各条件によって、建てられる建物の高さの限度が変わってきます。

建物の高さの制限は、先に述べた地方自治体(神戸市)の条例による制限の他に、①絶対高さ制限、②道路斜線制限、③隣地斜線制限、④北側斜線制限、⑤日陰制限があり、この中で適用のある複数の制限のうち、最も厳しい制限が、そこで建てられる建物の高さの限度になります。

 

絶対高さ制限(①)は、第一種・第二種低層住宅専用地域に建物を建てる場合に適用があり、高さは10m又は12mまでと制限されてしまいます(建築基準法第55条第1項)。例えば大田区の田園調布は、大部分がこの第一種低層住宅専用地域になりますので、駅前にもかかわらず低層の住宅しか建てることができません。

また道路斜線制限(②)は、敷地が面している道路の幅等によって定められる制限であり、この計算が複雑で、道路の反対側に川や公園があるような場合や、2つ以上の道路に敷地が面している場合、道路の幅が12m以上ある場合等には計算値が変わります。法令を読んでも、慣れないと何が何だか分からないような書きぶりになっており、図でも書いてくれればいいのにと常々思っています。

 

ところで、私は、大学の学部は建築学科だったということもあり、今月の始めに、2級建築士試験を受けてきました。1級建築士と2級建築士の違いですが、2級建築士は建てられる建物の規模(高さや面積等)に制限があり、また、1級建築士の受験資格には建築の実務経験が必要になりますが、2級建築士の受験資格は大学で建築を学んだような場合には実務経験は課されていません。ユニクロの柳井社長のご自宅などの大豪邸でない限り、多くの戸建て住宅は2級建築士免許で建てることができます。

 

2級建築士試験の概要を簡単にご紹介しますと、試験は、学科試験と製図試験の2つのパートに分かれており、学科試験に合格した人だけが、9月に行われる製図試験を受けることができます。

学科試験は、①建築計画、②建築法規、③建築構造、④建築施工の4種類に分かれており、例えば建築計画(①)は、光や音の性質に関する知識や建築物の環境負荷、給水管径の知識、他には建築物の歴史など出題されます。今年は、修学旅行で人気の奈良の薬師寺にある東塔が、三重塔か五重塔のどちらかが分かっていないと解けない問題がありました(かなり迷いました)。

 

建築法規(②)は、司法試験とは異なり判例を覚えたり抽象的な法文を解釈したりするというわけではないのですが、時間内に条文を探さなければならないだけでなく、読みにくい条文を読み解かなければなりませんので、大丈夫だろうと高をくくってあまり勉強をしていなかったこともあり、難しく感じました。先に述べた建築物の高さ制限の法令も非常に難しかったです。

 

建築構造(③)は建築部材にかかる力の計算問題や地震力や風力に関する知識等で、元々計算は好きだったせいか楽しんで取り組むことができました。

建築施工(④)は、施工するための足場や基礎工事の知識、塗装や工法等に関する問題が出題されます。最近銀座では建設ラッシュのせいか、どこもかしこも工事中ですので、施工中の足場や機材・部材等を直接観察することができるので、試験勉強にとても役立ちました。

 

今回幸い学科は突破しましたので、9月の製図試験に向けて夜な夜な製図の勉強をしています。もっとも、今年の製図試験は木造設計だそうで、自分は鉄筋コンクリートを中心に研究していたということもあり木造の知識があやふやで、正直どうなることやらと思っています。とにかく9月の製図試験は頑張ります!

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職場でのパワーハラスメント(以下、パワハラ)を防ぐため、企業にパワハラの防止策を義務づける関連法案が、先月の参院本会議で可決され、成立しました。パワハラの規制に関する部分の法律名は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」となっています。
(日経新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45402610Z20C19A5EAF000/

 

今までパワハラは、特に法律上定義されていたわけではなく、厚生労働省のワーキング・グループが、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」であると定義らしきものを報告書にまとめていたので、実務ではこれをパワハラの判断基準として使っていました。

 

今回成立した改正法は、パワハラを「職場において行われる優越的な関係を背景にした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」と従来よりもやや広げて定義付けています。
さらに、パワハラの防止策をとることを企業に義務付け、これに従わない企業には、厚生労働省が改善を求め、これにも応じない場合には企業名を公表する場合があるとのことであり、これは企業のレピュテーションに直結しますので、パワハラの抑止につながることが期待されています。

 

なお、今回争点となっていた企業への罰則は見送られることになりました。
結局のところパワハラは、業務上必要な範囲の指導との境界が曖昧であり、明確な線引きが難しいため、企業側に配慮したといわれています。
とはいえ、最近は会社の事後対応の悪さについても、独自に不法行為ないし安全配慮義務違反として損害が認定されているケースも増えてきており、少なくともパワハラが起こってしまってから(またはそのおそれがあることを認識してから)の事後対応(調査や配転等の人事措置)を怠った場合の罰則については規定しても良かったのではないかと考えています。

 

例えば、備前市社会福祉事業団事件(岡山地判平26.4.23)では、会社に代わり指揮監督を行うべき上司が、過度な叱責状況や被害職員の精神状態の悪化を認識していたにもかかわらず、結局人事異動等を行わず何の対処もしなかったことについて、会社の安全配慮義務違反が認定されています(被害職員は精神疾患を発症し、後に焼身自殺)。
この事件では約5700万円の損害賠償請求が認められており、会社の規模によっては会社が潰れかねないほどの金額です。パワハラは事後対応の悪さによっても、重大なことになるおそれがあることを啓蒙ないし警告する意味で、罰則もあり得ると思います。

 

ところで、このパワハラの損害額ですが、細かく項目に分けて整理すると以下のとおりになります。(セクハラ等の他のハラスメントにも共通)

①治療費、通院費用等の実費

②慰謝料

③休業損害(休業したために得ることができなくなった収入)

④逸失利益

⑤弁護士費用

⑥過失相殺、素因による減額

⑦損益相殺(労災保険給付金など二重取り禁止)

 

慰謝料(②)の基準は特にないですが、数万円の場合や、前記判例のように被害者が亡くなった場合には極めて高額になります。家族や遺族が多大な精神的苦痛を受けた場合には、家族や遺族にも固有の慰謝料が認められる場合があります。
逸失利益(④)については、被害者が亡くなった場合だけでなく、パワハラによって精神疾患を発症した場合や、退職を余儀なくされたような場合に、パワハラがなければ得られたはずの収入がここで計算されます。
被害者の素因による減額(⑥)は、例えば過度に落ち込みやすい性格の方だったような場合には一定の金額を相殺するという考え方で、中にはこれを認める裁判例はあります。もっとも、電通事件(最判平12.3.24)ではこれを認めず、「労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものでない限り」被害者の素因を過失相殺として考慮することはできないとしており、前提として使用者は労働者各人の性格を把握した上で適切な指導を行うことが求められていますので、(余程の事情がある場合は別として)被害者の性格を積極的に過失相殺の適用場面と見ることには違和感があります。

 

パワハラは被害者だけでなく、職場全体の生産性にも悪影響を及ぼすおそれがあり、企業にとっても、貴重な人材の損失につながるおそれがあります。
デスクワーク、医療現場、工事現場等と業種によって職場環境は異なるので、適切な指導かどうかの線引きは難しいところですが、少なくとも指導する前には、本人の性格や立場等を常に考える必要があるでしょう。
相手の性格や立場等を知ることは、使用者・労働者双方に言えることで、お互いにコミュニケーションを重ねていくことがハラスメントの解決の糸口になるのではないでしょうか。
難しい問題ですが今後も注視していきたいと思います。

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今年の326日に、2016年に課長級の管理職として在職中に死亡した男性(当時42歳)に対する未払い残業代約520万円を求めた訴訟で、横浜地裁は、労働基準法で残業代の支給対象外となる「管理監督者」に該当しないとして、350万円余りの支払いを認める判決を下しました。(日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO42964030X20C19A3CC0000/

 

労働基準法第41条には、労働者のうち、労働時間、休憩及び休日に関する規定が適用されないとされる労働者の種類が列挙されており、同条第2号にはいわゆる「管理監督者」について定められています。

「管理監督者」に該当する労働者に対しては、時間外や休日労働に関する賃金(以下「割増賃金」といいます。)を支払う必要はありません。

 

割増賃金の請求が問題になる事案においては、割増賃金の請求をされる側(企業側)の反論として、そもそもの労働時間の算定方法の反論の他に、管理監督者に該当することの反論(割増賃金の支払は不要である等)をすることがあります。

 

実務上は、管理監督者に該当するかどうかは、裁判例及び行政通達(昭和63.3.14基発150号)に基づき、以下の3つの要素を総合考慮して判断されています。

①事業主の経営に関する決定に参画し、労務管理に関する指揮命令権限を有するなど経営者と一体的な立場にあること

②自己の出退勤を始めとする労働時間について自由裁量があること

③一般の従業員と比較して、その地位と権限にふさわしい賃金上の待遇を与えられていること

 

もし上記①と②に該当していれば、労働者とはいってもむしろ経営者側として労働者を管理する立場にあり、また労働時間にも自由裁量があるので、労働時間の規制を適用するのが適当ではないという価値判断に傾きます。

 

もっとも、要素③についてですが、そもそもこの賃金要素は労基法上に規定されているわけではないですし、仮に賃金が一般の従業員と比較して高かったとしても、労働時間の規制の適用とどう関係があるのか疑問です。経営者性の判断の補強要素になるのでしょうか?それとも賃金上の高待遇を受けているのであれば、割増賃金ぐらい我慢しましょうよということなのでしょうか?

 

先に述べた日産自動車の事件では、男性の年収は1000万円を超えており、同社同年代の従業員の平均年収(約800万円)よりも高収入であったとのことですが、裁判所は、待遇は管理監督者にふさわしいが「経営の意思形成に対する影響力は間接的に留まる」として、同社の管理監督者性の主張を退けており、上記③の要素は重視されませんでした。

 

「管理監督者」性については、伝統的な3つの要素に拘らず、もっと言えば上記①及び②の要素のみを考慮したうえで、労働時間の規制を適用するのがふさわしいかどうかを判断するのが適当なのではないかと考えます。

 

今回のような裁判例が出てきており、残業を好ましくないとする最近の流れからしても、今後は上記③の賃金要素は、「管理監督者」性の判断において、実務上は重要な要素にはならなくなってくると予想しております。

 

確かに高年収の方に割増賃金を支払うとなると、基礎賃金が高い分、割増賃金額が高額になるので会社の負担が増えることになりますが、これからは高年収の方は経営者側に昇格させて、労働時間に裁量を与えるとか、残業をさせないようにワークシェアリングの発想を取り入れるとか、(使い勝手に疑問がありますが)高度プロフェッショナル制度を採用するとか、働き方だけでなく、「働かせ方」の転換期にきているのかもしれません。

 

割増賃金の問題は金額が多額になることが多く、実務上非常に重要ですので、今後も動向を注視していきたいと思います。

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